俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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マッド・ティーパーティー

「ふんふ~ん」

 

 鼻歌を歌いながらテーブルにクロスを敷く。

 篠ノ之家の私の部屋は国の研究所に行く時に空っぽにしたため準備が非常に楽だ。

 壁紙はピンク

 カーペットは赤

 テーブルクロスは青

 目に優しくない色合いだけど、今日の私は狂っている設定だからこれくらい良いだろう。

 

 しー君がちーちゃんにISの弁償を求めた後、二人の間で舌戦が繰り広げられていた。

 ISの修理費は300万円。ちーちゃんは私の笑顔を見て顔を引きつらせた後、なんと値引き交渉してきたのだ。

 曰く、プライバシーの侵害であるから慰謝料を求める。

 曰く、覗きの慰謝料を求める。

 曰く、修理費の友達割引はないのか?

 

 ちーちゃんはお金に困っている。が、お金に汚いタイプではない。

 あんなちーちゃん初めて見た。まさに『必死』って言葉が似合う有様だった。

 しー君もちょっと引いていた。

 そんなに私の笑顔が怖かったかな?

 そうしー君に聞いたら、『貞操の危機を感じたんでしょう』と言われた。

 失礼な。しー君が私に『代価を体で払ってもらえば?』って言うから思わず笑ってしまっただけなのに。

 関係ないがソープの平均相場は3万円らしい。ちーちゃんと100回お風呂に入れたね。関係ないけど。

 

 しー君が慰謝料の平均相場をネットで調べた結果、予想以上の高額でちーちゃんがガッツポーズしていた。

 物的証拠がないから知らんぷりしようとしたけど、しー君に『それはない、流石に友達なくすよ?』と怒られてしまった。解せぬ。

 そんなこんなで借金を減額したちーちゃんにお願いしたのは、『お茶会』 

 ちなみに企画発案byしー君である。

  

 ピンポーン

 

 チャイムが鳴り、箒ちゃんが玄関のドアを開ける音が聞こえる。

 テーブルにお菓子を並べ、最後に帽子を被る。

 部屋のドアが開き、ちーちゃんと箒ちゃんが見えた。

 私は満面の笑みを浮かべ――

 

「ようこそ束さんのお茶会へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人に着替えてもらい、みんなでテーブルに腰掛ける。

 箒ちゃんは恥ずかしそうにハニカミ。

 ちーちゃんは目を閉じて眉間に皺を寄せている。

 

「うんうん、可愛いよ箒ちゃん。その耳も良く似合ってるし」

「あ、ありがとうございます。姉さん」

 

 恥ずかしそうに俯く箒ちゃん。

 それにならうように頭のうさみみがお辞儀する。

 今日の箒ちゃんは、しー君から貰った白ゴスロリにうさみみと尻尾を付けている。

 その様はまさに天使! 心の鼻血が止まらないんだよ!

 

「ちーちゃんも似合ってるよ」

 

 むっつりと黙っているちーちゃんに話しかける。

 ちーちゃんの服装は灰色のパジャマである。

 一見すると、まるで寝起きの王子様にも見えるが。

 ピクピクフリフリと動くその――

 

「ネズミ耳と尻尾がとてもキュートなんだよ~」

 

 しー君に提案されて作ってみたが、これは堪らない!

 感情を読み取り動く耳と尻尾。

 喜楽は普通に動き、怒で激しく、哀でゆっくりと。

 今、ちーちゃんの耳と尻尾は激しく動いている。

 怒っているのはわかる。でも。

 ピクピクピクピク、フリフリフリフリ。

 

「ち~ちゃ~ん!」

 

 我慢できず飛びかかる。

 ダメだ、これはダメだよ。

 殴られるとわかっていても飛びかからずにはいられない!

 

「ふんっ!」

 

 予想通り迎撃される。

 頬に当たるちーちゃんの拳の体温が肌に気持ちいい。

 

「束、契約違反だ」

「えへへ~」

 

 ちーちゃんとの約束で、どんな服装でもするがおさわり禁止、となっている。

 触れないのは残念だけど、こんなちーちゃんを見れただけでも良しとしよう。

 

 今回私はいつもの服装にシルクハットを被っている。

 役所がアリス兼帽子屋だからだ。

 ちーちゃんが眠りネズミ

 箒ちゃんが三月ウサギ

 そう、これはただのお茶会ではない。

 

「それじゃ、束さん主催『マッド・ティーパーティー 』を始めま~す」

 

 

 

 箒ちゃんが紅茶を煎れてくれたのでお礼を言って一口飲む。

 飲食に拘らない派の私でも愛妹が入れてくれた紅茶は格別である。

 コーヒー派のちーちゃんも一口飲んだら眉間のシワが薄くなった。

 流石私の天使だ。

 紅茶を飲んで幸せな気分に浸っていたら、ちーちゃんが口を開いた。

 

「束、今日は神一郎はいないのか?」

「しー君? しー君は旅に出たよ?」

 

 ISの修理が終わった後、しー君はISの練習を二日程徹夜でやり、笑顔で旅立っていった。

 まだまだちーちゃんには及ばないけど、基本的な事は覚えたから大丈夫だろう。

 

「『ちょっと旅行に行ってくる。お土産楽しみにしてて』ってメールが来ましたが、神一郎さんはどこに行ったんですか?」

 

 箒ちゃんが紅茶を飲みながら小首を傾げる。

 

「さあ? たぶん日本のどこかにいると思うけど」

 

 慣れるまでは遠出はしないって言ってたし。

 

「それに今日は男子禁制の女子会だからね。しー君もいっくんも呼んでないんだよ」

 

 いっくんがいたら聞けない事もあるしね。

 

「むふふ、さあ箒ちゃん。せっかくの女子会だからね。箒ちゃんの恋バナ聞きたいな~」

「はう!? 恋バナですか!?」

 

 箒ちゃんの顔が一気に赤くなる。

 

「そうそう、こないだいっくんとデートしたんでしょ? お姉ちゃんその辺詳しく聞きたいんだよ」

「そう言えば、一夏が箒と買い物に行ったと言っていたな」

 

 年上二人に見つめられ、あうあうと唸る箒ちゃん。

 

「その、特別な事はなにもしてません。二人で買い物して、帰りにお茶を飲んだだけです」

「腕を組んだり?」

「してません」

「手を繋いだり?」

「してません」

「わかった! 一つの飲み物を二つのストローで飲んだり?」

「してません!」

「ムムム、しー君てば、箒ちゃんに何を教えてるんだか、なんの進展もないじゃないか」

 

 やっぱり私の出番かな? 姉として箒ちゃんの為にいっくんに素直になれる薬を!

 

「姉さん、心配してくれるのは嬉しいですが、大丈夫です」

 

 箒ちゃんが自信満々に一冊のノートを取り出した。

 

「そ、それは!?」

「これが神一郎さんに頂いた私の切り札。その名も『愛され系幼馴染への道』です!」

 

 でで~ん

 

 高々とノートを掲げる箒ちゃん。

 ノートにはやけに達筆な字で名前が書いてあった。

 私が言うのもなんだけど、もの凄い胡散臭い。

 

「箒ちゃん、見せてもらっていい?」

「どうぞ」

 

 ノートを受け取りペラペラとめくる。

 ちーちゃんも興味があるのか身を寄せて覗いてきた。

 

 えーとなになに。

 

 目指すのはナンバーワンではなくオンリーワン。一夏の一番ではなく、一夏の特別になりましょう。

 一夏は弱音や愚痴を言える友達がいません。姉に迷惑をかけないよう強がる時もあるでしょう。そんな時、箒が弱音を聞いてあげてください。

 一夏はモテます。嫉妬する事もあるでしょう。そんな時は『私の幼馴染は沢山の女性に好かれる良い男なんだ』という寛大な気持ちを持ちましょう。

 一夏は恋愛感情に鈍い男です。一緒に出掛けても、『デート』ではなく『ただの買い物の付き合い』と考える男です。そんな一夏にヤキモキしたり怒ってしまう時もあるでしょう。しかし、良く言えば天然です。そんなちょっとダメな所も愛してあげてください。

 

 意外と書いてあることはまともだ!?

 

「最近、このノートに書いてある通りにしているのですが、前より一夏との距離が近づいた気がします」

 

 紅茶片手に微笑む箒ちゃんからはなにやら余裕が感じられる。

 

「箒の太刀筋や体捌きに最近落ち着きが出てきたと思ったが、なるほど。これが原因か」

 

 ちーちゃんも感心した様に頷いている。

 長期戦の構えなんだ。私としてはもどかしいけど。箒ちゃんが喜んでるならそれでいいか。

 

「次は姉さんと千冬さんの話が聞きたいです」

 

私とちーちゃんの目が合う。

 

「特にないね」

「そうだな。つまらん男しかいない」

 

 きっぱりと言い放つ二人。

 箒ちゃんから同情の視線を感じるのは気のせいかな?

 

「私は、姉さんは神一郎さんの事が好きだと思ってました」

「ごふっ!?」

 

 思わず口に入れたクッキーを飛ばしてしまった。

 ちーちゃんが睨んでくるが、それどころではない。

 

「ほ、箒ちゃん? なんでその結論に至ったのかな?」

「え? だってお弁当作ったりしてますし。一夏とも接し方が違いますし」

「確かに作ったりしたけど、箒ちゃんやちーちゃんが望むなら何時でも作るよ?」

「いらん(いりません)」

「接し方の違いは、いっくんは弟分でしー君が友達だからじゃないかな?」

 

 男友達って初めてだから、箒ちゃんに誤解されてもしょうがない。

 

(千冬さん、実際の所どうなんでしょう?)

(正直私もわからん――試してみるか)

 

 む、私をのけ者にしてヒソヒソ話をするなんて。

 

「そういえば、神一郎は束みたいなのがタイプらしいな」

「ぶはぁ!?」

 

 今度は紅茶を吹き出してしまった。

 ちーちゃんが拳を握りしめているが、それはご褒美なので問題ない。

 

「ちーちゃん、それは誰に聞いたの?」

「一夏だ」

「ほうほう、詳しく聞きたいね」

 

 ぐいぐいとちーちゃんに迫る。

 

「あー、確かそう。胸の大きい女が好みらしい」

「それは当てはまるね」

 

 自分の胸を見る。

 おそらく同年代よりは大きいそれ。

 正直邪魔になる時も多いのだけど。

 

「くふふ、しー君の視線を感じた事が何度かあったけど。そうなんだ。しー君が束さんの胸にね~」

 

 

(千冬さん、神一郎さんの株が下がってもおかしくない所でしたよ)

(すまん、とっさに思いつかなかった)

(それで、どう思います? 私には気があるようにしか見えないのですが)

(人間として好きなのか、異性として好きなのか。それがわからんな)

 

「む~、また二人で内緒話して、束さんも混ぜてよ~」

「あっ、ちょ、姉さん」

 

 箒ちゃんを抱きしめて頬ずりする。

 

「ぷにぷにぽっぺが気持ちいいんだよ~」

「うぷっ、姉さん、息が……」

「束、箒が胸で窒息してるぞ」

「箒ちゃん!? しっかりして~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人でお茶を飲んでお菓子を食べて。

 笑って怒られまた笑う。

 そんな楽しい時間。

 いつまでもこのままで。

 そう思ってしまう幸せな時間。

 けど、それはもう叶わない。

 だって私、篠ノ之束は妹より夢を取ったから。

 別れの時期はそう遠くない。


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