仮面ライダーW×IS:Dを超える絆   作:紫宮氷室

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第三話 後編

結局のところ、その場の多くの者の予想通り決闘はセシリア・オルコットの勝利で終わった。

途中で一夏のISである『白式』が試合中に一時移行(ファースト・シフト)を行うという予想外の事態こそあったものの、やはり素人と熟練者の差を埋めるまでには至らなかった。

 

「駄目か…」

 

既に待機状態となった『白式』を見つめながら、一夏はぼんやりと呟く。

クラス代表になりたいというわけではなかったが、やはり勝負である以上ちゃんと勝ちたかったし、箒に指南されておいて負けるのも申し訳なかった。

一方、勝者であるセシリアは不満げな表情で一夏を見つめていた。

 

(あんな無様な勝ち方…わたくしの思い描く勝負ではありませんわ)

 

勝負の決着は、一夏の『白式』の武器の特性によるエネルギー切れというあっけないものだった。

しかし、どうせならば最後はシールドを削り切り勝利したいという思いがセシリアにはあった。

故に、今回の決着はセシリアからしてみれば不完全燃焼この上なかった。

 

『では、織斑君とオルコットさんはお互いの健闘を称え合う握手をお願いします!』

 

実況席から麻耶の声が響き、二人は向かい合う。

 

「まあ、勝負は勝負だし仕方ないな。クラス代表、頑張ってくれよ」

 

「…あなたに言われずとも、わたくし以外にクラス代表なんて務まりませんわ」

 

「はは…セシリアって名前で呼んでいいか?じゃあ、握手するか」

 

一夏が手を伸ばし、セシリアがその手を握ろうとした時だった。

 

地面から飛び出した蔦の塊が、セシリアを飲み込んだ。

 

 

 

 

何かがおかしい。Wはそう感じ取っていた。

先ほどから、ガーデンはこちらへと攻撃を仕掛けてはいるものの、その攻撃に覇気といったものを感じられないのだ。

まるで、食い止めているのはこちらなのに、むしろ食い止められているように感じる。

 

「フィリップ!」

 

≪ああ、こいつは何か隠し玉を持ってる≫

 

それが何かは分からない。だが、それを使われる前に倒すだけだ。

そう思い、次の攻撃を仕掛けるべく一歩踏み出した時だった。

 

「なるほど、流石に気が付きますか。ですが、もう遅い」

 

瞬間、ガーデンがばらりと解けた。

 

「こいつはっ!?」

 

大量の蔦へと変化したガーデンはその全てをWへとぶつけてくる。

 

「クソっ!」

 

躱し、捌くことには問題はない。しかし、そうするのが精いっぱいでその場からまともに動くことは出来ない。

そんな時に、スタッグフォンに通信が入った。千冬からだ。

 

『オルコットが蔦の塊に攫われた!今何処にいる!?』

 

「はあっ!?じゃあ俺達が今戦っているこいつは…!?」

 

少し考えた後、千冬からの通信、そして蔦そのものへと変貌した目の前のガーデンを見てフィリップは答えへと辿り着いた。

 

≪そうか!こいつは奴自身の蔦で作った分身体だ!本体はアリーナの方に潜入していたんだ!≫

 

「何だって!?」

 

つまり、Wが戦っていた方はこちらを誘き出し時間を稼ぐための囮だったということだ。

やられた。翔太郎はそう思わざる得なかった。

しかし、悔やむ時間はない。一刻も早く、セシリアを助けに行かなければ。

 

「だったら尚更こいつに構ってる暇はねえ!フィリップ、植物には炎だ!」

 

≪わかった≫

 

Wがメモリをサイクロンからヒートへと入れ替える

 

『ヒート!』

 

『ヒート!ジョーカー!』

 

赤と黒の姿―ヒートジョーカーへと変身したWは、襲い掛かる蔦を手当たり次第に殴っていく。

炎を纏わせた拳に触れた蔦は瞬く間に燃え上がり、数分もしないうちに全ての蔦を消滅させた。

 

「こっちは、これで終わりか…」

 

≪翔太郎、早く奴を追わないと!≫

 

「分かってるさ!」

 

一旦変身を解除し、学園の外へと走りながら千冬へと連絡を入れる。

 

「今からオルコットを探す!先生は他の生徒の面倒頼む!」

 

『待て、闇雲に探す気か?今教員数名で蔦が通って来た穴の調査中だ。穴が何処に繋がっているか分かるまで待機していろ』

 

「それじゃ手遅れになる可能性のが高い!大丈夫だ、アテはあるさ」

 

『…分かった、怪物絡みではお前の方が経験豊富だろうからな。そこに賭ける』

 

「任せろ!」

 

セシリアを犠牲になどしない。そう強く思いながら翔太郎は学園の外へと飛び出した。

 

 

 

 

「あれって…左先生?」

 

それをやや遠方から見る人影があった。

一夏と箒である。

一夏はセシリアが蔦に攫われた直後、行方を追うために教師による誘導が始まる前にアリーナの外へ出ていたのだ。そして箒は、その一夏を追ってまた外へと出ていた。

 

「何処へ行く気なんだ?この非常事態に」

 

箒はそれをやや不服そうに眺めるだけだったが、一夏は少し考えた後、はっと気が付く。

 

「もしかして…セシリアを捜しに行くんじゃないのか?」

 

「まさか…第一、あの訳の分からない蔦をISの使えない左先生がどうこう出来る訳ないだろう」

 

仮にも代表候補生であるセシリアを抵抗も許さずに攫ったのだ。能力としては並のIS以上はあるのは間違いなく、男性がそれに立ち向かおうなど自殺行為としか思えなかった。

 

「…追いかけよう」

 

「一夏!?」

 

「多分、セシリアを捜そうとしてるのは間違いないと思うんだ。それに、蔦が襲ってきてもISのある俺がいれば切り抜けられる可能性が上がるだろうし」

 

「お前のISは戦闘直後でエネルギーが残ってないだろう!そもそも、一夏があいつを捜す理由なんて―」

 

「ある」

 

はっきりと、一夏はそう宣言する。普段からは感じられないその気迫に、箒は思わず黙ってしまう。

 

「あの時、俺がもう少し早く手を出していれば、セシリアの手を握って蔦から助けられたかもしれない。俺がちゃんとしていたら、助けられたかもしれないんだ」

 

「一夏…」

 

「セシリアは俺の目の前で攫われた。だったら、俺が助けに行かないといけないんだ」

 

一夏の中にあるのは『男は女を守るべき』という考えだ。それは、ISの浸透した今の社会ではあまりにも古い考えである。

しかし、一夏はそれを少しも疑問に思わないし、それと決めたら迷わずに実行する。

箒はそんな一夏を見て…つい、笑みが零れてしまう。

 

「まったく、馬鹿だな一夏は」

 

「え?何がだよ?」

 

「そういうところがだ。そうか、なら…私も行かせてもらおう」

 

「箒も?」

 

「ISなしでは、少なくとも一夏より強いぞ私は。一夏があいつを助けるというのなら、一夏を助けるのは私というわけだ」

 

確かにこの一週間で一夏が箒に勝てた事は一度もなかった。だが、一夏としてはこんな危険な事に箒を巻き込みたくはない。

しかし、そう言ったところで無意味なのも分かり切っていることで。

 

「わかった。でも無理はするなよ?」

 

「一夏こそな」

 

こうして二人は、翔太郎の後を追い学園を抜け出した。

 

 

 

 

 

「う…」

 

突然開けた視界により、半ば気絶していたセシリアの意識は覚醒した。

 

(わたくしは確か、握手を…いえ、その直前に蔦が絡みついて)

 

直前の記憶を呼び覚まし、咄嗟に周囲を確認する。

大きな建物の中のようだ。古ぼけた機械や工具がそこら中に広がり、穴の開いた天井から僅かに日光が降り注いでいる。

そして、壁や周囲の機械には例外なく蔦が絡みついている。

少なくとも、IS学園ではない。

 

「ここは…」

 

「IS技術の発展に伴い潰れた工場ですよ。現在は私の庭として使わせてもらっています」

 

そんな台詞と共に、物陰からスーツ姿の男が姿を現す。

 

「またお会いしましたね、美しいお嬢さん」

 

柔和ながらも、邪悪な笑みを浮かべセシリアに語りかける男。

セシリアは、その男の声を何処かで聞いたことがある様に感じた。

 

「あなたは…」

 

「おや、やはり『この姿』では分かりませんか。仕方ないですね」

 

そう言うと、男の腕が変化し、蔦の塊のような異形の腕へと変わる。

瞬間、セシリアの脳裏に蘇るのは一週間前の怪物の姿。

思い出す、目の前の男の声は、怪物のそれと全く同じだった。

 

「まさか…!?」

 

「お気づきになられましたか。私の名はガーデン、情報生命体ディメノイドが一体にして一番の『美食家』です」

 

それを聞いたセシリアはすぐに『ブルー・ティアーズ』を展開しようとする。

しかし、どれだけ強く念じても一向に展開されない。

 

「無駄ですよ。我々はISを無効化する事が出来る。『最強』はディメノイドの前では『最弱』以下へとなり果てるのです」

 

そう言うと、ガーデンは自身の分身たる周囲の蔦を操作する。蔦はセシリアの身体を縛り上げ、地面から1m程の高さで吊し上げる。

 

「は、放しなさい!」

 

「ふふふ、いいですよその表情。恐怖とプライドが混ざり合ったいい表情です」

 

ガーデンは腕から薔薇の棘のような物体が先端についた蔦を伸ばす。

 

「…我々は情報生命体は、『身体』を維持するために定期的に情報を摂取する必要があります。有機生命体が、有機物質である食物を摂取することで生命を維持するように」

 

棘付きの蔦はISスーツを突き破りセシリアの身体へを突き刺さる。同時に、セシリアは急激な疲労感と寒気を感じた。

 

「こ、れは…!?」

 

「そして、その情報を摂取するのには知的生命体、人間の生命情報を血液を介して吸収するのが最も効率がいいのですよ」

 

そこまで言われ、セシリアは気づく。この蔦は、人間の血液を吸い取る吸血蔦だと。そして、今まさに自分がその吸血蔦の餌食となろうとしていることに。

気づいた瞬間、セシリアにどうしようもない恐怖感が襲い掛かる。死ぬ、その事実を目の前に突きつけられながらも逃れられない。その実感が、セシリアに更なる恐怖を与えていた。

 

「おや、叫びませんか?昔『食べた』お嬢さん達は大抵この時点で泣きわめいていたのですが…そういうところも気に入りました。じっくりと、吸い取らせていただきましょう」

 

「……」

 

セシリアが声を出さないのはプライドか、もしくは深く刻まれた恐怖で声帯すら動かないのか。

どちらにせよ、死ぬという事実を認めたくない心と、このままでは死ぬという現実により、セシリアの心は疲弊しきっていた。

だからだろう。彼女らしくないある思いが、心の中に宿った。

 

(助けて…!)

 

 

 

その時、クワガタムシのようなロボットが飛来し、ガーデンの吸血蔦を切り裂いた。

 

「何!?」

 

予想外の事態に驚き、ガーデンは工場の入口のほうへ振り返る。

 

「よお、悪いがお嬢様にこんな場所は似合わねえぜ」

 

そこには、翔太郎が立っていた。目深に被ったソフト帽を指で上げ、真っすぐにガーデンを睨む。

 

「何故ここが…!?」

 

ガーデンはたじろぐ。このアジトの場所は入念に隠蔽しており、辿り着けたとしても数時間はかかる筈なのだ。

 

「こいつだよ」

 

翔太郎は腕にした時計型ツール―スパイダーショックを指さす。そこには、小さく光る点が一つ映っていた。

それを見たガーデンはセシリアの方を見る。よく見れば、ISスーツにバッジのような物体が貼り付けられていた。

 

「発信機か!」

 

「まあな」

 

万が一に備え、ピットで会話した際にこっそりと貼っておいたのだ。

 

「女を口説くなら、顔だけじゃなくて他にも目をつけておかねえとダメって事さ」

 

「おのれ…!」

 

激昂したガーデンが怪人体へ変貌し、数本の蔦を翔太郎に向けて放つ。

翔太郎はそれを器用に避けながらダブルドライバーを装着する。

 

「行くぜ、フィリップ」

 

≪今回は珍しく未知の敵に対する策を考えているね。何かあったのかい?≫

 

「別に、やれる事はやっておこうと思っただけさ」

 

≪もしかして、教師としての自覚が出てきたのかな?≫

 

「…さあな」

 

「≪変身!≫」

 

『サイクロン!』

 

『ジョーカー!』

 

『サイクロン!ジョーカー!』

 

翔太郎がWへと変身する。その際に起きた風圧だけで工場内の蔦が数本、分解されるように消滅する。

 

 

「≪さあ、お前の罪を数えろ!≫」

 

 

「私の食事の邪魔をした事、今度ばかりは後悔させてあげますよ…!」

 

「それはこっちの台詞だぜ。俺の生徒に手を出したこと、後悔させてやるよ」

 

言い終わるが同時、Wとガーデンはお互い相手へ向かい走り出した。

 

 

 

「あれって…IS、じゃないよな?」

 

翔太郎がWへと変身する瞬間を、一夏と箒は物陰から見ていた。

翔太郎の後を追い、辿り着いたのがこの廃工場だ。奥には怪物と、セシリアの姿が見える。

 

「どう見てもISじゃないだろあれは」

 

一夏よりかはISの知識がある箒が、一夏の疑問に答える。全身タイプのISは存在するが、翔太郎のなった『それ』はそれらとも違う存在だった。

第一、一夏が唯一の男性操縦者なのに同じく男性である翔太郎がISを動かせる訳がない。

 

「それより、どうする一夏?」

 

見れば、怪物はIS?(W)との戦闘に集中しておりセシリアへの注意がそれている。チャンスは今だろう。

 

「行こう。箒は後ろからついてきてくれ」

 

「分かった」

 

工場内で戦う彼らに気取られぬよう、二人は裏手に向かい移動を開始した。

 

 

 

 

「はあ!」

 

ガーデンの蔦がWへと襲い掛かる。が、それは手刀で難なく撃ち落されてしまう。

 

「それなら!」

 

今度は、周囲の蔦を纏めて伸ばし一斉にWへと襲い掛からせる。

 

「おっと!」

 

躱し、あるいは迎撃して攻撃を捌いていくW。しかし、やはり相手のホームグラウンドだからか思うように攻撃を仕掛けることが出来ないでいる。

 

「ああもう!しつこいなこの蔦!」

 

≪これらの蔦は全て奴の身体の一部と言っていい。周辺が蔦だらけのこの状況は、奴の体内にいるのと同じだろうね≫

 

「…このまま丸呑みのままってのは、御免だな」

 

≪だったら、やる事は一つだ≫

 

「ああ、中から突き破ってやるぜ!」

 

そう言って、左右二本のメモリを同時に抜き取る。メモリチェンジで、この状況を変える形態へと変わるつもりだ。

抜そうしてき取ったメモリをしまおうとした瞬間、Wは見てしまう。

縛られたままのセシリアに、こっそりと近づこうとする一夏と箒の姿を。

 

「織斑!?篠ノ之!?」

 

予想外の二人を見てしまったことにより、Wの手は一瞬だが止まってしまう。

そしてその隙を、ガーデンは見逃さなかった。

 

「よそ見をしている暇が、あるとでも!」

 

隙をついて伸ばされた蔦は、Wの身体に巻き付き動きを封じてしまう。

 

「しまった!」

 

蔦が巻き付いた拍子に、同時にジョーカーメモリも落としてしまう。

メモリはカラカラと音を立てながら床を滑り、一夏の足元で止まる。

 

「これって…」

 

一夏はそれを拾い上げる。一夏には、大きめのUSBメモリにしか見えなかった。

 

「さて…」

 

ガーデンは一夏と箒へと向き直る。

 

「私の食事の邪魔をする輩がまだいるとは、嘆かわしいですね」

 

一夏と箒を見下すように見ながら、ガーデンは言う。

 

「今すぐ、ここを去るならば私からは何もしませんがどうです?」

 

「…断る。セシリアを助けに来たのに、このまま帰れるか」

 

「そうですか…なら、死になさい!」

 

ガーデンは一夏の身体を刺し貫く勢いで、蔦を伸ばす。

 

「一夏!」

 

箒が叫ぶ。

一夏は、自らの手の中にある白式へと念じる。

 

(俺はセシリアを助けたい…だから、来い!)

 

この時、いくつかの偶然が重なった。

一つは、一夏がジョーカーメモリを手にしていた事。

一つは、一夏自身が咄嗟ながらも白式を展開しようとした事。

そして、ジョーカーメモリが一夏の手の中で僅かに光った事。

 

その結果、

 

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「な、にぃ!?」

 

予想外の出来事に激しく狼狽するガーデン。

それにより、Wを拘束していた蔦の締め付けが弱くなった。

 

「今だ!」

 

僅かだが身体が動くようになったWはドライバーにメモリを装填する。

 

『ヒート!』

 

『メタル!』

 

『ヒート!メタル!』

 

赤と銀の戦士―ヒートメタルへと姿を変えたWは精製された棒術武器―メタルシャフトにより蔦の拘束を破壊する。

 

「おりゃ!」

 

そのままメタルシャフトでガーデンを攻撃する。

 

「なっ―うぐ!?」

 

突然の攻撃に、ガーデンは対応できずに直撃を許してしまう。

 

≪翔太郎、このままここで戦うと三人が危ない≫

 

「分かってるさ」

 

Wはメタルシャフトを槍のように構え、ガーデンへと突き出す。

 

「ぐ、おおおおお!?」

 

その一撃を食らったガーデンは大きく吹き飛び、壁を突き破り屋外へと飛び出す。

 

「さあて、一気に行くか!」

 

Wもそれを追い、外へと飛び出した。

 

 

 

 

「大丈夫か一夏!?」

 

箒がこちらへと駆け寄ってくる。

 

「ああ。それより、早く助けないと」

 

箒と二人で協力して、セシリアの体に巻きついた蔓を解いていく。ガーデンがダメージを受けたからなのか、思っていたよりもあっさりと解くことができた。

ほどなくして、セシリアは「うう…」とうめき声を上げ目を開ける。血を吸われたからか、その顔色は青白い。

 

「あなた達、どうして…?」

 

弱弱しく問いかけるセシリア。普段の彼女からは想像できないくらいに疲弊している。

 

「知り合いが攫われて平気でいられる筈ないだろ」

 

「だからって」

 

「決めたんだ、誰かを守るって。目の前で、もう誰も悲しませたりしないって」

 

これ以上ないくらいまっすぐに、真っ直ぐな瞳でを見つめる一夏。

 

「だから、セシリアの事も俺が守る」

 

(どうして…?)

 

両親を亡くしてから、セシリア・オルコットは一人で守ってきた。

汚い大人たちから残された財産を、何より自分自身を。

守ってくれる人なんていなくて、自分でも必要だなんて思ったこともなくて。

そして今日、生まれて初めて面を向かって自分を「守る」と言ってくれた人と出会った。

その言葉が、とても嬉しくて。自分でも何故嬉しいのかわからなくて。

 

(どうして…)

 

一夏の事が、どうしようもなく眩しく見えた。

 

 

 

 

「はっ!」

 

メタルシャフトを振り回し、ガーデンへと次々攻撃を当てていくW。一方のガーデンは、精神的ショックにより碌に防御も行えなくなっていた。

 

「そんな、ありえない!ISに我が蔦を破壊されるなど、本来あってはならないはずだ!」

 

「知るかよそんな事!」

 

ヤケクソ気味に振り回されるガーデンの腕を躱し、大ぶりの攻撃を叩き込む。

 

「ぐああっ!?」

 

2、3m吹き飛び、地面へと倒れるガーデン。その身体は、黒いノイズ混じりの姿へと変わっていた。

 

≪今だ!奴に止めを≫

 

「ああ!」

 

Wはメタルシャフトへメタルメモリを装填する。

 

『メタル!マキシマムドライブ!』

 

メタルシャフトの両端に炎が宿る。Wはガーデンへ止めの一撃を加えるべく駆け出した。

 

「馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿なっ!?私が、私がぁ!?」

 

向かってくるWにも目を向けず、ただ狼狽えるばかりのガーデン。最早、逃げる気力も残ってはいなかった。

 

「私が負けるなどとぉ!?」

 

「「メタルブランディング!!」」

 

「馬鹿なぁああああ!!?」

 

マキシマムドライブが直撃し、大きく吹き飛ぶガーデン。その身体が空中で爆発すると、立方体の形となった結晶体だけがぽとりと地面に落ち、ガシャンと音を立てて砕け散った。

 

 

 

 

「終わったか」

 

その戦いを、誰にも気づかれずに観察していた存在がいた。

単眼の、梟を思わせる姿をした異型だ。ビルの屋上から、数百メートル先の廃工場をまるで目の前にあるかのように眺めている。

異型―スキャンディメノイドはガーデンの消滅を確認すると、すぐに自らの主人へと連絡した。

 

「リミット様。ガーデンが撃破されました」

 

『そうか』

 

「いかが致しますか?今追撃をかければ、手傷程度は与えられると思われますが」

 

『…いや、いい。帰還しろスキャン』

 

「はっ」

 

リミットの命を受け、スキャンは翼を広げビルから飛び去った。

 

 

 

 

翌日、麻耶の口からクラス代表決定の報告がされた。

 

「というわけで、クラス代表は織斑一夏君に決定しました!」

 

クラス内で、わーわーぱちぱちという歓声が響く。

その歓声を理解できないのは、一夏と翔太郎だけだった。

 

「何で?俺、昨日の決闘で負けましたよね?」

 

「そうだぜ。流石にここまで贔屓するってのは…」

 

「それは、わたくしがクラス代表を辞退したからですわ!」

 

意気揚々と、セシリアが教室に入ってきた。昨日血を吸われ死にかけたというのに、今日何事もなかったかのように振る舞うとは中々の生命力である。

 

「辞退って…」

 

「わたくしと『一夏さん』が戦えば、わたくしが勝つのは当然のこと。それは揺るがぬ事象ですわ」

 

その言葉に、翔太郎は何処か違和感を覚える。

 

(あれ?オルコットの奴織斑を名前で呼んだか?)

 

昨日まで、名前はおろか苗字で呼ぶことさえ避けていたセシリアが、いきなり名前で一夏を呼んだのである。どういう心境の変化だろうか。

 

「ですが…わたくしは昨日大勢の前で失態を犯しました」

 

それは恐らく、試合後のガーデンによる誘拐の事だろう。

 

「あのような無様を晒したら、もうクラス代表なんて務まりませんわ…ですから、一夏さんに代表を譲ることにしましたの」

 

恥をかいておいて、それを置いて堂々と出来るほどセシリア・オルコットは恥知らずではない、という事だろうか。

とにかく、彼女にはもう代表になるつもりはない様子だ。

 

「でも、いいのか?俺なんかがなって」

 

「それはご心配なく。わたくしが一夏さんにきっちり指導して、立派な操縦者に仕立ててみせますわ」

 

セシリアがそこまで言ったところで、箒が二人の間に割って入る。

 

「それは黙認出来ないな。一夏の指導役は私がやってるんだ」

 

「あら?あなたは一週間かけて一夏さんにISの事を何も教えられなかったと聞いていますが?」

 

「ぐっ…だ、だがこれからは、ちゃんと教える」

 

そう言う箒だが、明らかに口調に自信がない。

 

「それに、代表候補生であるわたくしのほうが教官としても優秀だと思いますが?」

 

「いや、だからお前ら喧嘩するなって!」

 

またも険悪な雰囲気になるのを危惧し、翔太郎が割って入る。

しかし、セシリアは翔太郎の顔を見ると昨日の出来事を思い出したようで、今度は翔太郎に詰め寄ってきた。

 

「そうですわ!左先生、昨日の―」

 

「そこまでだ」

 

いつの間にか教室に入って来ていた千冬が、セシリアの頭を出席表で叩く。

 

「ホームルームのチャイムはもう鳴っているぞ。さっさと席に戻れ」

 

さもなくばもう一度叩く。そう言いたげな千冬の目にセシリアも他の生徒も大人しく自分の席に戻る。

しかし、一夏だけは千冬に詰め寄った。

 

「千冬姉、左先生の…」

 

ぱこんと、出席表で一夏の頭を叩く千冬。

 

「織斑先生だ。『あの事』については今は何も言うな」

 

「…はい」

 

一夏は仕方なく席へと戻る。

 

「それでは、山田先生から報告があった通り、クラス代表は織斑一夏に決定する」

 

 

 

…千冬のその言葉に呼応するように、ジョーカーメモリが僅かに光った事には誰も気が付かなかった。




いつもの場所その一:廃工場
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