俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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とりあえず嫌な事は飲んで忘れよう

 丸太に座り目の前に目を向けると焚き火がパチパチと音を立てて燃えている。

 その音を聞きながら空を見上げれば満天の星空。

 これぞキャンプの一番の魅力。

 なのに――

 

「なんでアイツ等は早々にダウンしてるかな」

 

 そりゃあね、子供に焚き火や星空をただボンヤリ見つめるだけなんてつまらないかもしれないけど、ちょっと寂しいものがある。

 

「そう言うな。ある意味都合がいいじゃないか」

 

 隣では千冬さんが俺が買って来たおつまみのスルメを囓っている。

 凄く様になって格好良い。

 こう、焚き火の火に照らせれてスルメを囓る姿が様になってると、男としてちょっとジェラシー。

 

「だからって、こっちが気を利かせて二人きりにしてあげたのに、山道を散歩デートでもしてるかと思いきや、まさかひたすらアスレチック場で走り回ってるとは思いませんでした」

 

 ここのアスレチック場 全長100mほどあり、木でできたジャングルジムや川にはイカダを数珠つなぎにした橋があったりと子供心をくすぐる物が沢山ある。

 そこで一夏と箒はずっと遊んでいたらしい。

 どっちが早くゴールするかと言う遊びで。

 つまりアスレチックタイムアタックだ。

 確かにね、一夏と箒には子供らしく遊んで欲しいと思ったよ?

 それがまさか、集合時間ギリギリまで走り回ってるとは思いませんでした。

 テント前に現れた一夏と箒は汗だくで息も絶え絶え、俺が作ったカレーを食べ、温泉に入ってすぐに寝てしまった。

 これからがキャンプの本番だったのに……。

 まぁ確かに千冬さんが言う様に都合が良いと言えば良いんだけどね。

 

「ただいま~。辺りに人影なし。万が一の備えも万全、いつでも始められるよ~」

 

 周囲の様子を見に行ってた束さんが戻って来た。

 束さんは俺の隣にドカリと腰掛け。

 

「それじゃあ始めようか、私と箒ちゃんがより良い未来を掴む為の話し合いを」

 

 

 

 

 

 

 

 なんか偉そうに言ってきた。

 

「神一郎、もう一度温泉にでも行くか?」

 

 千冬さんもイラっときたらしい。

 すくっと立ち上がり去ろうとする。

 

「いいですね。お供します」

 

 俺も立ち上がり千冬さんの後を追う。

 

「ごめんなさい。まじごめんなさい。束さんちょっと調子に乗りました」

 

 束さんは慌てて俺と千冬さんの腕を掴み引き止めようとする。

 

「束、二度目はないぞ」

 

 千冬さんはため息を吐きながら座りなおす。

 仕方がないので俺も席に戻る。

 

「酷いよ二人共、束さんのちょっとしたお茶目だったのに」

 

 束さんは唇を尖らせぶーぶー言ってる。

 

「束さん、ちゃんとしましょうね」

「は~い」

 

 いかにも渋々と言った感じの返事だ。

 ふむ。

 

「それでは改めて、束さんが箒にできるだけ嫌われない様にするための会議を始めましょうか」

「はうっ!」

 

 束さんが胸を抑えて蹲る。

 やはり現実逃避してたか。

 

「千冬さんは束さんの話って聞いてるんですか?」

「あぁ、この前あらかた事情は聞いた」

「そうなんですか、それで束さん、貴女はこれからどの様な行動を起こすつもりですか?」

 

 胸を抑えて唸っている束さんに問いかける。

 

「うん、あのね」

 

 束さんはゆっくりと顔を上げる。

 

「まず、姿を消すタイミングなんだけど、ちゃんとは決まってないんだよ。まだISコアの数も多くないし、行動に移すなら来年かな? それと箒ちゃんの事なんだけど――」

 

 束さんはジッと焚き火の火を見つめている。

 普段のおちゃらけた雰囲気は消え去り、そこには一人の姉としての姿があった。

 

「私は……私は箒ちゃんに謝りたい。しー君に未来の箒ちゃんの事を聞いても自分の夢を譲らなかった酷い姉だけど、許されなくてもいい、ちゃんと謝りたい」

 

 火を見つめながら自身の気持ちを吐露する束さん。

 束さんは人の気持ちを分からない人間だと言われている。確かに、他人はまったく眼中に入れない人だ。けど、身内には違う。

 たぶん原作の束さんは、ヘタレて、嫌われたくなくて箒を避けた。

 それが姉妹の不仲に繋がったんじゃないかな?

 

「しー君、しー君には『箒ちゃんの事考えてね?』って頼んだよね? 何かあるかな?」

 

 束さんは俺に視線を向ける。 

 けど、まるで答えを期待してない顔だ。

 

「すみません、色々考えてみたのですが、箒の身の安全を考えるとやはり国に任せるのが一番かと」

「だよね」

 

 考えた事は一緒だったんだろう。

 俺の情けない答えを束さんは笑顔で許してくれた。

 

「国に任せる以外の選択肢はないのか?」

 

 千冬さんが首を傾げながら聞いてきた。

 

「はい、情けないですが、それが『箒の無事が保証されてる』手段なんです。仮に他の方法を取った場合、どうなるか分からないですから」

 

 俺はISを持っている。ここで恰好良く『俺が箒を守ります』なんて事を言えればどんなに良いか、だが俺は所詮素人、ISを持っていても海千山千のプロ達には適わないだろう。

 でも、国に任せれば箒の身の安全は原作で保証されてる。

 だから、俺がやるべき事は――

 

「束さん、俺が箒の為にできる事は多くありませんが、箒に謝りに行く時は俺も居させてください」

 

 箒の心のケアと姉妹が仲良くできる様に間に立つのが大人の務めだろう。

 

「うん、心強いよしー君」

 

 束さんはどこかホッとした顔をした。

 嫌われる覚悟をしても、流石に一人で箒と向かい合うのは怖かったのかな?

 

「そうそう、束さん、箒に謝るのは姿を消してからにしてくださいね」

「ほえ? なんで?」

 

 束さんは目をパチクリしている。

 

「箒の身の安全を守る為です。箒は束さんが消えた後に国に保護されますが、ただの善意で保護される訳ではありません。『お前は篠ノ之束の所在を知ってるんじゃないか?』と尋問されたり、『篠ノ之束は妹の前に現れるのでないか?』と思われ監視されたりします」

 

 束さんは拳をギュッと握る。

 

「箒は子供で、まだ腹芸なんてできないでしょう、情報目的で束さんの事を聞かれた時、『姉さんは泣きながら謝ってくれました』『いつか迎えに来ると言ってくれました』なんて事を答えたら……最悪、箒を盾に脅迫してくる可能性があります」

 

 篠ノ之束は妹を溺愛している。その妹を盾に取れば手綱を握れるかもしれない。 

 そんな事を考える馬鹿がいるかもしれないし。

 まぁ、あくまで『かも』なんで、そう殺気立たないでください。

 束さんだけじゃなくて千冬さんからも圧を感じる。

 

「だから束さん、貴女は、これからも箒と仲良くして、たまに一緒に遊んで、時期が来たら何も言わず姿を消して――そして箒にゲロの様に嫌われてください」

 

 

 

 

 

 

 時間が止まった気がした。

 

 

「……ゲロ?…………箒ちゃんに……ゲロ?……」

 

 束さんは産まれたての小鹿の様にカタカタと小刻みに震えだした。

 

「束さん、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫大丈夫、箒ちゃんの為だもん、そのくらい覚悟できてるんだよ」

 

 どう見ても大丈夫に見えないが。

 

「なぁ神一郎、箒の為にあえて何も言わないのは理解できるが、一緒に遊ぶ必要あるのか? 箒の人質としての価値を心配するなら、あまり二人を一緒にしない方が良いのではないか?」

 

 千冬さんの疑問は当然だ。

 

「それも箒の為です。楽しい思い出が多いと、束さんが消えた時に受けるショックも大きいでしょう、でも、二人が仲直りした時、それは全部良い思い出に変わりますから」

 

 箒が許さなかったら取り返しがつかなくなる可能性があるけど。

 

「箒の未来が笑顔で包まれてるかは束さん次第です。頑張ってください」

 

 そう言って束さんの頭を撫でる。

 束さんは地面を見ているため表情は見えないが、嫌がる素振りを見せないのでそのまま撫で続ける。

 

「ねぇ、しー君、今までの話でなんとなくは察してるけど、ちゃんと言葉で聞きたい」

「なんです?」

「箒ちゃんはさ、いっくんと未来で会えるんだよね?」

 

 あ、そういえばその辺なにも言ってなかったかも。

 

「近い未来ではありません。長い別れになります。でも、箒がもっと大きくなった時にまた会えます」

「そっか」

 

 束さんはそのまま黙ってしまった。

 箒と一夏が出会えるのはIS学園からか。

 正直、黙っているのは二人に心苦しい。

 特に千冬さんには。

 でも、一夏は将来この世界を救うかもしれない勇者的立場の人間。

 原作でそんな描写があった訳ではないけど、俺が知っているのは一夏が一年生の時まで。

 その先の未来を知らないが、万が一、世界を救う的な事件があったら原作ブレイクの責任取れないし。

 一夏には箒をヒロインとして立派な主人公になって欲しい。

 他のヒロイン達には申し訳ないが――あれ?

 

 そこでふと、二人が付き合った場面を想像した。

 ――もしかして俺やっちまったか?

 つらいわ~。こんな時想像力のあるオタクって損だよね。

 バッドエンドが頭に浮かんだよ。Nice boatもありえるけど、それよりヤバイのが……。

 

「神一郎? どうした?」

 

 俺の様子がおかしかったんだろうか、千冬さんが心配そうに俺の顔を覗いてきた。

 

「な、なんでもないですよ~」

 

 思わず目をそらしてしまった。

 

「いやしー君。それなんでもない反応じゃないよね!?」

 

 復活した束さんにツッコミされた。

 どうしよう、このまま誤魔化す? でも下手したら千冬さんに殺されるかもだし……。

 

「一夏の命に関わる事なんですが……」

 

 ガシっ

 

 千冬さんが肩を掴み俺の体を寄せる。

 目の前には千冬さんのおぱーい。

 仄かに甘い匂いがする。

 そして――

 

「話せ」

 

 耳元でそんな男前なセリフ言われたら惚れちまうだろ。

 ははっ、現実逃避ダメですか? 話しますから力抜いてください。肩が痛いです。

 

「例え話になりますが」

「また例え話か?」

「すみません、ですが、現実的な例え話です」

 

 千冬さんが怖い。

 なぜ昔の俺は軽率な事をしてしまったのか。

 

「未来の一夏が買い物に行きました。一夏の側には4人の女の子がいました。その子達は一夏の事が好きな子達で、みんな恋のライバル、隙あらば一夏を狙うハンターです」

 

 二人は黙って聞いてくれる。

 

「一夏は買い物前に銀行に寄りました。しかしなんと、そこで一夏は銀行強盗に遭遇してしまいます」

 

 千冬さんから殺気が放たれる。

 まだ大人しくしててください。

 

「その銀行強盗は逃げる際に子供を人質に取りました。これに怒った一夏はなんと銀行強盗に立ち向かいます」

 

 千冬さんはそろそろ肩から手を離してくれないかな?

 肩に指が食い込んで痛いです。 

 

「強盗が拳銃で一夏を狙う! 一夏を襲う銃弾! その一夏を間一髪で押し倒し助ける女の子!」

 

 束さんがワクワクした様子で聞いている。

 まさか束さんに安らぎを感じる時が来るとは。

 

「強盗は舌打ちしながらまた一夏に拳銃を向ける。その時、強盗の隙をついて別の女の子達が強盗を取り押さえる!――まぁこれでハッピーエンドなんですけど」

 

 二人共なんとなくでも分かってくれたかな?

 

「もし、一夏に箒って恋人がいたら……」

「いっくんを助ける存在がいなくなるかもしれない?」

 

 理解してくれたか、そう、この世界では、一夏のピンチを助ける仲間はヒロインも兼任している。

 一夏が特定の彼女を作ったらバットエンドになる可能性があるとかIS世界めんどくさいよ。

 俺はなぜもっと考えて行動しなかったのか。

 

「神一郎、それは一夏が箒と付き合ったら死ぬという事か?」

「あくまで可能性ですが」

 

 鈴とセシリアは『寝取ってやんよ』って言いそうだし。

 シャルロットとラウラは『二番目でもいい』とか言いそうだし。

 

「しー君、箒ちゃんはいっくんと付き合えないの?」

 

 束さんの悲しそうな声が耳に届く。

 

「それは……」

 

 男として責任は取るべきだよな。

 

「俺はこのまま箒を応援します。そして二人が付き合って万が一があれば、その時は俺が一夏を助けます」

 

 これ原作介入フラグかな? 嫌だな、IS学園行くのとか超嫌だ。でも箒の失恋を望むとかできないし。

 

「神一郎」

「ちょっと待ってください。今色々考え中です」

「神一郎」

「だから待ってください」

 

 自分でも心の整理とかしたいんで。

 

「一夏の事は心配しなくていい」

「はい?」

「ちーちゃん?」

 

 俺と束さんが首を傾げる。

 

「お前は未来を知っているから責任を感じてるのだろうが、一夏を守るのは姉である私の仕事だ。そして、一夏も男だ、自分の命の責任くらい自分で負えるだろう」

 

 なんて男前のセリフ。

 

「そうだよしー君、いざとなったら束さんがいっくん助けるし」

 

 束さんが笑顔で肩を叩いてくる。

 うん、その銀行強盗は束さんが雇った噂もあるんですけどね? まぁいいか。

 

「そうですね、未来は変わるかもしれないですしね」

 

 今考えてもしょうがない事だ。

 全てはこれからの箒と一夏次第だしな。

 よし。

 

「とりあえず今夜はもうこの辺で大事な話は終わりましょう」

 

 足元のビニール袋から飲み物とツマミを取り出す。

 

「待て神一郎、それ酒じゃないか?」

「ビールですがなにか?」

「お前未成年だろ」

 

 やれやれ、生真面目なんだから。

 

「大人ってのは、楽しい事があれば飲んで喜び、辛いことがあれば飲んで忘れる生き物なんです。まあ? 酒の味もわからんお子様には理解出来ないでしょうが」

 

 そう言って千冬さんの顔の前で缶をプラプラと揺らしてみる。

 

「っ寄越せ」

 

 千冬さんは俺からビールをひったくりそのままプルタブを開け一気にグビグビと飲む。

 

「ぷはっ」

 

 おぉ、いい飲みっぷり。

 

「しー君、束さんも飲みたい」

「はいはい、こっちの甘いお酒どーぞ」

 

 束さんには酎ハイを渡す。

 

「わ~い」

 

 束さんもクピクピと飲み始めた。

 

「千冬さん、こっちの鮭とば美味しいですよ。束さん、これウサギ肉を使ったきりたんぽです。焼きます?」

「おぉ、美味いなこれ」

「共食い!?」

 

 共食いになるんだ。

 

「今夜は飲むぞ~」

「「おぉ~」」

 

 

 

 

 

 

 翌朝、朝霧に包まれ、寒さから身を守る様に三人で寄り添って寝ていた所を一夏と箒に発見された俺達は、その後めちゃくちゃ二人に怒られた。




五人の人間を同時に動かすのが難しかったので、一夏と箒には早々にリタイアしてもらいました。
キャンプの魅力を文で説明するのも難しい。
文才欲しいっす(;_;)

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