俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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逃げましたけどなにか?(涙)
スピードある文章ってなに? 個人競技ってどうすれば格好良く書けるの?
なんか勉強になるシーンないかとラノベと二次小説を読む日々(現実逃避)
どなたか詰め将棋かメビウスを題材にした小説知りませんか?

今年の夏三つの出来事

①ロリンチガチャ爆死
②新キャラクター登場(CV田村ゆかり)に釣られキンスレをダウンロード
③初めて夏コミに行く 暑い!(熱い) くさい!(察しろ) キモイ!(横を通り過ぎるおっさんの汗まみれの腕が俺の腕にべっちょりと……) もう二度と行かねぇ!(敗北者感)


モンド・グロッソ③

織斑千冬さんから逃げる様に部屋に戻る。

 戻る途中、先輩方は全員無言だった。

 キワナさんが怒鳴ったり、エマさんが叱ってくれたりすればまだ空気が軽くなると思うけど、お二人は何も言わず難しい表情で歩いています。

 イザベラさんは歩きながら携帯電話を操作しています。

 こちらも表情が巌しいです。

 かくいう私も心臓のバクバクが止まりません。

 待機室までもう少し! 頑張れ私!

 

 

 

 

「ただいま戻りました!」

 

 やっと到着愛しのマイホーム!

 って誰も居ないんですけどね。

 技術スタッフさんはISの所でしょうし――

 

「疲れたー」

「っスねー」

 

 我先にと椅子に座る先輩方が私の付き人役ですしね。

 そんな先輩達は置いといて、私とイザベラさんでコーヒーを用意する。

 

 キワナさんは砂糖とミルクなし。

 エマさんは砂糖なしでミルク多め。

 私はミルク少なめの砂糖たっぷりで。

 イザベラさんはどちらも少量。

 仲が良い四人だけど、食べ物の趣味は合わないのです。

 

「どうぞ」

 

 全員の前にコーヒーが置かれ、みんなで静かに口を付ける。

 やっと一息つけました。 

 一時間にも満たない時間だったのに、数時間のマラソン並に疲れました。

 さて、ここからは断罪の時間です。

 素手で肉食獣に餌をやるような真似をさせた人を吊るし上げます!

 怖かったんだぞこのやろー!

 

「織斑千冬さんが安全安心って言ったのは誰ですか? 大和撫子とが嘘じゃないですか! どう見ても歴戦の勇者でした!」

「イザベラの用意した資料から選んだんだ。責任はイザベラにあるだろ」

「確かエマちゃんが『大和撫子は大人しくて優しいとマンガに書いてあったっス!』なんて言ってたわよね?」

「資料の写真を見て『こいつ強そうな顔してんな』って言ったのはキワナ先輩っス」

 

 こ、この人達は……。

 清々しいまでの責任転嫁です。

 

「誰か一人くらい謝ってくれてもいいのでは?」

 

 別に本気で怒ってる訳ではありませんが一言くらい労ってくださいよ!

 

「最終的に『日本人なら怒ったりしなさそうですね』って言って決めたのはオマエだけどな」

「確か『大和撫子なら安心ですね』って言ったのはトリーシャ自身っス」

「私達はあくまで候補を上げただけ。決めのはトリーシャちゃん自身よね?」

 

 イエスマム!

 ですよね! 自分で決めたんだから自分に責任がありますよね!

 あぁもう、写真からじゃあの怖い気配が伝わらないのが悪いんです!

 

「ところで皆さんから見て織斑さんってどう見えました? ちなみに私は怖かったです」

 

 最初は普通の美人さんでしたが、喋ってみてようやく分かる怖さでした。

 正直言って未知の生物に遭遇って気分です。

 

「アレはなー、ぶっちゃけワタシも騙されたぜ。擬態のレベルが半端なかった」

「一見しただけじゃどう見ても普通だったっスよね。じっくり観察してやっと違和感に気付いたっス」

「真の強者は普段は普通に見えるって聞いたことがあるけど、本当にそうなのね。少しでも相手の情報を探ろうと観察してたら、気付かない内に汗を握っていたわ」

 

 先輩方も最初は気付きませんでしたか。

 あんな綺麗な顔であれだけ怖いって詐欺もいいとこですよね。

 

「んでイザベラ、実際どーよ?」

「書類上はただの元苦学生ね。学校に通いながらアルバイトで生活費を稼ぎ、空いた時間に道場に通う、そんな子よ」

「嘘だろ? 元ギャングのトップとかじゃないのか?」

「それか日本政府が育てた裏の人間とかっス」

「それが普通なのよ、書類上は完璧に一般人ね」

 

 アレで軍属経験もなく、最近まで学生だった一般人ですか。

 世界は広くて怖くて本当に嫌になります。

 

「でもね」

 

 イザベラさんが数枚の書類をテーブルに置く。

 一番上には織斑さんの写真。

 彼女の資料だろう。

 

「篠ノ之博士に繋がりがあるから政府も本気で調べてたみたい。結果的には織斑千冬は白、ただしグレーに近い、ね」

「なんかあったのか?」

「友達が少し関わっていてね、それで聞いたんだけど、織斑千冬の過去には作為的に感じる所があると言っていたわ」

「そいつの勘か?」

「らしいわ。彼女の過去はとても綺麗で、普通で、嘘臭さがあると」

「だがそれは書類に書かれていない。そいつの気のせいじゃないのか?」

「こういった書類に曖昧な情報は書かないわ。それぐらい知ってるでしょ?」

「まーな。そしてワタシはそいつの勘を信じるぜ。どう見ても日本代表は普通じゃない」

「彼女の実力はどれほどのものなのか……貴女の知り合いか軍人に彼女に近しい人は居ないかしら?」

「あのレベルはそう簡単にお目にかかれないが、まぁ居なくはないな」

「私も知ってる人?」

「……一度だけ会った事があるネイビーシールズの人間だ」

「数ヶ月前まで学生だった人間がアメリカの誇る特殊部隊と同格? 笑えないわね」

「確かに笑えないな。なんせワタシが比較してるのはあくまで雰囲気だ。実力は向こうが上かもしれないぜ?」

「弱点とかあるかしら? 正面からやりあったらトリーシャちゃん厳しいかも……」

「もっと資料あるんだろ? 全部だせ」

「用意済みよ」

 

 カリカリ

 クッキーウマー

 

「美味しいですねエマさん」

「そうっスねー」

 

 二人でクッキーをうまうま。

 なんちゃって軍人の私はもちろん、軍の中では若手のエマさんも込み入った話になると蚊帳の外なのです。

 と言うか、先輩二人が会話に夢中になると、年下二人は口を挟めなくなるんですよねー。

 

「この資料は各国の国家代表の情報を詳しく集めたものよ。この情報を元に相手を分析したりするの」

 

 イザベラさんから分厚い紙の束を受け取る。

 私は代表者の人達の簡易プロフィールは知っています。

 履歴書みたいな物を読まされて経歴などを覚えさせられましたからね。

 ですが、この紙の束はそれとは違う。

 まるでそう……ストーカーの日誌ですね!

 私のデータも似たような感じで集められてるんですかね?

 ストーカーに狙われるなんて私も人気者です。ぐすん……

 

「付箋が貼ってあるページを開いて」

 

 言われた通りそのページを開く。

 日付は意外と最近の出来事だ。

 ええと、篠ノ之束と佐藤神一郎の間に暴力事件が発生?

 

 紙には篠ノ之神社で起きた事件について書かれていた。

 

 

 ○月○日

 

 織斑千冬から救急車の要請が入る。

 救急隊が現場に駆けつけると少年が倒れていた。

 少年は腕の骨を折られ、全身に裂傷と打撲痕が見られた。

 警察も到着し、その場に居た織斑千冬に事情を聞くと、友人同士の喧嘩だと発言。

 

 

 これはいったい……?

 

 

「そうね、取り敢えず佐藤神一郎って人間については気にしなくてはいいわ。その子が小学生ってこと以外はね」

 

 へぇ、この篠ノ之博士と喧嘩して腕を折られたのって小学生なんですか……はうあっ!?

 

「小学生!? 篠ノ之博士は子供の骨を折ったんですか!?」

 

 誰もが知っている篠ノ之博士。

 私もISを学ぶ上で彼女について少し学びました。

 写真で見た感じでは、作り物のウサギ耳を装備した明るい雰囲気の美人さん。

 それがなんというクレイジー! なんというサイコパス!

 個人的に絶対に会いたくない人です!

 日本人は外見詐欺ばかりですか!!

 

「いや、問題はそこじゃねーだろ」

「注目する点はそこじゃないっス」

「まぁトリーシャちゃんはそうよね」

 

 あれ? なんでお二人はそんなに冷静?

 そしてなんでイザベラさんはため息?

 

「あのなトリーシャ、今なんの会話してた? 織斑千冬についてだろーだ」

 

 むむっ……。

 言われてみれば今は織斑さんの話題でしたね。

 もう一度資料を読んでから軽く整理しましょう。

 

 ふむふむ。

 なるほどなるほど。

 

 これ、織斑さんは喧嘩が始まる前からその場に居ましたね?

 喧嘩の立会人でしょうか?

 まぁ悪い事ではないですよね。

 喧嘩してる片方が子供でなければですが!

 

「理解しました。織斑さんは目の前で子供が嬲られてる様子を冷静に見てたんですね」

 

 織斑さんは二人の喧嘩を冷静に眺めていたようですね。

 警官の質疑応答に淡々と答えていたと記載されています!

 

「ようやく気付いたか。そうだ、アイツは目の間で子供が骨を折られても“友人の喧嘩”で処理した。ストリートチルドレンやギャングならともかく、平和な日本じゃ異常だろうさ」

「このデータから見るに、彼女は冷静で合理主義者。そして男や女、子供や大人、そういった括りで人を分けたりしないタイプね」

「冷酷な実力主義者っス」

 

 うん、要するに怖い人ってことですね。

 私の中で日本人は怖い生き物確定です!

 

「もっと早くこの書類を見せてくれてれば……」

「この書類は本来なら貴女達には見せないものだもの。もっと上の人間が見るものなのよ?」

 

 個人情報の塊ですもんね。

 しかしなんでそんな書類が此処にあるんですかねぇ?

 

「うふっ」

 

 ウィンクで誤魔化す気ですか誤魔化されましょう! イザベラさんの情報網なんて興味ありませんから!

 

「性格は実戦向けだな。てか異常だ」

「精神が異常だからと言ってもIS戦が強いとは限らないっスよ?」

「でも精神は肉体に作用すると言われるわ」

 

 弱気言っていいですか?

 そんな人と戦いたくないです!

 

「まぁ実力はすぐには分かるさ」

「そうね」

 

 二人が腕時計を確認する。

 もうそんな時間ですか。

 私の出番は後半だから良かったですが、とても心穏やかに試合に望める状況ではないです。

 なんとか時間までに心を落ち着かせないといけませんね。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 コーヒーとケーキをテーブルに並べて準備完了。

 思考を活性化させるには甘いものが一番です!

 

「画面が四つ、音声はなし、お手並み拝見ね」

 

 会場の四方に居るスタッフからのリアルタイム映像。

 余計な雑音をなくすために音声はカットされている。

 

 アリーナの中央に立つには白いISを纏った女性。

 両手に握られてるのはリボルバーですか。

 

「銃の趣味が良いな。10点」

「効率重視ならセミオートの方が良いと思うっス。7点」

「機体と色を合わせてるのは評価するわ。8点」

 

 異常だのなんだのと言いながら、楽しんでる節がありますね。

 私としては普通であって欲しいです。

 

「始まったな」

 

 カウントダウンが終わると同時に、織斑さんが腕を動かす。

 まずは開始位置から狙える的を撃ったようです。

 

「ん? リロードしてないな。もしかして直接弾丸を弾倉にぶち込んでんのか?」 

「器用っスね。慣れれば便利そうだけど、セミオート式にしてマガジンを交換した方が楽じゃないっスか?」

 

 薬莢と弾丸を拡張領域を介して交換してるんですか。

 そのおかげで休まず撃ち続けられると。

 あ、正面にデブリがと思ったら速攻で撃ち落とした。

 

「状況判断が早いな」

「迷いがないっスね」

 

 うん、早い。

 私だったら減点を恐れて避けてるかもですが、織斑さんは違うようです。

 

「操縦が上手いな」

「そうっスね。動きがとても綺麗っス」

 

 同じIS操縦者として織斑さんのレベルの高さに感服する。

 動きが滑らかで無駄がないです。

 デブリを避け、目標を定め、引き金を引く。

 一連の流れがとても綺麗で勉強になります。

 …………じっと見てたら気付きたくないことまで気付いちゃいました。

 

「顔、変わらないわね」

 

 イザベラさんがポツリと呟いた。

 気付きましたか。

 これ、軽くホラーですよね。

 

「顔? ……あぁなるほど、これはすげーな」

「自分には無理っス。これってマンガで読んだ“無心”ってやつっスかね?」

 

 画面の向こうに居る織斑さんの顔は、綺麗なままです。

 そこには普通なら競技中に見られるはずの熱意や焦り、気迫などの表情が一切見えません。

 しかし、人形の様な冷めた目や無気力とは違う。

 なんと言えばいいのでしょう……食事中の顔?

 まるで日常の顔です。

 

「嘘でしょ? 世界中から注目されてる中でここまで感情を揺さぶられないなんてことある? せめて真剣な顔しなさいよ!」

「なんでイザベラさんが怒ってるんです?」 

「あれだけ若いのよ!? もっと熱意とか全面に押し出しなさい! 私があの頃なんて……っ!」

 

 なんかトラウマでもあるんですかね?

 とてもらしくないです。

 おっと、今はそれより織斑さんです。

 

 右手の銃で近くにあるターゲットを撃ち、左手の銃で遠くのターゲットを撃つ。

 射撃技術は私と同じくらいだと思う。

 でもそれは訓練時の話。

 周囲を観客に囲まれた状態で普段と同じ動きが出来るかは不明。

 っていうか、私は絶対にパフォーマンスが落ちる。

 動きが硬くなるに決まってます。

 

 ――進行方向にデブリが出現。私なら避けますが、織斑さんはデブリを撃ちました。

 

 それにしてもデブリを排除するかしないかの判断が早いですね。

 織斑さんは多少減点しても、それ以上に点を取れればと考えてるようです。

 

 ――避けた先にデブリがあった。私なら右に逃げますが、織斑さんは上に。

 

 空に飛べば行動範囲が左右上下と広がる。

 元々地上で生活する私達は、咄嗟の判断だと右か左に避けてしまいます。

 しかし織斑さんはそんな人間の本能などないかの様に飛び回ります。

 凄いですね。

 

「集中してるな」

「いい傾向っス」

「そうね、少し静かにしましょう」

 

 この競技の問題点は、ターゲットは弾丸を当てなければ得点にならないことです。

 手で殴っても点数にならないのがミソなんですよねー。

 逆にデブリには機体の一部でも触れたらアウトです。

 更に、弾丸は当たった最初の一発しか適用されません。

 デブリとターゲットが直線に並んでいても、同時には破壊できないのです。

 これがまためんどくさいんですよ。

 

 おう、織斑さんデブリを殴って破壊したよ。

 振り返りながら裏拳でデブリを殴って左手の銃で狙撃。

 とても格好良いです。

 

 私が今まで人生で学んだ事。

 それは“できる人を真似ろ”です。

 勉強が得意な人からその人の勉強方法を学ぶ。

 スポーツが得意な人からその人の動きを真似する。

 それだけである程度の成果が出せるのです。

 これでも一応アメリカ代表、怖がってばかりではいられません。

 ですから織斑さん、勉強させてもらいます!

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 アメリカ代表とそのお供が個性の塊だった件について。

 

「これは素晴らしい。キャラ立ってますわ」

「そだね。だがお前達の生に意味はない」

 

 現在アメリカ代表の控え室を監視カメラで盗撮なう。

 やー、まさか千冬さんに喧嘩売ったのは仕込みだったとは思いませんでした。

 アメリカ代表のトリーシャちゃんを含め、お仲間もさっきまでと全然違うじゃん。

 なんて素敵な人達なんだ。

 個人的に大好きです!

 しかし、束さんには彼女達の素晴しさが理解できないらしい。

 

「いい加減離してくれないかな?」

「だから落ち着きなさいって」

 

 ギリギリギリ

 

 羽交い絞めする俺と、怪しい赤いボタンに手を伸ばす束さんが静かに争う。

 こっちは手足にISを纏ってるのに負けそうなんですが!?

 

「どんな理由があろうと、ちーちゃんの髪を掴んだ汚物は焼却するのみ!」

「にゃろう!」

 

 徐々に力負けしてきた。

 こうなっては仕方がない。

 俺の新しい商品をくれてやろう!

 

「そいっ!」

「フム!?」

「どーどー」

 

 拡張領域から出したマクラを束さんの顔面に押し付ける。

 こちら、千冬さんと一夏と箒の匂いが染み付いた布の切れ端を投入した新作になります。

 落ち着くだろ?

 

「……いひ」

 

 なにこの子キモイ。

 マクラの下から異様な声が聞こえるんですが。

 

「深呼吸しましょうねー」

「むーふー」

 

 素直でよろしい。

 これなら大丈夫だろう。

 

「そもそも対戦相手を勝手に消したら千冬さんが怒るのでは? 千冬さんなら自分でケジメをつけますよ」

「むひひ」

 

 聞いてる? うん、たぶん聞いてるはず。

 

 赤毛の強気系お姉様。

 プロポーション抜群の腹黒系女医。

 ワンコ系元気っ子。

 思わず虐めたくなる気弱系少女。

 

 俺が絶対守ってみせる!!

 

「ほら、このマクラあげるから大人しくしよ? ね?」

 

 優しーく。

 優しーく接する。

 荒ぶる天災には注意が必要だ。

 二次災害は御免被りたい。

 

「はすはす」

 

 束さんが鼻先をマクラに埋めて抱き締める。

 よし、顔から険が取れてる。

 これならなんとかなりそうだ。

 

「しー君は随分とアレを気に入ってるみたいだね?」

「そりゃあもう」

 

 カメラの先では、千冬さんについての話し合いがされている。

 取り敢えず千冬さんが人外認定されてるのに笑う。

 せめて角が翼でもあれば話しは別だが、あの程度で人外とはオタクとして認めません!

 肌を青か紫に塗り替えてからどうぞ。

 

「ふーん、まぁしー君の趣味はどうでもいいんだけどさぁ……」

 

『小学生!? 篠ノ之博士は子供の骨を折ったんですか!?』

 

「あの顔見ると腹パンしたくなんない?」

 

 禿同!

 や、激しく同意じゃねーよ俺。

 でもあの怯えてる顔みると……ゴクリ。

 

「私が拉致してしー君がお仕置き。それでオケ?」

「オケ――じゃない!」

 

 あぶなっ! もう少しで悪魔の囁きに負けるとこだったぜ。

 

「ちっ」

 

 なんて可愛くない舌打ち。

 油断も隙もないですな。

 束さんの行動を抑えつつ、彼女達を守る方法は……輝け俺の脳細胞!

 

 

 

 ひらめきました。

 俺の脳細胞は素晴らしい。

 

「お仕置き云々は千冬さんに任せては? 髪を掴まれた恨みもあるでしょうし、きっと衆人観衆の目の前でボッコボコにしてくれますよ」

「…………ふむ」

 

 長考入りました。

 ここは押せ押せで!

 

「想像してごらん、観客の目の前で千冬さんに手も足も出ず地面に這い蹲るアメリカ代表の姿を」

「ん」

 

 束さんが目を閉じて妄想の世界に飛び込む。

 

「泣き叫び許しを請うも、非情に切り捨てその頭を踏む怒れる最強を」

「………くふ」

 

 束さんの口角が釣り上がる。

 勝ったな。

 俺も束さんの扱いに慣れたもんだぜ。

 でも調子に乗らないぞ。

 扱いミスったら俺の精神が死ぬ。

 

「どうです束さん、千冬さんにお任せで問題ないと思いますが」

「その提案を受け入れようじゃないか。うん、ちーちゃんがアイツの髪を掴んで振り回すのとか見てて楽しそう」

 

 そんな荒っぽいこと流石にしないでしょ。

 ……しないよね? いや、テンション次第ではありえそう。

 

「んじゃまぁアイツ等の処遇はちーちゃんに任せるとして、そろそろ用意しようじゃないか」

 

 ん、もう時間か。

 そろそろ準備を始めないとな。

 

「ツマミ用意してきます。束さんはフライドポテトは何派?」

「醤油マヨと辛味噌で」

「マジかよ」

 

 日本人としてはとても正解だけど、マヨorケチャップの正統派である俺とは相容れないな。 

 

 

 

 

 場所を移して俺の自室。

 中央のちゃぶ台にはほかほかの山盛りフライドポテト。

 そしてキンキンに冷えたビール。

 観戦と言えばこれしかないだろ。

 

「はいしー君の分」

「どうもです」

 

 束さんから受け取った物を装備する。

 

 額にハチマキ。

 書かれてる文字は【必勝ちーちゃん】

 

 白のはっぴ。

 背中には【ちーちゃん命】 

 

 両手にはパチンコ玉入りのペットボトル。

 

 これぞ由緒正しき応援スタイル。

 部屋の壁にはプロジェクターテレビ生放送特番のモンド・グロッソが映し出されている。

 プロジェクターテレビは画質が悪いと思っていたが、そこは束さん製のテレビ、とても綺麗だ。

 

『モンド・グロッソ初日、ついに日本代表が出陣します! アリーナの中央に降り立つは白き鎧を纏った日本の若武者、織斑千冬だァァァァ!!』

 

「「オッリムラ! オッリムラ!」」

 

 ガンガンとペットボトルを叩き合う。

 テンション上がりますな!

 

『織斑選手は剣術道場に通っていたとのこともあり、日本代表を決める大会では素晴らしい剣技を見せてくれました。今大会ではどんな活躍を見せてくれるのか楽しみですね』

『射撃に関しては未知数ですが、彼女ならきっとやってくれるでしょう』

 

 実況者と解説者の人って大変だよね。

 なんせ事前情報がほとんどないスポーツだもの。

 

『カウントダウンが開始されます。日本の皆さん、是非とも応援してください。5、4、3、2、1、GO!』

 

 アリーナ内に多数のターゲットとデブリが現れたが、瞬時に千冬さんの周囲のターゲットが砕けた。

 

「ひゅう♪ ちーちゃんやるー」

 

『一瞬でターゲットが砕かれたァ! まるで居合切りの様な射撃だァァ!! 撃ち終わった織斑はすぐさま移動を開始! 移動しながらも手が止まらない! 次々とターゲットが破壊されていくッ!』

『織斑が使用してるのはリボルバータイプの銃ですが、リロードしてる様子が見れませんね。恐らく拡張領域から直接弾丸を弾倉に込めてるのでしょう』

 

 むしゃむしゃむしゃ

 

 ポテトとまらん!

 

『容赦なくデブリを撃ち抜きそのままターゲットを撃破!』

『状況判断が早いですね。失点を恐れず強気に得点を狙っています』

 

 邪魔するものは撃ち砕く!

 流石は千冬さん漢らしい。

 

『織斑の射撃が止まらないッ! ターゲットの破片が舞う中を飛ぶ姿はいっそ美しくもあります!』

「わかりみ深い」

 

 束さんがコクりと頷く。

 俺には全然わからん。

 

「あの能面顔が美しいとか本気ですか?」

 

 なんだろうね、新聞読んでる時の顔?

 競技中なのに、顔には真剣さや熱意などがまったく感じられないのだ。

 この大観衆&世界への生放送の中でようやるわ。

 

「あの顔が良いんじゃん。他の連中が必死な顔してる中で一人あの顔だよ? ちーちゃんの美しさが際立つってもんさ」

 

 綺麗? 世のスポーツ選手達がみんなあの顔でプレイしてたら、それはきっとホラーだ。

 試合中にはそれなりの表情が必要なんだなって気付いたよ。

 

『裏拳が炸裂ッ! デブリを殴り飛ばしそのままデブリの後ろにあったターゲットを撃破ッ!』

 

 撃ち砕くではなく打ち砕く。

 あぁ、うん。

 いつも通りの千冬さんだ。

 

『デブリとデブリの隙間を瞬時加速で駆け抜ける姿はまさに白い流星だァァ!』

 

 白い悪魔の間違いでは?

 しかし実況者も大変だな。

 色々と言い回し考えないといけないんだから。

 

「白い流星は気に入った。この男のボーナス10%アップ」

 

 千冬さんを格好良く褒めただけでお金貰えるの!? なにそれズルい!

 

「千冬さんってまるで白い悪魔ですよね」

「黙れ。ちーちゃんに集中できない」

 

 ちくしょう!

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 デブリを避け、撃つ。

 そんな単純作業を繰り返す。

 正直この競技は好きではない。

 最初の頃は遮蔽物を避けるゲーム性が少し楽しかったが、回数をこなせばそれも飽きてしまう。

 

 デブリの出現位置が悪い。

 逃げ道を塞ぐように出現するのは私の運が悪いからか。

 最高の人類を造るのなら運も上げといてくれ。

 勝負には大事なファクターだと知らないのか?

 

 視界の隅に表示される試合の残り時間が10秒を切る。

 現在の時点で暫定一位。

 だが、安全圏とは言えない。

 

 日本代表には一種の偶像性が求められる。

 ただ漫然とモンド・グロッソに挑むのは許されない。

 日本代表である事は私の仕事だ。

 

 さて、運良く試合開始位置の場所に戻って来た。

 ……嘘だ、運などではなく計算だ。

 何故ならこの位置が一番栄えるから。

 

 山法師を真上に投げる。

 競技中は銃以外の武器は使用禁止だ。

 銃以外、はな。

 

 重力に引かれて落ちてくる山法師に鬼灯を向ける。

 引き金を引くと、弾丸が山法師に命中した。

 甲高い音と共に、あさっての方向にあったターゲットが砕けた。

 

 跳弾

 

 それが私の切り札だ。

 残り5秒。

 跳弾で当てれる範囲のターゲットは全部狙えるな。

 

 山法師に当たって弾かれた弾丸は、デブリを避けてアリーナ内に点在する所々のターゲットに命中する。

  

 ウォォォォォ!!

 

 会場が沸く中、観客に向かって手を上げる。

 そして、ゆっくりと頭を下げて一礼した。

 

 ……やってみて思ったが、ちょっとクサいか?

 




千冬さん試合終了直後

と「勉強……勉強……真似できるかッ!」
た「ちーちゃん……しゅき♡」
し「最後のシーンをブロマイドにしたら売れる!」

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