俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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           急募! ボランティア!
     
  モンド・グロッソ実行委員会では現在モンド・グロッソアリーナで働
  いていてくれるボランティアスタッフを募集しています。
  貴方もスタッフの一員としてモンド・グロッソを盛り上げませんか?
  難しい仕事は一切なし! 安心安全なお仕事です!
  ボランティア扱いなので給金は発生しませんが、競技終了後に篠ノ之
  束さん主催の写真撮影会に優先的に参加できます!
  興味があるかたは是非!

  ※IS適合者の方に限ります。 


モンド・グロッソ⑭

 目が覚めたら暗闇の中でひっくり返ったカエルの格好だった。

 視界に一切の光はないが、うん……束さんに付き合う俺はこの程度で取り乱したりしません。

 背中が丸くなってるし、足で壁を触ってみてばよく分かる。

 ここは球体の中だ。

 えっと最後の記憶は……朝ご飯を食べて後にトイレに行って……トイレから出て……そこから記憶がないな。

 そこで拉致られたのか? トイレ帰りを狙うとは卑怯者め! 

 

「束さん、聞こえる?」

 

『お? お目覚めだねしー君』

 

 返事があって嬉しい。

 光のない閉鎖空間に長時間閉じ込められた人間の反応を調べる実験だったらどうしようかと思ったよ。

 

「説明を求む」

 

『うだうだ騒がないのは好感が持てるね。私はしー君に“して欲しい事”があります』

 

 だって説得や買収なしで拉致だよ? 多少騒いだところで開放なんてしてくれないって分かってるさ。

 して欲しいねー、この状態で出来る事なんて思いつかないんだが。

 

『と言ってもしー君は動いたりする必要はないよ。ただそこでじっとしてれるだけで大丈夫。簡単でしょ?』

 

 楽すぎて怪しや満点なんですが?

 ふーむ……

 

「付き合う事で俺に得があるの?」

 

『んふふ……今の私はバニーガールの格好をしている。とだけ言っておこうか』

 

 バニーガール? そう簡単には釣られんぞ。

 遊園地などにいるウサギの着ぐるみって可能性もあるからな。

 だが束さんの声が自信に満ちている。

 俺を絶対に釣れると確信してるっぽい。

 

『怪しんでるね。ならちょっとだけ――』

 

 壁に明かりが灯り束さんのうさ耳がピコピコ動いてるのが見える。

 どうも壁はディスプレイになってるようだ。

 

『見えてる? んじゃ良く見ててね――じゃじゃーん!』

 

 視点が広がり束さんの全体像が見えた。

 白い髪と赤い瞳。

 そして王道のバニーガール衣装。

 なるほど……なるほどなるほど。

 

 かっわっいぃぃぃぃぃぃ!!

 

「率直に言って最高ですね!」

 

『でしょー?』

 

 自分が可愛いと確信してるドヤ顔が更に可愛いッ!

 髪の色と目の色が違うだけで清楚感と色気がアップしてるんですがッ!?

 網タイツも眩しいです!

 

「では報酬について聞きましょうか」

 

 ディスプレイ越しに見るだけが報酬とは許さないぞ!

 期待してます! ふんす!

 

『鼻の穴が広がってる様子を見れば満足してくれると思うよ。報酬は束さんの撮影会に参加出来る権利です!』

 

「それは生で会えるんですか!?」

 

『会えます!』

 

「ポーズの指定は!?」

 

『過激ではなければ可!』

 

「受けます!」

 

『よろしい!』

 

 おいおいまじかよ。

 あの姿の束さんを好き放題に撮りまくれるとか神イベか?

 報酬が良すぎて逆に怖いけど、今の俺なら昨日不完全燃焼だった千冬さんの憂さ晴らしにサンドバッグ役をやれと言われても受けるぞ。

 

『それじゃあそのままちょっと待っててね』

 

「はーい」

 

 ディスプレイが消えまた暗闇に戻った。

 束さんのお願いは分からない。

 だが球体に閉じ込めたられた状況ならそう危険はないだろう。

 あったとしても……俺をボールに閉じ込めて千冬さんとサッカーとか?

 ま、なんとかなるだろう。

 

 

 

 

『しー君、起きてる?』

 

「起きてますよ」

 

 束さんにどんなポーズをとらせるか考えるだけで至福の時間でした。

 寝転んだ俺に股がらせて、下からローアングルとか最高ですよね? 最高です。

 

『さっきも言ったけどこちらからの指示は特にないから、そこでじっとしててね』

 

「あいあ……い?」

 

 周囲の何かが動き始め、球体の中に居る俺にも振動が伝わってくる。

 そして天井から光りが――

 ディスプレイの光じゃなくて本物だな。

 球体の外の様子を映してるのかね?

 

 上下に感じる振動、徐々に強くなる光り……今の俺はエレベーターの乗ってる様なものか?

 あの光りの穴が出口なんだろう。

 

 ん? んん? んんんんっ?????

 

 光りの眩しさに顔を手で押さえ、振動が止まったので手を放したら視界に映るのは青空と観客でした。

 ここ、モンド・グロッソのアリーナ?

 しかも会場のど真ん中?

 どゆこと?

 

 ピコン

 

 壁の一部が変わりISの絵と文章が映る。

 えーとなになに、無人機型ISのプロトタイプ? 起動実験でモンド・グロッソを利用?

 ふむふむ、まだISコアを人間なしで起動はできないんだ。

 だから人間を生体部品として使用すると。

 それって無人機じゃないじゃんワロス。

 そんで俺が閉じ込められてるのはISの内部で? 外からは見えない仕様だけど俺からは見える? その状態で国家代表達と戦う?

 いつの間にかマジックミラー号に乗車しちゃったのか。

 なら早くエッチなお姉さんだせや!

 

「束さんちょっと待って! やっぱり拒否したい!」

 

『………』

 

「束さん!?」

 

『………』

 

 悪意があって無視してる気がする!

 必死に周囲を見渡せば俺を見るIS達。

 俺、国家代表に囲まれてるじゃん。

 何も出来ないISの中で迫り来る恐怖と戦えと? まー安全性は確保されてるし、一種のお化け屋敷みたいなものだろう。

 この程度楽勝っスわー。

 人間は恐怖では死なない! たぶん!

 てか脅威って他にもあるよね?

 俺は球体の中に居る、しかもハーネスなんかの身体を固定するものはなし。

 

 思い出すのはエレベーターで感じた振動。

 

 おや? もしかして俺って洗濯機の中に居る状態なのでは?

 誰か束さんに、生き物を洗濯機の中に入れてはいけませんって教えて欲しい。

 

 国家代表達が武器を構え、俺に向かって銃口と刃物の切っ先を向ける姿は様になりますね。

 ソシャゲのボス視点ってこんな感じかな? アハハ――

 

「ここから出せぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 試合開始と同時に敵の表示がモニターに映る。

 名前は【ゴーレムtype-サイクロプス】か。

 In神一郎も付け加えてやれ。 

 

ゴォーーーーーレムゥ!(ここから出せぇぇぇぇぇ!!)

 

 敵ISが吠え、その手に武器が握られる。

 右手に棍棒、左手に円形のシールドだ。

 本体もそうだが堅そうだな。

 てか喋れるのかアレ。

 なんか悲しみを帯びた悲鳴の様な叫び声だ。

 

「先手貰います! ファイア!!」

 

 アダムズの戦車砲が火を噴き、それと同時に複数人の国家代表がミサイルを撃つ。

 

「最初はこうなるのはお約束サ」

「だな」

 

 私やアーリィーを含め、近接主体の人間は開幕時に弾幕が張られる事を読んで大人しくその様子を見ていた。

 

『ゴォレム!?』

 

 アダムズの砲弾はゴーレムの盾で防がれ、正面から来るミサイルは棍棒で薙ぎ払われる。

 だが守れたのは正面のみ、背中や頭部にミサイルが雨の様に降り注ぎ爆炎と土煙をまき散らした。

 私達近接組は土煙が収まるのは静かに待っている。

 

『ゴォーーレムゥ!』

 

 うーん――

 

「どうしたサ?」

「いや――」

 

 煙の向こうから情けない声が聞こえてきてやる気が削がれてるんだ。

 ゴーレムの声に神一郎の悲鳴が混じって聞こえるんだよな―。

 黙ってやられてほしい。

 

「なんでもない」

 

 説明する訳にもいかないのでこう言うしかないのだ。

 恨むぞ束。

 

「煙が晴れてきたアル。普通のISならスクラップだけど、あのISは――」

 

『ゴォーーーーーレムゥ!』

 

「元気一杯アル」

「まるで堪えてないないサ」

「砲撃を盾で防いだってことは危険な攻撃だと判断した結果?――もう少しこの攻撃を続けるべきかな」

 

 おぉ、アダムズが頼りになる顔に変わっている。

 あの儀式は凄い効き目だな。

 

「んじゃ行ってみるサ」

「取り合えずひと当てして情報収集アル!」

 

 アーリィーと飛蘭、それに私や他の国家代表がゴーレムに向かって突撃する。

 

「こちらも攻撃に移りますわ。Shot!」

 

 エラが放った弾丸が私の真横を駆け抜けゴーレムの心臓部に命中する。

 

『ゴォレムゥ!?』

 

「徹甲弾は効果なしみたいですわね。さて、効率よくダメージ与えるには――」

 

 銃弾が装甲にガムみたいに張り付いてるのが見える。

 やはり並みの装甲じゃないな。

 ところで神一郎、もしかして目の前に銃弾は張り付いてる様に見えるのか?

 悲鳴に混ざる悲しみの割合が増した気がする。

 

 ゴーレムが棍棒を振りかぶった。

 狙いは私か。

 

『――ゴレムゥ』

 

 振り落とされる棍棒を見きりギリギリで避ける。

 耳元に届く風の音と共に神一郎の安心しきった声が聞こえた気がした。

 私だって当たれば痛いからな?

 さて、デカブツが相手なら関節狙いがセオリーか。

 

『ゴーレムゥ!?』

 

 接近して叩き込んだブレードが弾かれた。

 ちっ、硬いな。

 関節部分はホースの様な蛇腹の装甲で覆われていて思いのほか硬かった。

 伸縮性と硬度が両立する装甲を持つとは流石は束が作ったISだ。

 

『ゴーーーレムゥ!』

 

 ゴーレムが棍棒を振り回す。

 ブレードで受け流して――重いな!? 

 技術もなにもない攻撃だが、これだけの質量だとそれだけで凶器だ。

 他の国家代表が攻撃したそうにしてたので一度離脱。

 ゴーレムに張り付いていた近接組が消えると、棍棒の射程ギリギリで控えていた国家代表達がアサルトライフルやマシンガンでの攻撃を開始する。

 装甲を砕くのは無理――なら武装解除を狙うか

 

「シッ!」

 

 未だに射撃が続く中懐に飛び込む。

 棍棒を振り落として腕の動きが止まった瞬間を狙い指の関節を狙う。

 腕の関節に比べれば動きを阻害しないため繊細な作りのはず!

 

 キンッ

 

 握りにとって大事な部分、親指を斬り落とすつもりで放った関節狙いの斬撃は甲高い音と共に弾かれた。

 プロトタイプと言ってはいるが、甘く作ってる箇所はないと。

 これだけの巨体なら懐は安全地帯。

 このまま指狙いで場所に居続けるのは有りか? だがこうも接近していては他の代表の迷惑になりかねない……迷うな。

 

『ゴーレムゥ!』

 

 ゴーレムのふくらはぎ部分からせり出てきた……ミサイルが。

 どこかで見たことが装備だな。

 なんだったか……ISの研究所……開発された武装……違うな…あぁ思い出した。

 脚部三連装ミサイルポッドだ。

 アニメのロボットが装備していたな。

 

『ゴレムゥ!』

 

 懐に飛び込んだ敵を排除すのが目的だろうと思われるミサイルを回避……先はどうする?

 上に逃げる――味方の射線上に急に飛び出る事になる。

 左右――ミサイルは扇状に広がり正面を潰すのが狙いだ。

 ならば戻るしかあるまい。

 背後に向かって瞬時加速、一気にゴーレムから離れる。

 

「情報共有を求めるサ」

 

 私の元にアーリィーと飛蘭がやってくる。

 二人とも苦笑いだ。

 私と同じで苦労してると見える。

 

「いいだろう。正直個人プレイしてる場合ではない」

「ならアタシから。硬い、とにかく硬いアル。偃月刀でぶった切るつもりで斬りかかったけど弾かれたヨ」

「殴ってみた感じ装甲がかなり厚いのは感じたサ。殴る場所を変えたりしたけど、装甲が薄い部分は見つからなかったサ」

「関節を狙ってみたがこちらも難しいな。同じ個所を攻撃し続ければいけると思うが」

 

 二人と素早く情報を共有する。

 やはり二人ともIS単騎ではどうにも出来ないと判断したか。

 まぁ私は相手が無人機型と知ってるから一応は戦略はある。

 あの如何にも弱点っぽい目を狙う。

 無人機なら中身は繊細なはずだ。

 目を潰して手を突っ込んで中身を引きずり出し、そこに手榴弾でも投げ込めばそれだけで動きを止めそうな印象がある。

 だが問題は周囲の反応だ。

 あのISに張り付いて目玉に腕を入れてケーブルをずるずると引きずり出す……私に対する印象が悪くなりそうだな。

 

「銃弾は効きが悪そうサ。ミサイルと戦車砲を中心に攻めるべきサ?」

「だけど戦車砲だけは確実に盾で防いでるアル。ミサイルも棍棒で撃ち落としてるし、仕留める前に弾切れしそうネ」

「だが付け入る隙はある。動きが遅く鈍重で、しかも一定の位置から動かない」

「あの大きさと装甲の厚さなら動きが遅いのは理解できるサ。でも中心に近い部分から動かないのは何故サ?」

「事故防止とかアル? あの棍棒が客席に当たったらシールドがあっても観客がミンチになるかもヨ」

「なるほどサ」

 

 たぶん試合終了後にゴーレムを素早く回収する為だと思うぞ。

 しかし二人とも自然と周囲に合わせて戦う気になっているな。

 切り替えの早さは流石だ。

 いや、流石なのはこの二人だけではない。

 他の代表達の動きにも変化が生まれ始めていた――

 

 

 

 

 

 

「ハンマーでも持ってくれば良かったアル!」

 

 近接組が斬りかかる。

 

「下がれっ!」

 

 一撃離脱、ひと当てして下がると間髪入れず中距離組が射撃で牽制。

 囲む様に撃つのではなく、着弾箇所を集中することでゴーレムの意識を引き付ける。

 

『ゴーレムゥ!』

 

 叩き潰す様に中距離組に向かって棍棒を振り下ろされる。

 だが上から大質量の物体が落ちてきてもISなら回避は余裕だ。

 中距離組は落ち着いて回避行動を取る。

 逃げた先にはアダムズが戦車砲を構えていた。

 追撃しようとするゴーレムの背中にミサイルが着弾。

 

『ゴーーーレムゥ!』

 

 ゴーレムが背後を振り返り、後続のミサイルを棍棒で振り払う。

 

「ナイスッ!」

 

 振り返った事で背中を見せたゴーレムに向かってアダムズの戦車砲が火を噴く。

 

『ゴレムゥ!?』

 

 着弾し巨体が揺らぐ。

 

「いくサ!」

 

 そしてまた私達が斬りかかる。

 全員が動きを合わせていた。

 この敵を相手に個人プレイに走る人間は一人もいない。

 各々が自分の手札で出来る事をし、味方が生きるように動く。

 試合前はチームプレイなんて無理だと思ったが、それは勘違いだったようだ。

 敵を倒すという目的の為なら、私達は協力できる。

 というか、ポイント云々以前に倒さないとならないのだ。

 私達の心の中にある気持ちはみな同じだ。

 

 16人掛かりで倒せもしなかったら色々と問題だ!

 

『ゴーレムゥ!』

 

『ゴレムゥ!』

 

『ゴーーーレムゥ!!』

 

 神一郎の悲しい悲鳴が響く。

 もどかしいだろうな。

 動きが遅く、敵を深追いする事もできない。

 神一郎自身が操縦出来ればこうも簡単に翻弄されなかっただろうに。

 

「このままじゃヤバいサ。勝負的にも、試合内容的にも――」

 

 そうだな。

 このままでは倒しきれない可能性があるし、ポイント的に後衛組に勝てないだろう。

 なんとかしないとな。

 やはり目玉狙い――

 

「抉り取ってやるっ!」

 

 むっ、先を越されたか。

 トルコ代表がアーミーナイフ片手に飛び掛かる。

 やっぱり狙いたくなる目をしてるよな。

 

 カシャン

 

 ゴーレムの……人間で言えば眉毛くらいの場所に穴が空いた。

 それも知ってるぞ、バルカンだろ?

 

「くそっ!?」

 

 トルコ代表は慌てて回避した。

 近距離で食らえば流石に無傷とはいかない攻撃だ。

 そう簡単に目玉を抉らせないか。

 ならば――

 

「アーリィー、飛蘭、私に考えがあるんだが乗らないか?」

「ん? 千冬からの申し込みとは珍しいサ。もちろん乗るサ!」

「同じくアル」

 

 内容くらい聞いてから判断してほしい。

 まぁ説得に時間を割かないから楽だが。

 

「――――といった作戦だ。この作戦は三人の連携が肝なんだが、どうだ?」

「面白い……面白いサ」

「確かに面白い」

 

 二人とも笑顔が怖いぞ。

 特に飛蘭はキャラを忘れるな。

 

「だけどその作戦を行うには隙が欲しいサ」

「そうだな。だから頼んでみようと思う」

「頼む?」

 

 アーリィーが怪訝な顔をする。

 そうだ、頼むんだよ。

 頼もしい仲間達にな。

 

『こちら日本代表の織斑千冬だ。あのデカブツに大技を決めたいんだが、誰かアレの動きを少しでも止めれないか?』

 

 まだ奥の手や搦め手の類を持ってる国家代表は絶対に居るはずだ。

 普段なら答えてくれないだろう。

 だが今は出し惜しみしてる場合ではない。

 全員とは言わないが、何人かは手を貸してくれるだろう。

 

『ちょっと失礼するヨ。その話は長くなるカ? こちらは攻撃するしか能がないから攻撃を続けたいんだガ』

 

『問題ない。時間稼ぎにもなるし興味のない人間は攻撃を続けてくれ』

 

『作戦があるなら邪魔はしなイ。なのでこっちは時間稼ぎ役をするサ』

 

 そう言って韓国代表が攻撃を再開。

 数人の国家代表がそれに続く。

 時間稼ぎ役を買って出てくれた彼女達に感謝だな。

 

『答:IS捕縛の為に開発したロープを所持しています。ですがあの巨体なので動きを止められる時間は僅かかと。それと設置に時間が掛かります』

 

『こちらギリシャ代表。電撃がどの程度効果があるかは分かりませんが、良くて行動の阻害、悪くても視界を奪えると思うのでカナダ代表を援護します』

 

 返事をしたのは中衛で射撃をしていた二人。

 カナダ代表のアリア・フォルテとギリシャ代表が協力してくれるらしい。

 カナダ代表は対IS用のロープ、そしてギリシャ代表はモンド・グロッソ二日目で見せた電撃か。

 ギリシャ代表はともかく、アリアが最終日を前に新装備を見せてくれるとは――自らメリットを潰す気構えに免じて昨日の事は水に流そう。

 

『次のターンで仕掛ける。後衛組は暫く攻撃を控えて欲しい』

 

『了解ですわ』

『――了解した』

 

 エラを含め一部の人間からは返事がきた。

 答えない人間も特に反対ではないようだ。

 

『ギリシャ代表』

『ソフィア・メルクーリです。どうぞソフィアと』

『ではソフィア、私達と一緒に前に出てもらう。カナダ代表はタイミングを待っていてくれ』

『了解です』

『了解:』

 

 私達のグループにソフィアが合流。

 アリアは私達からやや後ろで待機している。

 もう一押し欲しいな。

 

『アダムズ』

 

 オープンチャンネルでは個別のチャンネルでアダムズに話しかける。

 

『あ、もしかして出番あります?』

 

『あぁ、お前にはあの盾を頼みたい。合図をしたら撃って欲しいのだが、頼めるか?』

 

『あのIS、動きは鈍いくせ砲弾だけはしっかり盾で防ぐんですよね。了解しました』

 

 一定以上の速度か質量を持つ物体を優先して防ぐ仕様なんだろうが、そこを利用させてもらう。

 

『それと万が一は助力を頼みたい。チャンスがあったら撃ってくれ』

 

『ふんわりした指示に恐怖を感じるのですが?』

 

『合図を出す余裕がないかもしれない。まぁお前なら大丈夫だろうから自分の判断で撃て』

 

『私に対して厳しくないですか!?』

 

 無茶振りは信じてる証だよ。

 いざとなったら頼んだ。  

 

「準備は整った。問題は私達のコンビネーションだが、大丈夫か?」

「一番美味しい役を貰ったからには気合入りまくりサ!」

「千冬サンと協力プレイとか滾るネ!」

 

 自信あってなにより。

 三人の中で初手の私が一番簡単な役目なのが申し訳ない。

 だが互いの能力を考えるとベストなんだから仕方がないんだ。

 

 囮役を買って出た代表達にゴーレムが棍棒を振り回す。

 丁度私達に顔を向けている。

 こちらから動くのは……良くないか。

 周囲の国家代表達にもしっかり見せ場を作らないと。 

 

『ゴーレムの背中が見たい。後衛組、頼む』

 

 返事はない。

 だが仕事は雄弁だ。

 ゴーレムの背中にミサイルが当たり、ゴーレムの注意が背後に逸れた。

 私に指示されるのは癪だから返事はしないが、倒せず負けるのは嫌なんだろう。

 

『これより突撃する! 各機、手出しは控えてくれるとありがたい!』

 

 オープンチャンネルで作戦開始を宣言。

 

「よし、行くぞ!」

 

 私、アーリィー、飛蘭、ソフィア、アリアが一列になってゴーレムに向かう。

 ゴーレムは私達の接近に気付いたのかゆっくりと振り返る。

 

『アダムズ!』

 

『イエスマムッ!』

 

 アダムズの砲撃。

 基本的にはゆったりした動きのゴーレムがこれには過敏に反応する。

 素早く盾を持ち上げ砲弾を防ぐ。

 ここがチャンスだ!

 

「飛蘭! アーリィー!」

「任せろサ!」

「手筈通りにヨ!」

 

 砲弾を防ぐために掲げられた左腕、その腕に飛びつく。

 だがそんな事には気にも留めなず敵を叩き潰す為の棍棒を振りかざす。

 その右腕には飛蘭が飛び掛かる。

 右手に飛蘭、左手に私だ。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ISの良いところは体勢に縛られない事だ。

 腕にしがみ付いてる今の状況、生身ならどうにも出来ない体勢だが、ISなら違う。

 ブースターを全開にして腕を押し込む。

 飛蘭も私と同じ事を右腕でやっていった。

 両腕を押し込まれ、ゴーレムの姿勢が後ろに崩れた。

 

「倒してやるサッ!」 

 

 体勢が崩れた所でアーリィーの拳がゴーレムの額に命中する。

 

『ゴレムゥ!?』

 

 ゴーレムが大きくのけ反る。

 だが倒れるまではいかない。

 二足歩行のロボットは人間と違って倒れかけたら倒れない様に姿勢を制御することが出来ないと聞いたが、ゴーレムは機械仕掛けの癖に倒れない様に踏ん張っている。

 流石は束製だ。

 だが問題はない。

 保険があるから。

 

『自分の役割を理解しました。ここ――』

 

『ゴッ!?』

 

 ゴーレムの踵にアダムズの砲弾が直撃。

 姿勢が崩れてたせいで防げなかったようだ。

 

『ゴーレムゥ!』

 

 崩れかかった体勢にダメ押しの砲撃。

 ついにゴーレムの巨体が地面に倒れた。

 上手く行ったな。

 

「ソフィア!」

「はい!」

 

 巻き込まれないように離れると、入れ替わってソフィアがゴーレムに近付き、その大きな眼球の前で傘を開いた。

 

「“ゼウス”ッ!」

 

 雷が光り、ゴーレムの体表に電撃が走る。

 

「止まった……サ?」

 

 金属が焼ける匂いがする中、アーリィーがゴーレムの頭を蹴って反応を見ている。

 電撃を浴びたゴーレムは確かに沈黙している。

 だが束が作ったゴーレムがこうも簡単に倒せるはずないんだよなぁ。

 

「アリア・フォルテ!」

「了解:」

 

 彼女が持ってるのは水中銃と呼ばれるものに近い形をしていた。

 スピアガンとも呼ばれているな。

 先端には二本の矢が装着されていて、放たれた二本の矢は途中で分かれて地面に突き刺さる。

 二本の矢はロープで繫がっていて、そのロープをもってゴーレムを地面に縫い付けた。

 次々と矢が撃たれ、ゴーレムはまるで小人の国に迷い込んだガリバー状態だ。

 

『ゴレムゥ?』

 

 首を軽く持ち上げてキョロキョロと周囲を見渡す姿は少し可愛いな。

 だが哀れでもある。

 

『ゴーレムゥ!』

 

 ジタバタと動き起き上がろうと藻掻いている。

 うん、足止めは成功だな。

 足搔くゴーレムを尻目にアーリィーと飛蘭、二人と一緒に空に上がる。

 

「さて、ここまでお膳立てされて失敗なんて許されない。準備は?」

「いつでもいいサ」

「同じく」

 

 よろしい。

 ならば始めようか。

 

 ブレードを上段に構える。

 刀とは腰で斬るものだ。

 だがISの空中戦では武術の理はほとんどが無意味。

 剣術、武術の類は地面に足を着けて行う事が前提だからだ。

 だからこそ、私達国家代表はISなりの戦い方を考えなければなれない。

 瞬時加速の突進力と重力を味方につけ、いざ!

 

「カァァァッ!!!!」

 

 狙うは膝関節。

 瞬時加速で降下した勢いをそのままにブレードを振り落とす。

 

 ギンッ!

 

 噛んだ! ブレードが少しだが確実に装甲に食い込んだ!

 

「飛蘭!」

「応ッ」

 

 ブレードの真上からフェイの偃月刀が叩き込まれる。

 長物の特性。

 遠心力を破壊力に変えた一撃はブレードを押し込んだ。

 

「アーリィー!」

「いくサァァァァ!」

 

 最後はアーリィー。

 彼女の仕事が一番難しい。

 力の掛け方を少しでも間違えれば、私のブレードとフェイの偃月刀は折れてしまう。

 だがアーリィーの技量は並みではない。

 真っ直ぐ突き出された拳が偃月刀を打ち抜き、遂にゴーレムの関節を切断した。

 

『ゴーレムゥ!?』

 

「よし!」

 

 ゴーレムの膝から先が地面に転がると、周囲の観客から歓声があがる。

 これが私の考えた作戦。

 私が初撃で刃を食い込ませ、フェイが追撃で刃を更に奥へ、そしてアーリィーがダメ押しの一撃で装甲を断つ。

 動かれていてはこうも上手くはいかなかった。

 協力してくれた皆に感謝だ。

 

「千冬!」

「了解だ!」

 

 ゴーレムは未だに束縛から逃れられていない。

 一気に叩く!

 

『ゴレムゥ!』

『ゴーレムゥ!』

『ゴゴゴ……』 

 

 残りの足と両腕を切断。

 ゴーレムは地面に転がったまま短くなった手足を必死に動かしている。

 ……うん、絵面が悪いな。

 

「面白い事してんじゃねーか! オレも混ぜろよッ!」

 

 トルコ代表が近付いてくる。

 混ぜろと言われても、もう斬る場所は――

 

「さっきやられた分、利子付きで返してやるッ!」

 

 トルコ代表がアーミーナイフをゴーレムの首に突き刺す。

 

『ゴーレムゥ!?』

 

「フハハハハハッ!」 

 

 よく見ると普通のアーミーナイフではないな。

 刃が回転している。

 ナイフ型のノコギリか?

 ゴーレムは首筋から火花が散らしながらバルカンで追い払おうとしているが、地面に倒れた状態で上手くいかず無意味だ。

 

「くくっ」

 

 トルコ代表が笑いながら解体作業に入っている。

 余程うっぷんが溜まっていたのかとても楽しそうだ。

 

『ゴー……』 

 

 斬り離れたゴーレムの首が地面を転がる。

 ん、なんだ……本体が身体の中央で良かったな。

 四肢切断に首チョンパ。

 目玉を抉り出すより危険の絵面になってしまったが、なにもかも束が悪いと言う事で。

 さて、私達の出番はここまででいいだろう。

 

『後衛組、後は頼んだ』

 

 短い手足で必死に起き上がろうとするゴーレムを残して距離を取ると、それを合図に四方からゴーレムに向かってミサイルが放たれる。

 

『ゴ……ゴゴッ』

 

 まだ喋れるのか。

 神一郎視点から見る光景は絶景だろうな。

 

『ゴーレムゥゥゥゥ!!』

 

 爆音が神一郎の悲鳴を掻き消し、光りがアリーナ会場を覆う。

 煙が晴れた後に残るのは――

 

『ゴ……レム……』

 

 もはや原型の分からない黒焦げの物体だった。

 

 




近接三人娘「三人寄れば文殊の知恵!(赤バスター三枚)」

 
 before

 ゴーレムtypeサイクロプスは無人機のプロトタイプである。
 大型で動きは鈍いが、体内にIS適合者を生体部品として搭載することで休みなく戦い続けられる。
 装甲は篠ノ之束が開発した無重力合金製。
 地球上に存在する現存する金属とは一線を画す硬度を持つ。
 武装はシンプルならがも威力が高く、まともに当たれば現在のISでは致命的である。
 だが搭載されているAIレベルが意図的に低くなっているので対処は用意。
 固く、硬く、堅い。
 ミサイルや銃弾程度は物ともしない装甲が強みである。



 after
 
 四肢切断
 首切断
 胴体丸焦げ

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