俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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剣道大会

 現在俺は小学三年生。

 一夏と箒は二年生になった。

 

 季節は夏、今いるのは近所の体育館、今日は剣道の大会がある、篠ノ之道場の門下生である一夏達が参加するため応援に来ている。

 館内は子供達の声で大変賑やかだ。若いって良いよね。

 

「神一郎、お前は本当に参加しないのか?」

 

 応援席に座り観戦していたら隣の人から話しかけられた。

 

「千冬さん、年齢的に子供に混ざるのキツいです」

 

 隣にいるのは千冬さん。今日はバイトを休み一夏の応援に来たらしい。

 

「なんだ、箒に負けるのが嫌なのか?」

 

 ニマニマと意地悪な質問をしてくる千冬さん。

 俺の実力は一夏相手だと勝ったり負けたり。箒には勝った事がない。

 その事を微妙に気にしているのを知っていて聞いてくるんだから趣味が悪い。

 

「そうですね。子供になっているとはいえ、大衆の前で子供に負けるのは恥ずかしいので参加しませんでした」

 

 こういう手合いは相手にしないに限る。

 案の定、千冬さんはつまらなそうな顔をしている。

 

「ところで千冬さん、せっかくの一夏の晴れ舞台なんですから、お弁当くらい作って来てますよね?」

「む、それは……」

 

 視線を外し気まずそうな顔をする千冬さん。

 先に喧嘩を売ったのは貴女ですよ?

 

「はいはい、どーせ一夏でしょ? 今日試合がある弟に作らせたんですよね? はは愚姉め」

 

 心底馬鹿にした感じで煽ってみる。

 

「誰が愚姉か」

 

 ゴツンと拳骨され、鈍い痛みが頭いっぱいに広がり悶絶する。

 

「お前最近生意気じゃないか?」

 

 こちらをギロリと睨む千冬さん。

 

「年齢云々の話なら生意気なのはそちらなんですがそれは」

「あん?」

「ナンデモナイデス」

 

 親しくなってきた所為で最近互いに遠慮がなくなってきた。

 こんなやりとりが日常化し始めている。

 べ、別に女子高生に睨まれたり殴られたりするのが癖になってる訳じゃないんだからね。

 なんて馬鹿な事を考えていたら、目の前の千冬さんの顔が急に真面目になる。

 

「昨日の晩はソーメンだったんだ」

「夏の定番ですね」

「一昨日はアナゴ丼だった」

「旬のアナゴは美味ですよね~」

「その前はイワシと小アジの天ぷらだった」

「お酒が進みますな」

「私は未成年だーーそれで、なんのつもりだ?」

 

 なんで食料を差し入れするのかを聞いているのかな?

 

「せっかくの夏休みなんで、最近海釣りに行ってるんですよ、それでついつい釣りすぎちゃって。キャッチ&イートが基本な自分としては残すのは論外なんで、食べてくれそうな人に差し入れようかと」

「ソーメンは?」

「ついつい買いすぎちゃった」

 

 テヘッ☆ とウインクしてみた。

 

「はぁ……」

 

 ため息をつく千冬さん。

 お疲れなのかな?

 

「お前には感謝している」

 

 がんばって空気を変えようとしたけど無理だった。

 

「お前のお陰で食卓が豊かになって一夏は喜んでいる」

「それは良かったです」

「お前のそれは同情か?」

「同情ですね」

 

 下手な嘘は無意味なので素直に言う。

 

「私は……私だけの力で一夏を育てると誓った」

「立派ですね」

「だから、もう差し入れなどするな」

 

 なんでこんな場所でこんな重い雰囲気を醸し出すんですか?

 周り見てみろよ。子供も大人も距離置いてるよ。

 

「断ります。貴女が誰に誓ったのか知りませんが俺には関係ありません」

 

 俺の目をジッと見ていた千冬さんはまたため息を吐いた。

 

「そう言うと思っていた。だが、こちらとしてもあまり借りを作ってばかりは決まりが悪い」

 

 そんな事か。

 

「安心してください。ちゃんと下心有りますから。その内まとめて返してもらいます」

「ちょっと待て。どういう意味だ?」

 

 ただの同情だけだと思った? 甘いよ千冬さん。

 

「おっ、あっちで一夏の試合が始まりますよ。さあ応援しましょう」

 

 隣で慌てている千冬さんを無視して観戦した。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「千冬姉はなんで怒ってるんだ?」

 

 順調に勝ち進んでいる一夏と箒と一緒に昼食中。

 一夏がやたら心配している千冬さんは、午前中俺に散々無視されたからやたら不機嫌だ。

 

「お腹が空いてるんだよ。千冬さんの為にも早く食べよう」

「神一郎、覚えていろよ?」

 

 それは俺への借りを忘れないって意味ですよね?

 千冬さんを無視して一夏と箒にお弁当を出す様に促す。

 

「約束通り作ってきた」

 

 一夏がお弁当箱を開ける。

 

「一夏、おにぎりだけなのか?」

 

 千冬さんが意外そうな声を出す。

 一夏のお弁当箱にはおにぎりがぎっしりでオカズがない。

 

「千冬姉、今日はみんなで手分けしたんだよ」

 

 なあ? と言って箒を見る一夏。

 

「千冬さん、一夏はおにぎり担当なんです。オカズは私と神一郎さんが」

 

 箒がお弁当箱を開ける。箒の箱には、卵焼きやポテトサラダなどの軽いオカズが入っていた。

 

「んで、俺の方がこれです」

 

 俺のには唐揚げやミニハンバーグなどのオカズが入っている。

 今回、箒が一夏にお弁当を作りたい。けどまだ凝った料理が作れない。そんな理由から企画したイベントだ。

 一人手ぶらの千冬さんは少し居心地が悪そうだが、自業自得だ。これを機に少しくらい料理を覚えて欲しい。

 

「さて、みんな手を合わせて」

 

 四人とも手を合わせる。

 

「「「「いただきます」」」」

 

 

 

 

「一夏のおにぎり美味しいな」

 

 箒はニコニコと一夏のおにぎりをパクついている。

 

「箒の卵焼きも美味しいよ。一夏もそう思うだろ?」

「あぁ、美味いぜ箒」

「そ、そうか? 口に合ったならなによりだ」

 

 一夏は美味しそうに卵焼きを食べ楽しそうに笑っている。

 そんな一夏を見て嬉しそうに笑う箒。

 良い雰囲気だ。とてもIS世界だと思えん。

 お喋りしながらもみるみる無くなっていくお弁当。

 

「「「「ご馳走様でした」」」」

 

 あっという間にカラになるお弁当。

 まったりとお茶を飲みながら食後の余韻を楽しむ。

 

「午後からは準々決勝だったな。箒と一夏が当たるとしたら決勝か。二人共自信のほどは?」

「俺はこの日に為に千冬姉と特訓したからな、箒には負けないぜ」

 

 自信満々に答える一夏。

 

「私だって負けるつもりはない」

 

 そんな一夏をキリッとした表情で返す箒。

 

「じゃあ勝った方にはプレゼントあげるよ」

 

 そして無駄に煽りに入る俺。

 千冬さんがなにか言いたげだがスルーで。

 

「カモン一夏」

 

 一夏を呼んで二人から少し離れる。

 

「一夏、お前が勝ったら――ーー」

「神一郎さん、それホント?」

「おう、お前だって姉孝行したいだろ?」

「千冬姉とーーか、絶対に負けられないな」

 

 いつになく真剣な顔の一夏。これは楽しめそうだ。

 

「次、箒おいで」

 

 箒がトコトコとやって来る。

 

「箒が優勝したら――ーー」

「神一郎さん。嘘ではありませんね?」

「もちろん、ちゃんと誘うところまでフォローする」

「負けられません」

 

 箒は静かに闘志を燃やしていた。

 

 二人を見送り観客席に戻ると、千冬さんが呆れた顔をで座っていた。

 

「それで今回はなにを企んでいる?」

「せっかくの夏休みなのに、なんのイベントもないとかつまらないですよね? なのでちょっとしたサプライズを」

 

 さてさて、どっちが勝つか楽しみだね。

 

「千冬さん、どちらが勝つと思います?」

「一夏だ」

 

 即答したよこのブラコン。

 

「俺は箒です。それなら賭けません?」

「なんだと?」

「弟が信じられませんか?」

「いいだろう」

 

 負けた場合の内容も聞かずに決めたよこの人。

 こっちには都合がいいけど、束さんとは別の意味で心配になるな。

 

「とりあえず、二人共決勝に進出することが前提なんですけどね」

「相手の動きを見る限り練習通りに動ければ負けないだろう」

 

 流石将来のブリュンヒルデ言う事が違う。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 会場はもの凄い緊張感で覆われている。

 原因は会場の真ん中に立つ二人だ。

 

「箒、俺は負けるわけにはいかないんだ」

「それはこちらのセリフだ一夏」

 

 ゴゴゴッ

 そんな効果音が似合いそうな雰囲気だ。

 なにしろ二人共、準々決勝、準決勝を開始と同時に勝負を決めている。

 千冬さん曰く『覚悟が違う』らしい。

 正直言って煽り過ぎたかもしれん。

 

「神一郎、二人になにを言ったんだ?」

 

 千冬さんは二人の気合の入れように若干引いているように見える。

 

「一夏には温泉のチケット、箒には遊園地のチケットを譲ると……もちろん最終的に両方共にあげるつもりだったんですが」

 

 今更そんなこと言えないな。

 二人が前に出て構える。

 

『はじめ!』

 

 審判の声が響くと同時に。

 

「はぁぁぁ!」

「やぁぁぁ!」

 

 互いに正面からぶつかり合う。

 ギリギリと鍔迫り合い一夏が箒を押す。

 力は一夏が上のようだ。

 しかし、

 

「甘い!」

 

 箒が絶妙のタイミングで力を抜き一歩下がる。

 

「くっ」

 

 一夏が前のめりになり体制が崩れる。

 

「めえぇぇぇん!」

 

 その隙を箒の竹刀が襲う。

 

「だぁぁぁぁぁ!」

 

 一夏は頭を横に振り肩で受ける事により難を逃れる。

 

「ちっ!」

 

 箒はそのまま後ろに下がり一夏の様子を見る。

 互いに距離を置き牽制し合う箒と一夏。

 

「今のは決まったと思ったんだが」

「言っただろ箒、俺は勝たなきゃいけないんだ!」

 

「「はぁぁぁ!!!」」

 

 またも正面からぶつかる両者。

 手数、技量共に箒が上である。

 一夏はなんとか防いでいるがそれも時間の問題に見える。

 

「負けられないんだよ。千冬姉と温泉に行くために!!」

 

 ん? あいつ何言ってんの?

 

「私だって、一夏と遊園地に行くためにも負けられん!!」

 

 こいつも何言ってんの?

 

「「うぉぉぉぉぉ!!」」

 

 激しくぶつかり合う二人。

 

「千冬姉と温泉千冬姉と温泉千冬姉と温泉千冬姉と温泉千冬姉と温泉千冬姉と温泉千冬姉と温泉んんんん!!!」

「一夏と遊園地デート一夏と遊園地デート一夏と遊園地デート一夏と遊園地デート一夏と遊園地デートおぉぉぉぉ!!!」

 

 今俺の目の前で、

 主人公が実姉と温泉に行くためにヒロインを本気で倒そうとしています。

 ヒロインは主人公とデートするためにその主人公を倒そうとしています。

 

 あ、うん、IS世界ってこんな感じだっけ?

 てか箒の叫び声が一夏に届いてないとか凄い集中力だな。

 ちなみに千冬さんは俯いたまま微動だにしない。

 とりあえずあれだ、録画しておこう。将来なにかの役に立つかもしれないし。

 

 ちなみに試合は箒が勝ちました。


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