俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

54 / 109
アラスカ条約に参加している国を中心に行われるIS同士での対戦の世界大会。格闘・射撃・近接・飛行など、部門ごとにさまざまな競技に分かれ、各国の代表が競うことになる。by Wiki

なので思いっきり捏造することにした。
 


モンド・グロッソ①

 

 モンド・グロッソの試合会場である特設アリーナ。

 その内部にあるハンガーでは、各国のISが仮組み状態で並んでいた。

 現在は、開会式が終わり競技開始前の待ち時間中。

 ISの周囲では国家代表選手が打ち合わせしていたり、スタッフがISの最終チェックをしていたりと慌ただしく動いていた。

 

「凄い光景ですよねー」

「えぇ」

 

 日本代表――つまり私の随伴スタッフが私に話しかける。

 

「技術畑の人間としては是非とも他国のISを触りたいのですがー」

「止めた方がいいかと」

「ですよねー」

 

 私が注意すると、彼女は残念そうに舌を出しておどけてみせた。

 気付いているのか? 今、周囲の人間から厳しい視線が刺さったぞ? 

 

「触れもしないISをなんで並べるんですかねー? 正直生殺しですー」

「……水口さんって27才でしたよね?」

「ですよー?」

 

 社会に出て驚く事が本当に多い。

 まさかこの間延びした喋り方の、どう見ても年下な少女が年上なんだから。

 

「運営の発案なのか、それとも篠ノ之博士の考えなのか分かりませんがー、機密の塊であるISをこうも他国に晒すなんて理解できませんー」

 

 ずらりと並ぶISを眺めながら、水口さんが指を咥える。

 一部のマニアな人間には堪らない光景だろう。

 下手に触れないのは仕方がないので我慢して欲しい。

 

 大会中のISの整備はこの場所で行われる。

 各国の技術者達は、他の国の技術者達に自国の技術を出来るだけ見せない様に必死だ。

 ISの整備中は人壁を作ったり、近付く人間に睨みを効かせて牽制したりしている。

 各国それぞれに作業用の部屋があればよかったが、それがないのだから仕方がない。

 ま、束の仕業だろうが。

 

 束的には、IS制作において一強状態などになってもらっては困るはずだ。

 言い方は悪いが、技術力や金銭面で劣る国が、アメリカなどの強国より優れたISを開発出来るかと問われれば、正直難しいだろう。

 だからこそ、劣っている国が技術を盗める様にしたと思われる。

 全部私の想像だけどな。

 

「躍起になって隠す必要はないでしょう。ISは“兵器”ではないのですから」

「……それもそうですねー。それにどうせ、此処にあるISは常識に法った汎用機ばかりでしょうしー」

 

 この場にないだけで、もっとヤバイ機能や兵器を積んだ機体があるんだろと言わないでくれ。

 

「そうれはそうと千冬さんー」

「なんでしょう」

「なにか不機嫌そうですがー、怒ってますかー?」

「気にしないでください。さっきからどうも耳障りな音が……」

「それって暗にあたしが邪魔って言ってますー?」

「言ってません。どうも私にしか聞こえてないようですね。もしかしたらモスキート音に近い音なのかもしれません」

「……あたしが老けてるとー?」

「言ってません」

 

 頬を膨らますな。

 似合ってはいるが、どうにも友人に似ている感じがして落ち着かない。

 それと、私にしか聞こえない雑音が五月蝿いのは本当です。

 

「“幽霊の正体見たり枯れ尾花”って言葉があるじゃないですか」

「ありますねー」

「友人が言ってたのですが、“幻聴の正体知ったり骨伝導”ってのがあるらしいです」

「そうなんですかー?」

「そうなんです」

 

 まったく興味なさそうですね。

 今まさに、私は幻聴に襲われている。

 原因は骨伝導だ。

 

「ところで千冬ちゃんはー」

「ちゃんはやめてください」

「千冬さんはー、これからどうしますー?」

 

 この人、隙あらば私をちゃん付けにするんだよな。

 これからか――

 専用機の整備は終わっている。

 競技に対する作戦会議も終わっている。

 特にやることはないな。 

 

「暫らくここで待機しています。他国のISを見るのも勉強になりますから」

「そうですかー。ではあたしはせっかくの機会ですから見学でもしてきますー」

 

 「ではではー」と言って水口さんはハンガーの奥に歩いて行った。

 なんとも若々しい御仁だ。

 彼女を見送った私は、自販機でコーヒーを買い壁際のベンチに腰掛ける。

 

「はぁぁぁ」

 

 深い、とても深いため息が漏れる。

 思わず頭を押さえるが、幻聴は一向に消えてくれない。

 

 モンド・グロッソ初日、競技名は『ラピッド・ハント』。

 個人的にその名前は大丈夫なのかとツッコミたいところだ。

 競技の種類はシューティング。

 競技が始まると、アリーナ内にターゲットが現れ、それを射撃する競技だ。

 ターゲットは球体で、大きさはバスケットボール程の大きさ。

 ターゲットの他に、デブリと呼ばれるキューブが現れる。

 大きさはターゲットと同じで、こちらは触ったり銃弾を当てたりすると減点される仕様だ。

 ターゲットとデブリは試合開始と同時にランダムでアリーナ内に現れる。

 試合時間は3分。

 点数の上限なしで、時間内にどれだけターゲットを撃破出来るかの勝負だ。

 勝つためには、ISの視野を生かしアリーナの中心で射撃してれば良いというものではない。

 高得点が欲しければ、アリーナ内を移動しながら確実にターゲットだけを撃たなければならないのだ。

 

 ターゲットを撃つ射撃能力。

 デブリを避けながら最適な場所に移動する判断力と行動力。

 如何にターゲットが撃ちやすい場所に出現するかの運。

 そして、短い試合時間の中で最高のパフォーマンスをする為の集中力が必要なのだ。

 だから――

 

『どこもかしこもISのレベル低すぎ! ちーちゃんなら素手で勝てるレベルだよ! これは試合観戦は退屈な時間になりそうだね』

『ロリでおっとりで白衣とかエロゲーキャラかよ……最高だな! 千冬さん、あの水口さんって人、小学生は守備範囲ですかね? ショタかどうか分かります?』

 

 少し静かにしてれくないか?

 いや本気で頼む。

 らしくもなくルールの確認なんてしてみたが全然集中できん。

 そもそもどういった原理で二人の声が聞こえてるんだ?

 骨伝導云々は束が言ってるだけで確証はないんだよな。

 整備が終わったISを手放す事も出来ないし、モンド・グロッソ中はコアネットワークを切断する事も出来ない。

 私にはどうにもできないのだ……。

 一方的に馬鹿の声を聞かされるとかどんな罰ゲームだ! 水口さんとの会話中も騒ぎやがってこの馬鹿共が!

 

『それにしてもいろんなISがありますね。しかし試合開始直前なのに今更整備とは何事?』

『色々あるんだよ、色々ね。技術不足で完成してない機体を完成させるべく頑張ってたりとか』

『……未完成品で世界大会出場とか正気?』

『だから色々あるんだってば。例えば国家代表に決まったのはいいけど、他のライバル企業からの妨害で、モンド・グロッソ用の機体が今日までに完成しなかったりとか』

『知りたくなかった裏情報。悲しいなー、それもこれも突貫でモンド・グロッソ大会を開催した主催者が悪い。もう少し時間あげれば良かったのに』

『開催日は前もって予告したんだよ? 期限までに完成させなかったのが悪い』

『ま、社会人としては期限厳守が普通ですし、そう言われればそれまでですね』

 

 そもそもIS自体が未完成だ。

 優勝する為にも、少しでも機体に手を加えたい気持ちは理解出来る。

 操縦者側の意見で言えば、慣れた機体を下手に弄るなと言いたいが。

 ところでその会話は試合前の私に聞かせる必要があるか?

 

『それと自慢もあるね。“我が国の機体は凄いだろ?”っていう』

『それ意味あるの?』

『心理的に優位に立てる。もしもしー君の目の前にガンダムがいて、今から戦えって言われたらどう思う?』

『スコップやハンマーでガンダリウム合金に傷を付けれるイメージが浮かばないです。でもさ、手の内や技術の流出になるのでは?』

『多少流れても問題ないって自信があるんだよ。それに、外から眺めてるだけじゃ単純なスペックしか分からないからね。む? なんか来たね』

『おっと、友好的な雰囲気ではないですね』

 

 女達の笑い声が聞こえる。

 その声は徐々に私に近づいて来ている。

 ただでさえ気分が悪いのに、面倒事な予感がするな。

 

「よう」

 

 私の顔に影がかかる。

 知らない気配だ。

 どうやら知人ではないらしい。

 無視したらダメか? ダメだろうな……。

 

「オマエが日本代表か? まだ子供だな。それにしても随分と綺麗な顔をしてるじゃないか」

『んなッ!?』

『おう……』

 

 顎を手で持ち上げられた。

 顎クイ? だったか?

 

「アダムズ・トリーシャか。アメリカ代表がなんの用だ」

 

 見上げた視線の先には、ドレッドヘアーで唇にピアスを着けた黒人女性。

 今大会の優勝候補であるアメリカ代表が立っていた。

 

「口の聞き方を知らないのか黄猿が!」

「いつまで座ってるんだ? さっさと立て!」

 

 アダムズの後ろにいる取り巻きらしき連中が騒ぎ立てる。

 全員が女性だ。

 服の上からでも分かる筋肉のつきかたに重心のバランス――プロだな。

 女性軍人か?

 物騒な連中を引き連れて訪問とは穏やかではないな。

 

「そんなにイジメてやんなよ。ワタシはな、聞きたい事があって来たんだ」

「なんだ?」

「篠ノ之博士についてだ。オマエ、居場所知ってるんじゃないか?」

 

 束か――

 

『マーチ・ヘア、マッドハッター、ドーマウス、発射準備完了』

『不思議の国のアリス? 急にどうしたんです?』

『ん? ちょっとアメリカと戦争しようと思って』

『その名前って……』

『束製大型ミサイルの名前だよ♡』

『確保ォォォ!』

『離せ! 離せよ! ちーちゃんに触れるどころか黄猿呼びした無能共を灰にしてやるんだ!!』

 

 今そちらの国にミサイルを打ち込もうとしてるところだが?

 

「オイ、聞いてんのか?」

「束の居場所は私も知らん」

「そうか」

 

 根掘り葉掘り聞かれるかと思ったが、あっさりと引いたな。

 それで帰るのかと思いきや、アダムズが私の隣に座る。

 用が終わったのなら帰って欲しいのだが。

 

「日本はISの整備はいいのか? 見たところハンガーに並んでないが」

「もう終わっている。そっちこそこんな場所で油を売ってる暇があるのか?」

「今は機体の最終チェック中さ。いや、サービス中と言った方がいいか」

 

 アダムズがニヤニヤと笑いながら見つめる先には、赤いISが仮組み状態で座っていた。

 機体の周囲ではアメリカのスタッフが動きまわり、それを他国の人間らしき人達が真剣な顔で観察している。

 

「どいつもこいつもアメリカの技術が欲しくて必死らしい。笑えるだろ?」

 

 少しでもアメリカのISの情報を得ようと集まる人達を、彼女は楽しそうに眺めていた。

 どうやらアメリカ代表はイイ性格をしてるらしい。  

 だが瞳が微妙に揺れている。

 こいつ、何かあるのか?

 

「それで、まだ私に何か用が?」

「あん? 世間話は嫌いかい?」

「世間話がお望みか? ならそこの取り巻き連中と遊んでいろ」

「調子に乗るんじゃねーよ。その綺麗な顔を刻まれたくないだろ?」

 

 アダムズが私の髪を掴みながら引っ張る。

 顔と顔が近づき、彼女の息が私の顔にかかる。

 軍人を携えての恫喝か……何が狙いだ?

 

「トリーシャさんそれは流石にマズイですって」

「おーい、謝るなら今のうちだぞー」

「相手見て言葉選べよ猿が!」

 

 取り巻き連中が笑いながら囃し立てる。

 なるほどな、モンド・グロッソの戦いはもう始まってるってことか。

 

「なんだ? 今更ビビってるのか?」

 

 何も言わない私に対し、アダムズは勝ち誇った顔をした。

 いや、正しくは“勝ち誇ってる様な顔”だな。

 視線が時々私から外れるのがなんとも言えん。

 

 しかし、ビビってるね――

 

『The Queen of Hearts She made some tarts(ハートの女王タルトつくった)』

 

 急に歌いだした親友に恐怖してるがなにか?

 

『Off with his head(この者の首を刎ねろ) Off with his head(この者の首を刎ねろ)』

『感情のない顔で歌うのはやめろ! 不安定になる……心が不安定になる!!』

 

 不思議の国のアリスの歌の一つだったか?

 束の声色もそうだが内容が怖いな。

 おいこら働け神一郎。

 お前の存在意義は束のストッパーであることだぞ。

 

「チッ、だんまりかよ。ここまでされて何も言わないとは日本代表はチキンだったみたいだな」

 

 髪から手を離したアダムズが席を立つ。

 

「日本代表は要注意だと聞いたが、とんだ期待ハズレだぜ」

 

 アダムズが私を見下ろしながら侮蔑の顔を見せる。

 私を見下ろすのか構わないが、もう少し上手に喧嘩売ろうな?

 口調もどこか嘘臭いし、そんなんじゃ私も踊ってやる事が出来ない。 

 

「ビビって喋れないとか日本代表は情けねーな」

「トリーシャさんが怖いなら棄権すれば?」

 

 取り巻き連中はここぞとばかり煽ってくる。

 私が言うのもなんだが、喧嘩を売るのって大変なんだな。 

 

「もーいい、とんだ見込み違いだった。戻るぞ」

 

 取り巻き連中も一発かまして満足したのか、大人しくアダムズに後ろに並んで帰っていった。

 彼女達の行動の意味はなんとなく理解出来た。

 巻き込まれる方から見ればまったくもって迷惑な話だ。

 

『……ジャバウォック、パンダースナッチ、起動』

『明らかにヤバイってわかる名前!? 千冬さんヘルプ! 助けて!』

 

 無理だ。

 さっさと止めろ。

 頑張れよ。

 アメリカの未来はお前の手にかかっている。

 

『なにか……なにかないか!? ……そう言えばおっぱいショック療法があったな。馬式ショック療法を試すのは今しかない!! 今なら建前もあるし、これしかないな! ってなわけでお覚悟!』

『私のおっぱいはちーちゃんのもんだと言ってるだろうがッ!』

『がはっ!?』

『……はっ!? 私はいったいなにを!』

『正気に……戻ったんですね……』

『……え? なんで這いつくばってピクピクしてんの? ちょっとキモイ』

『黙らっしゃい。それよりもほら、千冬さんが束さんの声を聞きたそうな顔してるよ?』

『マジで!? もうちーちゃんてば私のこと大好きなんだから――ッ!』

 

 私に投げて危機を回避か?

 アメリカ代表に絡まれた私に対し、周囲の人間がチラチラと視線をよこしている。

 こんな状況で喋れるわけないだろうが。 

 

「千冬さんー」

 

 ちんまい少女が手を振りながら歩いて来る。

 

『チッ! また現れたかお邪魔虫め!』

『んー、やっぱり可愛い。あれで成人とか最高かよ。まさか本物の合法ロリに会えるとは夢の様だ』 

 

 温度差が酷いな。

 そして神一郎の声が気持ち悪い。

 コイツには先日色々としてやられたし、少しやり返すか。

 ふふっ……そう思うと心が軽くなるな。

 

 トントン――トン――トトン――

 

 指で軽く自分の太ももを叩く。

 束ならこれで通じるだろ。

 

『ん? モールス? ほう……ほうほう。それはそれは』

『千冬さんなんて?』

『しー君お気に入りのあのちんまいの、人妻だって。残念だったねプークスクス』

『マジでか!?』

 

 ふっ、気になる女がすでに他の男のものなんてショックだろう?

 ざまあみろ。

 

『合法ロリで人妻とか萌の塊かッ!? 是非とも優しくベットに押し倒されたい! そんで優しく手とり足とり……ぐふふ』

 

 無敵かコイツ!?

 他の男の女でも関係ないのか。

 凄い気持ち悪いな。

 

『まーたしー君はすぐ発情する。このダメ犬! ダメ犬!』

『いたっ!? なんで叩くの!?』

『飼い犬が他所の雌犬を襲おうとしたら躾けるのは飼い主の義務ですから。そらそらぁ!』

『ちょっ! やめっ!』

 

 想定外の反応だったが、これはこれで面白いから良し。

 

「アメリカ代表に絡まれたと聞きましたが大丈夫ですかー? 相手の方(ボソッ)」

「最後になにか余計なセリフがありませんでしたか?」

「気のせいですー」

「まぁいいですけどね。アメリカ代表に絡まれましたが特に害はありません。むしろ相手の性格が知れたので得です」

「そうですかー。試合前に国家代表に喧嘩売るなんて何を考えてるんですかねー? 最初話を聞いた時は千冬さんが相手を血まみれにしてないか気が気じゃありませんでしたー」

「これでもTPO弁えてますよ」

「千冬さんの性格は知ってますよー。だから安心して見てられましたー」

「見てたんなら助けろよ!」

 

 実はこっそり見てたとは驚きだ。

 私でも視線を感じなかったのって意外と凄いのではないか?

 少なくとも神一郎よりはスキルは高いな。

 

「それはそうと、そろそろ競技が始まるので準備しといてくださいねー」

「こっちのセリフ無視ですか……。了解です。待機室に戻ります」

「ガンバですよー」

 

 ふりふりと手を振る姿は可愛いんだよな。  

 

 

 

 さて、現在私は日本に割り振られた部屋に移動中、なのだが――

 

『このダメ犬! ダメ犬!』 

『もっと高い声で! くぎゅー魂を込めろ! そんなんじゃ萌えないんだよ!!』

『ダメいぬぅぅぅぅ!』

 

 耳元がやかましい。

 この苦行はまだ続くのか?  

 そろそろ止めないと本気で怒るぞ。

 

『あれ? ちーちゃんのバイタルが……。もしかして怒ってる?』

 

 やっと気付いてくれたか。

 逆に怒ってないとでも思ってるのかお前は?

 

『試合開始までもう少しだし、集中したいのでは? そろそろ邪魔するの止めた方がいいと思うけど』

『邪魔じゃないもん。応援だもん』

『千冬さんが集中力を乱してもし負けたら……わかってるよな?』

『そんな怖い顔しないでよ。ちーちゃんなら余裕だって』

『まぁ俺も千冬さんの勝利を信じてますけどね』

『でしょー? ちーちゃんなら余裕余裕』

『ですよねー! 余裕余裕!』

 

 私の味方するなら最後までしろ!

 あっさり引くとは情けない奴だなお前は!

 

『あ、俺も言いたい事があったので試合前だけど一言失礼します。――負けたら許さねぇ』

『声がガチすぎる』

 

 それな。

 背筋がゾクッとしたぞ。

 負けたら許さないか……。

 賭けか? 

 モンド・グロッソの選手を対象にした賭けがあるのは知っている。

 うむ、神一郎が目を付けそうだ。

 

『もし負けたら織斑家から下着の全てがなくなると思ってください』

『一億で買い取ろう』

『……千冬さんは色々と後暗い事があるんだから優勝しない方が良いのでは? 悪目立ちしすると一夏に迷惑掛けるかもだし』

 

 相変わらず根性腐ってるな。

 速攻で手のひら返しか。

 神一郎が賭けたのは私の優勝。

 そして、当たったとしても配当金は一億以下ってところだろう。

 

『こらこらしー君、ちーちゃんに手を抜けなんて言っちゃダメだよ。もしちーちゃんが優勝しなかったら私は非常に不機嫌になります。色々と周囲に迷惑かけるかもだよ?』

『他人の不幸で幸せになれるなら俺は別に……』

『しー君VS機械化小隊』

『あ、これ響きからしてダメなやつだ』

 

 アングラな匂いがプンプンするな。

 私としては神一郎が痛い目を見ても気にしない。

 むしろ少し危険な目に合って根性鍛えてこい。  

 

『そうそう聞いてよちーちゃん。しー君てばドMの押し売りが酷いんだよ。殴らせるから一万寄こせって迫ってくるの。開花させた責任取って私が飼育するしかないかな?』

『誰の頭がお花畑か。開花なんてしてませんよ。てかバイト期間は終わりです。これからは殴られたら普通に怒ります』

『しー君の怒りとか怖くともなんとも――』

『抱き枕を全部燃やす』

『やだ! このちーちゃんは私の癒しだもん!』 

 

 “この”私?

 その抱き枕はアレか? もしかして私の写真がプリントされてるのか?

 いいぞ神一郎、全部燃やせ。

 

『そもそも殴られたのだってちゃんと理由があるんです。いいですか? これからの未来は女尊男卑の時代。将来彼女に理不尽な暴力を振るわれる事があるかもしれない。その時の為にも殴られる事に慣らしてるんですよ。未来を知るからこその高度に計算された一石二鳥作戦なのです』

『それで殴られついでにお金稼ぎね。まだ見ぬ彼女の為の努力……いろんな意味で悲しくなるよ』

『悲しむ理由が俺にはさっぱり』

 

 そうだな。

 未来にしっかりと彼女が出来れば問題ないな。

 出来なければただただ憐れだが。

 

『あ、そうだしー君。せっかくだから私の素晴らしさをちーちゃんに語ってよ。私は! ちーちゃんに! 褒められたい!』

『千冬さん返事できないと思いますよ? まぁ束さんがそれでいいなら語りますが』

 

 まだ無駄話が続くのか?

 あ、お疲れ様です。

 私は道ですれ違う他国のスタッフに挨拶してるから構わず続けてくれ。

 

『実はですね、俺の貯金がピンチなんです』

 

 それは知ってる。

 

『それで束さんに泣きついたんですが、失礼な事を言った俺に対しても束さんは優しくしてくれまして』

 

 その優しさは計算された優しさだからな? 

 言う気はないが。

 

『もう束さんへの感謝の気持ちが絶えませんよ。よっ! 天使! 女神! 美少女天才科学者!」

『むふー』

 

 ご満悦だな束。

 そして哀れだな神一郎。

 全て束の手のひらの上だというのに……。

 

『思った以上に束さんが協力的で俺は本当に嬉しいです。本物の銃で撃たれた甲斐があったってもんです』

『うんうん、喜んでくれて嬉しいよ』

 

 私は何を聞かせられてるんだろうな?

 さっきから意味のない話をペラペラと――

 本番前だというのにイライラが酷い。

 

 ――IS部分展開

 

 両腕のみを展開し、拡張領域から自分の武器を取り出す。

 

 右手に持つのは“山法師”。

 左手に持つのは“鬼灯”。

 

 私専用の銃だ。

 これで束を撃ちたい。

 神一郎には関節技だな。

 

 と、しまった。

 通路で武器を出したせいで近くにいる人間がギョッとしている。

 すみません、気にしないでください。

  

『サイズの違う二丁拳銃? ロマンですね。普通に格好良い』

『小さいのが連射重視の“山法師”で、大きいのは近、中距離用の“鬼灯”だね』

 

 日本の機密情報ダダ漏れだな。

 この二丁には束は関わっていないはずだ。

 なぜ分かるかって?

 機能が普通で真っ当だからだ。

 

『山法師は普通の拳銃に見えますね。よくある自動拳銃だ』

『まぁこれといって特別な機能はないけどね。弾丸を正確に連射出来るだけの銃です』

『んで鬼灯がちょっと特徴的ですね。銃身がめっちゃ長い。アニメキャラが使ってそうなイカス外見ですな』

『形だけ見ればコルトパイソンが近いかな? でもソレよりは命中率が上がってるね。銃身の長さに計算された美を感じます』

『ほうほう』

『ん? しー君なに調べてるの?』

『山法師と鬼灯の意味。武器の名前って気になりません? へー、二つとも白い花の名前なんだ。鬼灯とかただの食べ物だと思ってた』

『だから銃の色が白なんだね。うむ、許せるセンス』

『花言葉は……ふはっ!? ホント良いセンス!!』

『え? なにその笑い? どうしたの?』

『山法師は“友情”で、鬼灯は“偽り”』

『……へ?』

『偽りの友情……どんまい(ポン)』

『優しげな顔で肩に手を置くなし! ちょっとちーちゃん! なんでそんな不吉な名前なの!?』

 

 知らん。

 私が名付けた訳ではない。

 そしてそろそろ私を自由にしろ。

 

「失礼します」

「お帰りない織斑さん……ってなんか疲れてる!? 本番前なのになんで!?」

 

 日本チームに割り振られた部屋に入ると、スタッフの一人が慌てて駆け寄ってきた。

 そんなに疲れた顔してるか? 

 まぁしてるだろうな。

 

『凄く素朴な疑問なんだけどさ、日本チームって女性しかいないの? さっきから男を見かけないんだけど』

 

 理由は分からないが推察は出来る。

 

『イカ臭いオスをちーちゃんに近づけてたまるかッ!!』

 

 不思議な出来事や不可解な出来事はだいたい束が原因だ。

 

『させん! させんぞォォ!! 私の目が届かない場所でラブコメなんて絶対に許さん!』

『ブリュンヒルデを目指す女性と、それを支える男性の恋愛モノか……。普通にありそうですね。それにしても千冬さんは愛されてるなー』

 

 羨ましいなら変わってやろうか? 

 むしろ是非とも変わってくれ。

 それかさっさと束を落とせ。

 そうすれば私の被害が減る。

 

「体力は十分なので問題ありません。少し……えぇ、少し気疲れしてるだけです」

「席外しましょうか?」 

 

 気を使わせてしまったか。

 ここで彼女を追い出すのは気が引けるな。

 

「いえ大丈夫です。少し集中すれば元に戻りますので」

「なら飲み物でも買ってきますね」

 

 飲み物ならこの部屋の冷蔵庫にあるのだが、スタッフの女性はそう言って部屋を出て行ってしまった。

 なんだかんだで気を使わせてしまったか。

 申し訳ない。

 

『おっともうこんな時間か……ちーちゃん、試合中もお喋りする?』

『…………個人的には千冬さんが負けても問題ないんだよな』

 

 どこまでも自分勝手だなこいつらは。

 なんかもういつも通り過ぎて力が抜けてきた。

 

『まぁ冗談はこれくらいにしようか。それじゃあちーちゃん、モンド・グロッソが終わったら祝勝会するからその時に会おうね!』

『暫くは時間は空かないでしょうから、終わってから二週間後くらいが無難ですかね? 酒とツマミは用意しとくんで楽しみにしといてください。――せーの』

 

 ちーちゃん/千冬さん頑張れ!!

 

 その言葉を最後に通信が切れた。

 やっとこれで試合に集中出来る。

 しかし散々騒いだクセに最後はあっさりと引いたな。

 

 

 

 

 

「戻りました。――さっきまでとは打って変わっていつも通り……いえ、普段以上のリラックスぶりですね」

 

 足を伸ばして椅子にだらしなく座っている私を見て、彼女は目を丸くする。

 すでに気力は尽きたんだ、察してくれ。 

 

「とてもらしくない格好ですけど……良かった。最近の織斑さんはどこか気を張ってる様だったので安心しました」

「……そう見えましたか?」

「はい」

 

 自分的にはなんら変わったつもりはなかったが、彼女からはそうは見えなかったらしい。

 柳韻先生の教えに対する気概、ISを世界に広める事への不安、確かに心を重くする要因はいくつかあるな。

 ……最近の私は余裕がなかったのか。

 

「でも今の織斑さんはとっても良い顔してます。これなら優勝間違いなしです!」

「最近の私ってそんなに酷い顔してましたか?」

「酷いというか、怖い顔ですね」

 

 今の私は脱力している。

 まさか、だよな?

 私を落ち着かせる為に二人は……なんてないよな?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。