俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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ここ数日でラノベ換算で20巻以上の活字を読んだ。
面白い小説は時間を忘れさせるよね。
そんで、自分の小説と比べてしまって心が折れそうになるんだ(泣)

この小説おもしれーやめられねー! から、俺の文才ってと凹むまでがワンセット。


モンド・グロッソ前

 

 モンド・グロッソ前日、いや、日付が変わったから当日か。

 俺は一人でアルバイトに勤しんでいた。

 

 チクチク チクチク

 

 篠ノ之束の寝室ってどんな風景を想像する?

 パソコンとケーブルに溢れた部屋? うん、実家の部屋はそうだった。

 しかし、デ・ダナンにある束さんの寝室は違う。

 

 チクチク チクチク

 

 広さ8畳の畳部屋。

 そこが束さんのプライベートルームだ。

 設備はトイレとシャワールームに小さい冷蔵庫。

 部屋の中央にはちゃぶ台がある。

 ここまでは普通だろ。

 

 チクチク チクチク

 

 問題は壁紙とラックだ。

 天井は千冬さんの写真。

 二面ある壁は、右に箒で左が一夏の写真だ。

 入口から正面の壁は、五人で撮った集合写真だ。 

 はい、そこにだけ俺は映っています。

 

 チクチク チクチク

 

 ラックには数々のコレクションが並んでいる。

 箒と一夏の成長写真集に千冬さんの盗撮写真。

 アルバムには番号が振られ、それらがずっしりだ。

 パソコンで画像を集めてると思いきや、写真などは物理が好きらしい。

 

 チクチク チクチク

 

 ちなみに現在、俺が作業してる場所が束さんの私室だ。

 束さん? 束なら俺の後ろで寝てるよ。

 

『続きまして白虎の方角! 今大会のダークホースと言えるでしょう! 現役自衛官などの優勝候補を切り伏せて勝ち上がってきた美しき獣、織斑千冬の入場だぁぁぁ~!』

 

 針仕事をしながら、録画しておいたISの日本代表戦の映像を暇つぶしに眺める。

 

『織斑選手は大会の出場者の中でも珍しくこれといった経歴を持たない選手ですが、情報によれば篠ノ之流と言う剣術を習ってたとの事です!』

『篠ノ之流は古武術のひとつで、神事とも密接している流派らしいですね。しかも珍しい事に女性の為の武術だとか。いやはや、表に出ない強者とはいるもんですね』

 

 千冬さんの簡易プロフィールが流れる。

 表に出ない強者って言うか、まんま裏の人間だけどね。

 生まれ的に。

 

『しかし驚きですね。織斑選手は飛び道具などは一切使わないスタイル。まさか剣術家がこうも勝ち続けるとは』

『日本人として、日本の武術はまだ死んでないと知れて嬉しい限りです』

 

 正直なところ、日本代表戦はイマイチだ。

 自分がIS慣れして、前世のアニメの思い出があるせいか、全体的に盛り上がりに欠けている。

 ビームなどの特殊兵装もないし、試合によっては中距離での撃ち合いだけって場合もあった。

 平成ライダーからライダー好きになり、いざ昭和のライダーを視聴した時に受け入れられない人が居るらしい。

 派手なCGに慣れてしまうと、昔の特撮は退屈に感じてしまうとか。

 俺の場合も似たようなものだ。

 二次移行した機体や、単一仕様能力持ちの機体が増えれば変わるだろうけど、現状は退屈の一言。

 千冬さんの強さを知ってるので、頑張れと応援する気にもなれない。

 そんなこんなで、世間が盛り上げる中、俺は一人冷静だった。

 

 当時もビール片手にボケっと千冬さんの活躍を眺めていた。

 一夏から教育費の話しを聞く数日前の話だ。

 

 ――今思うと凄く惜しい。

 アングラの賭博場でダークホースである千冬さんに賭けとけば、慌てる必要がなかったのになぁ……。

 

 

 チクチク プツン

 最後に糸を切る。 

 

 縫い終わった抱き枕の完成度をチェック。

 縫い目が多少荒いのは素人なので仕方がない。

 絵柄は学校で隠し撮りした体操着姿の一夏。

 中身はもちろん一夏の使用済みタオルだ。

 お値段、一つ5万円。

 世も末である。

 しかしあれだな。

 アイドルの使用済みタオルとかハンカチを仕込んだ抱き枕を作ったら、オークションで荒稼ぎできそうだな。

 

 流々武 ステルス 完全犯罪 くっ頭が!

 

 まぁやりませんけど?

 織斑家の洗濯物とか容易に取れるな、とか考えても流石に自重してます。 

 後ろを振り向くと、そこには今までに作った抱き枕が山になっている。

 さて、出来上がった抱き枕をそこにシュート。

 

 ポスっと音を立てて抱き枕が落下する。

 

「――ん」

 

 抱き枕の山の下から声が聞こえた。

 えぇ、束さんが寝てますけどなにか?

 千冬さんと一夏と箒の絵がプリントされた抱き枕の山の下で幸せそうに寝てます。

 

『決まったぁぁぁ! 織斑の一閃ッ! 勝者は、織斑千冬だぁぁぁぁ!』

 

 はいはいお見事お見事。

 やっぱり仕事中はこれくらいの動画がいいよね。

 まったく興味がなければ眠くなるし、面白過ぎれば手が止まってしまう。

 千冬さんの戦いはその点素晴らしい。

 安心して見てられる。

 

 出来上がった抱き枕はこれで7つ目。

 金額にして35万。

 なかなかの稼ぎだ。

 時刻は深夜の三時。

 もういっちょ――

 

『束ぇぇぇ!!』

 

 ふあ!?

 

「ふあ!?」

 

 千冬さんの怒鳴り声!?

 何事!?

 って束さんも飛び起きてる。

 

「んー? あ、朝か」

 

 束さんがもぞもぞと抱き枕の山から這い出てくる。

 

「おはよ、しー君」

「おはようございます?」

 

 束さんが寝たのは深夜0時。

 現在は三時。

 三時間睡眠の超健康生活ですね。

 

「今の千冬さんの声はなんだったんです?」

「目覚まし時計の代わり。一発で起きるでしょ?」

「ばっちり起きれますね」

 

 千冬さんの怒鳴り声ならどんな眠りの中でも一発だ。

  

「お、新しいのが出来てる。んむ、グットスメル」

 

 出来上がったばかりの一夏の抱き枕をハスハス。

 変態が雇い主とは苦労するぜ。

 

「んじゃ取り敢えず入金しとくね」

「どうもです」

 

 そして変態に限って財力が高いのは良く聞く話。

 

「んじゃしー君、朝ご飯よろしく」

「はいはい、その前にシャワー浴びてきてください。あっさりとこってりどちらで?」

「もっさりで!」

 

 ふえるワカメでも出せばいいかな?

 

 

 

 

 

 束さんの部屋から食堂に場所を移す。

 この場所はなぜが広い。

 自分の記憶の中で一番近いのは学生寮の食堂かな?

 調理場にはIHコンロが4つもあるし、長机がいくつも並んでいる。

 俺と束さんしかいないのに不思議なんだよね。

 理由を聞いても教えてくれないし。 

 まぁそれはそれとして――

 

 今日の朝ご飯はサンドイッチ。

 もっさりレタスとチーズ、ハムでボリュームたっぷりだ。

 

「んぐんぐ」

「美味しいですか?」

「もっさりレタスが良い感じ」

「しー君は食べないの?」

「俺の体内時計では深夜なので遠慮しときます。それに、今は食べれる体勢ではないので」

「それもそうだね」

 

 もうそろそろ寝るしね。

 それにしても四肢がプルプルするぅー。

 

「あんまり揺れないでよ。食べづらいじゃん」

「すみません」

 

 手足に力を入れて束さんの体重と戦う。

 巨乳とハリのあるお尻は、体重という犠牲を払っているのだよ!

 

 佐藤神一郎、小学生六年生。

 現在、デ・ダナンで椅子やってます!

 

 求)束さんの椅子

 出)10分一万円

 

 飛びつかないはずがない。

 椅子役するだけで時給6万とか正気の沙汰じゃねぇ!

 ついでに束さんのお尻が背中に当たってグッド!!

 開始15分で限界きてるけどね!

 なんで日本代表戦をぼやっと見てただけなんだ俺のバカヤロー!

 

 筋肉の神よ、天災の生贄となった荒ぶる戦乙女よ、我に力をッ――!!

 

「なんとなくだけどさ、馬鹿な事を考えてるよね?」

 

 ふざけてないと力尽きそうなんです!

 目指せ20分!

 

「うりうり」

 

 束さんがお尻を動かして背中に力を掛けてくる。

 おいよせよ、背中に柔らかいモノが擦りつけられてたまんないじゃないか。

 

「うぐぐぐぐ……」

「粘るね。そんなにお金欲しいの?」

 

 欲しいです。

 モンド・グロッソまでに出来るだけ稼がないとね。

 元手を稼ぎたいのだよ。

 それに、苦労して稼いだ身銭なら大事に出来るから!

 こんな日常の延長でおこづかいくれる束さんはホンマ天使やで!

 

 人間椅子になるのが日常の延長とか少し疑問が残るが、そこは次元の向こうに投げておく。

 

「ご馳走様でした。食後のブレイクタイムするのでしー君はそのままで」

「お粗末様。了解です」

 

 俺を椅子にしながら、束さんが足を組む。

 食後の情報収集かね?

 お忙しい事で。

 

「むむ?」

 

 束さんの雰囲気が変わる。

 これは嫌な予感がしますな。

 

「ちーちゃんが体を売った? ほぉー? 面白い事を言うじゃないか」

 

 日本代表戦で見事に優勝した千冬さんだが、実はアンチがいる。

 まぁアンチと騒ぎ立てる程でもないが、なにしろ人の顔が見えないネット上の話だ。

 

 織斑とか知らないんだけど、なにこれヤラセ?

 素人がプロに勝てるのはマンガの中だけ。

 そもそもどんなコネ使ってISに乗ったのかね? 情報出てたけど、親が金持ちとか実績があるプロとかじゃないじゃん。

 専用機は体で買った。

 

 等々、心無い書き込みをする人間が少なからずいる。

 

「しー君! “うっふんのポーズ”」

 

 束さんが俺から降りたので立ち上がる。

 両手を頭の後ろ。

 お腹を前に出し、腹筋に力を入れて、はい、うっふんのポーズ!

 

「ちーちゃんがウリとかする訳ないだろがッ!!」

「ありがとうございます!」

 

 お腹への一撃で膝が崩れ落ちる。

 

「一発一万で良いんだよね?」

「は、はい」

 

 パンチ一発で一万円とか美味しすぎてやめられねぇ!

 

「ふう、すっきり。ありがとしー君」

「お、お安い御用です」

 

 ピクピクとお腹を押さえて倒れる俺に、束さんの慈愛が篭った視線が向けられる。

 この程度でお金が貰えるならいくらでもやりますとも!

 

「悪意ある発言はケンカを売るに等しい。ネットだから身バレしないとか甘えた事考えてないよね? お前達はちーちゃんの悪口を言った。それすなわち、親友の私にケンカを売ったと同じ。って事でウイルスをプレゼント。クズにパソコンは必要ないよね?」

 

 クスクスと笑いながら束さんが手を動かす。

 自業自得だ。

 ネットでの書き込みは注意しましょう。

 身バレしないと調子に乗ると、手痛いしっぺ返しに合います。

   

「あ、椅子役途中でやめさせちゃってごめんね。サービスで20分やった事にしとくから」

「あざます!」

 

 15分で3万円ゲト!

 両手足の筋肉と腹筋が悲鳴を上げてるけど、稼ぎとしては上場です。

 

「イモムシかな?」

 

 失礼な。

 床に這いつくばってっからって虫じゃねーぞ?

 

「ねえしー君、今更だけど、なんでこんな真似してお金稼いでるの? 他にも手はあるじゃん」

「身一つだとこれくらいしか出来ないんですよ」

「情けないなー」

 

 ほっとけ。

 そりゃあね、ISを使って悪事を働ければいくらでも稼げるさ。

 なんせ流々武は姿を消せるから、強盗だって楽勝だ。

 でもそれって犯罪じゃん?

 自慢じゃないが、流々武を使って女湯を覗き放題だなとか考えても、実行した事は一度もない。

 温泉街の上を飛ぶとき、毎回紳士力を試されてるけどね!

 未来知識を使うなら、ラノベのパクリって手もある。

 ラノベの設定とキャラ、ストーリーをパクって書けば、本物には劣るけど6.7割りの完成度で書けるんじゃないかと思う。

 そしたらほら、天才小学生ラノベ作家とか言われてちやほやされるかもしれないし?

 まぁ、んな事はオタクとして矜持があるからしないけど。

 生前に学んだ事を活かす――

 

 英検準二級で稼げる方法があるなら俺が知りたいわッ!

 せいぜい一夏の家庭教師役?

 千冬さんならちゃんと給料を払ってくれそうだけど、束さんのサンドバック役より稼ぎ低いだろうなぁ。 

 他には……沈没船を探したりとか?

 せっかく高性能潜水艦に居るんだし、トレジャーハンターの真似事も有り。

 だけど、それもまた違うと思う。

 夢を求めて知識と熱意で宝を求めるならともかく、金欲しさに機械の力でお手軽ってダメだよね?

 インディー・ジョーンズのラストで、汗と泥まみれのジョーンズが宝を取ろうと手を伸ばした瞬間、壁を突き破ってISが現れて宝を横から取ってったら興醒めだろ?

 財宝を狙って許されるのは夢追い人と考古学者だけだと思う。

 

「結局の所、体張るのが一番楽なんですよ」

「なんかこう、私が想像してたの違う状況なんだよね。これって私はしー君に優しくできてるの?」

 

 束さんが俺を見下ろしながら首を傾げる。

 

「俺には十分ありがたいですが?」

「それは分かるけど……うーむ……」

 

 何を考えてるのか、束さんは顎に手を当てて考え込む。

 なんだろう? もっと甘やかしてくれるのかな?

 でもこれ以上の待遇を求めるのは束さんに悪いよね。

 

「気にしないでください。俺は助かってますから」

「それならいいんだけど……今のしー君見てると蹴りたくなります」

 

 イモムシ体勢が嗜虐心を誘うとか?

 しょうがねーなー。

 

「一万円カモン!」

 

 お尻を上げて蹴りやすくする。

 おいでませ一万円!

 

「しゃーおらッ!」

 

 スパンと快音が鳴る。

 こんなんでお金貰えるとか、本当にありがたい。

 

「まぁしー君が喜んでるなら結果オーライだね」

 

 言い方によっては蹴られて喜んでるぽいな。

 俺はいたってノーマルです。

 

「お? 侵入者だ」

 

 束さんの周囲にカメラの映像らしきものが投影される。

 

「秘密基地が見つけられたんですか?」

「みたいだね。えっと、場所はアメリカで難易度Cか」

 

 はて? 難易度Cとはいったい?

 

「せっかくだし観戦しようか。モンド・グロッソの開始時間までまだ時間があるし」

「その前に説明プリーズ。難易度って何? そんな設定ありました?」

「実はあったのです。と言うか、設定しました。簡単に言うとね――」

 

 

 難易度S 強襲揚陸潜水艦デ・ダナン 

      

 ご存知、篠ノ之束の本拠地。攻略に成功すれば天災の知識を得られるだろう。しかし覚悟せよ、一歩でも踏み入れれば天災は全力で敵を排除する。

 

 

 難易度A 迷宮型の秘密基地

 

 無人兵器、致死性のトラップが多数存在する。世界に数箇所存在してるらしいが詳細は不明。攻略にはISが必須。挑む前に遺書を書くレベル。運が良ければISコアをゲットできるかも?

 

 

 難易度B 要塞型秘密基地

 

 山奥にポツンと存在する屋敷タイプの秘密基地。外観は古い普通の屋敷だが、中身はビックリ屋敷。押しつぶそうと落ちてくる天井、壁から槍、通路の奥から弓矢。そんな古風な罠の数々が侵入者を襲う。奥に眠る研究資料は人類の何歩も先を行く。ISに関する技術が欲しければ狙うべし。

 

 

 難易度C 一軒家型の秘密基地

 

 見かけは郊外にある無人の家。罠は有るが殺傷能力は低い。問題はどこかに存在する研究室への扉を発見できるかどうか。トイレの中、台所の床下収納棚の更に下、クローゼットの壁の奥など探して頑張って見つけよう! むしろ家を見つけるのが大変かも。街中でウサ耳美少女を見つけたらチャンス!

 

 

 難易度D 大自然の一部を利用した秘密基地

 

 洞窟の穴、滝の裏、大木の上のツリーハウス、世界中に点在する秘密基地。罠等は一切なく難易度も低いが、その為実りもほとんどない。運が良ければ他の秘密基地の場所が分かるかも? 初心者はここから挑もう!

 

 

「って感じかな」

 

 知らないうちに秘密基地に変な設定が付け加えられてた。

 え? これ原作通り? それともオリジナル設定? 俺には分からん!

 

「なんでそんな設定を?」

「何事もモチベーションって必要でしょ? ただ秘密基地を作るのもつまんないし、こうした遊び心も大事なんだよ」

 

 言わんとする事は理解出来る。

 実際、秘密基地を作るにしてもその方が面白そうだ。

 難易度A、B以外はね!

 

「ちなみに難易度Aはまだ存在してません」

「すでに説明文から矛盾してるんですが」

「秘密基地制作は私の中では優先順位が低いからね。今のところ、Bが1箇所、Cが3箇所、Dが4箇所だけ存在してます」

 

 ほうほう、意外と作ってるじゃん。

 

「そんなこんなで、特殊部隊の皆様が現場に到着しました。はい拍手」

「やんややんやー」

 

 画面の向こうはハリウッド映画さながらだ。

 

 場所は不明だが、大きな庭付きの一軒家を多くの人間が取り囲んでいた。

 道路には装甲車が停まり、空にはヘリが飛んでいる。

 秘密基地を囲う兵士は、全員黒ずくめで顔を隠し、ゴーグルを装着している。

 ザ・特殊部隊って感じで格好良いなおい。 

 

「家の中にはカメラが多数あるからね。休憩ついでに楽しもうよ」

「ちょっとコーラとポップコーン取ってくる」

「なんだかんだでノリが良いね。落ち着いて見るなら部屋の方がいいか。先に戻ってるから早く来てね」

 

 だって凄く面白そうだもん。

 難易度Cなら安心して見れそうだし。

 

「了解。すぐに準備します」

 

 お盆にコーラとポップコーンを乗せ、先に食堂を出た束さんの後を追う。

 

「おまたせ」

「ナイスタイミング。突入10秒前だよ」

 

 束さんの部屋に戻り、ちゃぶ台の上にお盆を置く。

 拡張領域から座布団を取り出して床に。

 これで準備は完璧だ。

 

『こちらD班、配置に着きました』

『C班、裏口に到着』

 

 玄関と裏口の画像が空中に投影される。

 音声まで拾ってくれてるとはサービスがいいな。

 

『突入しろ』

 

 隊長らしき声が聞こえ、正面玄関と裏口のドアから兵士が突入した。

 

「映像を室内に切り替えるね」

 

 画面が切り替わり、玄関付近の映像が出た。

 ドアが開き、兵士が侵入してくる。

 おぉ、ハンドサイン。

 生ハンドサイン格好良い!

 最初に突入してきた4人、銃を構え警戒しながら扇形に広がる。

 正面に見える階段や、左右を警戒しながら進む姿はまさに映画そのもだ。

 四人が安全を確認したのを見計らい、更に4人が侵入してきた。 

 

『正面玄関クリア』

『A班は一階部分を調べろ。B班は二階へ』

『A班了解』

『B班了解』

 

 A班と呼ばれた4人は最初に侵入した人達らしい。

 玄関前にある階段を無視し一階の探索に向かう。

 A班の後ろから来たB班は階段に上げっていく。

 

「ここからが注目だよ」

 

 束さんがもしゃもしゃとポップコーンを食べながら笑う。

 空中に投影されてる画像は三つ。

 

 一階を探索中のA班

 二階に向かうB班

 裏口から突入してきた、こちらはたぶんC班だろう。

 全12人が篠ノ之束に挑みます!

 

 なお、他の兵士さん達は家を取り囲んだり、出入り口で待機したりと色々です。

 

「真ん中の映像に注目」

 

 真ん中は階段を上っているB班か。

 上からの奇襲を警戒しつつ、慎重に――

 

 ガタンッ(段差がなくなる音)

 

「ぶふぁっ!?」

 

 思わずコーラを吹き出した。

 四人が滑り台を滑るかの様に階段を滑っていくんだもん。

 罠ってそういうの!?

 

 階段を滑り落ちたB班は無言で立ち上がったが、どこか呆然としているように見える。

 そりゃそーだ。

 

 視線を他の侵入者に向ける。

 

『全員伏せろッ!』

 

 A班は食器棚を開けると、中の食器が飛んでくる罠に引っかかっていた。

 

『こちらC班! 援護を求む!』

 

 裏口から侵入したC班は、壁に引っ付いて離れられない様だ。

 壁に強力磁石が仕込まれてるのかな?

 

 なるほど、つまり……

 

 ホームアローンだコレッ!?

 

 殺傷力はないが精神を削る罠の数々。

 束さんはトラップの才能も天災的だった。

 

 A班、冷蔵庫を開けたら腐った食べ物っぽい汚物がショットガンの様に飛び散る罠の餌食に。

 

 B班、段差が無くなった階段を慎重に上るも、上から液体(たぶん油?)が落ちてきて最初からやり直し。

 

 C班、後ろから来た仲間に救助され磁石エリアをクリア。近くの部屋を調べようと中に入ると、四人が部屋に入った瞬間に部屋の花瓶やタンスが爆発。仕込んであったと思われるねっちょりとした液体まみれに。

 

 D班、C班を助ける為に追加で投入された人達。C班と違う部屋に入ろうとするが、ドアノブの表面に細工がしてあったらしく、先頭の人がドアノブから手を剥がせなくなる。なんとか部屋に入るも、部屋の中の調度品は一度触るとくっつく仕様で難儀している。

 

 

 これは酷い。

 

「難易度Cは遊びみたいなもんだからね。高難易度に挑む前に頑張って罠に慣れて欲しいです」

「誰目線? 確かに笑えるけどさ、あれって本気になったら……」

「階段は滑り落ちたらそのまま落とし穴にどぼん。冷蔵庫開けたら硫酸が飛び散り、左右の磁石に引っ付いたらそのまま壁が動いてぺしゃんこ」

 

 難易度Aでも束さんには全力で心を折る方向でいってもらおう。

 絶対に、だ。

 

「んで束さん、あの家って何処かに秘密の部屋でもあるの?」

「あの秘密基地の攻略法は簡単だよ? チャイムを鳴らすだけ」

「チャイム?」

「うん、ピンポーンって。そうすると玄関の床がせり上がって研究室の入口が正面に見える」

 

 つまり、あの家は地下に秘密の部屋があるタイプか。

 しかも玄関の真下に。

 最終的には見つかるだろうけど、全てを知った時の彼等の心情はいったい……。

 

「乙女の家に勝手に入るからそうなるんだよ。チャイムを鳴らすのは常識だよね?」

「ですね」

 

 確かに常識だ。

 うん、不法侵入だもん仕方がないね! 

 なんもかんも無断で家に入る人間が悪い!

 例え束さんが密入国して不法に家を改造したとしても! 

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「面白かった?」

「楽しませてもらいました」

 

 悔しいけど楽しかったです。

 

 秘密基地の周辺は現在阿鼻叫喚。

 

 接着剤か何かで体中に下着を着けられた人が居たり、全身から光を発する人が居たりと不思議人間が右往左往している。

 極めつけはBGMだ。

 建物二階にある寝室のテレビには、近付くと自動的に電源が入る仕掛けがしてあった。

 映り出されたのはポルノ。

 所謂、AVだ。

 本場アメリカンのエロ動画が大音量で流れ始めた時の兵士達の慌てっぷりは凄かった。

 普通に外まで音漏れしてたからね。

 どういう訳かコンセントを抜いても映像は止まらず、画面を割っても音声だけ流れる鬼使用でした。 

 

 他人事だから普通に笑ったっての!

 

「最後は力技でしたね」

「まぁそうなるよね」

 

 先行した人達がトラップを解除――もとい、引っ掛かって無効化した後、センサー的な機械を担いだ人達が壁や床を調べた。

 それで玄関の床下に何かあると気付いた様だが、そこでまさかの掘削機が登場だ。

 必死に床を掘ってる人達に、“インターホン鳴らせば解決ですよ”って教えたい衝動にかられたよ。

 

「そうだ、しー君もお手伝いする? 攻略難易度Aの作成、報酬は300万」

「下手したら俺が仕掛けた罠で人が死ぬんでしょ? お断りします」

「お金より命を取るの? 甘っちょろいね」

「人を殺してへこむ俺をネチネチと苛める束さんの姿が想像出来るので」

「悔しいが否定は出来ないッ!!」

 

 だろ? 笑いながら俺を責める束さん顔が容易に想像できるもん。

 それに罠ってのがよくない。

 気付いた時には人が死んでいるってのは罪悪感が湧きにくい。

 俺は、“悪いのは俺じゃない!”とか叫ぶ痛い人になりたくないし。

 

「でも大丈夫だと思うよ? 難易度Aの秘密基地はISの投入を前提にするから、素人のしー君が仕掛けた罠じゃ相手を傷付けるのは難しいしだろうし」

「ぶっちゃけ嫌がらせの罠とかなら興味ある」

 

 侵入者の心を折るのとかちょっと楽しそうだよね!

 子供の時さ、ホームアローンを見ながら“俺ならこうする”なんて考えたことなかった?

 俺はある。

 子供の頃の妄想が叶うと思うと、少しワクワクするね。 

 

「それとさ、穴掘り係が欲しいんだよね。暗い穴の底で土と戯れながら侵入者を撃退する罠をネチネチ考えようぜ!」

「正直楽しそうなので乗らせてもらいます」

 

 流々武のスコップで穴を掘りつつ、相手が嫌がる罠を考える。

 目指せトラップマスターだな!

 バイトとして悪くないです。

 

「さてさて、良い感じで時間も潰れたし、丁度良い頃合かな」

 

 時計を見ると、モンド・グロッソまで後三時間。

 ギャク映画を随分と楽しませてもらいました。

 そろそろ動く頃合だ。

 あーあ、まさかの完徹だよ。 

 しょうがない、束さんのホームアローンモドキが面白かったから良しとしよう。

 

「しー君、私にお願いでもあるんじゃないの?」

 

 俺、そんなに分かりやすい顔してます?

 してるんだろうなー。 

 

「お願いしても?」

「内容次第かな。取り敢えず言ってみて」

 

 ここからが稼ぎの本番。

 珍しく優しい束さんの助力を得られれば、俺の生活は当分の間は安泰!

 

「まず一つ、掛金の大きい非合法賭博で賭けをしたいのでご協力お願いします」

「モンド・グロッソを対象にした賭けだね? ちーちゃんに全掛け?」

「もちろん。俺は千冬さんの勝利を確信してますので」

「いいよ。探してあげる」

 

 俺というイレギュラーの存在があるため、この世界は原作とは違う世界になるだろう。

 転生者のせいで流れが狂うとかよくある話だ。

 だがしかし! リアルチートの千冬さんが負けるのは有り得ない!

 それこそ全財産賭けてもいいね。

 

「もう一つ、ネット上でお店を開きたいのでその協力も」

「お店? なにか売るの?」

「千冬さんの写真です」

「むむ?」

 

 束さんの眉が中心に寄る。

 なにか嫌なのか?

 

「ダメなんですか? 前に俺がフリーマーケットで売った時は文句言いませんでしたよね?」

「あれ地元じゃん。学生時代からの根っからのちーちゃんファンだからいいけど、ちーちゃんの事を知りもしないのにモンド・グロッソで活躍したからって写真を求めるミーハーはちょっと」

 

 めんどくさ!?

 ガチ千冬さんファンめんどくさ!!

 

 いいんだよミーハーで。

 むしろミーハーが狙い目だんだよ。

 そういった、テレビに影響されて流されてしまう相手だから稼げるんじゃん。

 しかし、ネット上で写真を売って金を稼ぐなら束さんの協力が必要だ。

 なにせ今はネット上での売買は珍しい部類。

 ケータイ払いも電子通貨もないのだ、商売するにもひと苦労するだろう。

 千冬さんの写真を売るにしても、カード決算が主になる。

 束さんの手を借りなければロクな商売が出来ない。

 うーむ、どうしたもんか。

 

「まーでも、しー君の頼みならしょうがないか」

 

 お?

 

「ミーハー共にちーちゃんの写真を売るのは気に食わないけど」

 

 まさか?

 

「しー君の生活がかかってるだもん。大目に見てあげるよ」

 

 束さんの優しさが天元突破してる件。

 まじかよ、普段ならここで俺が説得と言う名の口八丁でどうにか頑張るパターンなのに、束さんが自ら引いて協力する姿勢を見せるとは。

 優しさに泣きそうだ。

 

「ありがとう束さん」

「私なりの償いだから気にしないでよ」

 

 訳アリの優しさでも嬉しいのさ。

 さて、千冬さんに賭ける為にも元手を出来るだけ増やさないと。

 

「取り敢えず束さん、何かして欲しいことある?」

「パンツ一丁で街中ダッシュ」

「おい」

「うそうそ。今は特に手伝いはいらないんだよね。私はちーちゃんの試合が始まるまで自分の研究してるつもりだし、しー君は休んでていいよ?」

「肩もみ、お茶出し、人間椅子のご利用はいかがですか?」

「お金って本当に人を変えるよね」

 

 そんな可哀想な子を見る目をしないでくれ。

 俺だって『椅子になろうか?』ってセリフが自分の口から出る時が来るとは思ってなかったさ!

 

「でも椅子は無理じゃない? 10分そこらで動かれるとむしろ迷惑」

「畳の部屋ですよ? 椅子なんか似合いません。此処は座布団でしょ!」

 

 ちゃぶ台の横にうつ伏せに寝転んで準備完了。

 さあ来い! この体勢なら頑張れる!

 

「……座ってあげる事が優しさなんだよね?」

「背中に座る事が優しさです」

 

 出来るだけキリッとした表情で俺は束さんを見上げた。

 束さんよ、なぜそうも泣きそうな顔をしている?

 俺が憐れか? 憐れむくらいならなそのデカ尻を俺に乗せやがれ!

 

「ふん」

「んがっ!」

 

 あれ? なんで俺は頭踏まれてるの?

 まぁいいや、一万円あざます!

 

「どっこいしょ」

「んふっ!?」

 

 意外と勢い良く座りやがったぞ。

 

「ちなみに踏んだ分は普通のお仕置きなので料金は発生しません」

「……了解です」

 

 余計な事は言わない考えないで行こう。

 俺は束さんの作業の邪魔にならないよう静かにしないといけない。

 それでも出来る事はある。

 拡張領域からパソコンを取り出す。

 今のうちに売りに出す千冬さんの写真をピックアップだ。

 露出が激しいやつや、激レアなコスプレ系は束さん的にNGかもだからその辺を注意しないとな。

 

 腰の周辺は束さんの体温で温か気持ち良い。

 確か熱を発生させる温クッションってあったよな。

 これは良い物だ。

 今後買ってみよう。

 

 はてさて、もうすぐ待ちに待ったモンド・グロッソだ。

 千冬さんには八面六臂の活躍を期待しております!


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