俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~ 作:GJ0083
イタリア代表「後悔はなかったサ。あの時、あの瞬間はあれが最善だったサ。最高に楽しい試合だったサ」
中国代表「一歩及ばずで悔しいヨ。応援してくれた人達には申し訳ないアル。でも楽しい時間だったネ。あの試合は一生忘れないアル」
日本代表「優勝は嬉しいです。ですが“チェイサー”、“決勝戦”で調べると二人の試合が出て来るんですよね……」
「いやー、フェイは強敵だったサ」
チェイサーが終わった後にTVインタビュー受けシャワーを浴び、今は夕食の時間である。
メンバーは朝と同じだ。
しかしアーリィーはあんな事があったのに元気な事だ。
「背中は大丈夫なのか?」
「フェイが助けてくれたから軽度の火傷で済んだサ」
「まさか救助活動させられるとは思ってもみてなかったヨ」
舌を出しておどけるアーリィーに飛蘭が苦笑する。
アーリィーが落ちた時、飛蘭はすぐさま駆け寄って背中で燃えていたブースターと装甲を剥がした。
煙を吹きだすブースターは投げ出された地面で爆破し、熱を持った装甲が地面に焦げ跡を作る。
そんな状況だったが、飛蘭のおかげでアーリィーは軽傷で済んだのだ。
「試合を見ててビックリしましたよ。でも無事で良かったです」
「なにが無事なものですか。結果ISは中破、決勝を辞退なんて国家代表としては失格ですわ」
「ちょっとテンション上がりすぎたサ。千冬は正直すまんかったサ」
「……もう過ぎた事だ。気にするな」
アーリィーがこうして五体満足な事を喜ぶべきだろう。
惜しくはあるがまだ戦く機会はあるのだから。
「……セリフと表情が合ってないネ」
言わないでくれ。
まだ気持ちの整理がついてないんだよ。
「もし良かったら食後の運動に付き合いますよ?」
「気を使わせてすまんなアダムズ、だが気持ちだけ受け取っておく。――たぶん、歯止めが利かなくなる……」
「……それは危ないのでやめといた方がいいですね」
アダムズの顔が引きつり心の距離が遠ざかったのを感じた。
いやすまん、今の私はまだ心が荒れているんだよ。
この心理状態で戦ったら歯止めが利かなくなる可能性がある。
「気を落とすのは早いですわ。まだ明日の競技があるじゃありませんか」
「明日って例のアレですよね。モンド・グロッソの進行表でも『シークレット』って書かれてましたけど、何をするんでしょうね?」
「モンド・グロッソ進行中に委員会が競技を決めるって話しだったけど、発表は当日だから内容は全然サ。アメリカやイギリスで情報を掴んだりしてないサ?」
「さっぱりです。先輩方も調べたみたいですがガードが固くてダメみたいでした。アメリカの委員会所属の人もだんまりを決め込んでるらしいですよ」
「こちらも同じくですわ。上からの情報は一切なし。情報は完璧に封鎖されてるみたいですの」
「本来なら委員会に居る同胞から情報が来る手筈になってるのにこないヨ。ぶっちゃけ異常事態アル。千冬サン、心当たりないネ?」
おいおい飛蘭、さらっと怖いネタを暴露するなよ。
心当たり? 委員長が束だから独裁政権を敷いてるんじゃないかな。
「心当たりはないな。委員会の人間は情報を漏らさない潔癖な人間ばかりなのだろう」
ふっ
おい誰だ鼻で笑ったの。
自国の人間くらい信じてやれよ。
「だったら明日の競技の方向性は分かるサ? 千冬の勘でいいから聞きたいサ」
私と束の関係性を疑うのはやめて欲しいな。
証拠はないはず。
それこそアーリィーの勘だろうが、残念ながら本当に何も知らないのだ。
しかし流石はアーリィーと言うべきか、質問の仕方が上手い。
こちらが具体的な内容は知らないと考え、あくまで方向性を聞いてきている。
篠ノ之束の友人として彼女の行動を予測できるか? と。
「さてな、私にはさっぱりだ……だが勘でも良いと言うなら――」
明日の競技を束が決めるとしたら、微妙に私に配慮した競技になる可能性はあるんだよなー。
「殴り合いや撃ち合いなどの戦う競技になると思う。機動力や制空権などを競うものにはならないだろう」
「そっち系なら望むところサ」
「明日こそは千冬サンと戦いたいネ」
「撃ち合いなら千冬様と存分に踊れそうだから楽しみですわ」
「……対人戦ではなく個人競技である事を祈ります」
残念だがアダムズ、束が出張ってきたら対人戦になるぞ。
「アーリィーは明日の試合は大丈夫なのか? 背中の傷もあるが、ISの修理も大変だろう」
「背中の傷は問題ないサ。少しヒリヒリする程度、ただの日焼けサ。ISは……裏方の皆様が徹夜で直すと言ってました」
後半の声が微妙に震えている。
怒られたんだろうな。
他人事じゃないので笑えない。
私も気を付けよう。
「そうですわ千冬様、よろしければ明日の夜はわたくしとご一緒して頂けませんか?」
「別に構わんがなにかあるのか?」
「えぇ、明日はフードコートにわたくしが贔屓にしてるお店が出店しますの。千冬様に是非とも食べて欲しいのです」
「エラのお気に入りか、それは楽しみだな。どんな料理なんだ?」
「フランス料理ですわ。多種多様なジビエ料理が魅力ですのよ」
「ほう、ジビエか……」
ジビエ――野生の鳥獣。
神一郎が何度か土産で買ってきてくれたが、フランス料理としては未経験だな。
一夏と一緒に見たグルメ番組で見たが、非常に美味しそうだった。
これは明日が楽しみだ。
「ジビエはアーリィーも好きサ。最終日前にガッツリ食べて気合の入れたいサ」
「野味溢れる料理は活力になるネ。アタシも好きアル」
イタリアもジビエ料理が多いだろうし、中国は食べる野生種の数は世界一だろう。
二人とも特に忌避感はないようだ。
「気を使ってくれてもよろしいのですよ?」
「それは断るサ」
「ご飯は大人数で食べる方か美味ヨ」
「ぐぬぬぬ……」
私も二人きりは遠慮したいな。
束に騒ぐ口実を与えたくない。
さて、明日のご飯の話題に対し一人だけ表情が暗い奴が居るんだが……
「アダムズ、お前はどうする?」
「えーと、ジビエってハトとかイノシシとかですよね?」
「ジビエは飼育されてない鳥獣全般ですわ。もちろんその二種も野生のものなら含まれます」
「……私、食べた事ないんですよ」
どこか恥じる様にアダムズが告発する。
これは意外な事実だな。
「アメリカでも鹿や猪を食べるんじゃないのか?」
「北の方ではカリブーなどのトナカイを食べますし、自然公園などがある森や山が多い州ではシカやイノシシを食べます。でも、その……自分、都会育ちなので……」
まるで私たちが田舎者みたいな言い方やめろ。
だが気持ちは理解できる。
私も神一郎がお土産で買ってこなければ食べる機会なんてなかったしな。
「ならこれを機に食べるべきサ。上手な料理人が手掛けたジビエ料理は臭みもなくて食べやすいサ」
「山の中で活動する時は野生動物は貴重なタンパク源ヨ。食べ慣れた方が良いアル」
「三大美食のフランス料理ではジビエは基本ですわ。これから会食の機会も増えますでしょうし、食わず嫌いは治した方がよろしいかと。大丈夫ですわ、明日出店するお店は初めての方でも美味しく頂けまから」
「……頑張ってみます」
そんな覚悟完了したみたいな顔するなよ。
猪は豚だし鳩は鳥だろう? 何を気にしてるんだか。
「ところで千冬様はジビエ料理をお食べになった事は?」
「ジビエ料理なんて洒落たものはないが、日本料理としてのジビエなら何度か」
「日本料理でですか? それは興味ありますわ。わたくしはマガモのコンフィや鹿肉のポワレが好きですの。千冬様は?」
「私は……鹿丼とか」
「鹿丼? ですか?」
「……猪の鍋とか」
「鍋……? スープ的なものでしたかしら?」
イノシシスープって単語は不味そうだな。
私が過去に食べた事があるもの――
〇鹿丼(神一郎が土産で買ってきた)
〇クマカレー(同上)
〇兎肉のジャーキー(同上)
〇雀の唐揚げ(同上)
〇猪鍋セット(同上)
とてもじゃないがこの手札ではエラに勝てる気がしないな。
コンフィ? ポワレ? 聞きなれないオシャレな言葉だ。
「なぁなぁ」
「なんだアーリィー」
「笑っていいサ?」
「殴るぞ?」
「だそうさフェイ、我慢するサ」
「了解アル……ぷぷっ」
含み笑いはセーフじゃないからな?
日本文化に明るいアーリィーと飛蘭は私が言った料理を分かっているのだろう。
きっとエラが好きなジビエとは別物だと思う。
よし、話しを変えよう。
むしろそろそろ解散してもいい時間だな。
「全員これからの何か予定はあるのか?」
「わたくしはトレーニングしてから休みますわ」
「自分は修行の時間ですね。今日中にステッキ格闘術を覚えたいです!」
「アーリィーは今日くらいは大人しく寝るサ」
「アタシは暗躍の時間アル。ちょっとモンド・グロッソ実行委員会に探り入れてくるネ」
健康優良児の中に混ざるアングラ感よ。
まぁ束といえど現役の国家代表に手は出さないだろう。
「なら解散しよう。お休みだ」
「お休みなさいですわ」
「オヤスミサー」
「お休みなさいです」
「晚安アル」
4人に挨拶を済ませ席を立つ。
モンド・グロッソが終わったら一夏にフランス料理を食べさせてやるか。
今まで食べたきた物がジビエの全てだと勘違いしてたら可哀想だからな。
――終わった後を考えるのは早計か。
まずは明日の試合だ。
そして明日がどうなるか、それは全て束次第である。
気合を入れないとな。
◇◇ ◇◇
日が明けてモンド・グロッソ5日目を迎えた。
アリーナ内に国家代表が集まり競技の発表を待っていた。
私の周囲には昨日と同じメンバーが揃っている。
「ところで飛蘭、なにか収穫はあったのか?」
「なにもなしアル。委員会の人間は会議室に籠ったまま出てこないし、中を探ろうにも無理だったネ。とんだ時間の無駄ったヨ」
飛蘭でも無理だとなると束案件確定だな。
気の抜けない一日になった事が決まった瞬間だ。
「拡張領域で持ち込む物に何か制限があるかと思ったけどそれもなし。千冬の言う通りガチバトルっぽいサ」
「でも制限なしのバトルは最終日のはずです。これまでの競技を振り返ると今日の競技も何かしらのスポーツを模したものだと思うんですよ」
「ですがこうも情報なしだと可能性的に低そうですわ。何故なら既存のスポーツを模すならここまで隠す必要がありませんもの」
「そのスポーツの経験やルールを知ってるか否で差がつきますもんね」
そこが問題だな。
これで試合内容がカバディなどのマイナースポーツだったら経験者以外困りものだ。
もうバトル系で決まりだろう。
「ちなみに全員フル装備か?」
「もちろん(サ)(です)(アル)(ですわ)」
流石だな。
他の国家代表たちも感じるものがあるのか剣呑な雰囲気だ。
恐らく彼女たちもフル装備で来てるだろう。
今日の試合は荒れそうだ。
『レディース&ジェントルマン! 時間になりましたので今日の競技を発表し、マース☆!!!』
ウォォォォォォォ!!
やたらキャピキャピした声のアナウンスがアリーナ内に響く。
それに続いて野太い男たちの声。
なにがどうした?
「千冬……アレ」
「ん?」
アーリィーが指差す方を視線で追うと――
『本日の競技名は【シークレット】! その内容は団体戦デス☆!』
ウォォォォォォォ!!
「千冬サン、アレってもしかして」
「髪の色が違うだろ」
『実況及び解説はこのワタシ、謎のバニーことバニーガールがお送りいたし、マース☆!』
ウォォォォォォォ!!
「千冬様、どう見てもアレ……」
「気のせいだ。目が赤いだろ?」
『選手の皆様は壁付近までお下がりくださいネ☆! 中央に立たれると危ないので☆!』
ウォォォォォォォ!!
「あの、写真から読み取った身体データとあの場に居る女性の骨格データを比較すると一致率99%なんですけど……」
「……私には別人に見えるな」
「千冬、そろそろ往生際が悪いサ」
やかましい! まだ事態を把握してないんだ!
「取り敢えず千冬サン、壁に寄れって言われたから移動するヨ」
「あ、冷静に見えて固まってるサ。フェイ、そっち持つサ」
「しょうがないネ」
アーリィーと飛蘭に引っ張れてそのまま引きずられる。
その状態でも私の視線は一か所に固定されていた。
アリーナの観客席最前列に急遽作られただろう特設席。
その場所では良く知った顔の女が居た。
――雪の様な真っ白な髪に赤い瞳のバニーガール。
どっからどう見ても束だろお前ッ!
変装か? 変装のつもりなのか?
そのキャラはなんだ? 篠ノ之束とは別人だと言い張る為か?
ただのコスプレだろうがバカがッ!!!
「しかしなんでこの場に? 篠ノ之博士はご自分の立場を理解してないのでしょうか?」
「きっと理解してるサ。だからこそあの場所に居るのサ」
「周囲に居るのは一般人でアリーナは超満員ヨ。仮に確保する為に軍や警備、専用機持ちの国家代表がISを動かした所で逃げられて観客から負傷者を出すだけアル」
「悔しいけどなにも出来ませんわね」
何故この場に居るのか?
そうだな……束のことだから『記念すべき第一回のモンド・グロッソでちーちゃんと共通の思い出を作りたい!』とかじゃないか?
なんにせよ束の行動は考えるだけ無駄だ。
問題は神一郎だ。
お前がこうならないように止める役目だろうがッ!? 働け愚か者がッ!
殴る! 束もだが役目を放棄した神一郎も絶対に殴るッ!
『それでは皆様、アリーナ中央をご覧くだサイ☆』
アリーナ中央の地面が割れ、左右に開かれる。
こんな装備があったとは知らなかった。
『選手たちが相対するのは巨大IS! 試合内容はレイドバトルだぁぁぁぁ!』
中央からせり上がる台に乗ってるのは高さ10メートルはあろうISだ。
余計な装飾品は一切なしく、黒光りする装甲で覆われている。
神一郎と同じ全身装甲型で搭乗者の肌は見えない。
顔には機械で出来た単眼が周囲を見回す様にギョロギョロと動いている。
鋼鉄のサイクロプスといったところか。
『試合はポイント制デス☆! シールドエネルギーを削った数値と機体へのダメージがポイントととして加算されマス☆!』
シールドエネルギーを減らした分だけポイントが貰えるのか。
機体へのダメージ……もしかしてゲームの様に機体にHPでも設定してるのか?
いやそれは技術的に難しいか。
束が常に巨大ISの状態を把握し、与えられたダメージを束の判断でポイントにするのかもしれないな。
「取り合えず殴ればいいサ?」
「そうアルな」
ん、まぁそれが正解な気がする。
束の思惑など無視した方が健康的だ。
「これからあの大きいIS相手に……ま、まぁ今回は皆さんが味方ですから大丈夫ですよね」
「それはどうかしら。あの篠ノ之博士が送り込んできたISですわよ? つまりIS16機相手に互角に戦える性能があるはずですわ」
「……それなんて決戦兵器です?」
「これから篠ノ之博士の危険度がグッと上がりそうネ。もし本当にIS16機分の戦闘力があったら世界中が阿鼻叫喚ヨ」
「てか現時点で各国の首脳陣が阿鼻叫喚サ」
牽制の可能性はありそうだな。
モンド・グロッソでISの性能は世間に知れた。
もしかしたら調子に乗る国が出てくるかもだ。
しかし、
――調子に乗ると潰すよ?
と束が出てきたらその勢いも弱まるだろう。
あのISが何機あるのか不明だが、敵にには回したくないだろうしな。
となると、あのISの性能を各国に見せるのが狙いか?
束の危険度が上がり、その分箒を狙う人間も増えそうだが、下手をしたらあのISが自国で暴れる可能性を示唆すれば迂闊に手をださないだろうし。
『試合開始まで少々お時間があります。ボス戦前に準備を整えるのは当然ですから! 選手の皆様、作戦会議タイムですよー☆!』
作戦タイムか。
……作戦とかいるのか?
「5人で組んで当たる……は、無理ですよね?」
「人数が多い。私達5人だけならそれもありだが、他の代表の動きが読めない以上下手に固まると動けなくなる」
「16人が動きを合わせられるなら徒党を組むのも有りですが、まぁ無理ですわね」
「互いに邪魔しない程度に気を使いつつチャンスがあれば連携、が最善サ」
「それが良いな、しかし問題は他の動きだ。恐らく前衛後衛に分かれるだろう。下手に前で動き回れば後衛の邪魔になるし、後衛も闇雲に撃てばフレンドリーファイアになる可能性がある」
「観客とテレビカメラの前で他の国家代表の背中を撃ち抜く真似はしたくないです。はぁ~、開幕戦車砲で削ろうかと思ったんですが無理そうですね」
何人かは速攻で突撃しそうだもんな。
他の代表に話しをつけるのも無理だ。
わざわざアダムズに大量ポイントゲットのチャンスを与えないだろう。
「……誰も言わない事も言っても良いアルか? 正直空気読んでないみたいで恥ずかしいけど、どうしても気になるヨ」
「どうした?」
「あのISって、中身は誰ヨ?」
「「「「……あ」」」」
そうだな、アレはISなんだから中身が……中身?
「そうサ! あのISは篠ノ之博士のISなら操縦者は誰サ!? それって篠ノ之博士のサイドの人間ってことサ!?」
「今の所篠ノ之博士の身内と呼ばれているのは、妹の篠ノ之箒、幼馴染の織斑さんとその弟の織斑一夏の三人だけ。あの中は妹か、もしくは――」
「篠ノ之博士の新しいお仲間さんですわね。是非ともあの装甲を砕いて顔を拝みたいですわ」
どうしよう……物凄く心当たりがある。
「千冬様、どうしました?」
「ん? あぁ、ちょっと束の人間関係を思い出していてな。少し考え事があるから気にしないでくれ」
束が用意したIS。
それを預ける人物。
それってつまり――
『あのISの中身はしー君だよん♪』
「っ!?」
耳元で聞こえた束の声に反応しそうになり、思わず声が出そうになるのを我慢する。
なんでこのタイミングで声をッ!?
『あ、ごめんちーちゃん。ちーちゃんの会話を聞いてたから思わず話し掛けちゃった』
盗聴と話し掛けたことは許そう。
まずはあの中に居る神一郎を殴ればいいんだな?
『ちなみにしー君は首トンで意識を奪った後、ガチャガチャのカプセル的な物の中にぶち込んでISの心臓部分に閉じ込めました』
と思ったけど許してやろう。
『さっきまで騒いでたけど、ちゃんと取引でしー君の了承は得たので心配しないでね』
それはつまり今は束の手先って事だな?
やはり殴る。
『あ、しー君は知らないけど、カプセルの内側はディスプレイになってて、しー君には16機のISに襲われる恐怖を360度のパノマラで楽しんでもらう予定です!』
ゆる……いや、殴って早めに終わらせてやるのが優しさか。
二人の間でどんなやり取りがあったかは知らないが、束に与した自分が悪いということでサンドバッグになる運命は大人しく受け入れてもらおう。
『あのISは無人機型ISのプロトタイプだよ。戦闘ルーチンのレベルは低く設定してるから安心してね。ちなみにしー君はISコアを起動させる為だけの存在です。ぷっーくすくす』
無人機とはまた怖いものを作ってるなこいつ。
そして観衆の面前で男性適合者を引っ張り出し来るとかどんな神経してるんだ?
それもただ自分が楽しむ為だけという理由で。
「織斑さん」
怒りたい。
しかしあの巨大ISに対し興味を惹かれている自分もいる。
……倒してから怒ればいいか。
「織斑さん!」
「ん? 呼んだか?」
物思いにふけっいる間にアダムズが私の隣に立っていた。
「試合開始までコレお願いします!」
一枚の紙を渡された。
これは……うん、アレだ。
「今日は試合前にやってこなかったのか?」
「まさか集合して直で試合が始まるとは思ってなかったので」
「それは仕方がないな」
アダムズが試合前にやるという儀式。
やるのは構わないが――
「お前たちはどうする?」
二人だけは流石に嫌だぞ。
「やってもいいサ。アレ結構楽しいサ」
「同じくネ」
アーリィーと飛蘭は同意。
「エラはどうする?」
「それって二日目にやっていたアレですわよね?」
「そうだ」
「……千冬様と一緒なら喜んで参加しますわ」
の割には苦渋の決断って顔だな。
キャラに合わないことを無理してする必要ないと思うんだが、本人が言うなら何も言うまい。
『お? 最高に素敵なちーちゃんを見れるチャンス到来! 録画準備はバッチリだよ!』
試合が終わるまでもう話しかけるな。
次に話しかけてきたら本気で怒る。
『……ちーちゃんの殺気が込められた視線に身悶えしそう』
遠目にバニーガールがくねくねしてるのが見える。
今日の試合は楽しそうな内容だから見逃すが調子にのるなよ。
「さて、残り時間はもうないな。準備はいいか?」
全員が頷き、私を中心に円陣が組まれる。
他の国家代表たちは自分が動きやすくする為の結果か、それとも互いに邪魔しないよう配慮したのかは分からないが、中央の巨大ISを囲む様に展開していた。
神一郎視点から見れば壮観だろうな。
ここは神一郎をいち早く楽にしてやる為にも殺気を込めて行こうか。
「野郎共ッ! 準備は出来てるかァァァ!」
「サー・イエッサー!!!!」
「敵は巨大IS! だがあんなのはお前たちから見ればただの木偶の棒だ! そうだなッ!?」
「サー・イエッサー!!!!」
「ならばお前たちはどうするッ!?」
「殺せ! 殺せ! 殺せ!」
「立ち塞がる敵はッ!?」
「殺せ! 殺せ! 殺せ!」
「あの木偶をスクラップにしてやれ!」
「ガンホー! ガンホー! ガンホー!」
「ぶ っ 殺 せ !!」
「YAaaaaaaaa!!!!」
古代兵器の動力源として兵器の内部に囚われる聖女(男)
ちーちゃんと一緒にモンド・グロッソを盛り上げたい+前日の試合で不完全燃焼だったちーちゃんに楽しんでもらいたい+しー君の泣き顔を見たい+他国が調子に乗らないよう釘刺し+無人機プロトタイプの試運転=コスプレ姿でモンド・グロッソ参戦