俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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遅くなりましたm(_ _)m
そして寝落ち注意定期です。
二次小説書き始めて1年過ぎましたが、相変わらず地の文が下手。
三人称練習しようかなと思う今日この頃。
一部束さんのセリフに句読点が無いのは仕様です。
個人的なイメージで「束さんはチャットやメールでわざわざ句読点は使わないだろ」と思ったもので。


別れの儀式とそれぞれの道

 日本には最近になって世界中から注目されている場所がある。

 そこは都心近くの島の上に建てられた研究所――研究対象はIS。

 時代の最先端を行くその研究所で働く人間は、各分野のスペシャリストである。

 そのスペシャリスト達は、今日も胃痛に悩まされていた――

 

 

 

 

「篠ノ之博士、素材や火薬量を変えながら威力を割り出した弾丸の一覧です」

 

 眼前に幾つも並ぶモニターに目を向けながらキーボードを打ち込んでいると、背後から声をかけられた。

 振り向くと、顔は知らないが見慣れた白衣を着た男。

 

 ――あぁ、そう言えばモンド・グロッソで使う専用の弾丸の開発を命じたんだっけ?

 男が差し出してきた紙を受け取り目を通す。

 

「ふむふむ――君さ、なんでわざわざIS専用の弾丸を作るか意味分かってる?」

「は? それはモンド・グロッソの為に競技で使う――」

「モンド・グロッソって?」

「――ISを用いて、格闘や飛行など、部門ごとに別れて競う競技です」

「分かってるなら何でこうなるかな?」

「っ!?」

 

 私が睨むと、白衣の男がビクリと身震いした。

 情けない……しー君なんて私が睨んでも笑いながら口周りを拭いてくるというのに――

 この研究所に居るということは、この白衣もそれなりの才能があるハズなのに、こんな結果しか出せないってのが更に情けない――

 

「モンド・グロッソはあくまで“競技”なんだよ? なんで弾丸の威力がこんなに高いの? これ、生身の人間に使ったらミンチだよ? 兵器用の弾丸を作れって誰が言った? 束さんがそう言ったかな?」

「いえ……その……」

「ISで銃を扱えば口径が大きくなるのはしょうがない。だから口径を大きくしつつ、威力は抑えるように言わなかったかな? 聞いてなかった? それともこれが君の全力かな? 束さんは難しい事を要求しちゃったかな?」

「…………申し訳ごさいません。すぐにやり直します」

「へー? 出来るの?」

「出来ます」

「そ、なら任せるよ」

「はい、失礼します」

 

 白衣の男が顔を赤くしながら頭を下げる。

 全部自分でやった方が確実だが、今はとにかく手が足りない。

 まだ世間に発表していないが、ISを使った競技、モンド・グロッソの開催はすでに決まっている。

 今はその為の準備中。

 全部各国任せじゃつまらない。

 弾丸を共通の規格にすることで、各国が弾丸に合わせてどんな銃を作ってくるか――面白そうだと思ってやってみたけど……。

 

「はぁ」

 

 思わずため息がでる。

 こんな簡単な仕事も出来ないなんて――

 

「篠ノ之博士」

「ん?」

 

 顔を上げると、また顔は知らないけど見慣れた白衣を着た女がいた。

 

「お忙しいところすみません。部品に使うレアメタルが不足してまして……。あ、これなんですが」

「ふむ」

 

 受け取った資料に目を通すと――なるほど、確保しておいたプラセオジムを始め、いくつの在庫が心ともない。

 無駄に使ってくれちゃってまったく。

 

「西亜金属って知ってるかな?」

「はい、大手のメーカーですよね」

「あそこは輸入量を誤魔化してレアメタルを確保してるから、そこから貰おうか」

「え? あのそれは――」

「――何か問題あるかな?」

「……くれと言ってくれるでしょうか?」

「相手が文句言ってきたら、そこのトップに『自分の孫と歳の変わらない女の子を孕ませる変態が逆らってるんじゃねーよ』って言えばいいから」

「……分かりました」

 

 女は青い顔をしながら頭を下げて去っていった。

 なんか震えてたけどちゃんと出来るのかな?

 ――やっぱりめんどくさい。

 全部自分でやった方が絶対に楽だ。

 こうして指示を出すのにも時間を取られるし――

 しかし自分の仕事が多過ぎて手が回らないのも事実なんだよね。

 でも、この煩わしさも後少しだ――後少しで私はここから離れる――

 そして箒ちゃんに……嫌われる?

 

「グスッ」

 

 涙が出てきた。

 いけない、私には泣く権利がない。

 箒ちゃんが泣いちゃうのは私のせいなんだから、私が泣いちゃいけない。

 

 ――気を取り直して、キーボードに指を置く。

 

「篠ノ之博士」

 

 さて、気合を入れて続きをやろうかと思っていたら、またも声をかけられた。

 さっきからイライラが凄いよ本当に。

 

 後ろを振り向くと―― 

 

 見知らぬスーツを着たハゲ

 同じくスーツのヒゲ

 グラサン

 

「ねえグラサン、なんの権利があって束さんの邪魔してるの? 集中してる時は話しかけるなって言ったよね? ブチコロスゾ?」

「ひっ!? ち、違います! 自分ではありません!」

「あん?」

「失礼します。篠ノ之博士、実は大臣が直接話しをしたいとの事でしたので、案内いたしました」

 

 グラサンと私の間に入るように、ヒゲが一歩踏み出してそう切り出した。

 ヒゲの隣に突っ立っているハゲに顔を向ける。

 

 ――気に入らない視線だ。

 なぜ自分が小娘の相手をしなければいけないのか? そんな気持ちを隠そうともせず私を見下ろしている。

 

「どうも篠ノ之博士」

「どーもダイジンサン」

「何度かお会いしたことがあるのですが、まだ名前を覚えて頂けてないようですね。わたしは――」

「あーはいはい、お前の名前なんて興味がないからさっさと用件を言ってくれないかな?」

 

 私がそう言えば、男が悔しそうに歯を噛み締める。

 頭脳は私が上、身体能力も上、相手は小さな国の小さな権力者、こちらはISを開発して世界から注目されている人間。

 自分が勝てる要素がないのに、なんでこいつは私に牙を剥くんだろう?

 馬鹿を通り越して痴呆だと思う。

 

「お忙しい様なので単刀直入に言いましょう。様々な国から篠ノ之博士の身柄を渡すよう要求されています」

「ん? 束さんの頭脳が欲しいってこと?」

「いえ、“テロリスト”である篠ノ之束を渡せ――と」

 

 ふむふむ、やっと動き出したかな?

 

「テロリストね~。身に覚えないけど?」

 

 あ、ちーちゃんとしー君が呆れた顔をしている幻想が見えた。

 

「こちらとしてもどう対処すれば良いのか悩んでいるのですよ。なにせ向こうの言い分は『篠ノ之束が研究所や軍事施設を破壊した』ですから」

「ふ~ん。自国の施設を破壊されてそれを隠しもしないなんて、そいつら馬鹿なの?」

「確かに、相手側の言い分が本当なら、国の弱さを自分達で言っているようなもの、普通では考えられません。ですが――」

「普通じゃない、だからこそ信ぴょう性があるってことだね?」

「はい」

「なるほどね~。それで、証拠はあるのかな?」

「ありません。しかし、“篠ノ之博士の姿を見た”と言う人は大勢いるようですが――」

 

 うん、計算通りだね。

 最近の私は、施設や研究所を襲う場合、生身で銃弾を避けてみせたり、戦車を潰す時にカメラなどの記憶媒体に映らず、人の目にだけ映るようにしていた。

 そのおかげで、頭脳面で恐れられてた私だが、最近は別の意味で恐れられてきた。

 危険人物として暗殺、頭脳目当ての誘拐、私個人の戦闘力を目的とした勧誘、様々な組織が私に目を向けている。

 これで、失踪の為のお膳立ては整ったね。

 

「束さんの頭脳が欲しければ、テロの証拠を出してから言えって言っといてよ。そんなもんあるはずないけどね。――もういいかな? こう見えても忙しいんだけど?」

「ええ、今日はあくまで確認の為なので。篠ノ之博士は日本の宝、政府としても有りもしないテロ容疑で篠ノ之博士の身柄を易々と他国に預けるわけにはいきませんから」

 

 男が頭を下げて立ち去る。

 その後ろをヒゲとグラサンが着いていった。

 

 男の目は私の言葉を信じていない目だ。

 あれは確実に私のことを疑っている。

 それもまた計算通り――

 私が生み出す利益は大きい、ISコアが作れるのも私だけ――

 私の存在が危険だと分かっていても、私との繋がりを切りたくない日本政府は頑張って箒ちゃんを守ってくれるだろう。 

 箒ちゃんの護衛を殺す、または民間人を巻き込む様な事をすれば、日本と戦争――いや、ヘタレ政治家共じゃそこまでは行かないだろうけど、可能性があるかもしれない以上、他国の連中は大きな動きは出来ないはず。 

 

 さて、世界中の欲深い馬鹿共は私を捕まえれるかな?

 

 オネエチャンダイスキダヨオネエチャンダイスキダヨ

 

「ん?」

 

 心の中で暗黒微笑をキメていると、端末にメッセージが届いた。

 開いて見ると、送り主はしー君だった。

 

 

▼▼ ▼▼

 

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 お疲れ様です。

 失踪準備は整いましたか?

  

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 しー君おつつ!

 さっきお偉さんが来て『篠ノ之博士、貴方は世界中から狙われている!(集中線)』って言われたよん\(//∇//)\

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 なぜ照れるのかが分からない。

 何したんです?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 いつも通りだよ

 研究所とか軍事施設の破壊してたΣ(ノ≧ڡ≦)

 

>全ての一郎の頂点に立つ者 

 

 好奇心から聞きますが、どんな研究してたんです?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 お? 聞いちゃう?

 軍事施設はね、将来を見越して女兵士の製造してたよ! 産めや増やせや! の精神だね!

 研究は洗脳系の研究してたよ! ISが女しか使えないなら、男が女を使えばいいジャマイカって感じでした!

 しー君が好きそうな美少女を助けてきた束さんを褒めても良いんだよ?(〃ω〃)

  

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 束さんグッショブ!

 しかし何時からここはエロゲの世界になったのか……。

 その調子で世界の宝である美少女を守るんだ!

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 え? それは断る!

 逆恨みされたくないから助けたけど、馬鹿共を助ける義理ないし(`・ω・´)  

 それでしー君は何用で連絡してきたの?

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 ま、そうなりますよね。

 伝家の宝刀を抜かれる前に本題に入りましょうか。

 ちょっとお願いがありまして……。

 次会うときまでに『痛覚だけを遮断する薬か機械』を作って来て貰えませんか?

 忙しいと思うんですが、お願いしますm(_ _)m

  

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 伝家の宝刀?

 必殺マホカンタだね。『他人に頼むなら自分でやれよって』やつ(*´∀`*)

 それで、そんなの何に使うの?

 ぶっちゃけ嫌な予感ががが((((;゚Д゚))))

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 抜いてんじゃねーよ。

 頼むものはケンカに使うだけですよ?

 ほら、ケガしなくちゃいけないけど、痛いの嫌だし。

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 ケンカって……誰と?

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 束さんと。

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 ケンカするとか初耳なんですが!?

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 あれ? 

 言ってませんでした?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 聞いてないよ!

 え? どゆこと?(°о°)

 

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 どうもこうも、束さんと仲が良いと思われたら、束さん失踪後は俺に監視が付くかもしれないじゃないですか?

 そしたら自由にISで飛び回れなくなっちゃから……。

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 そ、そんことないよ!

 大丈夫だって(;^ω^)

 

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 有り得ますよね? 

 てか、その辺は予想済みですよね?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 ……はい

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 なにか手は考えてます?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 グラサンの前でケンカしようかと……

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 殴り愛☆ だよね?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 口ゲンカでもと……

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 あぁ、うん……。

 どうせそんなもんだと思ってたよ。

  

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 だ、大丈夫!

 いざとなったらしー君の存在知ってる奴等の記憶消すから!!╭( ・ㅂ・)و ̑̑ グッ !

  

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 俺の記憶だけ?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 ピンポイントはまだ無理だけど、全消去は出来るから!╭( ・ㅂ・)و ̑̑ グッ !

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 やめい!

 そんな事しなくても、俺をボコってくれるだけでいいから!

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 それが難しいんですけど!ヽ(`Д´)ノ

 それってしー君が階段から落ちたりすれば良いと思う!

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 束さん。

 貴方は『事故のケガ』と『人の手によるケガ』の見分けがつかないと?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 ……つきます(´・ω・`)

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 それに、これは束さんの為でもあるんだよ?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 そなの?

 

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 仲の良かった小学生をボッコボコにする……。

 天災らしいでしょ?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 それはそうだけど! 確かにらしいけど!!

 

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 小学生をボコる簡単なお仕事です(キリッ)

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 あれだよ? 

 無茶言うと怒るよ?

 

>全ての一郎の頂点に立つ者 

 

 へー

 具体的にはどう怒るの?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 二度とカラオケに行かない(○´艸`)

 

>全ての一郎の頂点に立つ者 

 

 そそそそれが脅しになるとでもも(゚ロ゚; 三 ;゚ロ゚)

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ 

 

 しー君焦りすぎでワロス((´∀`*))

 天災はなんでも知っている

 前にカラオケ行った時、しー君がみんなの歌を録音してたことも知っている

 

>全ての一郎の頂点に立つ者 

 

 くぁwせdrftgyふじこlp!?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ 

 

 そして、録音した束さんの歌を聞いて、自室でニヤニヤしてたことも知っている(*゚▽゚*)

 

>全ての一郎の頂点に立つ者 

 

 もうやめて! 俺のライフはもう0よ!

 ってかなんで知ってるん?

 俺の行動を把握してる暇なんてなかったハズでは!?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ 

 

 最近心に余裕がなくてさ、潤いが…… 

 

>全ての一郎の頂点に立つ者 

 

 あれですか、仕事しながら俺や箒の姿を覗き見してると?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ 

 

 短的に言うと(〃・ω・〃)  

 

>全ての一郎の頂点に立つ者 

 

 くそ……ちょっとくらいなら大丈夫だと思って油断した。

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ 

 

 で、どうする?(。ω゚)ン?

 

>全ての一郎の頂点に立つ者 

 

 うむむ……。

 確かに俺は束さんに歌を歌って欲しい。

 天使の翼を付けて『Wake Up Angel』を全力で歌って欲しい!

 束さんのベストアルバムを作りたい衝動が止まらないんだよ!

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ 

 

 それがどんな歌かは知らないけど、束さんは別に歌とか興味ないからさ、自発的には絶対に歌わないよ? 

 

>全ての一郎の頂点に立つ者 

 

 気付いたら立場が逆転してた……ナニコレコワイ。

 だが俺は負けん。

 束さん、千冬さんに嫌われ、一夏に他人行儀に接せられ、箒に恨まれることになりますが、よろしいですね?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ 

 

 ほえ?

 

>全ての一郎の頂点に立つ者 

 

 これから俺と束さんは別々の道を歩く訳ですし、自分の事は自分でやってください。

 俺も自分でなんとかするので、そっちも自分で頑張ってください。

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ 

 

 ちょっ!?

 待ってしー君! 結論が急じゃないかな!?

 

>全ての一郎の頂点に立つ者 

 

 俺は引く気はありません。

 なぜなら、束さんとの関係は俺の夢の妨げになるからです。

  

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 ちょっとは言葉選ぼうよ・゜・(ノД`)・゜・

 分かってるよ! 私だってしー君の気持ち分かってるけどさ、もっと他に手段は有ると思う!

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 例えば?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 ①しー君がその辺の不良にケンカを売る

 ②ボコられる

 ③不良の記憶をバンする

 ④ケガは束さんやられたと言い回る

 

 どーよ( ̄ー+ ̄)

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 ねーよ。

 束さん、我侭ばかり言わないでさ、大人しく俺をボコろ? ね?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 なんでこっちが無理言ってる風なんですかねぇ!?

 お願いだよしー君、私は今ちょっと心に余裕がないので、少し優しくしてください。゚(゚´Д`゚)゚。

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 国の関係者の前でボコれと言ってないだけ優しくしてると思うんだが……。

 う~ん。お礼はしますよ?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 お礼?

 それは期待できる物なの?

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 束さんがうれションしちゃうかもしれない。

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 お下品禁止!

 でもしー君がそこまで言うなら期待できるね!

 うえ~い(´∀`σ)σ

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 ま、断るなら……。

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 ぐぬぬ

 こ、この天災を脅すとか……

 束さんは脅迫には負けないよ!( *`ω´)

  

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 FA?

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 束さんがしー君のお願いを無視する訳ないじゃないかもー!(つД<)・゚。

 

>全ての一郎の頂点に立つ者

 

 脅しは冗談ですが、束さんが喜びそうな物用意しますんで、よろしくです。

 んでは、忙しいとこすみませんでした。

 おつです。

 

>この世全てのウサギを束ねるモノ

 

 はーい

 おつつ~ヾ(*・ω・*)

 

 

▲▲ ▲▲

 

 

「ふぅ」

 

 しー君とのやり取りを終え、近くに置いてあったミネラルウォーターで喉を潤す。

 声は出してないのに、無駄に叫んだ気がするよ……。

 

 てかしー君、このタイミングでこのお願いは辛いよ――

 しー君が私にトドメを刺しに来てる気がするのは気のせいかな?

 正直、可能性としては考えてたことだから断れなんだよね。

 表面的に私としー君の縁を切ろうとしたら、それくらいの事しなきゃダメだもん。 

 しー君がそんな荒事をしなきゃいけないのも私の所為だから、嫌でも私がやらなきゃ……。

 

 それにしても、痛覚の遮断ときたか――

 いつもながらしー君の頼みごとは面白いね。

 今は忙しい時期だけど、薬にしろ機械にしろ作るのは難しくはない。

 時間もそんなにかからないしだろうし。

 うん、気分転換にもちょどいいね。

 

「失礼します篠ノ之博士。IS展開時の関節部分なんですが――」

 

 ……しー君、暇してるならこっち手伝ってくれないかな?

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 衝撃のバレンタインから二週間後、俺は束さんから失踪の準備が終わったと連絡をもらい、篠ノ之神社に来ていた。

 平日の昼間と言うこともあり、境内はとても静かだ。

 篠ノ之家の方にも行ってみたが、柳韻先生も雪子さんもいなかった。

 恐らく束さんが手を回したんだろう。

 

 束さんとの出会いから三年、沢山の思い出ができた。

 今思い出すととても感慨深い。

 

 みんなで海に行ったり、お泊りしたり、そんな楽しかった時間が今も様々と思い出せる。

 ――ついでに電流の痛みや、尻の穴の異物感も同時に思い出せてしまうのはご愛嬌だろうか……。

 

「早いな神一郎」

「ども」

 

 木に寄りかかりながらぼーっと空を眺めていたら、いつの間にか隣に千冬さんが立っていた。

 久しぶりという程の時間ではないが、二週間ぶりに見る千冬さんの顔は――

 

「え? なんでそんな疲れた顔してるんです?」

 

 目の下にくま、髪はやや乱れ元気がない、そして顔もやや青かった。

 なぜに?

 

「――IS研究機関への内定は決まった。学校も自由登校。今の内に貯金を作ろうと、最近は時間の許す限り働いていてな」

「貯金ですか?」

「四月から私も社会人だろ? まるまる一ヶ月稼ぎがないからな」

 

 あ、そっか――

 千冬さんの稼ぎは新聞配達などの定期の仕事と、日雇いだ。

 月末には一定の金額が入るが、日雇い分の稼ぎがなくなる。

 初給料までその穴を埋めたいのか――

 

「素直に頼っても良いんだよ?」

「お前に借りを作るのは怖い……とは言わないが、まぁなんだ……少し暇を持て余してだな……」 

 

 なんか年頃の女の子に似合わない言葉が――

 

「時間がある内に稼ごうと働いていたら、その内に『私はどこまで稼げるのだろう?』と考えてしまってな。ついつい自分の限界に挑戦してしまった――」

 

 千冬さんが少し恥ずかしそうに自分の頬を掻いた。

 これだからワーカーホリックは――いや、無趣味は、と言うべきかな?

 

「一夏と遊んであげればいいじゃないですか」

「箒の邪魔をするのも……な?」

「箒なら千冬さんが一緒でも嫌な顔しないと思いますよ?」

「そうか?」

「そうです」

「――今度、二人に剣でも教えるか」

「きっと喜びますよ」

 

 ――正直、時間の潰し方がバイトか剣ってのちょっとどうかと思うけどね?

 人の趣味はそれぞれだから口には出さないけど。

 

「それにしても束さんが来ませんね」

「束? アイツなら――」

『ふっふっふっ。呼んだね? この天災を!』

 

 千冬さんの声に答える様に、束さんの声が聞こえた。

 その瞬間、風が吹いて、周囲の土と落ち葉が舞い上がる――

 

 大事な見せ場で風が舞う――アニメでよく見るシーンだが、今なら分かる。

 これ、絶対仕込みだ。

 

「束さん?」

 

 キョロキョロと周囲を見渡すが、姿は見えない。

 

『ちーちゃんに呼ばれたなら即参上! それが私の生態!』

 

 嫌な生態だなおい。

 そして、“即”って言ってる割に姿が見えないのはツッコミどころなんだろうか?

 

「…………」

「千冬さん?」

 

 千冬さんがスタスタとさっきまで俺が寄りかかっていた木に近づき――

 

「ふんッ!」

 

 木にキックをかました。

 蹴られた木は、左右にユサユサと揺れ、その揺れに合わせて、木の葉や――

 

「んべっ!?」

 

 束さんが落ちてきた――

 いつからは知らないが、木の上で出番を待っていたみたいだ。

 顔面から地面に激突とは、かなり痛そうだな。

 

「うぅ……酷いよちーちゃん、急に揺らすから落ちちゃったじゃん」

 

 鼻を打ったのか、鼻先を赤くした束さんが涙目で顔を上げた。

 

「言葉でお前がどこにいるか言えば、神一郎が上を見上げた瞬間、お前のパンツが丸見えだったぞ?」

「……おぉ!? ちーちゃんナイス!」

 

 なん……だと!? 自分で気付いていれば!

 俺としては口で言って欲しかったよ!

 いやそれ以前に、もう少し視線を上げて、空ではなく真上を見ていれば!

 

「それはそれは、是非とも見たかったですね。はい――」

「よっと」

 

 束さんに手を貸して立ち上がせる。

 

「束さんも久しぶりですね。調子はどうです?」

「それはもう絶好調だよ! 今日も束さん狙いの暗殺者を太平洋に沈させてきたからね!」

「――“沈”って?」

「沈没の事だよ? 船で密入国しようとしてきた奴等だからね。上陸前に消えてもらいました! でも安心してね? 直接手は下してないから! サメのエサになるかは神様の加護とか次第だけど――ま、アイツ等の上層部が助けを出さなければ、時間をかけてゆっくり海の栄養になっちゃうけどね!」

 

 うわ、凄く良い笑顔で凄い怖い事を言われてしまった。

 これは束さん、随分とストレス溜まってるな。

 暗殺者達には少しだけ同情してしまう。

 物騒な仕事をしているんだ。彼らにもそれなりの覚悟はあるだうけど、ゆっくり海の栄養とか怖すぎる……。

 

 うむ、ここは束さんに癒しをプレゼントしてあげよう。

 

「束さん、これからもストレスマッハになるだろうアナタに癒しを差し上げましょう」

「ん? しー君なにかくれるの?」

「ちょっとだけ目を閉じてくれませんか?」

「――こう?」

 

 束さんが素直に目を閉じた。

 ――美少女が目の前で目を閉じてると、少しだけイケナイ気分になっちゃうね?

 

「神一郎、変な気は起こすなよ?」

「はは……モチロンデスヨ?」

 

 千冬さんが睨みを効かせてるのに、変なことするわけないじゃん?

 ――さて、ではこの二週間で用意してたブツを……くらえ!

 

「むふっ!?」

 

 拡張領域から取り出したブツを、束さんの顔面に叩きつける。

 

「クリスマスの恨みか? だが神一郎、さすがに不意打ちは卑怯じゃないか? いくら束でも怒るぞ?」

 

 千冬さんが呆れた顔をしているが、気にしない。

 大丈夫、きっと束さんは怒らない――

 

「――」

 

 ブツを束さんの顔面に当てたまま、俺はジッと動かない。

 束さんも同じく動かない――

 

「――クンクン」

 

 いや、束さんは少しだけ動き始めた。

 さすが束さん、気付いたか――

 

「クンクンクンクン――」

 

 束さんは俺が取り出したブツ――抱き枕に自ら顔を押し当て始めた。

 

「なぁ神一郎、ちょっと話をしないか?」

 

 千冬さんが俺の頭をガシッと掴み、底冷えする声を発するが、ここは諦めて欲しい。

 だって束さんが喜びそうな物って限られてるじゃん? だから千冬さんの絵がプリントされてるのは見逃してください。

 

「クンクンクンクンクンクンクンクン――」

「……お前への追求は置いといてだ、束はなにしてるんだ?」

 

 千冬さんが怪訝な顔で、抱き枕に顔を押し付けたままの束さんを見つめる。

 

「あの抱き枕にはちょっとした工夫がしてありまして」

「工夫だと?」

 

 嫌な予感でもしたんだろう、千冬さんの眉が中心に寄った。

 千冬さん、その予感――当たりです。

 

「ちーちゃんの匂いだ~!!」

 

 今までただ匂いを嗅いでいた束さんが、俺から抱き枕をひったくって頬ずりしながら声を上げた。

 

「そう、それこそが俺の会心の一品――『千冬さん(体育教師vr)の匂いがする抱き枕』だ!」

「あぁ……芳しきちーちゃんのか・お・り」

 

 束さんはうっとりとした顔で枕を抱き締め、俺の話をまったく聞いてなかった。

 そこまで喜んでもらえると俺も頑張った甲斐があったな。

 

「なにやら満足気だが、私に言うことあるよな?」

 

 ――あ、忘れてた。

 

「ぎゃん!?」

「まくべっ!?」

 

 俺と束さんの頭上に鉄拳が落ちた。

 

「ぐぉぉぉ!?」

 

 久しぶりの痛みで頭を押さえたままうずくまる。

 隣では束さんも同じような体勢になっていた。

 千冬さんの拳骨って、頭の芯から痛いんだよな――

 

「で、コレはなんだ?」

「やっ!? 返してちーちゃん!?」

 

 千冬さんが抱き枕を取り上げ、泣きながら足にすがり付く束さんの頭を鬱陶しそうに手で押さえていた。

 

「最近一夏と出かけたんですが、何か聞いてませんか?」

「一夏と? 確か――フリーマーケットに行ったとか言っていたな」

「それです。その時に千冬さん服を何枚か拝借しました」

 

 先週の日曜日、俺は一夏を連れてフリーマーケットに行った。

 織斑家は余裕がない。

 千冬さんのお古の服も捨てずに取っておいていある。

 穴が空いた服は切って雑巾代わりに、綺麗だけどサイズ的に着れなくなった服は、一夏が大きくなった時用に――

 そんな服が家に溜め込まれていたのだ。

 しかし、服を捨てずにいるのもスペースの無駄。

 なので俺は一夏に『お金が貰えて、家の荷物を減らせる良い方法がある』と言って、一夏をフリーマーケットに誘った。

 会場に行く前に一夏には俺の家に寄ってもらって、そこで一夏が持ち込んだ物品の品定めをした。

 黄ばみがあったり、よれてるシャツなどは『これは売れないから置いていこうか?』と言ってさりげなく回収。

 その後、それらを切り刻んで綿と一緒に抱き枕に入れた――

 

「千冬さんの汗が染み込んだ服は、一度の洗濯くらいで臭成分は消せなかったってことです」

「成分言うな。さて束、コレ燃やしてもいいな?」

「お願いだから返して~!」

 

 束さんが必死に抱き枕を回収しようと手を伸ばすも、千冬さんのガードは緩むことは無かった。

 まぁこの流れは予想の範囲だ。

 

「千冬さん、それを本気で燃やすつもりですか?」

「当たり前だ! こんな物の存在許せるか!」

「――どうなっても知りませんよ?」

「何がだ?」

 

 束さんが伸ばす手を匠に避けながら、千冬さんは俺の目を見る。

 

「これから先、束さんは心身共に疲れる日々が待ってます。箒に嫌われたり、命を狙われたり、箒に嫌われたりと、それはもう大変な毎日です」

「嫌われる前提で話さないで!?」

 

 束さんがなにやら騒いでいるが、失踪直後は箒の恨みを買うのはほぼ決定だと思うので、そこは諦めて欲しい。

 

「もしかしたら――ストレスで心の余裕がなくなった束さんが、ストレス発散の為に千冬さんに夜這いとかするかもしれませんよ?」

「なにを馬鹿な事を……そんな事するはず……」

「夜、千冬さんが目を覚ますと、脱衣所から誰かの気配が……気になってお風呂場に行って見てみると、そこでは束さんが『ちーちゃんが一日中履いてたパンツ~!』と言いながら、パンツ片手に――」

 

 千冬さんがゴクリとツバを飲んで、視線を束さんに向ける。

 そこには自分でそのシーンを想像したのか、ぐへへとオヤジ笑いをする束さん――

 

「――夜に千冬さんが目を覚ますと、目の前には上半身裸の束さんが千冬さんに馬乗りになっていて、『箒ちゃんに嫌われた私にはちーちゃんしかいないの! お願いちーちゃん! 私を慰めて!』なんて言いながら――」

「……この抱き枕を渡したら大丈夫なのか?」

「それは本人に聞いてください」

「私? ん~とね。普段ならちーちゃんが本気で怒りそうだし、嫌われそうだからやらないけど、余裕がなくなったらどうなるか分かんないね。でも、確実に言えることが一つだけ――この抱き枕があれば、私は10年戦えるよ!」

 

 たまに思うけど、束さんの千冬さんに対する愛って本当に凄いと思う。

 一応、何かの交渉に使えるかもと思って一夏の服も確保してあるんだよね。

 ISに追加の装備をお願いするかもだし。

 この反応を見る限りとても有効な様だ。

 

「それで千冬さん、どうします?」

「――束、約束しろ。コレを渡すから、絶対に家には来ないと」

「するする! ちーちゃんにお呼ばれされない限り、無断で入ったりしません! だからその抱き枕を!」

 

 千冬さんは元々青かった顔を更に青くしながら、抱き枕を束さんに向かって投げた。

 

「お帰りちーちゃ~ん!」

 

 それを束さんがガバっと抱き締めながら受け止めた。

 良かったね束さん。

 

「神一郎、もう数発殴らせてくれないか?」

 

 喜ぶ束さんの隣で、今度は千冬さんストレスがマッハだった。

 だが慌ててはいけない。

 この流れもまた予想通りだ。

 むしろ、ここで怒らない千冬さんを想像する方が無理って話だし。

 

「千冬さん、これでどうぞお許しください」

 

 俺は拡張領域から取り出したビニール袋を千冬さんに差し出した。

 

「ん? マンガか?」

 

 千冬さんがビニール袋に手を突っ込み、一冊の本を取り出してマジマジと眺める。

 俺が渡した本は『八神くんの家庭の事情』と言うタイトルのマンガ本だ。

 内容は、可愛すぎる実母にドキドキする男子高校生を描いたラブコメに近いギャグマンガ。

 男の子の初恋は母親なんだよ? そんな内容を面白楽しく教えてくれるマンガだ。

 一夏が大きくなったら、きっと千冬さんの力になってくれるだろうと思い用意した。

 最悪、千冬さんがブラコンをこじらせるかもしれないが、それはそれで面白そうだから良しだろ。

 

「なんだ? まだなにかが……ブタの貯金箱? それも中身が入ってるな」

「あ、それはフリーマーケットの売上の一部です。千冬さんに渡そうかと思いまして」

「――私がこういう行為が嫌いなのは知っているな?」

 

 千冬さんがギロリと俺を睨む。

 さっきの話題からの現金だから睨まれるのしょうがないけどさ、千冬さんには俺が善意でお金を渡すキャラに見えるのかね?

 

「別に同情や哀れみの気持ちからの援助じゃありませんよ?」

「ならこれはなんだ?」

「フリーマーケットで千冬さんの写真を売ったので本人に分け前をぐぼらッ!?」

「――なぜ私の周りの人間はこんな奴等ばかりなのか……」

 

 俺を殴った千冬さんがとても疲れた顔をしながら深いため息をついた。

 だってしょうがないじゃないか。

 千冬さんの写真は俺の大事な収入源。

 将来売り捌く為にも、市場の価格を知らなければならなかったんだ。

 だから取り敢えず、千冬さんの日常風景を写した写真を20枚用意して、一枚500円の値段を付けて古本と一緒に並べてみたんだよね。

 結果、即完売でした。

 

「いたたたっ……で、千冬さん。そのお金どうします? いらないならそのお金は俺の晩飯代になって胃袋に消えますが?」

「復活が早いな……。私の写真を売った金だろ? なら貰っておく」

 

 殴られたと言っても、かなり手加減されたしね。

 口元触ってみたけど血も出てなかったし。

 

「いいか? もう二度同じ真似はするなよ?」

 

 え? それは無理。

 などど言ったら、問答無用でもう一度殴られそうだな。

 

「分かりました。二度としません」

「――絶対嘘だろ」

 

 千冬さんが諦めた様にため息をついた。

 今日の千冬さんはため息が多いな。

 千冬さんの為にも、一夏が売った千冬さんの服は、顔を赤らめた女の子達が買って行った事は千冬さんの悩みを増やしそうだし黙っておこう。

 一夏が千冬さんの弟だとさり気なく吹聴したらあっという間に売れたけど、あの女の子達は千冬さんの服をナニに使うのか……。

  

「それで束さん、今日が決行日ってことでいいんですか?」

「おうさ! 準備は万端気合は満タン! 今日は絶好の失踪日よりだよ!」

 

 話の流れを変えるために束さんへ振ってみたら、凄まじいカラ元気を見せられた。

 笑顔はいつもの三割増。

 どう見ても爆発寸前だ。

 ――ここは何も言わないのが優しさだろう。

 

「んじゃ、改めてこれからの計画を説明しますね。まず、千冬さん」

「なんだ?」

 

 俺は千冬さんの方へ体を向け、千冬さんと真面目な顔で向き合った。

 

「これから俺と束さんがケンカします。その後、千冬さんには救急車を呼んでもらいたいんです」

「救急車? そこまでするのか?」

「何事も中途半端は一番ダメです。やるなら徹底的にやらないと」

「ふむ、その考えは同意できるな」

「その後、おそらく警察や国の関係者に事情を聞かれるでしょうが、その時に何も言わないで欲しいんです」

「――聞かれても何も答えるなということか?」

「はい。『子供のケンカ』で済ませてください。警察は民事不介入。千冬さんがただのケンカだと言えば、無理矢理聞き出そうとはしないでしょう。怪しむでしょうけど、たぶん警察にはすぐに国から圧力が掛かると思いますので」

「束に関する事だから、国は警察に箝口令を敷くと?」

「そうなると思います」

「国の方はどうするつもりだ?」

「束さんと俺が仲が良いのは向こうも知ってる事です。束さんがその俺に怪我をさせ、その上で失踪、千冬さんが余計な事を言わなければ――」

「姿を消すことを私達に話した束に対し、お前が怒ってケンカを売った――とでもするつもりか?」

「そうなってくれたら楽なんですけど。ま、その辺は向こうさんが勝手に想像してくれるかなと」

「詰めが甘いんじゃないか? 国の連中はお前にも話しを聞いてくるだろ? どうするつもりだ?」

「詳しくは何も言わないつもりです。取り敢えず、“束憎し!”の感情を見せつつ、様子を見ながら臨機応変にって感じですかね。それとついでに、今回の件が千冬さんとの関係に亀裂を入れる役目もあります」

「ケンカの仲裁に入らずただ見ていた私をお前が避ける様になる……か」

「構いませんか?」

「お前がそれで良いなら私は構わない……。まぁ色々と穴が多いが、お前なら上手く立ち回れるだろ」

 

 千冬さんはそう言って、ニヤリと笑ってみせた。

 ――ちくしょう、歯を見せながらのニヤリ笑い超カッコイイ!

 

「千冬さんがイケメン過ぎてメスになっちゃうッ!!!」

「そうか、良かったな」

 

 あれ? 反応が想像と違う。

 ここは一発殴られる場面なのに――

 

「真面目な雰囲気が苦手だからワザとボケる。だろ?」

「ぐっ……」

 

 くそ、読まれてる。

 しかも更に良い笑顔を見せられてしまった。

 ダメだ、ここは素直に白旗を上げよう。

 

「束さん、お次は束さんの番です」

「…………」

 

 千冬さんから逃げる様に束さんに話しかけるが、束さんは地面に座り込んだまま目の前にパソコンの画面を出し、手を忙しなく動かしていた。

 いつの間にか抱き枕も無くなっていた。

 自分の拡張領域に仕舞ったのだろう。

 

「束さん!」

「……おう!?」

 

 再度話しかけると、束さんがビクッと反応した。

 やれやれ――

 

「ごめんよしー君。ちょっと集中しちゃってたよ」

「何してたんです?」

「しー君の最近の行動をチェックしてた」

 

 あっけらかんとした顔でストーカー宣言されてしまった。

 

「オイこら」

「ついでにしー君の戸籍イジっておいたよ。ほら、しー君てば親とか存在しないし」

「――束さん素敵」

「もう、しー君てば調子良いんだから」

 

 アハハと笑いながら束さんを持ち上げてみる。

 すっかり忘れてた。

 俺って家族とか居ない不思議小学生だった。

 神様特典があるとはいえ、偽造してくれるならそれに越したことはない。

 

「それでねしー君。束さんには一つ疑問があります」

 

 おや? 束さんの様子が――

 

「なんでしー君はいつも通りなの?」

「質問の意味が分かんないです」

 

 いつも通りって普段通りって事で……うん、何が言いたいのか本気で分からん。

 

「そのままの意味だよ? ねぇちーちゃん」

「なんだ?」

「ちーちゃんが最近働きまくってるのってストレス発散も兼ねてるんでしょ?」

「――」

 

 束さんの口から出たのは思いもよらない言葉だった。

 ストレス発散?

 千冬さんには似合わない言葉だ。

 

「千冬さん、何かあったんですか?」

「違うよしー君。“何かあった”じゃなくて“これから起こる”だよ」

「束、余計な事は――」

「ちーちゃんも違和感感じてるはずだよ? 今の内に聞いた方が良いよ」

「――確かに、私も気にはなっていた」

 

 よく分からないが、千冬さんは束さんの意見に同意したようだ。

 二人揃って俺に視線を向ける――

 

 これから起こる?

 ストレス?

 これから起こるのは束さんの失踪――

 

 束さんとの別れが寂しい?

 ――ないな。

 

 なら……就職への不安?

 ――千冬さんはそんなタマじゃない。

 

 恩師である柳韻先生の心配している?

 ――あるとは思うが、なんか違うと思う。

 

 まだ他にも候補はあるが、確証はない。

 うむ、分からんな。

 

「降参です」

「「はぁ……」」

 

 両手を上げてそう言えば、二人は同時にため息を吐いた。

 珍しく息が合ってるじゃないか。

 

「ちーちゃん、ここは私が」

「任せた」

 

 千冬さんに何かを任された束さんが、とても良い笑顔で俺に近づいてきた。

 なんか凄く嫌な予感が――

 

「しー君、正座」

 

 オーケー。

 取り敢えず心にアストロンでも使おうか。

 嫌な予感がバリサンだ。

 

「あのねしー君。しー君に出会ってから凄く楽しい日々でした。いっくんと箒ちゃんと一緒に遊んだ思い出は束さんの宝です。だから凄く感謝してるんだよ?」

「はい」

「それはちーちゃんも同じなんだよ? 毎日バイト三昧で余裕が無かったちーちゃんが、しー君に出会ってからよく笑顔を見せる様になったからね」

「はい」

「分かるかな? 束さんもちーちゃんも、そんな楽しい日々がもう来ないと思うと、寂しくて悲しいんだよ」

「はい」

 

 正座しながら、大人の必殺技『どんな言葉にも素直にはいと言いながらやり過ごす』を使う俺の頭上に、束さんの言葉が降り注ぐ。

 

「だから納得行かないんだよ。しー君のここ最近の行動はいつもと変わらなかった。――それだけじゃない。しー君の脳波やホルモンバランスを確認してみたけど、しー君はストレスをほとんど感じていなかった。つまり……しー君は寂しさを感じていないんだよ!」

 

 束さんは俺をビシリと指差しながらそう言い放った。

 

  ――自分と千冬さんが別れを間近に悲しんでるにも関わらず、俺が普通なのが納得できないと……。

 え? おかしくね?

 

「あの~? ちょっといいですか?」

「ん? 言い訳でもあるのかな?」

 

 手を上げると、束さんが不機嫌な顔しながら俺を睨んできた。

 

「言い訳と言いますか……。あのですね。まず、俺の立ち位置なんかを考えると、別に悲しむ必要がないんですが?」

「――どういう意味かな?」

 

 やべ……束さんの目付きがいつになく怖い。

 

「順番に説明して行きましょう。まず一夏の事から――。いいですか? 確かに俺は道場を辞めて一夏と距離を取りますが、学校で会おうと思えば会えるんですから、別に悲しむ必要ないですよね?」

「今までと同じ様に遊べなくなるんだぞ? それに対して寂しさはないのか?」

「習い事を辞めて付き合いが薄くなる。そんなの当たり前の事じゃないですか」

「――」

 

 千冬さんの疑問にそう答えれば、納得出来ないのか、眉を寄せられた……解せね。

 

「次に箒です。箒も同じ理由ですね。色々考えましたが、別れを悲しむ箒を慰めるには、俺が姿を見せた方が良いと思うので、箒にはちょくちょく会う予定です」

「箒ちゃんにはIS適合者ってバラすんだ?」

「はい、つまり俺と箒は別れる訳ではありません。ただ会う頻度減るだけです。ね? 別にそこまで悲しむ理由はないでしょ?」

 

 そもそも、小学生で一学年違いは別世界に住んでると言って過言ではない。

 人数の少ない学校ならともかく、俺や一夏が通う学校は違う。

 俺が学校内で二人に会うことは殆どない。

 会うのは道場や週末に遊ぶ時くらい。

 二度と会えないならともかく、頻度が減るくらいじゃ寂しいと感じない。

 

「むう……」

 

 だが、束さんも納得出来ないらしく、唇を尖らせた。

 

「ならちーちゃんはどうなの? ちーちゃんと距離を取るんでしょ?」

「就職を機に疎遠になる。それも当たり前です。騒ぐほどじゃない」

「ぐぬぬ……。なら……そう! 私は!?」

「束さんは俺にもう会わないいつもりですか? 俺は世界を旅する途中で、束さんの住処に遊びに行こうと思ってたんですか……」

「べ、別に構わないけど――」

「それじゃあ問題ないですね」

「むむむ……しー君の理屈は分かったけど、やっぱり納得出来ないよ。ちーちゃんはどう?」

「――喉に小骨が刺さってると言うか、上手い例えが見つからないが、正直私も納得していない」

 

 自分ではなんの問題もなく二人の疑問に答えられたと思うが、二人は納得してないようだ。

 ――実は、話しをしながら気付いた事がある。

 さっきから感じるこのアウェイ感、これは過去体験したことが空気だ。

 そう、卒業式で!

 

 肩を抱き合いながら泣き合う女子。

 その横で『お前就職するんだろ? 初給料で奢れよ』とか『東京の大学行く奴いる? 一緒に風俗行かね?』などの馬鹿話で盛り上がる男子。

 あの『男子なんで笑ってるの?』と『え? なんで女子泣いてんの?』という二つの感情が混ざり合った空気。

 今この場に流れる空気はそれにそっくりだ。

 

 二人が俺から聞きたいのは正論なんかじゃない。

 こんな場面で大事なのは“共感”だ。

 『別れが寂しいって気持ち、俺にも分かるよ』と言ってあげるだけで、たぶん満足するだろう。

 

 ふむ――

 

「束さん、ちょっと正座してください」

「あれ? なんかしー君の笑顔が怖い――」

「……神一郎を正座させたのは束だろ? なら正座するのは束だけでいいよな?」

「あっ! ちーちゃんズルい!」

 

 俺の笑顔を見て、千冬さんが束さんから距離を取った。

 大丈夫、別に酷い事はしないよ? 

 

「束さん、正座」

「はい――」

 

 少し強めの口調で言ったら、束さんは素直に正座した。

 さあ、ここからは俺の口撃ターンだ。

 

「あのさ、人生って別れの連続なんだよね」

「あの、しー君?」

「黙ってろ」

「はい」

「小学生の時に『俺達、大人になってもずっと友達だぜ』なんて約束した5人が居たとしよう。だが、中学に上がる時に一人が違う中学に行き4人に、高校に上がる時には3人になり、大人になって社会に出た時には、昔みたいに遊ぶ様な友達は2人になってしまう――それが当たり前なんだよ。もちろん例外もあるけどさ」

 

 友情はずっと続くかもしれない。

 けど、ずっと一緒に居れる訳はない。

 

「そこで聞きたいんだけど、千冬さんと束さんは、学校の卒業式とかで泣いたことあります? 友人との別れを悲しんだことは?」

「――ないです」

「私もだ」

 

 束さんはともかく千冬さんもか。

 

「千冬さんは友達は居なかったんですか?」

「ふんだ。ちーちゃんに友達なんて必要――」

「ぼっちウサギは黙っとれ」

「……あい」

「で、千冬さん、どうだったんです?」

「友達と言われると……居なかったな。バイトが忙しく部活もやってなかったし、遊びの誘いも断っていた」

 

 千冬さんは束さんよりは社交性はある。

 それでも友人が居なかったってことは、友人を作る余裕が無かったってのもあるが、それ以上に良い出会いに恵まれなかったんだろうな。

 

「ではお二人に一つの真理を教えましょう。今、束さんと千冬さんの胸の中にある『別れを悲しむ感情』ってのは――慣れるんだよッ!」

 

 さっきとは真逆。

 今度は俺が指を指しながらそう言ってやる。

 

「普通はな、進級や進学を繰り返し子供の内に慣れるべき感情なんだよ! それをお前、人を冷血漢みたいに言いやがって……。少しは中身を磨けボッチどもッ!」

「んなッ!? ちょっとしー君! それは言い過ぎじゃないかな!?」

「束さんは今まで人との別れを悲しんだことないんだよね?」

「ない!」

「そっか、今束さんの中にあるその暗い感情は、人間が生きてる内に何度も味わう物だから、諦めて受け入れろ」

「ちーちゃ~ん! しー君が冷たいよ~!」

 

 束さんが泣きながら、助けを求める目を千冬さんに向けた。

 その視線を受け、千冬さんが柄にもなく同情的な顔をした。

 

「神一郎、お前の言い分は分かった。だから少し手加減してやれ」

 

 おお!? 千冬さんが珍しく庇う様なことを言ってくるとは!?

 ここまでは大成功だな。

 さて――落としてから持ち上げる。それが基本だ。

 

「大丈夫だよ束さん」

「ふえっ!?」

 

 さっきまでとは違い、優しく言葉をかけながら、束さんの頭を自分の胸の中に抱き締める。

 正座をしている束さんの頭の位置は、丁度俺の胸の高さと一緒だ。

 だから苦もなく抱き締められた。

 

「今は寂しいかもしれない。でもさ、そんなに心配する必要ないんだよ?」

「……ないの?」

「だって長い別れになるわけじゃないからね。ほんの少しの辛抱だから、束さんの周辺が落ち着いて、ちゃんと箒と仲直りすれば、またみんなで笑える日が来るから」

 

 よしよしと言いながら束さんの頭を優しく撫でてあげる。

 サラサラとした髪の感触が心地良い。

 

「それにさ、束さんはみんなと会えなくなるかもしれいけど、俺とは何時でも会えるでしょ?」

「――しー君と?」

「俺の夢が世界中を見て回ることだって知ってますよね?」

「うん」

「だから世界を回ってる間に好きな時に束さんと会えます。束さんは用もないのに俺と会うの嫌ですか?」

「……ううん。嫌じゃないよ」

 

 束さんが首を横に振るので、俺の胸に額がこすりつけられる。

 こうして大人しいと本当に可愛いな。

 

「それじゃあ、暫くの間は俺だけで我慢してください」 

「――うん」

 

 束さんが俺の背中に腕を回し、ギュッと抱きしめてきた。

 その頭を慰めるようにゆっくりと撫でる。

 ここまでくればもう大丈夫だろう。

 

「それで束さん、ちょっとお願いがあるんだけど――」

「ん? なーに?」

 

 束さんは俺を抱き締めたまま、少し甘えた声を出した。

 ――ふっ、ちょろい。

 

「作って欲しいISのパーツが「そこまでだ」あがッ!?」

 

 ぬおぉぉ!?

 頭が……頭が割る!?

 

「さっきから見ていれば、お前と言う奴は!」

 

 千冬さんに頭を掴まれ、体が数センチ浮く。

 

「ち、千冬さん!? なんッ!?」

「お前、自分がどんな顔してたか分かるか?」

「……傷心の友人を心配する友達の顔ですよね?」

「……田舎から出てきたばかりの女子大生をカモにするヤリサー大学生の顔だったぞ?」

 

 ヤリサ―!?

 なんて似合わない言葉を!?

 そんな言葉を覚えるなんて、お兄さんは許しません!

 

「千冬さん、どこでそんな言葉を?」

「最近は恋愛ドラマを見るようにしていてな。それで覚えた」

 

 あ、俺のせいでしたかそうですか――

 

「……ねぇちーちゃん、私は今しー君の顔見れないんだけど……そんな顔してるの?」

「しているな」

「へー」

 

 グッと束さんの腕の力が強まった。

 これはマズイ――

 

「しー君のこと信用してない訳じゃないよ? でもしー君、一応確認させてね? では質問です。しー君にとって束さんはどんな存在かな?」

 

 今、腕の中に居るのはただの可愛い子ではない。

 その気になったら、腕の力だけで俺の胴体を千切れる存在だ――

 ちょっとした油断や遊びが死に継る……。

 ふふっ……面白くなってきたじゃないか……。

 

「タバゴンは【みやぶる】を使った」

「……どんな効果があるんです?」

「嘘が分かります」

 

 なるほど……なる……ほど。 

 これは詰みましたね。

 

「ド○えもん」

「……ちーちゃん」

「了解だ」

「あががががががががッッッ!!」

 

 束さんは胸に顔を当てたまま両腕に力を入れた。

 ベアハグ擬きだ。

 千冬さんは頭を掴んでる指に力を入れた。

 これらはアイアンクローならぬヘッドクロー。

 はは――女の子とプロレスごっことか、俺ってモテ期……。

 

 

 

 

 胴体が千切れる!?

 頭が割れる!?

 ちょっとしたお茶目な結果がコレだよ!

 

「ごめっ!? ごめん束さん!? 間違えました!」

「私だって鬼じゃないからね。いいよしー君。一回だけ言い訳を許してあげる」

「ド○えもんじゃなくてド○ミちゃんだった!」

 

 俺ってば、束さんを男扱いとか怒られてしょうがないよネ!

 

 「しー君、ちょっとずつ力を入れていくから、その間に懺悔するんだよ? ちなみに頭蓋骨は肋骨より硬いから、今のまましー君の胸に頭を付けた状態で力を入れれば肋骨は折れます」

 

 い~ち、に~

 

 束さんのカウントダウンが始まった。

 それと同時に締め付ける力も徐々に強くなる。

 ついでに千冬さんの掴む力も強くなった。

 もう逃げ場はないなこれ。

 

「ここで束さんを懐柔できれば色々と便利だなと思い、別に失敗しても身内に甘い束さんが俺とのケンカから逃げそうだから怒らせるのもありだと思いました! つまりどっちに転んでも俺得だと思いました!」

 

 早口で素直に自白する。

 時間にして三秒を切っただろう。

 

「そっか、そんな理由で私の心の傷を利用しようとしたんだ……。ちーちゃん判定は?」

「束がどうこうじゃない。女の心を利用するのは許せん」

 

 なんか千冬さんのイケメン具合がレベルアップしてない?

 これも恋愛ドラマの影響かな?

 世の女性達は俺に感謝しろよアハハハハハハハハ――

 

 ペきゅ

 

 あ、きいたことのないおとがからだのなかから……

 

 

◇◇ ◇◇

 

「ふんっ!」

「かはっ!?」

 

 体に衝撃が走り、口から変な声が出た。

 って……あれ?

 

「俺はなにを……」

 

 いつの間にか俺は地面に座らされていた。

 正面には腕を組んで俺を睨む束さん。

 背後では、千冬さんが俺の肩に手を乗せていた。

 なんで?

 

「しー君覚えてないの? 悪さしたしー君にちょっと罰を与えたんだけど」

 

 罰………あ。

 

「思い出しました。え? まさか気絶してたんですか?」

「そのまさかだ。だが別にケガはしてない。お前は純粋に痛みで気絶したんだ」

 

 千冬さんが淡々した口調で恐ろしい事実を告げる。

 そっか気絶したのか――

 

「その……ごめんねしー君。ちょっとやり過ぎちゃった」

 

 束さんが俺から視線をそらしつつ謝ってきた。

 俺が悪いんだから気にすることないのに。

 それに、出来れば怒りの感情を萎ませないで欲しい。

 

「神一郎、立てるか?」

「あ、はい」

 

 千冬さんの腕を借りて立ち上がる。

 気絶した後だが、足元がふらつく事もなくしっかり立てた。

 

「特に後遺症もないようだな」

「死ぬようなことはされてませんから。ところで気絶って何分ほどしてました?」

「すぐに活を入れたからな、2~3分じゃないか?」

 

 良かった。

 無駄に時間を使うところだった。

 

「束さん、残り時間はどれくらいですか?」

 

 束さんには時間がない。

 研究所を無断で出てきただろうし、下手した今にでも束さんを探しに人が来るかも。

 

「……余りないね。黙って研究所から姿を消したから、後20分もすれば私を探しにこの神社に人が来ると思う」

「んじゃ、もうそろそろ始めましょうか? あ、例のモノは――」

「これでしょ? しー君に言われた通り作ってきたよ。体調は大丈夫なの?」

「全然平気です」

 

 束さんは、青い液体が入ったビンの蓋を開け、注射針で中の液体を吸い、液体を筒の中に溜め始めた。

 俺は腕を捲り、右腕を差し出す。

   

「束、それはなんだ?」

「えーとね。擬似無痛覚症にするための薬って言えばいいかな? 例え骨が折れようと、腕が千切れようと、まず痛みは感じません。普通の麻酔とは違って、痛覚だけを遮断して体を麻痺させないのが一番の違いだね。それと、しー君の要望で効果時間は短くしてあります。薬の量で時間が変わるんだけどね。しー君、15分くらいでいいかな?」

 

 国の人間が来るのは約20分後、事前に調べた、救急車が篠ノ之神社に到着するまでの時間は約8分。

 うん、無難なとこだな。

 

「それでお願いします」

「オッケー」

 

 注射針の針がズブリと腕にささる。

 青い液体が体に入ってくるのを見てるのは、正直気分は良くない。

 なんか体が溶けそで怖い。

 

「無痛……それに救急車か。階段から転げ落ちるつもりか?」

「いやいや、そんことしませんよ。人の手によるケガと事故のケガは違いますからね」

「よし、終わったよしー君」

「ありがとうございます」

 

 話してる間に注射が終わったが、特に変わった様子はない。

 さて――

 

「束さん、コレを」

「大事に預かるよ」

 

 俺は首から待機状態の流々武を外して束さんに渡した。

 これから入院からの尋問が予定されている俺が下手に身に着けていられないから、預けるしかないのだ。

 

「じゃあ私も」

 

 束さんが俺の首に手を伸ばす。 

 

「いざその時になると、ちょっと嫌なもんだね」

 

 束さんは、指で俺の首――正確には首輪として付けられたチョーカーの表面をなぞりながら少し寂しそうな顔をした。

 

「最近は電流も流されませんし、出番がだいぶ減りましたよね」

「うん? 私はしー君の行動を把握したりするのに使ってるよ? その首輪からしー君の脈拍やホルモンバランス等の様々なデータも送られてくるし」

「後半初耳なんですが?」

「やだな―しー君。しー君はなんで男なのにISが使えるかを調べる為の実験動物なんだよ? 基本的なデータは日常的に記録するに決まってるじゃん」

 

 日常的に身体データを取る。

 よくよく考えてみれば当たり前の話だが、束さんにしては真っ当な意見だった。

  

「ま、約束だからしょうがないよね。しー君、ちょっとアゴ上げて」

「はい」

 

 束さんの指がチョーカーと皮膚の隙間に入ってくる。

 

「ほいさっ!」

 

 ボンッ!

 

 

 

 

 は?

 

「束さん、なんか束さんの後ろで爆発が起きましたよ?」

「あれ? 無理やり取ったらボンするって言わなかったっけ?」

 

 言った――

 言ってたなそれ。

 そっか、本当だったんだ……。

 仲良くなってだいぶ丸くなったけど、知り合ったばかりの人間に爆弾を仕掛けるとか、この人本気で怖いな。

 

「千冬さん、よく友人やってられましたね」

「……当時のお前は不審人物だったし、信用も得てなかったからしょうがないだろ? ほら、箒の為にもそんな人間を放置する訳にもいかないし……」

 

 などど言いながらも、千冬さんは俺と目を合わせてくれなかった。

 気持ちは理解できるけどね。

 俺だって目の前に『自分転生者です』とか言う奴が現れたら、保険の一つでも掛けたくなるさ。

 

 ――てか、俺は今からこの人と殴り合うんだよね?

 さっき見た爆発ってジャンプで見たことあるな……。

 どこぞのお髭のジェントルマンと同じ事が出来る人物とこれから一戦か……。

 

 ……よし。

 

 覚悟を決めて束さんから離れて距離を取る。

 

「さあやろうか」

「……しー君、一つだけ確認したいんだけど?」

「なんです?」

 

 腰を落とし、拳を構える俺に対し、束さんは構えず棒立ちのまま俺を見ていた。

 

「あのね、さっきからツッコミのタイミングがなくて流してたんだけど……しー君さ、なんかこのケンカ楽しんでない?」

 

 何をいまさら――

 

「俺は『涙目で震えながら俺をボコる束さん』を見たいだけです」

 

 ぶるぶると震えながら拳を構える束さんはさぞ可愛いだろう。

 期待しないでどうする!

 

「しー君のドMプレイかと思ってたけど、まさかの新手のドSプレイだった!?」

 

 はっはっはっ。

 残念ながら、俺が殴られて喜ぶ変態じゃないんだよ。

 さて、時間も余り無いことだし――

 

「オラッ!」

 

 ダッシュで近づき、その勢いのまま束さんの顔面に右ストレートを叩き込む。

 普通なら女の子相手にそんな事をするのは許されない――

 だが、相手が人外レベルなら話は別だ。

 

「っ!?」

 

 案の定、俺のパンチを束さんには簡単に弾かれた。

 

「しー君……」

 

 こちらから先に殴ったのに、束さんはやりにくそうだった。

 やっぱり、もう少し殴りやすい環境を作ってあげないとダメか――

 ならば!

 

「ふっ!」

 

 今度は左足の蹴りを繰り出す。

 

「あれ?」

 

 それを束さんは避けようともしなかった。

 なぜなら、俺の蹴りは束さんに当たる軌道ではなかったからだ。

 だが束さんや、忘れてないかい? 自分の服装を――

 

「隙あり!」

「へ?」

 

 とっさにしゃがみ込み、スカートの中を――

 み、見え――

 

「ドラァ!」

「げふっ!?」

 

 顔面にキックをくらい、後方に吹き飛ぶ。

 そのまま地面を転がるが――

 

「――よっと」

 

 何事なく立ち上がれた。

 衝撃は確かにあった。

 でも、痛みは全くない。

 これが無痛か……。

 昔、無痛症の男の子が『僕はスーパーマンだ!』と言って家の二階から飛び降りたってニュースがあったが、なるほど――これはヤバイな。

 痛みが無いだけで無駄に強くなった気がする。

 クセになったらどうしよう……。

 

 しかしおしかった!

 膝上までは見えたのに!

 

「しー君、なんのつもりかな?」

 

 あ、束さんがニッコニコの笑顔で俺を睨んでる。

 

「束さん、これも束さんを思ってのことです。俺は束さんにエロいことをする。束さんは俺を迎撃する。ね? 対等でしょう?」

「どっちもしー君得な件について!」

 

 得?

 俺は殴られるために心を鬼にしてセクハラしてるんだよ?

 得なんてないない。

 

「さ~て、覚悟は良いかな?」

「ねえしー君、その卑猥な手の動きはなに?」

「さあ? 興味があるなら抵抗しなければいい」

「い……」

 

 震える束さんに手をワキワキと動かしながら近付く。

 いやー、まるで変態みたいで心が辛いわ~。 

 

「いやぁぁぁぁぁ~!?」

 

 束さんが自分の体を抱き締めながら後ろに下がった。 

 エロゲならともかく、現実で女の子を襲うなんざクズのやる事だ。

 でも、ほら、これは必要に駆られてだからしょうがない!

 

 

 それから――

 

 

「たっばねさ~ん!」

「こ~な~い~で~!」

 

 ルパン飛びで抱きつこうとすればグーパンで迎撃され。

 

「ほーらほらほら」

「ぎゃぁぁぁ!?」

 

 スカートを掴んで脱がそうとすれば投げ飛ばされ。

 

「束さんは塩味だね」

「にゃぁぁぁ!?」

  

 足に組み付いてペロペロ舐めれば蹴り飛ばされる。

 俺は着実にダメージを重ねていた。

 

 もちろん俺もただ変態行為をしてる訳ではない。

 落ちる時は受身を取らず、あえてダメージを分散させない。

 地面を転がる時は派手に転がって擦り傷を作る。

 そういった努力はしていた。

 

 

 数分後――

 

 

「はぁはぁ」

「ぜーぜー」

 

 片方は無傷。

 もう片方はボロボロ。

 対照的な二人が、息を荒くしながら対峙していた。

 

「し、しー君、もうそろそろ止めない?」

「ちょっと待ってください」

 

 自分の体を調べてみる。

 擦り傷は多数、服も所々破けている。

 でもこれじゃあ――

 

「束さん、もう少し打撃系の技を増やしてくさだい。グラップラーの魂でお願いします!」

「注文の多いドSめ!」

 

 いやだって、この程度のケガじゃ救急を呼ぶほどでもないし。

 

「ほら、そんな顔しないで。はい、にっこり笑ってバイオレンス! にっこり笑ってバイオレンス!」

「うぅ……」

 

 掛け声をかけながら束さんの気分を盛り上げようとするが、乗ってきてくれなかった。

 残念。

 

「はっ!? グラップラーって言えばちーちゃん! ちーちゃんヘルプ!」

 

 束さんが千冬さんを巻き込もうと、千冬さんの方を振り向く。

 ちなみに千冬さんは、ケンカが始まってからは近くの木に背中を預け傍観に徹していた。

 

「――」

 

 その千冬さん、まさかのガン無視である。

 束さんの声が聞こえてないのか、空を見上げながら何やら物思いに耽っていた。

 その顔には哀愁が漂い、まるで卒業前に青春の思い出に浸る普通の学生の様だった。

 ――酷い温度差だ。

 

「ち、ちーちゃん?」

「――」

「おーい?」

「――」

 

 束さんの声に答えず、千冬さんは一向にこちらを向こうとしなかった。

 諦めようぜ束さん、あれは自分を巻き込むなと言う千冬さんの意思表示なんだよ。

 

「しょうがないですね。ちょっとやり方変えましょうか。束さん、俺をあそこの木に投げ飛ばしてください」

 

 千冬さんに無視され、ぷるぷると震える束さんが余りにも可哀想だったので妥協案を出す。

 俺が指差したのは10メートル程先にある大きな杉の木。

 幹が太く、俺がぶつかっても問題ないだろう。

 

「あの木に?」

「はい、思いっきりお願いします。あれにぶつかってアザ作るんで」

「……ホント無茶するよねしー君」

 

 束さんがブツブツと文句を言いながら俺の体を抱きかかえた。

 

「どんな風に投げる?」

「背中から木に激突する感じでお願いします。ぶつかりそうになったら合図をください。頭からぶつかるのはさすがにヤバイので」

「了解だよ。――とりゃ!」

 

 束さんに投げ飛ばされ、空を飛ぶ。

 勢い良く投げられ、目に映る風景がもの凄い速さで流れて行く。

 束さんから合図はまだない――

 

 まだ――

 まだ――

 

 束さんの手が大きく振られた。 

 

 今!!

 

 上半身を捻り、左手を思いっきり振り抜く。

 イメージは裏拳だ。

  

「ぐっ!?」

 

 左手に強い衝撃が走る。

 その衝撃は、体全体に広がって行く――

 木にぶつかり体が地面に落ちた。

 立ち上がり自分の左手を確認する。

 

 左手の前腕骨部分が真っ赤に腫れていた。

 折るつもりで殴ったんだが、これは折れているのだろうか?

 

「束さん、これって折れてると思います?」

 

 離れている束さんに見えるよう、左手を高く上げて聞いてみる。

 

「え? えっと、たぶんヒビくらいだと思う」

 

 あれ? なんか束さんの顔が青い気がする。

 距離があるから気のせいかもしれないけど。

 

 しかしビビか。

 無駄に頑丈だな俺の体は。

 まぁいいさ、折れないなら折れるまでやるのみ――

 骨が! 折れるまで! 俺は殴るのを! 止めない!

 

「ふん!」

 

 ビビが入っていると思われる部分が当たるよう、木に向かって裏拳を一発!

 

「ふんっ!」

 

 更にもう一発!

 

「どっせい!」

 

 ベキッ

 

 三発目で何かが折れる音が聞こえた。

 赤かった部分は紫――いや、黒に近い色合いに変わり、前腕骨はくの字に曲がっていた。

 よしよし、いい塩梅だ。

 これだけやっても痛くないとは、無痛って本当に凄いな。

 さて、束さんには出来ないだろうと思い、自分で折ってしまったが、どうしようこれ――

 どんな風に折られたか聞かれたら答え辛いな。

 ま、適当に言い訳考えておくか。

 

「束さん、続きやりましょう。もうちょい打撲痕が欲しいので――なんです?」

 

 頭の中で言い訳を考えつつ束さんの所に戻ると、束さんと千冬さんが目を見開きながら俺を凝視していた。

 

「し、しー君? なにしてるの?」

「なにって、見て分かりません?」

 

 折れた腕を束さんの目の前で揺らしてみれば、束さんの頬がひきつる。

 

「ちーちゃん、ちょっとだけ甘えていいかな? しー君の夢の為にも私がやらなきゃって思ったけど、もう限界だよ……」

「――今回はお前に同情する。肩ぐらいは貸してやろう」

「ち~ちゃ~ん! しー君の腕が! 腕がぷらぷらって――っ! 木に体をぶつけてアザを作るって言ってたのに何やってるんだよもぉ~!!」

 

 束さんが叫び声を上げながら千冬さんの腕に抱き付き、ぐすぐすと泣き始めてしまった――

 ちとやりすぎたかな?

 これくらいにしておくか。

 でもせっかくだし、最後に今しか出来ないネタをやりたいな。

 こんな時じゃないとできないし。

 どんな場面でも笑いを取れる様々なネタを考えてくれた偉大なるラノベ作家の先生方に感謝を込めて――

 

「ほ~ら束さん、骨付き肉だよ~」

「いやぁぁぁ骨付き肉ぅぅぅ!?」

 

 限られた状況でしか使えない一発ギャグを披露しながら束さんに近づくと、束さんは泣きながら千冬さんの背後に回ってしまった。

 そんな反応したらますますイジリたくなるじゃないか――

 

「タレにする? レモンにする? それとも――し・お?」

「ひっ!?」

「た、束! 首を絞めるな首をッ!」

 

 ぷらぷらと折れた腕を束さんの目の前で揺らせば、束さんの顔がますます青くなる。

 逆に首にしがみつかれた千冬さんの顔は赤くなった。

 あの天災が随分と可愛い反応をしてくれるじゃないか。

 

「神一郎、そのくらいにしておけ」

「ちなみに千冬さんは俺を殴ったりは?」

「しない」

「――ですよね。束さん、お付き合いどうもでした。もうやらなくていいですよ」

「ぐす……ほんと?」

「はい、本当です」

 

 俺の返事を聞いて、束さんがほっとした表情を見せる。

 千冬さんを盾にして涙ぐむ束さんすばらでした。

 もう色々と満足だ。

 

「千冬さんには最後にお願いがあります」

「ん? 私にか?」

「はい、とても大事な事なので千冬さんにしか頼めません」

「このタイミングでのお願いは嫌な予感しかしないんだが――」

 

 千冬さんが嫌そうな顔をするが、そんなに警戒しないで欲しい。

 別に大変な事をさせるつもりではないんだから。

 

「簡単なお願いです。箒の面倒を頼みます」

「箒の?」

「はい、実は心配事が一つありまして、それは『箒が引越し前に焦って一夏に告白しないか』です」

 

 原作ではそんな事は無かったと思うが、今の箒がどう動くかは分からない、俺と束さんが側に居れないので、千冬さんに頼むしかないのだ。

 

「監視しろと言うのか? だが私にはずっと箒を見てられる時間が――」

「あ、遊興費としてさっき渡した貯金箱にお札入れといたんで使ってください」

「――なんだと?」

 

 俺のセリフに千冬の目付きが鋭くなる。

 俺だって、生活費を削って箒の面倒を見ろなんて言うつもりはないさ。

 

「箒には出来るだけ思い出を作って欲しいですからね。一夏と一緒に遊びに連れてってあげてください。余ったお金はバイト代ってことで」

「お前まさか……」

 

 気付いたようだな千冬さん。

 そう、俺は千冬さんの逃げ道は完璧に塞いでいる!

 そしてダメだしを食らえ!

 

「あれ? まさか箒のそばにいるの嫌ですか?」

「――そんな事はない」

 

 俺の質問に、千冬さんが珍しく顔を背けた。

 俺には一つ想像してた事があった。

 それは“千冬さんは箒に対して罪悪感が有るのではないか?”というものだ。

 白騎士事件の引き金を引いた一人として、箒に顔を合わせ辛いんじゃないかと思ったが、当たっていたか。

 

「で、どうします」

「――受けよう」

 

 受けると言いつつ、千冬さんの顔は不機嫌だった。

 きっと『箒の引越しの原因を作った一人の私が、箒の思い出作りを手伝うなど偽善もいいところだ。しかし、贖罪にもならんが私しか手が空いてない以上仕方ないか』

 なんて考えてそうだな。

 

 ふ、ふふ――

 ここまでは計算通りだ。

 俺から見れば未来の世界最強などただの小娘よ!

 

「しー君?」

 

 真顔を保ったまま肩を揺らす俺に、束さんが首を傾げる。

 ここまで来たらもういいだろう。

 俺は頬の筋肉を弱め、笑みを二人に見せる。

 

「いやね、計画通りに行ったなと思いまして」

「計画だと?」

「おぉ? しー君が凄い悪巧みしてる顔に」

 

 余計な事を言わないのが一流の策士。

 だが俺は策士でもなんでもない。

 お約束を守れる俺はクールに語るぜ。

 

「束さんと千冬さんは『病気や事故で大切な人が死ぬお涙頂戴の映画』って見たことあります?」

「なんか語りだしたね。でも空気の読める束さんは素直に乗っかるぜ。見たことないよ」

「――めんどくさいが乗ってやるか。私は一夏と一緒にテレビで放送されたのを見た事がある」

 

 古今東西、日本はもちろん海外でもそういった映画は沢山ある。

 余命幾ばくもない恋人との時間を映画化した作品などがテンプレだろうか。

 そんな作品に対し、俺は常々疑問に思ってることがある――

 

「何であんな作品見たがるんですかね?」

「それは――」

「――どういう意味?」

 

 二人が仲良く首を傾げる。

 

「そのままの意味ですよ。あんなさ『人は死んで悲しい思いをする映画』をなんで見たがるんですかね?」

 

 邦画、洋画を含め、『ラストに人が死ぬ』映画は沢山ある。

 そんな映画を大々的に宣伝し、それを見せたがる人や見たがる人がいるが、そういった人達の感情を、俺は本気で理解できない。

 

「ああいう映画を見たがる奴ってっさ、人の死に様見てそれを自分に投影するドMなの? それとも人の死に様を見たいドSなの? どっちだと思います?」

「……イマイチお前の言いたいことが分からんな」

「う~ん? そもそも私には映画を見たがる人間の気持ちからして分かんないし――」

 

 千冬さんはともかく、束さんには無駄な質問だった。

 

「まぁつまりですね。俺はマゾでもサドでもないんで、『箒が悲しむと分かっているのに、それでもそばにいる』なんて出来ないんですよ」

 

 自分が出来る事はなにもない。

 悲しむ箒を慰める?

 白騎士事件を見逃した俺がやったら自己満足みたいなもんだろ。

 謝ることも、慰めることも出来ない。

 そんな俺に何が出来る?

 俺が出来る事はせいぜい見守るくらいだ。

 だから俺は色々と考えてた。束さんとの縁を切りつつ、箒と一夏の引率役を押し付けられないかと――

 そして今、見事に俺の計画通りに進んだのだ。

 これが笑わずにどうする。

 

「ちーちゃんち-ちゃん」

「なんだ?」

 

 束さんが俺の顔を見てニヤリと笑う。

 なぜここでそんな場違いな笑顔が――

 

「しー君がなにやらカッコつけたこと言ってるけど、あれってつまり『箒ちゃんの涙を見ると自分が泣きそうだから、ちーちゃん任せた』ってことだからね? 騙されちゃダメだよ?」

 

 ――落ち着け俺、状況をクールに、そしてスピーディーに解決するんだ。

 

「束さん、まるで俺の秘密を知ってるかのような言い方ですね?」

 

 まさかとは思うが――

 

「ん? 秘密ってしー君が涙脆いってこと?」

「ほう? それは初耳だな」

 

 千冬さんがおもちゃを見つけた子供の様な顔に――

 まだだ、まだ焦る時間ではない。

 

「俺が涙脆いって、どこの情報です?」

「私情報だよ? だってしー君、エロゲーやって泣いたりしてるじゃん」

 

 あ、バレてますねこれは。

 

「ってなんで知ってるんだよ!?」

 

 それは男のオタクなら誰にも知られたくない秘密だぞ!?

 

「しー君、これこれ」

 

 束さんがトントンと自分の首を叩く。

 

「首輪ですか? まさか俺の知らない機能でも――」

「しー君の感情、怒りや悲しみが一定の位置を超えると、束さんに知らせる機能があります。いや~、夜中に急に反応したから心配して隠しカメラで覗いてみたら、しー君がマウスをクリックしながら泣いてるんだもん。ビックリしたよ」

 

 ガッテム!

 なんだってそんな機能が!?

 

「しー君、今しー君の考えてることに対して説明してあげよう」

 

 さっきまでの青い顔が嘘のようだ。

 束さんのほっぺがツヤツヤと光る。

 

「しー君の首輪、『しー君を束縛し帯』(しーくんをそくばくしたい)はね、最初に着けた時は爆弾機能とGPS機能、そしてお仕置き用の電撃機能しかなかった……。しかし! 科学とは日進月歩! 新しい発明があればそれを盛り込むのは当然である! しー君の首輪は日々アップデートを繰り返してたんだよ!」

 

 今明かされる衝撃の真実、後付け設定とかサイテー。

 しかしおかしい点が一つだけある。

 

「アップデートって、パソコンじゃあるまいしデータのインストールだけで新機能追加とか無理ですよね?」

「あ、しー君勘違いしてるね。そもそもさっき爆発した首輪は初代じゃないよ?」

「――まさかですが」

「うん。しー君が寝てる間に新しい機能を搭載した首輪に付け替えてました」

 

 本当の意味で後付けだった。

 感情を読むのはあれか、ハロウィンの時に使ったやつか。

 半分自業自得な気がする――

 よし、これ以上は聞くのはやめよう。

 どう考えても俺の精神に良くない。

 寝てる時にそんなことされた記憶がないとかどうでもいいことだ。

 仲良くなっても爆弾仕込まれてたとかもどうでもいいことだ――

 

「それにしてもあれだよね。しー君のそういった裏の顔を知ってると、映画どうこうの話も『そんな映画見たら泣いちゃうしー君は、同じ泣いちゃう人間がなぜお金を払ってでも見たがるのか理解出来ないんだろうな』とか分かるから面白いよね。しー君てば可愛い」

 

 束さんがニマニマと笑いながらそう言ってくる。

 土下座くらいならするんでもう勘弁してください。

 

「エロゲーで泣くというのが理解できんな。なぜエロで泣くんだ?」

 

 うるさーよ。

 エロゲーはエロが全てじゃないんだよ。

 作品によってはエロはオマケ、なんてのは普通なんだよ。

 

「さて、無駄話はこれくらいにしましょう。そろそろ時間じゃないですか?」

 

 はいそこ、露骨な話題変えとか言わない。

 千冬さんはニヤニヤするな。

 まっくこの二人は――

 

「しょうがないからしー君イジリはこのくらいにしとこうか。痛み止めは後1分で切れるし」

「そうだな。神一郎が箒の涙を見て泣いてしまうと言うなら、私も素直に代役を引き受けよう」

 

 未だに二人が何か言っているが、それはスルーで。

 反応するだけ相手を喜ばせるだけだ。

 

「ところで神一郎」

「なんです?」

「痛み止めが切れたらどうするんだ? 救急車が来るまで我慢するつもりか?」

 

 千冬さんが心配そうに俺の左手に視線をよこす。

 今の俺は左手を骨折し、体中に擦り傷切り傷が状態だ。

 この状態で痛みが蘇ったらかなりの苦痛だろう。

 だが、もちろんその辺も解決策は考えてある。

 

「千冬さん、お願いします」

「主語を入れろ主語を」

「腹パンでも首トンでもいいんで俺の意識飛ばしてください」

 

 意識を飛ばせば痛みなんて関係ない。

 その名も『気付いたら知らない天井だ』作戦である。

  

「まったく……お前は時々信じられない発想をするな」

「千冬さん、ため息が多いと幸せが逃げますよ?」

「誰の所為だと思っている?」

 

 千冬さんのため息にツッこむと、またもため息を吐かれた。

 いやお世話になってばかりで申し訳ない。

 ――っと、最後に。

 

「束さん」

「なにかな?」

「俺はね、本当になんの心配もしてないんですよ」

 

 俺は未だに千冬さんの背中に引っ付いている束さんに向かって、笑顔を作った。

 

「一夏は大丈夫、アイツならこれからも元気にやって行けます」

 

 子供ってのは順応力の高い生き物だ。

 一夏ならまたすぐに新しい友達、新しいグループを作り仲良くやっていけるだろう。

 

「箒の未来はきっと素晴らしいものになるでしょう」

 

 早すぎる親との別れ、そして大好きな男の子との別れ。

 それは確かに悲しいかも知れない。

 だけど、それを乗り切れば一夏との半同居生活が待ってるならそう悪いものでもないと思う。

 

「束さんは俺が『悲しみを感じてない』って言いましたよね?」

「うん」

「心配する事は何もない。更に、早ければ来月から俺はISで世界を見て回る予定――」

 

 つまり、俺の夢が叶うのだ。

 今まで俺がISを国内でしか使ってこなかったのには理由がある。

 それは『約束の日までISで海外には行かない』というものだ。

 本来ならISを貰えるのは今日だったはずだ。

 それを束さんが早めてくれた。

 ISを受け取った時、なんとなくそう誓ってしまったのだ。

 理由もなにもない、敢えて言うなら“男の馬鹿な意地”とでも言えばいいのか――

 まぁイレギュラーがあって2回ほど行ってしまったが。

 

「自分の夢が叶うんですよ? 悲しむなんて無理です」

「そっか……」

 

 束さんが薄く笑う。

 その顔は、今までに見たことないくらい綺麗な顔だった。

 それを脳裏に焼き付け、千冬さんに視線を向けると、千冬さんがコクりと頷き、俺の正面に立つ。

 

「では“またな”神一郎」

「えぇ、“また”です千冬さん」

 

 次の瞬間視界が揺れ――俺はそのまま――

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 あご先を掠める様に拳を振り抜き、神一郎の脳を揺さぶる。

 倒れる体を抱き止めて、地面に寝かせてやる。

 すると、背中に引っ付いていた束が私から離れ、神一郎の横にしゃがみこんだ。

 

「ねえちーちゃん、見てこの顔」

 

 束にそう言われ、束の肩ごしに神一郎の顔を覗き込んでみる。

 

「――随分と良い笑顔じゃないか」

 

 そう、笑顔だった。

 骨を折り、体中に傷を作り、それでも神一郎は笑っていた。

 

「私にセクハラしたり無理矢理酷い事させようとしたりしといて、自分だけ楽しそうなんてズルいと思う」

 

 束が頬を膨らませながら神一郎のほっぺをつつく。

 こいつは怒っているのか喜んでいるのか――

 

「今日の神一郎は色々とメチャクチャだったからな」

「ちーちゃんもそう思う? 理由は分かるけど、今日のしー君は酷かったよね?」

「まぁお前は酒のツマミだししょうがないだろ」

「へ?」

 

 束が神一郎を触るの止め私の方を振り向く、その顔は私の言った言葉を理解出来てないようだった。

 気づいてないとは意外だな。

 

「ちーちゃん、それってどういう意味?」

「どうもこうもそのままだが――」

 

 私が言ってもいいのだろうか?

 一瞬考えてみるが、黙ってる必要もないかと結論付ける。

 

「束、本来なら今日という日はともてもじゃないが“良い日”ではない。それは分かるな?」

 

「うん。少なくとも、思い出して笑える日じゃないね」

 

 私の問いに、束が神妙に頷く。

 だが残念だな束、それは“束にとっては”の話なんだ。

 

「神一郎は……こいつはな、今日を“笑える思い出”にしたかったんだろう」

 

 あくまで勘だが、間違ってはいないと思う。

 

「笑えるって――え? どゆこと?」

「想像してみろ。『数年後、今日の日の出来事を楽しそうに笑いながら酒を飲む神一郎の姿』を」

「――――理解できたよ」

 

 束が一瞬考える素振りを見せ、すぐに想像できたのか、恨めしそうな顔で寝ている神一郎を睨んだ。

 

「うん、凄く楽しそうにお酒を飲むしー君が想像できたよ。私はちっとも笑えないけど、しー君から見れば、確かに“笑える思い出”だね」

 

 今日の束は散々泣いたり笑ったりとしたからな、神一郎にとっては良いツマミだろう。

 

「私はこんなに大変なのに、しー君てば自分勝手なんだから――」

 

 束が神一郎のほっぺを抓りねがら恨み言をつぶやく。

 それでも言葉の中にトゲは無かった。

 束も分かってるんだろう。

 笑う神一郎の横で、同じく笑う私達がいることを――

 

 私にとっても今日は笑える日ではない。

 しかし、神一郎の言う通り、全ての問題が解決されれば、今日の思い出は笑い話になるだろう。

 

 『あの日、束は泣きながら神一郎を投げ飛ばしていたな』

 『束さんが中々俺をボコってくれなくて苦労しました』

 『ちーちゃんに助けを求めたにシカトされるし……あの時は本当に散々だったよ』

 

 そんな馬鹿な話をしながら酒を酌み交わす、そんな未来が私には見える。

 いや、神一郎はきっとそんな未来にしたいんだろう――

 

「さてと、そろそろ私も行くね」

 

 束が立ち上がり私の方を向いた。

 その顔には力が満ちていた。

 神一郎が夢を叶えようとしているんだ、お前も負けてられないよな。 

 

「あぁ、さっさと行け。お前が居ると救急車を呼べん」

「最後の最後まで私の扱いが酷いんだけど!?」

 

 私の一言で、凛々しかった束の顔が破顔する。

 その顔が面白くて思わず喉が鳴る。

 ――最後くらいは真面目にしてやるか。

 

「“またな”束、箒の事は私が責任を持つ」

「うん。“またね”ちーちゃん。箒ちゃんをお願いね」

 

 束が神社の出口に向かって歩きだす。

 それを確認して、私は電話を掛ける為に神一郎のポケットからケータイを取り出した。

 

 これから私達は違う道を歩き始める。

 束、お前の道が一番險しいだろう。

 ――負けるなよ。


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