「やったぞ!」
薄暗い研究室の中、数人の男たちがガラス越しにある『それ』を見て叫んだ。
『それ』は赤黒い立方体であり、内部で流動するように少しずつ色を変えていっている。
男たちの想定していた形状とはかなりの差異があるが、有する機能はまさしく望んだ通りの物だった。
「我々はついに『コア』の精製に成功したのだ!」
「これであの憎き天才に並んだということですね!」
「それだけではない。今後量産する技術を開発すれば技術的地位によって彼女の上を行くことも十分に…」
その時である。『それ』が少しずつ振動を始め、計器から危険を示すアラート音が鳴り響く。
男たちは目を見開き、計測を担当していた職員の前に集まる。
「どういうことだ!何故アラートが鳴る!あの振動現象は何だ!?」
「そ、それが…起動する際に送ったエネルギーが内部で増大しているんです」
「馬鹿な!?自らエネルギーを作っているとでもいうのか!?」
「それだけではありません、計測用の機器を通してエネルギーを吸い出しているんです。このままでは許容量を超えて…」
「すぐに機器をシャットダウンしろ!一旦『コア』が停止しても構わん!」
男たちは素早く指示を出し、怪現象を静止しようと試みる。しかし、そうしている間にも『それ』の振動はどんどん大きくなり、やがて内部から発光を開始する。
「これは、一体…!?」
一人がそう言った瞬間、『それ』から発する光によって男たちのいる部屋は閃光に包まれた。
光が弱まってくると、次いで部屋は煙に覆われた。
そして、煙もおさまった時、男たちは全員倒れこんでいた。
そして、破られたガラスの向こう側、『それ』があった場所に立つ『存在』があった
かくして、『それ』は誕生した
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いたる場所に風車が回る風の街『風都』
この街には人々の涙を拭い、守る存在がいた
その名も、『仮面ライダー』―――
「…ん、うう」
目蓋の裏から刺激する太陽の光を感じ取り、『左翔太郎』は目を覚ました。
「ここ、は…?」
寝起きだからか、数秒の間ただ空を見上げているだけだったが、意識を失う直前の記憶を思い出すとガバリと起き上がった。
そして周辺を見渡し、自分のすぐ横で眠っていた相棒を起こしにかかる。
「フィリップ!おい起きろ!フィリップ!」
『フィリップ』―本名『園咲来人』―は翔太郎の呼びかけに起こされると、翔太郎と同じように周囲を見渡した
「翔太郎!ここは一体…!?」
「俺にも分からねえよ。唯、見覚えがないから風都じゃないのは確かだ」
二人が今いる場所は、寮らしき建物の前にある芝生だった。
その周辺にはいくつかの建物が並び、建物の隙間からはドームらしき建造物が見える。微かに潮の匂いがするということは、海が近いのだろうか。
「確かに、風都にこんな場所があったなんて記憶はないね」
「ようするに、俺達は遠くに飛ばされちまったってわけだ」
「恐らく、原因は『あれ』だろうね」
「ああ、『あれ』だな…」
現状を確認し合いながら、二人目覚める直前の記憶を思い出した―――
フィリップが戻ってきて半年、その日は風都を騒がせていた連続通り魔事件の犯人を追いつめていた。
案の定犯人はドーパントで、こちらも『W』へと変身して応戦した。
中々厄介な能力を持っていたのでエクストリームへと変身、一気に勝負を決めてメモリブレイクをした直後に、それは現れた。
黒い、靄のような人影。
突如として現れたそれはWから3m程の距離を保ち、こちらを観察するように眺めていた。
『…翔太郎』
『ああ。油断するな、だろ。それにしても何なんだこいつ?」
『『星の本棚』で検索してみたけど正体は全くの不明だ。こいつ自身が自分の情報にプロテクトをかけているのか、それとも今まで地球上に存在しなかった存在か…』
『なんだそりゃ!?じゃあこいつはもしかして宇宙じ「…汝らならば」
『『!?』』
突如として話し出した人影に思わず身構える。しかし、人影はそんなことはお構いなしに話を続ける。
「汝らならば…を…を…わ……う…きる…はず…」
そう言った直後、人影から漏れ出した靄がWを包み込もうと展開し、襲い掛かる。
『翔太郎!』
『分かってる!』
二人は飛びのいてかわそうとする。しかし―
『か、身体が…』
『動かない…!?』
まるで金縛りにかかったかのように、指一本動かすことが出来なくなってしまう。そうしている間にも、靄はWの身体を包み込みそして―
『『うわあああああああ!!?』』
どこか下へと落ちるような感覚を感じた直後、二人は意識を失った。
「…ダメだ。何度呼びかけてもエクストリームが来ない」
「こっちも駄目だ。亜樹子にも照井にも繋がらねえ」
翔太郎とフィリップはそれぞれの手段でどうにかこの状況を何とかするべくそれぞれが持てる手段を行おうとした。翔太郎は知り合いへの連絡、フィリップはエクストリームメモリの召喚である。
しかし、そのどちらもが無意味に終わった。メモリは飛来せず、スタッグフォンからは『お掛けになった電話番号は、電波の届かないところにあるか―』という音声案内が流れ続けている。
もしかして、此処は外国なのだろうか?
「それにしても、一体何処なんだ此処?目の前にあるのは寮っぽいし、遠くに見えるのは…運動場か?」
「とりあえず、周囲の建物の様子から検索して場所を特定しよう。キーワードは…」
そうしてフィリップが『検索』を行おうとした直後だった。
ウ~~、ウ~~、ウ~~
「っ!?待てフィリップ!」
『侵入者有り。繰り返す、侵入者有り。場所は学園寮前―』
サイレンと共に鳴り響く音声。バタバタと近づいてくる足音。二人は何となしに、侵入者が自分達であることを悟った。
「おいフィリップ。どうやらかなり不味いことになっちまったみたいだぜ…」
「成程、ここは立ち入り禁止区域だったのか。それならこの人影のなさも納得できる」
「感心してる場合か!」
そんなやり取りをしている間に、二人の周りをスーツ姿の女性達
(何で女ばっかりなんだ?それに、警報が日本語ってことはここは日本ってことか?)
翔太郎がそう考えた時だった。
「動くな!貴様らを不法侵入者として拘束する!」
と、
ありえない方向からの声に思わず翔太郎もフィリップも上を見上げる。するとそこには―
「な、なんだありゃあ!?」
「…ぞくぞくするねえ」
装甲のようなモノを身に着けて、女性が空に浮かんでいた。
―――同時刻
「なあなあなあ、いいだろう姉ちゃ~ん。俺と一緒にイイことしようぜ~」
薄暗い路地裏で、一人の若い女が男に絡まれていた。
男はいかにも遊び人という格好をしており、女が無視しているにも関わらずしつこく付き纏っている。
一方、女の方はクラシックなロングスカートのドレスを身に纏い非常に美しい風貌をしていた。歳は二十歳そこそこといった具合で、並大抵の男ならば見惚れてしまうほどである。
「…私はお前のような輩に構っている時間はないわ。別の女を探すべきね」
いつまでもついてくる男にうんざりしたのか、女は口を開き男を追い返そうとする。
「まあまあ、アンタのほうこそこんな人通りのないとこ歩いちゃって、ホントは期待しちゃってたんじゃないの~?」
しかし、男は引き下がるどころかますます付き纏ってきた。そうなると、今まで無表情を貫いてきた女の眉もわずかに動く。
「本当はお前如き放っておきたがったけど、仕方ない。いいわ、相手をしてあげる」
「やりぃ~!じゃあさ、先ずはどっかのホテルでも―」
そこまで言った時だった。
ブスリ
そう聞こえたと同時に首筋に鋭い痛みが走り、視線を下に下ろすと、
「な、な、なあ!?」
「どうした?相手をしてやると言ったのよ、精々あがいてみせてね。もしレア物だったら死ぬ前にお前の願いを叶えてやってもいいわ」
そう女が言っている間に、男の首筋から半透明な針で血液が吸い出されていく。男は、混乱と恐怖と貧血によってどんどん意識が遠ざかっていく。
「あ、あ、ああ…」
「なんだ、レア物ではなかったのね。だが安心しなさい。お前の情報は我等の同胞の糧となるのだから」
そこまで聞いた時点で、男は意識を失い、二度と目覚めることはなかった。
すっかり干乾びて一滴の血も出ない事を確認すると、女は男の死体を放り投げ、ポケットから取り出した携帯端末の操作を開始した。
素早く要点だけ纏めたメールを送信して端末を仕舞うと、何時の間にか来ていたもう一人の存在に気がついた。
「…死なすまで吸いきる時は処理の仕方も考えろって言ってるだろ、グラス」
呼びかけられた女―グラスは目を細める。
「こういう種類の人間が一人死んだくらいでは大して問題にもならないわ」
「そういう事じゃない、死体があるのが不味いと言ってるんだ」
ああ、と納得したようにグラスは頷くと、手から青白く光るエネルギー球を作り出し、死体へと放つ。
瞬間、死体は音もななく爆散し、後にはグラスともう一人だけが残った。
「これでいいでしょう、リミット」
「まあそうだが…考えなしにやりすぎるな。人間にばれると色々厄介だからな」
もう一人―リミットと呼ばれた男は軽く頭を振りながらグラスの方を見つめる。
「それより、さっきの反応感じたか?本来はそれの確認のために来たんだが」
「約14分前に観測した大規模なエネルギー反応でしょう?既に周辺の同胞に連絡して調査を頼んでおいたわ」
グラスの対応を聞いたリミットは「相変わらずこういう事は手を回すのが早いな」といいつつ、考え込む。
「だが大丈夫か?反応のあった場所は位置的にIS学園のはず…」
「何か問題?あそこは無駄に秘密主義だから何かあっても広く露見することはないし。それに…」
そこまで言って、グラスはクスクスと笑う。
「
「いい加減に白状しろ!貴様等はどこのスパイだ!このIS学園に保管されてるデータが狙いなんだろ!」
「だーかーら、俺達はスパイじゃないって言ってるだろ!」
あれから約1時間。翔太郎とフィリップは『IS学園』内の1室で尋問を受けていた。
空を浮かんでいた女性に仰天している間に他の女性に手錠を掛けられてしまい、ここに連行され今に至っている。
『IS学園』、それがこの施設の名前であるらしい。こちらへの質問ついでに呟く愚痴や独り言によれば、世界各国から集まった才能ある女子を集めてISという物の使い方を教育する女子高らしい。かなり有名な学校らしいが、風都以外の事情にはあまり詳しくない翔太郎からすれば「日本にそんな学校があったのか」くらいの感想しか抱けなかった。
「おい!聞いているのか!?」
「聞いてるからあんまり叫ぶなって!」
「まったく、これだから男は…」
それよりも、先程から気になるのは質問してくる女の態度である。
あからさまに男を見下している。そのためか、質問も高圧的である。もっとも、答えているのはほとんど翔太郎で、フィリップは部屋を見渡したり考え事をしていたりなのだが。
「スパイでないとするなら…まさか、テロリストか!」
「テロリストでもないっての!俺達は何というか、気づいたらあそこにいたっていうか…」
「何だその歯切れの悪い言い方は!」
色々と不可解な事に慣れた自分達でも理解不能な現象に巻き込まれた以上、言っても信用してもらえる筈もない。
どう説明しようかと翔太郎が悩んでいた時だった。
「それよりも、『IS』というのはどういうモノなんだい?『地球の本棚』で検索しても全然見つからなくてね」
と、今まで黙っていたフィリップが口を開いた。
またこれか、と翔太郎は頭を抱えた。フィリップの悪い癖である。気になる物を見つけるとすぐ検索し、それを調べつくすまで気が済まない。知識欲に駆られたフィリップは寝食も忘れ、それが原因で起きたトラブルも1度や2度ではない。
しかし、今回の発言には、翔太郎も引っかかる部分があった。
(『地球の本棚』で検索できないだって?)
地球の全てを記録し収められているとされる、フィリップの中に存在する精神世界『地球の本棚』。
それで検索出来ないとなると、これはちょっとした問題だ。
とある事情により検索がブロックされている項目が存在したことはある。しかしそれは、世間に出ることのないいわば裏・闇に関する情報であった。
だが女性の話を聞く限り、『IS』というものは世間に一定以上広く知られている存在であるらしい。一般にも知られている存在の検索がブロックされる理由なんて考え付かない。
翔太郎は、ある可能性を考えざるえなくなった。
(まさか、な)
そう考えながら様子を伺って見ると、女性の顔がみるみる真っ赤になっていく。かなりご立腹といった感じだ。
「ISを、知らないだと?貴様、よくそんな冗談がいえるな?」
「もしかしてさっき空を飛んでいた技術のことかい?確かにあれは僕にとって未知の存在だったし納得できる。どういう原理で動いているのかすごく気になるよ」
「いい加減に――!」
我慢の限界とばかりに女性がフィリップに掴みかかろうとした時だった。
「正式名称インフィニット・ストラトス。およそ10年前に開発された、現在最強の『兵器』だ」
いつの間にか部屋に入ってきた黒髪の女性がそれを引き止めるように解説した。
「織斑先生!?どうしてここに?」
「交代だ。ここから先は私がこの二人を担当する」
「しかし…!」
「いいから任せておけ。週明けからは新学期なんだ、君もまだそれまでにやらなくてはいけない仕事が残っているだろう?」
そう言われてはっとなった女性は少し考えた後「はい…」とだけ言って大人しく部屋を出て行った。
後には翔太郎とフィリップ、織斑先生と呼ばれた女性だけが残る。
「IS学園教師、織斑千冬だ」
「あ、ああ。俺は左翔太郎。こっちがフィリップだ」
そう言いながら名刺を渡す。千冬は名刺を受け取ると1秒程目を通し、ポケットへとしまった。(ちなみに、先程までいた女性は受け取らずにつき返してきた)
「探偵、だそうだがここには何かの調査で忍び込んだのか?」
「いや、俺達はなんていうか、気づいたらここにいたというか…」
正直、いくら弁解したところで自分たちの扱いが変わらないのは翔太郎自身も薄々分かっていた。ガイアメモリなどの超常の力を知っているならともかく、それを知らない人間からすれば自分たちは『勝手に忍び込んだ侵入者』以外の何物でもないのだから。
しかし、千冬の反応は翔太郎の予想とは違った物だった。
「そうか。つまりお前たちは自分からここに来たわけではないのだな?」
「え?あ、ああ」
意外な程にすんなりと受け入れられた弁解。それに戸惑う翔太郎をよそに、千冬は持ち込んだ鞄からノートパソコンを取り出し、画面を二人にも見えるように向ける。
「これは君達が侵入したと思われる時間の監視カメラの映像だ」
そう千冬が言って画面に映し出されたのは、最初に翔太郎とフィリップがいた芝生の映像だ。
最初の数十秒間は誰も映っていない状態が続く。しかし、そのすぐ後に異変は起こった。
突如としてカメラの映像が乱れ何も映らなくなる。しかし1秒もせずにその現象は収まり元の画面に戻るが、その画面はその前までとは違っていた。
何もなかった芝生に、翔太郎とフィリップの二人が倒れていたのだ。
「こいつは…!?」
「へえ」
翔太郎は自分たちの身に起こった現象を改めて見せられ驚き、フィリップはそれを興味深そうに見つめる。
「見ての通り、君達は1秒足らずでカメラの中に映り込むという芸当をやってのけた。これだけならばまだ可能化もしれないが、奇妙なのはそれ以前の『ここ以外』の全てのカメラに映らなかったことだ」
あくまで冷静に事を伝える千冬だが、その声色にはわずかに戸惑いが混じっている。
「カメラに細工をされた形跡もないし、それ以前にカメラに映らずここまでこれたなら何故あそこで映り、しかも倒れていたのかが説明出来ない。それこそ『瞬間移動』でも使わない限りな」
瞬間移動。それはまさしく二人が体験した事だ。それを言い当てられたのなら、黙っている理由もない。
翔太郎は観念して、仮面ライダーについては触れない範囲で何があったかを正直に話すことにした。
「俺達は…」
その直後だった。
すぐ近くで爆発音のような大きな音が聞こえたのは。