俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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わーい難産
妄想の文書化はいつになったら慣れるんだ!?

明けましておめでとうございます(目そらし)
今年もよろしくお願いします(土下座)


モンド・グロッソ⑧

 空に向かって飛び出た私の背後に見えるのは無数のISたち。

 スタートダッシュは成功し、私たちは見事先頭を取った。

 

「大成功サ!」

「幸先良いネ」

 

 恥ずかしい思いをした甲斐があったな。

 ただまぁ、お喋りしてる余裕はないんじゃないか?

 

「後方注意!」

 

 アダムズの声に反応し、固まって飛んでいた私たちは散らばる。

 

「ひゅう♪ やっぱりこうなるサ!」

「先頭取ったらこうなるに決まってるアル」

 

 いくつもの銃口が私に向けられ、銃弾が機体を掠る。

 このゲームは上を目指すものだ。

 つまり、先頭に立てば背後を敵に狙われるのは道理。

 先手は取ったと言っても、ISの性能はそこまで差はない。

 相手の射程圏内から抜け出すのは無理だろう。

 出る杭は打たれるもの。

 撃たれるのは仕方がないとはいえ……

 

「これは少し面倒だなッ!?」

 

 背後から打たれる銃弾を回避なしながら飛ぶのは、面倒この上ない。

 

「なら先に敵を潰すサ? この四人なら出来ると思うサ」

「それは……ありアルな!」

 

 二人がキャッキャッと笑いながら飛ぶ。

 テンションが高いな。

 さっきのやり取りで興奮してるのかもしれない。

 

「は?」

 

 

 

 

 

 今の、冷たい声は、どこから、聞こえた?

 

「本気で言ってます? 数は力ですよ? そもそもIS戦じゃ操縦者の実力だけが全てじゃないんですよ? 敵が強力な武器を持ってたらどうするんです? まだ二日目ですよ? 専用機が半壊以上のダメージを受けたら明日以降の競技に影響でますよ? ……それくらい、分かってますよね?」

 

 横を見ると、そこには冷徹な瞳で二人を見つめるアメリカ代表がいた。

 

「「サー・イエッサー!」」

 

 アーリィーと飛蘭はすぐさま反応する。

 即座にそう返す反応の良さは流石だと思う。

 てかアダムズ?

 お前、アダムズだよな?

 

「なんです?」

「や、なんでもない」

「そうですか。織斑さんも集中してくださいね?」

「もちろんだ」

 

 こ、怖い!

 なにがあった!? 小鹿の様なアダムズはどこにいった!?

 

「ブルっときたサ」

「あれは逆らっちゃいけない存在アル」

 

 そうだな。

 私もそう思う。

 

 もっとこう、テンションを上げて興奮で恐怖を忘れる為の儀式だと思っていたが、まさかこう変わるとは。

 まるで血が通ってない冷酷な目。

 アダムズを育てた人間を尊敬するぞ。

 素人を戦わせる手段として、テンションを上げさせて勢いで戦わせるのは有りだ。

 むしろ、それが一番簡単だろう。

 しかしそれは多くの問題もある。

 稚拙な攻撃、下手な防御、無謀な突撃。

 しっかりと教育しなければ、そんな馬鹿をする兵士になってしまう可能性がある。

 そこをアダムズを育てた人間はしっかりとクリアした。

 冷静で冷酷。

 見事な兵士だ。

 

 アダムズをここまで育てるとは、アメリカの軍事教育は怖いな!

 

「オーストラリア代表に動きあり! 注意!」

 

 その言葉を聞いて、背後に集中する。

 中央集団から少し距離を取って飛ぶ機体がある。

 あれがオーストラリア代表か。

 背中にはバックパック装備が見える。

 背中の翼が広がり、スピードが目に見えて上がった。

 折り畳み式のギミックを搭載したウィングか。

 

「来ます!」

 

 他国に動きはなし。

 オーストラリア代表をこちらにぶつける腹らしい。

 

「オーストラリア代表は私たちの横を通りすぎる気です。下手に進路を塞ぐ真似はせず、こちらを追い越したら背後から撃ってください!」

「「「了解!」」」

 

 進路を塞ぐのは少し怖い。

 相手の方がスピードがあるから、相手が避けるという選択を選ばなければ、ぶつかったこちらが弾かれてしまう可能性がある。

 今日のアダムズは頼りになる!

 

 指示通り、オーストラリア代表を素通りさせる。

 ……ん?

 

「敵機の動きが止まったアル」

 

 私たちに並行する形でオーストラリア代表の動きが止まった。

 その手には筒状のナニカ。

 ――仕掛けてくる気か!?

 

「気を付け――ッ!」

 

 注意する前に、オーストラリア代表の筒からナニカが発射された。

 それを私たちの進行方向に割り込むように飛び……大きく広がった。

 

「もしかして投網サ!?」

「もしかしなくても投網アル!?」

 

 投網と聞けば、思い浮かぶのは漁業だろう。

 だがしかし、投網は歴史が古く馬鹿にできないのだ。

 古代ローマでは、グラディエーターが投網を使って敵を絡め取ったりしてたらしい。

 網闘士、なんて呼び方があるくらい立派な武器なのだ。

 

「織斑さんッ!」

「任せろ!」

 

 回避する為に横に動けば、それだけ時間のロスだ。

 三人が僅かにスピードを落とし、私が少しだけ前に出る。

 ブレードを抜き放ち――

 

 斬ッ!

 

 機体に引っかからないよう、投網を出来るだけ細切れにする。

  

「側面から襲撃!」

 

 気付けばオーストラリア代表は背中の翼をたたみ、こちらに銃口を向けていた。

 いつまでも大きな的を背負ってる訳ないか。

 

 相手の方が一枚上手だったな。

 加速は私たちに追いつくためだけに使い、こちらの動きを阻害。

 その後は素早く翼をしまい、狙われないようにした。

 流石は国を代表する人間が集まる大会。

 一筋縄ではいかないか!

 

「アーリィーさん! フェイさん! そちらは任せます! 織斑さんは私と一緒に背後の警戒を!」

「「「了解!」」」

 

 並行して飛ぶオーストラリア代表の元に二人が向かう。 

 

「ぶっ飛ばしてやるサ!」

「フォローするネ!」

 

 飛蘭がアーリィーの前に出る。

 その手には強大な薙刀。

 いや、正確に言えば青龍偃月刀か。

 ぶっちゃけ似合わない。

 きっと日本人好みの武器をチョイスしたんだろう。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

 青龍偃月刀を回し、銃弾を弾きながら飛蘭が前に出る。

 その後ろにはアーリィーがピタリとくっついている。

 なにもなければ、これでオーストラリア代表を落とせると思うが……。

 

「チッ!」

 

 飛蘭の舌打ち。

 オーストラリアは速度を落とし、こちらから距離を取った。

 まぁ二対一の状況で、正面から戦うなんて事はしないよな。

 そして、相手がスピードを落としたと言ってもこちらも落とす訳にはいかない。

 飛蘭がイラつくのも無理ない。

 

 今の所、トップ集団は私たち。

 やや下にオーストラリア。

 その下にそれ以外の国家代表がいる。

 距離的優位は余りない。

 このまま逃げ切る、なんて都合のいい事はないだろうな。

 

「アダムズ! 後ろに!」

「はいっ!」

 

 飛んできた銃弾をブレードで弾く。

 正確無比な一撃。

 下を見れば、こちらを鋭く見つめる目があった。

 

「千冬さん、ガードは任せます! アーリィーさんと飛蘭さん周囲を警戒! 私は攻撃に出ます!」

 

 今日のアダムズは本当に頼もしいな。

 私に否はない。

 やってやろうじゃないか!

 

「オーストラリア代表がまた何かしてくるかもしれない。気を付けろよ二人とも!」

「こっちは任せるサ!」

「そっちにちょっかいは出させないネ!」

 

 アーリィーと飛蘭は、オーストラリア代表と私たちの間に陣取りながら他の国家代表を警戒する。 

 

「おっと」

 

 私の方の上を通り過ぎようとする弾丸をブレードでガード。

 見逃してたらアダムズに直撃するコースだった。

 

「睨まれますね」

「睨まれてるな」

 

 狙撃手……イギリス代表のエマが私にガンたれてる。

 二度の狙撃を防いだせいか、それとも他の理由かは知らないが、どうやら嫌われてるようだ。

 

「仕掛けます」

 

 アダムズの手に大型の砲身が現れる。

 銃ではない。

 見た事あるシルエット。

 ……流石と言うかなんと言うか。

 ザ・アメリカって感じだ!

 

「アメリカの主力戦車、M1エイブラムスの砲身を改造したものです。IS専用の兵器を開発するより、すでに存在する兵器をIS用に改造した方が手間が少ないので」

 

 存在感が凄い。

 戦車の砲身を改造して持ち込むとはやるじゃないか。

 

「44口径120mm滑腔砲の威力、その身で知れ! ファイア!!」

 

 轟音が響き、黄色い閃光が空に尾を引きながら敵集団に突っ込む。

 

『回避ッ! 固まるなッ!』

 

 下を飛んでいた連中が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 いくらISでも正面から当たりたくないだろう。

 

「ISの機動性があれば避けるのは難しくない、でも当たれば大ダメージは必至。これで迂闊に前には出れないはずです。時間稼ぎにはなるでしょう」

 

 目標に当たらず、地面に当たった砲弾が地面に穴をあける。

 アリーナにはバリアがあるとはえい、少し心配になる絵面だ。

 

「千冬さん」

「任せろ」

 

 イギリス代表が銃のスコープをこちらに向けている。

 銃身が長いオーソドックスな狙撃銃だ。

 

 ハイパーセンサーの望遠機能を使い、エマの目に集中する。

 狙われてる場所は分かる。

 私の肩だ。

 ゾクゾクと、言葉にできない不快な感覚がする。

 目標が分かれば後はタイミングだけだ。

 まだ……まだ……。

 

 エラの目から、“撃つ”という気配が発せられた。

 

「ここだ」

 

 飛んできた弾丸をまたブレードで弾く。

 ふと思ったんだが、遮蔽物がある市街地ならともかく、何もない空の上では狙撃なんてナンセンスじゃないか?

 エマは腕が良い。

 狙った場所に確実に当てにくる。

 だから、撃つタイミングが分かれば防ぐのは簡単だ。

 ぶっちゃけ、狙撃手って少し腕が悪い方がいいんじゃないか?

 例えば風の動きを読み間違えるとか。

 そうしたら防ぐのは難しいし。

 

「暫らくは今の状況を維持します」

「了解だ」

 

 未だに順位に変動はなし。

 下から撃たれる銃弾を躱しつつ、私たちは上昇を続ける。

 アーリィーと飛蘭はオーストラリア代表を牽制中。

 アダムズは砲撃で敵の頭を押さえ、私はそのアダムズを守っている。

 大きな動きはないまま、三分の一の距離を登り終えた。

 

 

 

 

 

 

 若干作業気味なのがなんとも退屈だな。

 

「織斑さん、試合中ですよ?」

「すまん」

 

 アダムズの目が怖い今日この頃。

 そんな退屈そうな顔してたか?

 気合入れないと試合後が怖いな。

 

「心配しなくても忙しくなりそうですよ?」

「ん?」

「敵に動きありです」

 

 エラがなにかしらの指示を出している。

 動くのはヨーロッパ勢か。

 

「アーリィー、ヨーロッパ勢はなにか作戦とかあるのか?」

「何も聞いてないサ」

 

 裏切り者が出る可能性もあるしだろうし、作戦や切り札があっても当日までは秘密にしておくものか。

 

「アダムズ、ギリシャ代表の背中にゴツイ装備が見えないか」

「見えますね」

 

 どうみてもロケットエンジンって感じのブースターだあれ。

 

「まさかあんな物を持ってくる人間が居るとはな」

「ですね。驚きです」

 

 スピードを上げると言う点で、ブースターは楽だ。

 しかし、デメリットが余りに大きい。

 もしブースターが被弾したら背中で大爆発。

 この試合を棄権し、下手したら明日以降の試合にも出れなくなるだろう。

 ヨーロッパ勢以外の勢力は邪魔する気はないようだ。

 今は私たちを落とす方が優先って事か。

 

「来ますッ!」

 

 ギリシャ代表のブースターが点火、こちらを避けるように大きく弧を描きながら昇っていく。

 

「落とすか?」

「嫌な予感がします。追いましょう」

「了解だ」

 

 ギリシャ代表はこちらに背中を見せない。

 ブースターを狙うなら、背後は無理だとしてもせめて真下を取らなければ。

 ヨーロッパ勢は落ち着いている。

 このまま放置すれば、ギリシャ代表が勝つという可能性があるにも関わらずだ。

 抜けがけの心配はないという事か。

 

「こっちはどうするサ!?」

「そのまま待機で!」

 

 アダムズと一緒にギリシャ代表の背中を追う。

 が、追いかけっこは早々に終わった。

 こちらの上を取ったギリシャ代表がブースターを消し、振り返ったからだ。

 その手には、先端がいくつにも枝分かれした不思議な形をした物体があった。

 テレビのアンテナを無理矢理まとめた物を、銃の先端に取り付けたように見える。 

 

「ッ!? 後ろ!」

 

 アダムズの切羽詰った声。

 後ろに目をやれば、パラボラアンテナの様な物を構えるヨーロッパ勢。

 ……位置取りも少し変わっているな。

 私とアダムズの下に一人ずつ。

 そして、アーリィー、飛蘭、オーストラリア代表を直線で結ぶようなカタチで一人。

 この位置はマズイッ!?

 

「アダムズ!」

「離脱を!!」

 

 アダムズも同じ考えのようだ。

 相手の手が分からない以上、ここは慎重に――

 

「“ゼウス”!!」

 

 離脱は間に合わなかった。

 ギリシャ代表が構えていた物体の先端が、バチバチと音を立てて光る。

 なんとなく理解してしまった……。

 絶対に許さないぞ束ッ!!!

 脳内の束が私に向かってサムズアップ……ってやかましいわ!

 どう見ても電撃っぽい攻撃だよな。

 ……斬るか?

 ハイパーセンサーの知覚能力があれば出来ると思うが……やめとくか。

 ここで電気を斬るなんて真似したら、他国の代表に無駄に警戒されそうだ。

 いや待てよ。

 電撃で一番怖いのは……。

 

「ISを解除しろッ!」

 

 とっさの短い指示。

 だが、それでも私の言いたい事は伝わったらしい。

 アダムズ、アーリィー、飛蘭がISを解除してその身を空に投げる。

  

「ガッ!?」

 

 視界が光で染まり、体に激痛が走って筋肉が硬直する。

 こんなとんでも武器、絶対に束が出処だろう。

 電撃がアンテナめがけて落ちたのか……落雷場所を選べるのは厄介だな。

 

「展開!」

 

 再度ISを纏い、すかさず重力から逃げ出す。

 

「みんな無事か!?」

「痛い! けど動けます! この程度、あの地獄の訓練に比べれば……ッ!!」

 

 痛みのショックで元に戻るかと思ったが、杞憂だったな。

 流石はアメリカ軍の教育を受けた国家代表。

 この程度では揺らがないか。

 

「お二人は大丈夫ですか?」

「ビリっときたけど試合に影響なし! フェイは大丈夫サ?」

「この程度なら拷問訓練で慣れてる」

「……なんて?」

「ゴホン……大丈夫アルよ☆」

「キャラが崩壊してるけど、大丈夫っぽいサ」

 

 二人は余裕そうだな。

 

「戦闘に支障がないなら良かったです。二人ともこちらに!」

 

 アダムズの指示でアーリィーと飛蘭が合流する。

 オーストラリア代表の機体からは黒煙が噴出し、みるみる高度を下げていく。

 電子系統がやられたか。

 これでオーストラリア代表はリタイアだな。

 

「ギリシャ代表が降りてきます」

 

 勝利を目指さずこちらの足止めを優先か。

 手にもっていた“ゼウス”と呼ばれた兵器は、黒焦げになって沈黙している。

 一回限りの使い捨てか。

 武器がアサルトライフルに切り替わった。

 ここで束製武器を使わない理由はないだろ。

 替えはないということか。 

 最近手に入れた技術で、量産体制が整ってないのだろう。

 一瞬ISを解除したので、だいぶ距離を詰められてしまった。

 ギリシャ代表が体を使って私たちを受け止めれば、こちらは敵の群れに飲み込まれてしまう。

 忙しくなってきたな。

 

「ヨーロッパ勢はやる気まんまんですね。カナダ、ブラジルはこちらにひと当てしてから離脱と予想。ロシア、韓国も同様。インド、トルコは仕掛けてくる気配なし」

 

 ヨーロッパ勢はここで私たちを狩る気か。

 カナダ、ブラジル、ロシア、韓国は一撃離脱。

 インド、トルコはこちらを無視してトップを狙う、と。

 そんな感じか。

 

「楽しくなってきたサー!」

「腕が鳴るネ」

 

 戦闘狂どもは楽しそうだなおい。

 ま、その気持ちは理解できるけどな!

 

「これからどう動く?」

「ギリシャ代表を四人で撃破。そのまま逃げるって手もありますが……」

「距離が近すぎるしゴールまで遠い。この距離で背後から撃たれ続けたらそのうち被弾するぞ?」

「ですよね……でしたら」

 

 アダムズが上に居るギリシャ代表を一瞥し、その後に私たち顔を向けた。

 いい面構えだ。

 

「私はギリシャ代表を排除します! その後は援護に回りますので、それ以外は任せました!」

 

 そうこなくては!

 

「三人で9機の相手か。一人三人がノルマだな」

「これぞバトルロイヤルって感じサ!」

「一歩間違えれば大惨事アル」

 

 頼もしいアダムズの背中を見送り、三人で下の敵に注目する。

 さて、任されたのはいいがどう動くか。

 三人で相対するには多勢に無勢。

 正面からやりあうだけなら問題ないが、このゲームはあくまで“先に目標地点に到着した者の勝ち”だ。

 素通りさせるわけにはいかない。

 

「アタシが前に出るアル。同時に攻撃できる人数は限られてるネ。体勢を崩して投げるから、追撃を頼みたいヨ」

 

 人数が多かろうと、その全てが同時に攻撃してくる訳ではない。

 距離を詰めれば向こうも近接戦闘で挑んでくるだろう。

 近接格闘で戦うなら、人数が多いと互いに動きを阻害し邪魔になる。

 そして、フレンドリーファイアの可能性がある以上、後ろにいる人間は下手に手出しできないはず。

 この場は飛蘭に任せるか。

 

「それで行こう」

「頼むサ」

「お任せアル」

 

 飛蘭が先に飛び出し、私とアーリィーがその後ろに。

 逆三角形の形で迎撃に移る。

 数人の敵機の肩に武器が具現化された。

 あの形状、ミサイルか!?

 

「弾丸までは面倒見きれないアル! そっちで対処よろしくネ!」

 

 それはそうだな。

 流石にそこまで頼むわけにはいかないか。

 だがまぁ、私もアーリィーも問題ないだろう。

 

 ミサイルが一斉に発射され、私たちそれぞれに向かって飛んでくる。

 

「よっと」

 

 飛蘭は眼前に迫ったミサイルの弾頭に手を添え、受け流した。

 柔の妙技、と言ったところか。

 ハイパーセンサーの補助があるとはいえ、よくやる。

 

「おっと」

 

 アーリィーはミサイルの側面を殴って破壊した。

 ミサイルはひしゃげた状態で落下していった。

 爆発させない壊し方を心得ているようだ。

 

 私?

 私は斬って終わりだ。

 

 敵との距離が近づくにつれ、射撃の勢いが弱まる。

 代わりに、各々が近接武器を取り出し始めた。

 バスターソードのような大剣にレイピア。

 変わり種だと、バトルアックスもあるな。

 それとアーミーナイフ。

 アーミーナイフを持ってるのはプロの軍人か?

 

「ラァァ!」

 

 アーリィーは拳で銃弾を弾いている。

 手の甲の装甲が普通のISより厚いな。

 テンペスタは近接格闘のスピード重視型か。

 素手での格闘なら私より上かもしれない。

 素晴らしい身体能力だ。

 

 ついに飛蘭が敵ISと接敵した。

 武器を振り上げる二機のIS。

 

「功夫が――」

 

 飛蘭は武器が振り下ろされる前に、瞬時加速で懐に飛び込み二機のISの腕を掴む。

 

「足りないネッ!」

 

 合気道の一種だろうか?

 飛蘭が相手の腕を掴んだまま振り抜くと、相手は体勢を崩して吹っ飛んだ。

 流石だ。

 

「ここサ!」

 

 機体制御を失い、クルクルと回転しながら飛んできた敵の腹にアーリィーの蹴りがめりこむ。

 相手は抵抗できないまま、地面に向かって落ちていった。

 私も飛んで来た敵の頭を蹴り飛ばす。

 まずは二機排除完了。

 

「チッ」

 

 顔の横を弾丸が駆け抜ける。

 いい加減しつこいな。

 

「だいぶ好かれてるようサ。千冬が狙われる分こっちは楽で良いサ」

 

 できれば変わってほしいんだがな。

 さっきから、エマは私しか狙っていない。

 どれだけ嫌われてるんだ?

 

「取り合えず今は他の敵の排除だ」

「おうサ!」

 

 一人突出する飛蘭を倒す為に、敵は武器を振りかざす。

 飛蘭がそれをいなし、体制を崩してこちらにぶっ飛ばす。

 先ほどと同じ事が繰り返される。

 相手もイラついてるだろう。

 この状況で出来る事は限られている。

 向こうとしては、速攻で飛蘭を排除して、私とアーリィーにたどり着きたいだろう。

 なにせ今なら数の暴力があるからな。

 しかし目論見は失敗。

 飛蘭に転がされ4人が脱落。

 ならばと私とアーリィーを打ち落とそうとするが、それも上手くはいかない。

 それぞれの立ち位置が悪かったな。

 本来の空中戦なら四方を囲むという方法もあったが、私たちが上で相手は下。

 昇る者と降る者。

 正面から受け止めるしかないのだ。

 こちらを躱して勝利を目指す、なんて方法もあるが、心情的に無理だろう。

 数で勝っているんだ、邪魔な私たちをここで潰したいと思うのは当然だ。

 

「一機追加ヨ!」

「おうサ!」

 

 バランスを崩した敵機にアーリィーが追撃してこれで五機目。

 

「二機任せるアル!」

 

 インド代表とトルコ代表が飛蘭を回避して昇ってくる。

 戦わずして勝利を目指す気か。

 アーリィーの方にはインド代表が向かう。

 インド代表は無傷でアーリィーを躱せるとは思っていなようだ。

 その手に日本刀とは違い、反りの大きいソードを持っていた。

 あれだ、映画とかで海賊とかが持ってそうな武器だ。

 正面から蹴散らす気概はいいが……。

 

「そう簡単に抜けると思うなサ!」

 

 アーリィーが瞬時加速で移動し、そのつま先をインド代表に腹にぶち込む。

 インド代表は一応は反応していた。

 うん、ソードで受けようと努力していた。

 でもそれはあまり意味はなかった。

 つま先とお腹の間に、割り込む様に挟まれたソードごと蹴り飛ばされたからな。

 

 私の相手はトルコ代表。

 アサルトライフルを構え、撃ちながら突撃してくる。

 撃ち慣れてるな。

 なんちゃって軍人ではない。

 戦場帰りか?

 銃弾を避け、直撃しそうな弾はブレードで防ぐ。

 顔の中心にピリピリした殺気を感じた。

 顔面を狙ってくるなよ。

 取り合えず首を捻ってエラの狙撃を回避。

 

 銃撃を躱しながら接近する。

 互いの距離が近付き、間合いが銃の距離から近接武器の間合いに変わる。

 

「……チッ!」

 

 相手の舌打ちがここまで聞こえた。

 アサルトライフルからショートソードに武器が切り替わる。

 切り替えの動作が早いな。

 ん? 右手にショートソードを持っているが左手には何もない。

 生身なら特に警戒はしない。

 相手が袖の長い服を着ていたら、暗器やデリンジャーなどの小拳銃を警戒する。

 ISならば何が飛び出るか分からない。

 だがまぁ……関係ないがな!

 

「フンッ!」

 

 両手で握ったブレードを振るう。

 重力と下に落ちる加速の力を得たブレードがトルコ代表に迫る。

 トルコ代表はそれをショートソードで受けたが、一瞬で砕け散った。

 一瞬でも鍔迫り合いしたおかげで、少し勢いが落ちている。

 死ぬ心配はなさそうなので、そのままトルコ代表の脳天にブレードを叩き付けた。

 兜タイプの装甲が砕け、地面に向かって落ちていく。

 気付いたらトルコ代表の左手にはハンドガンがあった。

 本来の戦い方は、ショートソードで翻弄してハンドガンで奇襲、と言ったところか。

 残念ながら生かす機会がなかったな。

 

「残りはどうするサ? イギリス代表は千冬に執着してるようだし、1対1でやるサ?」

 

 私に近付いてきてアーリィーがそんな事を言う。

 アダムズに怒られたくなければ余計な事を言うな。

 この場面でそんな真似してみろ。

 絶対に怒られるぞ?

 

「最初に落ちた選手が体勢を整えて復帰しようとしている。今は時間が惜しいから却下だ」

「ならさっさとやるサ」 

 

 飛蘭が3機のISを相手取っている。

 接近戦を挑んでるのは二機。

 流石に飛蘭を警戒してるのか、軽々しく突っ込む様な真似はしない。

 飛蘭も相手の技量を軽んじてる訳ではないようだ。

 こちらも軽々しく飛び込む様な真似はしない。

 一種のお見合い状態だ。

 二機の隙を潰すように、エマが射撃で牽制しているのも膠着を産む要素になっている。

 っておいイギリス代表……。

 

「凄い執念サ」

 

 エマの銃口が私の方を向く。

 狙いは太ももか。

 すぐさまブレードでガード。

 お、すぐに飛蘭に銃口が戻った。

 飛蘭の牽制しつつ私を狙うとは……。

 

「んじゃまぁ、さっさと片付けるサ」

「そうだな」

 

 アーリィーと共に飛蘭の元に向かう。

 グズグズしてたら復活した敵に囲まれそうだしな。 

 

「右を貰うサ!」

「なら私は左だ」

 

 重力を味方に加速し、飛蘭の横から飛び出す。

 私とアーリィーの動きに合わせ、飛蘭も前に出た。

 なにも言わなくても呼応してくれるのはありがたい。

 アーリィーが右の敵機。

 私が左の敵機に肉薄する。

 私たちに対応する為に見せた一瞬の隙。

 その隙を見逃さず、敵の間をすり抜けた飛蘭がイギリス代表のエマを襲う。

 

 アーリィーは相手のブレードを白刃取りで受けとめ、ISの力を使ってそのままへし折った。

 折られたブレードに執着せず、相手は短くなったブレードをアーリィーに投げつける。 

 すぐさまそういった返しができるのは流石は国家代表だ。 

 だが相手が悪かった。

 アーリィーは飛んで来たそれを拳で軽く弾き、一気に懐に入った。

 これは決まったな。

 

 飛蘭が相手をしているエマは射撃、狙撃が得意なタイプだ。

 飛蘭が近付いても決して殴り合いには応じない。

 いや、むしろ必要以上に距離をとっている。

 恐らく瞬時加速を警戒してのことだろう。

 こっちは手こずりそうだな。

 

 私の方も簡単とは言えない。

 相手はドイツ代表。

 ――手練れだ。

 装備はアーミーナイフとアサルトライフルの二刀流。

 こちらの一撃をアーミーナイフで受け、アサルトライフルで私のシールエネルギーを削ろうとしてくる。

 トルコ代表と同じ様に武器を破壊するという手もあるが、それも難しい。

 アーミーナイフがかなり分厚い。

 切れ味よりも耐久重視の造りだ。

 

 私とドイツ代表は上を目指しながら矛を交える。

 一撃入れようとする私に対し、ドイツ代表は冷静に攻撃を受け止める。

 周囲に味方はなく、時間が掛かればアーリィーと飛蘭が増援に来る可能性がある中でこの落ち着き具合。

 怖いな。

 目に諦めなんて微塵もない。

 どんな状況でも耐え、私が隙を見せれば仕留める。

 そんな目だ。

 だが、状況が動くのを待っているのはドイツ代表だけではない。

 

 ……上から1機のISが落ちてくる。

 正面が黒く焦げ、操縦者は苦悶の表情を浮かべている。

 アダムズの砲撃を正面から受けたのか?

 なんというか、ご愁傷様だ。

 

「ファイア」

 

 頼もしいアダムズの声。

 ドイツ代表に向かって黄色い流星が降ってくる。

 直前で気付いた彼女はそれをギリギリで避けた。

 チャンスは今だ。

 手の内の一つがばれるが仕方がない。

 ドイツ代表は、ここで仕留めるべきだ。

 

 瞬時加速でドイツ代表の真横を駆け抜け背後を取る。

 だがこれで倒せるほど甘い存在ではない。

 その証拠に、彼女は私の動きに反応し、後ろを振り返ろうとしている。

 今攻撃しても、きっと防がれる。

 だからこそ――

 

「これでッ――」

 

 スラスターに負担を掛ける瞬時加速の連続使用。

 後ろに向けて瞬時加速する。

 来た道を戻る動きは、ISだからこそだ。

 

「終いだッ!」

 

 ドイツ代表は私の動きに着いてこれず、中途半端に振り返った姿勢で私に斬られた。

 瞬時加速の連続使用は諸刃の剣だ。

 今の技術では、装備に非常に負担を掛けるからだ。

 すでに体中のパーツから軋む音が聞こえてくる。

 この試合は乗り切れると思うが、無茶をしてしまったな。

 

 下を見ると、アーリィーと飛蘭がエマを相手に立ち回っていた。

 エラを挟み逃げ道を塞ごうと動く二人に対し、エラは隠し腕と両手に持った4丁の銃で近づけさせまいとしている。

 そこにアダムズの援護射撃が入った。

 砲弾はエマの機体をかすり、彼女の姿勢が大きく崩れた。

 その瞬間を見逃す二人ではない。

 あ、背中をアーリィーに蹴られ、吹っ飛んだところに飛蘭の拳が腹に突き刺さった。

 エラの体が“>”の字になり、それから“<”の字になって落下していった。

 あれは痛いだろうな。

 私なら食らいたくない。

 

「よし! 排除完了サ!」

「なんとかなったアル」

 

 試合内容に助けられた結果だな。

 これがアリーナなどの閉鎖空間での戦いだったら、こうも上手くいかなかっただろう。

 

「無駄話しない!」

「「サー・イエッサー!」」

 

 そうだな。

 最初に殴り飛ばした選手が続々と復活してきている。

 ここは逃げるが勝ちだ。

 

「行きますよ」

 

 私たちより先を飛ぶアダムズは、こちらが追いつくスピードで飛んでいる。

 律儀だな。

 アーリィーと飛蘭、二人が無言で頷き、スピードを上げてアダムズに並走する。

 うん、明日からは敵同士だが、悪い気分ではない。 

 そう思いながら私もスピードを上げ、三人に追い付く。

 

 最初に脱落した組が復帰し、攻撃を再開する。

 距離があり、尚且つ少人数のため弾幕は薄い。

 人数が増えれば攻撃もま激しくなるだろう。

 しかし、もう試合終了が見えている。

 私たちの相手をするよりも、自分たちの心配する事になるだろう。

 

「それにしてもナイスアシストだったサ! トリーシャはやる時はやる女サ!」

「まさか戦車の主砲を持ち出すとは……流石はアメリカ…………くっ、これじゃ目立たない」

「ありがとうございます。訓練した甲斐がありました。……ところでフェイさんは何と戦ってるんです?」

「……素手で殴れない虚構の怪物、アル」

 

 飛蘭は色んな意味で深い闇を抱えてそうだな。

 中国代表としてアピールを強いられてるのだろう。

 日本は束の出身国、そしてISが誕生した国でもある。

 世界各国に対し、大きなアドバンテージがあるのだ。

 国家代表である私がアピールしなくても、勝手に注目の的になる。

 飛蘭には悪いが、日本代表で良かった。

 

 視界のすみに表示されている高度を示す数字が、この試合最後の山場が近付いてるのを教えてくれる。

 私たちは4人で横並びで飛び、その瞬間を待つ。

 

「景色が綺麗ですね」

「そうだな」

 

 私たちが飛んでるのはすでに雲の上だ。

 周囲を見渡せば、大地と海が目に入る。

 遥か上空から見る青い海と雲のコラボが感動的だ。

 

「あの辺りの海岸、確かゴミが散乱してる場所ヨ。少し離れるだけで綺麗に見えるアル」

「夢のない発言はやめろ」

 

 白騎士事件の一幕で神一郎が怒った理由がわかる。

 この美しい景色を汚したと思うと、罪悪感が湧いてくる。

 

「お? 下ではドンパチが始まったみたいサ」

 

 アーリィーの言葉で下を見れば、色とりどりのISが混ざり合って飛んでいた。

 マズルフラッシュがチカチカと点滅し、爆発するミサイルが空に大きな花を作る。

 上から眺めるだけなら綺麗な景色だ。

 

「なんか攻撃が激しくないですか?」

「きっと一位を諦めたからサ。ここで五位を狙うより、明日以降の試合を考えて、出来るだけライバルにダメージを与えてるのサ」

「それとうっぷん晴らしアル。負けた腹いせに相手をぶっ潰す気で攻撃してるヨ」

「ひぇー……」

 

 堅実に五位を狙うより、ライバルにダメージを、か。

 まぁ有効な手段ではあるな。

 ISの整備だって簡単ではない。

 ここで痛めつければ、明日からは状態が悪いISで戦わなければいけなくなるんだから。

 しかし、ふむ……

 

「ここで脱落すれば、下手したら囲まれてやられるな……」

「「「っ!?」」」

 

 私が呟いた一言に、三人の表情が固まる。

 

「だいぶ恨みを買ったと思うサ……」

「私から見れば、少人数で打ち勝った見事な試合! って感じですけど、相手から見れば殺意の対象ですよね……」

「実力もあるけど、運にも助けられた面もあるヨ。正直言って上手く行き過ぎたネ。きっと向こうは怒り心頭アル」

 

 相手は人数が多かったとはいえ、チームがバラバラだった。

 全力を出せずに負けた事は、きっと心に大きな澱みを産んだはずだ。

 そんな中に私たちの誰かが一人で現れたら……。

 

「絶対に、負けられないッ!」

 

 アダムズが私たちの気持ちを代弁してくれた。

 心の底から同意しよう。

 いくら私でもあの群れの中に飛び込みたくはない。

 

「ピラニアの群れに生肉サ」

「むしろ鮫の群れに生肉アル」

「……生肉呼びはやめましょう。嫌な想像をしてしまいます」

「それは悪かったサ」

「これからが本番なのに、不安にさせて悪かったアル」

 

 少し怯えるアダムズに、二人がどこか含みのある笑顔を向ける。

 ……怯えてる? まさかアダムズの集中力が切れかけているのか?

 山場を越えた今なら無理もないか……。

 いや待てよ、まだ私たちという敵が存在している。

 終わった気になるのは早すぎるだろ。

 共闘し、仲間意識が芽生えて警戒が緩んでるのかもしれない。

 これは少し不味いな。

 正気に戻れアダムズ! 高度な心理戦を仕掛けられてるぞ!!

 

「集中力を切らすな。試合はまだ終わっていない」

「あ、はい。もちろんです。ゴールするまでは気は抜きません」

「千冬はお堅いサー。ここまで来たらもう終わったも同然サ」

「その通りヨ。それにしても、トリーシャサンはよくギリシャ代表を一人で押さえてくれたアル。そのお陰でだいぶ楽できたネ。流石はアメリカ代表アル」

「そうですか? えへへ……」

 

 アダムズの心理的防壁を崩しに掛かってやがるッ!?

 気付けアダムズ! 私とお前は二位と三位だぞ!? 私とお前、アーリィーと飛蘭に分かれて戦う可能性があるんだ! そのへん理解してるのか!?

 

「さっきの武器をよく見せて欲しいアル。アメリカ戦車の主砲を間近で見る機会なんて中々ないから、興味があるヨ」

「どうぞどうぞ。これを準備したのは先輩なんですけど、思ったより使いやすくてお気に入りなんです」

「おもっ……これがお気に入りアルか……」

 

 巨大な砲を受け取った飛蘭が若干引いている。

 お気に入りとは驚きだ。

 まぁマシンガンなどをちまちま撃つよりは楽しそうだよな。

 ……私も少し興味がある。

 

「なるほど、トリーシャは太くて逞しいのがお気に入りと……」

「悪意! アーリィーさん! その言い方は悪意がありませんかッ!?」

 

 ダメだ。

 未だ試合中なのに、アダムズのツッコミはノリノリだ。

 もう完全に集中力が切れてる。

 二人は会話で見事にアダムズの心を乱した。

 ここからもう一度、試合開始直後の心理状態に持っていくのは難しいだろう。

 ……いざとなったら、アダムズは囮にしようかな。

 

「無駄話はそこまでだ。そろそろ時間だ」

 

 約束の90キロ地点まで時間にして残り数十秒。

 アーリィーと飛蘭の表情が引き締まり、気合十分といった感じだ。

 アダムズ? 戦士としてのアダムズはもう死んだ。

 だって持ち込んだ戦車の主砲、まだ飛蘭が抱えてるからな。

 戦いの最中に敵に武器を渡すなよ……。 

 

 ――目標地点まで残り1000メートル。

 

「飛蘭さん、そろそろ返してください」

「…………」

「飛蘭さん?」

「……(にこっ)」

「飛蘭さん!?」

 

 遊ばれてるな。

 アダムズは怒りもせず、ただわたわたしている。

 その姿を見て、アーリィーと飛蘭が目配せした。

 戦力がちゃんと低下したかの確認か。

 丁寧な仕事振りだな。

 まぁスパルタ軍人風のアダムズが戦車の主砲を振り回すのは、相手をする側から見れば恐怖の対象だ。

 念入りに無効化する気持ちは分かる。

 

 ――残り700メートル。

 

「冗談アル。はい、返すネ」

「もう、ビックリしましたよ……よ?」

 

 アダムズは主砲を受け取ったままピタリと固まってしまった。

 飛蘭の目を見て気付いたのだろう。

 口調は穏やかだが、目は私と戦った時と同じものだ。

 

「アダムズ、後ろを見てみろ」

「後ろ? ……ヒッ」

 

 振り返れば、そこには獰猛な笑みで自分の顔を見つめるアーリィー。

 少し前から静かだったろ?

 そいつ、お前の後ろで嬉しそうに笑ってたぞ。

 

 ――残り500メートル。

 

「アダムズ、私の隣に来い」

「は、はい!」

 

 残り時間が少ない。

 今からアダムズを立ち直りさせるの無理だろう。

 このままやるしかないか。

 

「自分の現状は理解しているな?」

「……すみません。気が緩みました」

 

 アダムズがシュンとうなだれ、反省の色を見せる。

 素直に反省するだけマシだ。

 うん、馬鹿二人に比べたら本当にマシだ。

 だからそこまで気にするな。

 

 生身の人間なら凍りつく温度に晒されてるにも関わらず、心が熱く燃える。

 なんだかんだと言いながら、結局は戦いを楽しんでる自分が居る。

 だがそれは、決して悪い事ではない。

 

「千冬のマジな顔はゾクゾクするサ」

「ではアーリィーが千冬サンの相手をするネ?」

「……そうしたいけど、最終日まではおあずけにしたい。千冬は任せていいサ?」

「仕方がないアルな。出来るだけ足止めするヨ」

 

 私を殺せる存在が目の前に居るのだ。

 ここで滾らなければ生き物として失格だろう。

 しかし飛蘭よ。

 セリフと表情は合わせような。

 目が爛々と輝いてるぞ。

 

 ――残り200メートル。

 

「殺せ殺せ殺せ――」

「自己暗示は成功しそうか?」

「……無理です」

 

 悲しそうな顔をするな、私まで悲しくなってしまう。

 この緊迫した状況で集中するのは難しいから仕方がないさ。

 こんな場面でこそ、勢いが大切だ。

 

「取り合えず声を出して気合を入れろ」

「了解です!」

「アーリィーはお前をご指名のようだが、受けるか?」

「受けます!」

「なら私が飛蘭だ。まずは二人を叩き落すぞ」

「はい!」

 

 よし、気合は十分だ。

 気合だけはな。

 

 ――残りゼロ。

 

 そして新たなカウントダウンが始まる。

 

 ――残り10000メートル。

 

「行くサァァァァァ!!」

「ひゃっ!?」

 

 嬉々として襲い掛かるアーリィーに対し、アダムズは尻込みしている。

 大丈夫か、あれ。

 

「よそ見とは余裕アルね」

「誰かさんのせいで背中が心配なんだよ」

 

 飛蘭が青龍偃月刀で斬りかかってきたので、ブレードで受け止める。

 青龍偃月刀は特殊な武器だ。

 名前に刀と付いているが、間合いは槍。

 遠心力を得た先端の刃は、簡単に人体を切断できる威力があるだろう。

 リーチが長い武器に対し有効なのは、懐に入ること。

 なんだが――。

 

「受け身なんてらしくないアルよ!」

「無茶言うな!」

 

 刃が嵐の様に襲ってくる中、私は受けに徹するしかない状況だ。

 ISの力で振り回される青龍偃月刀は厄介この上ない。

 しかも隙がない。

 ……いや、ないわけでもない。

 偃月刀を振り下ろした瞬間など、攻めるチャンスではあるんだが……どうにも誘われてる気がする。

 

 私もやったが、後ろへの瞬時加速という手がある。

 この技は通常の瞬時加速より難易度が高い技だが、飛蘭ならできるだろう。

 こちらが瞬時加速で懐に入ったとしても、それに合わせて飛蘭が下がれば、私は変わらず間合いの中だ。 

 タイミングを間違ったらバッサリだな。

 アダムズからの援護は――

 

「フェイントに簡単に引っかかるな! 経験と勘で判断するのが普通だけど、トリーシャは目が良いし反射神経も良い。見てから判断してもギリギリ間に合うはずサ!」

「はい!」

「そこ! フェイの技術で受け流し、千冬の動きで殴る! 覚えた技はちゃんと使うサ!」

「はい!」

「よーし、ラッシュ決めるから、全部捌いてみせるサ!」

「ラジャー!」

 

 ダメだ、なんか知らんが修行が始まってる。

 アーリィー的に、今のアダムズは食指が湧かないのかもしれない。

 取り合えず、敵を一人釘付けしてるので良しとしよう。

 

「そんなに向こうが気になるアルか? ちょっとジェラシー感じるヨ」

「自分に集中しろと言ってるのだろ? わかってるさ」

 

 受け身はやはり性に合わない。

 それにこのまま受け続けたらブレードが折れそうだ。

 今度はこちらから仕掛けるか。

 少しでも踏み込み、刃の部分ではなく柄の部分にブレードを当てる。

 

「ぐ……やっぱり馬鹿力アル」

「誰が馬鹿だコラ」

 

 柄をへし折るつもりだったか無理か。

 少なくても数回当てただけじゃ壊れなそうだ。

 せめて斬り落としたいところだが、残念ながら私の得物は“ブレード”だ。

 形状としては騎士が使う様な直剣で、頑丈さと切れ味の両立を目指した物だ。

 個人的には刀がよかったのだが、如何せん刀型は耐久力に問題があった。

 ISが振り回す武器を受けたら、あっという間に折られてしまう可能性があるからだ。

 でもやはりIS用の日本刀を作ってもらおうと思う。 

 一流の剣士なら得物を選ばないだと?

 鉄の棒を金属バットで斬れるのは漫画の世界だけだ。 

 しかしどいつもこいつも何故か私を脳筋扱いする。

 非常に遺憾だ。

 脳筋じゃない証を見せてやろう。

 

「ふぅ――」

 

 肺の空気と一緒に体の力を抜く。

 刃を寝かせ、柄に沿って滑るように刃を走らせる。

 

「させないネ」

 

 対する飛蘭は、すぐさま偃月刀を立ててそれを防ぐ。

 試合のルールが本当に面倒だ。

 それがなければ下を取ったり動きに強弱を付けたりと、色々と戦い方が工夫できるのに、上昇しながら戦うこの試合ではどうしても正面からのやりあいになってしまう。

 ブレード、偃月刀、相手は射撃武器を使わない、援護はなし、スピードは落とせない、瞬時加速の多様は禁物、ロックオン警告――

 

 ロックオン警告?

 

「大人しくしてればいいものを――ッ!」

 

 飛蘭が苛立ちながら偃月刀でミサイルを斬り払う。

 私の元へもミサイルが飛んで来た。

 なるほど、トップ層が戦い始めたんだ、ここで隙を狙って撃ち落とすのは普通だ。

 戦いに集中してる内なら、被弾するかもしれないからな。

 だがこれはチャンスだ。

 競技用の弾丸とは違い、ミサイルの大きさは統一されてはいない。

 私が欲しいのは小さいやつだ。

 手で掴めるくらいの胴回りのミサイル……あった!

 

 引き付けてギリギリで躱す。

 横を通り過ぎる瞬間に、左手でミサイルを鷲掴みにする。

 誰からのプレゼントは分からないが、このミサイルはありがたく使わせてもらおう。

 

 脳内麻薬を生成。

 筋力のリミッターを解除。 

 

「飛蘭!」

 

 別に正面から堂々と戦う為ではない。

 自らに気合を入れる為に大声で彼女の名前を叫ぶ。

 振り落とされる偃月刀。

 それを右腕の持ったブレードで弾き返す。

 飛蘭の顔が驚愕で染まり、酷使した右腕に痛みが走る。

 遠心力と重さを味方にした飛蘭の一撃を片手で防いだ代償は、一晩の筋肉痛。

 随分と安い買い物だ。

 

 攻撃を弾かれた影響で体勢を崩した飛蘭に接近し、その胸にミサイルを叩き付ける。

 

「ちょっ……!?」

 

 ミサイルが爆発し、爆音で飛蘭のセリフが途切れる。

 これで仕留めた?

 んな馬鹿な。

 私は朱飛蘭という人物を過小評価していない。

 ブレードを拡張領域に収納。

 煙が舞う中、拳で飛蘭を滅多打ちにする。

 ミサイルの直撃、その後の拳による殴打。

 流石の飛蘭でも慌てるはずだ。

 ここで飛蘭の側面に瞬時加速で移動する。

 この短い距離を瞬時加速で移動するの、普通に移動するよりも機体に負担が掛かる。

 だが必要な事だ。

 飛蘭に体制を立て直す暇は与えない。

 

「恨むなよッ!」

 

 右手に持ち替えたブレードを飛蘭の背中に叩き付ける。

 背中のウィングが砕け、飛蘭の上昇が止まった。

 

「……ミサイルは予想外。搦め手を使うとは読めなかった」

「すまんな、今は勝利が優先だ。お前相手に正面からは手こずりそうだったのでな」

「まだ飛べなくもないから、蠱毒には落ちなくてすむかな? ……ゴホン、今日の所は負けを認めるアル。さぁ、先に行くネ」

 

 勝負は決まった。

 私は飛蘭に背を向けその場を離れる。

 まだ足搔こうと思えばできるだろう。

 しかし彼女は背後から撃つ真似もせず私を見送った。

 良い勝負だった。

 さて、あっちの二人はどうなった?

 

「よーし! いい感じサ! それじゃ初めからもう一度!」

「はい!」

 

 距離にして50メートル程先。

 高度は私と変わらない位置を二人は飛んでいた。

 アダムズがアーリィーから距離を取り、拳を構える。

 

「……行きます! ハァァァッ!!」

 

 気迫を漲らせながらアダムズが突撃する。

 

 アダムズの姿がブレれ、次に姿を見せた時にはアダムズの足首をアーリィーが掴んでる状態だった。  

 アーリィーが使っていた瞬時加速からの蹴りか。

 アダムズが脚部の装甲だけを一瞬だけ解除し、掴まれた足を開放した。

 冷静に対処したな。

 それにしても上手い逃げ方だ。

 私も参考にしよう。

 

「心意六合……蛇形拳!」

「楽しいサ!」

 

 二人は絡み合う蛇の様に交戦しながら空を昇る。

 しかしちょっと驚いた。

 まさか飛蘭の動きをしっかり覚えてるとは。

 学べば学ぶほど強くなるタイプ。

 これは最終日のトーナメントが楽しみだな。 

 

 蛇の如く鋭い攻撃が一転、直線のストレートパンチ。

 今度はボクシングか。

 パンチからローキック。

 ……見覚えあるな、あれは私の蹴り方だ。

 そしてまた蛇形拳。

 ころころと戦い方が変わる。

 素晴らしい……素晴らしいが、だ。

 

「ほらほら、もっとペース上げるサ!」

 

 アーリィーの方が上手だ。

 アダムズの攻め方は決して単調ではない。

 技を変え、動きを変え、自分にできる事を最大限やっている。

 それでもアーリィーのガードを崩せない。

 正面からの殴り合いではアダムズに勝ち目はない。

 

「さて、千冬が待ってるからそろそろ終わりにするサ」

「負けません!」

「ところでトリーシャ、なんでこんな修行みたいな真似してるか理解してるサ?」

「え? えっと……義理や人情とか、そんな話しですか?」

「残念ハズレ」

 

 アーリィーの右手に一本の槍が現れる。

 それを見てアダムズの顔に緊張が走った。

 今まで素手で戦っていたのに、ここで得物を出すのか。

 ……違和感があるな。

 アーリィーが槍だと?

 出会って間もないが、なんというか“らしくない”と感じる。

 

「トリーシャの為にスパーリング相手を買ってでたと思うサ? 残念ながらそこまで優しくないサ。銃を撃ったりなんか苦手だけど、こっちは得意なのサ。正解は――これ!」

「投擲ッ!?」

 

 投げられた槍をアダムズが咄嗟に避ける。

 あぁ、なるほど。

 アーリィーはアダムズの為に教師役をやっていたのではない。

 自分がアダムズの動きを覚える為の時間だったのか。

 

「トリーシャは正面からの攻撃を右に避ける癖があるサ」

「なっ」

 

 アダムズが槍を意識して動いた瞬間、その先にはアーリィーが先回りしていた。

 

「これも勉強サ!」

 

 拳のラッシュ。

 槍を避ける事に夢中だったアダムズに迎撃の用意などなく、拳の一発一発が綺麗にアダムズに命中した。

 

「最後に喧嘩のやり方を教えてあげるサ。まずは腹に一撃!」

「ぐっ」

「そうすると頭が下がるサ。そうしたら――頭をタコ殴りサ!!」

「――ッ!?」

 

 悲鳴を上げる暇もなくアダムズが殴り飛ばされる。

 なんか少し可哀想だな。

 学ぶつもりだったのに逆に自分の動きを教え、馬鹿みたいな殴り合いに乗じてせっかくの戦車砲を拡張領域の肥やしにしてしまった。

 途中までは完璧だったのに……。

 実戦不足、まさにそれだろう。

 アダムズの敗因は私たちチームを信じすぎたこと。

 これはバトルロイヤルだ。

 気を抜くのが早かったな。

 ……あ、落ちてくアダムズにミサイルが。

 不幸体質だな。

 でも直撃前に動いていたから撃墜はないだろう。

 飛蘭と力を合わせ頑張って欲しい。

 

「さーてお待たせサ」

 

 ん? たまに見せる好戦的な笑い方ではないな。

 悪戯を仕掛ける前の子供のような笑顔だ。

 

「ふーん、なんだかんだで千冬もまだお子様だったサ」

「どういう意味だ?」

 

 未成年だし、子供と言われれば子供だ。 

 だがアーリィーが言いたい事はそういったことではないだろう。

 なんだ? アーリィーは何が言いたい?

 

「だって千冬、戦う気になってるサ。この試合は誰が強いのか決めるものではないのに――」

 

 ……………あ

 

「千冬と戦うのは最終日のトーナメントの決勝が望ましい」

 

 ばさっ(アーリィーの背後に大きな翼が広がる)

 

「だから昨日の成績がイマイチだったので今日は勝利を優先するサ」

 

 ぐっ(私に向かって親指を立てる)

 

「そんな訳で、お先に失礼サ」

 

 あ……あぁ……ああああああああ!?

 

「しまったッ!?」

 

 場の雰囲気に流されてた!

 アーリィーが戦うものだと、そう思い込んでいた!

 私の馬鹿者がッ!!

 斬る――無理だ! 距離が遠すぎる!

 

「待てッ!」

 

 急いで速度を上げる。 

 私は後付けのバックパックなど持って来ていない。

 拡張領域にあるもので使える物……鬼灯と山法師はあるが……無理だな。

 とても撃ち落とせる気がしない。

 そもそも私はなぜアダムズとアーリィーの戦いを傍観していた?

 本気で勝つなら横やり入れる場面だったろ馬鹿め!

 

「これはおまけサ」

 

 アーリィーが自分で得意だと言う投擲技術。

 その剛腕で手榴弾が投げられた。

 それが爆発する瞬間を想像し、頬がひきつる。

 性格悪すぎじゃないか!?

 回避……無駄な動きはそれだけ距離を取られるので却下。

 斬る……飛んでくる破片を全て斬るのは不可能。 

 両腕で顔を覆い隠し、そのまま直進!

 

 落ちてきた手榴弾が爆発して破片をばら撒く。

 私に向かって飛んでくる破片。

 それに向かって最高速度で突っ込む私。

 結果は言わずもがなだ。

 

 破片が機体に刺さり、二の腕はまるで剣山に様変わり。

 真上からの手榴弾は悪質すぎるだろう!?

 てか最初からやれ!

 これ、他の国家代表に追われてる最中に使えばもっと楽に事が運んだんじゃないか?

 切り札は最後に取っておくものだが、それを使われる立場は遠慮したかった!

 

 私のISは、瞬間最高速度はアーリィーより上だろう。

 だが、常時の速度はアーリィーのテンペスタがやや上だ。

 それに加え、アーリィーはウィングで加速している。

 更に悪い知らせ。

 もうゴールが近い。

 

 ――私の負けだな。

 

「いやっほうぅぅぅぅ!!」

 

 アーリィーの嬉しそうな声が耳に届いた――

 




アメリカ代表「マゼラトップ砲はロマン」
イタリア代表「クロックアップからのライダーキックが決め技です」
中国代表「投げ殺す!」
日本代表「私は脳筋じゃない!(ミサイルを素手で持ってぶつける)」

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