俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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イタリア代表が登場する原作10巻を読み直したけど、柳韻先生ラスボス説がありそうで怖い。


モンド・グロッソ⑤

 モンド・グロッソ二日目の競技は『アセンション・オブ・ウォー』。

 選手全員がアリーナの地面に立ち、スタートと同時に地上から100キロの地点を目指す戦いである。

 もちろただ飛ぶなんてヌルいものではない。

 銃器、鈍器、刀剣、全ての使用が解禁される。

 とどのつまりバトルロイヤルで、大勢のIS乗りが空を昇りながら戦うものだ。

 

 この競技は本当にタチが悪い。

 なにしろ選手への競技の説明書に“仲間を探して優勝を目指せ♪”と書かれているのだ。

 あのウサギは本当に厄介な事をする。

 なにしろ未だに二日だ。

 優勝候補もなにもない。

 結果次第では誰でも優勝候補になれるのだ。

 これがもっと最終日に近い日付ならよかった。

 上位陣を蹴散らすためそれ以外が手を組むだろう。

 もう一度言う。

 まだ二日目なのだ。

 出場国の多くがアメリカ、イギリス、ロシアなどの大国強国を狙うか、それとも現時点での得点上位者を狙うか選手の全員が迷っているだろう。

 そんな中で仲間を探せ?

 みんな一位になりたがるに決まってるだろうが!

 開始二日目でバトルロイヤルとか、競技を考えたヤツの性格の悪さが伺えると言うものだ。

 

 同じテーブルに座る三人に注目する。

 三人とも何も言わずにコーヒーに口をつけている。

 

 アメリカ代表はおどおどした様子で私の顔色を伺っている。

 昼間会った時とは違い、口のピアスが外され全体的に大人しい印象だ。

 化粧が違うのか?

 よくよく見るとあどけない顔立ちだ。

 全体的に顔のパーツが整ってるから、化粧の仕方ひとつでガラッと印象が変わるのだろう。

 羨ましい限りだ。

 私の場合、どう化粧しても顔が鋭いと言われるからな。

 

 イタリア代表は赤毛の美人だ。

 何が楽しいのか、私の顔を見ながらニコニコ笑っている。

 全体的にスマートな印象だが、かなり場慣れしてる印象がある。

 武器を使った戦いより、殴り合いが好きなタイプかな?

 

 中国代表は何故かチャイナドレスを着ていた。

 頭にお団子でチャイナドレス。

 日本人が想像する中国人そのままだ。

 こちらは静かにコーヒーを飲んでいるが、一番油断出来ない存在だ。

 私に近づいて来る時、彼女からは足音がしなかった。

 恐らくは暗殺者、又はそれに準ずる訓練を受けた人間だろう。

 

このテーブルに最初に座っていたのは私だ。

 つまり私がホスト役。

 面倒だが、私が会話を切り出さないといけないか。

 

「改めて挨拶しよう、私が日本代表の織斑千冬だ」

「アリーシャ・ジョセスターフ。イタリア代表サ」

 

 サ?

 

「中国代表の朱飛蘭アル」

 

 アル?

 

「あ、アメリカ代表のアダムス・トリーシャです。よよよよろしくお願いします!」

 

 やたらテンパっているが、アメリカ代表の圧倒的安心感よ。

 なんで二人はそんなに独特な語尾なんだ?

 

「さて、世間話は苦手なので話しを進めたい。この席に座ったということは、明日の競技についてでいいんだな?」

「日本代表は真面目な性格サね。話しが早くて助かるサ」

「そうアルな。こちらとしても助かるヨ」

 

 我ながらつまらない切り出し方だと思うが、二人は気にした様子なく話しに乗っかった。

 それに比べ――

 

「あ、あの……」

 

 アメリカ代表は何故か非常に怯えている。

 

「その話の前にお話ししたい事があるんですが」

「なんだ?」

「先程はすみませんでした!」

 

 アダムズはテーブルに額が触れるほど深々と頭を下げた。

 先程と言うと喧嘩を売ってきた一件か?

 私は気にしてないんだが、相手から見れば気にするか。

 

「気にするな。私は気にしてない」

「本当にすみませんでした!」

「いや、だから」

「大人しく殴られます! でも少し手加減してくれると嬉しいです!」

「人の話しを聞け」

 

 許すと言っているのにアメリカ代表はひたすら頭を下げ続ける。

 

「私が出来る事ならなんでもしますので明日の試合は私と組んでください!」

 

 ちょっと暴走しすぎだろうアメリカ代表。

 そんなに私は怖いか? 人をすぐ殴る様に見えるか?

 そこまで必死に謝らなくともいいだろうに。

 

「まぁまぁ落ち着くサ」

「ジョセスターフさん」

 

 見かねたのかイタリア代表が話しに入ってくる。

 ありがたい。 

 

「アーリィーもハンガーに居たから知ってるサ。確かにトリーシャは千冬の髪を掴んでた、でもアレって無理矢理させられてサ」

「分かるんですか?」

「分かるサ。目に怯えと後ろめたさが見えた。本番前に勝負度胸でも付けようとしたサ?」

「そうなんです! 嫌だったけど先輩達に無理矢理……!」

 

 なんか泣きだしてしまった。

 どう見ても気弱で普通な女性だ。

 競技での動きを見た後だと擬態かと疑うレベルだな。

 

「アメリカ代表は普段と随分違うアルな。こんなキャラだったアルか。――使うアルよ」

「ありがとうございます。ぐすっ……普段からそうするように言われてるんです。私はあまり荒事向きの性格ではないので」

 

 彼女は中国代表に渡されたハンカチで涙を拭きながら頭を垂れる。

 テレビなどで見るアメリカ代表のイメージは“寡黙”だ。

 いつも不機嫌な顔をし、必要以上に語らない。

 そんな感じだ。

 あれキャラを作ってたのか。

 

「トリーシャは苦労してるサ。所で今日の競技での動き、アレはなんだったサ? 千冬と同じ動きに見えたサ」

「それアタシも気になってたヨ。二人は同じ師の元で学んでいたアルか?」

「ぐしゅ……動きですか? あれは先程の千冬さんの試合を見て覚えました」

「それはそれは……」

「へぇ? 凄いアルな」

 

 二人の目が細く鋭くなった。

 私の試合を見ただけで動きを覚えたとなると警戒するのは当然だ。

 覇気のない気弱な人間に見えてもそこは国家代表。

 やはり普通ではないな。

 私の動きを短時間で覚えたという事は、学習能力が高く目が良いのだろう。

 しかしいいのか?

 探りを入れられたからと言って、自分の強みをそう簡単にバラしてはその先輩達に怒られると思うが。

 

「動きを覚える……簡単に見えて難しいことサ。トリーシャはそれが得意サ?」

「はい。昔からよくやってます」

「流石はアメリカ代表アルな。それってどの程度まで相手の動きを模倣できるアル?」

「えっと、時間さえあれば余程の事がなければ大体は」

 

 別に誘導尋問されてる訳でもないのにベラベラ喋るな。

 アメリカ代表は想像以上にガードが甘かった。

 周囲の人間は注意しなかったのか?

 

「そんなに自分の情報を出して良いのか?」

「あ、はい。国の事やISの事以外は正直に話すよう言われましので」

 

 それはなんとも豪気だな。

 しかし、ふむ……

 

「目的は千冬だけだったけど、トリーシャもかなりデキるみたいサ。これは当たりを引いたサ」

「その言い方だとアタシもお目にかなったアルか?」

「あぁ、お前もかなりデキるだろ? 強者の匂いがするサ」

「イタリア代表にそう言われると嬉しいアル。こちらとしても同盟相手が大物で助かるヨ」

 

 アメリカ代表の後ろに居る人間は、彼女を認めさせる為にワザと情報を出させたのか?

 性格は争い事に向いてないが、能力の高さは伺える。

 勝利を目指す人間から見れば、口で口説くより能力を見せた方がいいのは正解だ。

 現にイタリア代表と中国代表は彼女を認めたようだしな。

 

「アーリィーでいいサ。よろしく頼むサ」

「フェイでいいアル。こちらこそよろしくネ」

「好きに呼んでください。よろしくお願いしますアーリィーさん、フェイさん」

 

 いつの間に三人は仲良くなっていた。

 話しがサクサク進んでいいな。

 私はホスト役として何一つ機能してないが……。

 まぁ文句はないさ。

 この三人は“強い”。

 それだけで共闘相手として十分だ。

 

「アダムズ、シュウ、ジョセスターフ、私達で組んで競技に挑む訳だが、何か作戦とかあるか?」

「アーリィーって呼んで欲しいサ」

「馴れ合いはしない主義なんだ」

「アーリィー」

 

 ジョセフターフは引く気がないらしい。

 笑顔のままジッと私を見ている。

 アダムズとシュウは呼び方に問題ないらしい。

 問題はジョセフターフか。

 ……ジョセフターフは長いから別にいいか。

 

「了解した。アーリィー」

「それでいいサ」

 

 呼びづらいという理由で愛称呼びにした私を見て、アーリィーは満足気だ。

 なぜこうも私に対して好感度が高いのだろうな?

 

「90キロ地点まで共闘、それ以降は各自自由でどうサ?」

「それで良いヨ。どうせ最後には争い合う事になるアルしな」

「私もそれで大丈夫です」

 

 最後にはやり合う仲だが、このメンバーなら途中で裏切ったりしないだろう。

 ゴール間近まで力を合わせ戦い、それからは全員敵。

 簡単で良いな。

 

「あの、組んでいただけるのは嬉しいのですが、何か見返りや要求はありますか?」

 

 アダムズが私の顔を見ながらそんな事を言ってきた。

 見返りと言われてもな……。

 

「別にないな」

「アーリィー達は組んでくれと頼んでる方サ。千冬は要求できる立場だけど本当にいいサ?」

「先輩からは、どんな犠牲を払ってでも織斑さんに気に入られてこいと言われてまして……」

「本当に何もいらない」

 

 メンバーを集める手段として、その手の方法は有りだろう。

 だが私はいらない。

 国からもスタッフからも指示は受けてないから、私のやりたいようにやらせてもらう。

 

「千冬サンは無欲アルな。ところで、アタシは一つお願いがあるけどいいアルか?」

「ん? 私にか?」

「そうアル。もし受けてくれるなら、アタシは最後まで千冬さんの壁になるヨ」

「ほう?」

 

 シュウの一言で空気が変わった。

 望みを聞けば私の勝利に力を貸すと言っているんだ、アリーシャとアダムズからしたら面白い話しではないだろう。

 

「聞くだけ聞いてやる。言ってみろ」

「そんな怖い顔しないで欲しいヨ。アタシのお願いはただ一つ、手合わせ願いたいネ」

 

 私と戦うのが願いか。

 手の内をできるだけ知りたい? 違うな、そんな性格に見えない。

 モンド・グロッソ中に怪我を追わせたい? それも違うだろう。

 この女は――

 

「く、くくく……ズルいサねフェイ。アーリィーは我慢してるのに」

「ただの手合わせアルよ? 本気ではやらないネ」

 

 この女はただの好き者だ。

 戦闘狂とでも言うべき存在だな。

 嬉しそうに笑っているシュウの瞳は獰猛なケモノのようだ。

 

「羨ましいならアーリィーもお願いすればいいアル」

「千冬とは大舞台で正々堂々とやりたい。だからつまみ食いせず我慢するサ」

「ふむ、そう思われることは光栄だな」

 

 イタリア代表も中国代表も強い。

 私としては是非とも手合わせしたいところだ。

 アーリィーがモンド・グロッソの中で戦いたいと言うなら仕方がない。

 

「??」

 

 三人が笑っている中、アダムズだけは首を傾げていた。

 いかんいかん、少しはしゃぎすぎたな。

 一見メリットが無い様に思えるが、実はそうでもない。

 私もシュウの手の内が分かるからだ。

 どうせ私の戦術など相手を斬るだけ。

 多少素手でやり合っても問題ないだろう。

 

「私にも条件があるがいいか?」

「なにアル?」

「手合わせはしよう、しかし助力はいらない」

 

 中国代表が露骨に私の味方をすれば、色々と問題が起きるかもしれない。

 政治的な問題とかどう考えても面倒そうだ。

 

「……千冬さんが慎重になるのは理解できるアル。私はそれでいいヨ、でも見返りなしで本当に手合わせしてくれるネ?」

「あぁ」

「それはありがたいヨ」

 

 ほんの僅かだが、シュウから闘気が漏れた。

 いいな、久しぶりに楽しめそうだ。

 

「むぅ……フェイが楽しそうで羨ましいサ」

「お前もやるか?」

「お誘いは嬉しいけどここは我慢サ。メインディッシュは最後に美味しく頂くタイプなのサ」

「……なんで殴り合いの話しを嬉しそうに話してるんでしょう?」

 

 それはな、力が有り余ってるからだ。

 まだ大会初日と言うこともあり、私達は気が張っている。

 少しばかり体を動かした方が健康的と言うものだ。

 決して殴り合いが好きな野蛮な人種ではないからな? そこは勘違いするなよ?

 

「フェイ、その試合ってアーリィーも見ていいサ?」

「アタシは問題ないネ。千冬さんどうアル」

「私も構わん」

「よし! それじゃあお言葉に甘えるサねトリーシャ!」

「え? 私もですか!?」

「レベルの高い試合を見るのも大事なことサ」

「そう言われればそうですね……もっと織斑さんを観察したかったですし……」

 

 観察ときたか。

 本人を前によく言ったものだ。

 アダムズがどこまで私の模倣を出来るか楽しみだな。

 

「受けてもらえて嬉しいアル。実はどうにか理由を付けて手合わせ出来ないかとずっと考えてたネ!」

「フェイさんは織斑さんの事を前から知ってたんですか?」

「千冬サンは開会式で初めて見たネ。でも興味が惹かれないアルか? 自然体なのに全く隙がなく、足運びは武人のそれ、近づいて良く見てみたら呼吸も静かでまるで仙人ネ」

「分かる! 分かるサねフェイ! 千冬はとても良い匂いがするサ。アーリィーが今まで会った人間の中でもとびっきりの強者の匂いサ!」

「お二人の意見を理解出来ない私がおかしいのでしょうか?」

「いや、普通だ。この二人がおかしい」

「むぅ、反応が冷たいサね。千冬はツンデレ?」

「コレがあの有名なツンデレ?」

「ツンデレっと……ふむふむ、確かに織斑さんっぽい」

「いちいち意味を調べるな」

「知らない言葉とか気になりません? 癖なんですよ」

「ちょっと分かるサ。実はアーリィー日本文化が大好きで、色々と調べてたサ。ゲイシャ! オイラン! キセル!」

「アーリィー、その言葉の意味は知ってるのか?」

「綺麗な着物を着て踊る人サ?」

「アーリィー、芸者はそれであってるアル。でも花魁って今風に言うと――」

「おおう……これからは人前では避けるサ」

「ええと、オイランの意味は……」

「よせアダムズ。調べるな」

「…………はぅ」

「アリーシャは処女サ」

「初々しいアルな」

「だから言っただろうに」

「あう……」

 

 真っ赤な顔のアダムズを見て、三人で笑う。

 偶然会ったメンバーだというのに、私達は思ったより相性が良いようだ。

 うん、嫌いじゃないなこういった空気。

 

「こんな仕事してるから出会いがないんですぅ! 私のこと笑ってるけど皆さんはどうなんですか!?」

「処女。自分より弱い男に興味がないのサ」

「同じくヨ。うちは父の教育が厳しくて異性との付き合いは皆無ネ」

「バイトが忙しくて遊んでる暇がなかった。異性と付き合うのは……相手が私より強くなければダメだな」

 

 今の所、男に興味がないというのもあるが、なにより束を障害として乗り越えてくれないと無理だしな。

 

「ん?」

 

 親睦を深める意味も込めて取り留めのない話題で盛り上がっていると、携帯電話が鳴った。

 どうしてか、嫌な予感がする。

 こんな風に和やかな空気を壊すのが束だったな。

 なんて考えがふと浮かんだ。

 

「もしもし。――えぇ、はい―――――ほう?」

 

 電話の相手は政府の人だった。

 俗に言う対篠ノ之束部隊の人間だ。

 

「なんかあったみたいサ?」

「凄く、怖いです」

「黒いオーラが見えるアル」

 

 眉間にシワが寄る。

 怒鳴り声を上げたい気持ちを奥歯を噛み締める事で我慢する。

 

「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」

 

 教えられたサイトを調べると、聞かされた内容そのものがあった。

 織斑千冬のプライベート写真が大量に売られてるじゃないか。

 大変だな織斑千冬、個人情報がだた漏れじゃないか。

 どこの織斑だ? ははっ、私の事じゃないかクソがッ!

 

 ……なんだコレは、まるでガチャガチャだな。

 少しでも儲けようとする人間の欲望が垣間見える。

 おいおい、この写真とか出処どこだよ。

 そんじょそこらの盗撮犯じゃ無理だぞこれ。

 

 

 

 

 

 

 どう見ても身内の犯行だ!!

 

「どうしたサ」

「あー」

「言い難い事アル?」

「まー……そうだな」

 

 ここで黙秘という選択もある。

 しかし、黙っていてもすぐにバレるだろう。

 

「私の写真が売られていた……」

 

 なんだこれ、羞恥心が酷い。

 自分で自分の写真が売られてるとか言うのかなり恥ずかしいんだが?

 

「国家代表になれば珍しくないのでは? 私の写真も売られたりしてますし」

「アーリィーも写真取られてりしたサ」

「アタシも雑誌の写真とか撮られたアルよ」

 

 私だって宣伝用の写真を撮ったりしたさ。

 でもこれは違う。

 それらの写真とはまったくの別物なんだよ。

 

「売られているのは私のプライベート写真だ」

「盗撮ってことですか?」

 

 アダムズが顔色を青くしながらそう聞いてくる。

 偏見だが、アメリカだとそんな写真が多そうだもんな。

 こいつも似たような苦労をしてるのかもしれない。

 だけど、アダムズと違って敵は身内なんだよなぁ。

 

「ちょっと調べてたらすぐにヒットしたサ」

「これ、全世界に売られてるヨ」

「うわぁ……」

 

 やめろ、そんな可哀想な子を見る目で見るな。

 アダムズもそんな同情的な声を出すな。

 

「盗撮だけじゃない。プライベート写真が多数……もしかしてだけど、“天災”絡みサ?」

「たぶんな」

「流石にこんな風にプライベート写真を流出させられると同情するヨ」

「同情するならアイツを捕まえてくれ」

 

 いや本当に頼む。

 束……の後ろにいる神一郎を是非とも捕まえて欲しい。

 今なら神一郎が捕まって研究所送りにされても笑って見送れる。

 

「取り敢えずこのサイトを潰すのはどうサ?」

「それは良いアルな」

「私も先輩に頼んでみます!」

「……良いのか?」

「水臭いのナシですよ織斑さん。今はチームなんですから」

「流石にコレは見逃せないサ」

「女としても許せないアル」

 

 真っ当な友情って存在したんだ。

 あれ? あの二人って本当に友人なのか?

 最近ロクな目にあってない気がする。

 ……神一郎には家計が厳しい時に助けてもいらったし、束は……なんだかんだで腐れ縁だし…………友達だよな?

 なんか頭痛してきた……まずはこのサイトをぶっ壊す!

 

「もしもし」

『はいー?』

 

 電話先は水口さんだ。

 味方は一人でも多い方がいい。

 

「事情は知ってますか?」

『写真の件ですかー?』

「そうです。協力をお願いしたい。あのサイトを潰して欲しい」

『国の方では、あのサイトを通して篠ノ之博士の居場所を割り出せないか試すそうですよー』

「潰してください」

『下手に手を出すと怒られるんですけどー。うーん……あの天災と一戦するのも楽しそうですねー。友達に声を掛けてもいいですかー?』

「全力でお願いします」

『了解ですー』

 

 よし、これで戦力が増えた。

 日本、アメリカ、中国、イタリアの四カ国での攻撃だ、流石の束も……どうにかなるか?

 

『呼ばれて飛びててジャジャジャジャーン!』

『お? 魅力的なお姉様が沢山。俺もお茶会に参加したい』

 

 噂をすれば影どころか本人達の登場か。

 お茶会に参加したい? いいよこいよ。

 私の鉄拳制裁付きでお呼びしてやるッ!!

 

「ひっ!?」

 

 おっとどうしたアダムズ。

 何故そんなに怯えている? 失礼だな。

 アーリィーとシュウを見習え。

 私の顔を見て嬉しそうにしてるぞ?

 

『ちーちゃんの近くにいるのは明日の競技のメンバー? ふーむ、参加者の中では力のある方だから許してあげるか』

 

 お前の許可など求めてない。

 

『それにしてもこのお肉美味しいね』

『臨時収入があったから奮発しました。ブロック肉を買うのってテンション上がりますね。この肉の塊、生前の俺の給料一ヶ月ですよ? そんな肉を満天の星空の下で焼く。これぞ贅沢ってもんです!』

『わざわざダナンのデッキでやらなくてもと思うけど、確かにこの景色はいいね。星を見ながら肉を焼き、お酒を飲む。ん! 悪くない!』

『ビールも良いけど、ちょっと趣向を変えてジントニックを用意しました! 苦味のある炭酸で油っぽくなった口の中を一気に爽快にさせます!』

『んぐんぐ……ぷはぁ! うん! これは良いね!』

『そしてまた肉を喰らう!』

『あーむ……うん! 一度口の中をリセットすることでお肉の味が変わらず楽しめるね!』

 

 おいおい、人の写真を勝手に売ってその金で焼肉だと? オマケに酒?

 いい度胸だよ神一郎ッ! お前は絶対に殴る! 絶対にだ!

 

『……ところでしー君』

『なんです?』

『最近ハンバーグとかオムライスとかお好み焼きとか、安く簡単に作れる料理を色々作ってくれたじゃん?』

『男子ご飯の定番モノですね』

『でも結局はお高い肉を焼いただけのモノが一番美味しいっていう……』

『まーたそういう事を言う。謝れよ! 月村さん――ではなく、全国の主婦に謝れ!』

『いひゃいいひゃい』

『次言ったらもっちりほっぺを炭火で焼く』

『ごめんちゃい』

『あざと可愛い! 許す!』

『えへへ』

 

 この期に及んで更にノロケの追加だと!?

 酔っ払いのノロケとか最悪だ。

 あまりの怒りに脳天から何か出そうだ。

 これが怒髪天を衝くってやつか。

 

「織斑さんの顔が! 顔がヤバイです!!」

「そこはせめて“顔が怖い”って言ってやるサ」

「鬼が宿ってるヨ。一緒に戦う身としては頼もしい限りアル」

 

 私の顔がなんだって?

 自分では笑みを浮かべてるつもりだぞ。

 

「なんか凄い獰猛な顔してますよ!? 大丈夫なんですか!?」

「良い笑顔サ」

「笑顔!? 笑ってるんですかあれ!?」

「良い笑顔アル」

「もしかしてお二人は私と違うモノが見えてます!?」

 

 勝手に写真を売られ、場が盛り上がってる時に水を差す。

 温厚な私も怒るのは仕方がないだろ?

 誤解するなよアダムズ。

 普段の私はもう少し温厚だ。

 

『ちーちゃんの笑顔を見ながら焼肉ってとても贅沢』

『世間一般的には憤怒の表情です』

『それはしー君が原因だよね?』

『え? プロジェクト・モザイカ産の人造人間に人権ってあるの? 俺がやった事は野生動物の写真を売っただけです。まぁ千冬さん本人が“自分が普通の人間だから人として扱ってくれ”と言うならそうしますけど』

 

 すっとぼけた口調にイラっとする。

 私はな、人間の顔面を素手で破壊できるんだよ。

 本気で殴れば神一郎の頭蓋を一撃で砕ける。

 そんな力を持ってるからこそ、私は誰よりも“自分は人間ではない”と言い聞かせてるのだ。

 いや、分かってるんだよ神一郎。

 お前がちゃんと私を一人の人間として見れくれる事は知っている。

 そしてお前も私のそうした気持ちを知ってるんだろ? 

 だからそう意地の悪い言い方をするんだよな?

 やり方が汚いんだよッ!

 

『人造人間に対する法律はないもんね。法的に見ればしー君はセーフかも。てかさ、最近ちーちゃんに厳しくない?』

『だって千冬さんは保護される立場の学生じゃないんだよ? もう大人で社会人、生前の俺と同じ立場だ。気遣う理由がないです』

 

 そうだな。

 未成年ではあるが、私は社会人だ。

 神一郎の対応が厳しくなるのは理解できる。

 それがプライベート写真を売っていい理由にはならんがな!!

 

『ちーちゃんも大変だよね……にょ?』

『どうしたにょ?』

『サイトの主が私だとバレたみたいにょ。素人じゃない……プロの攻撃にょ』

『大丈夫にょ?』

『男の“にょ”は可愛くないと思う』

『急に素になるなし』

 

 いい年した女の“にょ”もどうかと思うがな。

 神一郎も小学生だからセーフに見えるが、中身が大人だからアウトだ。

 

「織斑さん、先輩の協力を得られました」

「こっちもサ」

「同じくアル」

「恩に着る」

 

 これでこのサイトが消えてくれると嬉しいんだが、正直厳しいと思っている。

 今は食事中みたいだから油断してくれるといいんだが。

 

『突然忙しくなったと思ったらちーちゃんの差し金か(もくもぐ)』

 

 耳元で咀嚼音が聞こえるのはとてつもなく不愉快だな。

 

『両手が忙しくて肉が食えないなー。でもお肉食べないと脳が回らないなー』

『はいはい。あーんして』

『あーむ。ありがと(もぐもぐ)、お行儀が悪いけど(もぐもぐ)、塵も積もれば山となる、でね、多勢で攻められると両手が忙しいんだよ(もぐもく)』

『この程度なら問題なし、あーん』

『あーむ』

 

 哀れだな神一郎。

 あれだけ束の面倒を見たくないなんて騒いでいても、結局はその位置か。

 

『げげっ、更にお客様が追加だよ。仮面の軍勢がログインしました』

『それってヴァイザードじゃん。ヤバイのでは?』

『遊び相手とはしては上等。天災の本気を見せてやろう』

『靴下を脱いで足元にキーボード? まさか……!!』

『束式キーボード殺法は常勝無敗!』

『両手両足でキーボード操作!? 4つ同時操作とかスゲーな!』

『これ唯一の弱点は飲み食いできないこと! だからお肉プリーズ!』

『はいあーん』

『あむ。ごめんねちーちゃん(もぐもぐ)。ちょっと忙しいから一旦落ちるね(もぐもぐ)』

 

 まるで私が別れを惜しんでいるかの様に言うな。

 さっさと消えろ。

 

『また後でね!』

『追加の肉焼くから待ってください。それじゃあ千冬さんまた後で』

 

 やっと消えたか。

 こうも一方的に騒がれるとストレスが酷いな。

 もう二度と現れるなと言いたいが、人目がある場所で話しかけてくるからどうしようもない。

 このイライラをどうすればいいのか? 簡単だ。

 体を動かせばいい。

 

「サイトの事はプロに任せよう」

「それがいいサ」

「ならさっさと移動しよう。シュウ、トレーニングルームでいいか?」

「ヤー、これからサンドバックにされそうアル」

「そんなタマじゃないだろうサ」

「同意する」

 

 ただ暴れる人間なら返り討ちになって終わりだろう。

 そんな相手とこれから戦うと思うと少しワクワクするな。

 

「え? あの、ちょっと待ってください!」

 

 席を立つ私達をアダムズが止める。

 

「どうした?」

「どうしたじゃないですよ! まだ何も決まってないじゃないですか!」

 

 アダムズのセリフに私達は顔を見合わせる。

 

「明日は組むんだよな?」

「直前まで共闘で、それからは自由サ」

「他に何かあるネ?」

「えぇ?」

 

 明日の予定を確認しあう私達に対し、何故か困惑顔だ。

 これ以上なにかあるか?

 

「ポジションとか決めないんですか?」

「ポジジョン?」

「索敵役とか指示役とか、そんなのです」

「ふむ」

 

 四人で動くとなれば、それは一つのチームだ。

 ここに居るのは実力のあるメンバーだが、好き勝手に動いては足元をすくわれる可能性がある。

 勝つ為には個々の仕事を決めた方がいいか。

 

「遮蔽物もない空ですから、偵察役とかいりません。でも指示役とか居た方がいいと思うんです」

「確かに敵に釣られて離れたらチームを組む意味がないサ。二人ほど血の気の多いのがいるし、司令塔は必要サね」

「アタシが血の気が多いと思われてるのは心外アル。でもその意見は賛成ネ。一人ほど暴れたがってる人がいるアルしな」

「人を暴れん坊みたいに言うな。まぁ全体を見渡せるリーダーは必要だろう」

 

 私の事をどうこう言ってる二人だって正直信用はできない。

 敵に挑発されたら嬉々として殴りに行きそうだ。

 

「分かってくれて嬉しいです。それで指示役は織斑さんでいいですか?」

 

 アダムズがそう言って他のメンバーの顔を伺う。

 なにを言ってるんだろうなコイツは。

 私が司令塔とかないだろ。

 

「指示役とかガラじゃない。私は前衛でいい」

「え゛っ!?」

「まぁ千冬ならそうサね。後ろに居るタイプじゃないサ」

「そうアル。最前線で暴れてる方が似合うヨ」

 

 アダムズが拒否する私に驚く。

 私が後ろで指示役とかできる訳がない。

 ……できないは言い過ぎだな。

 実は競技の練習で司令塔役はやったんだが、正直言うとダルい。

 誰かに指示を出して動かすより、自分で動いた方が楽だし簡単だ。

 スタッフや同僚からは管理職に向かないと言われた。 

 

「ならアーリィーさん」

「断る。後ろで観戦とか退屈サ」

「じゃあフェイさん」

「アタシはただの一兵卒アル。小隊長は荷が重いネ」

「それじゃあ……」

 

 引き攣る笑顔のアダムズの肩に三本の手が乗せるられる。

 お前という味方を得られたのは幸運だ。

 

「任せた、リーダー」

「よろしくサ、リーダー」

「期待してるヨ、リーダー」

「……ほえ?」

 




全体を見回して状況を把握するリーダーポジ決めようぜ!

日本代表「前戦で暴れたいので断る」
イタリア代表「前に出て戦いたいので嫌だ」
中国代表「一兵士なので前に出ますね」
アメリカ代表「(゚д゚)」

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