俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~ 作:GJ0083
自分の作品を読み返していたら、話しのぶつ切り感の酷さや、深夜テンションで書いたネタの滑り具合にへこんでました。
今回は加筆修正版に近いです。
書いたり消したり繰り返してました。
そのせいで文字数が過去最多……。
これ以上はエタりそうなので投稿します。
休日に書いた5千文字を次の日に消す。
変な笑いが漏れましたウケケヽ(;▽;)ノ
秋には魅力が一杯だ。
食欲の秋
スポーツの秋
読書の秋
秋に何をするかは人それぞれだと思う。
ちなみに俺の場合だと――
①織斑家に山菜の差し入れをする(松茸は入ってない)
②一夏と一緒にグルメ番組を見る(松茸が美味そう)
③織斑家にインスタント食品を届ける(松茸のお吸い物と松茸の炊き込みご飯の素)
などをやっていた。
誤解しないで欲しいんが、これは別に嫌がらせではない。
貧乏な学生に『お前は松茸食ったことないもんな~』なんて煽ってる訳ではないのだ。
これはいつも通りの素直になれない千冬さんへの対策だ。
夏に千冬さんに貞操を守ってもらったので、その恩返しにまた温泉でもと考えているのだが、正面きって誘っても断られるのは目に見えてる。
だからまず、一夏から落としにかかっている。
予約した旅館は山菜が美味しい宿で、秋は松茸の土瓶蒸しなどが目玉だ。
一夏の松茸に対する期待値を高めた後、千冬さんに『一夏に松茸食べさせたくないですか?』と振って、断りづらくさせるのが目的。
くっくっくっ。
織斑千冬、お前は素直に俺の接待を受けるしかないのだよ!
「随分長い独白だったね。だそうだよ。ちーちゃん」
「はぁ、相変わらず回りくどい事を」
「もう立っていいですか?」
「まだ座ってろ」
「イエスマム」
なんて、偉そうな事を言っておいて、早々に俺の行動がバレて呼び出しからの正座&尋問が始まってるんだけどね。
「しー君。その宿ってどんなとこ? 夏の海水浴場みたいに、また人が多いの?」
「安心してください。部屋数は3つしかない隠れ家的な宿です。部屋は全部予約してあるので、俺達の貸切ですよ。なので秘密の話しをするのにも持ってこいです。これから先の事もそろそろ話したいですし」
「それはいいね。ちーちゃん、せっかくの好意だし素直に受けたら?」
「――お前は簡単に言うがな。体裁ってものが……だいたい、未来のことを話すなら別に此処でもいいだろ?」
「「風情がない」」
「お前らはまったく――」
貸切と聞いて笑顔になる束さんに比べ、千冬さんは未だ迷っているようだ。
年齢的にはこちらが上だから気にしなくていいにの。
それに、真面目な話しをするならそれなりの場所がいいだろ?
「千冬さん。あの夏、俺は全てを失うところでした。貞操、男の尊厳、それらを守ってくれたのは他でもない、千冬さんです。どうか俺の気持ちを受け取ってくれませんか?」
「しー君、辛かったんだね」
束さんがわざとらしくハンカチで涙を拭いているが、自分が元凶だと分かっているのだろうか?
「――そうか、そこまで言うならお前の気持ちを受け取ろう」
正座中の俺を渋い顔で見下してた千冬さんだったが、初めて笑顔が見れた。
「だが、何度も言っているが、私を動かすのに一夏を巻き込むな。一夏がテレビで松茸を見るたびに、『松茸も食べさせられないなんて』と暗い気持ちなるのは私なんだぞ」
「そしたら俺に『お兄ちゃん、千冬、松茸食べたいの』って言えば解決しますよ?」
「バカを言うな。私の家族は一夏だけだ」
千冬さんにコツンと頭を叩かれる。
さっきまで殺伐とした空気はなくなり、穏やかな雰囲気になった。
良かった良かった。
「それで、これからどうします? ISで模擬戦でもしますか?」
せっかくの地下秘密基地なんだし、少しISを動かしたい。
「そうだな。時間もあるし、少し体を動かすか」
「了解で――っ!?」
立ち上がろうとして、失敗した。
そう言えばずっと硬い床で正座したままだった。
「ん? 痺れたのか? 足を崩して少し休んでろ」
「そうさせてもらいまっ!?」
足を触られ、ビクッとする。
後ろを振り向くと――
「つんつん」
真剣な顔で俺の足をつんつんする束さんがいた。
さっきまで千冬さんの後ろにいたのに、いつの間に後ろに? そしていつの間に俺の靴を脱がした!?
「なにしてるんです?」
「ん~? 検証? 私って正座で足が痺れた事ないんだよね」
天災は正座にすら強いのか。
「ところで束さん。もう俺の尻は諦めましたよね?」
「――ちーちゃんにしこたま怒られたからね」
俺の足を触っている束さんの指がぶるぶると触れえている。
一夏や箒の前でふしだらな事をするとは! ってめっちゃ怒られてたもんな。
「当たり前だ。一夏や箒がいるというのにお前等ときたら」
「俺は被害者なんですが?」
「一夏と箒の前でやましい事を考えてたお前も同罪だ」
しょうがないじゃん。
束さんがエロかったんだよ。
「あ、そうそう、ちーちゃん」
「なんだ?」
「しー君は色々言ってたけど、宿の予約は去年からしてたからね? そんなに都合よく貸切とか出来るわけないじゃん。騙されちゃダメだよ?」
「――ほう?」
なんで余計な事言うかな?
せっかく上手く話しがまとまりそうだったのに。
だってさ、千冬さんの、『くっ、悔しいが一夏の為だ』って顔が大好きなんだもん。
気の強い女の子が悔しそうな顔をして下唇を噛む姿って萌えない?
俺は萌える。
「言っておきますが、恩返しの気持ちは本当ですよ?」
「そうか、一度受けると言ったんだ。取り消す気はないが――」
千冬さんが俺の後ろに回り込み、束さんの隣にしゃがみ込む。
なんだ?
「やはりその性格は矯正するべきだな」
「あいっ!?」
ぬぉ、足の裏をグリグリと!?
「束、左は私がやる。お前は右だ」
「お任せだよちーちゃん」
「ひゃい!?」
今度は左をグリグリと!?
「反省しろ」
「これも実験だよしー君」
って足つぼ押してるじゃないですかやだー
「あだだだだ!?」
「ふむ、内蔵が弱いな。外食ばかりするからだ」
「しー君は流々武で色々行ってるもんね。春先には日本全国のラーメン食い倒れツアーとかやってたし」
「朝は函館で塩ラーメン。昼は仙台で味噌。夜は博多豚骨。幸せでしたぁあだだだ!?」
「少しは体に気を付けろ。また早死したいのか?」
正論だけど酷い!?
せっかくどこにでも行けるんだからちょっとの贅沢くらい良いじゃないか!
「まったく、美少女二人にモテモテで辛いぜ」
「1ミリもそんな事思ってないから。捏造は止めろ」
まるで俺の心のセリフの様な嘘を言うなし。
「ほうほう、ちーちゃん、私達って可愛くないらしいよ?」
「みたいだな、もう少しお仕置きが必要だ」
「勘弁してくださいお姉さま方!?――あいだだだ!?」
なんだかんだありながらもIS世界は今日も平和です。
◇◇ ◇◇
そして一泊二日温泉旅行当日。
いつも通りにグラサンの車でやって来たのはとある山の麓。
山の入口から山中の旅館まで歩いて30分ほど。
せっかくの秋の山なので、紅葉狩りを楽しみつつ、歩いて山中の旅館に向かう事になった。
舗装されてないとは言え、道幅は大人二人が並んで歩けるくらいある。
一夏と箒もこれくらいならたいして疲れないだろう。
運動の後の温泉最高だしな!
「そんなこんなでやって来ました秋の山! これから山を登りますが、舗装された道ではないので足元に注意するように。猪などに遭遇する可能性があるので、エンカウントしたらすぐに千冬さんの後ろに隠れること。分かった?」
「「はい!」」
一夏と箒は姉と違って素直で良い子だな。
「おいこら」
「いっくん、箒ちゃん。束さんも頼ってね?」
千冬さんは不満げな様子だが、最高戦力だからしょうがないね。
束さんは――猪の命が可愛想なので頼るのはダメです。
千冬さんと束さんが先頭。
一夏と箒がその少し後ろ。
そして俺が最後尾を歩く。
サクサクと落ち葉を踏みしめ、視線を上げれば紅葉が目に入る。
気温も暑くなく、寒くもない丁度いい気温だ。
やはり秋の山は最高だよ。
獣道を掻き分けながら歩くのも楽しいが、こういう道をのんびり歩くのも良いな。
正面を見れば、束さんが千冬さんにちょっかいだしては殴られ、一夏と箒は笑顔で喋りながら歩いていた。
いや本当に平和だ。
歩き始めて15分程たったころ、一夏の様子がおかしくなった。
さっきまでは箒と喋りながら景色を楽しんでいた様だが、今は足元や木の根元をキョロキョロと見ている。
「一夏は何か探してるのか?」
「あ、神一郎さん。ちょっとキノコを」
俺に向けて満面の笑顔を向ける一夏の手にはキノコの本が……。
キノコっておい。
「神一郎さん、一夏は食べられるキノコを探してるんです。食費の足しになるかもって」
「図鑑に乗ってる食べられるキノコを探してました」
うーむ。
心意気は買うが、キノコを甘く見てるな。
図鑑で判断とか怖すぎる。
「一夏、その本はどうしたの?」
「学校の図書館で借りてきました!」
笑顔が眩しいな。
一夏が採ったキノコなら千冬さんは喜んで食べそうだけど、流石にやばいだろ。
やる気も殺る気もまんまんか。
「あのな一夏、素人のキノコ取りは止めておけ。本気で死ぬぞ?」
「でも店で売ってるキノコと同じようなの沢山ありますよ?」
一夏の中ではキノコのほとんどが食用可だと思っていたみたいだな。
いや、それよりもキノコで死ぬって発想がないのか?
ここは実演でキノコの怖さを教えるべきかな。
「一夏、簡単な毒キノコの判別方法教えてあげようか?」
「そんな方法があるなら是非!」
おおう。
目がキラキラしとる。
そんなに期待されたらお兄ちゃん頑張っちゃうぞ。
「一夏的に食べられそうなキノコ持ってきて」
「分かりました」
一夏は周囲をキョロキョロと見回した後、近くの倒木に近づいていった。
「これなんかどうですか? シイタケに似てて、地味な色で普通に美味しそうですけど」
一夏が俺に渡してきたのは確かに店に売ってそうな地味なキノコだ。
「毒があるかは一見では分からない。ならどうすればいいか――見て分かんないなら食べてみればいいじゃない」
「「はい?」」
一夏と箒の驚く顔をよそに、キノコの表面を水筒の水――ではなく、お茶で洗い流す。
そんな都合よく水筒に水なんて入っるわけない。
まぁお茶でも問題ないだろう。
「まず毒見役には篠ノ之束を用意します」
商品を紹介するように、右手をハイっとやると、そこにシュパっと束さんが現れた。
10mほど先を歩いていたはずなのに、一瞬でこれだよ。
驚かない俺もだいぶラノベ世界に順応してきたと思う。
「そして――」
シイタケに似たキノコ束さんの口にぽいっとな。
「キノコを篠ノ之束の口に入れます」
「あ~ん――もぎゅもぎゅ」
ゴクンと飲み込む音が静かな森の響く中、一夏と箒は唖然とした表情で束さんを見ていた。
「イルジンだね。いっくんが食べたら嘔吐や下痢でトイレから出れなくなるよ? 最悪死ぬ」
「ね、姉さんは大丈夫なんですか?」
「お姉ちゃんの胃袋――『束袋』は鉄壁だから安心して箒ちゃん」
箒の心配を他所に、余裕の表情を見せる束さん。
流石の一言だ。
「とまぁこんな感じで、一見無害ぽく見えても普通に毒があるのがキノコだから。一夏は絶対に食べちゃダメだよ? プロならともかく、素人は食べてみないと分からない物が多いから」
「気をつけます」
なんの変哲もないキノコ一つで死ぬ。
その恐怖は少し伝わったみたいだ。
一夏は真剣な顔で頷いてくれた。
「どうしてもって言うなら、いっくんが束さんを買うしかないね。束さんが一日手伝ってあげるよ?」
「――でも、お高いんでしょう?」
「それが今ならなんと! いっくんが温泉で背中を流してくれるだけで、『束さん一日券』をプレゼント! これは安い!」
温泉で背中流すってご褒美やん。
しかもそれで天災を一日自由に使えるって――世の科学者や権力者は泣いて喜ぶだろうな。
「一夏? まさか姉さんと一緒に温泉などと考えてないだろうな?」
「そ、そんな事するはずないだろ!?」
「姉さんも、あまり一夏を苛めてはダメです」
「は~い」
箒や、穏やかに見えて背後に鬼が見えてるよ?
それから一夏と一緒に風景写真を撮ったり、箒に足を捻挫させたフリをさせ、一夏におんぶさせたり、その一夏が途中で力尽きて千冬さんにおぶられたりと色々あったが、みんなで予定通り宿に着いた。
宿は木造二階建てで旅館としては小さな建物だ。
二階部分が客室となっており、一階部分の奥は経営しているご夫婦の家に繋がってるらしい。
一階部分にテーブルが置いてあるリラックスルームがあるが、遊具などは一切ない。
あくまでも山の静かな雰囲気を楽しむのが売りの宿だからだ。
宿の人に挨拶したりと色々あるが、そこは語るまでもないだろう。
なので――
かぽーん
温泉シーンからスタート。
「なぁ一夏、なんで温泉に入ると脳内に鹿威しの音が聞こえるのかな?」
ここの温泉には鹿威しなんて無いのに。
「――日本人だからじゃないですかね?」
「なるほど、日本人だからか~」
一夏は良い事いうな~
「「はぁ~」」
一夏と二人、頭にタオルを乗せた状態で口から幸せの溜め息を出す。
温泉はいい――
リリンが生み出した文化の極みだよ。
『ちーちゃんと温泉♪ ちーちゃんと温泉♪』
『ひっつくな暑苦しい』
『一夏め、先に行かなくてもいいじゃないか』
『まぁまぁ箒ちゃん。混浴じゃないし、しょーがないよ』
女性陣が温泉にインしました。
隣でくつろいでいる一夏を見ると――
「はぁ~」
女性陣の登場など気づいていない様だな。
仮にもラブコメ主人公なんだから、隣の温泉に幼馴染が入ってきたら、少し顔を赤くするくらいのリアクションをして欲しいよ。
「一夏は好きな人とかいないの?」
「はい? えっと、千冬姉と箒と束さんと――」
「あ、もういい」
やっぱり一夏には早急に性教育が必要だと思うんだよね。
と言っても、正直、そこまで急いで一夏の性を目覚めさせる必要はないと思っている。
一夏は千冬さん相手に少しばかり性を感じている節があるしな。
原作一夏を思うと一抹の不安はあるが、ほっとけば目覚めると思う。
だけど、箒や同世代だとその辺はさっぱりだ。
箒は一夏と手を繋いだり、触れていたいと思っている。
もちろんキスだってしたいだろう。
仮に箒が迫った時、一夏との温度差で箒が悲しい思いをするかもしれない。
それを回避する為にも、俺は一夏に女体に興味を持って欲しいと思っている。
――よし、理論武装完了。
千冬さんや束さんに語った話は半分嘘だ。
いや、全て話さなかったと言うのが正しい。
二人とも夢にも思わなかっただろう。
俺が夏のリベンジを考えてる事を!
「一夏、ちょっと立ってくれない?」
「なんです?」
疑問顔をしながらも一夏は素直に立った。
いい子いい子。
ここでこの温泉を簡単に説明しよう。
温泉は二箇所。
当たり前だが、男湯と女湯である。
広さは結構広く、五畳ほどの露店風呂だ――温泉の広さは畳でいいのか分からないが……。
そして、男湯と女湯の間には簡単な仕切りがある。
屋根などは無く、覗き易い――ではなく、俺の目的には理想的な温泉だ。
「動くなよ?」
「え? あの!?」
騒ぐ一夏の目をタオルで隠す。
「ちょっと神一郎さん!?」
「いいから、そのまま動くな」
「――分かりました」
裸で目隠しされオロオロする一夏。
――取り敢えず一枚撮っておこう。これは高値で売れそうだ。
両腕にISを装着。
そして一夏の脇の下から手を入れ持ち上げる。
「持ち上げられてる!? でもこれ神一郎さんじゃない!? え? 誰!?」
流石に機械の感触で怪しまれるか。
でも目隠ししてるからどうとでも誤魔化せるだろう。
そしてここから――
「まわってる!? 俺まわってる!?」
現在、温泉の真ん中で人を回していますが、周りの人の迷惑になるのでくれぐれも真似しないでください。
束さんを投げて身につけた俺の投擲技術を見るがいい!
「逝ってこい!」
「えぇ~!?」
一夏をぶん投げる。
もちろん、女湯へ。
「浮いてる!? いや……飛んでる!?」
一夏、お前は俺を恨むかもしれない。
だが、10年後――いや、5年後にはお前は俺に感謝するだろう。
中学生になったら『俺、女湯に入ったことあるし』と自慢するがいい。
ついでに後で俺に女湯の詳しい感想聞かせてね!
「うあぁぁぁ~!?」
『親方! 空から男の子が!?』
『誰が親方だ! っておい、あれ一夏か?』
『なんで一夏が空から!?』
『ひとまずキャッチしないとね――ひゃっほ~! いっくんゲットだぜ!』
『いてて、束さんありがとうございます――って前! 前隠してください! 見えてます!』
『一夏! お前が目を閉じればいいだろ!?』
『そうだな箒――っ!?』
『見たな!? 今見ただろ一夏!?』
いやはや、女湯は楽しそうだな。
そして箒の声は若干嬉しそうな感じだ。
これは良いツマミになる。
脱衣場に戻り、服の下から隠していたお酒を取り出す。
この辺の地酒の日本酒だ。
旅や旅行の楽しみといったらこれだよな。
ISの拡張領域から、お盆、お猪口、徳利を取り出す。
徳利に酒を注ぎ、湯船にお盆を浮かせて準備完了だ。
あ、もう少しツマミを増やしておこうかな。
「束さ~ん。箒~。一夏は体は洗ったけど、頭はまだだから洗ってあげて~」
女湯に向かって声を掛ける。
『なんだ、体を洗う必要なかったね』
『姉さん。このまま頭も洗いましょう』
どうやらすでに洗われてるみたいだ。
羨ましいね。
『神一郎さん助けて~!』
聞こえな~い。
ここの酒美味いなぁ~。
『神一郎、後で話がある。逃げるなよ?』
大きい声ではないのに耳に届く千冬さんの声が本気で怖い。
しかし――
『いっくん。目を開けちゃダメだよ?』
『そうだぞ一夏。泡が目に入るからな』
『目に泡が入るのを気にしなければ束さんと箒ちゃんの裸体が見れるけどね(ボソッ)』
『千冬姉! 助けて!』
『――今は諦めろ』
いくらブラコンの千冬さんでも、今の束さんと箒から一夏を取り上げる事は出来ないだろう。
『姉さん。私、髪を洗い忘れた気がします』
『奇遇だね箒ちゃん。お姉ちゃんもだよ。せっかくだからいっくんに洗ってもらおうよ』
だって凄く楽しそうだもん。
箒の気持ちを知っている千冬さんにはどうしようもできまい!
『神一郎さんヘールプ!!』
あ~酒が美味いんじゃ~。
その後――
顔が真っ赤な一夏に恨み言を言われ。
同じく顔が真っ赤な箒にお礼を言われ。
上機嫌な束さんとハイタッチをし。
千冬さんに殴られた。
それからみんなで夕食タイム。
楽しみにしてた松茸を見て目を輝かせる一夏――を見てほっこりする千冬さんと箒と束さん――にニマニマしながら美味しい山の料理を頂いた。
モミジの天ぷらとか存在は知っていたけど食べたの初めてだよ。
出来ればお酒も飲みたかったけど、流石に一夏と箒の前なので自粛した。
夕食後は自由時間。
一夏と箒は二度目の温泉へ。
千冬さんは夜景を見ながら散歩したいと外へ。
束さんもそれに着いて行った。
そして俺は部屋に敷かれた布団に寝転びながら読書中。
もちろんラノベだ。
部屋は六畳程の畳部屋で、備え付けの家具は小さなちゃぶ台があるだけの質素な部屋だ。
窓の外では木々が風に揺られ、静かな部屋にザワザワと葉が揺れる音が聞こえる。
温泉に入り、美味しい料理を腹いっぱい食べ、浴衣で布団に寝転びながら静かな雰囲気の中でラノベを読む。
こんな幸せな事はない。
しかも、それだけではない。
今読んでるのは前の世界に無かった作品だ。
俺の楽しみの一つがマンガやゲーム、ラノベなどのオタク趣味だが、転生しからはさらに楽しくなった。
なぜなら、ここは俺が暮らしていた世界ではないから未知のアニメやラノベがある。
まさにオタク大歓喜。
――
――――
――――――
トントンとノック音が聞こえた。
ふと時計を見ると、時刻は22時。
つい読み耽ってしまった。
ドアを開けると、いつも通りの笑顔の束さんが――
「おじゃましま~す――からの~ぐで~」
人の部屋に入るなり、ちゃぶ台に突っ伏してしまった。
散歩中に千冬さんと何かあったのか?
「なんで疲れてるんです?」
「別に疲れてる訳じゃないんだよ~」
ありゃ。
顔も上げない。
「箒はもう寝たんですか?」
内緒話してる時にうっかり話を聞かれたりするのは勘弁して欲しいんだが。
「…………箒ちゃん」
なぜますます元気がなくなる!?
う~ん、これはもしや――
「箒の笑顔が眩しすぎて、後数カ月でその笑顔を曇らせると思うとお姉ちゃん泣いちゃう?」
ビクっ!
あ、動いた。
当たりか。
「箒ちゃん凄く楽しそうだった。温泉でね、いっくんに髪を洗ってもらってた時の箒ちゃんは凄く幸せそうな顔をしてたよ……」
箒の幸せな姿を見るほど悲しくなる。
難儀な話しだ。
束さんの問題はどうしようもない問題だ。
解決するには、権力者の要望を全て聞いて従順な犬になるか、逆にそれらを全て消すかの二択しかないと考えてしまうほどに。
「……しー君と会ってまもない頃にさ、しー君から未来の事ちょっと聞いたでしょ?」
「懐かしいですね」
すっかり馴染んだ首輪を撫でつつ、初めての電撃を思い出す。
そう、アレは電撃記念日。
「実はさ、しー君の話を聞いた時、あんまり深く考えてなかったんだよね。むしろ『しー君が知っている束さんはなんて不甲斐ない! だがこの束さんは箒ちゃんを守ってみせる!』とか考えててさ」
あ~なるほど。
あの時、随分とあっさりしてると思ったけど、そう言う理由か。
「だけど、いざやってみたら上手くいかなくてさ……束さんの論文やら発明やらを悪用する奴等が次から次へと……研究所を焼いて潰して時には遠隔操作でデータベースをバンさせてムカつくから殺したいけど箒ちゃんの為に我慢しながらプチプチプチプチ――」
おおう。
顔が見えないが、酷い顔してるなってのは分かるね。
箒との別れが近いせいか、だいぶナイーブになってるな。
「愚痴なら聞いてあげますから。ちょっと俺のお願いを聞いてください」
ずっとラノベを読んでいたので、体が凝り固まてちょっと辛い。
できればもう一度温泉に行きたいが、千冬さんが来るのでそんな時間はない。
なので――
「取り敢えず。首輪の機能使ってください。体が動けなくなるヤツを」
「ほえ? なんで?」
「まぁまぁ。いいからお願いします」
枕に頭を乗せて、布団に横になる。
「よく分かんないけど分かったよしー君。ポチッとな」
――スっと体に力が入らなくなる。
これだよ。
最高の気持ちだ。
「しー君はなんで気持ち良さそうなの?」
束さんはテーブルに頬を付いた状態でマジマジと俺を見ていた。
開発者なのに分からんとは情けない。
「束さん。俺って今は全身動かないじゃないですか?」
「うん。首から下はね」
「ってことはですね。俺は今、強制脱力状態なんですよ」
「脱力? ――なるほど。理解できたよ」
束さんは興味深そうにふむふむと頷いていた。
体に一切力が入らない状況。
それは肉体的にはリラックスしてると言える。
つまりだ……コレ、超気持ちいい。
この状態が気持ちいい事に気付いたのは、束さんに執拗な赤ちゃんプレイを強要されてた時だから、複雑な気持ちもあるけどね。
あぁ~、固まった筋肉が喜んでるのが分かる。
「出来ればこのまま温泉に入りたいんですけどね~」
溺れそうだからやんないけど。
しかしこのまま寝てしまいそうだ。
「私が言うのもなんだけど、しー君も変わってるよね。まさかの使い方だよ。それ本来の使い方は逃亡防止用だよ?」
なにが面白いのか、束さんはクスクスと笑っている。
なんか機嫌良くなった?
「うん。しー君のおかげでちょっと元気でたよ。でもさ、それって人の話を聞く姿勢じゃないよね?」
失礼なのは重々承知だけど、別に耳が空いてるから話を聞くのには問題ないじゃん?
――なんてのは冗談で、こう、暗い雰囲気の時ほど軽口や軽率な行動とりたくなっちゃうんだよね。
心が弱い証拠かな?
「束さんも寝っ転がったらどうです? ゴロゴロしながらお話ししましょうよ」
「んー? そうだね。それもいいかも」
どーん
「ごふっ!?」
効果音付きで束さんがボディプレスしてきた。
座ったまま飛ぶとか、こいつまさか波紋使いか!?
束さんはそのまま自分の頭を俺の太ももに乗せて――なにその顔?
「むぅ」
凄く微妙な顔なんですが。
俺の太ももに何か文句でも?
「硬い。硬いよしー君。気持ちよくない(ぺしぺし) 」
「人の太ももをぺしぺし叩かないでください」
「なんで硬いの? 筋肉に目覚めたの?」
「――この筋肉には理由があるんですよ」
そう、とても悲しい理由がね。
「あれ? しー君なんで泣きそうなの? 何かあったの?」
語れって?
愚痴を聞くつもりだったけど、逆に俺の愚痴聞いてくれるの?
その優しさに甘えさせてもらうよ。
そんなに長い話しじゃないし。
「これはですね。『千冬式筋トレ』の成果です」
「ちーちゃん式?」
「えぇ、話を伸ばす気はないので簡潔に言います。ある日、千冬さんが俺にこう言いました。『お前にもっと力があれば、一夏の荷物持ちとして役に立つな。ついでに私の模擬戦相手としても』と――」
夏休み中、近くの街の大型デパートのバーゲンに行った俺と一夏は、主婦と言う名の戦士達の前に敗北した。
それでもボロボロになりながらも色々買ったんだけど、今度は荷物が重くて、帰り道は二人で両腕の筋肉をパンパンにしながら帰路についた。
一夏はその日の夜に千冬さんにこう言ったらしい。
『せっかくのバーゲンだったのに、俺はおばちゃん達に力で負けるし、荷物が重くて想像より沢山買えなかったし……千冬姉、俺はもっと力が欲しいよ』と。
それを聞いた千冬さんはブラコン全開の結論に至った。
一夏の為に俺を強化しようと……。
その後、筋トレのメニューを渡された俺は、『サボったら分ってるな?』と脅され、私生活の合間を見ては、泣く泣く筋トレに励んでいた。
「――最近のちーちゃんて、ブラコンを隠さなくなったよね」
「それは俺も思いました」
昔はブラコンめと心の中で思っただけでもツッコまれたのに、最近は開き直ってる気がする。
「それにしてもそっか。そのせいで太ももがカチカチに」
「男として筋肉は嫌いではないんで不満はないんですけどね」
原因はアレだけど、結果的には男らしい体になったからね。
オタクとは筋肉に憧れる時もあるのさ。
「まったく。こんな太ももじゃ癒されないよ」
ぶつぶつと文句を言いながら、束さんは俺の横に並んで寝転がった。
まさか筋肉で文句言われる日が来るとは。
「ねぇしー君。私って頑張ってるよね?」
天井を見つめながら束さんがぽつりと呟いた。
その声は普段の様子から想像出来ないくらい弱々しい。
「後悔してるんですか?」
「――どうだろう? そうなのかな?」
篠ノ之束は天災だが、人間だ。
ISの開発、自分の力欲しさに擦り寄って来る人間の相手、過去の研究などを悪用する奴等の排除、そして弱点である箒を狙う奴の駆除。
束さんは疲れてるのかもしれないな。
「しー君ならさ、ISを発表するのにどんな方法を選ぶ?」
どうにも本気でお疲れの様だ。
過去を振り返り、しかも他人に意見を求めるなんてらしくなさすぎる。
とは言え、無視も出来ないし、おちゃらける雰囲気でもないし。
どこに行った俺の癒しの時間。
「普通に宇宙遊泳してみたり、実際にISで月に行ってみたりとがが王道かなと」
「――しー君、正直に答えて欲しいんだけど、白騎士事件の時、私のとった手段は馬鹿らしいと思った?」
束さんは俺は何を求められてるんだろう?
気分転換に軽くおしゃべりと考えてたのに、気付いたら下手なこと言えない空気が……。
「最初はそう思いましたが、今は違います。白騎士事件は正しかったと思ってます」
「え?」
そりゃあさ、最初はIS使ってテロ紛いとか馬鹿だと思ったけど、現実的に見れば良い手だと思う。
まぁ、そう思う様になったのは白騎士事件から結構時間が経った後なんだけど。
「『え?』って、束さんは自分なりに考えた上での行動でしょ? なんで驚いてるんです?」
「だって……肯定されると思わなかったんだもん」
束さんの顔が見れないのが残念だ。
首を動かしたら今の空気が壊れそうで動かせない。
「仮に平和的方法でISを広めようとしても、今と大して変わらない結果になってたと思いますよ? それは束さん自身が分かってたことでは?」
なにしろ束さんは金のなる木だ。
その知識を、ISを、金目的で使えたとしたら、その利益は計り知れない。
平和的な方法?
そんなの周囲から甘く見られるだけだ。
束さんの身柄欲しさに有象無象が群がるだけだろう。
だからこその白騎士事件だと俺は考えている。
ISの力を見せる事により、『篠ノ之束に手を出せば、ISで復讐されるかもしれない』と思わせる事で、力の無い奴等は黙るだろうし、力が有る者でも慎重にならざるを得ない。
もちろん、束さんを危険視する人間も増えるだろうが、『天才で甘い人間』と『天災で危険な人間』、どっちの束さんでも必ず“敵”は出てくるだろう。
下手したら、甘い方が敵は多いかもしれない。
人間は天災からは逃げるが、甘い水には群がる生き物なのだから――
と、格好良いこと言っても、俺も群がる人間の一人だから始末が悪いな。
「……しー君。ありがとう」
「何に対してのお礼ですか?」
「ん? ん~話を聞いてくれてたお礼? あ、言葉だけじゃ足りないね」
――腕が暖かく柔らかい感触に包まれた。
目線を左腕に向けると、束さんが俺の左手を抱いていた。
「あの、当たってますよ?」
「当ててるんだよ」
うん、すっかり元気になったみたいだ。
視界に映る束さんの口元は、楽しそうにニヤついてるもの。
まったく、ちょっと優しくされたくらいで女の子がそんな行動をとるなんて……。
――ありがとうございます最高です!
「しー君は最近流々武でなにしてたの?」
話題が変わるの早すぎない?
脈絡なさすぎ、あと顔近すぎ。
この状態で妙な雰囲気になっても困るからありがたいけど。
「束さんなら把握してると思ってました」
「流々武でどこに行っていたかは知ってるよ? でも何をしてたかは分かんないんだよ。最近忙しくて確認する時間が無かったからね」
遠まわしにストーカー宣言されてるし。
いやまあ、束さんに私生活を見られるのは実験動物として覚悟の上だけどさ。
「最近って言われても……どこから話せば?」
「夏からお願いするよ」
「夏ですか? それじゃあ、無人島でバカンスを楽しんでた時の話を」
「――私が忙しかった時にしー君はバカンス……ちょっと納得いかないんだよ」
ギューと頬を抓られた。
話せって行っておいてその反応は酷いと思う。
「ついでにちょっと前に行った日本全国の港の話もしましょう。北から南、全国の港の食堂で、美味しい海の幸を食べまくった話です。ISの機動性があれば、登校前の朝市なんかも余裕だったので」
「いい度胸だねしー君」
隣から刺さる束さんの視線が痛い。
それを俺は天井の木目を見つめる事でスルーした。
「まずは無人島の話ですね。束さんは知ってます? 日本には6000以上の島があるんです。その中でも――」
隣でふむふむと頷きながら相槌を打つ束さんが少しでも楽しめるよう、俺は出来るだけ当時を思い出しながら語り始めた。
◇◇ ◇◇
「随分と楽しそうだな?」
束さんと寝転びながら話し始めて小一時間はたった頃、やっと千冬さんが現れた。
秋の港四国編を話してる最中だったが、この話はここまでだな。
「ちーちゃんいらしゃ~い」
「遅くなってすまないな。一夏が中々寝付かないもんでな」
そう言って千冬さんは座布団に腰を降ろした。
口調こそ、ヤレヤレって感じだが、頬が緩んでいた。
どうやら楽しい姉弟の時間を過ごせたようだ。
「束さん。そろそろ起きましょうか」
「そだね」
――体に力が戻る。
グッと体を伸ばすと、体が凄く軽くなっていた。
温泉と脱力は最高の組み合わせだな。
三人でちゃぶ台を囲い、買い物袋から食べ物を並べる。
「千冬さんはやっぱりビール?」
「――――――あぁ」
ビール缶を差し出してから、受け取るまで随分と葛藤があったな。
それでも素直に受け取るだけ成長したと思う。
「束さんはやっぱり甘い系?」
「うん」
ちゃぶ台の上に並ぶのは各酒類に乾き物などのおツマミ。
夜はこれからが本番だよね。
「今年も残りわずかです。来年には千冬さんの就職、束さんの失踪などがあります。なのでこれからも油断せずに行きましょう。乾杯!」
「――乾杯」
「かんぱ~い!」
カンと音を立て、缶とお猪口がぶつかる。
そのままお猪口の酒をグイっと飲み干す。
「くぅ~」
たまらん!
徳利からまたお猪口に酒を注ぐ。
ここの地酒は辛口で非常に俺好みだった。
これならいくらでも飲めちゃうよ。
お猪口を口に付けようとした時、ふと視線を感じた。
頭を上げると、千冬さんが呆れた顔で俺を見ていた。
「どうしました?」
「お前、温泉でも酒を飲んでたんだろ? よくそんなに飲めるな」
「なぜそれを!?」
「束に聞いた」
束さんの方を見ると、サッと顔をそらしやがった。
こいつ、男湯を覗いてやがったな?
まぁいいけどさ。
「前世から酒に強かったのか?」
「えぇ、まぁ……そこそこ」
嘘です。
ぶっちゃけ、前世の大人の時より強くなってます。
俺も子供なのにと不思議に思ってた。
そして、ふと気付いた事がある。
俺は一応、神様特典を貰っている。
【そこそこの肉体】だ。
つまりだ――俺は神様特典で肝臓が強くなっていると考えられる。
意外と役に立ってるな神様特典!
「さて、酒もいいが、そろそろ真面目な話をしよう」
キリッとした顔でそう切り出す千冬さんだが、その手元には空き缶が二つ。
締まらないな。
此処に集まったのはただ酒を飲む為だけではない。
これから先の事を話し合う為だ。
情報を共有する為でもあるし、失踪するにあたって、一夏や箒に迷惑がかかったら嫌だから、事前に色々教えろコラ。と言う千冬さんの要望を叶える為でもある。
「うんとね。姿を消すのは3月辺りにするつもり。それから箒ちゃんは国に保護されることになるんだけど、春休みを挟むから箒ちゃんが落ち着く時間もとれると思うし」
「国の保護か……尋問されると聞いていたが、箒は大丈夫なのか?」
「そもそもね。箒ちゃんや父親って生き物を保護しますよって言ってきたのは国なんだよね。まぁ、善意3割、私への人質7割って感じなんだけどさ」
「そこまで手荒なまねはされないと?」
「うん。向こうとしても、私の恨みを買うより、恩を売りたいはずだからね――って言っても、国としても私が居なくなるのは痛いからね。箒ちゃんに当たる奴らが多少は出てくると思うけど」
そこまで話して、束さんは悲しそうな顔でお酒に口を付けた。
無責任にも、それじゃあ箒も連れてってやれと言いたくなってしまうな。
「そうか、それで、その際に一夏はお前の問題に巻き込まれたりしないんだな?」
千冬さんが暗い顔で酒を飲む束さんに視線を向ける。
傍から見れば、とても冷たく感じる。
だが、千冬さんの手が固く握られてるのを見れば、それが誤解だと分かる。
千冬さんは箒の事が心配じゃない訳ではない。
ただ、優先度の問題だ。
千冬さんにとって、なにより優先しなければならないのは一夏。
それだけの事。
「う~ん? 特にないと思うんだけど」
千冬さんの問いに束さんは首を傾げる。
確かに束さんが言うように、束さんが失踪しても一夏には特に迷惑はかからなかったと思う。
「神一郎。お前は何か知らないか?」
「俺ですか? 特に無かったと思いますけど?」
「本当か? 信じていいんだな?」
束さんの信用がないって事が良く分かるね。
「本当です。千冬さんは、まぁ多少は迷惑かかると思いますよ? 束さんの友人として目を付けられるでしょうから。一夏は特に思いつかないですね。箒や柳韻先生がいなくなって寂しがるとは思いますが」
一夏は未来でいろんな意味で目を付けられるが、今は語らなくてもいいだろう。
「そうか、それなら良いんだ。箒も心配ではあるが、そこは柳韻先生がいれば大丈夫だろう」
千冬さんは安心したのか、ビールをグビグビと飲み干す。
手元の空き缶は五本目だ。
しかし、今何か違和感が……なんだ?
「あ、まだ言ってなかったね。アレと箒ちゃんは別々だよ?」
「――なんだと?」
千冬さんが手に持っていた缶がベキっとヘコんだ。
そうだ。
違和感はこれだ。
千冬さんにその辺の説明するのすっかり忘れてた。
「束。それはつまり、箒と柳韻先生はバラバラに暮らすことになると言っているのか?」
「そうだよ」
「雪子さんは?」
「アレと一緒にするつもりだよ?」
「お前は何を考えている!?」
千冬さんの怒鳴り声が部屋に響く。
このままじゃマズイな。
「千冬さんストップ。騒ぐと一夏と箒が起きちゃうから」
「ちっ」
立ち上がりかけてた腰を座布団に下ろし、千冬さんはヤケ気味に酒を呷った。
「神一郎。お前は知っていたのか?」
「すみません。言い忘れてました。確かに俺の知っている未来でも、箒と柳韻先生は別々に保護されてました」
「――なぜそれを許す?」
なぜって言われてもな。
篠ノ之束って人物を知っていれば許せちゃうから?
あくまで想像、勘なんだけど。
「私も聞きたいな~。しー君にもこの事は初めて話したよね? 知っていたのになんで怒らないの? しー君なら怒ると思ってたのに」
二人の視線が俺に集中する。
千冬さんからは怒りの視線。
束さんからは興味の視線。
――これ、答え外したら恥かしいな。
「箒の為ですよね?」
それ以外に家族をバラバラにする利点が見つからないし。
「柳韻先生はオトリでしょ?」
「――正解だよ」
束さんは笑いながら肯定した。
逆に千冬さんの不機嫌具合がやばい。
「柳韻先生をオトリにするだと? 納得いく説明をしてもらおうか?」
千冬さんが目力を込めて睨み付ける――
なぜか俺を。
「俺ではなく束さんに聞いてくださいよ」
「私はしー君から聞きたいなぁ~。どれくらい私の事を理解してるか採点してあげるよ」
実に良い笑顔でパスされてしまった。
これは本気で間違えられないな。
「たんに束さんの事を考えただけですよ。束さんが大事なのは箒でしょ? それなら箒を守るために柳韻先生を利用するのも考えられます」
「お前がそれを良しとする理由はなんだ?」
「一つは箒の為ですね。たぶんなんですが、束さんは柳韻先生の情報をワザと漏らして、それに釣られた奴らを狩るつもりなのでは? そうして敵の数を減らすのが目的。もう一つは柳韻先生の無事は保証されてるも同然だからです」
「オトリなのにか?」
「千冬さん、一夏と離れ離れになって箒の心証は最悪になるんですよ? そこで更に柳韻先生に万が一があったら箒との仲は修復不可能です。だから、束さんは柳韻先生を利用すると同時に、必ず守らなければいけないんです」
束さんの好き嫌いは関係ない。
人の心が分からないと巷で噂の束さんでも、間接的にでも親殺しをしてしまったら、箒に受け入れられない事くらいは理解してるだろう。
「流石しー君。大当たりだよ」
束さんの花丸笑顔を頂きました。
恥をかかずに済んだな。
これで解決、だと思ったんだけど――
「なるほど、理解は出来た……だが、しかし……」
千冬さんはビール缶を握り締めながらテーブルを見つめていた。
千冬さんにとって、柳韻先生は恩師で恩人だ。
束さんが守ると言っても、オトリにすることは心が許さないんだろう。
だが、このオトリ作戦は原作通りの可能性が有る。
ここで仏心を出せば、箒にどんな影響が出るか分からない。
だからこそ、今は心を鬼にする。
「千冬さん、柳韻先生が心配なら、束さんにこう言えば良いと思いますよ? 『もし柳韻先生が死んだら、箒にお前が父親を殺したと吹き込んでやる。そして、親殺しが姉にいる箒を、二度と一夏に会わせない』と」
これなら束さんはどんな手を使ってでも守るしかないね。
我ながらナイスな案だと思って、気分良く酒を飲んでいたら、会話が止まってることに気付いた。
はて?
「…………」
「…………」
なんか凄い目で見られてる。
「ちーちゃん。父親って生き物は必ず守るよ。箒ちゃんの為に」
「あぁ、頼む。箒の為に」
あれー?
なんか非難の目が……。
「しー君って時々怖いよね。天災と言われる束さんもガクブルだよ」
「そうだな。見かけが子供なだけに、言葉と思考の黒さがなんとも――」
なんか俺が悪者っぽくない?
悪いのは世の中なのに!
「――ところで束。箒と柳韻先生は連絡を取ったり出来るのか?」
千冬さんが俺の視線から逃げる様に束さんに話しかける。
話題の変えた方が露骨すぎないか?
だけど残念、まだ俺のターンです。
「連絡役は俺がやります」
「お前が?」
「えぇ、IS使って手紙のやり取りをしようかと。手紙を拡張領域にデータとして保存すればバレませんからね。流々武も隠密向きですし。とは言え束さんの協力が必要ですが」
「監視カメラのハッキングや防音なんかだね。任せてよしー君」
グッと束さんとサムズアップ。
「――いいのか? 下手したらIS適正者だとバレるぞ?」
「覚悟の上です」
うん、本当に覚悟の上だよ。
流石にさ、箒の状況を放置して遊び呆けるのは罪悪感が凄い。
せめてこれくらいはね。
「ふむ、お前が一枚噛むなら束に全て任せるよりは少しは安心だな」
「箒の心が予想より追い詰められてピンチだった場合は、全て束さんが悪いとして、箒を復讐者にするつもりです。『束? 次会ったら殺す!』な感じで。心が病むよりはマシだと思うんで」
「それ病んでるよね!? え? しー君本気? 本気でそんな事考えてたの!?」
「良い案だな。塞ぎ込んでしまうよりはマシだ。それに、そうなったら束が一生箒の前に姿を見せなければいいだけだし」
「ちーちゃん!?」
俺の悪ノリに乗っかってくれる千冬さんナイス。
隣で束さんがギャーギャーと騒いでいるが、ほんと、塞ぎ込むよりはマシだよね。
「束さん。冗談ですよ。冗談」
「本当に?」
いいね。
両手で缶酎ハイを持って、涙目な束さんは女子力3割増しだね。
「本当です」
「――ならいいんだよ」
ホッとした顔を見せる束さんは年相応だな。
常にこの状態なら可愛げがあるのに。
「それじゃあ、次は俺の番ですね」
「なんだ、お前も何かあるの?」
千冬さんが意外そうな声を上げる。
どうやら千冬さんは俺に対する理解力がまだまだ足りてないようだ。
「まず道場辞めます」
「おい、しょっぱなから何言ってるんだ?」
「や、そもそも、俺が道場に通ってたのは『一夏と箒に近づいて、そこから束さんと仲良くなってIS貰えないかな?』って理由ですから、柳韻先生が居なくなるならもう義理も義務もないかなって」
剣道は嫌いじゃないが、このままだと惰性になりそうだし。
ここはスパッとね。
なにしろ時間は有限だ。
「……お前の人生だ。私に止める権利はないか」
あれま。
意外な反応だ。
千冬さんがちょっとだけ寂しそうにビールを飲む。
もしかして、俺に剣道を続けて欲しかったんだろうか?
理由は分からないが。
「それと、それを機に千冬さんと一夏とは距離を置きます。理由は千冬さんです」
「私と近いと不都合があるのか?」
「千冬さんはIS操縦者として有名になりますからね。千冬さんと親しいと思われるとちょっとめんどくさいんですよ。まぁ露骨に距離を取ったりはしませんけど、今回みたいな旅行はこれが最後になるかと」
「そうか、一夏が寂しがるな――」
非常に申し訳ないが、俺としても女尊団体とか怖いんだよ。
下手に目を付けられたくない。
「後、束さんには俺とケンカしてもらいます」
今度は顔を束さんに向ける。
束さんは流石に想定してなかったのか、目をパチクリさせていた。
「私とケンカ? なんで?」
「束さんと仲が良いと思われると、俺の夢には都合が悪いからです」
これは俺の人生を左右する大事なこと。
恐らく、俺も束さんの関係者として目を付けられてるはず。
束さんの失踪後は監視が付くかもしれない。
それじゃあ旅なんか行けないしな。
骨の一本くらいは折ってもらうつもりです。
「なるほどね。確かにしー君は国に目を付けられてるし。私が失踪したら監視が付くかもしれないけど……」
ジトーと、束さんが俺を見つめる。
「しー君のヘタレ」
おっと、可愛いお口からなにか聞こえたぞ?
「しー君の考えは理解はできるよ? 私やちーちゃんと関わりがあると思われるとめんどくさいんだよね? でも、だからと言ってケンカしてまで仲が悪いフリするなんて……つまんない!」
ダン!っとテーブルを叩き、束さんが憤慨する。
「しー君ならもっと面白い解決策出してくれると思ったのに! ちーちゃんと距離を取るとか私とケンカするとか、そんなつまんない話ばっかり――しー君のヘタレ!」
束さんは鼻息荒く騒ぎ立てる。
さっきから暗い話ばかりだもんな。
束さんは、俺がもっと面白い解決策を出すと思ってたんだろう。
だけど、これは俺にとって必要なこと。
一番勝率が高い案を通させてもらう。
「束さん。俺の夢は世界中を旅すること、大事なものは自分の命です。俺は自分の夢の為なら妥協する気はありません」
「むぅ。それはわかってるけどさ」
唇を尖らせながら、束さんがそっぽを向く。
「やっぱりしー君の個人データをどこかに流そうかな」
ボソッと聞き流せない事を呟く束さん。
まったく、この子は――
「束さん。こっち向いてください」
「なんだよしーっ!?」
束さんのほっぺを両手で掴む。
柔らかほっぺをもっと伸ばしましょうね。
「ひーくん? いひゃい! いひゃいよ!?」
ほーら、ぐーにぐーに。
「あうあう」
ほっぺが赤くなるまで、揉みしだく。
時々、捻りを入れながら引っ張る。
「束さん。何か言いましたか? まさか俺の平穏を邪魔する気じゃなですよね? つまんない? 俺の何がつまんないって?」
「ごめん。ごめんしーくん」
束さんの目尻に涙が溜まってきたので、手を放してあげる。
「束さん。もう一度聞きますね。俺のこれからの予定に何か文句でも?」
「うぅ……ないです」
束さんは涙目で自分のほっぺを押さえている。
理解してくれてなによりだ。
お礼に俺の骨をバキボキに折らせてあげるよ。
身内に甘い束さんが、どんな顔で俺の骨を折るのか今から楽しみだぜ。
「さて、これで全員の話は終わりですかね?」
「私は特にないしな。束も話し忘れなどはないな?」
「ないと思うよ」
ふぅと息を吐き、お酒で喉を潤す。
会話はピタリと止まってしまい、三人の間に微妙な空気が流れる。
やっぱり真面目な話ばかりじゃ疲れるな。
「ここからは話題変えましょう。千冬さん。何かないですか?」
「ふむ――神一郎。最近学校はどうだ?」
「会話下手なお父さん!?」
千冬さんに振ってみたら、まさかのチョイスだった。
「文句があるならお前が考えろ」
酔ってるのか、それとも恥かしいのか、千冬さんは赤い顔を隠すようにそっぽを向いた。
しょうがない、ここは俺が。
「なら、未来の事を話しましょう。千冬さんと一夏は平穏無事に暮らせる。束さんは箒と仲違いなんてしない。そんな未来で二人は何をしたいですか? まず束さんから」
ifの話なんて束さんは嫌いかもしれない。
だけどさ、“もし”を想像するなら、楽しい方が良いじゃないか。
「もし、箒ちゃんと仲違いしなかったら――だよね」
束さんの眉が僅かに眉間に寄る。
話題のチョイスを間違ったかな? そう思った時。
「うん。そうだね。やりたい研究や作りたい物が沢山あるから。それをしたいかな」
束さんは、俺に向けて笑顔を見せてくれた。
これは俺の考えが読まれてるっぽいな。
気遣いがバレるのって恥かしい。
「例えばどんな?」
恥ずかしくても今更引けないよね。
「えっとね。ISの発展はもちろんなんだけど、まずはナノマシンの実用化だね! それと重力発生装置と光合成を機械で再現する事とヒトゲノムの完全解析と――」
だって、楽しそうに話す束さんに水を差すのも悪いし。
「束。その重力発生装置とやらなんだが……」
黙してお酒を飲んでいた千冬さんが、急に束さんの会話に割り込んだ。
「あとね……って、ちーちゃん。重力発生装置に興味あるの?」
「前に神一郎の家で読んだマンガにあったんだが――それは鍛錬にも使えるか?」
まさか――Z戦士の本か?
「んふふ、ちーちゃんもアレ読んだんだ? 私もしー君が読んでたから目を通してみたけど、あれは中々面白かったよ。色々と参考になったしね。ちーちゃん。結論から言うよ? ちーちゃんが望んでるのは作れるよ。もちろんすぐには無理だけど」
なん……だと!?
え? 本気で?
「ちょっと待ってください束さん。それ是非俺にも」
「待て神一郎。こっちが先約だ」
俺と千冬さんの視線がぶつかる。
だが、俺も引けない。
ファン歴20年以上のオタクの俺が、ニワカに負けるわけにはいかないんだよ!
「ちーちゃんとしー君が私を取り合ってる……これがモテ期!?」
俺と千冬さんがギリギリと睨み合い。
その横では束さんが体をくねくねさせる。
――こんなに楽しい日常は後何日続くんだろう?
楽しくて寂しい。
きっと、今この三人に共通している感情だ。
だからこそ俺達は、その日朝まで騒ぎ続けた。