「とうとうこの日が来たぞ、一夏」
「おう」
「ついに来てしまったな、一夏」
「おう」
「なんか凄いことになっちゃったな、一夏」
「うん」
俺と一夏は、目の前に広がる光景を受け入れることを避けようとしていた。
おう、久々だな『如月あきら』だ。
あれから一週間が過ぎ、とうとうあのセシリア・ハラペッコとの決戦の日がやって来た。
一週間という短い時間ながら、俺たちは基本訓練を行った。
少なくとも、ぶっつけ本番で戦うなんて、原作のようなことはしなかった。
代表候補生のセシリアと比べれば、付け焼刃だけしかないが、それでも無いよりはましだろう。
という事で、いざ俺たちは決戦の場である、アリーナへとやって来たわけだ。
そして冒頭の台詞である。え?一体何が見えてるって?
俺と一夏の目の先には、
『代表候補生セシリア・オルコットVS織斑一夏VS如月あきら ―1組クラス代表戦―』
なんていう垂れ幕が掲げられていたんだからな。
そして、なぜか沢山の学生たちが、アリーナへと長蛇の列を築いている訳ですよ。
あっれー?俺の記憶だと、これは単なる1組内でのゴタゴタだった気が済んだよねー。
正直、些細な問題だったと思うんだー。
で、なんでこんな大掛かりなことになっているんですかねー?
「あきら、これって一体どうなっているんだ?今からやるのは、1組の代表戦・・・だよな?
なんでこんな、まるで一大イベントみたいになってるんだ?」
「俺に聞くな、一夏。正直、俺だって理解出来てないんだよ」
正直、訳が解らない。
隣にいる一夏も同じようで、大きな垂れ幕を見つつ、半ば呆然としていた。
そんな俺たちを見ながらも、後ろから来た女生徒たちが追い越していく。
「二人とも、一体何を呆けているんだ・・・ってなんだこれは!?」
後から走ってきた箒ちゃんも、俺たちの見ていた光景に驚きの声を上げる。
その声に俺と一夏は、ああやっぱり驚くよな、という思いだったに違いない。
単に1組の代表生(委員長)を決めるだけだったはずが、
なぜか一大イベントにまで盛り上がっている訳ですよ。
おそらく、会場へと向かう人数からして、会場は観客で埋め尽くされていると予想できる。
正直、胃が痛くなってきた。
「何でこんなことになったんだろうな」
「そうだな」
まあでも、ずっと立ち止まっている訳にもいかず、もはや退路は断たれている。
そんなわけで、なんとも言えないオーラを纏いつつ、
俺たちはアリーナ(決戦の地)へと進んで行く。
あの、すみません。お願いだから、こっちをじっと見てくるのは止めてください。
お願いだからやめて!ほら見ろ、一夏なんか顔が真っ青になってるんだから!
そんなこんなで、俺たちは逃げるようにアリーナへ駆け込んで行った。
多分だが俺たち二人は、芸能人の気持ちを少しわかることが出来たと思う。
「遅いぞ二人とも」
第三アリーナのピットへと駆けこめば、既に来ていた織斑先生が待ち構えていた。
いつも通りのスーツ姿で、その顔は相も変わらず恐いです。
「まぁまぁ織斑先生、まだ時間は充分にありますから」
隣にいた山田先生が口元を押さえながらも笑う。
そんな中、なにやらピット内がごたついていて、作業服を着た人らが走り回っている。
どうやら原作通り、一夏のISが遅れているようだ。
「研究所の方では、既に送り出されたらしいんですけど、まだこっちには到着していないです」
そういう山田先生の顔は、申し訳ないようにシュンとしている。
「そんな、山田先生が悪いわけじゃないですよ。
でも、まいったなぁ、肝心のISが来てないとなれば、量産機で戦うことになるのか」
一夏がそんな言葉を呟き、少し顔を曇らせる。取りあえず、俺はその頭に向けて手刀を放つ。
「なぁに弱気になってんだよ一夏」
「いや、急に何するんだよっていうか、何言いだすんだよあきら」
俺の手刀を両手で止める一夏に向けて、俺は指を突きだす。
「何事も予定通りなんてことはそうそういかないもんだろ?
そんなんに一々弱気になってんじゃ、勝負する前から負けを呼ぶことになるんだよ」
「???」
頭にクエスチョンマークを浮かべてそうな一夏を見つつ、
俺は突き出した指を握りこぶしに変える。
「泣き言を言うな、弱音も吐くな。付け焼刃だろうがやるしかないんだ。
そして俺たちは勝つ、そのためにここまできたんだからさ」
そして俺は笑う。だって、それしか出来ないんだからな。
「だったら勝ちに行こうぜ、ライバル」
「ああ、そうだな!」
一夏と俺は、互いに笑って拳を突き合わせた。
「ったく、やっぱこのデザインは無いんじゃねーか?」
「そうか?至って普通のISスーツだと思うけど」
「まぁ、俺はあきらの言いたいことはよく解るけどな」
俺の言葉に、箒ちゃんは首を傾げ、一夏は首を縦に振る。
俺はISスーツを纏い、ピット・ゲートへと足を運んでいる。
一体何かと言えば、一夏のISがなにやら遅れているらしく、未だ届いていないのだ。
けれども試合時間を遅らせるわけにはいかないという事で、
急遽、先に俺とセシリア・オルコットの試合を開始することになったのだ。
で、俺はISスーツを着て、試合へと向かっている訳だ。
「それにしてもこれはなぁ・・・」
俺は自分の恰好に溜息を吐く。
身体に張り付くタイプのISスーツは、着心地で言えば水着みたいなものだ。
デザインといい、着心地といい、俺からすれば水着で戦う違和感がある。
下手をすれば下着と言われても違和感がないくらいだ。
ロボットアニメでもこういったピッチリスーツを着て戦うのはあるが、
いざ自分が体験すると、こんな気持ちなんだなぁと思える。
ロボットアニメのキャラクターは、やっぱすげぇ(遠い目)
まあでも、このピッチリスーツは凄い技術が盛り込まれて身体データを常時集積し、
ISにそのデータを送っているとか云々で、拳銃程度なら貫通もしないらしく、
とにかくすごいスーツらしい。
でもやっぱり納得いかねぇ。
「上に制服着てくる」
「いや時間が来てるから駄目だって」
がしりと俺の腕を掴む一夏と箒ちゃん。時計を見れば、試合時間が迫っていた。
が、俺にはそんなのは重要なことじゃない。
「いやじゃー!俺は制服を着るんだー!二人とも放せー!」
「喧しい」
織斑先生に拳骨をくらい、そのままずるずると引き摺られました。
「では、準備は良いですか?」
心配そうに山田先生は俺を見つめている。
あの後、俺は制服を着られるように駄々を捏ね、ISスーツの上から制服を着ることが出来た。
うむ、良好良好。これで気にすることなく戦えるぜ。
「やっぱあきらって変わってるよな」
「うむ」
何故かそんなことを言う一夏と箒ちゃん。
すっごい気になったが、俺は頭を振ってそんな考えを頭から追い出す。
今はそんなことよりも目の前の試合だ。
「『俺の』IS起動!」
そう叫ぶと、俺の身体が何かに包まれる感覚に陥る。
カシリカシリと音を立て、自分の両手が手甲に包まれ、カチャリとかみ合う音がする。
足も同じように、カチャリとかみ合う音が聞こえ、両脚共に包まれる感覚がする。
電子音と共に、自分の視野が広くなり、僅かな色彩さえもより鮮明に見える。
自分の身体なのに、自分の身体じゃないような感覚。
ISと繋がる、いや一つになったような、そんな気持ちすらも感じる。
ピット・ゲート前に置かれている鏡台を見れば、そこには銀色の鎧武者が立っていた。
中身(制服)が見えているから、あべこべ感もあるけどな。
「IS打鉄の起動完了。何も問題はありませんよ」
山田先生の言葉がより鮮明に聞こえる。これがISに備わっているハイパーセンサーの力。
動かした当初は、慣れるのに精一杯で、
小さな音すらもよく聞こえ過ぎて、大きな音を鳴らした際は耳がキーンとしたのは内緒。
センサーを確認すると、俺の周囲360度に渡る視野と、
そのセンサー範囲に存在する個体の識別が表示される。
そして目の前にいるISの情報も。
『IS名:ブルーティアーズ 搭乗者:セシリア・オルコット』
その名前を見た瞬間に、俺の身体が熱くなる。
本来存在するはずのない俺が、ただのモブかもしれない俺が、原作キャラクターに挑める。
周りからすれば無謀かもしれない、蛮勇かもしれない。
俺の中の俺もそう思っている部分がある。
だからどうした
俺は自分を叱咤する。
これから俺は原作という世界に挑むんだ、原作ヒロインと仲良くなるんだ。
そのためならば、どんなことだろうと挑んでやる。そしてイチャイチャするんだ。
それが、この世界(IS原作)に来た俺の理由だ。
俺は無意識に拳を握る。
「頑張れよ、あきら!」
「負けるんじゃないぞ!」
一夏と箒ちゃんの声を、ハイパーセンサーが拾う。
俺は二人の方に顔を向け、ぐっと親指を上げる。
それにあいつ(セシリア・オルコット)は一夏を馬鹿にした。
もちろん、俺は(原作で)あいつがそうなった背景を(一方的に)知っている。
そのことについては、俺が口を出してい良いもんじゃない。
でも、だからと言って一夏を馬鹿にするのは許さない。
何も知らないとはいえ、セシリア・オルコットは織斑一夏を馬鹿にした。
そしてあいつ(一夏)は俺のライバルであり、俺はあいつ(一夏)のライバルだ。
つまり、あいつがバカにされるということは、俺がバカにされるという事。
うん、許せるわけがない。
自分の拳を握りしめる。
俺の感情を読んだのか、それとも電気信号を受け取ったのか、ISに力が籠った気がした。
セシリア・オルコットに証明してやる。俺が・・・いや、俺たちが証明するんだ。
俺たちを馬鹿にしたことが、一体どういうことなのかを。
「如月あきら、行ってくるぜ!」
バカを馬鹿にすると大変なことになるってことをな!