俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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ノリで決めたタイトルだけど、もっとちゃんと考えればと思う今日この頃。
いや、実際は連載から半年後くらいにはそう思ってたけど。
変える気はないが、次に何か書くならちゃんと考えようと思います。



暗躍する兎

 都心からほど近く、別荘地して有名なとある地域、その別荘地の山の中、近くに他の建物はなく木々に囲まれた洋館があった。

 その洋館の一室で、一人の男がソファに身を委ねながら受話器を手に持っていた。

 

『以上が被害の報告になります。負傷した人間は頭部に怪我を負った為、まだ経過観察が必要ですが』

「ふむ……」

 

 部下らしき人間からの報告を受けながら、男はワインで口を潤す。

 足を乗せるのはペルシャの絨毯。

 背中を預けるソファも日本では新車が買えるほど高級な物だ。

 分かる人間には分かるだろう。

 この男が俗に言う一般人ではなく、特別な人間なんだと――

 

「例の少年は何か話したか?」

『時刻も時刻ですし、篠ノ之博士によって負わされた怪我を治療していた為、聞き取りなどはまだ行っておりません。――今からでも始めますか?』

「いや止めておけ。子供相手にそんな事をすれば風評が悪くなる」

『畏まりました。では予定通り、日が昇ってから改めて情報を聞き出そうと思います』

「それでいい」

 

 男がまたワインを口に含む。

 その間、電話の相手は黙して待っていた。

 コツコツと、男の部屋に置かれた時計の針が進む音だけが聞こえる。

 

「篠ノ之博士はスライムをけしかけたと言ったな? ソレの分析は終わったのかね? あの天災のことだ、普通の生き物ではないと思うが――」

『はっ。スライムと思われる生物の体組織が一部採取されたので研究所へ回しました』

「結果はでたのか?」

『それなんですが……』

 

 今までの凛とした態度と売って変わり、部下の歯切れが急に悪くなった。

 その事に疑問を抱きつつ、男は続きを促す。

 

『採取したサンプルが非常に少なかった為、彼が言っていた“人食いスライム”と言うのが本当なのかを確認する意味も込めて、餌を与えることにしました』

「ほう?」

『用意したのは、人の皮膚片、牛、豚、鳥の肉片です』

「まさかと思うが――」

 

 男の喉がゴクリと鳴る。

 

『捕食が確認されました。実際に生きている人間を襲うのかは分かりませんが。少なくとも”肉食性の生物”と言うのは間違いないかと』

「厄介なものを――」

 

 男が疲れた顔でその身をソファに沈める。

 人食いスライム。

 その実態はまだ分からないが、兵器として利用すればこれほど恐ろしいものもない。

 どんな隙間にも入り込めるし、下水を移動出来るなら発達した都市ほど発見が困難。

 更に人間を捕食して数を増やせるとなると、悪夢と言うしかないだろう。

 

「それで何か発見できたのかね?」

 

 幸いサンプルがある。

 この短時間で弱点の判明など期待していないが、せめてなにか情報をと期待を込めて男は部下に問う。

 

『それが……』 

「どうした?」

『死んでしまったらしく……』

「――っ!」

 

 男は一瞬怒鳴りそうになるのを歯を食いしばって我慢した。 

 篠ノ之束が作った貴重な品。

 研究所の人間が手荒に扱うはずはない。

 何かしらの理由があると考えたからだ。

 

「死んだ原因はなんだ?」

『餌を食い尽くしたスライムは、その後溶けてゼリー状に変化してしまったと……』

「死骸から得られる情報は?」

『ありません。DNAも破壊されてました』

「サンプルは残ってないのか?」

『ごく一部を分けて保管してましたがそちらも死にました』

「――時間経過による自壊か? そういう生態……いや、デザインされた生き物だと?」

『そこまでは分かりかねます。死骸からも得られる情報がなく、他にサンプルがないものですから――』

 

「そうか……」

 

 かの天災が作った生き物だ。

 捕食したら死ぬなど、そんな分かりやすい弱点を放っておくとは思えない。

 どう考えてもワザとだ。

 篠ノ之束の遊び心なのか――理由は分からないが大事にはならなそうだ。

 男の口から安堵のため息が漏れた。

 

「まったく、あの天災には毎度驚かさる。なにか良い話題はないのかね?」

『それでしたら一つ』

「あるのか?」

『はい。深夜にも関わらず、少年がナースコールを使うまでなぜ篠ノ之博士の襲撃が周囲にバレなかったのか、それを調べていましたら思いもよらぬものが――』

「良い話と言うんだ、それなりの発見なのだろうな?」

『もちろんです。なぜ部屋の前に居た護衛者にも気付かれなかったのか、その答えは壁やドアに貼られていたシートにありました』

「シートだと?」

『大きな一枚紙の様な形をしていましたが、それが従来にない防音性を有しておりしました。しかも極薄で、調べた人間も実際壁に触って初めて違和感に気付いたとか――』

「――量産は可能なのか?」

 

 襲撃を受けた少年が大人しくしてたはずはない。

 それなりに声を上げたはずだ。にも関わらず外に居た護衛の人間は異変に気付かなかった。

 そこまで防音性に優れ、なおかつ触るまで分からない薄さ――

 男の頭の中で、ソレの有用な使い方が様々思い浮かぶ。

 

『量産できるかはまだなんとも。ただ、こちらはサンプルが大量にあるので可能性は有ります』

「そうか……。ならそのサンプルの一部を大帝化成にまわせ」

『大帝化成にですか?』

「そうだ。あそこの会長には借りがあったからな。汎用性が高い商品なら利益も莫大になるだろう。そのシートの分析と量産は大帝化成に任せる」

 

 防音性の高い極薄シート。

 アパートやマンションが多い今のご時世、欲しがる人間は多いだろう。

 もちろん海外に売り出してもいい。

 使い方は多岐に渡る。

 

『――了解しました』

「それと、少年に発信機は取り付け終わったのだな?」

『はい。治療の際に体内に埋め込みました。彼は気を失ってた為気づかれていないかと』

「ならばいい。予定通り少年――佐藤神一郎は生き餌として使う。すぐに監視を外しても怪しまれるだろう。少年が入院中は護衛を付けてやれ。だが退院後は過度な接触は禁じる。発信機の反応を頼りに監視しろ。運が良ければ兎を釣れるかもしれん」

 

 篠ノ之束の対人関係は不明なことが多い。

 親は蔑ろにする。

 妹は愛す。

 友人は三人だけ。

 そんな人間が好きだった者を嫌いになった時、どんな反応をするのかは未知数だ。

 今回の件も、襲ったと言うのに少年は生きている。

 殺そうと思えば殺せたのは間違いない。

 なら今も少年が大切なのかと思いきや、少年は体のキズがいくつか開き、鼻血を出していたとか――

 

『彼は餌になるでしょうか?』

「さてな。なるならそれで良い。切り札となり得る妹を温存できる。ならないならそれでも構わん。元より篠ノ之束と縁の切れた者に期待はしていない」

 

 今回の襲撃を考えるに、篠ノ之束はまだ少年に未練か何かを持っている様に見える。

 少年が昼間の一件を話さないよう釘を刺しに来たとも思えるが――

 

「やはり情報が少なすぎるな。姿を消した天災がなぜこうも早く姿を見せたのか、篠ノ之束、織斑千冬、佐藤神一郎、彼らが会っていた時に何があったのか――。まずは情報だ。少年が脅されている可能性もあるが、そこは上手く聞き出せ」

『はっ!』

 

 部下に指示を出し電話を切る。

 男は立ち上がり、後ろを振り向いた。

 いつから居たのか分からないが、自分が相手を待たせた事は間違いない。

 だからこそ、男は礼儀として当然の様に頭を下げた。

 

「お待たせして申し訳ありません束様」

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「お待たせして申し訳ありません束様」

 

 電話が終わるのを待ってたら、男が振り向いて頭を下げた。

 白髪交じりの頭、骨が浮き出てる体――

 相変わらず60代とは思えないやつれぶりだ。

 

「いやいや、しー君に関わる事でしょ? だったら許すさ」

「ありがとうございます。ささっ、こちらにどうぞ」

 

 男に促されソファに腰をかける。

 

「ワインでもお飲みになりますか? っと失礼しました。束様はまだ未成年でしたね」

「ん? ワイン? せっかくだから貰おうかな」

「どうぞどうぞ」

 

 男が笑顔でワイングラスにワインを注ぎ私の目の前に置く。

 

「部下から連絡がありました。頂いた防音シートは大事に使わせてもらいます」

「ん? あぁアレか。売るなりなんなり好きにしなよ。大した物じゃないし気にしないでいいよ」

 

 そう言って私はワインを一口で飲み干した。

 

「ふう……」

「いかがですか? ロマネ・コンティがお口に合えば良いのですが――」

 

 男は私の機嫌を伺うように空いたグラスにおかわりを注ぐ。

 ロマネってなんだっけ?

 聞いた事あるような……。

 

「これ高いの?」

「えぇまぁ、最上級ではありませんが、コレは一本80万ほどです」

 

 しー君の家で飲んだワインってたぶん2千円くらいだよね?

 あのワインの味はいろんな意味で忘れられないよ――

 

「束様? どうかしましたか?」

「はっきり言ってマズイね」

「……お口に合いませんでしたか?」

 

 男の顔付きが険しいものに変わる。

 これはあれだね、私の機嫌を損ねたとか考えてそうだね。

 残り少ない命、ストレスで死んでもらっては困る。

 やれやれ、まさか私が他人をフォローするなんて――

 

「ごめんごめん。マズイって言ったけど、別にお酒が悪いわけじゃないよ。束さんは別にお酒に詳しい訳じゃないしね。ただまぁ、お酒ってどんなお酒を飲むかじゃなくて、誰と飲むかが大事だと思うんだよね」

 

 正直、枯れた老人と飲む酒より、ちーちゃんやしー君と一緒に飲んだ方が美味しいのはしょうがないよね。

 

「……束様はその若さでお酒の飲み方を良くご存知のようですね。私の様な人間になると、安酒は不味く、しかし一緒に飲む人間もいなく、こうして高価な酒に逃げる様になるのですよ」

 

 私の機嫌を損ねた訳ではないと理解したのか、男はそう言って私の正面に座った。

 さてと、私としても時間を無駄にしたくないし、そろそろ本題に入ろうかな。

 

「それで予定通りに進んでるの?」

「はい。問題なく」

 

 私の質問に対し、男は素直に頷いた。

 良かった良かった。

 もし不手際があったら、ちょっとバイオレンスになるとこだったよ。

 

「束さん製の発信機も?」

「はっ。束様の言い付け通り少年の体内に埋め込みました」

「よろしい」

 

 これでしー君の居場所を何時でも知ることができる。

 言っておくけど、これは私情ではないよ?

 発信機を付ける事でしー君の周囲から自然に組織の人間を離れさせることができるし、ついでに世界を旅するしー君の居場所を誤魔化せる。

 しー君がアメリカにいようと、私がちょちょいと細工すれば発信機が示す場所はしー君の自宅。

 そんな感じだ。

 だからしー君は私に感謝すべきだよね?

 発信機の存在は絶対に内緒だけども!

 

「束様」

「うん?」

「その……スライムの件なのですが……」

「ベトベターがどうしたの?」

「ベト? そんな名前なのですね。部下から捕食後すぐに死んだと聞きましたが、もしや量産などしてたりとは……」

 

 窪んだ目をギョロりと動かしながら男は私を見る。

 目の奥にある感情は恐怖。

 私を怒らせないかという不安と、ベトベターが量産されていたらという恐怖の二種類だ。

 こいつも一応政治家なんだなぁと思う。

 まぁベトベターが世に放たれた日本は阿鼻叫喚だ。

 他人事じゃないから不安にもなるよね。

 

「言っておくけど、ベトベターはただのジョーク品だよ?」

「ジョーク品ですか?」

「うん。別に生きてる人間なんか食べたりしないからそこは安心していいよ」

「生きてる……なるほど、そういうことですか。しかしなんでまたそのような生物を?」

「――束さんが何か作るのにお前の許可が必要なのかな?」

「ッ!? いえ、失礼しました」

 

 私がひと睨みすると、男は狼狽しながら頭を下げた。

 言えない。

 あのスライムは腸内に侵入し、食事を終えた後はゼリー状に変化して、しー君を恐怖と腹痛の地獄に落とす為に作ったとは言えない。

 もちろん本気で使う気はないし、医療目的も嘘ではない。

 ただ、しー君に使うことを想像しながらスライムをコネコネするのが楽しかっただけだ。

 とても良いストレス発散でした!

 

「束様」

「ん?」

「私は束様の気分を害する気はありませんでした」

「だろうね」

 

 自分の忠誠を疑われてるとでも思ったのか、男が懇願するような目で私を見つめる。

 うーむ。

 私に逆らう気がないのはいいけど、いちいちこういう反応されるとめんどくさいな。

 

「安心して良いよ。お前には使い道がある。ちょっとやそっとで殺したりしないさ」

「それを聞いて安心しました」 

 

 男は気が抜けたのか、一度息を吐いてからワインを煽った。

 いやはや、箒ちゃんやしー君の為とはいえ、この私がこうも気を使う日が来るとは思わなかったよ――

 

 しー君から未来を聞いた時、一番疑問に思ったのは箒ちゃんの扱いだ。

 私の計算では、箒ちゃんはVIP対応で守られるはずだった。

 だって私への最終兵器だよ?

 手荒く扱う意味が分からないよ。

 そう思ってたんだけど……実際、大人の世界? に入ってみたら理解できました。

 なんてことはない。

 政府だなんだと言っても一枚岩ではないのだ。

 基本的に、政府の私への対応は『触らぬ神に祟りなし』だ。

 私のことが疎ましかろうと、ISと数々の発明品や理論は確実に富を産む。

 更に、ISの研究所などを作るときやISを兵器として運用しようと画策する奴等を、私は弱みを使ったりして排除した。

 それもあってか、私相手に力ずくでどうにかしようとする奴らは多くはなかった。

 そう、多くはないだけだ。

 いつだったか、国に対私用の組織ができた。

 仕事は私の護衛と、私が望んだものなどを用意する小間使い役、そして監視だ。

 そのメンバ―を見てびっくりしたのを私は覚えている。

 なんせ組員の2割はスパイなのだから――

 他国ではない、他派閥からのスパイだ。

 組織の中心にいる政治家は私に対して日和見な奴等だ。

 だが、あわよくば私の弱みを握りたい。

 または金になりそうな情報を横流しして利益を得たい。

 そんな奴等が自分の手駒を送り込んできたのだ。

 もうね、お馬鹿すぎて怒りの前に笑いが込み上げたよ。

 そんなこんながあって、私は対篠ノ之束用の組織を自分の手で作ることにした。

 私の為ではなく、箒ちゃんの為に――

 

「それで束様、約束の方は……」

 

 だから私はコイツを組織のトップに据えた。

 私を引きずり出す為に箒ちゃんを手荒く扱う可能性がある連中を排除する為に。 

 

「そうだね、お前に今死なれたら困るし、うん、今までの働きに免じて近い内にやっちゃおうか」

「本当ですか!?」

 

 興奮の余り身を乗り出して叫ぶこの男は、私に非常に都合の良い政治家だった。

 そこそこの権力を持っており、権力への執着は高い。

 そして“篠ノ之束に関わる気がなかった”政治家だった。

 私を力ずくで従えようとする奴らは少ない。

 私を懐柔しようとする奴らは多い。

 だが、私と関わりたくないと考える奴らは珍しい。

 特に政治家の場合は――

 単に私が気に入らないとか、そう言ったものではない。

 この男は『自分では篠ノ之束が望むものを用意できないし、従えることもできない』と私を使ったり、懐柔したりするのは無理だと諦めたのだ。 

 こういった考えをする政治家は非常に珍しい。

 だから私はコイツを組織のトップにするよう働いた。 

 

「束様、私はまだ……生きれるのですね?」

 

 男の目から涙が溢れる。

 立場、力、頭脳――

 コイツを選んだ理由が多々あるが、一番大きい理由は別だ。

 権力を求め、政治の世界で戦ってきた男の結末が哀れなものだった。

 骨が浮き出てる体に年に似合わない白髪。

 おそらく痛み止めを飲まなければ夜も寝れないだろう。

 “篠ノ之束なら治せるかもしれない”そう考えながらも、冷静に私という人間を測り、自分では動かせないとすっぱり諦めたのも評価が高い理由だ。

 

「お前を生かす方法は二つある。一つは機械化。体の中身を取り替える。もう一つは普通に移植だね。どっちがいい?」

「それぞれのメリットとデメリットをお聞きしても?」

「オーケーオーケー。自分の命に関わることだからね。別に構わないさ。まずは機械化、こっちのメリットは私が楽って事だね。見合った機械を作るだけだし。デメリットは私がめんどいってことだね。さすがにメンテナンスフリーはまだ無理だから、ちょくちょく気にかけないといけない」

「――束様の手を煩わせるのは良くないですな。会う機会が増えれば私と束様の継がりが露見する可能性がありますし」

「うむ。その油断がないところは評価しよう。じゃあ移植でいいかな?」

「移植ですか……」

 

 男は困った様に眉を寄せた。

 コイツが悩んでる理由を私は知っている。

 金も力ある権力者が今まで何も手を打たなかった訳がない。

 こいつが渋る理由はつまりそう言うことだ――

 気持ちは分かるけどさ、ちょっと私の事を舐めすぎだよね?

 

「そうそう、臓器はお前のクローンのを使うから」

「は?」

「だからクローンだってば。あ、倫理とか気にしてる? そこは安心して良いよ。遺伝子をちょいとイジって脳や心臓が無い状態で作るから」

「なんと……」

 

 男の目が驚きに染まる。

 あれ? やっぱり臓器を取り出す為にクローンを作るとか受け入れがたいかな?

 一応倫理どうこうに気を使って、“人間”ではなく“人のカタチをした生肉”にしたんだけど――

 

「そのクローンは生きてはいないのですか?」

「うん? 脳が無い状態の高等動物の生死について束さんと語り会う? ちなみに答えは『人によって意見は様々』ってありきたりな答えだけど」

 

 しー君はちょっとだけ嫌がるかな?

 倫理観など気にしつつ、結局受け入れるだろうけど。

 ちーちゃんがダメだね。

 きっと死の間際でも受け入れてくれないと思う。

 だけどいっくんや箒ちゃんなどの身近な人間が助かるためなら、悩みながらも受け入れるだろう。

 クローンからの臓器移植――

 反対するのは、死の恐怖を知らないクセに綺麗事を語る馬鹿共、教えられた倫理観を捨てられない信者とかかな?

 意思も知能もないただの肉塊だって言っても、絶対騒ぐ奴らが出るだろうなぁ。

 凄く便利なのに……。

 

「束様」

「うん?」

「クローンからの移植をお願いします」

 

 そう言って男は頭を下げた。

 安心すると良い。

 箒ちゃんの為にも長生きしてもらうよ。

 てか絶対死なせない。

 今からまた都合の良い人間を探して取引するのめんどくさいしね。

 

「――っ!?」

 

 私の笑顔を見た男の顔が引きつった。

 失礼だなもう――

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 手術の日程やしー君のこれからの扱いなどの話し合いを終え、次に私が向かったのは人が寄り付かない森の中。

 そこは死を身近に感じることができる秘境だった。

 ――まぁただの自殺者が多い樹海なんだけどね。

 木々の間を抜けるように歩くと、目の前には自然にできた横穴が現れた。

 その中に入り数メートル進むと、そこにはドアが――

 ドアを開けると、自動で照明が点いた。

 足元のガラクタを蹴っ飛ばしなが、空いてるスペースに腰を落とす。

 

「むふー」

 

 しー君から貰ったちーちゃんの抱き枕に顔を埋めながらゴロゴロと床を転がる。

 ちーちゃんの匂いを肺一杯に吸い込んで疲れを癒す。

 やっと一息付けたよ。

 ここは天然洞窟の奥に作った秘密基地の一つだ。

 広さは12畳ほどで、床や壁を鉄板で覆っただけの簡易基地。

 長期間使う予定はないので設備も揃ってない使い捨ての基地だ。

 少なくても、一ヶ月は此処を拠点にするつもりだけどね。

 

「さてと――」

 

 目の前にいくつもの画面が現れる。

 まずは箒ちゃんやちーちゃんの周囲の確認だ。

 怪しい動きがないかをチェックする。

 ――ちーちゃんの周りは大丈夫そうだ。 

 箒ちゃんの方は男が上手く舵を取ってるみたいだ。

 今のところは問題ないだろう――

 

「今のところ急いでやる事もない。ならば――」

 

 画面を切り替え、しー君の病室を映し出す。

 しー君の病室にはてんとう虫型スパイカメラ【死兆星】が居る。

 襲われたせいで病室を変えられる可能性があったが、そこはすでに根回し済み。

 男に言ってしー君の部屋を動かさないよう言ってある。

 しー君は私との関係や、襲われた時をどんな風に説明してるのかな?

 何か面白い言い訳をしてくれてると思うんだよね。

 ささくれた私の心を癒してくれしー君!

 

『さっさと束さんを捕まえて来いや! こっちは善良な一般市民だぞコラ!』

『いや、だからね佐藤君。篠ノ之博士を探す為にも情報が欲しいんだよ』

 

 ――ふぁっ!?

 

『佐藤君、お願いだから落ち着いて』

『――なぁグラサン、逆の立場なら許せるか?』

『それは……』

 

 画面の中では、ベッドに座る仏頂面のしー君と、その横の椅子に座る頭に包帯を巻いたグラサンらしき生き物が言い争っていた。

 ちょいちょいちょい。

 待ってしー君。

 なんでそんな怒ってんの?

 

『そもそもさ、俺が束さんの情報を持ってるわけないだろ?』

『……昨日、篠ノ之神社で何があったか話してくれるね?』

『グラサン、男が負けたケンカのことを語るとか無理に決まってるじゃん。どうしても知りたければ千冬さんに聞きなよ』

 

 あ、ちーちゃんに投げやがったよコイツ。

 それにしてもだ。

 

 ジッとしー君の様子を確認する。

 すでに首輪が外れてるため、しー君の細かい心情は分からないが――

 

『そうだグラサン。篠ノ之神社に秘密の研究所あるの知ってる?』

『本当かい!?』

 

 今度は私を売りやがった!?

 いやまぁ、あそこは見られて困るものはないから構わないけどさ!

 うーむ。

 やはりしー君の怒りは本物だ。

 怒り度70といったとこかな?

 これはおかしい。

 

 私がしー君に夜襲を仕掛けたのは、遊び半分、ストレス解消の意味もあるが、私との不仲を周囲に知らしめる為のダメ押しの意味もあった。

 しかし、その辺は私が口にしなくてもしー君は承知してるはず。

 ここで七つ星てんとう虫【死兆星】の出番だ。

 死兆星はしー君を常に映し出している。

 それはリアルタイムに――だけではない。

 防犯カメラよろしく録画データも常に私の元に送っているのだ。

 しー君の怒りの原因を調べる為、私はまず録画画像を見る事にした。

 

 私が去ってからすぐ。

 しー君の病室内は黒服の人間がわらわらとしていた。

 その際、しー君は鼻にガーゼを当てられ治療中だった。

 特に問題は見当たらない。

 

 私が去ってから暫らく経った頃。

 ベットで横になるしー君は凄く気まずそうだった。

 なんせ部屋に居る三人の黒服が自分を見つめているのだ、しょうがないよね。

 だけど、この程度で怒るとは思えない。

 

 朝食の時間帯。

 しー君は朝のニュース番組を見ながら黒服達に話しかけていた。

 無言の空気に耐えられなかったのだと思う。

 私と違って、下手に社交性があるから辛いんだね。

 黒服達もしー君を邪険にするつもりはないのか、それなりに楽しそうに談笑していた。

 まぁ、さり気なく私の情報を聞き出そうとする気満々だけどね。

 しー君の無言が辛いという気持ちと、黒服のしー君の緊張をほぐし情報を聞き出したいという気持ちが見事に一致した瞬間だ。

 

 朝食後。

 しー君の様子がおかしい。

 ここで私は早送りを止めた。

 

『あの……』

『どうかしたか?』

『トイレに行きたいんですが』

『あぁすまない。これで頼む』

『……へ?』

 

 画面の中で、しー君は黒服に尿瓶を渡され固まっていた。

 

『えっと、歩けるのでトイレに行きたいのですが……』

『佐藤君。深夜に篠ノ之博士に襲われた時、グラサンがそこの部屋に突っ込んだのは知っているね?』

『はい』

『そこの個室がトイレなんだが――』

『まさか……』

『グラサンが突っ込んでトイレは大破した。便器が壊れただけだから、交換すればすぐ使えるようだ。既に手配しているから午後からは使えるだろう』

 

 そういえば、確かグラサンっぽい生き物が便器に突っ込んでたね。

 うん、頭から突っ込んで便座らしき物体を粉々にしてた――

 

『ここ病院ですよね? 共同トイレとかは……』

『悪いがそれはできない。君の安全が保証されるまで部屋から出すわけにはいかないんだ』

 

 相手が子供だと思って下手な嘘を――

 しー君の口元が引きつってるじゃないか。

 これがしー君が怒った理由かな?

 でもしー君は生前入院してたみたいだし、慣れてる事だと思うんだよね。

 

『佐藤君。もしかして大きい――』

『いえ! 小なので大丈夫です! 尿瓶借ります!』

 

 黒服が気まずそうにおしめっぽい物を手に持った瞬間、しー君は慌てて尿瓶を片手にベットを囲うカーテンを閉めた。

 目標(しー君)が視界から消えたので、死兆星がしー君をカメラ内に捉えようと動き出した。

 ここは流石に見ないであげるのが優しさだろう。

 目を閉じてゆっくり10秒数える。

 10秒数えてから目を開けると、しー君が丁度パンツを上げてる最中だった。

 

『血尿ってよく見ると綺麗ですよね。日の光でキラキラしてていい感じじゃないですか?』

『そうですね。でも血尿が出てるって事は内蔵が傷ついてるかもなので良い事ではないですよ?』

 

 尿瓶片手にカーテンを開けながらお馬鹿なセリフを吐いたしー君を出迎えたのは、ナースでした。

 しー君は気付かなかったみたいだけど、しー君が用を足してる最中に入ってきたんだよね。

 真っ赤な顔のしー君ご馳走様です!

 

『あの、これ……』

『はい。預かりますね』

 

 しー君がなんとも言えない顔で尿瓶をナースに渡す。

 年頃は20代半ばかな?

 恐らく生前のしー君と近い歳だ。

 これは恥ずかしい。

 ウケを狙って馬鹿みたいなセリフを吐いたのもしー君の赤面に拍車をかけているね。

 

『神一郎君。ケガの具合がどうですか?』

『体中痛いです。痛み方は染みる様な痛みですね。左手は少しズキズキする感じです』

 

 しー君。

 恥ずかしさのせいか子供らしさを忘れてるよ?

 まぁ血尿をネタ扱いしてる時点で子供らしさなんて皆無だけども。

 あれだけ地面に叩きつけられたりしたんだから、内蔵が多少傷付いてるのはしょうがないけど、冷静すぎると思う。

 

『寝てる間に薬が取れてしまったと思うので今から塗り直しますね。上着を脱いでください』

『はい』

 

 しー君がいそいそと上着を脱ぐ。

 子供特有の柔らかい体に、擦り傷や切り傷が多数付いていた。

 赤は血の色、血は闇の色。

 しー君も言っていたが、赤って色は綺麗な色だ。

 人間とは細胞レベルで赤という色に惹かれる残酷な生き物――

 しー君の肌に見える赤もヨダレものだよね!

 

『ちょっと染みますよ~』

 

 ナースがあやす様な口調でしー君の傷口を消毒していく。

 むぅ……。

 是非とも私の手で直接やりたいプレイだ。

 

『じゃあ次は下だね。ズボン脱いで』

『……はい?』

『神一郎君は足もケガしてるんだよ? ちゃんと消毒しないとね。恥ずかしがらずに――』

『え? ちょっ!?』

 

 上半身をテキパキと治療したナースは、戸惑うしー君のズボンに手をかけ脱がそうとする。

 ――このナースの口座にボーナスを振込みたくなるくらいグッジョブだね!

 

 あれよこれよとズボンを脱がされたしー君は、ナースに言われるがままにベットに寝転んだ。

 恥ずかしそうに両手で自分の股間を隠してるしー君がナイスである。

 これは良い絵だ。

 

『ちょっとくすぐったいですよ~』

 

 ナースが太ももやふくらはぎに薬を塗りこむ。

 しー君はくすぐったいのかそれを歯を食いしばって我慢していた。

 

『はい。今度を裏返ってくださいね~』

 

 ナースがしー君をうつ伏せに寝かせ、太ももに裏などの薬を塗っていく。

 地面を転がったりしたせいか、普通は傷が付かない場所にも傷が付いていた。

 これは暫らく辛い日々が続きそうだね。

 そうな事を考えてたら――

 

『それじゃあ次はお尻行きますよ~』

『……え?』

 

 ――え?

 

 戸惑う私としー君を他所に、ナースがしー君の最後の砦であるパンツを脱がした。

 ペロンと現れるしー君のお尻。

 

『ちょと待て~!?』

『はいはい。すぐ終わるから動いちゃダメですよ~』

 

 画面越しでも、しー君のお尻に擦り傷があるのは確認できる。

 地面を転がれば尻をケガするのはしょうがない。

 そして、パンツを脱がされるのも医療行為なのだから仕方がない。

 おめでとうナース。

 お前は近い内に海外旅行のチケットが当たるだろう。

 行くなり換金するなり好きにするといい!

 

『待って! 頼むから待って! さすがにこれは恥ずかしい!』

『神一郎君、暴れると前が見えちゃうよ?』

『くっ!?』

 

 パンツを上げようとするしー君を、ナースは冷静に窘め治療を続ける。

 更にだ――

 

『そう恥ずかしがるな佐藤君。美人ナースにそんな事してもらえるなんて滅多にない経験だぞ?』

『いやしかし羨ましい限りだな。まぁ大人になれば良い思い出になるんじゃね?』

『二人とも笑いすぎ。佐藤君、恥ずかしいと思うけどケガを治す為にも我慢するんだ』

 

 黒服三人が楽しそうにしー君を煽るオマケ付きだ。

 これはしー君恥ずかしい。

 しかし黒服三人は理解してないな。

 しー君は、自分と年齢が変わらない異性に尻を触られ、自分と同じ年頃の、特に親しくはない同性にお尻を見られ、もう羞恥心や自尊心がいっぱいいっぱいなんだよ?

   

 その後、治療を終えたしー君は真っ赤な顔で布団を被り引きこもった。

 それから暫らくして、頭に包帯を巻いたグラサンモドキが現れ、事情聴取が開始されたのだった。

 

 

 プツン

 

 録画画像を切り、現在のしー君に目を向ける。

 

『グラサンには俺の気持ちが分かる?』

『あ、あぁそれは……』

『軽々しく分かると言うなら、グラサンを俺が通っている小学校に連れて行き、同級の目の前でケツ丸出しにして、小学生女子に傷薬を塗らせなければいけなくなるな』

『佐藤君が心に受けた傷が俺には計り知れない』

 

 しー君にジト目で睨まれたグラサンモドキは、大急ぎで意見を変えた。

 ちなみに、部屋の隅では黒服三人組が少し小さくなっていた。

 しー君をからかい過ぎたと反省中のようだ。

 

『なぁグラサン。“目には目を歯には歯を”って知ってる?』

『確かハンムラビ法が元だったかな?』

『意味は知ってる?』

『相手にやられた事をそのまま相手にやる――かな?』

『そう、だからさ――』

 

 しー君がニタリと笑った。

 

『こんな所で油売ってないで早く束さん連れて来いや! 俺の目の前で尿瓶におしっこプレイさせた後にパンツずり下ろしてケツに薬を塗りこんでや(プツン)』

 

 思わず画像を切った。

 でも手遅れだった。

 たぶんしー君は、襲われたのに部屋が変わらないのは私の差金だと感づいている。

 トイレが使えなかったのは私が悪いと認めよう。

 だけどその後はどうだ?

 さすがに他人の前でおしり丸出しは私も計算外だ。

 だけどしー君のことだ。

 あの瞬間を私が見てると気付いてるに違いない。

 つまりだ――

 

「しー君の怒りが収まるで近づくのは止めよう」

 

 誰も居ない秘密基地で私はそう心に誓うのであった。

 




対篠ノ之束の組織のトップは何を隠そう私である!by束


※看護師をナース表記してるのは仕様です。

  

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