俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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実家の猫に会いたい症候群発病中(泣)

俺の愛猫どこ? ここ?


モンド・グロッソ④

 いつもニコニコ笑顔が絶えないチーム。

 それが私たち、トリーシャと愉快な仲間達です。

 四人が揃えばどんな場所でもなにかしらの話題で盛り上がりますが、そんな職場が今ではお通夜ムードです。

 暗いです怖いです。

 

「エマ、オマエあれ真似出来るか?」

「無理っス。数発撃って軌道を確認しながらならともかく、ぶっつけ本番で連続で当てるとか不可能っス」

 

 エマさんでも無理ですか。

 でも仕方がないですよね。

 あの連続跳弾なんてどう考えても人間技じゃないもん。

 私はエマさんが人間で嬉しいです。 

 だけど――

 

 私はエマさんの弟子。

 私はエマさんより射撃能力は低い。

 つまり私は織斑さんに勝てない。

 

 なんて結論がチラチラと脳内に浮かびます。

 いやいや、それは早計でしょう。

 弟子が師を信じなくてどうしますか!

 

「オマエより射撃が下手なトリーシャじゃ勝てないんじゃないか?」

「無理だと思うっス」

 

 ガッデム! 手酷い裏切りを見た!!

 もう少し弟子を信じてもいいのでは?

 や、勝てる気は全くしませんけどね。

 だって私の最高記録よりだいぶ高い点数ですもん。

 本番中に二次移行して競技に有利な単一能力が目覚めればワンチャン……。

 あ、気分が落ちてきた。

 助けてお姉様!

 

「……ふむ」

 

 頼りになるイザベラ先生は、さっき見ていた織斑さんの資料を見ながら考え事中。

 あの、アメリカの代表が心に傷を負いそうですよ?

 

「なんだイザベラ、弱点でも探してるのか?」

「いえ、明日の競技について考えてたの」

 

 明日の競技ってとても野蛮なアレの事ですか。

 考えた人間はどんな脳ミソしてるのかッ!

 初めて競技の説明を聞いた時、ちょっと責任者出てこいって気分になりました。

 所でこのタイミングで明日の競技の話しって嫌な予感が……。

 

「トリーシャちゃん。貴女、織斑千冬を口説きなさい」

「やっぱりロクでもない内容だった!」

「あの雰囲気に巧みな操縦技術、逸材だと思わない?」

「口説けとか冗談ですよね!? 髪の毛掴んだりしたんですよ!?」

「大丈夫。彼女をプロファイリングした結果、上手くいくとでたわ」

「根拠をお願いします」

「織斑千冬は強者よ。きっと貴女が噛み付いた事を怒ってないわ。そして彼女は合理的、貴女が謝って協力を求めればきっと受けてくれるわ」

 

 ライオンがアリに噛まれても怒らない理論ですね。

 言ってる事は理解出来ます。

 でも問題はそこじゃないんです。

 

「喧嘩を売った次の日に口説けとかどう考えても罰ゲームじゃないですか!?」

「何言ってるの? 誰を引き込むかは早い者勝ちよ? 口説くのは今日よ」

 

 なんでヤレヤレって感じなんですかねぇ!?

 昨日の今日どこから当日に動けと?

 

 無理です。 

 マジ無理です。

 むりですぅー!

 

「キワナさんもエマさんも反対ですよね!? だいたい喧嘩を売った次の日に口説くとか更に喧嘩を売る行為ですよね!? ね!?」

「イイんじゃねーか? 出場者の中でも実力はピカイチだろうしな。それに喧嘩相手が次の日ダチになるのは珍しくないだろ?」

「ガンバっスよトリーシャ」

 

 キワナさんはそうですよね。

 勝つ為に強い相手を仲間に引き入れるのは手段として真っ当ですもんね。

 殴り合いからの友情はとてもらしいです。 

 

 エマさんは諦めモードですね。

 申し訳ないけど自分には止められないから頑張れと、そんな視線です。

 

 マジですかー?

 

「そんなに嫌なの? 別に彼女が嫌いって訳じゃないでしょ?」

「嫌いじゃないです。嫌いって言えるほど織斑さんの事知りませんし。怖いけど嫌いではないです」

「だったら良いじゃない」

「むー」

 

 イザベラさんは人事だから簡単に言えるんです。

 どんな顔して織斑さんの前に立てばいいのか……それが分からない!

 

「なら条件を付けましょう」

 

 唸って悩んでいると、イザベラさんがそう切り出した。

 条件とな?

 

「もし一位になったら明日の競技は貴方に全部任せるわ」

「……織斑さんを口説くも口説かないも自由だと?」

「そうよ」

 

 ムムム……。

 思わず口がへの字になる。

 

 一位はかなり絶望的だ。

 最高のパフォーマンスを発揮したとしても、織斑さん越えは厳しい。

 しかし、このゲームは運の要素を含むゲームだ。 

 

 ……ターゲットとデブリの出現場所次第でイケル?

 

「いいでしょう。その話に乗ります!」

 

 どうせ嫌だと言ってもゴリ押しされるに決まってる!

 譲歩されただけでも良しとしましょう!

 

「おー、珍しくやる気だな」

「普通に考えて進んで罰ゲームなんてしたくないっスよ」

「ふふっ、やる気が出た様でなによりだわ」

「怖い女っスねイザベラ先輩」

「私には褒め言葉よ」

 

 先輩方の話はもう無視です。

 取り敢えず録画した織斑さんの試合を見直しましょう。

 今から実力を大幅に上げるのは無理。

 でも出来る事もあります。

 それは織斑さんの動きを模倣すること!

 パクリではなく模倣と言うと少し格好良いですよね!

 

 織斑さんは二丁拳銃を使用し、移動中も休むことなく撃ち続けた。

 ちなみに私も二丁拳銃です。

 この競技は手数が大事ですからね。

 アサルトライフル系だと弾丸をばら撒きすぎてデブリに当ててしまう可能があるので、選手のほとんどがハンドガンです。

 左手の扱いに慣れろと言われ、食事も着替えも全部左手でやっていた日々が懐かしいです。

 早く慣れる為に利き手は使うなと言われ、右手を包帯でグルグル巻きにされた恨みは忘れてません!

 迫り来る尿意! 使えない右手! 焦って震える左手! なにもかも忘れたい!

 

 ま、いいです。

 過去は忘れてモンド・グロッソに集中しましょう。

 さて、織斑さんの強みですが、なんと言ってもISの操縦技術と判断能力でしょう。

 デブリとデブリの隙間を瞬時加速で駆け抜ける技術、咄嗟の判断で選択肢に上下の移動も入る機転の良さ。

 と、語ってみますが、単純に全部スゲー! でいいと思います。

 最後の連続跳弾なんて目が飛び出るかと思いました。

 なんなんですかねあの人。

 去年まで学生とか絶対に嘘だと思います。

 アメリカじゃあるまいし、日本人なら銃を初めて扱ったのは学校卒業後のハズ。

 銃器の扱いも天才かよこの野郎!

 ……失礼、言葉が汚くなりました。

 実際に体を動かす暇がないのが残念です。

 そこはなんとかイメージトレーニングで補うしかないですね。

 

 私は絶対に織斑さんを口説いたりしません!!

 

 

◇◇ ◇◇ 

 

 

 織斑千冬のオッズは6.7倍。

 人気はラッキー7の7番人気である。

 

 織斑千冬を知ってる人間から見れば、どこに目を付けてるんだと言いたくなる。

 しかし、一般人から見ればこの評価は仕方がないだろう。

 ネットで日本代表の事を調べると、 

 

 IS原産国の日本が制作した専用機はきっと凄い。

 てか全く無名な人なんだけど? 誰これ?

 踏まれたい。

 

 などと、色々な意見が出る。

 まぁプロジェクト・モザイカ産の完璧な人類も、他人から見たらたいした実績のない素人なのだから仕方がないことだ。

 それでも日本代表決定戦での戦いぶりやISを開発した国の代表と言うこともあり、そこそこの人気がある。

 そこだけは非常に残念だ。

 日本人など敵ではないと侮ってくれれば倍率が更に上がったかもしれないのに。

 そんなこんなで――

 

「千冬さん素敵すぎ――ッ!!」

「ちーちゃんラブ――ッ!!」

 

 千冬さんの出番が終わり、二位に大差をつけての暫定一位。

 これはもう決まったも同然だろう。

 あ、ちなみに俺が賭けたのはあくまで総合一位が誰かです。

 個人競技も賭けの対象になっていたが、そっちはリスクが高いのでやめといた。

 

「これはもう勝ち確ですかね?」

「たぶんね。ちなみに私はちーちゃんの活躍を楽しむ為に、各国代表の能力や機体情報を集めてないからそこんとこよろしく」

 

 ありゃま、それは意外だ。

 束さん=情報収集の鬼ってイメージがあるからな。

 でも試合を楽しみむならそれが正解か。

 束さんなら国家代表のデータと機体のデータを揃えれば、脳内で順位付けできそうだもん。

 それにしても千冬さんは良い仕事をしてくれた。

 試合の最後に見せたまるでスターの様な一礼。

 とても絵になってました。 

 そう、思わず録画動画をパソコンで加工して一枚絵にしてしまうほどにね!

 これは売れるでホンマ!

 うーむ、シークレットカード扱いでいいかな?

 いや、オマケカードでいいかも。

 

「束さんや、この後の試合に興味ある?」

「ちーちゃんに喧嘩を売ったアメリカ代表にちょっと興味あるけど、別に録画でもいいかな。私の出番なんでしょ?」

「流石は束さん、わかってらっしゃる」

 

 くっくっくっと、二人の笑い声が部屋に響く。

 別にこれから悪い事はしないですよ? えぇ、ただ気合入れてるだけです。

 

「千冬さんの優勝が決まって場が盛り上がった時に始めようと思ってたのですが、今なら十分でしょう」

 

 ネットで確認してみると、だいぶ千冬さんの話題で盛り上がってるしね。

 それにしても最後の跳弾は驚いた。

 あれって銃弾が反射する角度とか計算してるんだよね?

 織斑千冬脳筋説がまさか覆されるとは。

 勘で撃ったって可能性もなきにもあらずだけど。

 

「千冬さんの日常風景を切り取った写真。まずはRが30種!」

「うむ。ちーちゃんに憧れるも会話さえ出来ない哀れな雑魚共に少しばかり慈悲を与えようじゃないか」

 

 竹刀を構えた千冬さん。

 ジャージ姿で汗を拭く千冬さん。

 学生服の千冬さん。

 などなど、千冬さんの日常を切り取った写真だ。

 今まで千冬さんとは関わりのなかった人間には垂涎物だろう。

 ちなみにこちら、束セレクトとなっております。

 

「そしてRよりも露出度などが高いSRが10種!」

「太もも二の腕うなじ! ちーちゃんの色気に酔うがよい!」

 

 夏服の千冬さん。

 髪をかき上げる千冬さん。

 ストッキングを装着する最中の千冬さん。

 そんなお色気度の高い千冬さんが揃っております。

 なお、汗でブラが浮かんでる写真やパンチラなどはありません。

 ……束チェックでデータごと没収されるからね。

 

「そしてお待ちかねのSSR! コスプレ姿や浴衣姿など5種! 艶姿を楽しめ!」

「これは本当に迷いました。私が言うのもなんだけど、売るのがもったいない品です」

 

 選ばれた5種類は、

 

 海水浴での水着姿。

 ハロウィンのいぬみみ姿。

 温泉での浴衣姿。

 風呂上り姿(Tシャツハーパンで髪がしっとり濡れている)

 屋台で汗だくになりながらかき氷を作る姿。

 

 の5点だ。

 これももちろん束セレクト。

 よく束さんが売るのを許可してくれたと今でも思う。

 まぁ『千冬さんの素晴らしさを世間に広めたくないのか!』という説得を小一時間……二時間ほどした結果だけど。

 

 水着写真は何も言わなくてもいいだろう。

 エロい。

 ただそれだけだ。

 

 ハロウィンは激レアだ。

 “あの”織斑千冬のコスプレだぞ? 素晴らしいの一言だ。

 むっつりした顔で犬耳を装備している千冬さんがラブリーです。

 

 浴衣姿はチラリと見える鎖骨と生足が美しい。

 浴衣は『あれ? もしかして下着着けてなくね?』という妄想を男にさせる魔性の衣装だ。

 

 お風呂上がりの姿は日常の一幕だ。

 女性がお風呂に入るのは当たり前だし、男が湯上り姿に興奮するのも当たり前だ。

 着てる服が普通の姿なのに妙に色っぽい。

 いや、普段着だからこそ色っぽい。

 妄想がはかどる一枚だ。

 

 屋台での一枚は玄人向けだ。

 汗だくの顔、むき出しの二の腕、額に張り付く前髪。

 それらに興奮する人間にはご褒美な一枚だ。

 

「この全45種で俺の数年分の生活費を稼いでみせる!」

 

 コモンがないのは仕様です。

 だって束さんが『ちーちゃんの写真は全部レアなんだよ!』って言うんだもん。

 

 織斑ガチャの全貌はこうだ。

 

 

 単発は300円。

 

 十連ガチャは3000円で10枚(SR以上1枚確定)。

 

 Rがタブった場合、SR交換チケの欠片が貰える(10枚揃えると好きなSRと交換できる)

 

 SRがダブった場合はSSR交換チケの欠片が貰える(10枚揃えると好きなSSRと交換できる)

 

 SSRがダブった場合は未所持カード交換チケの欠片が貰える(10枚で好きな写真と交換できる)

 

 全種コンプした場合、シークレットカードが貰える(IS装備で一礼してる姿)

 

 

 自分の優しさに惚れ惚れするね。

 天井設定を付けるとか神かな?

 そのへんの塩が効いてる人とは違うんだよ。

 でも排出率は表示しません。

 ガチャの闇に落ちるがいい! 一足早く未来のガチャの闇ってやつは味あわせてやんよ!!

 ま、半分冗談だけど。

 

「束様、よろしくお願いします」

「うむ」

 

 販売所のサイトを作ってくれたのは束さんです。

 ほら、クレジット決算で売るからさ色々と手間があるんだよ。

 完全に闇サイトだが、束ウォールで守りは完璧です。

 個人的にも贅沢な天災の使い方だと思う。

 

 今更だけど、このままで良いのだろうか?

 そんな考えが脳裏をよぎる。

 怪しい……束さんの態度があまりに怪しいのだ。

 ここまで俺に協力的ってどうなの?

 謝罪の気持ちとか言ってたけど、束さんがこうも優しいと逆に怖いんだが。

 だって篠ノ之束だよ? 

 ここまで優しいと裏がありそうで怖いんだよな。

 

「ん?」

 

 俺が見つめていると、優しく微笑みながら首を傾げる。

 とてつもなく怪しいが、俺には束さんの協力を求める以外に選択肢はない。

 働きたくないでゴザル! 働きたくないでゴザル!

 んなわけで、俺はモンド・グロッソで盛り上がってる掲示板などにサイトのURLを貼っていく。

 普通なら絶対に踏まれないだろうけど、今はネット民もまだまだ油断してる時代。

 千冬さんのエロ写真欲しいだろォォォ?

 

 売上のカウンターが動き始めた。

 

「ふ……ふは……」

 

 頬の筋肉がピクピクと動く。

 どこの誰がやってるかも分からない未知のサイト。

 背景が黒で、デフォメルされたウサギがサイト内で掲示板を案内している。

 そんなサイトでクレジットカードを使うなんて怖いはずだ。

 しかし、いつの時代、どの世代でも引っかかる……もとい、一歩踏み出す勇者が存在する。

 そしてそんな勇者達はきっとメールなどで友人に自慢するだろう。

 中には写真データをくれと言う友人もいるかもしれない。

 くれくれ廚はいつでも存在するからね。

 だがしかし! 束さんの手によって写真データはロックされているのだよ!

 くれくれ廚も転売屋もお呼びでない!

 写真データはUSBケーブルを通してパソコンとケータイ間でのやりとりは出来るが、メールでの転送やプリントアウトは出来ない仕様なのだ。

 友達の家に行って直接写真データを貰う? そこまでやるなら文句は言わないさ。

 サイトはモンド・グロッソが終了次第閉鎖する予定だ。

 よって、一時的にでも転売などを抑えれれば構わないのです。

 

「ちーちゃんに憧れるも絶対に手が届かない哀れな雌猫どもがちーちゃんの写真を買い漁る様はなんだか興奮しますな!」

 

 テレビの中で美しく舞う織斑千冬。

 多くの人間が千冬さんに釘付けになっただろう。

 そんな千冬さんに束さんは気軽に会えるし、触れる事もできる。

 束さんの自尊心は満たされまくりだ。

 そりゃ早口にもなるさ。

 ちなみに俺の場合、どんどん増えていくお金の額に興奮しまくりです。

 ソシャゲが集金に走る理由わかるわー。

 長く続けば維持費が掛かる。

 アマチュアの絵師さんに絵を描いてもらって、有名声優にバトルパートの声だけもらって、一年くらいで配信停止。

 それが一番儲かるのでは?

 金策プランとして有りかもだな。

 いや、我慢しろ俺!

 オタクが同じオタクを騙すような真似は許されない! 

 

「しー君はなんで渋い顔してるの? 儲かってるのに」

「自己嫌悪中です」

「ちーちゃんの写真売った事を後悔?」

「や、それは全然」

「うむ、それでこそしー君」

 

 なんか褒められた。

 千冬さんへの罪悪感?

 子供、親なし、天涯孤独。

 それらの魔法の言葉がある限り俺の心は防弾ガラスで守られてます。

 

「自己嫌悪終わり! 今日は贅沢な晩ご飯だよ束さん!」

「期待してるよしー君!」

 

 束さんは千冬さんの活躍を見れてにっこり。

 俺はお金が入ってにんまり。

 みんな幸せで良い事だ。

 

「……あん?」

 

 でもどうしてか束さんの不機嫌な声が聞こえるぞー?

 

「なにかありました?」

「ちょっとアレ見てみ」

 

 クイっと顎で刺す先にはテレビ。

 モンド・グロッソの中継が続いてる。

 音が僅かにしか聞こえないのは邪魔になるから音量を下げてたからだ。

 取り敢えず音量を上げてっと――

 

『イギリス代表のエラが四本の腕を使用しどんどん得点を重ねる!』

 

 イギリス代表さんか。

 金髪碧眼のいかにもお嬢様って感じだ。

 イギリスと聞くと思い浮かべるのはやっぱり未来の国家代表候補のセシリアだ。

 そのセシリアに負けないくらいの貴族オーラを感じる。

 これは眼福。

 って問題はそこじゃないな。

 彼女の専用機は白を基調としたカラーリングで金色のラインが入っている。

 他のISと明らかに違うのは、肩から後方に向かって伸びる腕だ。

 

「隠し腕って言うにはお粗末な作りだね。でもそれで優位に立ってるから馬鹿にはできないか」

 

 束さんが小さな仮想ウィンドウで何か見ていた。

 

「ちょっと俺にも見せてください」

「ほい」

 

 試合開始直後の映像が流れる。

 今の映像と肩の形状が違うな。

 肩に突起物が付いてる状態だ。

 

「ここからにょいーんってなります」

「確かににょいーんですね」

 

 肩の突起がパカッと割れて何かがにょいーんと伸びた。

 出てきたのは細っこい腕だが、その手にはしっかりと銃が握られている。

 

「まさかの四刀流ですか」

 

 イギリス代表は両腕と二本の隠し腕を使い次々とターゲットを破壊していく。

 隠し腕はそこまで自由に動く様ではないみたいだが、後ろにターゲットがあれば確実に撃破している。

 隠し腕は束さんの言う通りそこまで性能が良いように見えない。

 狙いを定めて撃つと言うよりは、隠し腕を出来るだけ動かさずに撃てるよう立ち位置を決めてる感じだな。

 隠し腕ってよりは後ろに銃口を向けた固定砲台が近いか?

 

『エラの得点が止まらないッ! 前方後方のターゲットを4つの腕で狙い撃つイギリス代表に死角はないのかァァァ!?』

 

 なにがマズイって、点数の重ね具合が千冬さん並なんだよね。

 これはもしかして神の試練があるやも知れぬ……。 

 

「んぎぎぎぎッ!」

 

 天災がハンカチ咥えながら悔しがっておられる!?

 おぉ神よ、我を救いたまえ。 

 

「んぎぎぎぎッ!! ――ふぅ」

 

 ぶしゅっと火が消えた音が聞こえた。 

 まさかの自然鎮火だ。

 

「まぁ認めるべきだよね。弱者が知恵を使って強者に勝つ。そんな物語を否定はしないさ」

「まだ試合は終わってませんよ?」

「つい脳内で計算しちゃった。このままならちーちゃんは負けるよ。私が会場のシステムをハッキングしてターゲットとデブリの出現場所を弄れば結果は変わるけど」

「それは良くないからやめときましょう」

「だよねー」

 

 そんな事をしたら、千冬さんは確実にキレるだろう。

 俺だって見てて気持ちがいいものじゃない。

 それにしても千冬さんが負ける、ね。

 今の所は互角なイメージがある。

 機体性能は大差ないかな? 詳しいスペックは分からないが、大きな違いがあるようには見えない。

 手数はエラが上。

 操作技術は千冬さんかな? エラも瞬時加速を使うが、千冬さんみたいに連続使用などは

してないし。

 俺から見れば結果が読めない好勝負なんだけど。

 

「こうなるとちーちゃんの専用機を私が組めなかったのが悔やまれるよ。私が作ったISならあんな小細工で負けるなんて事にならないのに」

「千冬さんの専用機って束さんは一切関わってないんですか?」

「関わってないよ。そりゃあ私が自分の手でちーちゃんの機体を組みたかったけど、それは流石に可哀想だと思って自重したんだよね」

「可哀想?」

「私の機体にちーちゃんが乗ったら無敵だよ? モンド・グロッソなんて一切の盛り上がりがなく優勝が決まるもん」

 

 そのタッグは確かに凶悪だな。

 そもそも機体性能が違う。

 他の国家代表がザクⅠに乗ってるのに、自分だけザクⅢに乗ってる様なものだ。

 しかもパイロットが強化人間。

 ちょっと相手したくないです。

 

『決まったァァァア! イギリス代表のエラ・テイラーが高得点を叩き出したッ! これによって暫定一位はエラ、二位が織斑となります!』

 

 本当に千冬さんを超えたよ。

 やりおる。

 ま、それはともかくだ。

 

「ふーむふむふむ」

 

 キュイィーン!

 

「ここがこうと」

 

 カンカンカン

 

 束さんが超怖いんだが。

 千冬さんが負けたのに、怒る訳でもなく工作を始めている。

 拷問器具とかじゃないよね? 俺の心拍数が徐々に上がっています!

 

「完成っと」

「ッ!?」

 

 束さんが立ち上がるを見て思わず反応してしまう。

 

「……なんで距離を取るの?」

「……なんで近づいて来るんです?」

 

 じりじりと束さんがにじり寄って来る。

 待って? ねぇ待って?

 なんで近づいて来るの? もしかしなくても俺に八つ当たりするつもりだろ!?

 

「……流々武貸して」

「……やだ」

「貸せ」

「あい」

 

 待機状態の流々武を首から外し、束さんに差し出す。

 相棒を地獄のお供にするわけにはいかないもんね。

 

「さてさて、今作ったコレをインストールしてっと。――移動しようか」

 

 腕を掴まれ問答無用で引っ張られる。

 ストレス発散的な意味で殴られるかと思ったが、どうも違うみたいだ。

 ズルズルと引きずられたどり着いたのはデ・ダナン内の一室。

 ただただ広い空間がある部屋だった。

 天井が高い体育館って感じだな。

 地元にある地下秘密基地と同じ作りだ。

 

「ここは試作ISや発明品のテストをする場所だよ」

 

 そう言って束さんが流々武を投げてきた。

 言わんとする事は理解した。

 抵抗は無意味なので大人しく流々武を展開する。

 えっと、今までで変わった所は――

 

「俺の相棒がなにやら珍妙なんですが」

 

 肩が異様に盛り上がってるんですよね。

 縦長の四角い箱がくっついてる。

 

「それがイギリス代表のISの装備だよ。それじゃ初めて」

「あいさー」

 

 肩の上に乗ってる卵を割るイメージで、んごごごご。

 

 肩に力を入れるという慣れない行為をすると、箱が真ん中から割れた。

 アームがにょろんと出てくる。

 

「なるほど、なんで肩に付いてるのかと思ったけど、射線と目線を合わせる為ですね」

 

 アームを動かそうと意識もするも、ほとんど動かない。

 なんというか……神経が繋がってない感じ?

 耳を動かそうとしても動かないムズムズ感がある。

 

「気合入れろしー君! イギリス代表はもう少しちゃんと動かしてたよ!」

 

 きっとイギリス代表は耳を動かせる人間だったんだな。

 IS操作で大事なのはイメージ力。

 背中から腕を生やせ俺!

 

「うごごごごっ」

「うーむ、ピクリとしか動かかない。しー君は多腕の才能がないんだね」

 

 多腕の才能とか必要なんですね。

 しかいほんとにピクリとしか動かないな。

 肘の部分が少しピクっと動いただけだ。

 

「拡張領域から銃を取り出して隠し腕に持たせてみて。引き金は引ける?」

 

 勝手に拡張領域に物騒な物を入れやがって……。

 なんか少しずつ毒されてきてる気がする。

 まぁその辺はおいおい。

 今の問題は拡張領域から銃を取り出す事だ。

 

 ふっ、若かりし頃はエアーガン片手に野山を駆けた俺の想像力を舐めるなよ。

 ほいっ!

 

 ゴトンッ

 

 銃は手に握られることなく背後の床に落ちた。

 

「………しー君」

 

 やめて、そんなビデオの配線が出来ない男を責める様な声出さないで!

 男にそれは結構効くから!

 

 束さんが銃を拾い、それを握らせてくれる。

 隠し腕を動かすのはキツイけど、握るだけならなんとかなるな。

 束さんがどんな顔してるのか見るのが怖いから、俺は視線を上に向けてやり過ごした。

 自分の後ろに一発で銃を取り出せただけでも凄いよね?

 拡張領域から物を取り出すのって意外と難しいのだよ。

 コツがいるって言うのかな――

 

「はいはい、言い訳はいいからターゲット集中して」

「了解」

 

 心の中での言い訳を読まれるのって悲しい。

 さっきまでテレビで見ていたターゲットが俺の後ろに現れる。

 ターゲットの位置は銃よりやや下かな? 隠し腕を上下に動かしながら狙ってみるが、動かないので腰を落として狙いを定める。

 

「しー君カッコ悪い」

「それは言わないお約束」

 

 外から見たら格好悪いってのは自覚してるさ!

 レーザーポインターがあればいいが、そういった補助道具がないと難易度高いな。

 なんとなく勘で撃てばいいのか? ――こんなもんか?

 

 乾いた音がし、銃弾が壁に当たる。

 やっぱ当たらんか。

 

「ま、そんなもんだよね。お次はコレで」

 

 今度はターゲットデブリが大量に現れた。

 これはモンド・グロッソの会場とほぼ同じだな。

 違うのは競技空間の大きさくらいか。

 やれってことか。

 理由は分からんが付き合ってあげよう。

 暴れられるよりマシだ。

 

 拡張領域取り出した銃を右手に持ち、デブリに当たらないように空に浮かぶ。

 いざやろうとするとちょっとテンション上がるな。

 手には本物の銃にIS装備中。

 死んだはずの厨二が蘇りそうだ。

 俺の操縦テクニックとエアーガンで慣らした射撃技術を見せてやる。

 

 まずは正面のターゲットを撃つ。

 放たれた銃弾は命中し、ターゲットが砕けて消えた。

 

 ……なんかこう、心が熱くなるな!

 

「まずは生身で撃たせるべきだったかな? そしたら格好つけて片手撃ちしたしー君のドヤ顔を見なくてすんだのに」

 

 フルフェイスの人間にドヤ顔とはこれいかに。

 ドヤ顔は見るもんじゃない! 心で感じるんだ! ってことかね。

 聞いた話しでは、素人が片手撃ちすると脱臼したり反動で肩が跳ね上がって倒れたりと黒歴史が作られるらしい。

 流々武のお陰でその辺は防げた。

 

「しー君、隠し腕をもっと積極的に使って」

「了解」

 

 背後にターゲット、丁度良いので束さんのリクエスト通り隠し腕を意識する。

 相変わらず上手く動かせないので、自分で動いて狙いを付ける。

 

 ヒット!

 

 俺って結構やるじゃん!

 

「移動しながら撃ってから自画自賛しようね?」

 

 うぃす。

 そうだよね。

 だって俺、空中でピタッと止まりながら撃ったもんね。

 束さんから見たらさぞ情けない姿だろうさ。

 

「今から止まるの禁止ね。飛び回りながら撃って」

「ラジャ」

「ついでに左手にも銃持って」

「あーい」

 

 両手と隠し腕二本、合わせて四丁。

 イギリス代表と同じだ。

 さて、行ってみますか――

 

「遅い! そんな悠長に狙いをつけない!」

「後ろに的があるの見えてないの!? しっかりして!」

「何回デブリに当たってるの!? ちゃんと避けて!」

「このヘタクソッ!!」

 

 束さんのスパルタに涙が止まりません……。

 見てる分には簡単そうに見えるけど、実際にやってみると上手くいかないってよくある話しだよね。

 いやはやテレビに出てる代表の人達は凄いな。

 この競技、思っていたより難しい。

 まず視野の問題だ。

 人間は目玉が正面に付いいている。

 通常180度の視界が、IS展開時に360度に変わる。

 いきなり広がる視野に最初は戸惑うが、そこはまぁ時間が解決してくれる。

 習うより慣れろってやつだ。

 問題は後ろ。

 見えてるのに意識しにくく、集中しなければ視線が正面に集中してしまう。

 平らな顔に目玉が付いている人間だからしょうがないネ!

 空を跳び、正面にあるターゲットを撃ち、デブリを避けるだけならまだなんとかなる。

 だが後ろは疎かになるのだ。

 確かに見えてはいるが、意識しないと見えない。

 それが背後だ。

 

「これ無理です」

 

 なので俺は早々に投げた。

 隠し腕を使おうとするとデブリに衝突するんだもん。

 

「情けないなー。まぁ知りたい事は知れたからいいけど」

「所でこの作業になんの意味があるんです?」 

「ちょっとあのイギリス代表の努力を知りたくてね。人間って後ろは弱点だよね?」

「ですね。なんかこう、見えてるけど意識してないと自然と蚊帳の外になります」

「隠し腕の使い心地はどうだった?」

「俺の才能の無さを差し引いても使えません。てか背中の腕ってどう操ればいいのかさっぱりです」

「だよねー。仕方がない……仕方がないよね」

 

 束さんがうんうんと自分を納得させる用に頷く。

 なるほど、つまりこれはあれだな。

 

「千冬さんが負けた言い訳としては十分ですかね?」

「うん、十分だよ。四本の腕を使い、人間の死角である背後への対応も練習したんだなって分かりました」

 

 やっと理解できた。

 束さんが俺にこんな真似をさせた理由は千冬さんの為だ。

 努力し、勝つ為に隠し腕という奇策を用いたイギリス代表。

 そんな相手に千冬さんが負けてしまったのは仕方がない! って自分を納得させたいのだ。

 

 俺にイギリス代表の真似をさせたのそれが理由。

 なんとも遠回しでめんどくさい事をするもんだ。

 でも本当に納得できたのかね?

 相手の努力が千冬さんを上回ったとしても、それを“仕方がない”で受け入れられるか?

 だってさ、こっちは競技者じゃないんだよ?

 相手が努力した人間だろうと、友達が負けたら悔しいのは普通だ。

 別に我慢する必要なんてないだろ。

 

「束さん、自分の気持ちを抑える必要はないと思うよ?」

「え?」

「束さんが千冬さんが大好きで、応援してたのに負けちゃったから悔しいんでしょ? だったらその気持ちを隠さなくていいよ」

 

 ISを解除し束さんの前に立つ。

 俺には分かってる。

 最近の束さんは優しかった。

 だから俺に迷惑をかけないように必死に我慢してるんだよね?

 

「……我慢しなくていいの?」

 

 束さんがギュッと拳を握る。

 良いんだよ束さん。

 だってここで我慢させたら後々倍返しになるかもしれないもん!

 ストレスは溜めるな! 発散しろ!

 俺の平穏の為にも我慢は程々にお願いします!!

 

「ごめんねしー君。暫くは優しくしようって決めてたのに……」

「感情を無理して抑える必要はないよ。愚痴なら俺が付き合うからさ」

 

 束さんの両手が俺の襟を掴む。

 俺に優しくするのって暫らくなんですね初耳です。

 そっか、短い平和なんだな。

 でもいいよ。

 優しくしようって心があるだけ嬉しいさ。

 お酒でも飲みながら語り合おうや!

 だから手を離してくれない? 首が締まってますよ?

 

「くーやーしーいーいぃぃぃぃ!! 勝つのはちーちゃんなの! 記念すべき初日の勝者はちーちゃんであるべきなの! それなのにぃぃぃぃぃ!!」

「がががががッ!!」

 

 束さんが激しく俺を揺さぶる。

 首が! 俺の首がイカレそうッ!

 愚痴を付き合うって言ったけど、ストレス発散のサンドバックをやるとは言ってねぇぇ!

 

「ちーちゃんが圧倒的実力で勝って言うの! 『この勝利を束に捧ぐ』って! その機会をあの女狐がァァアァァァ!!」

 

 ははっ、妄想乙。

 ん? なんか顔面が幸せだぞ?

 

「ちーちゃんが勝たなきゃイーヤーッ!」

 

 現在の俺の状況は以下の通りだ。

 

 襟を掴まれ足が床から離れている。

 激しく揺さぶられている。

 

 つまりさっきから俺の顔にぱふぱふ当たる感触は……おぱーい?

 

「んぎぎ」

 

 首が激しく痛む中、必死に目を開けてみる。

 

「なんでちーちゃんが負けるんだよッ! 日本の技術者は何してたの!? 完璧な機体を用意しろよッ!!」

 

 

 うほっ♪

 

 束さんのおぱーいが近づいたり遠ざかったり。

 新手のアトラクションかな?

 きっと待ち時間は千葉の遊園地を超えるだろう。

 

「ウキーーーーーーーーーッ!!」

 

 いいよこいよ。

 俺の命が続く限りこの自動パフパフを堪能してやんよ!

 

 首を激しく揺さぶられ意識が飛びそうになる。

 しかし、確実に感じる柔らかい感触と甘い匂い。

 

 

 

 

 あは……アハハハハッ!!

 

 

 

 

 

 ペキッ

 

 あ、首から何度か聞いたことがある変な音が――

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 モンド・グロッソ競技場の地下にある関係者施設。

 そこの休憩所で私はテーブルに座っている。

 関係者なら誰にでも使用出来るこの場所では、様々な国のスタッフが達が寛いでいた。

 初日の競技が終わり既に日が暮れ始めているが、私達国家代表は早々に休めない。

 もう明日の競技の為の争いが始まってるのだ。

 

 私の座るテーブルには四人の人間が集まっている。

 

 3位のアメリカ代表 アダムス・トリーシャ

 5位の中国代表   朱飛蘭(シュウフェイラン)

 9位のイタリア代表 アリーシャ・ジョセスターフ

 そして2位の私、織斑千冬。

 

 これから始まる腹の探り合いを考えると面倒だが、初日の競技の上位陣が集まったのは僥倖だ。

 

 ところで――

 

「うぅぅぅぅ……」

 

 なんでアメリカ代表は泣きそうな顔してるんだ?




かなり久しぶりに原作キャラ登場
キャラを思い出す為にIS10巻読み直し中

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