俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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そうだ、遊園地に行こう。

 セミが鳴く篠ノ之神社の早朝の境内、そこに四つの人影があった。

 

「点呼!」

「いち!」

「に!」

「さん!」

 

 俺の前に並ぶのは二人の子供と一人の大きな子供。

 

「一夏、今日の目的地は?」

「はい! 隣の県にある遊園地、ディステニーランドです」

 

 元気よく答える一夏、うん、子供らしく実に元気だ。

 

「箒、注意事項は?」

「はい! 夏なので水分摂取はこまめに、また、団体行動になるので勝手な行動は禁止です」

 

 口調こそ硬いが、今日の箒はキマっている。この前俺がプレセントした、白いワンピースに麦わら帽子をかぶり手にはお弁当のバスケットを持っている。これでもう少し柔らかい笑顔ができるようになれば一夏もイチコロだと思うんだが。

 服は完璧俺の趣味だけど、嫌いな男はいないはず……いないよね?

 

「束さん、貴女の役割は?」

「はい! いっくんと箒ちゃんを愛でる係りです!」

 

 二人よりも元気一杯に返事をするのは束さん。

 服装はいつも通りだが、今日は箒とお揃いの麦わら帽子ををかぶっている。

 うさみみが帽子を突き抜けているのがシュールだ。

 

「違います。貴女は保護者兼記録係です。年長者としてしっかりしてください」

「え~、年ならしー君の方が」

「千冬さんの抱き枕が完成間近(ボソッ)」

「二人共、今日は束お姉さんの言う事をしっかりきくんだぞ☆」

 

 一夏と箒がまるで変質者を見る目だが、本人がやる気になってくれたからいいや。

 

「それじゃあ移動するよ~」

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 ディステニーランド、近年子供に大人気の遊園地である。

 気が強くぶっきらぼう、でもなんだかんだで人助けをしてしまうツンデレ黒オオカミのシンくん。

 その親友で、いつも物静か、冷静にシン君をサポートするキツネのレイくん。

 二人の友人で姉御肌の紅一点、犬のルナちゃん。

 うん。たぶん経営者は転生者じゃないかな? そう思わずにはいられない設定だ。

 

「さて、二人共なに乗りたい?」

 

 無事遊園地に到着したので一夏と箒に訪ねてみる。しかし。

 

「一夏? 確かジェットコースターに乗りたいと言ってなかったか?」

「向こうは混んでそうだからな、まずは箒の乗りたい物でいいぜ」

 

 二人共互いに遠慮して行き先が決まらない。

 ここは誰かが率先して決めるべきかな?

 

「じゃあ、マスドライバーマウンテンに行ってから、箒が行きたがってた体感脱出ゲーム、タケミカズチ危機一髪に行こうか」

 

 そう提案すると二人共笑顔で頷いてくれた。

 

「ほら行きますよ束さん」

 

 さっきから大人しい束さん、なんてことはない、非常に不機嫌なだけだ。

 

 原因は二つ。

 

 一つは束さんに話しかけてくる人達の存在。

 ISを作り、テレビに出演していた束さんはちょっとした有名人だ。握手やら写真やらを求めてくる人もいる。束さんにはそれが凄くウザったいらしい。

 

 もう一つは。

 

「そ・こ・だ~!」

 

 何かを人混みに向けて投げる束さん。

 ボールの様な物がマスコットキャラのレイ君の頭に当たり、バタッと倒れる。

 

「レイ君!?」

 

 箒の悲痛な叫び声が聞こえる。

 

「束さん何してるんです!?」

 

 一夏は怒りながらレイくんに駆け寄る。

 

「束さんご乱心?」

「なわけないじゃん。アレはそう……スパイなんだよ!」

「な、なんだって~」

「姉さんも神一郎さんもふざけないでください!」

 

 ぷりぷり怒る箒。

 

「まぁまぁ落ち着いてよ箒ちゃん。スパイは本当だから」

 

 そう言って、一夏が介抱しているレイくんに近寄ると。

 

「そーれ」

 

 ポンっとキツネの頭が外れる。

 

「グラサン?」

 

 そこにいたのはグラサンのお兄さんだった。

 

 俺と一夏と箒が驚いてる間に、束さんはどんどん着ぐるみを脱がしていく。

 周りには子供もいるのに着ぐるみ脱がすとか、流石天災。子供の夢をみるみる破壊していく。

 最終的にそこにいたのはメンインブラックだった。

 すなわち、グラサンスーツの男だ。

 

「ぐっ……」

 

 グラサンが目を覚ます。

 

「やーやーお目覚めかな?」

「ひっ! 篠ノ之博士!?」

 

 おいおい、どんだけ怖がられてるんだよ。

 

「博士、これは――」

「あぁ、いいよいいよ。事情は分かってるから。だけど、次はないからね?」

「はい! 失礼します!」

 

 お兄さんは脱兎のごとく逃げ出した。

 

「姉さん、知り合いなんですか?」

「知り合いじゃないよ。でも誰かは知っている。国の下っ端だよ」

「なんでそんな人がここに?」

 

 この様に、束さんには国の監視が付いている。

 せっかくのプライベートなのに常に見られていたらそれはもうイライラするさ。

 それにしても夏場にスーツで着ぐるみとは、なかなか根性のある人だったな。将来大成しそうだ。 

 

「はいはい、二人共言いたい事もあるだろうけど、束さんの相手をしてても時間の無駄だからね。行きますよ~」

 

 わざわざ監視されている事を二人に言う必要はない。

 遊ぶ時は頭を空っぽにするのが大切なのだから。

 

 

 

 以下ダイジェスト

 

 

 マスドライバーマウンテン

 

「もの凄く高いな」

「一夏、怖かったら手を繋いでもいいぞ?」

「束さんには子供騙しなんだけどなぁ~」

「南無大慈大悲救苦救難広大霊感白衣観世音」

「「「おいやめろ!」」」

 

 

 タケミカヅチ危機一髪

 

「箒、ここはまかせて先に行け!」

「一夏を置いて先に行けるか! 私は最後まで一緒にいるぞ!」

「ねえねえしー君。二人共楽しそうだね」

「静かにしてください。トダカ司令官に黙祷中です」

「「「誰だよ!?」」」

 

 

 ウエスタンランド・シューティング・エルスマン

 

「あんただけは、おとす!」

「顕現せよ! 我が力、魔を滅せんがため!」

「これが私の全力全開」

「グゥレイト!!」

 

 

 

 

 

 

 

 時間が進みお昼時、四人で木陰に腰を下ろしシートを広げる。

 

「それじゃあ箒、頼むよ」

「はい」

 

 箒が手に持っていたバスケットを開けると、そこには色とりどりのサンドイッチが詰まっていた。

 

「「おぉ~」」

 

 俺と一夏の感嘆の声が上がる。

 

「全員分作って貰って悪かったね、大変だったでしょ? この借りは一夏が返すから」

「って俺かよ神一郎さん!?」

「俺は遊園地のチケットの貸しがあるからな。一夏はタダ飯する気か?」

 

 そう言うと一夏がバツの悪そうな顔をする。

 

「わかったよ神一郎さん。箒、何かあったら言ってくれ。この借りはちゃんと返すから」

「べ、別に見返りが欲しかった訳じゃないんだが、一夏がそこまで言うなら……そうだな、今度買い物に付き合って欲しい」

「買い物? 荷物持ちならいつでもいいぜ」

 

 いいぞ箒、例え買い物をデートと思わない朴念仁でも、今はできるだけ一緒に居る時間を増やすのが得策。その調子だ。

 

「さて、さっそくいただきますかね」

 

 手を合わせて。『いただきます』そう言おうとした瞬間。

 

「あっ、しー君には別のを用意してあるから」

 

 そう言って束さんが差し出してきたのはお弁当箱。

 

「これは?」

「ふっふっふっ、しー君のために束さんが作ってきたんだよ」

 

 なにそれ聞いてない。

 箒を見る。

 箒は俺と目を合わせようとしない。

 束さんにしては今日は随分大人しいと思ったら、そうか、ここでこんな罠か。 

 

「自信作なんだよ」

 

 目をキラキラさせながらお弁当を渡してくる美少女。

 ダメだ。これは逃げれない。

 恐る恐るお弁当箱を受け取る。

 

 パカッ

 

 お弁当箱を開けると、そこには黒々とした何かがあった。

 

 箒を見る。

 冷や汗を流したまま横を向いている。

 

 一夏を見る。

 目があった瞬間凄い勢いで顔をそらした。

 

「なぁ一夏、お前も「一夏! これなんてオススメだぞ!」「美味そうだな! 貰うよ箒!」」

 

 箒はもう少し俺に優しさをくれてもいいと思う。

 

「見かけは悪いけど、味には自信あるんだよ」

 

 束さんの笑顔が眩しい。

 覚悟を決めて、黒い塊を箸で摘む。

 

 ザクッ

 じゃりじゃり

 

 口の中に広がるのは、まるで砂を噛んだような食感と、豊かな海の味、そうこれはキングオブ赤身――

 

「マグロの刺身?」

 

 俺がそう呟いたら、一夏と箒が信じられないと言った顔で見てきた。

 

「しー君はお魚好きでしょ?」

 

 うん、好きだね。でも問題はそこじゃないんだよ。

 

「束さん、これって元はなんなの?」

 

 マグロの刺身じゃないことだけは確かだ。

 

「それ? ツナおにぎりだよ?」

 

 今度は三人でギョっとした。

 なんでおにぎりが炭になってるのだろう?

 

「これは?」

 

 炭の一つを指差し聞いてみる。

 

「それは卵焼きだね」

 

 良かった。これはちゃんと火が通っている。

 しかしあれだ。これはもしかして“これは卵焼きじゃない。かわいそうな卵だ”ってやつ じゃないか?

 すげーな、マンガ肉レベルのレアモノじゃん。

 

 ガリッ

 じゃりじゃり

 

 口に入れると不快な食感と共に広がるのは、秋の味覚の代名詞、みんな大好きイクラだった。

 

 箸を置きお茶を一口飲む。

 

「束さん。貴女はこの食材に何をしたんですか?」

 

 聞きたくないけど、これ以上は怖くて無理だ。

 

「ちょっと失敗しちゃったから、束さん特製の調味料で味付けを」

「調味料?」

「そそ、そもそも味覚は~って話は長くなるから省略するけど、所詮は電気信号だから、束さんにかかれば舌に好きな味を感じさせる事ができるんだよ」

 

 えっへん! と胸を張る束さん。

 一夏と箒は哀れみの表情で俺を見てくる。

 

 元はただの食材、味が変なのは束不思議科学の所為。

 それが分かれば問題ない。

 一夏、見てろよ。漢の生き様ってやつを。

 

「誤解されない様に言っておきますが、決して美味しいから食べる訳ではありません。食感とか最悪です。しかし“美少女の手作り”で“かろうじて食べれる味”だから食べます。束さんは親に美少女に産んでくれた事を感謝して箒に料理を習うように」

 

 それでは……いただきます!

 

 むしゃむしゃ

 じゃりじゃり

 

 黒い塊を口にかき込めば、マグロ、イクラの他に、イカ、ウニ、サーモンの味もしてくる。そう、これは――海鮮丼!

 口の中の不快な食感にも関わらず味は美味い。

 なんだか頭が痛くなってきた。

 これ脳味噌が拒否反応起こしてるんじゃないか?

 

 残りをお茶で一気に胃に送り込む。

 

「ごちそう……さまでした……」

 

 あぁやばい、ふらふらしてきた。

 だがまだ倒れるわけにはいかない。

 

「一夏、箒、俺は少し寝るから。午後は二人で楽しんでくれ。束さんは俺と荷物番ね」

 

 元々、午後からは迷子になったフリをして、一夏と箒だけにする予定だった。それは束さんには言ってあるから、上手い事やってくれるだろう。

 

「それじゃあ……おやすみ」

 

 俺はそう言って意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと目を覚ますと、目の前には心配そうに顔を覗く束さんの顔があった。

 

「え~と、おはようございます?」

 

 目を動かして辺りの様子を探ると、すでに日が傾きかけている。

 

「おはようしー君、もうそろそろ起こそうかと思ってたんだよ」

「一夏と箒は?」

「二人共今はお土産を買いに行ってるよ」

「そうなんだ――でなんで膝枕?」

 

 できるだけ平静を装う。

 正直もの凄い恥ずかしい。

 ただ、だからと言ってこの頭の感触はできるだけ味わっていたい。

  

「しー君が倒れたの私の所為でしょ? だから、そう、お詫び的な?」

 

 よくよく見ると束さんも恥ずかしがってるようだ。

 恥ずかしいのは自分だけじゃない。そう思うと余裕ができてきた。

 

「そうなんだ。それなら楽しませてもらうとするか」

 

 頭をグリグリと太ももに擦りつけてみる。

 

「ちょっ……」

 

 束さんの頬がみるみる赤く染まる。

 流石にこれ以上はかわいそうだから止めておくか。

 

「…………」

「…………」

 

 無言の時間が続く。

 先に静寂を破ったのは束さんだった。

 

「しー君、私ね、遊園地なんて初めてだったんだよ」

「どうだった?」

「人は多いし、乗り物はショボイし、何が良いのかわかんない」

「つまらなかった?」

「それがね、びっくりした事に、また来たいと思ってるんだよ」

 

 なんでだろうね?

 と首を傾げる束さん。

 天災のクセにたまにアホの子になるなこの子は。

 

「一夏と箒と一緒に遊んだ。って事が大切なんじゃないかな? 大事なのは、何処で遊ぶか、ではなく、誰と遊ぶか。だと思う。束さんは二人と遊んだ事あまりないでしょ?」

 

 ちょっかいかけたり、会話もするけど、今日みたいに一緒に遊んだりしてるのは見たことがない。きっと彼女は妹と弟分と遊ぶのが楽しかったんだろう。

 

「言われてみればそうかも。そっか、なるほどね~」

 

 納得したのか、うんうんとしきりに頷く。

 

「でも――」

「うん?」

「しー君が居たって事も重要なんだからね?」

 

 そう言って笑う束さんの笑顔は、夕日に照らされてとても綺麗だった。




 俺に砂糖製造機の才能はない! 上手くなるには……純愛モノとは読んだ方がいいのかな? オススメあったら教えてください。

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