ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア- 作:結城ソラ
また『Build.05:天駆ける流星Ⅱ ~双騎乱舞~』において鉄血機体のビーム耐性云々の記述を一部変更してありますご了承ください。
あぁ、眠い。
ヤナミ・ミコト。普段はガンプラカフェに通ってみたりするような少年だが彼も言ってしまえばただの少年。
当然、学校に行かねばならない。なんだったら転校してきた都合もあって便宜もあるとはいえ出席日数には他の生徒よりも気を使った方がいいくらいだ。
とはいえ季節は春から夏へと移り変わる暖かな日である。そりゃあもう眠気はひどいもので耐えられる方がおかしいというものではなかろうか?
「うどんは小ね」
「はいよ、580円ね」
まぁそんな眠い目をこすりながらもやらねばならないことがある。すなわち、昼食の確保である。
今日は月に一度の学食名物“カツカレーうどん定食”。カツとカレーうどんとご飯、さらに30円付け足せば味噌汁とたくあんがセットになるサービス付きだ。ちなみにご飯はお代わり自由。
そのボリュームと学食特有のリーズナブルな価格、ついでに月一というレアリティは学生達による争奪戦が行われておりその日はかなり食堂が混むものだ。
しかしミコトは椅子を引いてゆっくりと座る。注文を受けてからカツを揚げるため呼び出しベルを渡されているのだが特にまだ混雑はしていない。
これには実は理由がある。
「サボりは良くないぜー転校生クン?」
「変な言いがかりは止めろよネノハラ。休み時間に寝てたら移動教室の場所が分からなくなってそのまま適当な場所で時間潰してただけだっての」
「やっぱサボりじゃねーか」
笑いをかみ殺せないと言った表情でミコトの前に座った少年をミコトは面倒くさそうに一瞥する。それでも彼の同席を拒絶することは無かった。
ネノハラと呼ばれたこの少年はミコトが転校してきてからひたすら構い倒してきた相手だ。あまり他人の顔と名前を一致して覚えることが苦手なミコトだが流石に毎日構ってこられればイヤでも覚えるというもの。
「ったく、アキヅキといい、どうしてこういうのが寄ってくるかねぇ」
「んん?」
「なんでもねーよ。そーいやお前ゲーセンって詳しかったっけ」
「お、何一緒に撃ちに行く!?」
「急にテンション上げ過ぎだろ」
面倒くさげに頬杖を突くミコトに目を輝かせて身を乗り出すネノハラ。詳細はよくわからないがどうにも賞金の出るガンシューティングゲームにハマっているらしく、そもそも初めて話しかけてきた時から既に「二つのガンコンを組み合わせるのが~」とか言ってた記憶がある。
「まぁ俺は今日は遠征の予定だしなぁ。一緒には無理か。でもなんで急に?」
「・・・いろいろ理由があるんだよ。んで、何か無いのかよ」
「んー、そうだなぁ・・・」
明らかに話題を逸らしたがネノハラは気にせず頭をひねるのを見てミコトは少しだけ息を吐く。
普段のミコトは放課後をガンプラカフェで過ごすのだがここ最近飲み物飲んで持ち込んだガンプラを弄るだけであまりにも財布を開かない日々を過ごしていたのだ。すると笑顔を浮かべたのはアマネであり、
『そんなに暇ならお給料出すからバイト、する?』
などとのたまってきたのだ。その場は濁して逃げ出したのだが、裏で変なうめき声をあげながら酷使されているカイチを見てしまっているのだ。
絶対にあそこで、アマネの下で働いてはいけない。文字通りの下僕になり下がる。その確信からしばらく放課後のカフェ率を下げるために新しい遊び場を探していたのだった。
「・・・理由がダサすぎるだろ・・・」
「さっきから独り言多いけど疲れてんのかー? ところでここなんてどーよ」
ネノハラがタブレットを差し出したのでミコトが受け取る。表示された画面上には【ゲームセンター・ウォッチ】の文字がある。
場所も学校の近くらしい。ここなら放課後にすぐ行けるだろう。
「最近できたばっかのゲーセンで俺の遊ぶゲームが置いてないから行ってなかったんだよ。ついでにどんなのがあるか調べといてくれよ」
「あいよ。それくらいなら構わねーよ・・・お」
テーブルの上に置かれたアラームが鳴る。どうやらお目当てのカツカレーうどん定食が完成したらしい。
カラッと揚げたての衣はきつね色。付け合わせの千切りキャベツが色を引き立てる。これに加えて真っ白な白米がホカホカと湯気が上がっている。
ここまでなら普通のカツ定食なのだがその横には丼いっぱいに注がれたカレーの海に溺れるうどん。明らかに浮いている。あるいはカツたちが浮いている。
「きたきたー。やっぱりガッツリ食うならこれよこれ!」
「正直、転校してきて食った時は衝撃だったよな」
「ヤナミ無理して食べて昼ダウンしてたよなー」
「うるせぇだから今回小うどんにしてんだろ。うどんだけ食い切った後にカツとライス投入するのが旨いし」
「あ? カツ On The ライスにキャベツを乗せて上からソースかけた状態でオカズにカレーうどんが正解だろ」
「よろしい戦争だ」
――カツカレーうどん定食。それは食べる者によって食べ方を変える魔の定食。
カレーうどんを食べつつカツでご飯を食べる者。あるいはカレーにカツを投入してふやけさせて食べる者。その食べ方は人それぞれであり、食事を共にする者どうしがそれぞれに最も旨いと信じる食べ方をし、そして最上を求め議論を、時折力を込めて交わす。
カツカレーうどん定食。それは人の友情と成長を破壊し再生させより高みへと押し上げる――可能性もある謎の食べ物。
ちなみにカロリーは気にしてはいけない。気にするとこれまた戦いを誘発するからだ。
☆★☆
時間は流れて放課後。ミコトは最近少しブレーキが効きにくくなってきた自転車を駐輪場に止め、目的地を見上げる。
ゲームセンターと聞いていたがそこそこ大きい。よく見れば看板があり1つの建物内にどうやら家電量販店と映画館、それにちょっとした書店とレストランも入っているらしい。
「娯楽施設の塊ってわけな」
思わず口に出したところで案内板を見直す。3階建ての建物は1階が家電量販店、3階に幾つもの飲食店と映画館が占めており、目的地であるゲーセンは映画館と半分ずつ2階のスペースを取り合っているらしい。
「・・・こんだけデカイならレアなガンプラも・・・」
一瞬いつも通りの放課後の過ごし方を考えてしまったがすぐに頭を振ってその考えを振り払う。
新たなEXシルエット作成のために今日はガンプラ封印して脳内リフレッシュ、という決意をミコトは改めて固めると若干後ろ髪を引かれながら家電量販店の前のエスカレーターを利用した。
エスカレーターを降りると目の前に自動ドアがあり近付いたことを関知したセンサーが扉を開ける。途端にゲーセン特有の複数のゲームが吐き出している雑多な音の波がミコトを襲う。
しばらくこの手の施設に足を運んでいなかったミコトは心踊る衝動をとりあえず抑え込みながらプレイするゲームを見繕うべく店内へと足を踏み入れ――。
「お願いしますUFOキャッチャーさーん! 後生、後生ですからぁ!!」
明らかに厄介事だと分かるイベントに遭遇し、足を止めてしまった。余談だがこういうところがセリザワ・アマネがヤナミ・ミコトの人物評を「お人好し」から変更しない理由である。
「あ、あぁぁぁ・・・・・・」
「・・・・・・」
店内に入ってすぐの位置に設置されたクレーンゲームの前に立つ少女が分かりやすく落ち込み項垂れる。その際にピョコリと後頭部に纏められた栗色のポニーテールも追随したため妙に可愛らしい仕草に見えてしまう。
白地に金と黒で装飾された袖口やスカートなどのブレザーの制服は彼女が学生であることを雄弁に語っているが引っ越してきたばかりのミコトには少なくとも自分の通う学校のものではない、くらいのことしか分からなかった。
「もう一回、もう一回やれば取れる気がする!」
動け、何故動かんヤナミ・ミコトォ!
脳内でミコトがスイカバーされそうになっている中少女は自分を鼓舞しコイン投入口の横に積まれた100円玉の塔の頂点を投入しクレーンアームを動かす。
彼女が狙っているのはどうやらキャラクター系の柔らかクッションらしい。座っても良し抱いても良しパソコン等をするときの肘起きにしても良しの良品である。鉄棒に引っかけられたリングに紐で繋がれた形式になっておりリングを落とせば商品ゲットだ。
少女は身体をガシガシ動かしては色々な角度から見て精密にアームを操作する。そして狙いを定めたところでアームを降下させた。リングをアームで押し出す作戦のようだ。
「―――あぁっ!?」
カスって少し動いた。だがそれだけ。恐らくあの反応からして何度も繰り返しているのだろう。
故に、惜しい。
「・・・・・・はぁ」
ガラスに張り付きながら少女が横側から覗こうと台を離れた瞬間にポケットから1クレジットを投入した。
「あっ!?」
横から声がしたが放置。軽くアームを動かしていき真上より少し手前の位置に固定。アームを降ろす。
やがてアームは最下層で止まり、ゆっくりと広げたアームを閉じるとリングを挟み込み上へと持ち上げる。
しかしこれはリング。上に引っ張っても下の部分が引っ掛かり、アームの力では耐えきれずにリングを離す。
「――あっ」
アームから離れたリングが勢いそのままに鉄棒に当たり、跳ねた。それが最後の一押しとなりクッションが取り出し口へと落ちる。
拾い上げてみれば一目瞭然で、リング側に少し出っ張りが付いている。動かすのは少しずつアームで押し込む必要はあるが最後は引っ張りあげないと出っ張りがストッパーとなり落ちないのだ。とはいえ、持ち上げて落ちるかと言えばそこはほとんど運ゲーなのがやらしいところである。
「あ、あぁ・・・」
やたら絶望に染まった声が聞こえた。面倒臭げに声の方を向けば先程までクレーンを操っていた少女が絶望と涙に歪んだ表情をこちらに向けていた。
綺麗というよりは可愛らしい雰囲気をした少女はピョコピョコ動くポニーテールと合わせてどことなく年下に見える。だが目を引くのは左目を被う医療用の眼帯だ。恐らくアレのせいで距離感を掴みきれなかったのだろう。それでも当てられたのは慣れているからなのだろうか?
とりあえずミコトはほっといて逃げようかと考えるがまず間違いなく泣く、泣かれる。こんな場面で野郎に味方するヤツはまず居ない。
となれば、選択肢は1つだった。
「やる」
クッションを放り投げた。
「へ、あ、ちょ!? わっ、わぁー!?」
わたわたと慌てるようにしてガラスから手を離した少女はクッションを抱き止めるが何故かそのまま前に向かって倒れる。
危うく地面にぶつかる直前、ピタリと止まった。恐る恐る少女が目を開くタイミングで首根っこ摘まんだミコトが少女を立ち上がらせる。
やたらと軽かったため勢いが付きすぎてミコトの目線まで持ち上げてしまったのはミコトの大きな誤算だったのだが。
「あ、ありがとうございます」
「・・・気にすんな。倒れたところを一頻り笑ってから去るかとても悩んだがしなかっただけだ」
「鬼ですか悪魔ですかデビルオーガですかアナタは!?」
「よし離すぞ」
「ははは離す前に杖取ってくださいー!?」
「あぁ?」
バタバタと腕を振った方向を見ればゲーム台に立て掛けるように杖が置いてある。よく見る松葉杖ではなく肘を固定するカフと握るためのグリップが備え付けられた杖だ。
ミコトは知らないがこの杖は主にリハビリ用に使われるロフスタンドクランチと呼ばれる杖であり、足を過剰に庇わないように足の衰えた筋肉や骨を鍛え直すために使われることが主な杖である。それは彼女がある程度回復した怪我人であることを表していた。
とにかくミコトは首根っこを掴んだまま杖の近くまで運ぶ。杖を掴んだ彼女はそのままゆっくりと地面に足を下ろした。下ろした際に痛みに顔を歪ませたがすぐにその表情を引っ込める。
「あ、改めてありがとうございます。そしてクッションはいただきます」
「おう、俺は要らんから気にすんな」
「お名前は!」
「は?」
「ここまでお世話になったので聞いておこうかと!」
じーっとまっすぐ見つめられる。いたたまれなくなり目線を逸らしたら目線に入り込んで来る。杖を突いてるクセに妙に動きが素早い。
「・・・ヤナミ・ミコト・・・」
根負けしたミコトが目を逸らしながら呟くと少女の笑顔がパッと明るくなる。ミコトには妙にその笑顔がまぶしく感じられた。
「ミコト君・・・よし、覚えた」
「いきなりファーストネームかよ」
「言いやすい方を選んだから」
笑顔はそのままに、彼女は自分の胸に手を当てながら言葉をさらに紡いだ。
「コトバネ・アイカです! よろしく、ミコト君」
「はぁ・・・・・・待て、ちょっと待てよろしくって何だおい」
こうして、ヤナミ・ミコトの一人で満喫する予定だった優雅な一日は見事に崩れ去り、優雅でもなんでもない一日が改めてリスタートするのであった。
☆★☆
「あれカイチはー?」
「アマネちゃん一人?」
「あらカザマさんズ、いらっしゃい。カイチなら潰れたけどさらに使い潰してる最中だけど?」
厨房にアマネが視線を送るとまるで地獄の亡者が重労働をさせられているかのような音が流れ出していたがオリヤとオリハはそれに触れないことを即座に決意した。
「カイチはともかく店長はどうしたのさ。アマネちゃんがサボらせるわけないだろ?」
「休憩時間はちゃんとありからますからね? まぁ今はお客さん対応中です」
「お客さん?」
「サクタさん」
「ダグザさんが個別の話?」
サクタさん。いかつめの容姿と鋭い眼光に加えて実際に柔道何かの有段者らしくその見た目と強さから常連達から“ガンダムUC”のダグザ・マックールに似ているからと親しみを込めて『ダグザさん』と呼ばれているカフェ常連の一人。
アマネも彼の友人という人から紅茶の入れ方を教わってみたりサクタさんから護身術を習ってみたりしたことがある。店長とも友人関係を築いているようだ。
「何かまたイベントでもやんのかな」
「前のガンプラ動物園カフェ祭りは楽しかったな・・・」
「また何か企んでるのは間違いないっぽいけど、それとは別に今回なーんか視線向けてきたんですよね・・・」
アマネは今朝の店長の様子を思い返して嘆息する。やたらとニヤニヤしていたその表情は若干イラッとしたものだ。
とはいえあの表情。絶対何か企んでる顔だったのは間違いないという確信があった。
「何か起こらないわけ、ないよねぇ・・・」
「「???」」
☆★☆
「次はあれどうですか!」
「その足でどうやってレースゲームのアクセルブレーキする気だ」
「・・・あぅ」
「いちいち泣きそうになるなっ!」
コツコツと甲高い音を立てて歩き回る少女――コトバネ・アイカに連れ回されながら最早何度目か数える気も失せたツッコミを入れた。
とてつもなく頭痛がする。リフレッシュに遊びに来たというのに何故このようなことになっているのか。
「・・・じゃあ次はあれで!」
「少しは休もうという気は無いのかこのお嬢様は・・・」
アイカはアイカで凹んでは即座に復活という行程を幾らでもするためミコトの頭痛は増すばかりである。
そもそも流れで一緒に回っているこの状態自体が頭痛の種である。度々逃げようとしては謎の圧力と涙目に捕まり逃げられないの繰り返しという攻防があったせいで最早逃げる気力も無いのだが。
(育ちはいいんだろうけど、妙にパーソナルゾーンに踏み込む速度が速いというか上手いというか・・・)
「あれ、なんですか?」
「ん?」
アイカが指差した方にあったのはちょうど入り口から最も遠い位置に配置された白い卵形の筐体だ。
「VRゲームだろ。中に入ってオキュラスグラスを付けて遊ぶんだよ。密閉空間にすることで五感に直接働きかけて没入感を高めつつ安全を守るためにエッグ型が多いんだ」
「へぇ・・・」
実はミコトはこの手のモノに少し詳しかった。というのもVRゲームの発展はガンプラバトル、ひいてはプラフスキー粒子の発展と関連付けることができるからだ。
ガンプラバトルは流体化した粒子を用いてガンプラを直接動かし、そして戦いを再現するものだ。フィールドや武器のダメージ判定や再現も粒子が基本は行っている。
由来がよく分からなかった初期型粒子の頃には遅れていた研究だったが新粒子がニルス・ニールセン(現ヤジマ)氏によって発見、精製と提供の効率化が起こったことで粒子技術を応用した技術研究は一気に進んだと言える。その中でも発展途上であったVRゲームは比較的ガンプラバトルで培われた技術を流用しやすかったこともありまさに進化のビッグバンとも言える現象が巻き起こったのだ。
現在では中規模程度のゲーセンでも置かれるようになりその人気は一定の水準を保っている。ゲーセン離れだった客もまた増えてきているとかいう話だ。ミコトもまた、そうしたVRから新たにガンプラにフィードバックできる種が無いかとちょくちょく遊んでいた口だった。
「これ、立ちっぱですか?」
「いや、中に椅子があるけど・・・片目それだとやりにくいぞ。さっきも言ったけどオキュラスグラス・・・サングラスにメイン映像が流れるからな」
「ふふん、ミコト君は私を侮りすぎです。今後のためにもここらでスゴい所を見せておきましょう!」
やたら自信たっぷりに胸を張る。女子がそういうことあんまりするな、というツッコミは色々面倒なので放棄した。
筐体には「サイコミラージュ」という看板と操作説明がかかっており、全方位から襲いかかってくるエネミーを倒していくスコアアタックタイプのゲームだ。
アイカが中に入るのを見届けるとミコトは飲み物を買って近くの休憩スペースに座り設置されたモニターに視線をやる。
ちょうど準備が終わりアイカのアバターが火山のフィールドに出てきたところだった。赤みがかったメタリックな人形ボディに頭部がまるで竜のような形をしたメットタイプのアバター。テーブルの上に置かれたパンフレットによると超能力による遠隔攻撃タイプらしい。
「ファンネル使うニュータイプ、ってトコかね」
ついついガンダム解釈を口にしているとバトルが始まっていた。
アイカに襲いかかるのは宙に浮かぶ竜の生首と地を這う蛇。どちらもサイズはアバターの半分くらいか。
対してアイカは周辺に赤・青・黄の三色の光球を呼び出す。近付いてきた生首竜が火を吐くが青い光球が盾に変化し防ぎ、そのまま竜を弾き飛ばす。
それを見て東洋竜がスピードを上げて牙を光らせ――赤い光球が無数の剣や槍、矢に形を変え大地に縫い付ける。
大群の動きが止まった瞬間、最後に残った黄色い光球が肥大化し空気を詰め込んだ風船のように破裂しレーザーの雨を降らす。
無慈悲な光が竜蛇を残さず蒸発させた。
えげつな、と呟きそうになったミコトの見るモニターが赤く点滅する。ボスエネミーがポップアップするお知らせのようだ。
ポップアップしたボスエネミーはガッシリした四足西洋竜だ。竜蛇の母体と思われる濃緑色のその姿は実にボスに相応しい威厳を放っていた。
完全にポップアップを完了したボスドラは咆哮と共に鹿のような黄金の角から雷を放つがアイカは盾を確実に展開し全てを受け止めて見せる。
続いてボスドラは思い切り息を吸うモーション。隙の大きいブレスだろうと予想したのかアイカが攻撃モーションに入る。
しかしアイカは攻撃モーションを無理矢理キャンセルして光球の剣を自身の左側に突き立てた。直後、鋭利な爪が光剣を吹き飛ばした。
「・・・いや待て。何で前足が伸びるんだ」
思わず突っ込んだミコトを尻目に炎のブレスが放たれる。アイカは真正面から黄色の光球を細いビームに変えて1本放った。
ぶつかり合った瞬間、ビームがブレスに穴を抉じ開け炎が拡散する。そしてアイカを勝手に避けた炎とはビームは寸分違わずボスドラを貫いた。
小爆発が幾つも巻き起こり、プスンと煙も吹き出て・・・煙?
ドカン、と爆発が起こると顔の造形が変化した。黒い仮面のようなパーツには実にサイバーなラインが走り隙間から禍々しい光が漏れる。第2形態と言わんがばかりに前足を持ち上げ尻尾が鋭い剣へと変わる。この手のお約束通り濃緑色の皮膚の下からはメカメカしい銀色が――。
「ってダナジンじゃねーかアレ!」
ある程度アレンジは加わっているが最早ミコトは立ち上がらずを得なかった。その姿はミコトの記憶にある“ガンダムAGE”に登場するヴェイガンMS、ダナジンと8割方一致したからだ。
そういえば噂を聞いたことがある。粒子技術を転用したゲームの中にはガンプラのデータを転用させることでよりVR空間に適した強力なエネミーを作れるとかデザイナーにも予想しきれない動きをするとか。
「いやそれでいいのかゲームデザイナー!?」
ミコトが頭を抱えている間にダナジン擬きがアイカに伸縮自在の尻尾剣を振り抜く。アイカはそれを盾で防ぐとレーザーによる反撃を行った。
ニヤリとダナジン擬きが笑ったように見えたのは気のせいか。と思っているとパカッと仮面が展開し、レーザーを吸収した。間違いない、あれはかの有名なスタービルドストライクガンダムに搭載されていたというアブソーブシステム!
「どこに積んでんだよ!」
元になったダナジンの制作者は果たしてどんな人物だったのかという疑問が尽きない内にレーザーが切れダナジン擬きの食事が終わる。すると首がガコンという音と共に落ちた。
テクスチャーの張られていない暗黒面が一瞬見えたがすぐに頭に代わる何かがポップアップする。それは白いビームキャノン砲。
アブソーブシステムの特性をしっかり受け継いでいるらしくチャージらしいチャージをするまでもなく大量の熱と光が集束する。放たれれば間違いなくアイカを消滅させるビームの塊、なのだが。
ドスリ。
赤い光剣が発射口を貫く。溜まっていたビームエネルギーはそのまま逆流、大爆発を巻き起こしダナジン擬きを木っ端微塵に吹き飛ばしその体を「Congratulation!」という文字へと変化させた。どうやらクリアしたらしい。
・・・世界観とか色々ツッコミが多すぎて若干気持ち悪くなってきたがミコトは必死にその感覚を抑え込む。後で制作会社調べてアンケートでちょっと苦情気味の感想を送ろうと心に誓ったところでドヤ顔のアイカが筐体から出てきた。
「ふふん、どんなもんですかスゴかったでしょう!」
「・・・あぁ普通にスゴいわお前」
「ふぇっ?」
痛烈な皮肉がと 飛んでくると実は身構えていたアイカは想像とまるで異なる対応に狼狽え、思わず杖をおとしかけた。
一方ミコトはミコトで感嘆していた。
アイカのプレイングは無慈悲で正確だった。確実に発揮する防御と動きを止める牽制、そして何より一切の討ち漏らしの存在しない攻撃。彼女のスコアはほとんどパーフェクトだ。
何よりVRゲームの戦闘は特にリアルの身体の影響を受けやすい。阿頼耶識システムでも無い限り片目片足が使えない状態で彼女は1度も動かず勝利を収めてみせた。
どうあがいてもミコトにはできないことだ。ニュータイプやイノベイター、Xラウンダーのような天才の域をアイカは見せつけた。
「普通にスゴいと思うけどな」
「そ、そこまで誉められると恥ずかしいというか・・・やっぱりミコト君は素直に思ってることを言うのがいいですよ」
「誉めてんのか貶してんのかどっちだ」
「ほ、誉めたつもりですよ・・・あ、そうだ」
少し顔を赤くしながらアイカが杖を持たない手で何かを差し出す。掌には白い猫のキーホルダーが乗っていた。
「ハイスコアボーナス景品だそうですので、クッションと交換しちゃいます」
「あー、どうも・・・なんでマッキーが出てくるんだ・・・」
アイカは気付いていないがこの猫、間違いなく“3丁目のおるふぇんちゅ”という“鉄血のオルフェンズ”の番外作品のマスコットキーホルダーである。なぜそれがゲーセンのハイスコア景品に・・・。
「喜んでもらえて何より! ・・・実はもう帰らないといけないから」
「あー、もうそんな時間か」
「私は楽しかったですけど、ミコト君は振り回しちゃいました。どうでした?」
「コトバネに振り回してる自覚があったことに驚きだよ」
「・・・ズルいです」
「・・・急に何だよ」
分かりやすく頬を膨らませるアイカにこれ以上無く嫌な予感と共に顔に出すミコト。
それに対してアイカはビシッ!と指をミコトの眼前に出して見せた。
「今日一日ミコト君呼んでたのに私は名字というのはズルいというか距離感を感じるというか」
「いやお前が踏み込み過ぎなだけだからな? 初対面だからな?」
「まぁ今日は許してあげましょう。次までの宿題です」
「お前何言い出してんの!?」
半分悲鳴に近いものをあげるミコトを見てアイカはしてやったり、と笑うとそのままキーホルダーをミコトに押し付けて軽く走っていった。杖を実に器用に使うものである。
「なんなんだまったく・・・無駄にコロコロ表情も変えやがってからに」
ため息と共に時計を確認する。まだ少しだけ時間に余裕はある。
ずいぶん疲れたが最後に少しだけ収穫はあった、と自分に言い聞かせるとミコトもまた出入口に向かって歩き出した。
今日は行かないつもりだったが予定変更。本日の〆はガンプラカフェだ。
☆★☆
「チームを組もう。チーム名は――」
「目潰しドーン」
「ガルバぁルディっ!?」
扉を開けた瞬間肩を掴んで意味不明なことを宣う店長を容赦なくミコトは粉砕した。妙な悲鳴と共に床をゴロゴロと転がる店長を飛び越えアマネの前のカウンター席に座る。
「逃げれる?」
「ムリ」
「だよなー」
店長の脈絡の無い無茶振りは別に今に始まったことではない。そしてそれは回避可能なものと不可能なものに別れる。不可能なものを回避したくばカフェに入り浸るのを止めれば良いのだがミコトにはさらさらその気は無いわけで。
「先に教えてもらっても?」
「・・・まぁいいけど。実は全国のカフェを運営してるヤジマ商事からね、カフェに属するガンプラバトルチームを組むように、ってお達しがあったらしいの」
「ヤジマ商事が?」
「えぇ。もうすぐ選手権が始まるからそこのテコ入れもあるんじゃないかしら」
そう言われて夏のガンプラ選手権のことを思い出したミコトは同時に納得した。
練習試合等でこの時期に調整する事の多い時期だが学生大会はスリーマンセルのチーム戦だ。気軽にガンプラバトルを楽しむ事を目的としたガンプラカフェとしてはチームバトルの門を広く開けるためにカフェに属するガンプラバトルチームを作るのは納得ができる。
「叔父さんはそのチームに私とカイチ、それにヤナミ君を指名したのよね」
「何で俺を指名するかねぇ・・・」
「・・・もっと見たいんだって、アナタのバトルを」
「は?」
「困ったことなんだけどね。叔父さんはお気に入りのファイターを見つけると入れ込んじゃうの」
やれやれと肩を落としながら少しだけ苦笑いをアマネは浮かべる。
「無駄に見る目は肥えてる人をファンにしたんだから、少しくらいは誇ってもいいかもね?」
「勘弁してくれ」
苦笑いを返すとミコトは立ち上がり未だにゴロゴロ転がっている店長を踏みつけて止めた。
「あああああ世界が回転を止めたけど闇に呑まれたままぁぁぁ」
「お楽しみのところ申し訳ないんですが店長」
「これのどこが楽しそうに見えるのかなぁぁぁぁぁ」
「チームの話、受けますよ」
「本当かいっ!? あぁ急に光が戻ってきたけど戻り過ぎてやっぱり目がぁぁぁ」
ガバッと跳ね上がったが再び崩れ落ちるという妙に面白いモーションを見せたところでアマネの元に戻る。気をきかせてくれたのか紅茶が置かれているので一言言葉を投げかけてから手に取る。
「・・・もう少しダダ捏ねると思ったのに。意外」
「ダダっつーな。・・・ま、素直になれってさっき言われてな」
「?」
「んで、チーム名は決まってんの?」
「えぇ、カイチと叔父さんのは聞いてて頭痛しかしなかったから私が考えといた」
予想通りの言葉にミコトは安心感を覚える。下に付くのはとても酷いことになるのは間違いないが対等な相手としてならいい関係を築けるだろう。
「頼むぜリーダー」
「冗談ポイよそんなの。立場を明確に決めるの嫌いだしね」
「そーかい。んで、チーム名は?」
「そうね、チーム名は――」
全てのバトルをより強調する者達――アクセンツ。
★☆★
次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-
「EXシルエット:コマンダント。さぁ行ってみようか!」
「さぁ踊ろうよ! これは楽しいガンプラバトル!」
「物事はスマートに、な」
【Build.08:激闘・強調者と三傑Ⅰ ~切札舞踏~】
「三位一体一意専心、チーム・デルタエースが参る。・・・お覚悟を!」