俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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明けましておめでとうございます。


新年と抱負と

 

「はぁぁぁ!」

 

 左から相手の胴に向かってスコップを振り抜く。

 その攻撃も相手が一歩下がるだけで避けるが、ここで手は止めない。

 今度は右からの袈裟斬りからの切り上げ、そして、相手が動く前にスコップをハンマーに切り替えつつ右斜めに瞬時加速。

 

 陸ジムの三連QDが最強なんだ!

 

 そう思いながら相手の後頭部に向かってハンマーを叩きつけた。

 これで決まれば――なんて思うのはフラグだよな。 

 

「ふむ、今の動きは中々良かったぞ」

 

 ハンマーの下から声が聞こえた。

 

 ググっ

 

 徐々にハンマーが押し戻される。

 相手――千冬さんは、ハンマーを右手一本で受け止めていた。

 

「だが、まだまだだ。もっと本気で来い」

 

 ハンマーを片手で受け止める相手にどないせいと?

 

「来ないのか? ならこっちから行くぞ」

 

 しまった。

 この人相手に動きを止めるのは失策だ。

 

「次は私の番だな。しっかり受けろ!」

 

 千冬さんのブレードが流々武を掠める。

 

「くっ! ちょっと! 少しは! 手加減」

 

 右、左、時々突き。

 襲って来る刃からひたすら逃げる。

 

「そらどうした? ちゃんと避けないと大事なISに傷が付くぞ?」

「趣味が悪いぞちくしょう!?」

 

 心底楽しそうに笑いながら千冬さんが襲ってくる。

 これ絶対ストレス発散だよ。

 

「そら!」

「なんの!」

 

 上から振り落とされるブレードをスコップの柄で受け止め、ギリギリとつばぜり合う。

 

「ところで千冬さん?」

「どうした?」

「なんで俺達ISで戦ってるんですか?」

 

 今日は正月の予定を話し合うための集まりだ。

 なのに気付いたらこの有様。 

 地下訓練室に入る→千冬さんが部屋の真ん中で仁王立ち→無言でISを展開して襲いかかってくる←今ここ

 どこでフラグが立ったのかがわからない。

 

「お前の訓練の為だろ?」

 

 本当にそう思ってるならそのニヤケ顔やめろ。

 

「冗談だ。そう……怒るな!」

「ぐっ!」

 

 力に負けて後ろに吹き飛ばされる。

 壁に激突する前に空中で姿勢を制御し両足で着地するも、勢いが止まらず両足が地面を削る。

 地面に数メートルの二本のラインを作り、やっと止まった。

 

「千冬さん、いい加減にしないと怒りますよ?」

 

 いくら温厚な俺でもこうも一方的に襲われたらイラッと来るもんがある。

 

「だから怒るな。ちゃんと理由はある」

「聞きましょう」

 

 もしかしたら、万が一にも俺に非があるかもしれないし。

 

「私もそろそろ卒業後を考える時期だ」

「ですね」

「卒業後はISの操縦士になるつもりだ」

「ふむふむ」

「今やIS関連は人気職、しかもIS操縦士は宇宙飛行士になるより難しいだろう」

「――で?」

「こうしてライバルよりも多くISに乗れる事と、対戦相手がいる事。これはかなりのメリットだろう?」

 

 まぁそうだね。

 周りが素人ばかりの中で、一人だけIS経験者、しかもIS同士の戦闘も経験済み。

 かなりのアドバンテージだ。

 

「せめて事情を話してからにしてください。なんでいきなり襲って来たんです?」

「――だってお前、逃げるだろ?」

 

 俺じゃなくても逃げるよ。

 

「まぁなんだ、これも私を助けると思って頼むよ『お兄ちゃん』」

 

 ゾクッときた。

 こんな上から目線の妹ねーよ。

 ――ないよね? ゾクッと来たけど俺Мじゃないし。

 

「しょうがないですね。くれぐれも力加減を間違わないようにしてください」

「感謝する」

 

 再度スコップを構え対峙する。

 千冬さんは俺の出方を伺ってるようで、待っていてくれてる。

 さて、どう攻めようか――

 

 

 パチパチ

 

 

 ん?

 拍手の音が聞こえたのでそちらを見ると、出入り口近くの壁に寄り掛かった束さんがいた。

 

「しー君も結構ISに慣れてきたよね。今の瞬時加速も道具の切り替えスピードもまあまあだったよ」

 

 作り主からお褒めの言葉を頂いた。

 ちょっと嬉しいな。

 でもまぁ、それはそれとして。

 

「死ねぇぇぇぇ!」

 

 束さんに向かってスコップを力の限り投げる。

 

「なんで!?」

 

 束さんはそれをしゃがむ事で避けた。

 こしゃくな。

 

「千冬さん、いきますよ?」

「わかっている」

 

 俺はそのままハンマーを取り出し、瞬時加速で一気に束さんに肉薄。

 一切の躊躇なく振り落とした。

 

「にゃ!?」

 

 今度は横に飛びやがった。

 だが逃がさん。

 

 壁に突き刺さったスコップを引き抜き、束さんに再度投げつける。

 

「おっと――しー君、なんのつもりかな?」

 

 そのスコップもあっさり躱した束さんから冷たい視線が刺さる。

 流石に怒ってるらしい。

 怒りは冷静な判断を失わせるって、なんかのマンガかアニメで言ってたな。

 俺の役目はここまでだ。

 

「束さん、束さん、後ろ」

「ほえ?」

 

 束さんが振り向くと、そこには毎度お馴染みの修羅が居た。

 

「捕まえたぞ」

 

 千冬さんはガシっと両腕で束さんを捕獲。

 

「ちーちゃん? なんで?」

 

 流石に親友にまで狙われるのは想定外だったのか、束さんは珍しく狼狽えてる。

 

「なんでだと? わからないか束?」

 

 そう言いながら千冬さんは束さんを持ちながら大きく振りかぶり――

 

「お前が、馬鹿な事をしたからに決まってるだろーが!」

 

 そのまま勢い良く投げた。

 

「なんでぇぇぇぇ!?」

 

 凄まじいスピードで俺の方に飛んでくる束さん。

 出来るだけ優しく――

 

「にゃご!?」

 

 左手で顔面をキャッチ。

 

「し……しー君?」

 

 束さんの胴体を右手で掴み。

 

「そーれ」

「またぁぁぁぁ!?」

 

 今度は千冬さんにパスする。

 

「へぶっ!?」

 

 真っ直ぐ飛んで行った束さんはそのまま千冬さんの左手に収まった。

 これ、力加減の練習に中々いいな。

 

「はにゃぁぁぁ!?」

 バシン!

「ひにゃぁぁぁ!?」

 バシン!

「ふにゃぁぁぁ!?」

 バシン!

「へにゃぁぁぁ??」

 バシン!

「ほにゃぁぁぁ!!」

 

 あ、段々楽しみだしたぞこいつ。

 束さんは手を前に突き出し、スーパーマンごっこをやり始めた。

 

「千冬さん、そろそろラストにしましょう」

「そうだな――」

 

 千冬さんは飛んできた束さんの頭ではなく、足を掴み束さんを止める。

 

「あれ?――ってちーちゃん!? スカートが!?」

 

 見たことある景色だな。

 束さんは必死にスカートを抑えつつ、ぶらぶら逆さまで揺れている。

 

「いくぞ神一郎――絶」

 

 千冬さんが大きく振りかぶる。

 

「天狼――」

 

 マサカリ投法ばりに足が高く上がり。

 

「抜刀牙!」

 

 千冬さんの気合が入った声と共に、束さんが凄まじい勢いで発射された。 

 

「ぎゃぁぁぁ!?」

 

 縦に回転しながら叫び声を上げる束さん。

 

 ごめんね束さん。

 それ必殺技だから。

 しかも俺に投げるって事は当たったら俺が死んじゃうから。

 

「回避!」

 

「受け止めてよォォォ!?」

 

 束さんの叫び声が俺の頭の上を通り過ぎる。

 その一瞬後、後ろで何かが壁に激突する音が聞こえた。

 

 

 

 

「痛いよぉ、頭が割れちゃうよぉ」

 

 数分後、束さんは頭を押さえながら正座していた。

 よほど痛かったらしく、ぐすぐすと泣き始め、少し幼児化してしまった。

 

「束、なぜ私と神一郎が怒ってるか理解しているな?」

 

 そして、千冬さんには泣き落としは効果がないようだ。

 俺も今回は止める気はない。

 

「な、なんでって? なんで?」

 

 うむ、やはり束さんの涙目上目遣いは秀逸だな。

 

「――クリスマスの事だ」

 

 そんな束さんを、千冬さんは見下ろしながら睨み付ける。

 

 そう、『クリスマス』

 本来なら、パーティーの一つでもやろうとしていたが、千冬さんの予定が埋まっていたため、今回はお流れになった。

 箒は残念がっていたが、千冬さんが不参加じゃ一夏も気後れするだろうと説得し、今回は我慢してもらった。

 だから、今年のクリスマスは各々が家族と過ごすまったりした聖夜にしようと。

 そんな方向で話しは纏まっていた。

 

「くりしゅましゅ?」

 

 束さんは、本気で分かってないようで首を傾げている。

 

「――お前が、クリスマスの朝やった事を思い出せ」

「えっと、サプライズでいっくんにプレゼントを」

 

 おや?

 俺の名前がないぞ?

 

「束、お前はあの巫山戯たプレゼントを貰った一夏が、本気で喜ぶと思ってるのか?」

 

 千冬さんの目付きは更に鋭くなり、拳は強く握り締められ腕の血管が浮かんでいる。

 

「だって、いっくんの独り寝が寂しそうだったから……」

「だからと言って“抱き枕”はないだろうが!!!」

「ひゃい!?」 

 

 千冬さんの怒鳴り声が周囲に響く。

 束さんは目に涙を溜めてプルプル震えている。

 一夏の部屋に無断で侵入した上にあんなモノを置いていくとは! と怒っていたのを見たが、まさかここまでとは。

 

「束さん、興味本位で聞きますが、どんな抱き枕を?」

 

 流石にちょっと可哀想になってきた。

 俺も束さんに思うことはあるけれど、動機としては悪くないので少しフォローしてあげようか。

 

「? 前にしー君と一緒に作った『チフユ・リリー』を元に作った『チフユ・サンタ・リリー』をプリントしたやつだよ?」

 

 おーい?

 なんて物作ってるの?

 千冬さんの前で言うなよ。

 そして俺にもそれをくれ。

 

「神一郎」

「――はい」

「座れ」

「はい」

 

 大人しく束さんの横に座る。

 今はどんな言い訳も通じないだろう。

 

「お前も一口噛んでるみたいだな? それで? その『リリー』とはなんだ?」

「簡単に言いますと、千冬さんを子供にして、愛嬌をました感じです」

 

 最初は純粋に好奇心だったんだ。

 束さんに千冬さんの数少ない子供の頃の写真を見せてもらったのだが、可愛いは可愛いが、如何せん目付きが悪い子供だったので、それを修正し、フリフリの服を合成した。

 『チフユ・リリー』の誕生の瞬間だった。

 

「お前達に言っておく。全てのデータ及び写真を破棄しろ。あぁ――別に今の状況から逃げる為に口約束をして隠して持っていてもいいが、次私の目に入ったら……持ち主を切り殺す。いいな?」

 

「「了解しました」」

 

 俺と束さんの返事が被る。

 これまじ無理。

 白騎士のブレードで頬をペチペチされながら、『いいな?』なんて言われたら嘘もつけない。

 

「あの~ちーちゃん? 抱き枕はどうしたの?」

「細切れにしてゴミにした」

「なんで~!?」

 

 束さんの目から涙がドバッと溢れる。

 

「あんな可愛いらしいちーちゃんを細切れにするなんて!? なにが気に入らなかったの!? いっくんが可愛想だよ!」

「一夏が気に入るわけないだろ? 私は姉だぞ?」

 

 束さんの勢いに押されて千冬さんが一歩下がる。

 

「いっくんは気に入ってたよ?」

「は? なにを言って――」

「気に入ってたんだよ?」

「なに――を――」

「はい! そこまで!」

 

 千冬さんと束さんの立場はいつの間にか逆転していた。

 だが、それ以上はいけない。

 一夏が千冬さんだと知っていて気に入ったのか。 

 気づかずに同い年の可愛い子だと思っているのか。

 それともサンタコスが良かったのか。

 それは一夏のみぞ知る。

 ここで暴いても誰も幸せにならないだろう。

 

「で、束さん、俺へのアレはなんのつもりですか?」

 

 千冬さんの為にも話をぶった切る。

 

「アレって……アレレ?」

 

 おいこら忘れてるのか。

 

「俺の部屋のパソコンとか電話を弄りましたよね?」

 

 クリスマス前に、俺の家の家電が変になった。

 意味が分からなかったが、束さんのなりのクリスマスプレセントかな? と思ったんだが。

 

「ん~、家電? ってアレかな? 束さんの嫌がらせの事かな?」

 

 ……まさかの嫌がらせだった。

 俺は束さんに対して甘すぎたのかもしれん。

 

「神一郎は何をされたんだ?」

「――アメリカに行った事は話しましたよね? その時の会話を録音してたらしく、家電からその音が聞こえるんです」

「正確にはしー君の告白だね」

「束さんは黙っててください」

 

 隣に座っている束さんを睨むも、束さんはニマニマと笑うだけだ。

 俺なんか怒らせる様な事したか?

 

「家電から声? どんな状況だそれは」

「電話やメールの着信音が、『俺は束さんの事が好きです』って音声なんです。そしてパソコンのスクリーンセーバーが罰ゲームでやった赤ちゃんプレイの動画になっていました」

 

 夜、パソコンでネットサーフィンをしていたら急に電話から自分の声が聞こえてかなりビックリした。

 それに驚いて、パソコンから目を離したら、虚ろな目であぶあぶ言う自分が映っていた。

 スクリーンセーバーらしかったので直そうとしたが、変更不可。

 しかも5秒パソコンに触らないと始まる鬼仕様だった。

 

「別にしー君の事が嫌いなわけじゃないんだよ? でもさ、アメリカか帰って来てからさ、『あれ? 私って振られたのかな?』って思ったら、モヤモヤイライラした気分になっちゃったから。ストレス発散の為の嫌がらせをしちゃった」

 

 とても良い笑顔でそんな事言われてもね。

 これはどうすればいいのか。

 

「神一郎、ちょっと来い」

 

 悩んでいると、千冬さんに腕を掴まれ引っ張られた。

 

「千冬さん?」

「束、そのまま座っていろ。余計な事は何もするなよ?」

「はーい」

 

 腕を掴まれたまま束さんから離れた所まで連れてかれる。

 

「神一郎、余り束のことを怒らないでやってくれ。いや――怒ってもいいが、その後はちゃんとフォローしてやってくれ」

 

 至極真面目な顔で、千冬さんは変なことを言ってきた。

 

「いきなりなんの話です?」

「いいか? 束が気に入ってる相手に純粋な嫌がらせをするのは普段ないことなんだ。基本的には“良かれと思って”の精神があるからな」

「確かに、千冬さんや一夏には純粋な嫌がらせはしませんね。結果はほとんど嫌がらせですが」

「だろ? アメリカでの出来事が契機だと思うが、私はこれをチャンスだと思っている」

「チャンスですか?」

「そうだ。“友達に嫌がらせをする”決して良い事と言わないが、まるで普通の人間じゃないか?」

 

 束さんは一応人間ですよ?

 でもまあ、言わんとすることは分かる。

 友達にちょっとした悪戯をするなんて良くある話しだ。

 

「私はこれを機に束に普通の人間らしい感情を持たせたいと思っている。別に特別な事をしろとは言わん。ただ――これからも束を頼む」

 

 千冬さんはまるで娘を嫁に出す父親の様だ。

 

「千冬さんて、束さんのこと意外と好きですよね」

「――ただの腐れ縁だ」

 

 そう言って、ぷいっと顔を背ける千冬さんの耳は僅かに赤くなっていた気がした。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 1月1日

 神社関係者の元日は忙しい。

 

 

「こらそこ! 列からはみ出るな!」

「きゃぁ~千冬様に怒られちゃった~」

 

 千冬さんは初詣参拝者の列を整理し。

 

「織斑君! 恋愛成就のお守りください!」

「えっと、色々種類があるんだけど――」

「一番高いの!」

 

「おみくじは一回百円です。一万円ですか? 少々お待ちください。姉さん、お釣り用の小銭が切れそうなので準備お願いします」

「お安い御用だよ箒ちゃん」

 

 一夏、箒、束さんは売店で売り子を。

 

「甘酒は一杯百円です。温まりますよ~」

 

 俺は売店の横で甘酒を売っていた。

 

 忙しいと言っても、都会みたいに夜から朝まで引切り無しに人が来るわけではない。

 テンションの高い若者などが多いが、ご年配の人は日が昇ってから来る人が多い。

 つまり、深夜2時を過ぎたあたりから人は一気に減る。

 

 そして深夜3時過ぎ。

 

「疲れた~」

「ほら一夏、お茶だ」

「ありがとう箒」

「なんか去年より人多くなかった?」

「束さんのせいだと思うよ? ネットで『篠ノ之束の巫女姿見れるんじゃね?』って書き込みあったし、束さんを見てがっかりしてた男性が結構いたよ」

「外見だけは良いからな束は」

 

 境内の裏に集まるいつものメンバー。

 

「それで神一郎さん、今から何をするんです?」

 

 一夏がワクワクした顔で聞いてきた。

 その隣では箒が目を輝かせている。

 急な集合やイベントに慣れてきてくれてお兄さんは嬉しいよ。

 

「今から富士山に登って、初日の出を見ます!」

「「え?」」

「今から富士山に登って、初日の出を見ます!」

 

 大事なことなので二回言いました。

 いやね、若い頃は、『富士山で初日の出ってダサくない? どこのミーハーだよ』とか思ってたんだけどね。

 いざ自分が年取ると、なんか凄く素敵な事に思えてきたんだよな。

 

「あの…でも……」

 

 一夏が申し訳なさそうにチラチラと千冬さんを見る。

 

「一夏が心配してるのは千冬さんのバイトだろ?」

「――はい、千冬姉は朝からバイトを入れてたはずです」

「大丈夫なんだなコレが。ね? 束さん」

「うん、大丈夫だよいっくん、バイトが始まる前に戻ってこれるから」

「だそうだ。一夏、時間は気にするな」

 

 束さんの笑顔を見て、一夏がほっとした顔を見せる。

 

「さて、まずはカゴを用意します」

 

 束さんが指を鳴らすと、熱気球に付いている様な、大きなカゴが現れた。

 

「それじゃ、三人は先に乗ってね」

 

 束さんに促され、一夏、箒、千冬さんがそれに乗り込む。

 

「次に、いっくんと箒ちゃんはこのアイマスクを付けてください」

「姉さん? なぜアイマスクを?」

「いいからいいからお姉ちゃんを信じて」

 

 二人の疑問に答えず、束さんは強引にアイマスクを付けさせた。

 今回ばかりは千冬さんも束さんを見逃した。

 

「寒くないよう毛布を被せるね。ちょっと揺れるかもだから、二人共ギュッと抱き合った方がいいかも」

「姉さん、からかわないでください。でも、危ないならしょうがないですね。一夏、もう少しこっちに」

「ほ、箒?」

 

 おぉ! 大胆だな箒。

 アイマスクで見えてないからこその行動なんだろうけど。

 

「ちーちゃん、二人をよろしくね?」

「あぁ、お前の方こそ頼むぞ」

「まっかせなさ~い」

 

 最後に千冬さんが乗り込み準備完了だ。

 

「あれ? 神一郎さんは乗ってます?」

「俺なら千冬さんの隣にいるぞ?」

「千冬姉の? でも声が聞こえる場所が――」

「一夏、大人しくしてろ。時間は限られている。そろそろ出るぞ」

 

 危ない危ない。

 さてと、『流々武』展開。

 

 ISが展開されると同時に、束さんが肩に飛び乗る。

 

(束さん、二人に負担が掛からないように頼みますよ?)

(がってんだよしー君)

 

 声を聞かれないようにISコアのネットワークでやり取りする。

 そして、俺はゆっくりとカゴを抱きかかえた。

 

「富士山に向けてしゅっぱーつ!」

 

 束さんの声で、流々武は元旦の空に飛び立った。

 

 

 

 

 安全運転を心掛け、1時間と少し、俺は富士山の中腹近く、木々の間に降り立った。

 カゴを揺らさないように、静かに地面に降ろす。

 中を覗くと、一夏と箒は互いに寄りかかりながら寝息をたてていた。

 写真は……ダメだ。

 フラッシュで起こしてしまう。

 いや、どっちにしろ起こさないといけないんだからいいか。

 束さんとアイコンタクトの後、二人でカメラを構える。

 

 パシャ

 パシャパシャ

 

 二人が光で目を覚ます僅かな時間が勝負!

 連続で撮りまくる。

 

「う~ん」

「あれ? もう朝ですか?」

「二人共起きな。着いたよ」

 

 目を擦る二人が周囲を見回した後、驚いた顔をした。

 

「ゆっくり深呼吸してごらん」

 

 俺に言われ、一夏と箒は気持ちよさそうにゆっくりと呼吸する。

 夜の静寂に包まれた森はとても神聖だ。

 冬の澄んだ空気が体を一気に目覚めさせる。

 

「先頭は千冬さんと束さん、その次に一夏と箒、俺が最後尾な。暗いから足元に気をつけてね。目的地までは歩いて15分ほどだから」

 

 今回の目的地は頂上ではない。

 人が多い所は束さんが嫌がるので、人気がない場所を選んだ。

 直接そこに行くのもいいけど、二人には冬の森を感じて欲しかったので、わざと少し離れた場所に降りた。

 

 虫も動物もいない静かな森の中に、五人の足音だけが響く。

 誰も何も喋らない。

 だけど、気まずい訳ではない。

 とても居心地の良い静けさだった。

 そして、ついに目的地に着いた。

 

 俺達の目に前に現れたのは大きな岩だ。

 周囲に生えている木よりも高さがある。

 つまり、これに乗れば、木々に邪魔されることなく朝日が見れる。

 千冬さんが一夏を。

 束さんが箒を抱きかかえ、岩に駆け登る。

 俺は二人にバレないよう足だけISを展開し後に続く。

 

 まだ日の出でまだは時間があるので、岩の上で腰を下ろしながらその時を待つ。

 そして――その時が来た。

 

 中腹とはいえ、ここは十分見渡しが良い。

 地平線の向こうの空が白ずむ。

 ゆっくりと、太陽が顔を出した。

 

 みんな静かだった。

 束さんでさえ何も言わず太陽を見ていた。

 何を考えているかはわからないが、横顔を見る限り退屈してる訳ではなさそうだ。

 

「そろそろ帰るか」

 

 太陽が完全に姿を見せたあたりで千冬さんがそう切り出した。

 確かにもうそろそろ帰らないといけない時間帯だ。

 だが、俺にはまだやりたい事があった。

 

「最後に、千冬さん、ちょっとここに立ってもらえます?」

「ここか?」

「そのまま腕を組んで、足を少し開いてください――はい、オッケーです」

 

 普通に見れば、ただ初日の出を見てるように見えるが、見方を変えるとちょっと違うのだ。

 束さんを手招きで呼んで、千冬さんの後ろでしゃがむ。

 

「しー君! これは!」

「束さんへの日頃の感謝のお礼です。後、俺も一度はやってみたかったので」

 

 俺と束さんは、千冬さんの後ろから日の出を見ている。

 正確には、千冬さんの足と足の間と言うべきだが。

 そして、自分で角度を変えて見ると、千冬さんの股間に太陽が重なり――

 

「最高だよしー君。私は初めて『神々しい』の意味を知ったよ」

「作法としては手を合わせるべきです。一緒にやりましょう」

 

 パンパン

 

 二人で柏手を二回し、頭を下げる。

 千冬さんのお尻に向かって――

                                                                          

 

 

「なぁ? さっきまでの神聖な気持ちはどこにいった?」

 

 いつの間にか千冬さんがこっちを向いていた。

 俺と束さんは頭を掴まれ、ギリギリと頭蓋が軋む音が聞こえる。

 俺にいたっては身長差もあって、足が少し浮いている。

 

「ちーちゃん待って! なんか耳から出そう! 今回は私は悪くないもん! 発案はしー君だよ!」

「あ゛ぁ! 俺もなんか出そう! 落ち着いて千冬さん! 子供の軽い悪戯じゃないですか!」

「そうか、子供の悪戯か――ならお仕置きが必要だな」

「「あ゛あぁぁぁ!」」 

 

 千冬さんの指が頭にめり込んでる錯覚を受ける。

 だが俺は謝らない。

 俺の今年の抱負は、『束さんに笑顔の一年を』だからだ。

 それが、束さんを見捨てる俺が出来る謝罪の気持ちだ。

 だけど、ちょっとやり方間違ったかも――

 

 その後、俺と束さんは、初めて『痛みで気を失う恐怖』も知った。




なんか、一話一話の綺麗な終わり方がわからなくなってきた。
自分で読んでてもコレジャナイ感が(><)

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