俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~ 作:GJ0083
店で食えって? 鍋料理は2名様からなんだよ……(泣)
「あの撤退戦は地獄だった。止まらない追撃、降り注ぐミサイル……あぁ……今でも思い出せるよ」
『エマちゃん誕生日おめでとう』
『おばちゃん来てくれたの!?』
「肩が貸してた仲間は確かに生きていたんだ。でも少し離れた場所にミサイルが着弾して……信じられるか? こぶし大程度の石がそいつの頭に当たって、そのまま動かなくなったんだよ」
『はい誕生部プレゼント。これが欲しいって言ってたわよね』
『うわぁ~! 新しいお人形さんだ!』
「歩きながら片手で首に手を当てて脈を測ったんだが、もう死んでた。だけど俺は道ながらで死体を捨てていく事ができなく、死んだアイツを引きずりながら歩いたんだ……」
情報が多すぎる!!!
え? なにこの地獄?
こんな両極端の話を今か十時間以上聞かされるの!?
くっそ最悪なんだが。
「落ち着けダガー1、終わった話を思い出すな」
「……すみません」
ダガー1可哀想。
これも全て束さんが悪いんや。
『じゃ、後は頑張ってねー』
最低限の説明を終えた束さんの姿が消えた。
俺と一緒に走り回ったし、シャワーとご飯の時間かな?
大型犬だって数時間散歩すりゃ大人しくなるだろうし、これから暫くは平和な時間になりそうだ。
「さて、様は敵に襲われてる最中にテレビの映像が流れる……と言っていいのか?」
「テレビと言うか、動画配信サイトの映像だと思うです」
「似たようなものだろ。とは言えやる事は変わらない。このまま迎撃を続けるぞ」
ダガー小隊の顔色は悪いのに、スター小隊は動じないなー。
原作だと記憶が摩耗するほどの訓練と実践を経験しているんだっけ? ならメンタル面も問題ないだろう。
うーむ、俺はどうすっぺ。
また補給物資を探し旅に出てもいいかな?
「スター1、新しいギミックが発動した訳ですが、流れは今のままで?」
「あぁ、現状これといって問題はないからな。ただし、これから襲撃の規模が大きく可能性があるのでこまめに戻って欲しい」
「了解です」
そんなこんなで周囲の建物に入っては引き出しやロッカーを漁り、ある程度の成果を得れたらスター1たちが居る屋上に戻るを繰り返す。
特別言うことはない。
あれから時間経ったので、ゾンビの機能が更にいくつか解放されたが、ソロの俺にはさほど関係ない。
なので俺の周囲のゾンビは、相も変わらずゾンビは近付いて自爆を繰り返すだけで、こちらはとても平和な時間を過ごしている。
束さんも居ないし、今こそおっぱいチャレンジのチャンスかとも思ったが、正直……罪悪感が半端なくてやめた。
心中としては、下着売り場のマネキンの胸を触る……以上の後ろめたさと気恥ずかしさがあったからだ。
この壁を越えたらヤベーと直感したので、今は大人しく作業に準じている。
触ろうと躍起になっていたけど、あのテンションは束さんが居たから維持できたよね。
一人であのテンションは無理!
流石に建物内で物漁りしてるだけだと飽きてくるので、たまに安全そうな部屋を見つけては拡張領域からノートパソコンを取り出しアニメを見たりしている。
ちなみに、束さんの嫌がらせである幸せ映像を流すドローンは俺の所に来ない。
まぁ俺には対してダメージ与えられないから妥当だよね。
油断はできないが。
さてさて、弾倉も確保して少しは休めたしそろそろ戻りましょうかね。
建物から出て防衛陣地が方角と確認する為、顔を動かす――目の前になんか変なのが居た。
――ソレは四足歩行で、足の形状はキラーマシーン先輩と同型だった。
――ソレは上半身が巨大なミキサーで、中身は真っ赤なトマトジュースだった。
――ソレは巨大な掃除機を装備していて、地面に散らばった肉片や血潮を吸い込んでいた。
SAN値チェック……ダイスロール……いやこれ無理ぃぃぃぃ!?
なんだあの喜色悪いミキサーマシン!?
いやいや考えてみれば分かるよ? 散らばったゾンビの肉片を放置してたら腐るから掃除は必要だもんね!
うんうん、掃除は大事! ……でもこれ視覚の暴力が過去最大なんだがッ!?
ミキサーの中身って要するに血と肉の海って事だよね!? うわグロ……多少の耐性は付いたけど、これはちょっと許容できない。
げ、骨部分に当たる金属の骨格もそのまま吸い込んでやがる。
燃えないゴミと生ゴミを一緒くたにとか、ゴミ収集者が発狂しそうだな。
――カシャカシャ
ミキサーマシン後輩が小さな足音を流しながら地面に広がった肉片を掃除している。
すみません、その辺汚したのはたぶん俺と束さんです。
いやしかし巨体の割に凄い静穏性ですね! どうりで気付かなかった訳だ。
この巨体でこの静かさ……その技術、特許取ったら大儲けできそう。
――ギギッ
なんとなく、ミキサーマシン後輩がこっちを見た気がする。
いや上半身はツルンとしたミキサーボディで顔なんてないんだけど。
これさ、生身の人間を襲ったりしないよね?
あらミキサーマシン後輩、掃除機の先端をこちらに向けてどうしたの?
ねぇやめて、掃除機の先端を人に向けてはいけないって親に習わなかったの? ……束さんがそんな事を教える訳ないか! アハハッ!
「ぬぉぉぉぉ!?」
ダッシュ! 全力回避!
――カシャカシャカシャカシャ
めっちゃ着いて来る!? 静かにカシャカシャ言いながら俺の後ろ追って来るぅ~!?
なんで生身の人間狙ってるんだよお前! それは反則だろうがッ!!
俺がゴミだってか!? 束さんには後でお説教だよバカ野郎!
巨大だから建物に入ればセーフか? はいコンビニ入りますよー!
アクセルとブレーキを踏み間違えた車の如く勢いでコンビニに突っ込んで来やがった!?
なんで俺だけゾンビパニックからSFパニックに方向転換してるだよ!
いやいや落ち着け俺! そうSFだ! 流々武展開からの空にランアウェイ!
はっはー! いくらミキサーマシン後輩でも空戦は適応しておるまい!
上空から地面を見下ろせば、ミキサーマシン後輩は暫く半分瓦礫の山になったコンビニ跡地で動きを止めた。
さてどうなる?
――――カシャカシャ
ミキサーマシン後輩は少しだけ動きを止め、その後また動きだして去って行った。
よし! 俺の勝ち!
しかし束さんめ、なんてもの作りやがる。
強い弱いの前にまず戦いたくない。
もしあのミキサーを割ったら、でろんでろんのゲル状の赤いタンパク質が周囲に散らばるんだぞ?
射撃でもできれば話は変わるが、残念ながら当方は近接武器しかないんよ!
なので俺は絶対に近付かない。
もう怖いからお家帰る! ……帰るべきお家は数万キロ先だし、今帰る場所は鉛玉が飛び交う戦場なんだけどね。
「どうもどうも。調子は?」
「特に変わりはないな」
『今日は大学の交流イベントでアラスカのキャンプ地に来てまーす!』
「後続を確認! ダガー3は奥を狙え! 俺は手前を!」
『お相手はアラスカ大学の文系部の女子です! はい拍手!』
「更に階段を上がって来てるな……各自弾の数を頭に入れておけ!」
『見てくださいこの巨大なブロック肉! なんとアラスカ大学の方で用意してくれたカリブーの背中のお肉です! 今からこれを皆で焼いていきたいと思います!』
「現存する敵影なし! クリア! 後方は……ビル3階部の階段に確認!」
『男連中は丸ごと焼く映像を見たいと思うけど、ここは女子もいるので、良い感じに切り分けて行きます』
大変そうだな。
新しい機能である“仲間を呼ぶ”は動くゾンビを見たゾンビがそれを追う機能だ。
つまり一匹来たらその後も続々と現れる。
それにどうも、どこからかゾンビが保管されてるっぽいんだよね。
これはスター小隊の分析で、ゾンビの一区画当たりの分布量を見ると、防衛陣地周囲のゾンビは既に一掃している量は破壊しているので、保管庫があるのか輸送されてるのは分からないが、追加で投入されてる可能性が高いとのこと。
なので、今はほんの小休止だ。
数分もすれば下のゾンビがここに到着するだろう。
「スター2とスター3は死体を片付けろ。ダガー2は下がってダガー1と交代、フォックスが持って来た弾倉の仕分けをしながら休め」
あ、俺の出番か。
はいどうぞ。
『見てくださいこの素晴らしい焼き目! アラスカ女子は料理上手な子が多いんですよ!』
どこぞのパリピ大学生がワイワイしながらキャンプする映像の横で、スター小隊の二名は壁の一部をヘラの様に使って階段前の肉の山を外に払い落し、ダガー小隊の二名は定位置で弾薬の確認など、そして……ダガー2は死んだ目で弾倉片手にカロリーバーを食べていた。
束さんの嫌がらせ、想像以上に効果でてそう。
しかしそうか、今までのゾンビ肉ってビルの下に落としてたんだよね。
「スター1、ビル周囲の確認ってしてます?」
「ん? それこそ最初は見たが……スター2!」
「了解っ! ……わぁ、すみません隊長見逃しました! ビルの壁際に新型の敵機を目視!」
「なんだと?」
やっぱり発生してたかミキサーマシン後輩!
「なんだあれは? 肉と骨を回収……リサイクルか? だとしたら近くに製造工場的なものがあると考えるのが――」
スター1がビルの下を覗き込みながらブツブツと話しながら思考する。
あれ見て即、『あ、リサイクル目的か』って答え出すの流石です。
俺なんて固まって思考停止しちゃったもん。
「狙撃で破壊できなくはないが……フォックス、お前はどう思う?」
「篠ノ之博士の怒りを買うかもしれないし、アレを破壊しなければ永遠とゾンビが湧くギミックかもしれない、情報がなさすぎるのでなんとも。判断はお任せします」
攻略サイトなんてないから自分らでやってみるしかないんよねー。
俺の予想では別に壊しても問題はないと思う。
……ペナルティくらいはありそうだけど。
とは言っても、壊さない限りゾンビ無限湧きは普通にありそうだし……迷うよね。
「ふむ……今の所攻略は安定している。余計な真似をして不測の事態を起こしたくないが……新しい情報が欲しい欲もある。さて、どうするか」
悩む気持ちはよく分かります。
戦闘のリズムが良い感じな今、余計な真似はしたくないってあるよね。
ゲームじゃあるまいし、仲間と自分の命が掛かっているんだから安全第一で行きたいところ。
「よし、破壊してみるか。フォックスは他の場所でもアレを見たんだな? オンリー機ではないなら、一機壊したところでそう大きな事態にはなるまい」
なーる。
量産機ぽいから壊してもたぶんオッケー理論ね。
「スター2」
「了解」
スター2がISを展開し空中に飛翔、そのまま横向きになる。
地面を真っ直ぐ見る形だ。
生身だと真下への狙撃は射線が難しいけど、ISならどんな場面でも対応して敵を狙える。
スター2は放った弾丸はミキサーマシン後輩のガラス部分を砕き中身を地面にぶちまけた。
うへぇ……遠目で見ても喜色の悪い景色だ。
スター2はそのまま射撃を続け、下半身を穴だらけにし足を砕き、ものの数秒でミキサーマシン後輩を沈黙させた。
さてどうなる?
スター1と一緒に警戒態勢で周囲を観察する。
これと言った動きはない……みたいだな。
『あーあ、やっちゃったね』
訂正、これからなにかしらイベントがあるようだ。
背後に束さんが立ってたらイベントが発生するは常識だからな。
『お化け屋敷でさ、意図的に仕掛けを動かす機会を壊したらどうなると思う?』
「出禁ですかね? もしくは弁償? ここから出してくれるなら喜んで」
『そう! 罰ゲームがあるのさ!』
聞けよ人の話。
「篠ノ之博士、具体的にはどんな罰が?」
『難易度のアップ。本来時間を掛けて徐々に上がる難易度が一気に最大になります。いやー予想より早い展開だね。まだ10時間はあるのに……ご愁傷様』
束さんが両手を合わせる。
おいおい、合掌するレベルでヤベーの?
お前さー、それはズルいじゃん。
あのミキサーマシン、ある程度の時間が経過するか、一定数のゾンビが壊されたら登場するギミックだろ?
ちょっと調整甘いだろ! そんなギミックはもっと後半に登場させろよ!
試練は半分を超えた当たりなのに試練レベル最大とかどうかと思う。
しかもあんな壊したくなる様な醜悪なロボットをギミックにしやがって。
『あ、言っとくけど悪いのはフォックスちゃんだからね? 束さんの想像以上にゾンビを破壊しまくった所為でこんな事態になったんだから』
おっぱい祭の所為かぁぁぁぁぁ!
町中走り回って大量のゾンビ壊したもんね! そりゃギミック発動のタイミングが早まりますよ!
「つまり、これから起こるなにかは隊長とフォックスさんの責任です?」
スター2の呟きを皮切りに、他のメンバーの視線が俺とスター1に刺さる。
痛い! 心が痛いよ!
おっぱい目当てで暴れてごめんなさい!
「隊長! ゾンビたちの動きが止まりました!」
階段から上ってくるゾンビを警戒していたダガー2の声に反応し、俺とスター2は駆け寄って階段の下を見る。
確かに途中まで上って来ただろうゾンビが動きを止めている。
これは……俗言うアップデート中では?
――跳躍機能解除、走行機能解除、感知範囲制限解除、嚙殺機能解除
なんか物騒な機械音が聞こえますね?
スター1を見ると、スター1も俺を見ていた。
気持ちは同じだよ。
抗おう、全力で。
「全員戦闘準備! 各自陣地を再構成しろ!」
スター1の号令で各自がテキパキと準備を始める。
俺にはやる事はない。
なにかしなければって焦燥感はあるけどさ、軍人の基地で一般人がその辺の物に触るのが許されるかって話でね。
ぶっちゃけ手を出しても邪魔にしかならん。
なんでこれからの事について考えよう。
一番大事なのは接敵しない事。
だから残り時間ISで飛んでればいいんじゃね? って回答になるんだが……俺はともかくスター小隊は無理そう?
アメリカのISの稼働時間とか知らないけど、無理そうではあるよね。
即席で6人が入るカゴを作り、それを流々武で持って飛ぶ事はできそう。
問題は束さんの判定? そんなチキン戦法が許されるかは……聞きたいけど、束さんの姿はもうない。
たぶん今、ポテチとコーラの準備中だな。
「スター1、この場で戦闘続行を続けるとしてその後は?」
「何処かに立てこもるか屋上を点々と移動しながら戦うか、だな」
立てこもりはちょっと危険度が高いか? 制限時間を過ぎたとして、そこでゾンビが引いてくれる保障がないんだよね。
屋上案は安パイ。
屋上で大人しくする→敵に見つかったらギリギリまで引き付けてIS離脱→別の屋上に移動
これを繰り返せばそれなりの時間は稼げそう。
「屋上を点々とするのが良さそうですね」
「だな」
問題は屋上退避作戦がどこまで許されるか。
お願いだ束さん、せめて残り時間1時間までは許してプリーズ!
ダガー小隊はスター小隊がそれぞれ抱えて移動? でもそれだとスター小隊が戦えないのでもったいない。
俺が抱えるにも男三人は多いし……あ、ベンチにでも座らせてそのベンチを俺が抱えればいいか。
ISを展開して屋上から飛び立つ。
ベンチベンチ、急げ急げ。
あった、てかこれ色合いは木材っぽいけど石造りかよ。
耐久性ありそうで丁度良いな。
ベンチを抱えて屋上に戻ると、混沌具合に拍車が掛かっていた。
「ダガー2、ダガー3は弾倉をあるったけ持てよ! 弾切れしたら死ぬと思え!」
『今日は明日結婚式を迎える友達の独身最後の夜! って事で、ここラスベガスで豪遊したいと思います! おい自己紹介しろ!』
「スター3、階層高めで屋上にISで降り立てる程度の広さがある建物をピックアップしろ」
『どうもルークです。今日は友達が祝ってくれるって事で此処にいます。だが先に言っておく! 絶対に女遊びはしないから! そこだけは信じてくれよ!』
うーん、緊張感が持たない。
今度は野郎共がキャッキャッする映像か。
アメリカでは結婚式前夜に最後の独身の夜とか言って騒ぐ風習があるんだっけ?
「この場面の裏側にも誰かの悲劇かあるのか」
「フォックス、それはお前の悲劇でもあるぞ」
「はい?」
「男の後ろに時計が見えた。これはリアルタイムの映像だ」
……ほーん?
「これからゾンビに襲われる自分たちの裏で、呑気に酒飲んで遊んでる連中が居る事を見せつける、と」
やってられん。
こちとら学校休んで参加してんのにこんな仕打ち……全て終わったらお説教です!
「スター3より各員へ、ゾンビが動き出した」
お、来た……かぁぁぁぁぁ!?
大きな足音を鳴らしながら階段を駆け上がってくるゾンビ。
どいつもこいつも無機質な眼でこっちを見てやがる。
ゾンビにダッシュ機能はやめて頂きたい!
「各自戦闘準備!」
今までは簡易な防衛陣地だったが、崩れた壁や瓦礫を組み上げて壁を作り今回の防衛陣地は更に厚い陣地になっていた。
ISを使用したとしてもこの短時間で凄いな。
軍人たちが壁の隙間から銃口を出して屋上の入り口を狙う。
「来たぞ!」
スター1の声で視線を上げると、階段を上って来たゾンビが目に入った。
そのゾンビたちは足を止める事なくこちらに向かって来る。
「撃てっ!」
スター1の号令で俺以外の全員が一斉に銃撃を開始する。
生で聞く銃声はやっぱり半端ないな。
口を大きく開け、今から噛みつきますって顔をしてるゾンビは一瞬で肉塊になった。
うん、攻撃性が増してますね。
「次が来るぞ!」
おう、おかわりのスピードも早いな。
ダッシュ機能もそうだが、銃声にも遠くで反応してそう。
「フォックス!」
「はい?」
「お前もなにかしろ」
「また物資でも探してきます?」
「襲撃の最大規模が不明だから離れるな。私は戦えと言ってるんだ!」
「ですよね」
とは言っても、俺が銃を持つのはなー。
なんか束さんの手の平の上って感じで凄く嫌だ。
だからと言って俺だけハンマー片手で前線で戦うのは違うじゃん?
どうすっぺ。
「……変な音が聞こえる。隊長、正面以外から敵が来るかも」
「自分には何も聞こえませんが?」
「って言うか銃声がうるさくて何も聞こえん」
「スター3は耳が良いんだ。フォックス、周囲を確認してくれ」
「了解」
俺にも仕事があって嬉しいよ。
んで変な音ですかい? ミキサーマシン後輩がまた来たとかじゃないだろうな。
屋上から周囲を見渡す。
はい、地上を走るゾンビの群れが見えますね。
真下を見る。
はい、ビルの壁に爪を引っ掻けて登って来るゾンビが見えますね。
「報告! ゾンビが次々がこちらに向かって来てる! それとゾンビが壁を登って来てます!」
「ゾンビが集まるのは不思議ではないが、壁を上って来てるだと? フォックスは後ろを頼む!」
「了解です」
上がって来たゾンビをハンマーで落とすだけのゲームなら頑張れそう。
ちゃんとした役目があって何よりだ。
でも俺、なんだかんだでゾンビを正面から壊した事ないんだよね。
作り物とは言え本物そっくりな生肉の頭を叩き潰すの?
おっさんならともかく、美少女の顔面をハンマーで叩き潰したら流石に夢見が悪くなりそう。
いやでもまだまだ先があるのに、ここで日和ってる訳にはいかんよね。
なんか物理的な攻撃もしてきそうだし、俺が逃げたせいで他のメンバーがケガしたら事だし。
どこまでも束さんの手の平の上感でイラっとするが、覚悟を決めるか。
大事なのは視覚情報と触覚に惑わされない事。
潰れた顔と潰した感触を知らなければいいのだ。
なので――
「流々武、ゾンビの顔を……そうだな、モザイク処理してくれ」
俺のISは全身装甲型。
そう、ヘルメットをしてるから生の映像じゃないので細工が可能なのだ。
そして武器はハンマーからツルハシに変更。
打撃よりこちらのは方がサクッと行けるし手に伝わる不快感が少ないと思うんだよね。
第一陣がそろそろ屋上に到着しそうだな。
よっしゃやるぞい!
「リロード! 援護頼む!」
『ナンパ失敗したコイツに罰ゲームでテキーラ飲ませま~す!』
「ライフルがジャムった! ハンドガンで応戦するからこっちの弾幕は薄くなるぞ!」
『ジャックポットきたぁぁぁぁぁぁ!?』
「一発一発丁寧に撃て! 弾は有限だからな!」
『どうする? もう一件いっちゃう? まだ時間的には行けるよな? 今からもう一件いっちゃいま~す!』
スター小隊は分からないが、ダガー小隊とは多分心の声は一緒だと思う。
一般人の楽しそうな声超うぜぇぇぇ!!
これがリアルタイムだと思うとイライラが二倍だな!
こちとらモザイク顔の肉人形の頭にツルハシの先端を数え切れない程ぶち込んでへきへきしてるんだ!
これは嫉妬しますよ。
酒飲みながら騒いでる男共に嫉妬マシマシだよ!
「なんて思いながらせりゃ!」
首を狙ってツルハシを振るう。
最初はモザイクの中心に突き立ててたんだが……うん、首から下はモザイク処理してなかったから想像以上にグロい物体になったのでやめた。
首を狙えば、上手く当てれば首が飛んでくれるから綺麗に処理できるんだよね。
問題はゾンビの数だ。
最初は余裕だった。
暫くしてから徐々に動かす足が速くなり、今はモグラ叩き並みに忙しい。
これは……やばいのでは?
「スター1! こっちは手が回らなくってきた! このままだとその内抜けられる!」
「人手をやりたい所だが無理だ!」
後ろも大変だが、正面はもっと大変だ。
六人の兵士が休まず銃撃してるにも関わらず、ゾンビの勢いは止まらない。
屋上の入り口には死体の山ができ、その山を乗り越えて絶えずゾンビが顔を出している。
「このままでは物量に押し切られる。ISを使ったとしても、対応できない可能性があるな」
「隊長、どうします?」
「動ける内に動いた方がいいだろう。この場を撤退する! 手頃な屋上を探してそこで陣地を立て直すぞ!」
「ダガー小隊! お前らはこっちのベンチに座れ! 抱えて飛ぶ!」
「助かる!」
「まずはダガー小隊から引け! ダガー小隊の離脱が確認できたらスター小隊はISを使用して離脱する!」
ダガー小隊の三人が銃撃を止め、荷物を抱えながら走ってくる。
弾幕が薄くなり、ゾンビが少しづつ前に出て来た。
三人ともベンチに座ったの確認して空へ。
「各自離脱!」
俺が飛んだのを確認したスター小隊がISを纏って飛ぶ。
銃撃の圧が消えた屋上にゾンビがなだれ込み、あっという間に屋上がゾンビに占拠された。
数の暴力ってやっぱり怖い。
「よしこのまま――ッ!? 緊急回避!」
スター1の言葉が途中でアラームにかき消された。
俺の眼前に今まで見た事がない文字が浮かぶ。
ロックオン警報ってなにぃ?
「対空ミサイルだと!?」
あ、屋上や地面に映画とかで見た事あるミサイル発射装置が見えるね。
なるほどなるほど、ゾンビ映画でありそうなパターンだ。
ゾンビ溢れる町の中に取り残されたが主人公が脱出を目指すタイプの映画で、物語中盤当たりでヘリを見つけるんだけど、暴言が多いタイプのイキったキャラがそれを強奪して自分だけ逃げようとする。
だけど町を脱出できたと思った瞬間にミサイルで迎撃されるんだよね。
そして主人公は空からは逃げれないと知り絶望する。
なんかありそうなパターンじゃね?
「誓って言いますが自分が確認した時はあんなのなかった」
「スター3だけじゃない! 誰も今まで見ていない! 戦地がモチーフなら配備されててもおかしくないが後出しはないだろう!? 各自で対処しろ!」
「待ってスター1! 自分はアクロバット飛行も瞬時加速も使えないだが!?」
ダガー小隊を抱えてるから高速飛行とかも無理! ついでに素人だから正しい対空ミサイルの対処のしかたが分からない! 助けて!!
「その問題があったか。命令を変更する! スター小隊は迎撃に移れ! 一射目を凌いだら地面に降りるぞ!」
俺はスター小隊を盾にするように三人の真ん中に陣取りミサイルに備える。
流々武がどこからミサイルが飛んで来るのか教えてくれるが、残念ながらこちとら素人。
どこが安全でどうすれば避けれるから分からんのです。
君の仕事を無駄にしてごめんよ流々武。
「迎撃!」
お尻に白い煙を付けてミサイルが飛んで来る。
衝撃に備え身構える俺と違い、スター小隊は落ち着いた様子で次々とミサイルを撃ち落としていく。
ミサイルを銃で撃ち落とすって凄くない? ISのサポートがあるとは言え流石だ。
撃ち落とされたミサイル片がそこら散らばる。
思いの外静かな決着……アニメとかでよくある迎撃による爆発って実はないんだっけ?
こちらとしては爆発にビビらなくて良かった。
「よし! 全機降下しろ!」
スター1の指示に従い道路に降りる。
っとゾンビが着地狩りとかしてくるんじゃねーよ!
「頼む!」
「了解!」
着地と同時に周囲に居た襲ってきたので、ベンチに座った状態のダガー小隊をゾンビの方に向けてダガー小隊に処理を頼む。
ありがとうね。
「このまま走るぞ」
スター小隊がISを解除して走り出し、ダガー小隊もそれに続く。
俺も習ってISを解除し後ろを走る。
その間もゾンビが次々と顔を出す。
これは本格的にゾンビパニックの様相になってきたな。
「がぁぁぁ!?」
「ダガー1!?」
お店らしき建物の前を走り抜けた時、ガラスを突き破ってゾンビがダガー1に襲い掛かった。
反応が遅れたダガーの肩にゾンビががっつり噛みついている。
物理攻撃してくるのかよこのゾンビ!?
「うぉぉぉぉ!」
ダガー1が噛みつかれたままゾンビの腹に銃撃を浴びせた。
腹の肉片を飛び散らせたゾンビから、だらりと力が抜け動かなくなる。
ゾンビの頭を力尽くで引き剝がしたダガー1がそのゾンビを投げ捨てた。
「無事か?」
「プロテクターの上からなので問題ありません。しかし守れてない部分を噛めば出血させれる程度の力はあったかと」
「チッ、最悪だな」
悪態をつくスター1の表情を見ると、現状の余裕のなさが見て取れる。
てか束さんや。
人死にが出る可能性がある試練は条約違反では?
喉を噛まれたら下手したら死ぬんだが。
平和な屋上に逃げたいデス。
「スター1、屋上に陣取る予定だったのでは?」
ダガー1の無事を確認して再度走り出す。
俺はスター1の近くに寄って尋ねた。
止まったら囲まれて噛まれるから仕方がないとは言え、このままだと体力が尽きるぞ? 俺の!
「飛ぶ度にミサイルを撃たれてはISのエネルギーがどれだけ消費されるか分からん。ミサイルの発射台を壊して安全を確保する手もあるが、ISを用いればエネルギー残量の問題があり、人の手で行うにはゾンビに囲まれる可能性があるので危険だ」
「だから下に居るしかないと。了解です」
消費したISのエネルギーを回復する手段はないし、憤怒の間でだいぶ暴れたから残量が怖いもんね。
それに、だ。
対束さん用に戦闘できるだけのエネルギーは残したいんだろうな。
「しかし隊長、走りながら戦うのは無理があるかと」
「そうだな。やはり時間まで地下にでも引きこもるか……」
地下に引きこもるのは怖い。
当初の予定ではそれでなんとかなりそうだと予測してたが、この物量はで難しい。
物量で押し込まれたり、集まったゾンビによって物理的に出口が塞がれる可能性があるなどの問題が多いからだ。
『市長、例の話はどうなっているのかね?』
『問題なく進んでいます。一部の環境保護を騒ぐ馬鹿がいますが、メディアにも手を回しているので取り沙汰される心配はありません』
『良い知らせを期待しているぞ』
『もちろんですとも』
おいなんか下手な映画のクズ政治家みたいな奴らがきたぞ!
ワイン片手に気取りやがって……ってかホログラムまで並走するのかよ!
「覚えがある……市長の方は知らないが、もう一人は上議員だったような」
「ダガー1の言う通り、片方の男はベンソン上議員だな」
「……今現在どこかの町で政治家が後ろめたい事をしているって事です?」
「……殺していい?」
「落ち着けスター2,スター3。私たちに私刑は許されない。命令がない限りはスルーだ」
ゾンビに襲われてる最中に議員のやらかしを見せられ、流石のスター小隊もピキピキしている。
ダガー小隊は表情が死んでいた。
守るべき庶民が楽しそうにしてる様子はギリギリ許せるが、政治家が金儲けに勤しんでる様子は流石に許せないよね。
これどうする? このままだと心身共に本当にやばい。
この場を戦闘のプロに任せる……のが正解だと思うんだが! だが!
敵が人工物で道徳に配慮する必要がなく! 継戦能力の優れるISを持ってる俺の出番な気がする!
戦えよと、天ではなく天災がそう言ってるのだ!
あーもーどうする? やるっきゃないの?
どこまでも束さんの手の平の上。
おのれ篠ノ之束ェェェ!!!
…………よし!
「スター1、作戦があります」
「言ってみろ」
「自分が戦います」
「……ISの温存は考えてないのか?」
ISを失えばお前を捕獲すると言う行動もあり得るぞと、そう言われてる気がする。
だが安心して欲しい。
この人工の光の下でも流々武のエネルギーは問題なく回復している。
敵の攻撃を受けず、瞬時加速の連続使用や夜の帳を使わなければ大丈夫だと思う。
「戦闘に巻き込みたくないので、隅の建物にでも身を隠しててください」
「……いいんだな?」
なんか皆さん死兵を見送る目で見てない?
死ぬ気はないのでやめて頂きたい。
元はと言えば俺のやらかしが原因だから尻を拭く気はあるが、いざとなったら逃げるからね?
死ぬ気で戦う気はありません。
他のメンバーはそのまま隅の建物に向かってもらった。
戦闘は控え、隠れてやり過ご様に頼んだ。
冷静に考えて俺が最後まで戦うのは精神的にも肉体的にも無理なので、途中で交代してもらう予定ではある。
今から始まるのは……そう! 無双ゲー!
時代の最先端を行くリアル重視の新作ゲームだ!
「言い訳だけは聞いてやる」
『や、しー君の自業自得だから私悪くないもん。まぁ対空ミサイルの件だけは謝っておくよ。しー君が全員抱えて飛んだらヌルゲーになるから仕方なくね? ごめんちょ』
うーむ、一切の邪気なく言いやがるから始末が悪い。
お前の所業を千冬さんに言い付けてやる……と言いたいが、人形相手のごっこ遊びだろとか言って本気で怒ってくれなさそうなので期待は薄い。
箒にチクろうそうしよう。
「束さんの考えなんて分からんし興味はない。だけど俺を巻き込む以上、多少の覚悟はしてもらうよ?」
分からんと言いつつも、なんとなーく思い当たる節がある。
二次移行の為の布石とか、将来自分関連のごたごたに巻き込んだ時の為の練習とかさ、俺の事を思ってってのがあるだろうね。
半分は面白がってるんだろうなーってのが分かるから感謝はしないが。
だから少し嫌がらせしても許されるよね?
『ほーん? しー君程度がなにするって?』
「篠ノ之束ASMR聞きながら作業ゲーします」
『販売した覚えないんだけどっ!?』
お手製ですので。
ほい流々武さん再生よろしく。
『しー君っ!』
『しー君♪』
『しー君! 』
『しー君♡』
『しー君っ!?』
『しーくーん!』
「どうです? 俺作の喜怒哀楽を含んだ声で名前を呼んでくれる束さん集」
『率直にいい? 気持ち悪いっっっ!!!』
「束さんの罵倒はご褒美です」
『オタク特有の無敵モードに入ってやがるっ!? データは流々武内だよね? ちょっと失礼しますよー? この天災の手に掛かればISのデータなんてすぐに消して……あれ? あれれ? 流々武さんガード硬くない? ちょっと流々武さん、中身みせてくれないかな? おーい? るーちゃーん?』
……俺は別になにもしてないけど、流々武は束さんの嫌いみたいだよ?
反抗期ですなこれはぁ!
「どうでもいいけどダミ声でASMRの音声のノイズにならない様にだけお願いしますね」
『私の声なんだがっ!? くそーっ! 流々武のガードが思いの外硬い! だけどこれでっ――!』
「流々武の内部データ消しても俺の手元に元のデータが入ったボイスレコーダーがあるから無意味ですよ?」
『ちくしょう!』
なのでどうしても消したいなら今から此処に来いや。
ゾンビの大群がお出迎えしてくれるからよぉ!
右手に鉄板、左手にハンマー。
道路の真ん中に立つ俺の元に老若男女……に加えて俺のコピーゾンビが集まってくる。
『しーきゅーん!』
「はーい!」
レアボイスの甘え声きたっ! これで勝つる!
無双ゲーの開始だオラァァァァ!
『うわっきしょ』
ご褒美!
し「篠ノ之束ASMRで脳内麻薬を大量生産してでなんとか乗り切ろうと奮闘中」
た「最初は笑いながら見てたが、力任せで下手な戦い方にイライラして途中で指示厨になった」