俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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仕事が忙しかったんです(大嘘)

公爵VSリヴァイアサンを目指し、胸熱バトルを書こうとしたのが失敗だった。
凡人に天才は書けないって、それよく言われてるから(震え声)
途中で諦めました!
文才の有無もあるけど、束さんがチート過ぎで動かし辛いんだもの。

文書の中に失敗の名残で『あ、格好良く書こうとしてんな』って所があります。
生暖かい目で流してください。

※潜水艦や空母が登場しますが、それらの設定は作者がネットで集めた知識を混ぜた闇鍋設定です。現実と混同しないでください。


海戦

 航空母艦カール・ヴィンソン。

 兵員3.000名、航空要員2.500名、艦載機70機を乗せる原子力空母は、先行する三隻の潜水艦、その後方100キロ地点を進行していた。

 

「コーヒーです」

「おう」

 

 カール・ヴィンソン艦長のイーサン・ウィリアムズは、部下から出されたコーヒーに口を付けながら艦長室の椅子に深く腰掛けた。

 イーサンは齢六十を超えるベテランの艦長だ。

 部下からの信頼も厚く、実戦経験も多い老兵である。 

 そんな男が、目の前でランプが点滅する通信機を疲れた顔で見ていた。

 

「艦長、通信のようですが?」

 

 その様子を、冷ややかな目で見ていた部下がため息混じりに忠告する。

 

「――分かってはいるんだ」

 

 部下への返事に覇気はなく、イーサンはコーヒーカップから手を離そうとはしなかった。

 とどのつまり、イーサンは居留守を使っているのだ。

 もちろん軍人として許されるはずはない。

 できるだけ面倒事を後回しにしてるだけである。

 

「ダニエル、通信先は誰だと思う?」

 

 イーサンはあご髭を撫でつつ、部下に問う。

 

「自分には分かりかねます。ただまぁ、艦長よりは偉い人間だと思いますが」

「無視してたらヤバイよなぁ……」

「自分としては上の席が空くので一向に構いません」

 

 副艦長ダニエル・テイラー。

 金色の髪をオールバックで纒める彼は、如何にもな堅物である。

 しかし、それと同時にとても分かりやすい人間であった。

 

「お前さ、そんなに俺のイスが欲しいの?」

「はい」

「苦労が増えるだけだぞ? 今の俺みたいにな」

「ですが給金も増えます」

「俺、お前のそう言ったところ結構好きだわ」

「光栄です」

 

 部下の遠慮のない発言に苦笑しつつ、イーサンは受話器を手に取る。

 

「申し訳ありません。立て込んでいまして」

『――――』

「えぇ、承知してます」

『――――』

「はっ! 了解であります!」

 

 さっきまで気怠さが嘘の様に、イーサンは立派な艦長として振舞う。

 その様子を、ダニエルを多少尊敬した目で見ていた。

 

「もう暫らくで作戦海域に入ります。吉報をお持ちください」

『――――』

「はい。では失礼致します」

 

 通信を切り、イーサンは椅子に座った状態でだらしなく姿勢を崩した。

 それを見たダニエルから尊敬の視線が消えた。

 

「何か問題でも?」

「……問題だらけだよバカ野郎。絶対に“天災”を他国に取られるなだとよ。上の連中は負けることなんか考えていねーのさ」

 

 今回の空母カール・ヴィンソンの任務は、“天災”の捕縛と輸送である。

 無謀にも軍にケンカを売ってきた天災。

 上層部は、舐められてると怒りに狂いながらも、求める相手が自分から寄って来たことに喜んだ。

 第三者からの横槍を防ぐためにカール・ヴィンソンを派遣したのだ。

 

「艦長は随分とかの天災を買ってるようですが、そこまで注意する必要が有るのですか?」

 

 ダニエルは、イーサンが自分の想像以上に警戒していることに疑問を抱く。

 何故なら、イーサンの言い方はまるでこちらが負けるとでも言っているようだからだ。

 敵は一隻、こちらは三隻。

 映画やゲームと違い、現実では覆すのが不可能な戦力差があるのだから。

 

「ダニエル。仮にだ、百年前の軍艦とこのカール・ヴィンソンがヤリあった場合、どちらが勝つと思う?」

「それはもちろん私達です」

「なら、百年後ではどうだ?」

「それは未来の軍艦という意味ですか?」

「そうだ」

「それは……」

 

 イーサンの問いにダニエルは答えを濁す。

 百年後の軍艦などと言われてもまるで想像できない。

 軍艦と言っても、駆逐艦や巡洋艦、空母など種類があるが――

 

「分かりません」

 

 少し考えた後、ダニエルは結局そう答えた。

 

「艦長になりたきゃ、そこは素直に“負けます”って言えるようになっとけ。もちろん時と場合、敵の兵装と色々と判断材料はあるが、増長して轟沈すれば、部下の全てが道連れだ」

「――はい」

 

 イーサンのもっともな言葉に、ダニエルが素直に頷く。

 しかし、ダニエルには疑問があった。

 

「艦長、その例えにどういった意味があるのですか?」

「お前、ISの基本知識は頭に入っているな?」

「もちろんです」

 

 インフィニット・ストラトス。

 それはかの天災が作り出した、人類の宇宙進出を後押しをするパワード・スーツ。

 そして、次世代の“兵器”だ。

 軍属の人間としてダニエルには基礎知識はあった。

 そしてなにより、ソレは先日この艦にも搭載されたものだ。

 

「アレを初めて見たとき、俺は“ついにジャパニーズはガンダム作りやがった!”と喜んだもんだ」

「艦長はそういうの好きですよね」

「ほっとけ」

 

 自分の趣味を理解してくれない部下に苦い顔をしつつ、イーサンは言葉を続ける。

 

「でだな、問題は敵が天災ってことだ。上の連中は楽観視してるが、敵が女だろうと子供だろうと関係ねぇ。“兵器”には、使い手がどんな人間かなんて全く関係ねぇんだよ。それは分かるだろ?」

「はい」

 

 子供でも、銃があれば大人を殺せる。

 女でも、ナイフで男の首を切れる。

 そんなことは、戦争を体験した人間なら当然の常識だ。

 

「天災の言い分は覚えてるか?」

「はい。自分が作った潜水艦の実戦テストをしたいからと――」

「俺はな、その潜水艦が普通の潜水艦だとはとても思えねぇ。あのISを作った奴だぞ?」

「先程言っていた未来の軍艦の話ですか?」

 

 ここまで聞いて、ダニエルはイーサンが言いたいことが理解できた。

 もし、もしも敵の潜水艦がこちらを圧倒する性能を有していたら……。

 

「しかもだ、あの天災がこちらまで敵と認識して攻撃仕掛けてきたらどうするよ?」

 

 空母VS潜水艦。

 現在、単独任務の命令の為に、普段いるはずの護衛艦が居ないが、先にこちらが相手を見つけられれば先制攻撃は可能。

 しかし、艦長の言葉で考えるなら、敵は“百年後の潜水艦”。

 奥の手はあるが、油断はできない。

 

「艦長」

「あん?」

「この艦全ての人間の命は艦長の両肩に掛かっています。頑張ってください」

「いい性格してるよお前」

 

 部下の励ましの言葉にゲンナリしながら、イーサンはすっかり冷めてしまったコーヒーを口に付けた。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「たったばば~たったばば~ふうっふ―♪」

 

 謎の歌を歌いながら、束さんは仮想キーボードに指を走らせる。

 テンション高いな。

 

 そうそう、テンションが高いと言えば、初めての中国は最高だったな。

 黄河の水面ギリギリを流々武で滑走し、木の枝に腰を降ろして壮大な自然を眺めながらおにぎりをほおばる。

 幸せな時間でした。

 自然を満喫したら後、俺は町に降り立った。

 四川料理を食べる為だ。

 日本で四川料理と聞かれてすぐに思い浮かべるのは、やはり麻婆豆腐だろう。

 俺は適当な店に入り、麻婆豆腐の他に、

 

 水煮牛肉(一口大に切った牛肉に唐辛子と花椒で味付けしたもの)

 辣子鶏(鶏肉のから揚げを唐辛子や花椒で炒めたもの) 

 

 などを頼んだ。

 この辺は日本でも馴染みのある料理である。

 他にも様々な料理があったが、いかんせんどんな料理か分からない。

 初めての海外での食事であったため、冒険はしなかった。

 激辛料理を口に運び、額に汗を滲ませながら、俺はふと思ったことがある。

 

 “激辛料理が好き”と“辛さに強い”は別物ではないか? ということだ。

 俺は激辛料理を食べるたびに、毎回トイレの中で反省する。

 お尻でカプサイシンがカムチャッカファイアーしてるのを、温水便座の水で消火に励むのだ。

 あの瞬間、もう辛いのは止めようといつも考えてしまう。

 まぁ結局食べるのだが……。

 

 ここで話は変わるが、四川と言ったら麻婆だが、麻婆と言ったら愉悦神父を連想するのがオタクというものだろう。

 そこでだ。

 もし、愉悦神父の胃腸は辛さに弱いとしたらどうだろう?

 

 俺と同じ様にトイレに閉じこもり、お尻に水を浴びて、あのイケボで『んほっ』なんて声を出してるかもしれない。

 更に、その声を聞いた英雄王が『酔狂よな』などど言ってるかもしれない――

 そんな事を考えながら、俺は中華料理屋で汗だくになりながら笑っていた。

 要するに、その時の俺はテンションが上がっていたのだ。

 

「くくっ」

 

 今思い出しても笑えるな。

 

「ねえしー君」

「はいはい」

 

 束さんの隣で体育座りしながら笑っている俺に声が掛かる。

 

「流石に魚雷を連続で喰らったら沈んじゃうかもね」

「だったら俺を陸に帰せよ!」

「…………」

 

 シカトしやがった!?

 俺が閉じ込められてからと言うもの、束さんが無駄に不安を煽ってくる。

 出来るだけ楽しい思い出を思い浮かべ、現実逃避しようとしても、束さんの容赦ない言葉で現実に引き戻されるのだ。

 

 対潜水戦ってどうやるんだろう、とか。

 三方から魚雷打たれたらヤバイよね、とか。

 水圧で死ぬとどうなるかな、とか

 

 こちらの精神を追い詰めてくる。

 しかも非常に良い笑顔で。

 最近束さんを放置していた自分を殴ってやりたいよ。

 

「あっ」

「――今度はなんです?」

 

 あからさまに驚いた顔をする束さんに、俺は渋々ながら乗ってあげる。

 

「なんか空母がいる」

「くうぼ……空母――ッ!?」

 

 それってヤバくない? ミリオタじゃないから軍事関係は特別詳しい訳じゃないけど、それってヤバくない?

 

「逃げましょう。今すぐに!」

「まぁまぁ落ち着きなよ。ふむ……一定の距離を保ってる。伏兵っことはないか。なんのつもりだろ?」

「――気になるなら直接聞けば?」

「そうだね。そうしようか」

 

 投げやりな俺の意見を、束さんがあっさりと受け入れた。

 もうね、驚いたりするの疲れたよ。

 

「えっと、CQCQバーベQっと」

 

 うわっ、本当に聞く気だよこやつ。

 

『――こちらカール・ヴィンソン艦長、イーサン・ウィリアムズ』

 

 天井から声が聞こえた。

 俺の声が向こうに届く可能性がある為、慌てて口を手で押さえる。

 

「やぁどーもどーも。こちら君たちが求めてやまない束さんだよ~」

『言葉を交わせて光栄ですミス篠ノ之』

「お? 紳士的な感じだね。第一声は罵倒から始まると思ってたのに」

『そんなまさか。私は一人の人間としてミス篠ノ之を尊敬しておりますので』

「ほ―? ま、社交辞令として受け取っておくよ」

 

 声の感じから、相手はそれなりの高齢。

 お髭の似合うおじ様って気がする。

 

「それで、お前はなんでそこに居るの? 相手をしてくれるなら喜んで対艦ミサイル打ち込むけど?」

『ははっ。私達カール・ヴィンソンはあくまで救助係ですよ。万が一の時は同胞を助ける為に動きますのでご了承下さい』

「空母が単機で救助係? ものは言いようだね。まぁいいや、そっちから手を出さなければ見逃してあげるよ」

『感謝します』

 

 相手側の一言を最後に通信が切れる。

 束さんは通信が終わった途端、自分の周囲に何枚も仮想ディスプレイを展開し、何やら忙しそうにしていた。

 

「ふーむ。なるほどなるほど」

「何かあったんですか?」

「しー君、そもそも空母が単独で動いてるのが普通じゃないんだよ」

 

 そうなの?

 軍艦などは艦これ知識しかないから、俺には空母の何がおかしいのか分からない。

 

「しょうがない。無知なしー君に一から説明してあげよう」

 

 首を傾げる俺に対し、束さんがメガネを装着して微笑む。

 無能を嫌うくせに、無知の友達に教えるのは好きなのかな?

 椅子を回転さて、俺の方を向いて足を組んだ。

 まいっちんぐ束先生、はっじまるよ~。

 

「時間はあまりないから、丁寧な説明じゃなくて要所だけを簡単に説明します」

「はい先生」

 

 俺も教わる側に相応しいよう、体育座りから正座に座り方を変え、束さんの方に体を向ける。

 

「しー君はさっき驚いていたみたいだけど、空母は弱い存在なのです」

「そうなんですか?」

「そうなんです。だって空母なんて言ってしまえば“滑走路が付いた船”だからね。飛行機を多く搭載する為に装甲を削ってたりするし、守ってあげないといけない脆弱な存在なのだよ」

 

 なるほど。

 だから空母が一隻だけでいることに束さんは訝しんだのか。

 

「さて、ここで問題です。軍艦のクセに守ってあげたい系の空母ですが、現在の戦争の主力の一つでもあります。それはなぜでしょう?」

「はい先生。それは戦闘機を輸送できるからです」

「正解。そう、空母を評価する上で大事なのは、その空母が“どんな兵器を搭載しているか”なのです。その事を踏まえて――はい、黒板に注目」

 

 束さんの視線が俺から外れ、正面を向く。

 釣られて俺も視線を向けると、空中に立体映像が投影されていた。

 

「アメリカが作ったIS、名前は【ディープ・ダイバー】だよ」

 

 アメリカ製ISのディープ・ダイバー。

 その姿は宇宙飛行士の様だ。

 流々武と同じ全身装甲型で、全体的に丸みを帯びている。

 

「ところで、しー君は潜水艦については詳しい?」

「いえ、詳しくはないです」

 

 潜水艦の伊19がスク水ロリ巨乳とか、その程度の知識しかないです。

 

「最近はね、潜水艦ってのは戦力の面でイマイチなのです」

「それは初耳ですね」

「潜水艦は主に二種類あって……そうだね、戦場で働く甲種と、人知れない海の底で敵国に核ミサイルを撃つ機会を伺っている乙種があってね」

 

 後半はジョークですよね?

 束先生は授業の間にジョークを挟む良い先生です。

 

「まぁそこそこ頑張ってはいるんだけど、何しろ最近のレーダーやソナーが出来が良くて、潜水艦最大の売りの隠密性が殺されてるんだよね。海底で大人しくしてるならともかく、動けば即バレって感じなのです」

 

 なんだっけかな……。

 潜水艦が棺桶と揶揄されてる映画があったような……。

 外は水圧、動けば標的、戦時の潜水艦とか乗るの超怖いだろうな。

 

「でもね、やっぱり水中から一方的に攻撃できたら、それに越したことないよね?」

「それはそうですね」

 

 考えるまでもなく、それができれば良い事だろう。

 

「そこで、最近空気気味な潜水艦の代わりに次期主力として期待されているのが、この【ディープダイバー】なのです!」

 

 なるほど、水中で速く動ける上、狙うにしては的として小さいし、シールドがあるから潜水艦よりタフ。

 その内ズゴックとか作られそうだな。

 

「はい、次はこれに注目」

 

 束さんが指をスライドさせると、投影されてた映像が切り替わった。

 

「これは空戦を主眼に置いたIS、【スピードスター】だよ」

 

 次に映ったのは、全体的にトゲトゲしいフォルムのIS。

 膝や肩などの装甲部分が尖っていて、物々しい造りだ。

 

「空戦の代表格と言えば戦闘機。だけど、空中で一番自由に動けるのはヘリコプター。その二つを組み合わせたら最強だと思わない?」

 

 思う。

 てか、それはまんまISじゃん。

 スピードは知らないが、自由度は現時点でヘリ以上だし。

 軍隊がまず作ろうと考えるのは仕方がないよね。

 

「もちろん【スピードスター】は未完成。今はスピードも機動性も流々武以下だけどね」

 

 束さんがドヤ顔しながら腕を組む。

 軍用機より性能が高いとか、流々武って凄いんだな。

 

 チラッ――チラッチラッ

 

 褒めてほしそうにしている束さんは放置します。

 下手に褒めると流々武が魔改造されそなので。

 

「で、この二機がどうしたんです?」

「――これがあの空母に積まれてます」

 

 無視したからか、ちょっとだけ不満そうな束さん。

 ……こやつ、ほっぺを脹らませながらとんでもないこと言ったな?

 

「束さんや」

「うん?」

「つまり、軍用に作られたISとドンパチするの?」

「え? やらないよ?」

 

 あれー? さっきのIS紹介はなんだったの?

 

「ではここで、敵の作戦を説明します」

 

 敵の作戦を説明っておかしくない?

 事前にできるものじゃないよね?

 

「勝負を挑んだのは私ですが、場所は敵に指定させました。まぁハンデみたいなもんだね。で、敵が指定したのが平均水深700メートルの太平洋では浅瀬な海域です」

 

 ほうほう。

 

「敵の狙いですが、凄く簡単です。潜水艦三隻でこちらの潜水艦のスクリューを破壊。その後、ディープ・ダイバーを投入。敵船体を捕獲」

 

 こちらのスクリューを破壊して船体を海底に沈め、身動きを取れなくしてからじっくりサルベージってことか?

 その為に浅瀬の海域を指定してきと。

 水中用のISがいれば、サルベージなんかの作業は楽そうだな。

 

「その後、空母に乗せている戦闘ヘリで天災を本国まで輸送。その際にスピードスターを護衛として随伴」

 

 空母の存在意義はそこか。

 確かに戦闘ヘリで運べば海路より早いな。

 仮に束さんがヘリを奪取したり、ヘリから飛び降りても、ISならば――と考えてのことかな?

 

「敵のISはあくまで試験運用って感じですかね?」

「そだね。ISコアは貴重。だけど、実戦に近い空気で運用したい。そんな感じかな」

 

 なるほどねー。

 ISを束さんに破壊されるとか考えないのかな?

 もしかして、ISなら天災も倒せるとか思ってる?

 なんと愚かな――

 

「さて、話しが終わったところで目標海域に到着だよ」

 

 あぁ……到着してしまいましたか。

 で、なんでマイク片手に立ち上がってるの?

 

「すー」

 

 束さんが大きく息を吸った。

 

「Aaaaaaaaaaaa!!」

「ッ!?」

 

 突然の大声に思わず耳を塞ぐ。

 一言言えやこの野郎!

 

「反響――反響――よし、マッピング完了」

 

 いつの間にかメガネを外した束さんが、満足げに椅子に腰掛ける。

 

「束さん、今のは一体なんです? 大声だすならもっと色気のある声でお願いしたい」

「そのお願いは無視します。さあしー君、前を見たまえ」

 

 残念。

 束さんの悲鳴を録音したかった。

 で、正面にあるのは――

 

「立体地図?」

 

 空中に投影されてたISは消え、今度は地図が浮かんでいた。

 中心にあるのはデ・ダナン。

 その下に海底の凹凸がはっきりと映っていた。

 凄い精度だな。

 

「しー君はエコーロケーションって知ってる?」

「イルカやシャチの能力的なやつでしたよね。音の反響で周囲を探る技術って感じの」

 

 もしくはあれだ、四天王の得意技。

 

「そうそう。で、返ってくる音を精査し、画像化したのがコレだよ」

「エコーロケーションって超音波を使うんじゃ?」

 

 超音波って人間の耳に聞こえなかったよね?

 でも束さんの大声はしっかりと聞こえた。

 

「え? だって声を出さなきゃ大口開けてるまぬけ顔になるじゃん」

 

 そだね。

 マイク片手に無言で口開いてたらただの変人だもんね。

 なんかもうツッコミするのがめんどくさいです。

 ――あれ?

 

「束さん、海底に鯨の死骸っぽいモノが沈んでませんか?」

 

 パッと見は巨大なかりんとう。

 それが海底にとか、シュールだなぁ……。

 

「あ、それ敵の潜水艦だね。あの状態なら普通は気付かれないもんね、普通は。ぷぷっ、丸見えでやんの」

 

 待ち伏せ役か伏兵役か、どちらにせよこれは可哀想だ。

 潜水艦の乗組員の人達に、丸見えでしたよって教えてあげたい。

 

「お、正面から二隻来たね」

 

 二隻の船がゆっくりと地図に侵入してくる。

 ってあれ?

 エコーロケーションでマッピングしたのに、なんでこんなにリアルタイムなの?

 

「束さん――」

「それは常に音波や各種レーダー等で情報を更新してるからだよ。てかそういう機能があります。私が毎回声を出す訳ないじゃん」

  

 こっちの質問を先回りして答えてくれるなんてさすがだぜ。

 色々言いたいけど、なんかもうどうでもいいや!

 

「それじゃあ始めますか。ダナンより通達、これより評価テストを開始する。こちらは実弾兵器及び火薬兵器等の殺傷兵器は使用しないので、凡人は頑張って戦ってください」

 

 おそらく相手の潜水艦にメッセージを飛ばしたのだろう。

 煽られた相手が怒って無茶をしなきゃいいけど。 

 しかしなんだな、これからドンパチやるってのに、びっくりするほど緊張感がない。

 こんな危機感のなさで大丈夫か?

 

「あいつらが所持してる魚雷程度じゃダナンの装甲は抜けないけどね。プークスクス」

 

 大丈夫そうだな。

 

「束さん、安全運転でお願いしますね」

「任せなさい!」

 

 床に穴があき、そこからバスケットボール程の大きさの、鈍く光る二つの玉が浮かび上がったてきた。

 おい、なんだその未来感漂う球体は。

 

「ふっふっふっ」

 

 浮かんできた玉は、椅子の腕置きの先端にくっついた。

 

 今現在の束さんの姿は――

 

 椅子に座って足を組んでいる。

 両手は光る玉の上に乗せてある。

 そして無駄に漂うラスボス感。

 

 勝ったな。

 この戦争に負けはない――ッ!

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「おぉぉ……」

 

 しー君が感嘆の表情で私を見つめている。

 でしょ? そうでしょ? 格好良いでしょ?

 光る玉で船を制御とか素敵でしょう?

 しー君の尊敬を含んだ視線を浴びると、さすがの私も気分が良いってもんだ。

 無理矢理連れてきたかいがあったね。

 

 敵船が動き始めた。

 それぞれスライムAとスライムB、海底に隠れてるのがスライムCでいいか。

 っておやおや。

 

「敵艦から魚雷の発射を確認」

「さっそく!?」

 

 さっそくです。

 前方の二隻から二発ずつ、合計四発の魚雷が発射された。

 でもこれ、慌てる必要ないね。

 慌てるしー君の為にちょっと細工してあげようか。

 魚雷の弾道を予測して、それを投影した周辺図に反映っと――

 

「しー君、落ち着いて見てみて」

「……魚雷はデ・ダナンの下を通り抜けるんだね。ってことは脅しか……ちっ、驚かせやがって」

 

 しー君は上げかけた腰を下ろし、不敵に笑ってみせた。

 ご覧下さい。

 これが運動もしてないのに心拍数120超えの男の姿です。

 さて、発射された魚雷はこちらへの脅し。

 初手から全力かと思いきや、敵さんはこちらを舐めてる様子。

 普段ならそんな相手は即叩き潰すが、今回はテスト優先の為に見逃してやろう。

 

「ダナン、斜め下に微速前進!」

「なんで!?」

 

 魚雷に突撃する様にダナンが前に進む。

 しー君が騒いでいるが、これも必要なことなのだよ。

 これで敵船とデ・ダナンの深度は一緒になった。

 あ、一応教科書出しておこうかな。

 それならしー君も安心するだろうし。

 

「束さん! 前ッ! 前見ろッ!!」

 

 しー君が立ち上がって後ろから私の肩を揺らす。

 戦う私の為にマッサージとはなんと健気な。

 はいはい魚雷ね。

 

「シールドエネルギーを船首に集中――“ピンポイントバリア”!!」

 

 しー君に分かりやすいよう、そして、私が格好良く見える様に画像に細工する。

 立体図のデ・ダナンの前方にバリアが展開され、そこに魚雷が命中した。

 

「…………束さん」

「なに?」

「今さ、魚雷がバリアっぽいものに当たりましたよね?」

「当たったね」

「なんの衝撃もないね」

「ないよ」

「…………実弾も見えないし衝撃も感じない。なんだかなぁ……」

 

 そう言ってしー君はへなへなと座り込んだ。

 むう……もうちょっと私の賞賛があっても良いと思うんだけど?

 まぁいいや。

 ここからが本番だ。

 教科書を仮想ウィンドウで目の前に表示してっと。

 

「全速前進!」

「おっと」

 

 正面にいる二隻の中間を目指してダナンを前進させる。

 しー君がたたらを踏んで慌てて私の椅子にしがみついた。

 相手も動こうとしているが、圧倒的に遅い。

 

「束さん、その目の前にあるのはなんだい?」

「へ? 教科書」

「俺には“アクロバット飛行入門書”に見えるんですが?」

 

 あららしー君。

 なんでそんなに涙目なの?  

 そんな顔されたら……もっと泣かせたくなるじゃないか!

 しー君は笑顔より涙が似合うよね! 

 よーし! テンション上がってきたッ!

 

 ダナンが二隻とすれ違う。

 ――今だ!

 

「水平飛行中から45度バンクしそのまま斜めに上方宙返りをする。それが“シャンデル”!」

「ちょぉぉぉぉ!?」

 

 デ・ダナンが斜め上に船首を持ち上げ、そのまま逆さまになる。

 しー君が必死に椅子にしがみついているのがワロス。

 

 さて、どんなもんかな?

 ダナンの各部をチェック。 

 ――やっぱり水中じゃ負担が大きいか。

 ミシミシと軋む音が聞こえる。

 機体を並行に戻してっと。 

 

「お、おま、おまえ……」

 

 私の肩を掴むしー君の手がぷるぷると震えている。

 もうちょっと力入れてくれると更にグッドだが、一先ずしー君は放置しておく。

 シャンデルは開始時と終了時は180度変わる技だ。

 そして、宙返り中に水平に戻すタイミングで高度が変わる――今の場合は深度だが。

 今はダナンとスライムA、Bが同じ方を向いている状態だ。

 ダナンが深度100メートル。

 そしてスライムは深度200メートルだ。

 

「えっと、一般に上向きのものを指す。下向きは逆宙返りと言う。シャンデルに比べると物足りない名前だね――逆ループ!」

「その説明口調なんなんだよ――ッ!」

 

 しー君の為に説明してます。

 私ってばホント優しい。

 

「ちょっと待って! 一旦落ち着こぎゃぁぁぁぁ!!」

 

 戦場で止まるとかないです。

 今度は船首を下に。

 海底目掛けてダナンが落ちていく。

 ついでにしー君も床を転がって行った。

 ちゃんと私みたいにシートベルトを着けないからそうなるんだよ?

 

 ぐんぐんと海底が近付く。

 深度600――今だ!

 

「あぎゃぁぁぁ!」

 

 海老反り感覚で海底直撃を回避する。

 今度は天地逆転状態。

 しー君は天井に頭をぶつけていた。

 

「る、るるぶ……」

 

 それはつまらなくなるのでダメです。

 

「あ、あれ?」 

 

 流々武封印完了。

 

 また船首を上にする。

 そして急上昇!

 

「またぁぁぁ~!?」

 

 今のダナンは海中で縦に立ってる感じだ。

 重力に縛られたしー君が今度は上から落ちてきた。

 私の横をしー君が通り過ぎていく。

 お帰り~。

 

「あごっ!?」

 

 舌を噛まないように気をつけて壁に当たるんだよ~。

 さてと、これでダナンは海の中をクルッと大きく回った形になる。

 各部を再チェック。

 

 空中に投影されたダナンの全体図は、やはりと言うか、所々真っ赤になっている。

 赤い場所はダメージが強く掛かった場所だ。

 水圧は侮れない敵だよね。

 ダナンの外見はしー君の好みに合わせたものだから、造形美の点はともかく、機能美では少し残念なのだ。

 やっぱりテコ入れが必要かな?

 

 ――おや? スライムCが動き出した。

 今なら後ろを取れると思ったのかな? 

 甘い甘い。

 

「も、もうやめ……」

 

 後ろを振り返ると、しー君が半泣きだった。

 でもまあ、ダメージ的にはまだまだ大丈夫そうなのでテストはこのまま続行で!

 

 スライムAとスライムBは――

 

 スライムAは回頭しようとのそのそと頑張っている。

 スライムBは深度を下げつつそのまま前進。

 

 ふむふむ。

 こっちを囲む作戦かな?

 うん、まったく問題ないね。

 もうちょっと遊ばせてもらうか頑張ってね。

 

「うぷ……やば、ちょっと酔ってきた」

 

 ――しー君が吐く前には決着付けよう。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「敵艦がシャンデルを決めました! 素晴らしい腕です!」

「今度は逆宙返りだ! 海底に衝突する危険性があるにも関わらずあそこまでは攻めるとは!?」

「味方から魚雷の発射を確認! これは……スプリットS? まさかそれで魚雷を躱す気か!?」

 

 空母カール・ヴィンソンでは、今回の戦闘データを収集していた兵士達の間に悲鳴は飛び交っていた。

 

「おい今度はハイヨーヨーだぞ! 潜水艦相手に馬鹿かよこいつら!」

「「「むしろ最高!」」」

 

 嬉しい悲鳴が、だが。

 

「お前達、データはしっかり取れてるんだろうな?」

「もちろんですよ副艦長。こんなにクールなショーを見逃す訳ないじゃないですか」

「おまえ海軍だろっ!?」

「海兵だから見逃せないんですよ。海の中でのドッグファイトなんて興奮しない方が無理です。それに俺、元々は航空隊希望だったので!」

 

 副艦長からのお叱りの言葉を部下達は笑顔で受け流す。

 中には、“あ、俺も航空隊希望だった。やっぱ目指すなら花形だよな”などど同調する馬鹿も現れた。 

 その様子を見て、ダニエルはため息を漏らす。

 不謹慎だと注意したいが、

 

「クハハ! 最高だなおい!」

 

 なにせ上官が笑っているのだ。

 部下である自分はこれ以上は言えない。

 

「おいダニエル。俺達は間違っていた。何が間違ってたか分かるな?」

「はい。“前提条件”ですね」

「そうだ。まったく言ってくれるぜ。なにが潜水艦を作っただよ。これは潜水艦対潜水艦じゃねえ。これは――」

「潜水艦対IS……ですか」

 

 レーダーに映るのは海中を縦横無尽に泳ぐ正体不明艦。

 事前に潜水艦だと知ってなければ、巨大な生物と戦っていると勘違いしていただろう。

 

「似たような光景を昔映画で見た事あったな。メガロドンだったか?」

「過去に存在したと言われる巨大鮫ですか。言われてみればそう見えます」

「アメリカだけじゃねえ。ロシアだろうが中国だろうがISはまだまだ未完成の兵器だ。にも関わらずあんなもん作りやがって。海の勢力図が一変するぞこりゃあ」

「口調の割に嬉しそうですね」

「そりゃそうだ。ISの可能性をここまで見せつけられたんだぞ? しかも具体的な例がある」

「……海軍にお金が流れるかもしれませんね。アレを真似できれば、海での戦いで多くのアドバンテージが取れますから」

「そうだ。男にはISを使えない。だが――」

「ISコアを使用した船には乗れますね」

 

 イーサンとダニエルが顔を見合わニヤリと笑う。

 ISが台頭すると共に、男が戦場からいなくなると騒ぐ奴がいるが、そんな事はない。

 まだまだ自分達の出番はあるのだ。

 

「艦長見てください! 今度はスライスバックです! しかもキレが半端ないっ!」

「……ダニエル」

「……はい」

「これからは俺達も空戦の勉強しなきゃダメな時代かね?」

「そのようで」

「っ!? 敵艦から魚雷の発射を確認!」

 

 悪巧みをしていたイーサンの顔から笑みが消え、それまで和気あいあいとしていた部下達も黙り、周囲が一瞬で緊張感に包まれる。

 

「殺傷兵器は使わないと言っていましたが、ブラフですかね?」

「さぁな。その辺はこれから分かる。頼むぜお嬢ちゃん。戦争の引き金になるような真似しないでくれよ?」

 

 同じ海軍の潜水艦。

 その同胞達の無事を願いつつ、イーサン達は静観する。 

 今からのどんな行動を起こそうと、既に発射された魚雷が止まることがないのだから。

 

「敵魚雷、ミシガンの下を通過……っミシガンに異常発生! 艦が急速浮上してきます! これはいったい……」

「落ち着いて情報を集めミシガンの被害状況を確認しろ。救助艇の準備はできているな?」

「はい!」

 

 緊張感が一気に高まり全員が固唾を呑むなか、イーサンは淡々と指示を出す。

 

「更に魚雷の発射を確認!」

「観測班から報告! 海面に多量の泡が出現!」

「ミシガンから通信! 乗組員の負傷者はなし! しかし艦のコントロールが失われているとのこです!」

  

 ISは未だ未完成の兵器、その為戦闘への介入は固く禁じられている。

 通常の対潜兵器は効果は不明。

 下手に手は出せない……。

 イーサンはそう自分に言い聞かせ、被害状況を静かに聞き入れた。

 

「他の味方の被害状況は?」

「――ミシガンと同様です。二隻とも魚雷は直撃していません。被害は軽微です。ですが、コントロールが効かない状態で浮上している様です」

 

 その報告を聞いてイーサンは肩から力を抜いた。

 天災はしっかりと手加減してくれたのだ。

 

「艦長。通信が来てます」

「相手は?」

「天災です」

「でよう」

 

 実戦テストは終わった。

 向こうが何を思ってこちらに連絡してきたのか分からないが、自分の役目は出来るだけ相手の情報を集めつつ、こちらに矛先を向けさせない事。

 

 イーサンはそう思考しながら受話器を手に取った。

 

『あーあー。聞こえてるかな?』

「聞こえています」

『さて、これにて試合終了ってことで良いかな? ちょっと物足りないから、束さんとしては軍用のISとも遊んでみたいんだけど……やる?』 

「こちらのISは未完成品。ミス篠ノ之の相手をするにはまだまだ力不足ですので、遠慮させて頂きます」

 

 デ・ダナンの機動力と防御力を見せつけられたイーサンからしてみれば、ここでISを投入しても無駄になるだけだとわかりきっていること。

 心に汗をかきながら、変な気まぐれを起こしてくれるなと必死に祈った。

 

『ふーん? まぁいいや。色々データも取れたし、今日のところはこれで満足しといてあげるよ』

 

 どこまでも上から目線のセリフに、周囲の目が怒りに染まる。

 そんな部下達に対し、イーサンは静かにしてろと目配せして会話を続ける。

 

「ところでミス篠ノ之、貴女のソレは分類的にISで良いのでしょうか?」

『おっと、紹介するのが遅れたね。この艦の名前は【吾輩は猫である(名前はデ・ダナン)】だよ。拠点兼研究所なのでこれからよろしく』

 

(艦長、敵艦は恐らくトランスポンダーのスイッチを入れました)

 

 ダニエルの耳打ちを聞いて、イーサンは目線をレーダーに向ける。

 今までunknown表記だった敵艦には、しっかりと名前が表記されていた。

 

『かくれんぼってさ、相手が弱いと退屈でしょ? だからハンデをあげるよ。ダナンの半径10キロまで近づけばこちらを認識できるようにしてあげる』 

 

 その言葉と共に、レーダーに映っていた敵艦の反応が消えた。

 現在、敵艦とカール・ヴィンソンの距離は10キロ以上離れている。

 恐らく、近づけばレーダーにまた敵艦の反応がでるのだろう。

 

『んじゃ、そんな訳で帰って伝えといてよ。“天災は海にいる”ってね』

「それは……ん? もう切れてるのか?」

 

 言いたいことを言って切られた受話器を、イーサンは寂しそうに見つめた。

 

「艦長、先程の天災の言葉は……」

「あん? んなもん、追って来いってことだろ」

「何故そのようなことを……」

「なんだ、わかんねぇのか?」

 

 受話器を握ってる時とはうって変わり、普段の粗い言葉使いになったイーサンは歯を見せて笑った。 

 

「つまり、見つけたら逃げずに相手してくれるってことだ」

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「はっはー! 特注魚雷を喰らいやがれッ!」

 

 敵艦の真後ろにピッタリと張り付いて魚雷を発射。

 だが、魚雷は敵艦には当たらなかった。

 

「敵艦の真下を素通りしてんじゃん!?」

「これでいーの。だって今回は殲滅が目的じゃないからね」

 

 散々水中を泳ぎ回って敵と俺を翻弄した束さんは、今度は一隻づつ敵を狙い始めた。

 恐るべきはデ・ダナンの機動力。

 相手って本当に軍艦? 

 第三者目線で見てると、軽いイジメだぞこれ。 

 まるで戦闘機VS気球船だもの。

 

「特殊魚雷【泡姫】、起動せよ!」

 

 ネーミングセンスはどうにかしろと言いたい。

 一体なぜそんな名前にしたのか。

 ん? なんだ? なにか白いモヤが大量に敵艦の真下に現れた。

 

「泡姫はね、言うならばシャボン玉製造機なんだよ」

「シャボン玉?」

「そうだよ。魚雷の中には特殊な薬品も仕込んであってね……あーなる」

 

 束さんが指差す先にあるのは、先程の白いモヤに包まれた敵艦。

 その敵艦が徐々に上昇し始めた。

 

「粘着性の泡に包まれたスライムBはこれで戦闘不能だね。泡だと思って馬鹿にしちゃダメだよ? 潜水艦だからあの程度で済んでるけど、普通の船ならひっくり返って終わりなんだから」

 

 確か、コードギアスで泡を使って船を沈めるシーンがあったな。

 ……泡姫こえぇぇぇ!!

 普通に怖い兵器じゃん!?

 てかスライムBって敵の名前か?

 可哀想な名前を付けてるんじゃない!

 

 ――誰か俺とツッコミ役変わってくれないかな?

 

「次行ってみよー」

 

 色々といっぱいいっぱいな俺を放置して、束さんは楽しそうに次の獲物を探し始めた。

 帰ってエロゲーしたいです。

 

「スライムC、君に決めた!」

 

 なら残りはスライムAか。

 早く仲間を呼んで合体しろ。

 それか逃げろ、超逃げろ。

 

「やっふっ―! 逃げろ逃げろ。抵抗しない敵などテスト相手にもならん! あ、もう追いついちゃった。んじゃ特殊魚雷其のニ【泡姫】発射!」

 

 ……へ?

 

「ついでにスライムAにも発射!」

 

 ……おい。

 

「魚雷の名前同じじゃね?」

「うん、ぶっちゃけ飽きました。データも取れたしもういいや」

 

 束さんは至極真面目な顔でそう言い放った。

 女心と秋の空って言うしな。

 アメリカのナイスガイなら笑って許してくれるよね?

 ――束さんに代わって謝ります。振り回してごめんなさい。

 

「あーあー。聞こえてるかな?」

 

 心の中で束さんに代わって謝罪していると、束さんが何やら喋り始めた。

 視線が正面を向いてるから、俺に向かってではない。

 

『聞こえています』

 

 声の主は少し前に聞いた艦長さんだ。

 お疲れ様です。

 

「さて、これにて試合終了ってことで良いかな? ちょっと物足りないから、束さんとしては軍用のISとも遊んでみたいんだけど……やる?」

『こちらのISは未完成品。ミス篠ノ之の相手をするにはまだまだ力不足ですので、遠慮させて頂きます』 

 

 俺が相手だったら絶対にイラっとするだろう発言を、艦長さんはさらっと受け流した。

 未成年の少女相手に心の広い人だ。

 

「ふーん? まぁいいや。色々データも取れたし、今日のところはこれで満足しといてあげるよ」

 

 そのくらいにしとこうな?

 横で聞いてる俺の胃がキリキリしてきたぞ。

 

『ところでミス篠ノ之、貴女のソレは分類的にISで良いのでしょうか?』

「おっと、紹介するのが遅れたね。この艦の名前は【吾輩は猫である(名前はデ・ダナン)】だよ。拠点兼研究所なのでこれからよろしく」

 

 束さん、それは質問に答えてる様で答えてないよ。

 なんかもう、ホントすみません。

 

「んじゃ、そんな訳で帰って伝えといてよ。“天災は海にいる”ってね」

『それは――』

 

 相手の言葉が急に途切れた。

 束さんは、言いたいことを言って通信を切ったのだろう。

 ――これでめんどくさいイベントは終わりでいいかな?

 

「戦闘モードを解除。ダナンを自動航行モードに移行。さーて、ダナンの問題点が色々見えたし、ちょっと頑張りますか」  

 

 束さんが腕まくりして気合を入れる。

 その横顔は凄く楽しそうな笑顔だ。

 よし、イベントパート終了でいいな。

 それではこれより日常ギャグパートに入ります。

 異論は聞きません。

 

「束さん」

「ん? ごめんしー君。見ての通り忙しいから遊んであげれないんだよ。帰りたいなら先に帰っていいよ。あ、でも帰る前にご飯作っといて」

 

 束さんの肩に背後から手を置くも、こちらも見向きもしない。

 忙しそうに手を動かすばかりだ。

 もう、束さんたらお茶目なんだから。

 

 ――謝る時はちゃんと目を見なきゃダメだろ?

 

「あいたたたたたッ!?」

 

 後ろからほっぺを捻り上げる。

 もちろん左右両方だ。

 

「あれ? もしかしてしー君怒ってる?」

「もしかしても怒ってるよ。なんでか知りたい? それは俺の頭や背中の痛みの原因がお前だからだよこの野郎」

「ちょっと話し合おうよい゛い゛ぃぃぃぃ!!」

 

 手加減は一切しない。

 親指と人差し指に力を込め、全力でちぎってやる。 

 

「引きちぎったほほ肉を生姜タレに漬け込んでじっくり炭火で焼いた後に、お前の口に詰め込んでやる」

「ハンニバルはいやだぁ!」

 

 束さんの声が鼻声に変わった。

 だがそうそう許さんぞ。

 俺が壁にぶつかるたびに笑いやがって。

 しかもご丁寧に流々武まで封印しやがって。

  

「反省してる?」

「してますしてます!」

 

 束さんの頭がわずかに揺れる。

 んー、そろそろいいか。

 

「んじゃまず、今回の件を説明してください」

「うぅ……私のほっぺが……。今回の件ってなんのこと?」

 

 涙目で自分のほほを摩りながら、束さんはやっと俺の方を見た。

 しかしここでおとぼけとは……。

 

「刺身の方がお好みですか?」

「すみませんでしたッ!」

 

 にっこり笑うと、束さんが椅子から降りて正座した。

 デ・ダナンの評価テストの為とはいえ、やることが過激だ。

 下手に敵対心を煽っても、それは箒の危険が増すだけ。

 なにか裏があるだろうと考えるのは当然である。

 束さんも逃げられないと思ったのか、ため息混じりで姿勢を正した。

 なので、俺は束さんの正面に座り聞く姿勢に入る。

 

「んで、今回の茶番の本当の理由は?」

「いやその、ダナンのテストの為ってのは本当だよ? 他にも目的はあったけど」

「わざわざ軍にケンカ売ってまでなにがしたかったのさ」

「ねえしー君。宇宙と海中って似てると思わない?」

 

 宇宙と海中か。

 語感が似てるとかじゃないよね。

 

「そんな難しい話しじゃないよ。宇宙で海中でも人間は生きれないでしょ?」

「それはそうですね」

「仮にさ、宇宙船に乗ってる状態で外に放り出されたらどうなる?」

「死にます」

「潜水艦から外に放り出されたら?」

「それも死にます」

 

 宇宙では真空。

 海中では水圧という敵がいる。

 人間はどう考えても生き残れない。

 

「まぁ気圧と水圧。戦う相手が違うけどね」

 

 そう言って、束さんはニヤリと笑った。

 まさか、そういうことか?

 

「私がこうして潜水艦で海を逃げ回ってると相手に伝えた。そして、こちらの船の性能を知った奴らは、このままでは捉えきれないと理解したはず。さぁしー君、もししー君が私を追いかける側ならこれからどうする?」

「高性能の潜水艦を作ります。できればISコアを用いて」

「高性能潜水艦を造る技術、それは宇宙船開発に応用できるだろう。もちろん全部が生かせる訳じゃない。けどさ、無駄な兵器開発に勤しんでもらうよりはマシでしょ?」

 

 パチンと可愛らしくウインクをして、束さんは話しを締めくくった。

 なんとまぁ、束さんにしてはまともな発想だ。

 自分を囮にして人知れず宇宙進出を促してるんだね。

 ちょっと感動した。

 

「見直したよ束さん。成長したね」

「ふっふっふっ。でしょ? もっと褒めていいんだよ?」

「最高! 可愛い! 素敵!」

「むふー」

 

 ご満悦だ。

 なにこれ可愛い。

 

「うんうん。誰も知らない間に暗躍するのもいいけど、私の偉業を知る人間もやっぱり必要だよね。しー君を無理矢理連れてきたかいがあったよ」

 

 そして自爆しやがった。

 

「束さんや、無理矢理とはなんのことだい?」

「あ、やべ」

 

 見つめ合う。

 

「――――」

「――――」

 

 見つめ合う。

 

「……てへ」

 

 舌をチロっと出して頭をコツンと叩く束さん萌え。

 でも、許すかどうかは別問題。

 

「俺さ、気絶した前後の記憶が曖昧なんだけど、何した?」

「お薬使っちゃった」

 

 そっか、お薬使っちゃったか。

 つまり計画的犯行ってことだな?

 

「さぁ、お仕置きの時間だ」

「いやぁぁぁ!!」

 

 逃げようとする束さんのウサ耳を掴んで逃走を阻止。

 『甘やかすな。つけ上がる』が佐藤家家訓なのだ。

 

「右腕部展開」

 

 左手でウサ耳を掴みつつ、流々武を右腕だけに装着する。

 

「流々武まで使うの!? それは洒落になってないんじゃいかな!?」

 

 だって洒落じゃないし。

 ウサ耳を掴まれた束さんは、解体前の野うさぎに等しい。

 

「お願いしー君。許して」

 

 うるうると、涙目+上目使いで束さんが見つめてくる。

 可愛い……。

 可愛いが、だ。

 ここで許してはダメだ。

 一度見逃してしまえば、これから先も拉致られる可能性がある。

 平穏な学生生活と、穏やかな週末を過ごす為にも許してはいけない。

 

「しー君……ダメ?」

 

 ぐっ……。

 思わず許してしまいそうになる。

 まぁでも、問答無用でお仕置きは確かにやりすぎかもだな。

 束さんにだって理由があるかも知れないし。 

 

「束さん、なんで拉致なんてしたの?」

「……だって、全然遊びに来てくれないんだもん」

「へ?」

「遊んでくれるって言ってたのに、週末になると一人でどこか行っちゃうし、一向にこっちに来てくれる気配ないし……」 

 

 唇を尖らせながら、束さんがそっぽを向く。

 そう言えば、たまに遊ぼう的な事は言った気がする。

 束さんのセリフだけ聞けば、俺が悪いのだろう。

 しかしだ、俺が最後に束さんと会ってからまだ一ヶ月も経ってないんだけど?

 寂しがり屋なお子様でもあるまいし、さすがにその程度の理由ではちょっと弱いよね。

“たまに遊ぶ”って言葉は、人によって意味合いが違うのかな? 

 個人的には月一くらいだと思うんだが……。

 

「しー君だけいっくんと楽しそうだし、つまんなかったんだもん」

 

 うーん、そう言われると許してあげたくなるな。

 でもなぁ。

 

「取り敢えず、お尻揉みしだくからこっちに尻向けろ」

「あっれ!? 私はいま殊勝なこと言ったよね!?」

「言ったね。でもせっかくセクハラできる機会だし、逃したくない」

「まさか自慢のパーフェクトボディ仇になるとは!」

 

 わたわたと逃げようとする束さんだが、機械仕掛けの耳をしっかりと掴まれてる為、逃げ出すこともできない。

 なにしろ、束さんが100%悪いというまたとない機会だ。

 逃すわけないね。

 

「待って! お願いだから待って!」

「何かお願い事があるなら、素直に正面からこい」

「仮に正面から『軍艦とドンパチしようぜ!』って言ったら来てくれた?」

「行かない」

「でしょ!? なら無理矢理もしょうがないじゃん!」

「色仕掛けとか泣き落としとか、色々あるだろ? 尻を揉まれる覚悟もないのに強攻策に出た束さんが悪い」

「色仕掛け……泣き落とし……はっ!」

 

 なにか思いついたのか、束さんの目が大きく開かれる。

 

「しー君、勝負しない?」

「勝負?」

「今からしー君に色仕掛けをするので、しー君を誑かすことができたら許してください!」

「ほう?」

 

 悪くない提案だ。

 起死回生の一手っといったところか。

 これは本当に悪くない。

 だって、どっちに転んでも俺得だもの。

 

「受けましょう」

 

 ウサ耳から手を離し、束さんを自由にする。

 

「ふっ。油断したねしー君」

 

 束さんが俺から距離を取り、ニヤリと笑った。

 

「私はずっとしー君を見ていた。そう……暇でなくても見ていた」

 

 そこは暇なときにしとけ。

 

「ぶっちゃけラジオ代わりと言っていい」

 

 ここまで愛がないストーカーが過去存在しただろうか?

 

「だから私は、しー君のことはなんでも知っている。もちろん弱点も――」

 

 背中におっぱいを押し付けられながら、耳元で可愛く甘えられたら俺は落ちると断言しよう。

 

「しー君以上にしー君を知る。そんな私が送る対しー君用必殺技――」

 

 はぁぁっと気合を入れながら、束さんがポーズをとる。

 

「必殺……TABANEだだっ子!」

 

 束さんが床に仰向けに寝転んだ。

 これは――まさか――

 

 

 

 

「やだやだやだ―!」

 

 じたばた

 

「遊んでくれないとやだ―!」

 

 どたばた

 

 

 

 

 だだっ子……だと!?

 

「遊んで遊んで遊んで―! しー君だけいっくんと遊んでず―る―い―!」

 

 転がりながらじたばた。

 

「なんで束さんだけ遊んでくれないの―!」

 

 うつ伏せでどたばた。

 

 手足をばたつかせる様はまさにだだっ子!

 まさかこんな必殺技があるとは!?

 

「うぐ……遊べよぉ……もっとかまえよぉ……」

 

 ……そうだよな。

 束さんは例えるなら一人暮らしを始めたばかりの女子大生。

 心細くなる時もあるよな――って危ねぇ!?

 想定外のインパクトに流されるとこだったぜ。

 俺がこの程度の――

 

「ひっく……なんで遊んでくれないの?」

 

 この程度――

 

「ぐしゅ……しー君は束さんのこと……嫌いなの?」

「よーしよしよし!」

 

 気がついたらうつ伏せ状態の束さんの側に腰を下ろし、その頭を撫でていた。

 催眠術だとか色仕掛けとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

 

「ごめんね。寂しかったんだよね。俺が悪かった。ISで遊びに行くのが楽しくて、ちょっと束さんを蔑ろにしすぎたね」 

「……じゃあ、たまに遊んでくれる?」

「遊ぶ遊ぶ」

「……どれくらい?」

「あ―……二週間に一回……」

「うぅ……」

「週一で!」

「えへへ」

 

 勢いに任せて約束しちゃったけど、仕方ないよね。

 お仕置きだとかセクハラだとか、そんなもんはどうでもいい。

 守りたいこの笑顔!

 

「ほら、服が汚れるから立って。そんで――」

 

 色々騒いで喉渇いたし、胃も空っぽだ。

 

「取り敢えず、ご飯でも食べに行こ? ね?」

「……うん!」

 

 にぱ顔が尊い!

 可愛いなもう!

 

 束さんの小さなガッツポーズは、見てないことにしました。


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