俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~ 作:GJ0083
現在俺は、束さんの部屋に居る。部屋の中は年頃の少女らしさの欠片もなく、壁際はディスプレイが並び、足元は機械とケーブルコードで溢れていた。
しかしなんで呼び出された? 近付こうとしたのがバレたのか? だが、一夏や箒とは今日初めて会った。特に怪しまれる行動もしていない。
「いっくん以外の男を部屋に入れるのは初めてだよ。さあさあ座って座って」
これから何が起きるかわからない。覚悟を決めて束さんの前に座る。
「お話とは何でしょう?」
「そうだね。単刀直入に行こうか。君は。何者なんだい?」
言われた瞬間、心拍数が上がった。
「束さんはね? ちょっと前に“IS”って言うのを作ったんだよ。宇宙空間での活動を目的としたマルチフォーム・スーツなんだけどね。それを学会で発表したんだよ。まぁ凡人共には束さんの凄さが理解できないみたいでさ。認められなかったんだけどね」
「それと俺に何か関係が?」
「まぁまぁ話は最後まで聞いてくれたまえ」
「分かりました」
「でもね。全てが認められなかった訳じゃないんだよ。技術の一部は盗まれたりしてさ。アイツ等の私腹を肥やす結果になった」
それは知っている。ISは最初認められなかった。その事が束さんを傷つけた事も……。
束さんは俺が黙ってるのを見て話を続ける。
「それからかな? 束さんに監視が付くようになったのは。大方、束さんの技術を盗む機会を狙ってるんだろうね。だけどね。今は監視だけだけど、その内、箒ちゃんやいっくんに近付く奴が出てくるかもしれない。だから近づいてくる奴の事を調べるようにしているんだよ」
束さんの眼光が俺を射抜く。
改めて思う、この人“天災”だ。
「最初はさ、普通の子供だと思ったんだよ? でも一応ね、ハッキングしてパソコンの中身を見せてもらったのさ。中身は問題なかったけど、検索履歴が問題でね……どこでISの事を知ったのかな?」
何も言えず黙り込む俺に、束さんはさらに追い打ちをかける。
「確かにISは発表したよ? でもね。アイツ等は束さんの技術を盗む為にその全てを無かった事にしたのさ。世間の目に触れれば盗んだ事がバレちゃうからね」
「えーと、実は父が科学者で――」
「君に親は居ないよね?」
最後まで言わせろよ。てか親居ないのバレてるし。ご都合主義能力仕事しろよ!
必死に言い訳を考えている中、さらに状況が悪化する。
「姿を隠していろ。などと言うからなんだと思ったが、なるほど、普通の子供ではないと言うことか。それで束、親が居ないとはどう言う事だ?」
後ろからの声に振り向けば、腕を組んでこちらを睨んでいる千冬さんが居た。
ブリュンヒルデが参戦しました。
あれ? もう死ぬんじゃね? 泣きたくなってきた……。
「そのままの意味だよちーちゃん。そいつに親は居ない。死んでるとかじゃなく、文字どおり居ないんだよ。戸籍もなにもない。普通なら有り得ないけど、事実だよ」
「お前が調べたのなら間違いないだろう。さて神一郎、話してくれるな?」
逃げ場はないか。
「束さん、千冬さん、少しだけ考える時間を下さい」
そう言って目を閉じ、ゆっくり深呼吸する。
元々どうやって束さんにISを貰うかはノープランだったんだ。これはある意味チャンスでもある。
下手な言い訳は通じない。でも、千冬さんが居るから、最悪殺される事はないだろう。
ゆっくりと目を開けて言う。
「未来から来た転生者です。どーぞよろしく」
「「は?」」
おぉ、この二人を驚かせる事ができるとは。
実際には異世界人の方が近いけど、未来を知ってるのは嘘ではない。
「ちーちゃん、どう思う?」
「どうと言われてもな。これは流石に想定外だ」
あれ? 思ってた反応と違う。
「自分で言っておいてなんだけど。信じるんですか?」
俺の問いに二人は当たり前の様な顔で答える。
「ちーちゃんの野生の勘の前に嘘など無意味なんだよ」
「束は嘘発見器でも使ってるんだろ? なら嘘などすぐバレる」
凄い信頼感だな。
「未来から来たってのは少し嘘かな。何かを誤魔化している感じ? でも“白騎士”の名前
を知ってるんだから、未来を知ってるのは本当だと思う」
そこまで分かるのか。流石にラノベ云々の説明は避けたい所なんだが。
俺の顔を見ていた束さんがニンマリ笑った。
「まぁ今は誤魔化されてあげるよ」
“今は”ね。とりあえ今すぐ何かされる訳ではないらしい。
「束、白騎士とはなんだ?」
まだ千冬さんは知らないのか。
「ちーちゃん用に作ったISだよ。まだ完成はしてないんだけどね。白騎士って名前は既に決まってるんだよ~」
「そんな物を作っていたのか。私をISに乗せてどうするつもりだ?」
「その話は、白騎士が完成したら改めて……ね?」
「良いだろう。まずは神一郎の問題を片付けてからだ。さて神一郎、まだ説明が足りないと思うが?」
「そうですね。下手に嘘を付いても無駄みたいですし。可能な限りお話します」
「“可能な限り”か?」
「ええ、全ては話せません」
「ちーちゃん、いざとなったら束さん特製の自白剤使うからね?」
「だそうだ。死にたくなければ素直に話せ」
止めてくれないんですね。
まあ一夏や箒に害が有る可能性がある限り、そんなに甘くないか。
「ではまず、私がどんな存在かと言うと。今より十年後の世界で生きていました。死にましたが、今の時代に子供の姿で生き返りました」
大きな嘘がないからか、二人は無言で続きを促す。
「私が此処に来たのは束さんに会うためです」
俺の発言に二人の顔色が変わる。
千冬さんはこちらの真意を探るように。
束さんは面白そうに微笑んでいる。
「束さんに会いに来た理由は、夢を叶える為です」
束さんの目を見つめ、頭を下げる。
「私にISを譲って下さい」
頭を下げたまま束さんの言葉を待つ。
「君はISで何をしたいのかな?」
口調は変わらないが、“つまらない理由なら容赦しない”そんな声色だった。
だけどここまで来たらもう引けない。
「私はISに乗って旅がしたいんです」
二人がポカンとした顔をする。
そこにさらに畳み掛ける。
「ISは元々宇宙空間での運用を目的としてますよね? ですがそれだけでは凄く勿体無いと思うんです。束さんは自然遺産とか見たことありますか? 日本だと知床や白神山地ですね。普通に見ても素晴らしいでしょうが、ISに乗って空から見る景色は絶対凄いと思うんですよ。それに、普通じゃできない事も沢山できますよね。大雪山の山頂で味噌ラーメンを食べ、渡り鳥と一緒に空を飛び、グランドキャニオンの谷間を走り抜け、朝日が照らすマチュピチュを空から見下ろしながらコーヒーを飲む。凄く、凄く楽しいと思うんです」
一気に言い切って二人の反応を見る。
千冬さんは、相変わらずポカンとしていた。
束さんは笑っていた。
「うんうん、どんな事を言い始めるかと思ったけど。確かに楽しそうだね」
「じゃあ!?」
思いの外好感触で声が上ずる。
「だが断る!」
「なん……だと……」
あれ? 断られた?
「なにを驚いてる? お前の夢は素晴らしいと思うが、だからと言ってISを簡単に譲れるはずないだろう?」
千冬さんの冷静なツッコミが耳に届く。
でも……。
「束さんはチョロい。そうSSでも言ってたのに」
「誰が言ってたのか知らないけど。束さんがチョロいなんて喧嘩売ってるのかな?」
「ロリショタぼっちの束さんは、年下に頼られたら甘い顔するって……」
「束、二度と一夏に近づくな」
「ちょ、ちーちゃん? 信じるの!?」
二人の掛け合いを横目に次の手を考える。
最後の手段はこれしかないか。
「分かりました。確かにタダで貰おうとするのは虫が良すぎますよね。脱ぎます」
いそいそと上着を脱ぐ。
「って何で脱いでるの? 束さんにそっちの趣味はないんだよ!?」
「束、もう一度言う。二度と一夏に近づくな」
「だから誤解だよちーちゃん! 君も脱ぐの止めてよ!」
なにやら誤解されたようだ。
「違いますよ。そんな意味で脱いだ訳ではありません。まぁ、体を売るのに違いはありませんが……したいんでしょ? 解剖」
千冬さんがいればバラバラ死体にされる事はないだろう。
夢の為とはいえ、解剖される日が来るとは……。
「いやいやいや、しないよ!? 君の中では束さんはどーなってるのかな!?」
「ロリショタぼっちのマッドサイエンティスト。ですかね?」
違うの? 違わないよね?
「大体合ってるじゃないか。良かったな束? こいつはお前の理解者だぞ」
千冬さんは実に楽しそうに笑っている。
「ちーちゃん、笑い事じゃないよ。まったく、真面目な話したいのに。それと、解剖はしないから君は服を着てよ」
解剖はされないらしい、原作より若いせいか、意外とまともだな。
束さんに言われ服を着なおす。
束さんは俺が服を着たのを確認して話を進める。
「さて、話を戻すよ。君はISが欲しい、それはISで旅をしたいから。間違いないね?」
「はい、間違いありません」
「うん。信じるよ。その言葉に嘘はない。でもね? だからってISを作ってあげる義務は束さんに無いのは理解してるよね?」
「はい、理解してます」
「ところで、等価交換の原則って知ってるかな?」
「何かを得ようとするなら、それと同等の代償が必要。ってことですね」
有名なセリフだ。ISをタダで貰えないかと考えてた自分には耳に痛い。
「そこで、束さんと取引しない?」
「ISの対価になりそうな物なんて無いですよ?」
「そうかな? 束さんから見たら君は宝の山だよ?」
束さんの瞳が怪しく光る。
ゆってくりと顔が近づいてくる。
思わず目を瞑ってしまった。へタレじゃない、慣れてないだけなんだ。
いつまでたっても期待していた感触はなく、束さんが離れる気配を感じ目を開ける。
「ふっふっふっ、何を期待したのかな?」
束さんが笑いながら、どこから出したのか鏡をこちらに向けてきた。
そこには、顔を赤くした自分と。
「首輪?」
首に何か巻かれていた。黒一色で喉元辺に赤い宝石の様なものが付いている。
「首輪と言うか、チョーカーだね。機能的には首輪だけど」
「つまり?」
「それを着けてる限り、居場所が何時でも分かるし、束さんから逃げれなくなる。無理やり取ったら、ボンッ! だね」
「千冬さん!」
静観していた千冬さんに助けを求める。
「お前に敵意が無いのは理解した、しかしまだ隠している事がある以上野放しも出来ん。諦めろ」
だからって首輪はないだろ、どこぞの囚人じゃないんだから。
「安心してよ。等価交換って言ったでしょ? 君には束さんのそばに居て欲しんだよ。転生とか未来とか、色々聞きたいしね」
「ペット的なポジションですかね?」
「実験動物的なポジションだね」
「なん……だと……」
「転生者、ゲットだぜ!」
束さんは実に良い笑顔でした。