俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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なんでこうも執筆が遅いのか……。



織斑一夏の名推理

 最近、神一郎さんの様子がおかしい。

 

 まず、遊びに誘っても断られることが多くなった。

 何をしているのかは知らないが、週末の誘いはほぼ断られる。

 期待していたゴールデンウィークも、神一郎さんは“親戚の家に遊びに行く”と言って音信不通になった。

 不満……ではないと思う。

 そう、これは……。

 

「シン兄が相手をしてくれなくて寂しいってこと?」

「ぐっ……」

 

 鈴の身も蓋もない言い方に思わず言葉を詰まらせる。

 違う、違うんだリン。

 そんな子供っぽい理由じゃないからな!

 

「ふふっ」

 

 駅前にある喫茶店のテラス。

 俺と向き合って座る鈴が、俺の顔を見ながら楽しそうにストローを咥える。

 さては変な勘違いしてるな?

 

「鈴、俺が言いたいことはそんなことじゃなくて、“神一郎さんが変わった”ってことだ」

「一夏はそういうけど、あたしから見れば何が変わったのかさっぱりなんだけど?」

 

 神一郎さんのことを知る友人として鈴を喫茶店に誘ったのだが、どうも人選を間違えたようだ。

 鈴は春休み以前の神一郎さんを知らないし、無理もないか。

 こんな時、箒が居てくれれば……。

 

「一夏? 今、他の女のこと考えたわね?」

「え? なんでわかるんだ?」

 

 考えてる事をピタリと当てられ驚くと、鈴は何故か怒った顔になった。

 なんでだ?

 

「はぁ―。もういいわ。一夏にそんな気遣いは無理だって理解してるし」

 

 そして盛大なため息をつかれた。

 お茶に誘った時はニコニコしてたのに、なんでこうも表情が一転するのか……わからん。

 

「ねぇ一夏。つまり、前までのシン兄はもっと付き合いが良かったってこと?」

「そうそう。そんで色々とイベント立てたり、遊びに連れてってくれたりしてさ」

「ん~。別にケンカして怒らせたって訳でもないのよね?」

「それはないな。学校帰りのスーパーのタイムセールへの誘いや、ちょっとした道草は断られないし、嫌われてるってことはないと思う」

「あんたらは学校帰りになにしてんのよ」

 

 いやだって、夕方のタイムセールは惣菜が安かったりするし、小学生には狙い目なんだよ。

 千冬姉が就職してから家で使用する食材の消費が少なくなったから、下手に作るより割安になった惣菜の方が安かったりするし。

 

「それと鈴。おかしいのは神一郎さんだけじゃないんだ」

「だけじゃないって、他にもいるの?」

「あぁ、千冬姉もおかしいんだ」

「千冬さんも?」

「実は、千冬姉にも神一郎さんのこと相談したんだ」

「それで?」

「“ほっとけ”って。神一郎にも都合があるんだろうって……」

 

 神一郎さんの話題を出すと、千冬姉の様子もおかしくなる。

 気まずい空気が流れ――そして、千冬姉は早々に会話を打ち切ろうとするのだ。

 これは絶対おかしい。

 

「あのね一夏。あたし、一夏の言う千冬さんとシン兄の関係も知らないんだけど? 二人は仲良かったの?」

 

 そうだった……。

 箒が居れば絶対に同意してくれるのに! って痛いッ!

 

「一夏? 目の前に女の子が居る時に、別の女のことを考えない。覚えておきなさい」

 

 俺の脛を蹴り上げた鈴がジロリと俺を睨む。

 なんかよくわからんが素直に頷くのが吉と見た。

 

「りょ、了解」

「よろしい」

 

 満足気に微笑む鈴が怖い。

 っていかんいかん。

 話しがズレてる。

 

「話しを戻すけど、神一郎さんと千冬姉はなにかを隠してると思うんだ」

 

 二人が変になったのは、恐らく三月あたりからだ。

 箒の引越しが決まり、神一郎さんは音信不通。

 俺は神一郎さんの事を気にしながらも、箒との思い出を沢山作るために遊びまわった。

 そして春休みが終わり、今現在。

 久しぶりに会った神一郎さんを家に誘うも、色々と理由をつけ断られ、千冬姉は束さんや神一郎さんの話題を一切出さなくなった。

 なにか隠してると考えてしまうのも仕方がないことだと思う。

 

「隠し事ね~。何か心当たりでもあるの?」

「ある」

「あるんだ」

 

 俺だって今まで何も考えななかった訳じゃない。

 色々考えてたのさ。

 

「前に千冬姉に会っただろ? 正直な印象ってどうだった?」

 

 つい先日、鈴が家に遊びに来た。

 丁度千冬姉が休日だったので、二人は顔を合わせたのだが――

 

「千冬さんの印象? そうね……美人、寡黙、それと……」

 

 鈴が言葉を濁らせながら俺の顔色を伺う。

 

「それと?」

「その……ちょっと怖かったわ……」

 

 リンが申し訳なさそうにそう呟く。

 正直言って、鈴がそう思ってしまうのも仕方がないことだ。

 だって、鈴と会った時の千冬姉があきらかに態度が変だったからな。

 今でも思い出す二人の初めての顔合わせ。

 千冬姉は何故か無言で鈴を見つめ、見つめられた鈴は緊張から固くなって黙ってしまうとういう、なんとも言えない空気が辺りを支配していたのだ。

 今思い出してもあれは酷かった。

 千冬姉は寡黙なところがあるとは言え、まさかのだんまりだったし。

 

「ま、まぁ千冬姉はちょっと人見知りの所があるからさ、あんまり気にしない方が良いって」

「そうなの? それなら良いんだけど……」

 

 鈴が珍しく弱気な顔を見せる。

 やっぱり友達の家族に歓迎されてない雰囲気を出されたら気になるよな。

 安心しろ鈴、あの時の千冬姉は弟の俺から見ても普通じゃなかったからさ。

 

「それで、千冬さんの様子がおかしいって言ってたけど、具体的には?」

「それなんだが、聞いて驚け。なんと――千冬姉が! 最近! 恋愛ドラマを見ているんだッ!!」

「恋愛ドラマをッ!?」

 

 やっぱり驚くよな!?

 俺だって驚いたもの。

 

「意外としか言えないわね。第一印象で言うのも悪いけど、とても恋愛ドラマに興味があるようには見えなかったわ」

「や、その印象は当たってる。千冬姉は最近までドラマとか興味なかったのは確かだ」

 

 もちろんバイトが忙しかったとか色々理由があるかもしれないが、たまの休みでも千冬姉は興味がある素振りを見せたことがなかった。

 今まで恋愛のレの字も興味なさそうだったのに、最近……いや、具体的には春先当たりから急に見始めたのだ。

 それを見て、俺は一つの確信を得た。

 

「いいか鈴。神一郎さんの態度が変わったのが新学期からだ」

「剣道の道場を辞めたり、付き合いが悪くなったって奴ね」

「そして千冬姉の様子がおかしくなったのは、三月頃からだ」

「それは恋愛ドラマを見るようになっただけ?」

「いや、付け加えるなら、神一郎さんの話題を避けるようになったこともだな」

「ふむふむ」

 

 鈴は俺が言いたい事を分かってくれただろうか?

 

「ねえ一夏」

「ん?」

「つまり、なんだって言うの?」

「鈴……意外と鈍いんだな」

 

 こういった話は女子の方が得意なはずなのに、鈴は全然理解してくれなかった。

 俺も恋愛話なんて無縁だけど、鈴ももう少し勉強した方がいいじゃない痛いッ!?

 

「アンタだけには言われたくないわよ!」

 

 鈴が俺の足を俺の足をグリグリと踏みつける。

 俺だけにはって……俺だって鈍い訳じゃないぞ?

 

「文句でもあるの?」

「――ナイデス」

 

 そう、俺は本当に鈍くない。

 女子が怒ってる時は無駄な抵抗はしない。

 そういった事はしっかり学んでいる。

 

「で? 一夏はなにが言いたいのよ」

「俺はな、『神一郎さんが千冬姉に告白して振られたのでは』と考えているんだ」

「……へ?」

 

 鈴がストローを咥えたまま固まってしまった。

 まぁそうだよな。

 驚くよな。

 最初、自分でもありえないと思ったさ。

 だけど、考えれば考えるほど自分の考えが正しいと思ってしまうんだ。

 

「――ふぅ」

 

 鈴がストローから口を離し、軽く息を吐いた。 

 

「一応確認するけど、シン兄と千冬さんって仲良かったの?」

「そうだな……」

 

 鈴は二人の関係をよく知らない。

 急には信じられないか。

 

「二人の仲の良さを分かりやすく説明すると……互いに蹴ったり叩いたりする仲?」

 

 印象深いのはやっぱりクリスマスの時の二人だな。

 千冬姉も神一郎さんも笑顔でやりあってたし。

 

「一夏、それは絶対に仲良くないと思う」

 

 鈴がジト目で俺を睨む。

 しまった。

 ちょっと言葉足らずだったか。

 

「えっと……そうだな、“ケンカするほど仲が良い”ってやつかな。鈴はさ、神一郎さんが女性のお尻を引っぱたいたことがあるって言ったら信じられるか?」

「シン兄が? 正直信じられないけど……。もしかして、シン兄って千冬さんの――」

 

 信じられないという表情の鈴に対し無言で頷くと、鈴は顔を青くしてしまった。

 どう見ても冗談が通じない風貌の千冬姉のお尻を、ノリと勢いだけで叩けるのは俺が知ってる限り神一郎さんくらいだ。

 

「叩いたって言っても、ちょっとした罰ゲームの結果だったんだけどさ、千冬姉と神一郎さんてそういった事ができる仲なんだよ」

 

 そうだ。

 千冬姉が俺に見せる顔と、神一郎さんに見せる顔は違う。

 神一郎さんに対して対等に接している感じがする。

 俺とたった一歳しか違わないのに、千冬姉は神一郎さんを一人前と認めているんだ。

 なんか悔しいな。

 

「一夏の言い分は理解したわ。とは言っても、わたしは去年の二人を知らないし、なんとも言えないんだけどね。それで、なんでそんな結論に至ったの?」

「神一郎さんは、三月の頭から一ヶ月学校を休んでいるんだ。更に、連絡付けようにも電話も出ない状態だった」

 

 事情があると言ってたけど、神一郎さんはどうにもはぐらかそうとするし、千冬姉はなにか知ってる様だったが教えてはくれなかった。 

 

「新学期が始まって姿を見せる様になったけど、道場を辞めたり付き合いが悪くなったりと、どう見ても不自然だ」

 

 道場を辞めた理由も、週末遊んでくれない理由も、本当のところは分かっていない。

 神一郎さんが目を泳がせながら本音を語ってくれないからだ。

 

「そして、千冬姉が恋愛ドラマを見るようになったのは三月当たりから。あ、ちなみに、見てたドラマは青年実業家と女子高生を題材にしてたのだった」

 

 まだ子供と言える高校生と、若いが成人している男性の恋愛模様を描いた、所謂年の差カップル物だ。

 

「ねえ一夏……」

 

 今まで黙って話しを聞いていた鈴が、口を開く。

 

「つまり……つまりね、アンタはこう言いたいの? シン兄は千冬さんに振られたショックで不登校になって道場を辞め、千冬さんはシン兄に対して後ろめたさがあるから話題を避けているって……」

「その通り。付け加えると、千冬姉が恋愛ドラマを見始めたのは恋愛勉強の一貫だと思うんだ」

 

 今まで浮いた話がない千冬姉は、間違いなく恋愛初心者。

 年の差などを気にしてつい振ってしまたけど、それを気にして――

 とか、そんな裏事情があるんじゃないかな?

 

「ちょっと待ちなさいよ。それ、本気で言ってるの?」

「なら聞くが、鈴は俺の話しを聞いて他に何か思いつくか?」

「うっ……そう言われると……」

 

 俺の言い分には納得できないが、他に思いつくこともないみたいだ。

 鈴が腕を組みながら唇を尖らせた。

 そんなに意外な話しかな? 弟の俺から見ても千冬姉は美人だし、神一郎さんはしっかり者だ。

 結構お似合いだと思うんだけど。

 

「そんなわけで鈴、千冬姉と神一郎さんの仲を取り持つ為に俺に協力してくれないか?」

「協力? 一夏は二人をくっつけたいの?」

「なんで意外そうな顔? あのな鈴、家族って……減るんだよ」

「……うん」

 

 鈴は俺に両親が居ないことを知っている。

 だからだぶん、千冬姉を神一郎さんに取られていいのか、なんて心配をしてるんだと思う。

 確かに千冬姉が誰かと付き合い始めたら少し寂しいかもしれない。

 だけどさ――

 

「家族は減る。離婚だったり、死んだり、色々な理由で離れる。だけど鈴――家族って、増やすこともできるだろ?」

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 ――小学生女子とのデートは犯罪ですか?

 ――いいえ、小学生同士ならセーフです。

 

 いやはや、小学生ボディはめんどくさい時もあるが、こういった場合は本当に都合がいいな。

 

 ん? どんな場合だって?

 

「シン兄お待たせ!」

 

 小五ロリとデートする場合だよ。

 

「可愛いじゃん」

「そ、そう?」

 

 照れくさそうに頬を掻くリンは、短パンのホットスパッツにTシャツと、動きやすや重視の格好をしている。

 むき出しの太ももと、シャツの隙間から見える鎖骨が健康的なエロスを生み出している。

 生前なら通報間違いない。

 俺は悟ったね、小五ロリは良いものだと――

 もちろんタッチはしません。

 紳士のお約束は絶対です。

 

「今日は急な呼び出しでごめんシン兄。助かったわ」

「俺も買い物したかったし、気にするな」

「でも何か用事があったんでしょ? 良かったの?」

「大した用じゃないから大丈夫」

 

 今日は日曜日。

 本来なら流々武でお出かけしてるが、リンからのお誘いとあっては仕方がない。

 束さんには昨日顔を見せたし、問題なく遊べるってもんだ。

 

「それで、本当に一夏が来るのか?」

「間違いないわ。一夏は夏服を買いに駅前のデパートに行くって言ってた。シン兄も見逃さないように注意して」

 

 そう言ってリンが周囲をキョロキョロと見回す。

 一夏のいち早く会いたいんだろうけど、そこまで俺に興味無い風だとお兄さん寂しい……。

 

 さて、俺とリンは何をしてるかというとだ、簡単に言えば待ち伏せである。

 一夏が買い物をしに現れると知ったリンは、出掛け先で偶然を装って合流する気なのだ。

 俺はリンがさり気なく一夏と買い物を出来る様に手助けする役だ。

 リンを応援しないと言ったが、これくらいならいいだろう。

 俺など介さず一人で会えばとも思うが、そこは男では計り知れない乙女心。

 リンはツンデレだしな。

 

「――いた」

 

 リンが注視する先に俺も視線を向けると、遠くから一夏が歩いて来るのが見えた。

 休日の駅前という人が多いこの状況、この距離で見つけるとは流石は恋する乙女。

 乙女と書いてハンターと読む! ってか。

 ただまぁ……余計なオマケが付いてるんだよね。

 

「リンってさ、千冬さんと会ったことある?」

「……一回だけ」

 

 一夏の隣を歩く千冬さんを見て、リンが気まずそう表情を見せる。

 うーむ、リンにしては珍しい反応だ。

 そう言えば、原作でもリンは千冬さんを苦手にしてたっけ?

 千冬さんは無愛想だし、口数が少ない。

 小学生が苦手意識を持ちやすいタイプだ。

 だからなのかな?

 

 お、一夏と目が会った。

 

「神一郎さんッ! 奇遇ですねッ!」

 

 そして何故か嬉しそうに俺の元に駆け寄って来る。

 えっ、なんで俺?

 俺より先にリンに挨拶しろよ。

 そんなんだからホモォォを疑われるんだぞ。

 

「ぐ、偶然ね一夏」

「そ、そうだな。偶然だな鈴」

 

 そして何故かリンとは余所余所しいし。

 なんで意識しあってるの?

 まさか俺が知らないとこでラブコメしてないだろうな?

 健全なラブコメなら許すが、エロコメならお兄さんは許しません。

 小学生にはまだ早いッ!

 

「……久しぶりだな、神一郎」

「……お久しぶりです」

 

 ま、俺も人のこと言えないんだけどね。

 一夏とリンの横で、俺と千冬さんもぎこちなく挨拶する。

 

 正直、これはちょっと予想外な出会いだ。

 忘れていけないのは、俺と千冬さんの関係だ。

 俺と千冬さんは、昔の様な関係ではない。

 仲違いしていると周囲に思わせなければいけない。

 周囲に人の目がある以上、受け答えには気を付けなければ!

 

「休日も弟にべったりですか、相変わらずのブラコンぶりですね。就職したんですよね? そろそろ友達でも作ってその人と買い物したらどうです?」

「私の友人問題に口出しされる筋合いはない。お前こそぶらぶらしている暇があるなら家で勉強でもしていろ。お前がいると面倒だ」

 

 (訳):相変わらず姉弟で仲が良いですね。おっと、そういえば言い忘れてました。就職おめでとうございます。職場はどんな感じですか? 千冬さんは人付き合いが苦手そうだから心配です。

 

 (訳):私は仕事とプライベートは分ける派だ。しかし何故お前が此処に居る? 暇なら束の相手をしててくれ。その方が面倒事が起きなくて助かる。

 

 きっと、素の会話だったらこんな感じだったと思う。

 

「……」

「……」

 

 気まずい沈黙が訪れる。

 軽いジャブのつもりが、これってガチで殴り合ってないか!?

 いやだって、俺は千冬さんと会うつもりはなかったんだよ。

 平日は学校、夕方からは自宅に引きこもってゲーム&ISの勉強、週末はISで海外か日本の観光地。

 意図的に会う気がなければ、出会うことはなかったはずなのだ。

 しかし俺もそうだけど、千冬さんもワザと相手を邪険にするのは苦手の様だ。

 千冬さんは目力が強いんだから、無表情で言葉少なめに対応してればそれだけで解決するんだよ! なんで気合入れてんの!?

 

「ち、千冬姉?」

 

 一夏が凄く驚いた顔してる。

 これはマズイ! 

 周囲から険悪に目られるのは問題ないが、さすがに一夏の目の前で必要以上に険悪なムードを見せつける訳にはいかない。

 別に一夏を悲しませたい訳じゃないからな!

 

 (千冬さん!)

 (了解だ!)

 

「ご、ごほん。それにしてもホント久しぶりですね」

「そ、そうだな。久しぶりだ」

 

 一瞬のアイコンタクトの後、俺と千冬さんは出会い頭の挨拶をなかった事にした。

 ここからは勢いで乗り切る!

 

「俺は夏服を買いに来て偶然リンと出会ってさ。一夏も買い物?」

「え? あ、はい」

「なら一緒に行こうか。リンもいいだろ?」

「え? う、うん」

「――行くぞ」

 

 俺が話しをまとめると同時に千冬さんが颯爽と歩き出す。

 その姿を見て一夏とリンは慌てて後を追う。

 一応なんとかなかったか?

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「千冬さん、たまには赤とかどうです?」

「私が望むのは、安くて丈夫で動きやすい黒か紺だ」 

「さすげなく色以外の要望も入りましたね。ならこれは――」

 

 駅前デパートの服売り場。

 並ぶ服を見ながら、千冬さんと当たり障りのない会話を続ける。

 平和的だと思うだろ? ところがぎっちょん!

 

 ジー

 

 俺と千冬さんの背中に当たる視線が痛い!

 見てる……一夏とリンがめっちゃ見てる。

 

「一夏とリンは買いたい服は見つかった?」

「いえ」

「まだよ」

 

 振り返り声を掛けるも、二人は服そっちのけで俺と千冬さんを見ている。

 やっぱり最初の対応が間違いだったな。

 一夏から見れば、姉と友人が急に険悪になったと見えただろうし、仕方ないか。

 リンは……なんで見てるんだろ?

 こっちを見てる暇があるなら一夏を見てろよ。

 

 (一夏、あのね。――――)

 (そうだな。そうするか)

 

 声こそ聞こえないが、リンが一夏の耳元に顔を寄せなにやら内緒話をしている。

 

「シン兄、わたしと一夏は別で服を見てきても良いかしら?」

「……ん?」

「それじゃあ後で合流しましょう。行くわよ一夏」

「ちょっ、引っ張るなよ鈴」

「あ、おい。一夏」

 

 呼び止める千冬さんを無視して、二人が人ごみに溶けていった。

 

 なして? なして俺と千冬さんを二人っきりにするん? 

 リンはそんなに一夏と二人になりたいの?

 一夏は今の状態の俺達を放置して心配じゃないの?

 分からん。

 一夏達の考えがさっぱり分からん。

 

 急な展開について行けず思わず固まってしまう。

 すると俺の耳にため息が聞こえた。

 我に返り音の元へと視線を向けると、千冬さんが険しい顔で周囲を見回していた。

 

「来い」

 

 千冬さんがそう言って歩き出す。

 大人しく着いて行くと、千冬さんはフロアの端で歩みを止めた。

 着いた場所はフロア端にある階段だ。

 ここからでも上下のフロアに移動可能だが、大抵の人が中央のエスカレーターやエレベーターを使う為、周囲は非常に閑散としていた。

 千冬さんは近くの壁に背中を預け、腕組をしたまま視線を床に向けた。

 

「神一郎、顔を下げながら私の隣に立て。できるだけ顔色が読まれないよう注意しろ」

 

 千冬さんの視線は相分からず俺の方を向いていない。

 ――もしかして、監視されてる?

 千冬さんは束さんの友人として要注意人物だ。

 監視の目があっても不思議ではない。

 事情を察した俺は大人しく千冬さんと同じ様に壁に寄りかかる。

 

「やっぱり俺と千冬さんが接触したのが悪かったんですかね?」

 

 出来るだけ顔を下げ、唇の動きや表情が周囲に見えない様に話しかける。

 しかしとんだ休日になってしまったな。

 これからどう動くか、そこが悩みどころだ。

 

「ん? 私達を見ているのは一夏達だぞ?」

「……一夏とリンが隠れてこちらを見てるんですか?」

「そうだ」

 

 一夏達の考えがまるで理解できない!

 子供心は理解がある方だとは思っていたが、これは無理だ。

 なに、アイツら姿隠してこっち見てんの? なにしたいの?

 

「今のところ国の監視などはないが人の目がある。暫らくこの状態で時間を潰さないか?」

「了解です」

 

 顔を下げて床を見つつ、俺はそう答えた。

 今の状況、第三者視点で見れば、ケンカして互いの顔が見れない姉弟に見えるだろう。

 千冬さんは一夏の遊びに付き合うつもりらしいし、俺も二人が飽きるまで付き合ってやるか。

 あ、そうだ。

 

「すみません千冬さん」

「――なんの謝罪だ」

「いや、周囲に千冬さんと不仲に見せたいのって、完璧に俺の我が儘じゃないですか。それなのに付き合わせちゃってすみません」

 

 別に、千冬さんが俺の芝居に無理して付き合う必要はないのだ。

 にも関わらず、こうして俺に気を使って――

 

「気にするな。最近、私としてもお前と親しいと面倒だと考え始めたところだ」

 

 ――くれたわけでもないらしい。

 

「もし、万が一にでも、お前がIS適合者だとバレたら、私は相当めんどくさい事になる」

 

 あぁ、うん。

 ただでさえ束さんの友人として目をつけられてるし、そこに俺も加わったら面倒だよね。

 知らぬ存ぜぬじゃ逃げられないだろうし、仮に俺が逃げたら、匿ってるのでは疑われるのは必至。

 そりゃ距離取りたくなるよね。

 

「そんな理由で、私としても問題ない」

 

 千冬さんが小さく苦笑した。

 束さんを含め、面倒な友達ですみません。

 

「それとな神一郎」

「はい」

「たぶんだが、私は一夏の考えてることが分かるぞ」

「え?」

 

 俺にはさっぱりだが、千冬さんには思い当たる何かがあるらしい。

 

「なに、一夏視点で見れば簡単なことだ。今日の私達はさすがに不自然だっただろ?」

「ですね」

「おそらく、一夏は私とお前がケンカしてると思っているはずだ」

「それはまぁ、そう周りに見せたいのでそういう演技してましたし」

 

 やり過ぎた感があるのが問題なんだよな。

 なにしろ、出会い頭で互いに右ストレートを放ったようなもんだ。

 必要以上に一夏が気にしてなければいいんだが。

 

「しかしケンカの理由が分からない一夏は、取り敢えず私達を二人きりにして様子を見るつもりじゃないか?」

「姉と先輩のケンカじゃ口出ししづらい……ですか」

 

 うーむ、一利あるとは思う。

 一夏ならその辺の空気を読まずに顔をつっこみそうな気もするが……他の理由は思いつかないし、千冬さんの言う通りのなんだろう。

 

「ほっとけば仲直りするのでは、なんて思ってるんですかね?」

「そんな感じだろ」

 

 客観的に見ても、俺と千冬さんがケンカしてもねちねちと長引くはずもない。

 二人きりで放置しとけば勝手に仲直りしてそうだもんな。

 

「なに、飽きたら戻ってくるだろう。それでだ神一郎、最近どうだ?」

「また会話ベタなお父さんみたいなセリフを――」

 

 とんと成長しない会話の切り口に、今度は俺が苦笑する。

 あ、千冬さんが不貞腐れてる気配を感じる。

 顔は上げれないが、それくらいなら分かるぞ。

 

「最近は週末に流々武で海外旅行に行くのが日課ですね。とは言っても時間が限られてるのでアジア圏内ですが」

「ほう? 随分と楽しそうじゃないか」

 

 今度は声が硬い。

 羨ましいのか? 小学生が羨ましいのか社会人め!?

 

「それと束さんに薬で眠らされて拉致られたり、本物の軍隊とドンパチするのに巻き込まれたりしてました」

「ほ、ほう?」

 

 もし羨ましいと言ってみろ。

 全力で束さんをけしかけてやるからな!?

 小学生だって楽じゃないんだよ。

 

「話しは変わるが、柳韻先生や箒はどうなった?」

「ざっくり変えましたね。束さんに会いたいなら手引きしますよ?」

「いらん。いいから答えろ」

「柳韻先生と雪子さんは元気でやってます。箒は一人で寂しがってますが、なんとか束さんと和解できて嬉しそうでした」

「――そうか」

 

 今度の千冬さんの声は嬉しそうだ。

 顔を見ないでの会話でも、意外と感情がわかるもんなんだな。

 

「俺からも質問いいですか?」

「構わん」

「んじゃ遠慮なく。リンが千冬さんを怖がってる様でしたけど、なにかしました?」

「凰が? ふむ……心当たりはあるな」

 

 まさかの心当たりある発言が出た。

 千冬さんって、自分が子供に苦手意識を持たれやすいって知ってたんだ。

 いつも態度が変わらないから、知らないと思ってたのに。

 

「先日、凰が遊びに来たんだが、アイツはどう見ても一夏が好きだろ?」

 

 千冬さんにも一発で勘破されたのか。

 これで当人の一夏が気づかないから不思議なんだよなぁ。

 

「凰には悪いが、箒の気持ちを知ってる私としては歓迎できなくてな。つい、威嚇を――」

 

 お前小学生相手に何してんのッ!?

 

 思わず顔を上げそうになるのをグッと堪え、俺は心の中で盛大につっこんだ。。

 小学生の恋愛にしゃしゃり出るとか、いくらブラコンでもそれはダメだろ!?

 

「――なにか不快な事を考えてないか?」

「気のせいです。しかし威嚇とは穏やかじゃないですね」

「大人気ないとは思ったが、箒の気持ちを知ってるからどうにも、な。逆に聞くが、お前は随分と凰の事を気に入っていないか?」

 

 箒の気持ちを知っていて、更に箒に対し負い目がある千冬さんが、箒以外の女の子を認められないって心情は理解できる。

 俺だって原作知識がなきゃ同じだったかも知れないな。

 

「リンは一夏にとって大事な友達です。俺は積極的に応援はしませんが、邪魔するつもりもありません。それに、余計なお世話をしなければ、二人が付き合うなんて事にはなりませんよ」

 

 さり気なく未来の情報を流してみる。

 千冬さんならこれで気付いてくれるだろう。

 

「……お前が言うなら信じよう。だが、やはり私は凰の事を簡単には受け入れられない」

 

 千冬さんはわずかな間を持たせた後にそう答えた。

 きっと俺の考えが通じたのだろう。

 しかしまぁ随分と義理堅いな。

 リンを受け入れる事は箒への裏切り。

 そんな堅苦しいこと考えてそうだ。

 

「無理して仲良くしろなんて言いません。ただ、大人らしく一歩引いて見守ってやってください。自分に非がないのに好きな男の子の家族に嫌われるなんて、それは流石に可哀想です」

「別に嫌ってるわけではない。が、言いたいことは理解した。これからは善処しよう」

 

 時々だけど、千冬さんは束さん並にめんどくさい子だと思う時がある。

 似たもの友達だよね。

 

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 久しぶりの顔合わせは最悪だった。

 出会ってすぐに険悪な雰囲気を醸し出した千冬姉と神一郎さんは、俺と鈴の視線に気付いて慌てて態度を変えた。

 

 デパートに移動してからは、千冬姉と神一郎さんはこちらを気にしながらも表面上は普段通りにしていた。

 正直、それで誤魔化してるつもりかと問いただしたくなる。

 

「鈴、自分の目で見た感想は?」

「あきらかに様子がおかしいわね。それにやたらと私達を気にしながら会話してるし」

 

 隣を歩く鈴が相槌を打つ。

 やっぱり俺が思った通りかもしれないな。

 千冬姉と神一郎さんには、俺が知らない間に何かあったに違いない!

 

「一夏とリンは買いたい服は見つかった?」

「いえ」

「まだよ」

 

 神一郎さんが苦笑いしながら千冬姉との会話に戻る。

 二人の様子を見ていると、疑惑がますます大きくなる。

 しかし、どう切り出したらいいのか分からない。

 直接『神一郎さんって千冬姉が好きなの?』なんて聞けないし――

 

「一夏、あのね。シン兄と千冬さん、さっきからたまに目線で会話してるのよ。二人とも私達が居ない場所で会話したいんじゃない?」

 

 鈴が耳元でそう呟く。

 言われてみれば、神一郎さんと千冬姉は時々互の顔色を伺っているように見える。

 

「そうだな。そうするか」

 

 さっきの険悪な雰囲気を思い出すと、二人きりにするのは少し心配だけど、ここは鈴の作戦に乗るか。

 

「シン兄、わたしと一夏は別で服を見てきても良いかしら?」

「……ん?」

「それじゃあ後で合流しましょう。行くわよ一夏」

「ちょっ、引っ張るなよ鈴」

「あ、おい。一夏」

 

 こうと決めたら鈴の行動は早い。

 俺の腕を掴むと、呆ける神一郎さんと目を開いて驚いている千冬姉を放置して、どんどん進んで行く。

 

「よし、この辺でいいわね」

 

 角を曲がり、並ぶ服に身を隠しながら鈴が俺の手を離した。

 服の隙間から千冬姉達が見えた。

 距離にしたら30メートル程かな。

 

「ちょっと強引過ぎたんじゃないか?」

「何言ってんのよ。あそこは強引に行かないとダメよ。って顔が近いッ!」

「良く見えないんだから仕方ないだろ」

 

 千冬姉の姿が見れる隙間を二人で覗くと、鈴と頬が当たりそうになる。

 さすがに頬をくっつけ合いながらは恥ずかしいのか、顔を赤くした鈴が俺を押し出そうとする。

 そんな様子を周囲の大人がクスクスと笑いながら見ていた。

 ぐっ、まるでデパートでかくれんぼしてるみたいで、今更ながらちょっと恥ずかしいな。

 

「千冬さん達が移動したわよ」

「分かってる」

 

 周囲の視線から逃げる様に俺達もこそこそと後を追う。

 服やマネキンに隠れながら移動し、千冬姉が止まったのを見て俺達も動きを止めた。

 二人は階段そばの壁に寄りかかったまま動かない。

 

「一夏、あれってどう思う?」

「どうって言われてもな。あれ、会話してるのか?」

 

 千冬姉と神一郎さんの間には人一人分程の距離があった。

 二人とも床を見つめたた微動だにしない。

 

「もう少し近づいてみるか」

「そうね」

 

 姿勢を低くし、静かに近付く。

 

「なにか……話してるみたいだ」

「そうなの?」

 

 徐々に二人の顔が見え始めると、わずかに口が動いてるのが確認できた。

 鈴はまだ見えない様なので、注意しながら更に近付く。

 

「本当だ、何か話はしてるわね」

 

 鈴も確認できた所で、俺達は動くのを止めた。

 

「声は――聞こえないか」

 

 さすがに距離があるので、会話まで聞こえない。

 しかし、これ以上は隠れる場所がないので近付く事もできない。

 ここが限界か。

 千冬姉も神一郎さんも、今も床を見つめたまま会話をしている。

 普段の千冬姉なら、顔も見ないで会話なんてありえない。

 

 ――千冬さん、考え直してくれませんか。

 ――その話は終わったはずだ。

 ――でも俺、まだ千冬さんのことが……。

 ――お前は弟の様にしか思っていない。前にもそう言っただろ。

 

「鈴、なにしてんの?」

「アフレコよ」

 

 近くに居るのに声が聞こえないから暇なんだろう。

 隣で会話を捏造する鈴が、舌を出しておどけてみせた。

 鈴はよく大人ぶるけど、たまに子供っぽいんだよな。 

  

「それで一夏、これからどうするの?」

「それは……」

 

 

 

 

 ――どうしよう。

 

 

「考えてないのね?」

「ごめん……」

 

 せめて会話が聞こえればなにかやりようがあると思うんだ。

 ケンカしてるにしたって、理由が分かれば間を取り持ったりできる。

 けど、今の状況じゃ見てるしかないんだよなぁ。

 

「ま、仕方がないわね、もう少し様子をみましょうか」

 

 様子を見るのは構わない。

 それは本当に構わないんだけど……。

 

「あの、鈴さん?」

「なに?」

「近くないですか?」

 

 隠れてるからしょうがないんだけど、鈴があまりにも近い。

 鈴の二の腕がピッタリと俺の腕にくっついてるし、顔の距離も近い。

 この状況でじっとしてるのどうかと思うんだ。

 

「なに一夏、もしかして意識してるの?」

 

 鈴の目がおもちゃを見つけた猫の様に輝く。

 これは嫌な予感――

 

「え? なに? もしかして照れてるの?」

 

 ニヤニヤと笑いながら鈴が更に密着してくる。

 これはあれだ。

 完璧にからかいモードだ。

 しかも、捨て身だ。

 

「鈴、恥ずかしいなら無理するなよ。顔赤いぞ」

「べ、別に恥ずかしがってないわよ!」

 

 顔の赤みを指摘すると、鈴が慌てて俺から距離を取った。

 まったく、女の子が自分の体を使って友達をいじるのは良くない事だ。

 

「それとな鈴」

「な、なによ」

「大声出すと、隠れてる事がバレるし、周囲から見られるぞ」

 

 鈴がはっとした顔になり、慌てて周囲を見回す。

 周囲は人が少ないだけで無人ではないのだ。

 こそこそ隠れてた上に鈴が大声を出すもんだら、周囲の大人が微笑ましく俺達を見ていた。

 これはもう隠れてる場合じゃないな。

 

「取り敢えず千冬姉達に合流しないか?」

「……そうね」

 

 こんなに目立っては千冬姉にバレるのは時間の問題。

 仕方なく俺と鈴は隠れるのをやめて、千冬姉と神一郎さんに近づいた。

 

「お待たせ千冬姉」

 

 出来るだけ自然に声を掛けると、千冬姉と神一郎さんが同時に顔を上げた。

 

「戻ったか。買い物はもういいのか?」

 

 千冬姉が俺と鈴の手元を笑いながら見ている。

 あ、買い物してくるって言ったのに手ぶらだ俺達。

 

「えっと、やっぱり四人で買い物したいなぁ~って、せっかくだし、千冬姉に服選んでもらいたいと思ってさ!」

「あ、あたしもシン兄に服を選んでもらいたくて!」

『ほ~う?』

 

 とっさに言い訳する俺と鈴に対し、千冬姉と神一郎さんから冷たい視線が向けられる。

 これ、隠れて見てたのバレてそうだな。

 

「――まぁいい。まだ買い物を続けるなら付き合おう」

「リンの服を選ぶのも面白そうだし、俺もまだ付き合います」

 

 誤魔化せた……のかな?

 千冬姉に嘘や誤魔化しが通じるとは思わないけど――

 

「それにしてもよく俺と千冬さんがこんな場所に居ると分かったな。もしかして姉を愛する力かな」

「気配を読んだんだろ」

 

 千冬姉、俺は気配なんて読めないよ。

 それにしても、この泳がされてる感はなんだろう。

 見逃されながらも、チクチクと責めてくるのが怖い。

 てか千冬姉と神一郎さんはケンカ中じゃなかったっけ?

 仲直りしたのかな。

 

「気配とか非科学的で馬鹿な事を。良い年して恥ずかしくないんですか? 厨二かよ」

「なんだ、お前は気配も読めないのか? 日本男児として鍛え方が足りん」

 

 してない。

 仲直りはまだしてない。

 でもどう介入すればいいのか分からない。

 ……下手に手を出すのは怖いし、もう暫らく放置でいいか。

 

「さ、改めて服を見に行くわよシン兄!」

 

 リンが神一郎さんの腕を掴み歩き出す。

 その後ろを千冬姉が続いた。

 慌てなくてもまだチャンスは有るはず。

 そうだ! 買い物が終わったらご飯を食べに行こう!

 美味しい食事は心を豊かにするってテレビでも言ってたし、四人で会話してる内に和やかになるかもしれないよな!

 

「置いていくわよ一夏!」

「あ、待ってくれよ鈴――ッ!?」

 

 鈴の呼び声に慌てて足を動かしたら、足がもつれて転びかける。

 

「あ」

 

 世界がスロモーションになった。

 

 ――目の前に千冬姉の背中が見える。

 ――俺の右手がその背中をゆっくりと押す。

 ――背中を押された千冬姉が、前に倒れそうになる。

 ――千冬姉の奥で、驚いた顔の神一郎さんが千冬姉を受け止めようと右手を差し出すのが見えた。

 

 

 

 

 むにゅ

 

 

 

 

 スローモーションどころか、時間が止まった。

 

「シ、シン兄?」

 

 鈴が青い顔をしながら神一郎さんの顔色を伺う。

 訂正。

 世界は残酷なまでに動いているようだ。

 

「ごめん神一郎さん! だいじょう……ぶ?」

 

 体勢を立て直して慌てて駆け寄ると、千冬姉の胸を鷲掴みしたまま微動だにしない神一郎さんがいた。

 

「ち、ちが……わざとじゃ……わざとじゃないんだ……ッ!!」

「落ち着け神一郎! 大丈夫だ、私は分かっている。これは事故だ。そうだろ?」

 

 神一郎さんが汗を流しながらブツブツと呟き、胸を掴まれた千冬姉が神一郎さんを宥めるという不思議な光景だ。

 これはいったい……。

 

「まずは手を離せ。いいか? ゆっくりと手を離すんだ」

「は、はい」

 

 神一郎さんが胸からゆっくりと手を離す。

 余程怖いのか、顔に油汗が浮かび体が小刻みに震えている。

 これは事故なんだし、いくら千冬姉でもそこまで怒らないと思うけど――

 

 

 Prrrrrr

 

 

「ヒッ!?」

 

 携帯の着信音が聞こえ、それに対して神一郎さんが短い悲鳴を上げた。

 なにをそんなに怖がって……ってなんで俺に?

 

 神一郎さんが取り出した携帯電話を俺に渡してきた。

 でろってことかな?

 ちょっと怖いけど――

 

「(ガクブル)」

 

 神一郎さんの様子が尋常じゃないので、ここは素直に引き受けよう。

 表示は不通知。

 怪しさ満点だけど、俺は意を決して通話ボタンを押した。

 

「――――オマエヲコロス」

 

 ヒィィ!?

 

 受話器の向こうから男とも女ともとれない底冷えする声が聞こえた。

 盗み聞きしようと俺に顔を寄せていた鈴も驚いて後ずさっている。

 いったいなんだってんだよ!?

 

「千冬さん、ハンカチ持ってたりします?」

「あるぞ」

「……貰っていいですか?」

「使え」

 

 千冬姉が取り出したハンカチを神一郎さんが震える手で受け取る。

 未だに顔色が悪く、額には汗が浮かんでいた。

 それにしても今の日本語おかしかったような……。

 

「どうした一夏。凄い汗じゃないか」

「へ?」

 

 神一郎さんが千冬姉のハンカチで俺の顔をゴシゴシと拭いてくる。

 

「ちょっ神一郎さん! 俺より自分の顔を拭いた方が――」

「動くな一夏」

 

 神一郎さんが真剣な表情で俺の汗をハンカチで拭う。

 嗅ぎ慣れた柔軟剤の匂いが鼻につき、周囲に人居るからか無性に恥ずかしい。

 なんでこんな事に!?

 

「これで良し」

 

 そう言って神一郎さんはハンカチをズボンのポケットに入れた。

 洗って返すってことかな?

 どうせ洗濯するのは俺だし、気にしなくてもいいのに。

 

「俺さ、用事が有るの忘れたから、今日のところは失礼して良いかな?」

「それは別に構わないけど……シン兄、顔色が悪いけど大丈夫なの?」

「大丈夫だ。それより本当にごめんな。お詫びに今度リンの全身コーディネートをさせてくれ」

 

 心配そうに見つめる鈴の頭を神一郎さんが優しく撫でる。

 

「一夏も悪いな。この埋め合わせはまた今度するから」

「はい、次はご飯でも食べましょう」

 

 今回の買い物作戦ではこれと言って収穫はなかった。

 分かった事は、神一郎さんと千冬姉の間に何かがあったってことだけだ。

 でも、今の神一郎さんを引き止めることは出来ない。

 引き止める理由が思い浮かばないし、なにより引き止めるなと俺の第六感が囁いている。 

 

 

「それじゃこれで」

「――神一郎」

 

 歩き出す神一郎さんの背中に千冬姉が声を掛ける。

 

「――死ぬなよ」

「(グッ)」

 

 神一郎さんは振り向かずに、親指を立てて去って行った。

 

 今のやり取りはなに?

 ケンカしてたんじゃないの?

 神一郎さんは何に怯えていたの?

 千冬姉は事故とはいえ胸を触られても何で平気な顔してるの?

 

 ダメだ。

 分からない事、知りたい事が多すぎる。

 今日はグダグダで終わってしまったが、俺は諦めないぞ!

 

「鈴、今度また協力してくれないか?」

「それってまたデーおほんっ! 別にいいわよ!」

 

 ん? 今なにか言いかけたか? 

 まあいい、鈴の協力があればまたいつでも集まれるに違いない!

 

「随分楽しそうだな一夏。まずはお前が隠れて覗き見してた理由を聞こうか」

 

 肩に置かれた千冬姉の手は、結構な力が入っていました。

 




し「束さん遊びに来たよ~」
た「いらっしゃいしー君。義手の準備は出来てるからそこの椅子に座って待ってて(にっこり)」
し「あの、別に義手とは求めてないのですが……」
た「え? 麻酔無しでいいの? 流石はちーちゃんのおっぱいを鷲掴みにするしー君。根性あるね(にぱー)」
し「この【一夏の汗付き千冬さんのハンカチ】で勘弁してください!(土下座)」
た「手の薄皮剥ぐくらいで許してやんよ(クンカクンカ)」

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