俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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個人競技の一人称とか無理くない?



モンド・グロッソ②

 オ ッ リ ム ラ !  

 オ ッ リ ム ラ ! 

 

 自分の名前を大声で呼ばれるのは未だ慣れない。

 正直な話、応援されることはとても心苦しい。

 私は束と一緒に事件を起こした犯罪者だ。

 日本代表などど、本来はそう呼ばれる人間ではないのに……。

 周囲を見渡すと、時々自分の名前が書かれたプラカードが見える。

 この苦い気持ちにもいつか慣れる時が来るのだろうか?

 

 ――Are you ready?

 

 視界にカウントダウンが表示される。

 息を吐き、呼吸を整える。

 機体、心身ともに問題なし。

 

 ――3、2、1、GO!

 

 ターゲットとデブリが現れる。

 数は50/100。

 そこそこ広いアリーナ内が一気にカラフルになった。

 出現位置把握。

 ……いくか。

 

 その場を動かずまずは狙えるターゲットを撃つ。

 鬼灯、山法師ともに弾数は6発。

 銃の種類は様々だが、他と比べても撃てる数は少ない方だ。

 だが問題はない。

 

 6、5、4、3、2、1……弾数0。

 

 薬莢を拡張領域に収納。

 代わりに弾丸を装填。

 生身ではなくISなので、装填する手間がない。

 

 今日の日の為に、私は本物のリボルバー銃を撃ち、撃ってから装填するまでの動作を脳に叩き込んだ。

 シリンダーを横に出し、銃を縦にして薬莢を地面に落とす――空薬莢は全て拡張領域へ。

 新たに弾丸を込める――拡張領域から弾丸が直接シリンダーへ。

 切らずに打ち続ける姿は、客席から見ればリロードなしで打ち続けてる様に見えるだろう。

 

 ターゲットとデブリが追加で現れる。

 ここからが本番だ。

 デブリとデブリの隙間を縫う様に飛ぶ。

 

 6、5、4、3、2、1……リロード。

 

 デブリに後ろに複数のターゲット出現。

 今の場所から撃てばデブリが邪魔で全ては撃てない。

 しかし、射線の角度調整の為に移動するのは時間の無駄だ。

 なので撃つ。

 

 デブリ撃ってマイナス1点。

 その後ろのターゲットを3つ撃破でプラス3点。

 問題ない。

 

 6、5、4、3、2、1……リロード。

 

 ターゲットを撃つ。

 デブリを避ける。

 最適なポジションを予測し動き続ける。

 デブリを避けるか、それとも撃つか、一瞬の思考で判断する。

 

 6、5、4、3、2、1……リロード。

 

 デブリとデブリの隙間からターゲットが見えた。

 距離120メートル。

 鬼灯で撃ち砕く。

 

 正面に新たにデブリが発生。

 避ければ時間のロスと判断。

 山法師で排除。

 

 ――

 ――――

 ――――――

 

 思考が、加速していく。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 私の夢は図書館で働くことでした。

 その夢が破れたのは、ハイスクールの卒業間近の時。

 

 ある日、大学への進学が決まっていた私の元に、政府の人間だという人が現れた。

 曰く、ISに興味はないかと――

 

 ニコニコと笑う校長先生の隣で、その人はISの素晴らしさを語ってみせた。

 インフィニット・ストラトス。

 テレビで散々放送されていたので、その存在は私も知っていた。

 空を飛ぶのはちょっと怖いけど、楽しそうでもある。

 でもそれだけだ。

 私はハリウッド世界の住人ではない。

 だからその時は断った。

 話しはそれでおしまい。

 そう思っていたけど、後日その人達が家にまで来て話は変わった。

 両親同伴で彼等は語る。

 

 自分達はアメリカ政府の人間である。

 才有る若者をスカウトしている。

 是非とも娘さんを。

 

 そんな話が続き、両親はすっかり乗る気になってしまった。

 私はなんとか諦めてもらおうと頑張った。

 

 Q:軍に所属することになると言ってましたが、将来は戦地などに行く事はありますか? 

 A:あくまで所属だけです。軍で訓練を受けて頂きますが、軍事業務などには関わる事はありません。

 

 Q:私が人を殺す事はないのですね?

 A:はい。スポーツ選手の様なものだと思って頂ければ。

 

 Q:仮にIS操縦者になった場合、軍を引退して操縦者でなくなった時、秘密保持の為に家族と離ればれになったり、身柄を拘束されることなどありますか?

 A:ありません。

 

 無理だった。

 なんとか親を味方につけたかったけど、簡単に論破されてしまった。

 両親は完全に向こうの味方で、とても名誉なことだから話を受けなさいと、そう説得してきた。

 頑張りなさいと言われたので、私は頑張ることにした。

 

 

 

 

 形だけの軍人なりました。

 

 肉体トレーニングは大変だった。

 辛かったけど、頑張れって言われたから頑張った。

 

 対人戦の技術を学んだ。

 人を殴るのも殴られるのも嫌だったけど、頑張れって言われたから頑張った。

 

 座学は楽だった。

 重火器や火薬の使い方を覚えた。

 

 頑張って、頑張って、頑張って……

 

「どうして私は此処に居るんでしょうか?」

 

 私の名前はアダムズ・トリーシャ。

 読書好きで運動嫌いのごく普通の女の子です。

 

「あぁん?」

 

 アメリカに割り振られた待機室で過去を思い返していたら、いつの間にか目の前にキワナさんが居た。

 この人は私と違って本物の軍人で、私の先輩兼師匠です。

 主に格闘技を習っています。

 ってそうじゃない。

 なんでキワナさんは睨んでるの?

 

「オマエ、またなんかネガティブな事を考えやがったな?」

「なんで分かったんです!? エスパー!?」

「口に出てんだよ馬鹿野郎!!」

「ちょっ! アイアンクローはやめ……いったー!」

 

 キワナさんの手が! 五指が私の顔にッ!?

 

「い、イザベラさん! エマさん! 助けて!!」

 

 必死に手を伸ばして、こちらを見て笑っている二人に助けを求める。

 

「キワナ、ちょっとだけ待ちなさい。一応言い訳くらい聞いてからじゃないと」

「そうっスよキワナ先輩。理由なき体罰はただの暴力っス」

「しゃーねーな」

 

 キワナさんの手から力が抜けた。

 イザベラさん、エマさんありがとうございます!

 

「ほら、さっきのセリフの意味を言ってみろ」

「はい! 私みたいな、なんの取り柄もない普通の女の子が国の代表とかおかしいと思います!」

 

 手を上げながら素直に気持ちを吐露したら、何故か三人の目付きが鋭くなった。

 なんでなんです! ……すみません嘘です。

 理由は分かってます。

 

「テメェ! やっぱりくだらないことじゃねーか!」

「まったく貴女って子は」

「戦う人間として弱気はダメっスよ」

 

 キワナさんが再びアイアンクローの構え。

 イザベラさんが右耳をつまむ。

 エマさんが左耳だ。

 うん、こうなると分かってたもん。

 ぐすん。

 

「根性入れろオラァ!」

「お仕置きですね」

「これは暴力じゃなくて愛のムチっス」

 

 アウチッ!!

 

 

 

 

「うぅ……死ぬかと思いました」

「アイアンクローで死んだ人間なんて軍でも聞いたことねーよ」

 

 そうですね。

 私もありません。

 

「結局モンド・グロッソまでにその弱気な性格は治りませんでしたか」

「すみません」

 

 イザベラさんは軍医で、私のメンタルケアを担当しています。

 軍の厳しい訓練で心が折れそうになった時に、沢山助けてもらいました。

 

「しっかりするっスよトリーシャ。わたしの後輩ならやれるはずっス」

「はい」

 

 エマさんは射撃の師匠。

 ちょっと独特な喋り方ですけど、明るくて良い人です。

 

 私は普通の軍人さんとは違います。

 あくまで素人です。

 基礎訓練こそ軍の雰囲気に慣れさせる為に他の軍人さんと一緒に受けましたが、戦闘技術は軍の大勢の一人として鍛えられるのではなく、彼女たち先輩に鍛えてもらいました。

 

 専門家を付ける事で短期での技術向上。

 IS操縦者を育成する為のノウハウの確立。

 他の軍人との摩擦を避ける為に。

 

 と、色々と理由はあります。

 訓練時代は、先輩三人と一緒に話し合って訓練方法模索したり、他の軍人さんに絡まれた時に助けてもらったりと、色々とありました。

 私はIS操縦者育成の為のモデルケース? テストパイロット? そんな役割もあったのです。

 

「んで? なんでオマエはまたネガティブになったんだ?」

「だって他国の代表選手ってみんな凄い人ばかりじゃないですか! 本物の軍人だったり、なにかしらのプロだったり。私と全然違います!」

 

 所詮私はなんちゃって軍人。

 国家代表を決めるアメリカ国内の大会だって大変だったのに、世界大会とは勝てる気がしません。

 右を見たら筋肉ムキムキの女性。

 左を見れば如何にも仕事出来ます風のお姉様。

 正面には綺麗だけどどこか怖い雰囲気がある少女。

 開会式はそんな感じでした。

 なぜ! 私は! この場所にいるの!?

 場違い感が酷い!

 

「なんでキワナさんが代表じゃないんですか!」

「あーやかましい。イザベラ」

「はいはい」

 

 体全体で不満をあらわにするわたしの隣にイザベラさんが腰掛ける。

 そんなイザベラさんに、私は素直な気持ちをぶつける。

 

「前々から思ってましたが、なんでキワナさんやエマさんが代表にならないんですか? 軍医のイザベラさんはともかく二人はプロですよね?」

 

 常々思っていたこと。

 それは、国の威信をかけて戦うのになぜわざわざ素人を一から育てるのかということ。

 普通に軍人さんの誰かが代表でいいじゃないかと、そう思ってました。

 思っただけでなにも言いませんでしたけどね。

 私は両親の期待と給料の良さに負けました。

 でも流石に今は胃が痛いです。 

 

「今までは先入観から忌避されるのを避ける為に一部の情報を伏せていたけど、今なら大丈夫でしょう」

 

 なんかとても含みがある言い方……そんなに大層な理由があるんですか? だとしたらちょっと聞くの怖いです。

 

「イザベラとエマは非童貞よ」

「……はへ?」

「間違った。非処女よ」

 

 非処女……ひしょじょ?

 流石はアメリカ軍人。

 ヤルことヤってるんですね。

 

「そ、そうなんですか。キワナさんはともかくエマさんは意外ですねー。ところでその、初めてってどんな感じですか?」

 

 あくまで学術的な興味です。

 勉学に生きた身としてはナマの声は貴重ですからね。

 

「落ち着けバカが。イザベラも真面目にやれ」

「自分は処女っス」

 

 あ、エマさんはお仲間ですか。

 そうですよね。

 私は信じてました!

 

「トリーシャの目がなんかムカツクっス」

 

 だってエマさん子供っぽいじゃないですか。

 キワナさんは赤毛のボンキュッボンで色気が凄い。

 イザベラさんも金髪美人でスタイル抜群。

 二人はモテそうですもん。

 

「処女って言うのは隠語よ。分かりやすく言うなら“殺人非処女”かしら」

 

 いつもと変わらない微笑みでのイザベラさんの爆弾発言。

 えーと、なんて言いました?

 

「あの、お二人ってそうなんですか?」

「そうだな。戦場帰りって訳じゃないが、経験はある」

「そうっスね」

 

 いつも近くに居た人が人殺しだった。

 意外な事実だけど、思ったよりショックはない。

 軍人ならそんな時もありますよね。

 

「怖くないっスか?」

 

 あぁそっか。

 イザベラさんが忌避するかもって言ってたのはこれか。

 なんてちゃってでも軍人ですからね。

 怖くもなんともありません。

 ……嘘です。

 なんとも思わないのは私が二人を信用してるからです。

 

「大丈夫ですよエマさん。お二人はすでに実戦経験済み。ただそれだけです」

「ワタシたちはオマエの護衛も仕事だからな。経験のない素人には任せられないって上の判断なんだろ」

「良かったっス。トリーシャは怖がりだから、関係がギクシャクするかもとか心配したっス。っていうかイザベラ先輩、その話は折を見て話す約束だったスよね?」

「今がそのタイミングだと思ったのよ」

 

 エマさんがジト目を向けるも、イザベラさんはどこ吹く風だ。

 私って色々と気を使ってもらってるんですね。

 

「それでその、非処女である事って重要なんですか?」

「もちろんよ。国家代表となれば他国はもちろん自国のIS反対派にも根掘り葉掘り調べられる。貴女にも経験あるでしょ?」

「あります」

 

 思い出しても鬱になる国家代表候補時代。

 訓練中は良かった。

 ある意味で日常から隔離され、日々の訓練で外に目を向ける余裕がなかったから。

 それが変わったのは、国家代表を決める国内大会への出場が決まってからだ。

 目、目、目。

 外を歩くと見知らぬ誰かからの視線が刺さる。

 新聞を広げれば自分の顔。

 イザベラさんの指示の元、キャラを作ってインタビューを受ければ何故かファンができる。

 友達でもない人が馴れ馴れしく話しかけてくるし、ネット上では罵倒されたり褒められたり。

 あ、思い出したら涙が……。

 

「だからね、犯罪履歴や殺人非処女が国家代表になるのは不味いの。“ISは兵器ではない”なんて言葉は建前に近いけど、反IS派に騒ぐ理由を与えたくないのよ」

 

 言われてみれば確かに。

 アメリカが誇るジャーナリストとパパラッチは凄いですからね!

 もしも国家代表及び代表候補が過去に逮捕履歴や犯罪履歴があれば、どんなに隠そうとしてもそれは確実に掘り出される。 

 軍人さんは荒くれ者が多いですし、軍に入ろうとする人はヤンチャ者も多い。

 逮捕履歴はともかく補導履歴くらいはありそうですもんね。

 下手に現役軍人を国家代表にするよりは、スネに傷のない素人を育てた方がいいのかも。

 

「貴女より強い人間はもちろんいるわ。でもね、特殊部隊の人間や裏で動く人間を表に出す訳にはいかないでしょ?」

 

 怖い言い方です。

 それってつまり、特殊部隊の人の中にはIS操縦を学んでいて私より強い人が居るってことですよね。

 賢い私はその事実に気付かぬふり。

 余計な情報は知らない方がいいのです。

 だって怖いもん!

 

「そんな理由で、キワナやエマが国家代表になるのは無理なのよ」

「それならなんで私は軍人なんですか? 国家代表が軍人であることは自体に問題があると思いますけど」

「有事の時に働ける人材は必要だもの」

「……ISは戦争に使えませんよね?」

「相手もそうだと良いわね」

「……私、戦争に加担する気はありませんよ?」

「貴女の家族や友人が戦争に巻き込まれた時もそう言ってられるといいわね」

 

 イザベラさんのにっこり笑顔が美しい!

 なるほど……なーるほど。

 体裁を守る為に身が綺麗な素人を育て国の代表にする。

 万が一の時の為に軍属としておく。

 なんとも恐ろしい話です。

 ……あれ? でも軍属の人って私以外にも結構いますよね?

 

「他国の軍人さんも私と似たような立場なんですか?」

「そうでもないわね、軍と言っても近年じゃ実戦の機会がない国も多いもの。現役軍人の殺人処女を見繕った国もあるわ」

「もしくは全力で勝ちに来てる国だな。経歴に拘らず軍で最強の女を代表にしてる国もいるぜ」 

「小国はそうっスね。風評よりも利益重視って感じっス」

「余裕がないんだろうな。その点は流石アメリカだぜ、なんせこんな人材が眠っているんだからな」

 

 キワナさんがぐしゃぐしゃと頭を撫でる。

 嬉しいと思ってしまう。

 怖くて逃げたくても、期待されてるんだと思ってしまう。

 ついでに普段滅多に褒めないキワナさんに褒められると心にクルものがあります!

 

「そんな訳で、国家代表は表世界ナンバーワンの貴女しかいないの。OK?」

「了解であります!」

 

 敬礼しながらバシっと答える。

 ナンバーワンなんて言われるとテレますね!

 まったくもってキャラじゃないからプレッシャーも同時に酷いですけど!

 表世界って言い方も私の心にダメージを与えてます!

 

「おい、大丈夫か?」

「へ? 全然大丈夫ですけど?」

「目が泳いでるし汗が酷いっス。イザベラ先輩、荒療治は失敗っスね」

「今更この程度の揺さぶりで度胸が付くわけないですか。本当に手がかかる子ね」

 

 色々と聞かされたが全ては私の為でしたか。

 正直言って本番当日に聞かされても困るのですが!

 

「しかし心を鍛えるのに遅いって事はない。今からでもなにか手を打つか?」

「国内大会で勝負度胸がついたと思ったっスけど、そう簡単にヘタレが治るわけないっスか」

「まぁ試合内容も良くなかったですからね。トリーシャちゃんがひたすら攻撃を凌いでる間に相手のエネルギーが切れたり、トリーシャちゃんのスピードに対応しようと自分もスピードを上げて操作ミスで壁にぶつかって自滅したりと、トリーシャちゃんを追い詰める人は居ませんでしたから」

 

 いえいえ、私は全試合いっぱいいっぱいでしたよ。

 勝てたのは生身の試合じゃなくてISだからです。

 アメリカの大会で色々な人と戦いました。

 プロのスポーツ選手や腕自慢のアマチュア格闘家などが多く、完全素人は私だけ。

 私の他にも現役軍人から教育を受けた人も居たそうですが、その人達は早々に負けたらしいです。

 では何故私が勝てたのか――

 

 素人だからです。

 

 IS戦は生身の戦いとは違います。 

 従来のスポーツ格闘とはまったくの別物なので、プロや格闘術経験者の人ほどIS戦の罠に掛かるのです。

 自分の体力とISのエネルギーは別物だから。

 目立った外傷もなく、体力も充実。

 でも機体エネルギーが切れたら負け。

 それがIS戦。

 その事を知らない……いえ、知っていても試合に集中し過ぎた人は自爆します。

 体は動く、だから攻撃する。

 まだ心は折れていない、だから戦う。

 IS戦でそれは通じません。

 個人的に一番近いと思うのはモーターレースですかね? 

 ガソリンの残量、タイヤの状況、それらがとても大事らしいですから。

 正直、レーサーさん乗せた方が良いのでは? なんて思いました。

 それかゲーム慣れしてるオタクですね。

 

「一度本気で戦うか? ワタシとエマでひたすら殺気ぶつけまくるとか」

「全力で戦った事はあっても、本気で――殺す気で戦った事はなかったっスね」

「このタイミングで廃人になられても困るわよ?」

「それもそうか……そういや、今この場所には世界中から強者が集まってるよな?」

「それはいいっスね。如何にもアメリカって感じがして自分は好きっス」

「下手に問題になったら国際問題よ? ちゃんと相手を選ばないと」

 

 なんか物凄い不穏な会話ですね?

 この感覚には覚えがあります。

 私のトレーニングプランを決める時、三人がこうなるとだいたい酷い目に合います。

 フォースを感じろなんて言われて目隠し状態で組手させられたりね!

 

「まずは外見からだな。もっとクールにしようぜ」

「トリーシャは口ピアスとか似合いそうっスね」

「流石に今から穴は無理ね。ピアスに細工して穴なしで着けれるようにしましょうか」

 

 私が口を挟む暇なくトントン拍子で会話が進む。

 クール? ピアス? こちとら読書好きなただの黒人女性ですよ?

 

「エマ、押さえろ」

「了解っス」

 

 ってなんか押さえられてる?

 

「知ってるぜ? オマエ、給料使ってストレートにしてるよな」

 

 キワナさんが私の髪を撫でる。

 自分で言うのもなんですが、黒髪でサラサラの自慢の髪です。

 ……嘘です。矯正しないとモジャモジャになってしまう残念髪です。

 日本人のストレートな黒髪に憧れてますがなにか!

  

「はい、パーマ液」

 

 イザベラさんは何処からパーマ液を用意したんです?

 エマさんはなんで笑ってるんです?

 キワナさんはどうして私の頭にパーマ液かけてるんです?

 

「や、やめっ……」

 

 ヤメロー!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本代表はとても美人さんです。

 綺麗な黒髪が素晴らしいでね。

 どーもトリーシャです。

 ドレッドヘアーに唇ピアスと、ヤンチャ系黒人の格好をしてます。

 や、別に黒人としては珍しくはないのですけどね? でも親が見たら泣きそうです。

 私も泣きそうです。

 

「本当にやるんですか?」

「やれ」

「やるっス」

「やりなさい」

 

 日本代表の織斑千冬さんをなんとか見える位置で後ろの三人に話しかける。

 帰ってきた答えは無慈悲そのもの。

 三人が立てた作戦はとても簡単――

 

『他国の国家代表に喧嘩を売って度胸付けようぜ作戦!』

 

 である。

 簡単であり、そしてとても有効な作戦だと思う。

 だって私の膝笑ってるもん!

 

「喧嘩を売っても大きな問題にならず、怒ったとしても手を出してこない可能性が高く、そして強者の風格がある。丁度良い相手だな」

「日本なんて流血沙汰にならなきゃ“遺憾である”程度で済むから大丈夫っスよ」

 

 確かに大和撫子なら怒っても殴ってくる事はなさそうですけど!

 プロフィールも見たけど軍人でも格闘家でもなく最近まで普通の学生だったけど! 

 それでもめちゃくちゃ怖いです!

 それとエマさん、その発言は日本政府に知られたらヤバイのでもっと静かな声でお願いします。

 

「大丈夫、ちょっと荒っぽく話すだけよ。もしもの時はちゃんと庇うから」

 

 渡された台本には髪を掴めってありましたよね?

 

 うーん。

 あーん。

 むーん。

 

 ……悩むフリは止めよう。

 ここまで来ては逃げられない。

 そんな事、過去の訓練で散々学んだじゃないですか。

 

「……分かりました。行きます!」

 

 ごめんなさい日本代表さん!

 モンド・グロッソが終わった謝りますから!

 一発ぐらいなら大人しく殴られますから許してください!

 

 そんな感じで私は日本代表――織斑千冬さんに近付く。

 近くで見ると本当に綺麗な髪。

 うぅ……なんで私の髪はああも頑固なんでしょう?

 今はドレッドですし……と、もう目の前ですか。

 ここで軽く深呼吸。

 よし! 気合入れた!

 

「オマエが日本代表か? まだ子供だな。それにしても随分と綺麗な顔をしてるじゃないか」

 

 キワナさんを意識した喋り方で話しかける。

 そして、下を向いて座っている彼女の顎を手で持ち上げた。

 あ、凄く肌触りが良い。

 どんなスキンケアしてるのでしょう? 

 

「アダムズ・トリーシャか。アメリカ代表がなんの用だ」

 

 持ち上がった彼女の顔はとても綺麗です。

 綺麗な黒目が私を見つめる。

 

「口の聞き方を知らないのか黄猿が!」

「いつまで座ってるんだ? さっさと立て!」

 

 ってキワナさん&エマさん! あんたらどんな喋り方してるだかッ!?

 思わず言葉使いが乱れましたよもう!

 これ初手グーパンされても文句言えませんよ!?

 えっと、取り敢えず会話を続けないと―― 

 

「そんなにイジメてやんなよ。ワタシはな、聞きたい事があって来たんだ」

「なんだ?」

「篠ノ之博士についてだ。オマエ、居場所知ってるんじゃないか?」

 

 台本通り簡単な内容から話に入る。

 まつ毛長いなー。

 唇の形綺麗だなー。

 織斑さんって凄く顔が整ってます。

 ……でもその綺麗な顔でジッと見つめるは勘弁して欲しい。 

 女として悲しいものがあるので。  

 

「オイ、聞いてんのか?」

「束の居場所は私も知らん」

「そうか」

 

 元々答えは期待していません。

 そんな簡単に篠ノ之博士の居場所が分かるはずありませんから。

 そんな訳で問答無用で織斑さんの隣に座る。

 これって大丈夫ですかね? 今の私ってアメリカの品位を一人で下げてません?

 さて、色々と泣き言はありますが日常会話その2です。

 

「日本はISの整備はいいのか? 見たところハンガーに並んでないが」

「もう終わっている。そっちこそこんな場所で油を売ってる暇があるのか?」

「今は機体の最終チェック中さ。いや、サービス中と言った方がいいか」

 

 ちらりと視線を向けると、そこには私の専用機が仮組み状態で置いてある。

 真っ赤な血の色がとてもチャーミングです。

 嘘です、怖いです。

 あの色はキワナさんの趣味です。

 それと、仮組み状態なのはイザベラさんの指示です。

 ISの情報って高く売れるらしいですよ?

 いえいえ機密を売る売国奴ではありません。

 売ると言っても、お金、情報、資源と色々ありますからね。

 ……なんで一般人の私がそんな情報知ってるんでしょうね? イザベラさんがワザと情報を漏らして私の逃げ道を塞ぎに来てる気がします。

 私ってあっさり軍を辞めれるんですかね? うふふ……。

 

「それで、まだ私に何か用が?」

 

 すみません、まだ終わってません。

 

「あん? 世間話は嫌いかい?」

「世間話がお望みか? ならそこの取り巻き連中と遊んでいろ」

 

 ここからが本番だ。

 悪役ムーブ!

 悪役ムーブですよ私!

 本当にごめんなさい織斑さん!!

 

「調子に乗るんじゃねーよ。その綺麗な顔を刻まれたくないだろ?」

 

 織斑さんの髪を掴んで顔を寄せる。

 うわぁ、こんな綺麗な顔が目の前だと凄くドキドキしますね。

 

「トリーシャさんそれは流石にマズイですって」

「おーい、謝るなら今のうちだぞー」

「相手見て言葉選べよ猿が!」

 

 そして先輩方は楽しそうですね!

 いい笑顔でノリノリです。

 エマさんとイザベラさんいたってはキャラが崩壊してます。

 

「なんだ? 今更ビビってるのか?」

 

 何も言わない織斑さんに対し、更に挑発を続ける。

 それでも織斑さんは何も言わない。

 そう、何も言わないのです。

 

 よくよく考えてみると、織斑さんは騒ぎもせずにずっと私を見てる。

 喧嘩を売り、髪を掴んでる私に対してだ。

 これ、おかしくない?

 

 織斑さんの綺麗な瞳がまるで観察するように私を捉える。

 なぜこの人は怒らない?

 なぜこの人は私の手を振りほどかない?

 なぜこの人は私を真っ直ぐ見てられる?

 

 ヤバイ……かもです……。

 この人、喧嘩売ってはダメなタイプでは?

 

「チッ、だんまりかよ。ここまでされて何も言わないとは日本代表はチキンだったみたいだな」

 

 逃げる!

 ここは逃げましょう!

 どうしては分からないけど背筋がゾクゾクします!

 

「日本代表は要注意だと聞いたが、とんだ期待ハズレだぜ」

 

 怖いけど悪役ムーブは最後まで!

 ここでヘタレたらどうなるか分かりませんから!

 

「ビビって喋れないとか日本代表は情けねーな」

「トリーシャさんが怖いなら棄権すれば?」

 

 ヤメテ! お願いだからにもうヤメテ!

 そんな気持ちで先輩方を睨む。

 

 パチパチパチ

 

 瞬きを使った秘密の暗号。

 訳は

 

 に げ ろ

 

 普段の先輩達ならここで引くのはない。

 もっと攻めろと言うはずだ。

 つまり、皆さんも織斑さんの異常性に気付いたんですね?

 よし逃げましょうそうしましょう!

 

「もーいい、とんだ見込み違いだった。戻るぞ」

 

 織斑さん、やっぱり謝りに行かないでいいですか?

 もう一度正面から会うのは怖いので!




はい! まさかの新キャラです!
でもモブです!
モンド・グロッソが終わったら出番はたぶんない。

トリーシャちゃんは自己評価が低いタイプ。
その辺に関しては後日束さんから説明があります。
後日=来月くらいに……
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