俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~ 作:GJ0083
「たっだいま」
「おっかえり」
「戻ったか」
町での買い物を終えて旅館に帰宅。
庭に降り立ち部屋に入ると束さんが駆け寄って来る。
嬉しい対応である。
それに比べ千冬さんは座ったまま動かない。
これだから千冬さんは。
「私のはどっち?」
「こっち」
「わふー!」
差し出した紙袋を奪う様に受け取った束さんは、もう俺に用はないと背を向けてテーブルに座る。
うん分かってた。
どうせ俺は食べ物を運ぶだけが存在価値ですから。
「お? ミスドーナッツとか久しぶりな気がする。あーむ……うんうん、このライオンリングのモチモチが良いよね~」
でも美味しそうにドーナッツを食べ束るさんを見てるだけでそこそこ嬉しい俺がいる!
束さんのもちもちほっぺにドーナッツが詰まってもちもちぱんぱんに……。
悔しいけど許しちゃう!
「ご苦労だったな。なにを買って来たんだ?」
偉そうながらもちゃんとお礼を言ってくれる千冬さんに涙。
無愛想とか思ってごめん。
俺を労ってくれるのは千冬さんだけだよ。
「ケンタです。バーガーとチキンのセット二つなんで分けましょう。バーガーはチーズとタルタルどっちがいいですか?」
「私はどっちでもいいぞ」
「ならタルタル貰いますね。チキンはノーマルと辛口のどちらで?」
「チキンは何本あるんだ?」
「二本ですね」
「辛口にも興味があるから一本づつ貰おうか」
「了解です。飲み物はコーラとジンジャーエールがあって、お酒はウィスキーとジンとウオッカがありますけどどうします?」
「カクテルを自分で作るのか? カクテル類は明るくないから、なにが合うか分からないんだが」
「どの組み合わせでもそこそこ美味しくなるから適当で大丈夫ですよ。勘で選ぶも良し、気分で選ぶも良しです」
「そうか、ならジンジャーエールとウィスキーを」
「ほいほい」
千冬さんの前にチーズバーガーとチキンのノーマルと辛口、それとジンジャーエールとコーラを置く。
この二人で分け合うのが友達とセット物を頼む時の楽しさだよね。
オリジナルセットを作るのが楽しいのだよ。
自分の分をテーブルの上に出して束さんの隣に腰を降ろす。
「じー」
もっちゃもっちゃ
なんかドーナッツをもちゃもちゃしながらめっちゃ見てくるんですが。
「じー」
顔が近い。
ガムを噛みながらガンつけるヤンキー並みに見てくる。
羨ましいんですか? 羨ましいんですね束さん!
友達同士のファーストフード店でのやりとりだったもんね!
暗い学校生活しか送ってない束さんには羨望の光景だろう。
「なにか?」
「別にー、羨ましいなんて思ってないしー」
答え言っちゃってるじゃん。
二人とも学校帰りに買い食いとか無縁だもんね。
圧倒的上位者が弱みを見せたら、そこを突きたくなるのが弱者って者で――
「千冬さん」
「酒を少しづづ加えながら味を確かめるのは面白いな。ん? なんだ?」
珍しくワクワクした顔を見せる千冬さんにキュンとした。
可愛い顔みせてくれるじゃないか!
「こうやって食べるの楽しいですよね」
「あぁ、悪くない」
ツンデレ風の笑顔頂きました!
ふふふ、この心の中に生まれたこの感情。
これはそう――
「どやぁ!」
超! 優越感!
あの織斑千冬を笑顔にした。
それだけでなんか達成感がある。
なので記念に渾身のどや顔を束さんに披露。
悔しかったら二人で仲良くファーストフード店に行ってみるんだな!
「……殺すか?」
「調子に乗ってまじすみませんでした」
自分自身に問うかの様な静かな口調に思わず本気で頭を下げる。
目が一切笑ってない。
束ちゃんを思い出させる冷たい目だ。
「ねぇ、甘い物を食べるとしょっぱい物食べたくなるよね」
「うん? しょっぱい物ならスルメがありまけど食べます?」
「スルメじゃなくてこっちを貰うよ」
束さんが手を伸ばして掴んだのは俺のチキン。
まさか晩飯だけでは飽き足らずチキンまでやる気かっ!?
「あぐっ」
束さんの歯がチキンの皮にガブリと噛みつき、そのまま器用に皮を剥がす。
こいつ……やってはやらない事を!
あむあむ……ごくん。
束さんは美味しそうな顔で鶏皮を飲み込んだ。
「しー君は知ってるかな? 鶏肉で一番美味しい部分は皮なのだよ」
「知ってるよ! 俺のチキンが無残な姿に……」
残されたのは皮を剥がされたもも肉のみ。
やったね! カロリーが半減以下の見事なダイエット食品に早変わりだ!
いや早変わりじゃねーよ。
皮のないチキンとは美味さも半減じゃん。
「……味気ない」
皮のなくなったチキンを食べてみるが、悲しいかなただの蒸したチキンの味がした。
器用に皮を噛んで剥いだもんだから間接キスって感じでもない。
……虚しい。
「そう言えば神一郎、お前が買い出しに行ってる間に聞いたんだが、子供の束と一緒に過ごしたそうだな? よく無事だったと関心したぞ」
「俺だけ食料を持ってたのがデカかったですね。お陰でなんとかイニシアチブ取れました」
「10歳の束は今と違って問答無用で奪ったりはしないんだな」
「あむあむ」
千冬さんがジト目で睨む中、束さんは我関せずでドーナッツを食べ続ける。
お前の事だぞ。
。
「でも中々楽しい体験でしたよ。個人的には小学生の束さんに出会えて良かったです」
「昔の束は無愛想で攻撃的だった気がするんだが?」
「からかい甲斐のある楽しい女の子でしたよ? 束さんと違ってスレてなくてちょっかい出すの楽しかったです」
「ってしー君は言ってけど、実際は結構危険だったよ? 子供の私、マジでしー君を殺そうか悩んでたもん」
「それはアレだ、飢えによる生存本能的なものでは?」
「うんにゃ、パンツ見せろって言った時とかだね」
そりゃ殺意抱くよね。
でも俺は悪くない!
あれは束ちゃんからイニシアチブを取るのに必要な工程だったんだよ!
ところで“とか”なんだね。
束ちゃんが何度俺に殺意を抱いたのか気になるところではある。
「パンツがどうした?」
「しー君が子供の私に食料が欲しければパンツを見せろって」
「事実だけど言い方に悪意を感じる」
「……お前」
千冬さんから今世紀最大のゲスを見るで見られたぞい!
まぁ確かに? 小学生相手にそんなセリフを言ったら犯罪だよ?
でもさぁ――
「相手は束ちゃんだよ? 多少強気に攻めないとこっちがやられるじゃん。人間のマウント合戦は隙を見せた方が悪い。それに言っただけで見てないし」
「……それもそうだな。子供とはいえ相手が束ならセーフか」
千冬さんはすぐさま許してくれた。
だよねー、束さんならセーフだよねー。
「そんな!? ちーちゃんはしー君の所業を許すって言うの!? ご飯の度にコスプレを強要したんだよ!?」
「お前はいつも珍妙な恰好をしてるじゃないか」
「でも小学生の私だよ!?」
「小学生の時から珍妙な恰好してたじゃないか」
「……そだね」
グーパングーパン! 無言のグーパン!
千冬さんに言い負かされた束さんが無言で俺の肩を殴る。
人の事をどうこう言うクセに八つ当たりはするのね。
「あぐぐ!」
そんで自棄食いもするのね。
最後のフライドチキンの皮も持ってかれた!
お前なんてドーナッツと鳥皮のコンボで太ってしまえ!
「ご馳走様。こういった飲み方も悪くなかった。たまにはいいな」
缶酎ハイとか市販のお酒は間違いなく美味しいが、たまにはこんな風に雑に作って飲むお酒も美味しいものだよ。
たまーにやりたくなる中毒性がある。
「私もご馳走様でした。さて、まだまだ宵の口だけどこれからどうする?」
時計を見ると時刻はまだ21時前。
大人にはまだまだ活動時間だ。
てか社会人はここからが本番だよねー。
前世の友達となら温泉旅館でやる事と言えば麻雀一択なんだが、この二人は出来るのだろうか? いや、仮にルールをしっていても真っ当な麻雀になりそうにないから却下だな。
この二人だけ咲の世界を実現させそうだし。
……逆に有りか?
ちょっと見てみたい! だが残念ながらこの宿は麻雀牌の貸し出しはやってないのだ。
静かさを売りにしてる隠れ家的な宿だから仕方がないね!
「私はもう一度温泉かな。せっかくの内風呂なんだし楽しみたい」
「お供に冷酒はいかがです?」
「頼む」
はいよろこんでー!
貸し切り風呂と言えばお盆に乗せた冷やした日本酒。
夜空を見ながらくいっと一杯。
絶対に美味しい!
さてさて、来る途中で寄った道の駅で購入した日本酒飲み比べセットをバックから取り出す。
三種類の日本酒が小瓶に入ってるやつだ。
旅行先でよく見るタイプの土産だが、これが結構好きなのだ。
冷やすのすっかり忘れてたぜ。
冷凍庫で30分くらいか。
「千冬さん、温泉入りたい率どれくらいです?」
「90%だな」
後10分も待てないと。
なら裏ワザだな。
テーブルの上にタオルを敷きそこに日本酒を並べる。
「タバゴン! 君に決めたッ!」
「たばたば~!」
「タバゴン! 冷凍ビーム!」
「たばばーっ!」
日本酒に未だ原理が不明な謎のビールが当たる。
するとピキピキと音を立てて瓶が凍り付く音が聞こえた。
「よしよし、もういいぞ」
「たば~♪」
タバゴンの頭を撫でて褒めてあげる。
常に今の状況を維持しくれたらお兄さん嬉しいぞ。
「これで日本酒の準備はオーケー。辛口が二種類と甘口がありますけどどれにします?」
「……全部はダメなのか?」
「俺の分に一本は残してください」
気持ちは分かるよ? 飲み比べセットだもん、全部飲みたいよね。
小瓶で量も少なめだし。
だが全部は許さん!
俺だって露天風呂で冷酒を飲みたい!
「なら辛口と甘口で」
「了解。辛口はどっちでもいい?」
「先に選んでいいぞ」
ならお言葉に甘えて。
俺はこの『雲竜』にしようかな。
端麗辛口で後味がフルーティー。
今から楽しみだ。
くいくい
束さんが俺の袖を引っ張る。
「あのさ、察するにしー君も温泉入るの?」
「それはまぁせっかくの貸し切り露天風呂ですし、千冬さんの後に入りますけど?」
「入るの? 私とちーちゃんが入った後の温泉に――」
さよならタバゴン、お帰り天災。
可愛い束さんは一瞬だったな。
今は暗い瞳で俺を睨む天災が居るだけだ。
「俺が入る事になにか問題が?」
「は? 問題しかないが? だってしー君――――私とちーちゃんが入った後のお風呂のお湯飲むんでしょ!?」
「……脳ミソ沸いてんの?」
入浴後のお湯を飲むとかさ、昨今エロゲでもないよ。
企画モノのAVで、笑い所のシーンとしてあるかもレベルだよ。
「だってしー君、変態的嗜好の持ち主だし」
「俺、束さんと違って千冬さんの残り湯とかに興味なんいだけど?」
「ふっ、そんな戯言を信じるとでも?」
やれやれと首を振る束さんにイラっとしますよ。
自分が興味があるから、他の人間も興味があると思っているのだろう。
確かに? 美少女が入った後のお風呂の残り湯って単語にトキメクものはある。
そこは否定しない。
でも正しくはない。
正確には“(非実在)美少女の残り湯”だ。
「いいか良く聞け。……リアルのお風呂の残り湯とかただの汚水だろーがッッッ!」
「ただの汚水っ!?」
「お風呂に浮いてるアカに髪の毛、その他諸々の排泄物! んなもん汚いだけでしょーが! アニメのヒロインの入浴シーンでお風呂にアカや髪の毛が浮いてるシーンがあるか? いやない! だってゴミが浮いてたら汚いからだ! 残り湯にドキドキするのはな、老廃物が出ないアニメヒロインだけに許された特権なんだよ! 実在系ヒドインは黙っとれ!」
「ちーちゃーん! しー君が長文で怒ったー!」
俺の超正論で論破された束さんが涙目で千冬さんに抱き着く。
まったく、残り湯に興味があると思われてるなんて心外だ。
非実在美少女を用意してから言って欲しい。
……束さんの残り湯って、アカとか髪の毛が浮いてたりしないそうな気がするよね。
ちょっと期待してます。
「ところで束」
「なぁに?」
「お前も一緒に入る気か?」
「……入らない選択肢はないよ?」
「――そうか」
千冬さんを自分に抱き着く束さんを見た後にこっちに視線を寄こし、少し考えで大人しく受け入れた。
だぶんここで突き放して俺に押し付けるか葛藤したな。
そして温泉前にひと悶着起こして面倒な事態が起こるのを嫌がって受け入れたと見た。
「じゃあしー君はこっちね」
束さんは押し入れを開けて俺に入れと促す。
入れと? まぁ理由は察せるけど、出来るだけ幼い顔、幼い声を意識する。
「なんで?」
「着替えるからに決まってるじゃん」
可愛く首を傾げて無垢な小学生を演じてみたけど、あっさり受け流された。
残念。
「千冬さん」
「こっちに振るな。私は早く温泉に入りたんだ」
「千冬さんてさ、俺に裸を見られる事に抵抗はないですよね? 世間一般のルールや倫理観に配慮してるだけで、別に見られても何も感じないでしょ?」
「いや? 普通に嫌悪感を感じるが?」
「そして束さん」
「今度は私かー。よぉし来い!」
「束ちゃんがそうだった様に、束さんからそこらの人間なんて路傍の石だよね? なんで今更普通の人間のフリしてるの?」
「それはしー君が友達だからだよ。私は友達に肌を見せて喜ぶ性癖はないのです」
「つまり二人とも肌を見られて赤面する様な可愛い性格をしていない。だから俺が隠れる必要もない。オーケー?」」
「返答を無視して突っ走るな。答えはNOだ。束、やれ」
「あいさー!」
むんずと首を掴まれて浮遊感に包まれる。
浴衣は首えりを掴みにくいのは分かるけど、直接首を掴まなくてもいいじゃない。
「とぉー!」」
「んごがッ!?」
「すとらーいくっ!」
束さんに投げ飛ばされて押し入れにゴール!
こっちが骨折してるの忘れてまいか?
パトンと音を立てて襖を閉められる。
「やっと温泉に入れるな」
「ちーちゃん、お着替え手伝おっか?」
「大人しくしなければお前も神一郎と同じ場所だ」
「了解であります!」
キャッハウフフとしたやり取りと服の擦れる音が聞こえる。
暗闇の中で聞くとこれはこれで楽しいな。
「おりょ? ちーちゃん少し痩せた? 脂肪は大事なエネルギー源だから絞り過ぎは逆に弱くなるよ? 今のちーちゃんなら7分戦えば私が勝つね。あ、でもこのおっぱいの脂肪をエネルギーに換えれば逆転できるかも」
「忙しくて食事がおざなりになってるからな。それと背後から揉むな」
「……乳首が硬くなってきたね」
「ふんっ!」
「んごっ!? ……おごごご、ちーちゃん脳天に肘はやめて。私でもギリギリな威力だったよ今の」
「馬鹿を言ってないでお前も脱げ」
「んー? 私の裸に興味があるの? しょうがないなーちーちゃんは。見よ! ちーちゃんだけが見れるこの世界最高の裸体をっ!」
「お前、少し太ったな」
「んなっ!? いくらちーちゃんでも言って良い事と悪い事が――ッ!」
「自分でも気付いてるんだろ?」
「えぇ気付いてますとも! おっぱいとお尻周りにの肉付きが良くなって下着のサイズ変わったもん! なにもかもしー君が悪い! しー君と関わると色々と食べたりするんだもん!」
「怒る事じゃないだろ。昔に比べて健康的な体形になったと思うぞ。肌艶も良いしな」
「え? 急に褒めるなんてどうしたの? びっくりしてキュンとしたよ」
「これも神一郎のお陰だな。アイツが色々と世話を焼いたお陰だろう」
「……そうだね。しー君と遊んでると色々食べる機会が多いから、学生時代に比べれば食べる様になったね。でもちーちゃん、私だってたまには正面から褒められたい乙女心があるんだよ?」
「ちゃんと褒めたじゃないか。ほら行くぞ」
「ちーちゃんのいけずー!」
足音が遠ざかって行き、外に通じる引き戸が開いた音が聞こえた。
もう行ったかな?
覗こうか悩んだが、よく我慢した俺!
そしてナイスてぇてぇ!
もっと二人の会話を聞きてぇなぁ!
なので窓ガラスにピタッと耳をくっ付ける。
湯舟が設置してあるのは庭の左端。
窓に張り付いても部屋の中からでは死角なので二人の姿は見えない。
だから安心して盗み聞きできる!
さぁさぁ! 俺にもっと萌えをおくれ!
「ん? 神一郎の気配が近いな」
「ホントだ。しー君が押し入れから出て最初にやる行動は……こっちの会話を聞くために窓に張り付く……かな? ぷすす、想像しただけで情けない姿」
おん?
「ふむ、確かに気配は窓際に近いな。お前の言う通りだろう。盗み聞きとは情けない真似を」
「まぁ盗み聞きくらいなら許してあげようよ。覗きをする度胸がない童貞が必死になって窓ガラスに張り付いてるかと思うと少しは優しく……うん、可哀そうで優しくなれるよね。本当に哀れ」
おんおん?
「そこは覗きをしない紳士的な男だと思えば……盗み聞きも似たようなもんか。ただの根性なしだな」
おんおんおん?
なんーんで喧嘩売られてるんですかねぇ?
確かに盗み聞きなんて褒められる行為ではない。
だけでそこまで言われる筋合いなくない?
二人とも勘違いしている。
俺はオタクとして百合を愛でる者だ。
それは間違いない。
だが同時に童貞でもある。
それも間違いない。
だけど童貞が大人しい草食系だと誰が決めた?
売られた喧嘩くらい買いますが?
善は急げで戦う準備を始める。
ツマミのスルメと貝ヒモ。
それに日本酒とビールを持って外に出る。
「む?」
「あらま、挑発したから出て来たのかな?」
入浴中に男が現れてもこの反応よ。
男前過ぎる反応だが、視線を横に向けた瞬間に死が確定するので、真っ直ぐ前を向いたまま歩く。
湯舟の横、3メートルくらいの場所でシートを敷いて腰を降ろす。
この位置なら例え二人の方を向いても、顔しか見えない。
拡張領域からアウトドア用のカセットコンロを取り出して網を乗せる。
「あれって何してるんだろ?」
「私にはスルメを焼いてる様に見えるな」
「うん、それも含めてナニしてるのかなって」
俺の行動が気になるかい? 気になるだろうねぇ!
なに、ただスルメを焼いてるだけだから気にするな。
「束さん、そっちはどうな感じ?」
「うん? 最高だけど? 今の私はねー、なんとちーちゃんのおっぱいに頭を乗せて夜空を眺めてるのです!」
「酒が飲み難いからどけて欲しいんだが」
「断ーる!」
千冬さんにしては寛容だな。
しかし羨ましい。
千冬さんのおっぱいに頭を乗せて優雅に入浴とか、石油王でも出来ないだろう。
冷えて澄んだ冬の空気、山奥だから見える満天の星空。
そして千冬さんのおっぱいクッション。
前世でどんな善行を積んだんです?
でもそんな奇跡な時間は終わりです。
「とても素敵な時間を過ごしてる様でなにより。で、なにか気にならない?」
「唐突に現れたしー君の存在と焼いたスルメの匂いが気になるかな!」
「だよね。でもこの行為にもちゃんと理由があるんですよ」
「ほー? くだらない理由なら真っ裸で山ね?」
いやー、この澄んだ空気に混ざるスルメの匂いがなんとも言えないよね。
あ、この日本酒うまぁ。
帰りに瓶で買おう、当たりだわ。
ところで小学生を裸に剥いて冬の森に放置は流石にしないよね?
本気でやりそうな恐怖はあるけど、ちゃんとした理由があるから大丈夫!
「束さん、俺には人に言えない闇があるんだ」
「それ、聞かなきゃダメ?」
「他人に言ったら炎上は必至、だから誰にも言わずにいた」
「あ、問答無用で聞かされるやつだこれ」
「だがそれを敢えて今言おう。――ねぇ、同性愛者って応援しなきゃダメなの?」
「なんかすんごいことぶちまけてきたっ!?」
昔々のお話だ。
夜、何気なくテレビを付けていたら同性愛者のドキュメンタリー番組が流れた。
そこにはマイノリティな人間に対する世間の冷たさ、同性愛に対する不理解への嘆きを語るカップルが――
カミングアウトしたら親に泣かれた。
友人に縁を切られた。
会社を辞めさせられた。
なんて悲劇を語るのだ……隣に座る恋人の手を握りながら。
それを見た瞬間、俺の中に何故か怒りが湧いた。
自分でも理解できない怒り。
もしかして無自覚にアンチ同性愛者かと思ったが、それは違う、
だって自分、他人の性癖とかどうてもいいと思ってる人間だから。
雄っぱいが好きだろうが雄しりが好きだろうが、それが他人の性癖ならどうでも良くない?
ロリ巨乳の是非についてスレで議論するならともかく、それを現実でやるのはちょっとね、って感じだ。
だがどうしてもどちらか選べと聞かれれば、むしろ賛成派。
だって反対派になるとナルシストっぽいじゃん。
まずは鏡を見る。
そんでもって自分に聞いてみる。
『俺、ホモやゲイから見ても良い男か?』
答えは分かるな?
うん、当たり前の事だけど、同性愛者にも選ぶ権利がある訳で――
これで同性愛反対とは言えませんわ。
でも何故かテレビの同性愛者に怒りを感じる。
考えて考えて――答えは出た。
「まじアレなんなの? 人生が大変? 周囲に敵が多い? 共に人生を歩いてくれる最愛の人が隣に居るのに不幸面してんの? 喧嘩売ってるなら買うが?」
――リア充に対しての怒りでした。
「いやそれを私に言われても……」
「後さ、同性婚を認めろとか騒ぐ奴らなんなの? 例え法的に認められなくても、この広い世界でパートナーが見つかる奇跡がどれだが凄いか理解してる? もしかしてリア充って更に幸せを求めなきゃ生きていけないの? 一度幸せを覚えると更に欲しがる人間の醜い一面が見れて嬉しいよ。だから別に同性婚賛成の署名にサインしなくていいよね。だって醜い人間の欲望を満たす為の応援なんてする必要ないし」
「いやそもそも同性婚を認めない理由が差別から来てるからであって――」
「差別? ほーん? じゃあ、愛するパートナーの手を握りながら童貞の前で不幸自慢する理由って?」
「別に童貞に対して言ってる訳じゃないと思うけど……」
「束さん、嘘偽りなく答えて欲しい。周囲から差別されながらも共に茨の道を歩いてくれる恋人が居る人間と、一度も愛された事がない人間、どっちが可哀そうかな?」
「……後者………かなぁ?」
「だよね。なら童貞の俺が同性愛者のリア充を妬み、嫉み、僻んでも許されるよね?」
「……許される………かなぁ?」
はい許可が出ました。
童貞がリア充同性愛者に怒りを覚えるのはセーフ!
「昔言ったけど、俺は束さんと千冬さんの絡みを見るのは好きだよ? うん、百合畑を美しいと感じる気持ちは確かに存在する」
「ならどうして今此処にいるのかな?」
「ここまで聞いたら理解してるでしょ? 男として! 一人の童貞して! お前らの百合自慢にムカッときたからだよ!!」
「まさかの裏切りだとぉ!?」
「おい! 私を一緒にするな!」
静かな夜の森に木霊する二人の叫び声。
てぇてぇさん生きてますか? ……返事がない。
死んでますねこれは。
お前たちが悪いんだぞ! ただてぇてぇするだけならともかく、童貞の俺を挑発したらお前らがな!
「いいね! 楽しい! さっきまで幸せ百合カップルしてた人間がアホ面晒して叫んでる姿は最高に楽しい!」
二人の反応に酒がうめーぜ!
なーにがおっぱいに頭を乗せながら入浴だバーロー!
そんなもん羨ましいに決まってるだろうがッ!
「ちなみ俺は百合を楽しむ心は失っていないので、空気を戻したければどうぞ。どう転ぼうと俺は楽しめる!」
「光と闇が混ざり合って最強って今みたいな状況なんだね。初めて知った」
「応援も邪魔も楽しめるからね!」
「最悪だ! ここまで邪悪な生き物見た事ないよ!」
「お前は鏡見ろ。神一郎、百合でもなんでもいいから静かにしてくれ。私は星空を見ながら温泉と日本酒を楽しみたいんだ」
「ちーちゃんが酷い。でも静かにするのは賛成! しー君はちょっと黙ってて!」
「へーい」
俺の返事を皮切りに平穏が戻る。
流れる温泉の音だけが聞こえ、神秘的な空気が戻る。
こういう嫌がらせは緩急が大事だからね。
地べたに横たわって見上げる冬の星空のなんて美しい事か。
心が洗われるよ。
くっちゃくっちゃくっちゃ
焼きたてのスルメうめぇー!
「よし殺す! あのお邪魔虫をプチっと潰してやる!」
「落ち着け束! 素っ裸で外に出る気かッ!?」
「離してちーちゃん! あのクチャラーを殺すんだ!」
ざぱぁと水が大量に流れる音と千冬さんの焦った声。
もしかして束さん、立ち上がってる?
首を少し横に向けるだけで裸体を拝めちゃう?
これはもう誘われてると言っても過言じゃないな。
だって立ったら見られるって理解してるだろう。
なのに立つって事はその覚悟があるって事だよね。
「ほら見ろ神一郎の顔を。あの顔、お前から近付いてきたら見えちゃっても事故だよな? そんな顔してるぞ」
「なら暮桜の雪片貸して! 記憶が残らない様に脳ミソを細切れにしてやる!」
「私のISに血の味を覚えさせるな」
「むー!」
地団駄踏みながらほっぺを膨らませてる姿を余裕で想像できるぜ。
今すぐ横を向きたい!
もう見ちゃおうか? 千冬さんが居るから最悪半殺しで済むだろうし、いっちゃってもいいのでは?
「じゃあここから動かず排除する! ――ふんぬっ!」
「おごぱぁっ!?」
こめかみに衝撃を受けてゴロゴロと地面を転がる。
な、なにが……
「ほう? 良い威力だ。体格の小さい神一郎が相手とはいえ、ただの水だけで転がすとは」
「ちっ! こっちを向いてたら目に当ててやったのにっ!」
水? もしかして水を飛ばした?
くらくらする脳ミソは思考は出来るが体が動かない。
あ、思考も遠くなってきた。
せめて温泉の方に向いて倒れたかったよ。
だがこれだけは言わせてくれ。
「……魚人空手は卑怯でしょ…………ぐふっ」
※主人公が同性愛者の対して色々言ってますが、ただの嫉妬です。同性愛者の方は鼻で笑いつつ受け流してください。
し「一人の童貞としてお前らのてぇてぇを殺す」
た「撃水!」
ち「温泉くらい静かに入らせろ」