ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-   作:結城ソラ

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Build.11:ガンプラコスプレカフェ狂想曲-前編-

「というわけで今回はコスプレ回です!!!」

『イェーイ、店長分かってるぅ!!』

 

 やたらと強烈に熱気渦巻くここはガンプラカフェ。ただし普段とその見た目は様変わりしている。

 普段は店の四割程をガンプラや工具、ビルダーズパーツ等のアイテムを売っているブースはまるっと開けられ新たにテーブルや椅子が設置され、さらには店の外にまでパラソルテーブルが設置され簡易的なテラス席が作られている。

 様変わりしたこれらの風景と渦巻く熱気には当然理由がある。

 

『三つのガンプラカフェ合同で行うお祭り企画、“ガンプラコスプレカフェ”! お茶しててもいいですが、この後イベントも盛りだくさん!

あ、申し遅れましたが司会進行は私、ホシナリ・リサがお送りしまーす!』

 

 

☆★☆

 

 

 

「司会能力がこんな高いとは思わなかった・・・思わぬ掘り出し物ね」

 

 チラリとスタッフルームからカフェの様子を伺いながらアマネは呟く。

 ホシナリ・リサは最近話題の読者モデルだ。今回のイベントは衣装が物を言うため色々交渉して呼び込んだらしい。実際着こなすのが難しくきわどいミーア・キャンベルのコスプレを着こなし、さらにはしっかりとMCをできている彼女は広告塔として確かな効果を発揮していた。

 昨今この手のモデル系はちょこちょこガンプライベントに現れる。ガンプラバトルの世界的ムーブメントも理由の一つだが、やはり“ガンプラアイドル”の括りで売り出され現在はハリウッド女優まで上り詰めたミホシや全国大会での出演がキッカケで知名度を大幅に上げたカミキ・ミライ等、この界隈は一種のスターダムと化していることが原因だろう。

 

「粒子システムを用いたアイドルとかも居るわけだし、手広い業界よね」

 

 カンペをバッチリ読みながら今日のスケジュールを紹介しているリサを見ながら呟くと、不意にアマネの背後の扉が開く。

 バツの悪そうな表情をしているその人物の格好を見たアマネはニヤニヤと笑って声をかける。

 

「似合ってるわよヤナミ君。主人公っぽい」

「色々怒られるぞ」

 

 ケッ、と言葉を吐き捨てたヤナミ・ミコトをアマネは改めて監察する。

 深い赤色を基調としたジャケットにボトムスは動きやすさ重視のジャージ系。ウィッグは使っていないがある程度髪を跳ねさせる等して近付けている。

 赤服と呼ばれる衣装は他にも着ているキャラは多いためカラーコンタクトを用いている。その甲斐もあってか今のミコトはかなり“SEED DESTINY”のシン・アスカに近付いていた。

 

「元の色が黒系の髪だからやりやすそうね。カラコンはもう少しハイライトが薄くなるようなのにすれば良かったのに」

「常時種割れとか勘弁してくれ。ただでさえ衣装班の熱意に圧されて苦手なコンタクトまで入れてんだ」

「あー、分かる。いいもの持ってきてくれるのはいいんだけど流石に胸元開いたミニスカキャプテン・アッシュ風改造服とか異常に完成度高い後期OPリリーナコスとかは厳しいというか」

「お前のそれは一種のファンアクションだろ。というかその格好で言うかね」

 

 アマネの対面に座り、頬杖を付きながらミコトがため息を吐く。

 今のアマネの装いはスカートではなく動きやすいパンツスタイルではあるが胸元結構開いてるし肩も露出している。

 明らかに紫に見える銀髪ではなく(曰く元々長い髪をウィッグに隠すには結構物理的に頭が痛くなるくらい締め上げるため嫌っているらしい)いつも通りの赤毛のまま髪を下ろしているが“ZZ”のルー・ルカのコスプレだ。

 

「好きなキャラを選んだだけよ。まぁ、着てみて改めてルーのスタイルの良さが分かってちょっと凹むけどね」

「おぉ、アマネっちに若干喧嘩売られてるんじゃないこれ?」

「マイちゃん、何で入り込むのっ」

「緊張してないようで何より」

 

 いつの間にか寄ってきていた臨時バイトの二人――先日激闘を繰り広げたチーム・デルタエースのクスノキ・メグルとヒノクニ・マイにアマネは柔らかく笑う。

 この二人も当然コスプレ済みであり、メグルは“OO”ファーストシーズンのマリナ・イスマイール、マイは“Gガンダム”のアレンビー・ビアズリーの私服をそれぞれ着用。アクセンツの二人と違いこちらはウィッグをちゃんと着用済みである。

 

「先輩さんからちゃんと教えられてる?」

「え、あ、はい。口数はそんなに多くないしあんまり感情は読み取れませんけど、オリハさん丁寧に必要な事を教えてくれるから助かってます」

 

 アマネはスタッフルームに入る際にすれ違ったカザマ・オリハの無言のサムズアップを思い出してなるほど、と一人納得する。時折カフェでのバイトをするオリハは今回のイベントにも自ら協力を申し出てくれたので新人の指導を担当してもらっていたのだ。

 

「自分が地球統制統合艦隊の台詞噛まないように練習してる最中だったのにねー。悪いことしたかなぁ?」

「ところでアキヅキ君はどうしたんですか? 今日は見てないですけど」

 

 メグルの問いかけにサッと顔を背けたミコトとアマネは無言で隣を指差す。よく見れば、なぜか肩が震えている。

 胡乱げな表情で指示された部屋をのぞき込むメグルとマイ。そこは厨房であり、ちゃんと衛生基準法を守ったコスプレをした料理人達が居るのだが・・・やけに異彩を放つコスプレが居た。

 ずんぐりむっくりした体形であり頭デッカチ。カラーリングはRX-78系トリコロールであり足音は「キュポッ」。コスプレというよりは着ぐるみである。

 

「アッガイだねぇ・・・なんで厨房に・・・」

 

 爪の無い腕には手が出ておりその両手に料理を乗せた盆を持ったアッガイが、振り返った。

 

「「ぶふっ!?」」

 

 同時に吹きだした。振り向いたアッガイの本来モノアイがあるには――アキヅキ・カイチの顔があった。

 

「カイチはあれで昔からよくつまみ食いしてたせいかデザート類以外を再現する料理が妙にうまくてね。しかもたまたま手違いで届いたあのアッガイの着ぐるみを妙に着こなしてね・・・」

「なんであの手で完璧且つスピーディーにキャベツの千切りできるのか謎だわ・・・」

 

 必死になって吹き出すのを堪えるミコトとアマネ。その間にも厨房でテキパキとしっかりと仕事をこなすカイチに四人はひとしきり笑ったところでふとミコトが思い出したように口を開く。

 

「んで、喧嘩って何の事だよ」

「おっと忘れてたぁ! 流石ミコっち!」

「その呼び方止めろっ」

「余計な事を・・・」

「アマネちゃんに物申ーす!」

 

 スビシッ、と突き立てられたマイの指は横に居たメグルに静かに下ろされた。

 

「それでスタイル悪いとか我が親友メグルに喧嘩売ってるとしか!」

「抉ってるのマイちゃんだよぉ! た、確かに、その、コンプレックスというかなんというかだけど・・・」

「というかヒノクニさんが言うことかしら」

 

 アレンビーの私服というかなり体のラインが出るコスプレをしているマイだが、ダンスという自身の動きや肢体を魅せる競技を行っている事もあり出るとこ出た上で引き締まった筋肉が実に健康的だ。

 一方そんなマイに捕まっているメグルは涙目である。思わず自分の胸元を触ってしまいさらに涙目を深める様はどことなく小動物を連想させる。

 

「お化粧してくれるって言われたのに、そばかすはあんまり隠してくれなかったし・・・」

「あー・・・」

 

 衣装班からすればそれがむしろ萌えポイントだと譲らなかったらしい。衣装班、恐ろしいまでに欲望に忠実である。

 

「ところで、クスノキ」

「ひゃいっ!」

「・・・呼んだだけで怯えるなよ」

 

 話題を蒸し返した事に責任を感じたミコトがメグルに声をかけるがその反応は最早蛇に睨まれた蛙の如くだ。

 

「度重なる言葉攻めをしといてそれはムリってものじゃな~い?」

「ヒノクニ、お前マジで誤解以外を招かないような言い方止めろっ! ・・・あー、とだな、この前のあの炎の剣、アレもっかいできたか?」

「・・・いえ・・・」

 

 声のトーンが分かりやすく沈没した。

 

「あれから何度も試したんですが上手くいかなくて・・・あの時は確かに二刃をこの手に感じてたんです。それに、負けたくないって思いに二刃は確かに応えてくれました。でも今は、そこまでの境地に至れなくて・・・」

「・・・思いに応える、ねぇ」

 

 小さく呟き思案するような素振りを見せると、ミコトは立ち上がる。

 

「そろそろガンプラ教室の準備してくる。サポーター後で頼む」

 

 ヒラヒラと手を振って隣のスタッフルームへとミコトは移動する。パタン、と閉じられた扉の音を合図にやはり涙目のままメグルがアマネを見た。

 

「あ、あの・・・やっぱり不愉快にさせちゃったでしょうか・・・」

「陰気なのはいつもの事だから気にしなくていいわよ」

 

 安心させるように微笑むアマネに思わずメグルとマイがドキリとする。同性とはいえ、初めて見た優しげに微笑むアマネは充分に魅力的だった。

 

(ヤナミ君、やっぱりこの手の話にずいぶんご執心ね)

 

 一方微笑みの裏でアマネは立ち去ったミコトとメグルの話した内容について考えていた。

 プラフスキー粒子が人の思いに応えるというのはかの第7回世界大会以来最早通説の域に至る程に論じられ、実例も確認されている。

 だが誰しもその域に到達するわけではない。さながらNTとOTのように至れる者と至れない者はハッキリと別れる。

 ヤナミ・ミコトも当然後者に当たる。しかし普段ならすぐに自分に合わないとしてスッパリ諦める彼が、この粒子反応に対してだけは色々と調べては検証している事をアマネは知っていた。

 

(ま、詮索が過ぎるのも問題か)

 

 そこまで考えた所でそう結論を出してアマネも立ち上がる。既に時計に刻まれた時刻が自分の休憩の終わりを告げていた。

 盛大にオープニングを終えたガンプラカフェは、ここから本格的に忙しくなるのであった。

 

 

☆★☆

 

 

『さぁイベントも盛り上がって来ましたー! 次はいよいよ本日メインイベント、バトルロイヤルです! 準備が整うまでしばしご歓談をー!』

 

 マイクを手に台詞を言い切ったリサに隣の店長がドリンクを差し出す。受け取ると一息にリサは飲み干した。

 

「美味しい」

「うちの自慢の姪っ子が入れたアイスティーさ。美味しいんだが、姪しか入れられないから商品としては提供できない」

「致命的だ」

 

 朗らかに笑うリサの視界が青い光に染まる。すぐそこにあるバトルシステムからプラフスキー粒子が展開していく。

 

「わぁ・・・」

「ふっふっふ。ガンプラカフェ三店舗合同は伊達じゃないのさぁ! 世界大会クラスの10ユニット構成! わざわざクゼに交渉してもらって広い会場確保して良かったよ」

 

 どや顔全開の店長は完全に無視しリサは広がり作り出される青い世界を見つめる。

 時折見たことはあるもののこれほどの規模の粒子散布を、ましてや直接見るのは初めてだった。

 

「ホシナリさんもまだバトルをしたこと無いんだろう? この機会に是非」

「あ、基本仕事とプライベートはバッチリ分けるタイプなんで間に合ってま~す」

 

 三度の飯よりガンプラバトル布教な店長が血の涙を流しているうちに粒子散布が終わり、八機のガンプラが作り出された宇宙へと飛び出し、バトルロイヤルが始まる。

 天井から吊られたモニターには早くも2つの戦場が構成されたのが映し出されてる。

 全身に分厚い装甲と大型のブースター等のゴテゴテとした背中にはこれまた大型なライフルパーツが装備されたガンダムが超高速で迫る。その攻撃をいなすのは両手足に鋭い爪を持つ細身の緑色のガンダムだ。

 

「おぉ・・・GP01HFAbにガンダムダブルドラゴン。どっちも漫画版オリジナル形態とは、また気合いの入ったの出してきたなぁ」

「あ、あっちのカワイイ!」

 

 リサが注目したモニターに映っていたのはどちらも赤いモノアイの機体どうしの戦いだった。

 ただしどちらも二~三頭身程のデフォルメされている。ついでに言えばその見た目は鎧のような形状をしたタイプとマントをはためかせるようなタイプであり、どこか人間が装備したようにさえ見える。

 

「天鵬 司馬懿サザビーとコマンダーサザビーのSDサザビー対決とはこれまた渋い」

「同じ名前なんです?」

「SDガンダムの世界は基本それぞれ独立してるんだけどモチーフになるMSが一緒という事さ。三國志の世界をモチーフに司馬懿の演者として選ばれたサザビーと、侵略者の指揮官として選ばれたサザビーがあの二体だよ」

「微妙に分かりにくいけど、元ネタが一緒だって事は分かりました」

 

 外野とは裏腹に宇宙の戦いが激化する。HFAbが両手に持ったビームライフルを連射し弾幕を張りながら突撃する。

 対するダブルドラゴンはドラゴンファイヤーで弾幕を吹き飛ばすと一旦大きく距離を取り、その背に蝶の翅を展開する。

 その動きを見たHFAbは動きを止めメガビームキャノンをチャージし、放つ。

 轟音と共に迫る戦艦クラスのビームに臆することなく脚のクローを展開したダブルドラゴンが真・流星胡蝶剣で迎え撃つ。激しい激突に真っ暗な宇宙に光が溢れ、ダブルドラゴンは真っ二つにビームを割りながらも押しきれず、二機の必殺攻撃は停滞し拮抗する。

 

 攻撃の余波は、別の戦場にも飛来する。

 

 得物をぶつけ合うサザビー二機が危険を感知し飛び退る。次の瞬間、直前まで二機がぶつかり合っていた場所をビームを通過した。

 距離を取ったサザビー達は同時にファンネルを展開すると遠距離からの撃ち合い、避け続けるが見えないビームの主を警戒しているのが分かる。

 

「やべぇなダブルドラゴン。よくアレ作ったよ」

「コマンダーと司馬懿も派手だなぁ。流石実質ラスボス対決」

「私あのゼフィランサス知らない・・・漫画ちょっと買ってくるー!」

 

 ギャラリーたちはモニターに映るガンプラ達のそれぞれの挙動に一喜一憂し、そのたびに会場のボルテージが跳ね上がっていく。

 その熱を感じた店長は腕を組みながら満足げに何度も「うんうん」と笑顔で頷いた。

 

「うーん、派手だねぇいいねぇたまんないねぇ・・・。この熱い感じ、やっぱバトルはいぃ・・・」

「あ。あそこのバトルスゴイ」

 

 恍惚とする店長の横でリサは新しくモニターに映し出された戦闘を指差す。

 

「・・・・・・ゲェッ!?」

 

 何かがひゃげたような声が思わず店長から噴き出た。

 

 

☆★☆

 

 

 甲高い音と共に刃を打ち合わせる二機のガンダム。打ち合わせては離れ、また打ち込んでは離れる。何度も何度も打ち合った二機は全力で振り被った渾身の一撃で鍔迫り合いに発展する。

 二機の剣士はそれぞれ、ガンダムキマリス・オラシオンとカザマ・オリヤ、ガンダムアストレア・シュバリエとカミシロ・アリマといった。

 

「オリねぇから借りてきた単分子ブレードとシールドブースターのラッシュを受けきるとは、やるじゃねぇの!!」

「そっちこそ、新しいGNブレイドをここまで受けきられるとは思っていなかったぞこれがぁ!」

 

 お互いが意地になり足を止めた剣戟の応酬が始まる。

 斬る。突く。叩く。互いに片手に握った剣で火花を撒き散らしながら無限とも思える一瞬を打ち合い続ける。

 その無限を打ち砕いたのは、ビームの嵐だった。

 

「な、なんだっ!?」

「やばっ、離れるぞっ!?」

 

 オラシオンとシュバリエが戦闘を中断し逃げ惑う。嵐はやがて過ぎ去り、その主が姿を見せた。

 

「Hi-νとケンプファー?」

 

 呟きに応えるように二機のカメラアイが輝く。

 Hi-νと思わしき機体は本体にはほぼ手が加えられていない(せいぜいサイドアーマーがGP03のテールバインダーになっているくらい)だが、その背にはファンネルは無く、代わりにドラムパーツに接続されたビームスマートガンとレドームが装備されている。

 一方のケンプファーは機体カラーが濃い藍色になっている他とにかく追加武装が目立つ。左腕にはアレックス由来と思われるガトリングガン、右手にはパンツァーアイゼンが装備されている。さらには背にはシュベルトゲベールとバインダーにさらにガトリング砲とアシンメトリーにてんこ盛りだ。

 その二機がまるでオリヤ達等眼中に無いと言わんがばかりにぶつかり合う。スマートガンの大出力の砲撃をシュベルトゲベールが一閃し吹き飛ばす。拡散したビームがオラシオンとシュバリエを襲うがまるで気にした様子は無い。

 ケンプファーがガトリングを連射すればHi-νは宇宙のデブリを足場に飛び回りニュー・ハイパー・バズーカを放つ。

 逆にHi-νが腕部ガトリングを撃ちまくればケンプファーは前傾姿勢を取り被弾面積を減らすとスラスターを吹かせて一気に体当たりする。

 マイダスパンツァーでHi-νを捉えたケンプファーはショットガンを撃ち込もうとしたがHi-νのシールドに装備されたビームキャノンでケンプファーを追い払う。

 思わず見とれる程の高度な戦闘だ。・・・ただし、その攻撃のだいたいが周りに被害を撒き散らしていなければ、だが。

 

「ま、まずい! このままじゃ俺ら流れ弾で一掃されるぞ!?」

「一時休戦だ! 確実に死ぬほど強いが、片方に肩入れして戦えば落とせる!」

「よっしゃそれでいこう!」

 

 オリヤとアリマが即座に結託すると比較的倒しやすそうに見えるケンプファーに二人がかりで突っ込む。

 流石の突撃力を誇るオラシオンと掴まったシュバリエは一気に懐に入り込むと共に鋭い切れ味を誇る愛剣を振った。

 だが、

 

「なっ」

「うそぉ」

Behinderung(邪魔)

 

 高速の斬撃は対艦刀が受け止めていた。さらにどれだけ押し込んでも片手で持ったシュベルトゲベールに抑え込まれた剣は進まない。

 

『Gut。若者はこれだけ熱い方がいいものだ』

『そうね。でも、この国にはこういう言葉もあるでしょう?』

 

 流暢な日本語がスピーカーから届く。直後、シュベルトゲベールに込める力を強められると、振り抜かれた。

 

『人の痴話喧嘩を邪魔するヤツは?』

『馬に蹴られて分子崩壊!!』

 

 真っ二つに切り裂かれたオラシオンとシュバリエを二門のガトリング砲が蜂の巣にする。さらには容赦ない追撃がビームスマートガンから放たれ飲み込む。

 いろいろちげーよ、というツッコミすらすることもできずに、カザマ・オリヤとカミシロ・アリマはリタイアした。

 

『・・・静かになったなティア』

『えぇそうねブレージ。・・・これで邪魔者は居ない』

『あぁ・・・続きを始めよう』

 

 二機のガンプラは各々の得物を構え直し、叫びながら再びぶつかり合った。

 ハイレベルな文字通りの激闘。とにかく周辺をひたすらに余波で破壊しつくす形で行われるという点に目を瞑れば、まだエンターテインメントとして観客は若干引きながらも蚊帳の外故の気楽さで楽しんでいた。

 ――この時までは――

 

『ジオン驚異のメカニズムに震えなさぁぁぁい!!』

『Hi-ブロッサムはダテやスイキョウじゃなーーーーい!!』

 

 

☆★☆

 

 

「というわけでお願いします我らがアマネちゃんだけが頼りなんだー!」

「うん、流石にこれは対応するしかないからその情けない感じは止めましょうか」

 

 仕事中に呼び出されたアマネはため息を吐き出すと縋りついてきた店長をぞんざいに振り払った。

 

「えっと、あのチョー強いガンプラ達はいったい」

 

 一方訳が分からないと言った感じで困惑しているのがリサである。加えて言えば先程カメラに映り圧倒した二体のガンプラに引いていたりする。

 

「ブレージ・リリーマルレーンさんとクリスティアーネ・リリーマルレーンさん。ドイツのガンプラカフェの店長夫婦さんで今回のイベントの協力者」

「店長さん? あのめちゃくちゃ強い人達が?」

「公式のガンプラバトル宣伝目的の店の店長だからね。バトルが強い人は多いさ」

 

 ヤジマ商事がより手軽にガンプラに触れる機会を増やしたいと企画されたのがガンプラカフェだ。そこの店長に選ばれるという事は何かしらの能力を持っている人物である事でもある。

 人を惹きつけるビルダー能力。楽しさを教え伝える指導能力。そして、ガンプラバトルの強さ。

 

「伝えるためにもある程度強くないといけないものさ」

「店長さんも強いと?」

「当然! まぁ普段は禁止されてるんだけど・・・この前みたいにヤナミ君とかくらいなら・・・」

「脱線してるわよ」

 

 ジトッとした目線を受けた二人は慌てて話の軌道修正を図る。

 

「え、えーっと。そんな強いのが普通な店長さんが何であんな事を?」

「・・・普段のあのリリーマルレーン夫妻はそれはもう砂糖吐くだけじゃ物足りないくらいイチャイチャしてる夫婦なんだけどね」

「その反動なのか、一瞬で険悪になっては決着が付くまで喧嘩するんです。千かマイナス千かの二択」

「まぁ喧嘩するだけならいいんだけど、今回みたいにイベント中でも急にバトル始めるもんだから・・・」

 

 我が世の冬が来たと言わんがばかりに沈痛な面持ちで語る店長とアマネにリサもかなり重大な事だと理解する。

 

「でもバトルロイヤルなら決着まで戦っても別に」

「問題はそこですホシナリさん。さっきオリヤさん達が撃墜されたように、あの二人は周りに気を使わない」

「そして、それが一般参加者ならまだしも協同してるカフェの店長だとバレれば・・・ぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ」

「まだバレてないのに騒がない!」

「ゴットラタンッ!?」

 

 鳩尾に拳を叩き込んで一発K.O.したところでアマネがまたため息を吐き、モニターを見る。

 問題源は共に健在であり激しく戦闘を続けている。トランザムバーストでも止まるか怪しいレベルだ。

 

「ア、アマネなら狙撃で何とかなる可能性がある。ヤナミ君達だと得意レンジになる前に落とされかねない。頼む、よ?」

「息も絶え絶えで悪いんだけど叔父さん。あの二体完全に新作よ。流石にデータ無しであの二人を撃墜できるかというとムリが・・・」

「あの二体はそれぞれガンダム・Hi-ブロッサムとケンプファーAS(アームドサヴェージ)と言うそうです」

 

 かけられた声にリサが目を向ければそこに珍しくコスプレをしていない人物が居た。

 ハロの缶バッジを付けたハンチング帽から漏れ出た濃いクリーム色の髪が片目を隠している。すらりと伸びた足といい実にモデル体型である。

 

「可愛い! この女の子もお知り合いですか?」

「Mann! オ・ト・コです!」

「はいはいストップストップ」

 

 食い気味にツッコミを入れる少女のように綺麗な顔の少年をアマネが窘める。

 

「リサさん、こちらハンス・リリーマルレーン君。正真正銘の男性」

「・・・リリーマルレーン?」

 

 聞き覚えのある苗字にハンスをリサが見やる。するとハンスはその目から光を消し、影のかかったかのような暗い表情で未だ派手に戦闘を続けているモニターを指差した。

 

「父さんと、母さんです」

 

 

☆★☆

 

 

 着替える暇は当然無かったため、ルー・ルカの服のまま空いたバトル台に愛機GN-X・オリジンをアマネはセットする。

 次いで介入できるようにバトルシステムの一部プログラムにアクセス。複数現れた金色に輝くコントロールスフィアにデータを入力していき、乱入できないようにセットされていたファイアウォールを外していく。

 本来は気軽に遊びやすくするために解除厳禁なのだが、放置することを良しとしない状況ができた時のためにアマネはシステムに介入する権利を持っている。いつぞやミコトとカイチが組んでいたバトルの時は予想外のイレギュラーで乱入されてはいたが、基本アマネがややこしい手順を踏まなければカフェのバトルに乱入する事は叶わない。

 

「――これで良し」

 

 入力を終え、金色のスフィアが消えた後にはいつもの粒子が作り出した青いコンソール達が浮かんでいるだけだ。

 

Verzeihung(ごめんなさい)アマネさん。お手を煩わせて」

「やっぱり下手な日本人より日本語扱いこなすわね・・・気にしないでハンス君。貴方に謝られるくらいならあっちに謝ってもらいたいわ。さしあたって、アクセルレイトジンクスのレプリカパーツ提供をしてもらおうと思ってるから」

「ホント好きなんですね・・・」

 

 モニターに映ったハンスの顔が苦笑いに染まる。

 まるでそれを合図にしたかのようにシステムが再起動する。オリジンの前にカタパルトが形成され、アマネの前には通常通りのコントロールスフィアが出現する。

 アマネが握り込めばオリジンが応えるようにその姿勢をカタパルトの勢いに耐えられるように調整する。完全にシステムは乱入者であるアマネの参加を認めていた。

 

「さ、時間も無いし・・・セリザワ・アマネ、GN-X・オリジン。速攻で、片を付けましょうか」

 

 カタパルトが起動しオリジンの身を宇宙へと投げ出す。センサーがすぐさま戦闘の気配を察知するが目標ではない事を悟ったオリジンはそのまま宇宙を翔ぶ。

 

「僕のヘヴンズが壁になります。後ろから狙い撃ってください」

 

 オリジンに並び翔ぶ白い影がハンス・リリーマルレーンの声で呼び掛ける。

 ハンスが操るガンプラは、細くスラリとしたハンスと反比例するかのように随分とマッシブだ。全身を分厚い装甲に身を包んだ機体は肩に4門と脚部に2門のキャノンを持っている他、その背に大柄な機体と並ぶ程に巨大なリングパーツ――スターゲイザーのヴォワチュール・リュミエールが装備されている。

 何より特徴的なのはガンダムタイプでありながら角が円形になっていることだ。

 ヘヴンズガンダム。ガンダムヴァーチェの改良機でありながらラファエルガンダムのGNビッグキャノンを追加した大出力機体。

 HG故にガンダムナドレへのパージシステムを持たないがその分内側の隙間を埋めきった機体は硬く、大出力の砲撃に耐えられるようになっている。

 

「了解。気付かれないのが一番だけど・・・」

『来たかぁいMein Sohn(我が息子)!』

『そちらはアマネさんね。Lange nicht gesehen(お久しぶり)

 

 並び立つ二機がアマネ達を出迎える。当然ながら、ガンダムHi-ブロッサムとケンプファーASだ。

 

『ハンスが来る前に決着を付けたかったが、来てしまったものは仕方ない』

「待ち構えてられる冷静があったらこんな馬鹿騒ぎさっさと止めてもらっていいかな父さん母さん!?」

『それはできないわハンス・・・ここでキッチリ雌雄を決しないといけないの』

「なんでさっ」

『『店に飾るHi-νガンダムの色を決めなきゃいけないから!!』』

「デリケートな所いったわねぇ・・・」

『やはり青と白! 定着しているイメージでこそ!』

『お客の機体に答えるにはやっぱり元祖! 小説版カラーの白に黒であるべきでしょう!』

『地の文ではそれはνガンダムだったろう!』

『そもそもHi-ν自体が後付けなんだから関係無いっ!』

『ティア、それはエゴだ・・・』

「吹き飛べ」

 

 恐ろしく低い声でハンスはヘヴンズのGNビッグキャノンのトリガーを引いた。一瞬収縮した粒子は次の瞬間には膨大な光を放ちながらHi-ブロッサムとケンプファーASを飲み込もうとする。

 二機が錐揉み回転しながらビーム避ける。

 

『威嚇すら無しかっ。そんな子に育てた覚えは』

「これが一番だと間違いなく言いますとも! 馬鹿騒ぎは早めに修めるに限る!」

『仕方ない・・・先にハンスを落としましょう』

『りょ、了解だ!』

 

 一切の容赦なく大出力のビームを放ちまくるヘヴンズに対して先程まで戦闘をしていた二機が連携して行動を開始する。

 連携したのを見たアマネはオリジンを動かし、ASに向けて“魔弾”を放つ。

 

『はっ!』

『げふっ!?』

 

 ASが即座にHi-ブロッサムを蹴飛ばし方向転換する。狙撃は頭部の角で吹き飛ばし、一部当たった装甲を削りながらも一気にオリジンへと迫る。

 放たれたガトリングの斉射はGNフィールドで防ぐが、次いで放たれたパンツァーアイゼンがフィールドを引き裂く。

 ケンプファーASのバーニアが出力を上げて火を吹き、シュベルドゲベールを振りかぶるのを見、アマネはGNキャノンを放つが、振り抜かれた対艦刀はビームを切り裂いた。

 

「粒子変容塗料に、ケンプファー・アメイジングのレプリカ機! 流石にズルい!」

 

 ケンプファー・アメイジング。かの三代目メイジン・カワグチが初の公式戦で使用したワークスモデルだ。

 ガンプラカフェではこのような知名度の高いガンプラを少数生産で一部商品化しており、特にメイジンの機体はレプリカモデルとしてある程度の数が市場に出回っている。クリスティアーネのケンプファーのベースはそのレプリカモデルが使われている。

 

『使えるものは幾らでも使わないと』

「そのストイックさを喧嘩で好き勝手するため以外に使ってもらえますか!」

 

 シュベルトゲベールを振り回すASに対してGNビームサーベルで受け流しながら距離を取ってはライフルを放つ。ある程度近い距離でありながらもケンプファーASは的確に角がビームを弾き飛ばす。技量は、圧倒的。

 

 

『そぅら!』

「ッ、ぐ!?」

 

 回転蹴りを叩き込まれたオリジンが吹き飛び、反射的に飛び出したヘヴンズが器用に受け止める。

 

『ナイスだティア! 一網打尽にしろという事だね!』

「なんのっ!」

 

 歓喜の声と共にHi-ブロッサムがビームスマートガンを発射する。それをヘヴンズは高出力のGNフィールドを展開し受け止める。

 

「これ、耐えられる!?」

「長時間はムリ、なので!」

 

 背面のリングがヘヴンズの胴を中心で包むように稼働する。さらに展開されたヴォワチュール・リュミエールに反応するように円状に展開されたGNフィールドが鋭く尖っていく。

 

「これが、GNノヴァブラスター!」

 

 指向性を持たされたフィールドがヴォワチュール・リュミエールを伴いながらHi-ブロッサムのビームを弾きながら迫る。

 すぐにHi-ブロッサムがビームを切ると横入りしたケンプファーASがシュベルトゲベールで受け止め、切り伏せる。真っ二つになったフィールドは二機を避け、背後に漂っていたコロニーを貫通した。

 

『素晴らしい威力だハンス・・・ちょっと震えたぞ』

『だけど、このままでは決着を付けきる前に消耗しきってしまうわね・・・やりたくはなかったけど、仕方ない』

 

 目を合わせ、頷き合った二機がスッと片腕を上げる。

 

『『モォッ、クゥゥゥ!!』』

 

 パチィィィン、と甲高い音と共に指が鳴り、ブレージとクリスティアーネの声が高らかに響く。

 すると宇宙が揺れ、一部が大きな暗黒に包まれるとその暗黒から指のようなものが現れる。

 指はそのまま暗黒の端を掴むと押し込むように広げていく。やがて充分に広がったのか、奥に赤い光を滲ませながらその姿を現した。

 深いグリーンの機体は何故か腕が3対あるがその体付きはどこもかしこも丸く、どことなく愛嬌さえある。――ただし、その大きさと引き連れている同型機の数を除けばだが。

 

「メ、メガサイズのハイモック?」

『ふっふっふ。これぞ夫婦共同作業で生み出したメガサイズモック3体を用いて作ったイベント用ガンプラ、ギガモック!』

『そして引き連れるハイモックも二人で夜鍋して作ったわ。本当は888体作りたかったけど時間が無かったから519体しか居ないけど』

「充分過ぎです母さん!!」

『とぉにかく、これ以上邪魔したいのであればそのギガモックを倒して進んでくるがいい! 期待してるぞっ!』

 

 あまりにも無責任な言葉を残してHi-ブロッサムとケンプファーASが飛び去るとそれらの進路を妨害するようにギガモックとハイモック達が立ちはだかる。

 ギガモックのモノアイが輝き、六本の腕がそれぞれハルバード、ハンマー、メイス、ヒートホーク、ランス、ヒートサーベルを握ったギガモックがゆっくりと動き出した。

 

「・・・うーん、これは流石にイベントで済ませれないかなぁ。どうやって修正しようかしら」

 

 若干現実逃避をしつつ、アマネはギガモックにライフルの銃口を向ける。

 こうしてただの夫婦喧嘩の仲裁は、いつの間にかカフェを大きく巻き込んだ祭りと化していくのであった。

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「ろ、ロケットパンチッ!?」

「――天来変幻!」

「みんなホントに綺麗・・・まるで、星屑の宝石みたい・・・」

 

【Build.12:ガンプラコスプレカフェ狂想曲 -後編-】

 

「悔い、改めろっ♡」

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