俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~ 作:GJ0083
いなんだかんで見てなかったから全話一気見したんだけどさ。
四期に出てくる敵女幹部、文系メガネゴスロリでツボだったんだけど――
気持ちい事大好きなTS快楽主義者ってマ!?
やっぱ5期もやってるアニメの闇はすげーわ。
「おーい」
ぺしぺしと頬に当たる感触で目を開ける。
横向きだった体をごろんと転がし仰向きになと夜空が見えた。
綺麗な星空だなー。
「おはよ」
「どれくらい寝てました?」
「30分くらいかな。このまま放置でも良かったんだけど、凍死されたら困るから起こせってちーちゃんが」
「そかー」
視界の半分が束さんの顔で埋まる。
この寒空の下に30分か。
お陰ですっかり体が冷えちゃってるよ。
千冬さんに感謝。
「そいっ!」
「甘いっ!」
くっ、起き上がりを利用したヘッドバットが避けられた。
この程度の不意打ちではダメか。
「もうしー君てばお茶目さんなんだから。脳を揺さぶられたばかりなんだから急に動いちゃダメだよ?」
優しく怒りながら手を刺し出してくれる束さん。
その手を握り立ち上がる。
対応をミスったらどうなるか分からんな。
「てへっ☆」
舌を出してお道化てみる。
……どうだろ? 可愛くてへっできたかな?
「お風呂上りの時だけに使える秘儀! 束式鞭打っ!!」
「いったっー!?」
べチンと浴衣の上から濡れた髪で叩かれる。
対応をミスったら鞭とか鬼畜過ぎでは!?
「髪は女の武器っ!」
「誰も物理的な意味で使えとは言ってないよ!? いたッ!?」
何度も何度も濡れた髪で叩かれる。
意外と痛いんだなコレが!
「よし、これくらいで許してあげよう」
「それはどうも」
これ絶対に跡になってるよ。
「あ、髪乾かします?」
「ん? それはちーちゃんにお願いするからいいや」
「……そうですか」
いつもは俺の役割なのに……とつい思ってしまう。
まさかこの俺がジェラシーを感じてるだとぉ!?
なんて少しふざけてみるけど、実際マジで『えっ?』って思ってしまった。
くそ、俺の仕事なのに!
「んな訳で私はちーちゃんにグルーミングされてくるから、しー君は温泉にでも入ってればいいよ」
グルーミングって、それペット的な意味合いになるけどいいのかな?
愛情表現の意味もあるから、きっと望むとこなんだろう。
取り敢えず束さんは置いておいて温泉にでも入ろうかね。
「ねぇ束さん」
「んー?」
「湯船に温泉がなんですが?」
「そだね。しー君は興味ないって言ったけど、一応全部抜いておいた」
「そっか」
湯舟を覗き込むと水位が10㎝程だった。
木製の水路から流れる温泉が湯舟を満杯にしようと頑張っている。
女湯の温泉全部抜くは許されざるだよ!
「衛生的で嬉しいでしょ?」
「うぇっす」
やる気がなくなって適当な声が出てしまった。
色々言ってしまったけど、束汁と千冬汁に浸かってみたかった男心は少しはあったのだよ。
「んじゃ私はちーちゃんとラブラブグルーミングしてくるから! しー君はごゆっくりー」
束さんが部屋に戻り一人庭に取り残される。
服を脱いで湯舟に入るが、お尻と足しか暖かくない。
上半身に冷たい風が当たり寒さに身を震わせる。
寒い……身も心も寒いよ。
でも大丈夫。
だって俺、着替え忘れたから。
二人が良い感じの雰囲気になってる時に、バスタオル取りに裸で部屋に戻るしかないから!
どんな反応するのか楽しみだぜ!
「隠したら? その粗末なモノ」
「戻ったか」
素っ裸の俺を出迎えた二人の反応はあまりに冷たかった。
ビール片手にほろ酔い顔で夜のニュース番組を見る千冬さんと、その膝に頭を乗せながら鼻で笑う束さん。
世界を代表する二大女傑に乙女な反応を期待したのが間違いだった。
「着替えを忘れたので仕方がないんです」
「その割には堂々とした出で立ちだったけど。まぁしー君なんてどうでもいいや。ちーちゃん! 手が止まってるよ!」
「国会議員が会議中に居眠りか……昔は気にしてなかったが、税金を払う側になるとイラっとするな」
「ちーちゃんの頭の撫で方って時々の機嫌で変わるよね。ガシガシと強めに撫でられるのもまた良し!」
千冬さんがニュースを見ながら適当に束さんの頭を撫でる。
テレビを見てる時に寄ってきた犬猫に対するベテラン飼い主の貫録だ。
「せめてバスタオルくらい投げてくれません? 水を滴らせながら外に立ってる子供が居るんですよ?」
ちなみに俺はまだ部屋の中には入っていない。
流石に宿で濡れたまま部屋に入るのはマナーがね?
決して束さんの冷たい目に怯んだ訳ではない!
「ん? そうだな。束任せた」
「えー? しー君の為に今の幸せを手放すのはないよ」
「このまま抱き着くぞ。千冬さんの温もりが消えるくらいびちゃびちゃにしてやる」
「しょーがないなー。えーと、しー君のバスタオルは?」
「そこのタオル掛けに掛かってます」
昼間に温泉に入った後に乾かしておいた。
窓際だから俺から二メートル程度の距離なんだけどね?
自分の家なら歩いて取るけど、このお高い宿ではしたくないのさ。
「ねぇしー君」
「はい?」
「私の幸せをわざと邪魔するなら冷凍ビームね」
「……おぉ! よくよく考えれば自分でどうにか出来そうでした」
はいISを展開してー
はいバスタオル掴んでー
はいまた外に出る
「全身装甲型はこういった時便利ですよね」
「よろしい」
ちっ、そう簡単には釣られないか。
今の束さんは簡単には動かないだろう。
この場は一時撤退だな。
もっと場が熟成し、壊し甲斐のある雰囲気になるのを待とう。
だって束さんはともかく、千冬さんが仕事終わりのお父さんなんだもん。
風呂上がりの晩酌中にゴールデンレトリバーに絡まれるお父さん。
なんで放置で。
俺は一夏の所にでも遊びに行こうかね。
「ってな訳で、千冬さんがおっさんモードで暇だから遊びに来たぞ」
「いらっしょい神一郎さん」
「……いらっしょい」
笑顔の一夏とぶっきらぼうなリン。
対照的ですなー。
だが俺は恐れる事なく部屋にお邪魔するぜ!
「二人は何してたの?」
「トランプです。大富豪してました」
「二人で大富豪かよ。俺も混ぜて」
「もちろんですよ」
そう嫌そうな顔をするなよリンちゃん。
俺は恋する乙女の味方だから。
束さん? 乙女じゃないからセーフ。
「そうだ一夏。大富豪と貧民のカード交換はなしにして、ビリは罰ゲームにしようよ」
「罰ゲームですか?」
「罰ゲームって言っても簡単なやつね。腹筋とか恥ずかしいポーズとか」
「まぁその程度なら。鈴はどう思う?」
「ふーん、面白そうじゃない」
リンと一瞬のアイコンタクト。
内容は――
(分かってるわよね?)
(任せろ)
である。
三人仲良く畳の上に座り一夏がカードを配る。
一夏ってば簡単に受けちゃって。
この場は二対一ぞ!
「アガリです」
「シン兄」
「……すまん」
ゲームが始まって数分、一夏が勝った。
運ゲーだから仕方がないネ!
ウノみたいな妨害とかないし。
「で、更にすまんリン。俺もアガリだ」
「ぐむむ」
⑧斬りからの階段で不要カード排除からのトリプル連打。
綺麗なアガリ方だわ。
「まぁまだ初戦だしね。これからよ。さぁ一夏! 命令しなさい!」
ルールとして、大富豪が命令する事になっている。
一夏はどんな命令をするのかな?
「え? じゃあ……腕立て10回?」
「なんでお前はそう面白味がないのかっ!?」
前にゲームをやった時もそうだったが、一夏には圧倒的にエンターテイナー気質が足りない!
生真面目過ぎるんだよなぁ。
「いやだって他になにをさせればいいか分かんないし」
「もういいわよ一夏。腕立て伏せを10回ね。簡単でいいわ」
リンがさっさと腹筋を始める。
そうだな、早く終わらせて次のゲームに行こう。
俺が罰ゲームの見本を見せてやんよ。
「1、2、3――」
「っっっ!?」
「……おう」
一夏が声を出しそうになったが、慌てて自分の手で押さえた。
あのですね、リンさんは浴衣姿なんですよ。
浴衣ってほら、胸元のガードが甘いじゃないですか。
しかもリンさん、ゆったりしたシャツを下に着てるみたいなんですよ。
つまりですね、腕立ての体勢だと……色々見えちゃってるんです。
俺からはせいぜい胸筋くらいまでしか見えないけど、正面に居る一夏には全部丸っと見てるんじゃないかな?
ナマ言ってすみませんでした。
一夏さんがラッキースケベ有りのハーレム系主人公だって忘れてました。
クソ童貞が分かった様な事を言って申し訳ありません。
「あの……鈴」
「7、8――なによ」
「……なんでもない」
一夏は悩んだ末に口を閉じた。
言わない方が良い事もあるさ。
リンは……まぁドンマイ。
一夏の記憶に忘れられない記憶を刻んだって事で。
「9、10っと。はい終わり」
リンが姿勢を直すのを無言で見守る男二人。
一夏と視線が交差する。
そんな怯えた顔するな。
言わないさ。
俺の方にもとばっちり来そうだしね!
「それじゃあ次のゲームにするわよ! いいわね!」
「……はい」
「……うす」
「なんか反応が変ね。なにがあったの?」
「「別になにもないよ」」
リンを正面から見れない男が二人。
束さんなら喜んで見るんだが、流石に小学生相手には罪悪感が酷いわ。
「カード配るわよ」
カードを配るのは負けた人間。
リンが配るカードを開けてみると……これは勝ったな。
「革命!」
「残念革命返しだ」
「げっ!?」
「ナイスシン兄!」
「序盤に強いカードを出し過ぎた。革命狙いがバレバレだぞ」
カードが互角ならプレイングで負ける訳ねぇ!
そんなこんなで手持ちが弱いカードで揃ってる一夏が勝てる訳もなく。
「はいアガリ」
「シン兄に負けちゃった。はい9のトリプル」
「パス」
「5のダブル」
「9のダブル」
「13のダブル」
「パス」
「4」
「5」
「2」
「パス」
で、二人の戦いが続き――
「アガリよ」
「くっ、革命を狙い過ぎたか」
順当にリンが勝った。
三人だから革命しやすいが、革命返しを注意するべきだったな。
「んじゃ一夏は罰ゲームな」
「お手柔らかにお願いします」
「キス顔して」
「……へ?」
「キス顔」
「きすがお?」
革命が失敗したら死あるのみ。
残念だけど、ちょっと精神的に死んでもらいます。
なーに、リンの胸を見たんだから収支プラマイゼロだろ。
「そんなに難しく考えなくていいよ。目を瞑って唇を尖らせるだけだから」
「ぐぐっ……分かりました」
一夏が素直に目を閉じて唇を尖らせる。
恥ずかしのを堪えてる姿もグット!
リンが鼻息荒くしながら一夏に顔をガン見してる。
お客さん、うちは見るだけだよ?
でも写真撮影はオッケー!
流々武ヘッドカモン!
「ふーん、一夏のキス顔ってこんな感じなんだ」
リンが静かに近付いてジロジロ一夏の顔を見回す。
ドスケベおっさんの顔……いやなにも言うまい。
「鈴、頼むからあんまり見ないでくれ」
「それは無理な相談ねー」
「くそぉ」
一夏の更に赤くなる。
これは売れるッ!
今の所は売る気はないけど! こんな写真表に出したら流石の一夏も怒りそうだから売らないけど!
でも束さん相手にやらかした時の切り札にはなるな。
「よし、もういいぞ」
「やっと終わりですか」
一夏が目を開ける寸前にリンが慌てて距離を取る。
良いもの見れたかな?
グッ!
力強い親指どーも。
これで少しはリンに楽しめてもらえたかな。
「次こそは勝つ!」
「勝つためにはまずカード配らないとね。はよせい一夏」
「うす」
一夏がカードを配りゲームが始まる。
二人とも勝負に熱くなってきたな。
リンの場合は若干炎の色が黒いけど。
「しかしあれだ、こうして集まる事もこれからはそうないかと思うと少し寂しいな」
「えっ? もう旅行とかしないんですか?」
「だって俺、中学生になるし」
「シン兄、中学生になるからってどうしてそうなるのよ」
カードを配りながらの他愛無い雑談。
よくある光景だ。
だがまだまだ甘い。
俺の話に食い付いたせいで、ゲームへの集中力が切れてるぜ?
「年の差がある友達グループが解散する理由に多いのが進学なんだよ。なぜなら中学では部活動が始まるからだ」
「部活に入るとそんなに変わるんですか?」
「変わるね。めっちゃ変わる。まず生活リズムが部活中心になるから休日に遊んだりしなくなる。部活が終わる時間は部によって異なるから帰りも一緒にならない。土日も部活して終わったらそのまま遊びに行くパターンになるから、遊ぶ相手が大抵は部活仲間になるな」
「部活ねー。なんか想像できないわ」
「柳韻先生の剣道教室がもっと身近になる感じかな?」
「剣道教室と違って部活は週7だ。部活に入ると私生活がそれに染まるから、小学生の友達と遊ぼうって選択肢が本当になくなるんだよ」
「それは少し寂しいですね」
「なんだかんだで学校帰りに会ったりするから、そういった機会がなくなるのは確かに寂しいわね」
これは割とマジな話。
俺も生前は歳の差がある友達が居た。
近所の年上のお兄さんや年下の後輩だ。
学校が終われば集まってゲームをし、休日は釣りに行ったりと楽しんだ。
でも進学と同時にそれは終わった。
いや顔が合えば話すし、仲違いした訳でもないけど、付き合うグループがまんま部活仲間になるんだよね。
ネット環境が充実してる都会なら夜に集まってオンラインゲームとかして、付き合いが切れないのかな?
地方じゃ進学からの疎遠はあるあるだと思う。
「だからこれからは今以上に遊ぶ機会はなくなると思う。ほい、階段」
「パス。神一郎さんの言い分は分かりますけど……正面から言われると悲しいんですが?」
「パス。ほんとそれ。シン兄さぁ、もう少し配慮があっていいんじゃない。なんか雑に扱われてる様でイラっとするわ」
「4のトリプル。でも急に付き合いが悪くなるってのも嫌だろ? だから先に言っておこうかなと」
「7のトリプル。前々から思ってましたけど、神一郎さんて気の使い方が変な時がありますよね」
「9のトリプル。まぁこっちは別にシン兄に会えなくて寂しいとかはないからいいけど……年に二回くらいは顔が見たいわ」
夏休みと冬休みは一夏と旅行に行く計画を立てろって事ですね!
了解であります!
……便利に使われてる感が酷いけど、恋する乙女に逆らう勇気は俺にはないのだ。
それにもし断って泣かれても困るし。
「そんな訳でアガリな」
「はやっ! 神一郎さんに勝てないなぁ」
「なんとか罰ゲームだけは回避したいわね。5のダブル」
「8のダブルで切る。そして階段」
「パスよ」
「よし、ここで革命だ!」
「またぁ!?」
「10のダブル」
「7のダブルよ」
「5のダブル」
「……パス」
今回は慎重に革命の機を狙っていた一夏のプレイング勝ちだな。
リンは弱い札を使い切っていた為に対処ができていない。
「はいアガリ」
「くっ、まさか一夏にしてやられるなんて」
「残念だったねリン」
「罰ゲームを決めるのはシン兄か……お手柔らかにね?」
「善処するよ」
リンへの罰ゲームは悩む。
下手に運動系にするとセクハラになりそうなんだもん。
一夏の提案からのラッキースケベはセーフだが、俺発信はアウト。
健全な罰ゲームでも一夏の前ではお色気シーンと化す可能性がある。
なので、最初はらちょいエロならそれ以上にならないのではないかと、そう思うんですよ。
「尻文字で自分の名前を書く、で」
「シン兄、セクハラって言葉知ってる?」
小学生にセクハラを注意されるとか泣きたくなりますよ!
いやちゃうねん。
これは俺の欲望ではなく、ちゃんとリンにもメリットがある提案なんよ。
「リン、ちょっと耳貸して」
リンに耳元に口を寄せる。
「自分のお尻を見て赤面する一夏、見たくない?」
「――っ!? それは……そんなの……」
耳を赤くして照れるリンちゃん萌え。
朴念仁の思い人が自分の身体を見て赤面する、そんなのちょっと興奮するだろ?
恥ずかしがる事なんてないさ。
乙女の承認欲求を満たす事は決して悪い事じゃない!
思う存分一夏を悩殺しろ!
「神一郎さん、鈴は嫌がってるみたいだし無理矢理は……」
黙ってしまったリンを見かねて一夏が割って入る。
気持ちは分かるよ。
第三者から見たらこれ、嫌がる女の子にセクハラ無理強いしてるからね。
だが一夏、お前は黙っとれ!
リンはお前に尻を見せる事を恥ずかしがってるだけなんだよ!
「良いのよ一夏、この罰ゲーム……やるわ!」
「恥ずかしいなら無理しなくても――」
「いいの! やるの!」
あーあ、煽るからリンが覚悟決めちゃったじゃないか。
これぞハーレム主人公とツンデレ幼馴染の掛け合いよ。
はいそれでは流々武ヘッドをステルスモードで膝の上に展開します。
そして録画モード! もちろん録画するのは一夏の顔!
……リンの尻文字とか是が非でも録画したい気持ちはあるけどね。
なんか録画したら将来的に死にそうだからやめておく。
うん、俺が女子小学生の尻文字動画見てたら色々問題だから。
「では俺の手拍子に合わせてどうぞ」
「来なさい!」
リンが俺と一夏にお尻を向ける。
しっかりと真正面に一夏を置いてるあたり本気度を伺える。
「リンちゃんのフォウの字はどう描くの♪」
「こうしてこうしてこう書くの!」
スレンダーの薄いお尻でも、こう目の前で力強くふりふりされるとクルものがありますね。
さて、一夏の様子は――
「――っ」
おうおう、顔を赤くして視線を逸らしてますよ。
いくら朴念仁の一夏でも、目の間で尻を振られてらそりゃ反応するよね!
いいんだ一夏! お前の反応は男として当然の反応だ!
「リンちゃんのリンインはどう描くの♪」
「こうして――こうして――こう書くのっ!」
最後のンまで力強く描き切ったな。
ナイス乙女!
「どう? やりきったわよ!」
リンが赤い顔で振り返った。
なんかもう気恥ずかしさで一杯一杯って感じだ。
「鈴は頑張ったと思うよ」
「あら一夏、そんなに顔を赤くしてどうしたの?」
「別に赤くないし。それより鈴だって真っ赤じゃないか」
「運動したから赤いの!」
「恥ずかしいのに無理するから」
「別に恥ずかしがってないわよ!」
ああ^〜いいっすね^〜
小学生の同士の甘酸っぱい掛け合いを見てるだけで心が若返るわ。
「ほらほら、言い合いはそこまで」
「ふんっ! シン兄がそう言うなら見逃してあげるわ。感謝しなさいよ一夏」
「俺には何に感謝すればいいのかさっぱりだよ」
顔が赤い理由の追求じゃないっすかね。
本当は自分のお尻で赤面したって言わせたいんだよ。
「よし、次のゲームしようか」
「あ、神一郎さん」
「ん?」
「その、そろそろ良い時間で」
一夏の指摘で時計を見ると、確かに子供はもう寝る時間だ。
普段の一夏なら確実に布団の中だろうな。
「えー? もう少しいいじゃない」
「だけど鈴、夜更かしすると明日が辛いぞ?」
「でもせっかくのお泊りなのに……」
渋るリンの気持ちは分かるなー。
俺も子供の頃は無駄に徹夜で友達と遊んだもんだ。
男が集まると先に寝たら負けみたいな空気になるんだよね。
んで空が明るくなるまでトランプやウノを始めるんだわ。
そのせいで朝はみんな死んだ顔してた。
今なら言える、大人しく寝ろと。
「リン、遊びたい気持ちは分かるけど寝ておけ。温泉宿に泊まったら早めに寝て早めに起きる。そして朝風呂からの豪華朝食。それが正義だ」
「神一郎さんの言う通り。たっぷり寝て、起きたら温泉。そして美味しく朝食を食べるのがとても良いと思う」
一夏がうんうんと頷きながら追従する。
その歳で大人の温泉を理解するとは流石だ。
「むぅ……わかったわよ」
渋々って感じでリンが折れた。
そんなに拗ねなくてもいいじゃない。
お前にはこれから一夏の寝息を聞きながら悶々とする一大イベントがあるじゃないか!
だから布団の中で大人しくしていろ!
一夏の寝息が気になって悶々とするリンが見たいけど、ここはぐっと我慢して盗撮は勘弁してやる!
「なら俺は部屋に戻るかね」
「千冬姉の様子はどうです?」
「元気に酔っぱらってるよ」
「それはなによりです」
なんでちょっと嬉しそうなんだよ。
姉が元気に飲酒してるって情報で喜ぶとは……これはブラコンの鏡。
「それにしてもよく千冬さんと同じ部屋に長時間一緒に居られるわね。シン兄って千冬さんとどんな会話してるの?」
「特には? 千冬さんはテレビを見ながら酒飲んで、俺は携帯ゲーム機で遊んでる」
「家にいるのと同じじゃない!?」
「だって千冬さんと話す事なんてないし」
「またそんな事言って……神一郎さんと千冬姉、実はもう許し合ってますよね。どっちかが謝れば済む問題だと思いますけど」
「俺と千冬さんの距離感はこれでいいんだよ、ほっとけ」
「無言で自分の世界に入る二人……やっぱり遊びに行かなくて正解だったわ」
こっちの部屋に来ようか悩んだんだ?
でも空気が悪そうだから遠慮したと。
部屋は賑やかし役の束さんが居るし、俺と千冬さんは仲良く酒飲んでるけどね!
明るく楽しいお部屋だよー?
ではでは、一人の俺は喪女の飲み会に戻るので後は若い二人でごゆっくり。
おやすみー。
「お゛お゛おぉぉぉぉ……」
部屋に戻ったらゾンビが居た。
やっぱりこっちの部屋に来ないのは英断だったよリン。
「なんで束さんは頭を押さえたまま苦しんでるの?」
「調子に乗ったので少し仕置きをな」
「肘鉄?」
「いや瓶で」
「そりゃゾンビ化するわ!」
部屋に入った瞬間に見えたのは、倒れたまま頭を押さえて苦しむ束さんとその様子を冷たい目で見る千冬さん。
よく分からんが、束さんが馬鹿やって一升瓶で殴られた事だけは分かった。
「なにしたんですかまったく」
「しーくーん……」
「はいはい」
千冬さんの対面に座り膝をぽんぽんと叩いて誘導。
足のないゾンビの様に這う束さんの頭を膝に乗せる。
あらま、頭にコブがあるじゃないか。
これは痛そう。
よしよし。
「う゛ぅ……しー君の膝が硬い。ちーちゃんの方が良い……」
膝を貸してるのにこの言いようよ。
コブをグリグリしてやろうか。
「で、どうしたんです?」
「……私さ、ちーちゃんに膝枕してもらってたじゃん」
あれは膝枕をしてもらったと言うか、勝手に頭を乗せてただけでは?
「なんでそこから酒瓶アタックに派生するんですか」
「それは……」
「それは?」
「束が私のまたぐらに顔を突っ込んできたからだ」
言い淀む束さんを横目に千冬さんがしれっと割って入る。
ほう、千冬さんのまたぐらに顔を――
「だってちーちゃん浴衣で胡坐をかいてお酒飲んでたんだよ? だんだんとだらしのない恰好になって……目の前にある洞窟がまるで私を誘ってる様だったんだもん!」
それは……うーん。
男として気持ちは分かる。
浴衣姿の千冬さんに膝枕された状態で神秘の洞窟が目の前あったら、俺だって顔を入れたくなる。
でもその結果が酒瓶でゴンかぁ……。
ちょっと真似はできないかな。
「私だって頭皮と頭蓋骨は普通の人間なんだよ……」
束さんは頭を押さえたままぐしゅぐしゅと泣き続ける。
自業自得だけど流石に痛そうだ。
たんこぶには塩を塗るといいんだっけか。
いやそれよりも他の事で痛みを誤魔化した方がいいかも。
たんこぶは早々に治るものでもないし。
そうだ――
「束さん、痛みで目を閉じちゃう気持ちは分かるけど、我慢して正面をよく見てください」
「あう?」
俺と千冬さんはテーブルを挟んで座っている。
その状態で見るテーブルの下の景色ってどうだと思う?
そう、千冬さんの生足見放題ってことさ!
「…………うひ」
気持ち悪い笑顔を浮かべる束さん。
よーしよしよし、その調子で痛みを忘れるんだぞー。
束さんは千冬さんの下半身をガン見できてにっこり。
俺はそんな束さんの頭を撫でまくりでほっこり。
これぞWin‐Winの関係ってやつだ。
「束がなにをしてるかだいだい察せるが……もう色々と面倒だ」
「飲んでる時はツッコミが億劫になりますもんね。それにしても随分と赤ら顔に。どんだけ飲んだんです?」
「あるだけ全部だ。あぁそうだ、冷蔵庫にあったお前のビールも貰ったぞ」
「事後承諾じゃん。別にいいけど」
「実はな、前からやってみたかった事があったんだ」
「千冬さんがやってみたかった事?」
「あぁ、限界まで飲んでから寝落ちしたら絶対に気持ちいいと思うんだ」
「すっげーわかる」
休日の前とかやっちゃうよね。
明日へのリスクを忘れてただ酒を飲み、意識を失いそうになったら抗わずにすっと手を離す。
あの落ちる瞬間がたまらんのだ。
一夏の前じゃ見せられない姿だから、千冬さんが未経験なのも納得だ。
「寝ゲロだけは気を付けてくださいね」
「これからやるのは私にも初めての経験だ。万が一の時はフォローを頼む」
「そこまでの覚悟が!?」
まさか俺に寝ゲロの片付けを頼む覚悟があるとは――
見事なり!
そこまでの覚悟をみせられたら寝落ちさせてやりてぇと思っちまうよ!
でもなぁ……
「ここで虎視眈々と千冬さんが寝るのを待ってる肉食獣が居ますが?」
「束さんは可愛いウサギさんだよ?」
いやお前、千冬さんの話を聞いてる途中の顔はかなりやばかったからな?
余りにも汚い笑顔するもんだから、思わず膝から頭を落とす所だったわ。
「問題はそこなんだが……神一郎、お前は若いから徹夜は大丈夫だな?」
「俺に見張らせるつもりなんかいッ!?」
若いけど小学生の身で徹夜は無理!
この場合の若いって普通は二十歳前後のことだから!
酒も飲んでるし精神的に疲れてるから徹夜は無理!
だかこの問題を放置して、俺が寝てる間に怪獣大戦争が勃発して寝てる間に死ぬ未来は回避したい。
「束さん」
「んー?」
なでなで
千冬さんの下半身から視線を外さない束さんの髪をゆっくり撫でる。
気分は興奮した犬を落ち着かせるブリーダーの気分だ。
「良い子だから今夜はもう千冬さんにちょっかい出すの止めましょうね」
「……なんで?」
想像以上に低い声。
牙をむいて唸ってる絵が脳内に浮かぶけど我慢!
「たまの休みを満喫する社会人の邪魔する権利は、束さんみたいなニートにないんです。かわるよね?」
「でもエッチな事はストレス発散になるじゃん」
そうだね!
いやそうだねじゃなーよ。
あかん、思わず同意しそうになった。
なでなで
「お願いだから千冬さんを静かに寝かせてあげよう? さもないと――」
「さもないと?」
「この場に一夏を連れて来て騒ぎを起こさせる。んで日本政府と警察に電話して束さんの存在をチクって眠れない夜にする。その後は箒に束さんが織斑一家の温泉旅行を台無しにしたクソ最悪のクズだって教える」
「…………ちーちゃんの隣に布団を敷けたら満足です」
なでなで
いい子いい子。
束さんは友達の寝込みを襲う様な人じゃないもんね。
「手から伝わるオーラで分かる。しー君がマジだって……」
なでなで
オーラとは束さんにしては非科学的な。
でも正解。
もし百合プレイが始まったら、最初だけ見学してその後は国家権力を呼ぶ。
場の雰囲気が絶好調になったタイミングで黒服を大量に登場させてやるよ!
ケケケッ!
つか徹夜は勘弁!したくない!
「むぅ、今夜のしー君は生意気に反抗的だ」
「これに懲りたら童貞に喧嘩を売るのは止めるんだな。友としては束さんの幸せを願っているが、童貞としては絶対に邪魔してやる。そんな心境なのをお忘れなく」
「らじゃ! 肝に銘じます! だから手のひらから黒いオーラを流すのやめてくれない!? なんか洗脳されそうで怖い!」
なでなで
おやおや束さんてばそんなに震えちゃって。
優しく、やさしーく頭を撫でてるだけだよ?
ただ私怨が少し漏れてるかもだけど。
「ふむ、やはり私は二人の掛け合いを少し離れて見てるのが性に合うな」
更に擦り付けようとするな。
ここは見事安眠を勝ち取った俺を褒める場面だよ?
「ところで一夏たちはどうだった?」
「夕飯を食べ終わった後はトランプで遊んでたみたいです。明日は朝風呂に入るからってもう寝ました」
「それは健康的でいいな。ふむ、朝風呂か……朝霧の中で入る露天風呂も風流だな」
「冬の山ですから寒いでしょうが、とても気持ちいいでしょうね」
「朝からちーちゃんのおっぱい枕で温泉とは……こんな贅沢あっていいの?」
明日も朝からこのリア充と戦うのか。
いいだろう、俺はてぇてぇ絶対殺すマンとして受けて立つ! ――って脇腹がズキッとしたな。
これはまさか――
「うーん」
上半身を捻ってみたりしてみる。
忘れた痛みを微かに感じる。
「どったの?」
「どうも痛み止めが切れたみたいです」
「もうそんな時間かー。包帯買ってきた?」
「包帯と痛み止めは一応」
「なら応急処置しよっか」
「お願いします」
束さんが膝から頭を離して立ち上がる。
自由になった俺はビニール袋から包帯を取り出して束さんに手渡す。
「んじゃ上半身をはだけて」
「うす」
「そのまま手を上に」
「ほい」
「手を下げて」
「ほい」
束さんが慣れた手つきで包帯を身体に巻いていく。
これは――っ!?
「はい終わり」
「なにこれカッケーッ!?」
鎧っぽいっていうかエヴァを彷彿とさせるというか――両脇から交互に包帯を重ねて層になってると普通にカッコいいな!
「後は適当に痛み止め飲んでおきなよ」
「あ、そうだ。はい束さん」
「ん? 薬?」
いくつか買ってきた痛み止めを束さんに手渡す。
「束さんなら薬を混ぜ合わせてより効果のある薬を作れるかなって」
「ねぇしー君、もしかして科学を馬鹿にしてるのかな? うん? どこかに実験器具がある様に見える? 流石の束さんでも素手で必要な成分の抽出や不必要な物資の除去は出来ないんだけど?」
グシャと束さんの手の中で潰される痛み止めの箱が怒りの具合を教えてくれる。
確かに俺の言い方は悪かった。
でも束さんならって思うじゃん。
「アウトドア用品があるから、火なら用意できるよ?」
「痛み止め料理を作って欲しいのかな? イカの塩辛に全種類混ぜて食ってろ」
「……天才科学者なのに」
「絶妙に喧嘩を売ってくるじゃないかしー君」
束さんの額に青筋が浮かぶ。
だって世界の篠ノ之束だよ? なんでも出来るって期待しちゃうじゃん。
実験器具がなければ篠ノ之束もただのメシマズ女子か。
「よーしいいだろう」
「お?」
「しー君がそこまで言うならどうにかしてやろうじゃないか! ちょっと待ってなさい!」
「へ?」
なんだかんだ言いながらも調薬してくれるのかと思ったら、勢いよく外に飛び出し、そのまま庭を入って暗闇に消えて行った。
夜の山に消える年頃に女性……警察案件かな?
「まずいんじゃないか?」
突然の行動に呆気に取られて動けない。
束さんの背中を見送るしかなかった俺に千冬さんから声が掛かる。
まずいかな? なんか俺もそんな気がする。
「今夜は一夏と一緒に寝ますね」
「待て待て、保身に走るな。お前が撒いた種なんだから責任を持て」
逃げようと思ったらすでに捕まってるだと!?
気が付けば世界最強に腕を掴まれてる恐怖。
へべれけだったのになんてスピードで動きやがる。
そんなに面倒ムーブしてる束さんと絡みたくないのか! 絡みたくないよね分かります!
でも自分小学生なんで、責任とか言われてもちょっと。
「俺、やっぱり二人の仲を応援する!」
「男がコロコロ主張を変えるな!」
「んなこと言ってただ俺に束さんの相手をさせたいだけだろ!? いいよもう! 今夜は束さんに全てを任せて布団の上でマグロになってろ!」
「誰がマグロかっ!」
「……いやでも千冬さんはマグロが似合いと思うよ? 普段気が強い女性がさ、ベッドの上で緊張で硬くなって動けなる姿は男心に刺さるものがある。ギャップ萌えって言えばいいのか、個人的にはアリです」
「……そんなもんか? ファンレターでは押し倒して欲しいとよく書かれているが」
「それ、相手は?」
「同性だな」
女性ならそうなるだろうな。
千冬さんに押し倒されたい夢見女子は多そう。
だが男なら! 恥ずかしいそうにバスタオルで胸を隠し緊張でガチガチの千冬さんが良いだろぉ!?
「千冬さんなら、敢えて相手に身を任せるのも有効な技だと判断します」
「そんなものなのか」
「ですです。なのでこの後はお二人でごゆっくり」
「いや逃がさないが?」
千冬さんの手が離れねー!
くそ、このままでは――
「ただいまー」
はやっ!? てっきりダナンまで機材取りに行ったのかと思ったが、もう帰って来やがった!
近くに秘密基地でもあったんか?
「ん? 二人してなにしてんの?」
逃げる俺と逃がさない千冬さんの図なんだが、どう説明したもんか。
千冬さんに襲われてます……は、死がゴールなので言えない。
「なんでもないよ? ね、千冬さん」
「あぁ、なんでもない」
逃亡を諦めたら千冬さんが手を離してくれた。
俺は運命を受け入れる!
「んで束さんはどこに行ってたの?」
「え? しー君の為に材料を取りに」
今気付いたんだけどさ、その手に握り住めてるキノコっぽい物はなんですかね?
なんでそんなに堂々とキノコ握り締めてるの?
「入れ物は――この湯呑でいいか。まずはしー君が買ってきた錠剤を粉にします」
この子、錠剤を素手で潰してるんですが?
指先に挟まれた錠剤が粉になって湯呑に落ちていく。
「次にこの取って来たキノコを入れます」
「うん、待とうか」
「ほえ?」
キノコを持つ束さんの手首をがっちり掴む。
なんで不思議そうな顔してんのさ。
キノコ……キノコか。
記憶にないけど、束さんとキノコの組み合わせが怖い。
俺の中のなにかが最大限で警戒音を鳴らしてる。
「そのキノコはなに?」
「ただの生薬だけど?」
生薬かぁ……アウト……いやセーフ……うーん。
「ほい」
こっちの覚悟が出来る前に入れやがった!?
「スプーンで潰しながら混ぜます」
キノコが潰れて粉の錠剤と混ざり合う。
キノコの水分を吸って段々と団子状になっていくのが怖い。
こんな恐怖を感じる料理番組ってある?
「最後に形を整えて――はい完成」
完成しちゃったかー。
これただのキノコ団子なのでは?
最後に束さんが手の平で団子をコロコロしたので、最悪篠ノ之束の手の平味と言ってもいいかもしれないな。
外から帰ってきてそのまま料理作ってたけど、そこはほら、新鮮な束さんの味がすると思えば……思え込めば……っ!
「はいあーん」
満面の笑みで茶色の塊を刺し出される。
おおう、近くで見ると心が折れそうになるぜ。
「千冬さん」
「諦めろ」
一応助けを求めてみたけど無意味だった。
つかいつの間にかまた座って飲み始めてるし。
千冬さんも結構マイウェイだよね。
「しー君の為に用意したんだよ? 食べてくれるよね?」
「ねぇ束さん」
「うん?」
「もしかして怒ってる?」
「……にこっ」
あぁやめて! 無理矢理押し込まないで!
ごめん! イチャラブ邪魔したり生意気な発言してごめんて!
青臭くて苦いものが喉を――おぐっ。
「はい飲み込んでー」
「あごごごっ」
無理矢理口を閉じられて呻き声しか出せない。
あー喉がイガイガする。
「飲むか?」
「どうも」
千冬さんがくれたコップを受け取り、飲み物で口に残った異物感を洗い流す。
ってこれビールじゃないか。
せめて水にして欲しかった。
「あ、お酒」
ちょっと怖い感じの声出すのやめて?
「お酒がどうしました?」
痛み止めとアルコールがマズいのか?
普段なら組み合わせないもんな。
今は口の中をさっぱりさせたくて飲んじゃったけど。
「ギリギリ大丈夫かな? まぁ死にはしないよ」
「にゃにしょのきょわいいいきゃた……はれ?」
なんか舌が上手く動かない。
「いいかいしー君、痛みを消すって事は神経をマヒさせる事。つまり神経毒が最適解」
こいつ毒盛りやがった!?
まさかだよ! そりゃ一瞬その可能性を考えたけど、まさか真正面から毒キノコ食わせてくるとは思わないじゃん!
「げじょくざいを――!」
「そんなものはない」
「あぺっ!?」
掴みかかろうとしたら足払いを床に倒される。
心なしか体の動きも鈍くなった気がする。
「普通は経口投与じゃ普通はもう少し効果が出るのに時間が掛かるけど、事前の飲酒と追加の飲酒でブーストが掛かったみたいだね。これでしー君は朝まで無害……ね、ちーちゃん」
「む?」
怪しげな光を灯らせた目が千冬さんに向けられる。
こいつさては千冬さんとのワンナイトラブを諦めてねーな!
まさか邪魔な俺に一服盛って排除するとは!
「毒が強すぎと心臓まで止めちゃうから使うキノコに神経を尖らせたよ」
苦労するとこおかしくない?
「これで邪魔者は消えたので後は大人の時間だね」
「……私の邪魔をする気なのか?」
「ほえ?」
倒れた俺の視線は床と二人の足しか見えない。
だが口調だけでも分かる。
これ絶対やばいやつ。
「私は今夜気持ちよく寝落ちすると決めたんだ。決めたんだよ、束」
「う、うん。だから私と二人仲良く気持ちよく――」
よせ! 引くんだ束さん!
今の千冬さんは――
「邪魔をすると言うなら……」
「待って!? ねぇ待ってちーちゃん! その振り上げた酒瓶はなに!?」
酔っ払いだ!
「消えろ」
「ぎゃん!?」
ゴツンとかガンとか、そんな生易しい音じゃない。
今までの人生で一度も聞いた事がない鈍い音が部屋に響いた。
直後、俺の視界に束さんの顔が映る。
白目で気絶する人って本当に存在するんだ。
「――――。」
千冬さんが無言で束さんの首根っこを掴んで引きずる。
片手で襖を開け、そのまま上の段に束さんを放り投げた。
と、今度は俺の方にやってきた。
「ぢふゆざん?」
「お前ももう寝ろ」
寝かせてくれるのは嬉しいんですが、そっちは押し入れですよ?
「布団が残っているから風邪はひかないだろう」
そうだね! 敷布団はあるね!
いや掛け布団は!?
お願いだから雑に投げ込まないで! 身体が上手く動かないから受け身とれんぞ!
ってアァァァァ!
「ぐえっ」
束さんよりは優しく投げ込んでくれた。
でもなんで俺まで押し入れなんだろう?
千冬さんに恨みがましい視線を向ける。
「せっかくだから他人の視線を気にせず爆睡したい」
アッハイ。
分からんでもないこだわり。
気持ちよく寝るなら一人で寝るのがいいよね。
「じゃ、おやすみ」
「……お゛や゛ずみなざい」
パタンと襖が閉まる。
俺も全身の痺れに身を委ねて寝ちゃおうか。
おやすみなさい。
〇子供部屋
い「くーかー(気持ち良さそうに寝ている)」
り「どきどき(一夏の寝息が気になって寝付けない)」
〇大人部屋
ち「ぐーがー(部屋の真ん中で気持ち良さそうに大の字で寝てる)
た「――――。(返事がない。どうやら気絶しているようだ)」
し「しびしび(痺れに身を任せて寝た)」