俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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同じキャンプの話でも3パターン書いてしまった。
これはスランプではない、プレッシャーだ……。
文に違和感を感じる人がいるかもしれません。
なんかもう自分でも「あれ? どう書いてたっけ?」みたいになりました。
とりあえず、キャンプ前半をどうぞ(T ^ T)


キャンプはよい文明

 織斑家にお土産を届けたり、箒の誤解を解いたり。ゴールデンウィーク中は暇を見つけてはISで空を飛んだりと充実の日々が過ぎて、五月半ば。

 

「おはよう」

「「おはようございます」」

 

 返事を返してくれたのは一夏と箒。

 千冬さんは少し離れた場所で塀に寄りかかり目をつぶっていた。

 挨拶はちゃんとしなさい! と言いたくなるが、ゴールデンウィーク中は学生には稼ぎ時だ。平然としてる様に見えるけどまだかなり疲れが残ってるのだろう。

 朝早くからの集合なので千冬さんには申し訳ない。なのでここはいい意味で放置しておく。

 

「一夏、箒、忘れ物はないかな?」

「大丈夫です、昨日のうちに準備しておきましたから」

「俺も大丈夫です」

「よろしい」

 

 現在俺達は篠ノ之神社前で束さん待ち。

 一人旅も良いけど、やっぱりみんなで行くキャンプも良いよね。一夏と箒も楽しみらしく、キャンプ場に着いたら何をするか話し合っている。

 と、二人を微笑ましく見ていたら一台の黒いミニバンが見えた。

 

 その車は俺達の目の前で止まると。

 

「箒ちゃん久しぶり~。いっくんはもっと久しぶり~」

 

 後ろのドアが開き束さんが飛び出してきた。

 飛び出した勢いで二人をムギュっと抱きしめる。

 

「ね、姉さん、そんなに久しぶりでもないです」

「束さんにとって、箒ちゃんに1日会えなければそれはもう久しぶりなんだよ」

「た、束さん、苦しいです」

「いっくんてばつれなーい、ほらほら久しぶりの束さんだよ? もっとギュッとしてもいいんだよ?」

 

 いつもよりテンション高いな。無理矢理上げてるのかもしれないが、暗い顔してるよりはよっぽどマシだ。

 

 三人は好きにさせて運転手の方に挨拶に向かう。

 運転席には、青白い顔をしたグラサンのお兄さんがいた。

 この人、前に遊園地で束さんに着ぐるみ剥がされた人じゃないか?

 顔が青いのは車酔いじゃないよね? きっと束さんと二人っきりが怖かったんだね。

 上司の人、この人には臨時ボーナス出してやってください。

 

 こちらの視線に気付いたお兄さんは窓を開け。

 

「こんにちは、自分はた「おいグラサン、お喋りは禁止って言わなかったかな?」なんでもないです」

 

 た、なんとかさんは束さんに怒られ口を閉じた。

 この人は泣いていいと思う。

 力のあるコミュ障って本当に怖いよね。

 とは言え、この人には今日明日とお世話になるし、束さんの暴言に一夏と箒も気まずそうだし。

 

「一夏、箒、俺達をキャンプ場に連れて行ってくれる人だ。挨拶しようね」

 

 そう言うと二人が笑顔でこちらに来る、逆に束さんが不機嫌になるが、車内で楽しく過ごす為には必要な事です。

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

「篠ノ之箒です。姉がわがまま言ってすみません」

「佐藤神一郎です。お世話になります」

 

 三人で頭を下げる。

 

「よろしく、自分はた「一夏、箒、この人はグラ=サンだ」」

「グラ=サンさんですか?」

 

 箒が首を傾げ、一夏は目を丸くしている。

 お兄さんも『えぇ!?』って顔してるが、我慢してください。名前で呼び合ったりしたら、向こうで睨んでいる束さんがさらに不機嫌になるんで。

 

「日系外国人なんだよ。親しみを込めて『グラサン』と呼んであげて」

「グラさんですね。わかりました。よろしくお願いしますグラさん」

 

 箒の純粋な笑顔にグラサンは何も言えず訂正するのを諦めた。

 

「さてと、それじゃあ荷物積んで出発しようか。皆、荷物積むの手伝ってくれ」

 

 荷物を積み込み車に乗り込む。

 千冬さんと束さんが二列目。

 一夏と箒が俺が三列目だ。

 

「それじゃあ、しゅっぱ~つ」

「「「「おー!」」」」

 

 震えながら運転しているグラサンと、お疲れ気味の千冬さん以外の元気な声が車内に響く。

 グラサン、事故だけは気を付けてね。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 途中、スーパーで食料や飲み物を買い、下道を一時間、高速を一時間、車で山道入って一時間と少し、キャンプ場の看板が見えてきた。

 

「もうそろそろ到着だね。一夏、ここは温泉があるから楽しみにしとけ」

「温泉!? 本当に!?」

 

 一夏のテンションが一気に上がる。

 

 温泉があるキャンプ場は注意が必要だ。

 キャンプ慣れしてないと、大自然の中でまったり露天風呂。なんて夢見る人が多いが、実際はそんな良い物じゃない、なにせ落ち葉や虫がプカプカ浮いてるのが当たり前だ。

 夏場なんかは排水口にセミの死骸が詰まったりしてる時もあるしな。

 まぁ、慣れるとそんなもの気にならなくなるけど。ここのキャンプ場は建物の中に風呂場があるタイプだから問題ない。

 

 車が駐車場に入る。

 ゴールデンウィーク明けだからか、駐車場は半分も埋まってなかった。

 

 車が止まり、グラサンが後ろ向き。

 

「…………(パクパク)」

 

 なんか口パクしてきた。

 

「えーと、降りていいんですか?」

 

 俺がそう確認すると。

 

「…………(パクパク)」

 

 今のは『どうぞ』かな?

 そうか、会話を禁止されてるからそんな荒技を……。

 

 車を降りて荷物を降ろす。

 

「それでは博士、私はこれで、明日は12時に迎えに来ます」

 

 そう言って束さんに向かって頭を下げるグラサン。

 哀れすぎる。

 

「グラサン、今日はありがとございました」

 

 俺がそう言うと。

 

「「グラさん、ありがとうございました」」

 

 一夏と箒が続いた。

 そんな俺達に手を振って答えたグラサンは、車に乗り込み帰って行った。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 受付を済ませ、テントの設置場所にテントを張る。

 テントは三つ、篠ノ之家テント、織斑家テント、そして自分のテントだ。

 テント設営が終わりみんなで集合する。

 

「ここからは自由時間です。夕方5時になったらテント前に集合で。それじゃあ解散!」

 

 みんながポカンとしてる中、そこからさっさと離れる。

 ここにはアスレチック場や山道の散歩道あり、そばには小川が流れている。

 この様な場所では余計な事は言わない。子供は放っておいても勝手に遊び始めるだろう。むしろここで『何をすればいいの?』なんて言い始める方が問題だ。

 もちろん、山に入ったりしない様に注意も必要だが、あの二人なら心配ないだろ。

 

 周囲に人がいない事を確認して拡張領域から組立式ハンモックを取り出す。

 それを小川の近くに設置して――

 

「くはぁ~」

 

 ゆらゆら揺れるハンモックに身を任せるこの幸せ。たまらん。

 

「随分オヤジ臭いな」

 

 おろ? 上を見上げると千冬さんがいた。

 

「しー君、それ束さん達の分ないの?」

 

 その後ろには束さんもいた。

 

「ありますよ~」

 

 そう言って拡張領域からさらに二台のハンモックを取り出す。

 

「二人共こっちに来て良かったんですか?」

 

 ブラコンシスコン過保護のお二人にしては珍しい。

 

「箒ちゃんの邪魔したくないしね~――よっと」

「私も今日は英気を養うさ――っと」

 

 二人が俺の隣でハンモックに乗る。

 

「ほうほう、これはなかなか」

「ふむ、結構良いものだな」

 

 どうやらお気に召したようだ。

 三人でのんびりと風に揺れる。

 このメンツでは珍しいくらい静かな空気が辺りを包む。

 

 

 

 

 

 

 

「あー……神一郎?」

 

 沈黙を破ったのは千冬さんだった。

 

「なんです?」

「その……怒ってるか?」

 

 千冬さんにしては珍しくこちらの心情を窺う様な質問だな。

 

「怒ってはいませんよ。ですが、頼み事は次からは素直に正面から言ってください」

「お前に借りを作るのは怖いんだが……流石に今回は悪かったと思ってな。すまなかった」 

「今回は許します」

 

 俺の返事を聞いて千冬さんがホッとした感じで吐息を吐き出した。

 俺から見れば、まぁ、千冬さんの甘えみたいで可愛いものなんだけどね。

 

 

 山から帰った時、世間はゴールデンウィーク間近だった。

 織斑家にお土産を渡したり、箒の誤解を解いたりした俺は、さてゴールデンウィークはどこに行こうかと悩んでいた時、千冬さんにハメられたのだ。

 

 ゴールデンウィークは学生には稼ぎ時だ。

 だが、彼女には面倒を見なければならない弟がいる。

 篠ノ之家に頼む方法もあるが、長い期間頼むのは迷惑だと考えたんだろう。しかし、都合よく暇な奴がいた。それが俺だ。

 ゴールデンウィーク中は千冬さんがほぼ留守にして朝から晩まで働いてる。と一夏から聞いた俺は、ISで遠出したいけど流石に無視は出来ない。と思い、一夏の様子を見たり、一夏にご飯食べさせたり、一夏と箒と遊んでいるのを見守ったりしていた。

 そして気付いた。

 あれ? 俺に帰って来いって言ったのはこの為じゃね? と。

 

 利用されたみたいで最初は気分が良くなかったが、アノ千冬さんが一夏の面倒を誰かに頼むなんて大した成長だよね。

 

 

 

 そして、また静かな時間が訪れる。

 聞こえたのは風の音と川の音だけ。

 

 

 

「ねぇ、しー君」

 

 次に沈黙を破ったのは束さんだった。

 

「なんです?」

「今夜は……一緒に寝てくれないかな?」

「「ごふっ!」」

 

 俺だけじゃなくて千冬さんも呼吸を間違えた様だ。

 今コイツなんて言った?

 

「えっと、なんでですか?」

 

 変な期待をしちゃダメだぞ俺! 落ち着いて対処するんだ!

 

「だって……だって……箒ちゃんと二人っきりで寝るなんて辛いんだよ~!」

 

 あぁ、うん、そうだね。

 今の束さんは箒に対して罪悪感があるから、二人でテントで寝るとか怖いんだね。

 でもね?

 

「やかましい! こんな気持ちのいい場所でそんなネガティブな事考えるな! 風を感じながら心静かにするのが醍醐味なの!」

 

 なんでこの二人は静かに自然を楽しめないかね。

 

「だって~だって~」

 

 束さんはハンモックに揺られながら顔を手で抑えシクシク泣いていた。

 

「そんなに嫌なら千冬さんに代わってもらえば?」 

 

 無理だと思うけど。

 

「ちーちゃん……一緒に寝てくれる? もしくはいっくんと寝ていい?」

「断る。お前と一緒のテントは嫌だし、一夏とお前を一緒にしたくない」

「ちーちゃんの意地悪! 束さんには味方がいないんだよ~」

 

 キッパリと断る千冬さんとさらに泣き出す束さん。

 だよね。せっかくのキャンプだもん。弟と一緒に居たいよね?

 

「それと神一郎、お前、さっきからよからぬ事考えてるだろ? 借りがあるから見逃してるが、あまり調子に乗るなよ?」

「イエスマム」

 

 おっと、風が強まったかな? 一段とハンモックの揺れが強くなったぜ。

 

「それはそうと束さん」

 

 束さんの方に顔を向け話かける。

 

「なんだよしー君」

 

 しかし、束さんは俺からプイっと顔を背けた。

 あ、ちょっとイジケモード入ってる。

 

「俺と千冬さんはいつでも束さんの味方ですよ?」

「っ!?」

 

 耳を赤くする束さんを千冬さんと二人でニヤニヤと見守った。


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