俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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皆さん忘年会や新年会やります? 
もし久しぶりに同級生に会う方がいれば注意してくさだい。
 
~~これは作者が体験した本当の出来事である~~

友人A「転職大成功で車買った。自動運転スゲーよ」
一同「マジで!? 今度乗せてくれよ!」
友人B「週末にメイド喫茶で働いてる子とデートします」
一同「羨ましい! 今度詳しい内容聞かせろよ!」
友人C「売り子としてだけど夏コミに参加するんで遊びに来てね」
一同「ついに仲間内から参加する側で出たか! 遊びに行くよ!」
作者「ソシャゲ(マイナータイトル)のPVPでランキング100以内に入って、今はギルドランキング一位のギルドに所属してる」
一同「へ、へーそうなんだ。凄いじゃん(乾いた空気)」

敗北! 圧倒的敗北!
給料自慢VSリア充自慢VS人脈自慢VSオタク自慢はオタクの完敗!
学生時代に仲が良かったオタ友が社会人になってから急成長してる場合があるから迂闊な発言はするなよ!
人間なんてしょせんマウントを取り合う猿なんだよ!(涙目)


モンド・グロッソ⑯

 熱いシャワーを頭から浴びる。

 ドロドロとした液体がお湯と一緒に排水溝に流れていく。

 

「許さない……」

 

 シャンプーで髪をごしごし。

 熱のせいか白い塊となったマヨが手に付き泣きたくなる。

 

「絶対に許さないんだから……」

 

 ボディソープで身体を洗う。

 石鹸ではないぬるぬるとした液体が皮膚を刺激する。

 

「ぐす……」

 

 我慢……が、まん……

 

「できるかーァァァァ!!」

 

 くっさい! ここめっちゃくっさい!

 マヨネーズの香りに包まれてるよ私!

 換気扇が回ってるけど全然だよこれ!

 マヨ臭が目に染みる! しかもシャンプーの香りと混ざって最悪な香りだよっ!

 髪からマヨが取れない! ローションが皮膚にへばり付いてる!

 おのれし-君! 絶対に許さないんだから! 乙女の身体をなんだと思ってるんだ!

 

「すーはー」

 

 落ち着け。

 怒りの感情に任せて動くのはよろしくない。

 深呼吸してマヨ成分を思いっきり吸い込んでむせそうだけど我慢だ私! まずはしー君の行動を予測だ!

 

 まずしー君は私がシャワーを浴びてる最中に逃げてるはず。

 お仕置きが怖いんじゃなく、インスタントカメラを守る為に逃走するはずだ。

 ISで飛んで山の中に埋める。

 飛んでる途中で人気のない場所に投げる。

 どんな方法で隠すのかな?

 ふふっ、隠そうが埋めようが無駄な事。

 すでにしー君は衛星カメラでロックオン済みなのさ!

 好きに動いて無駄な努力をするがいい! 

 インスタントカメラを回収したらじっくりお仕置きしてやる!

 

 トントン

 

「へあ?」

 

 ノック? なんでノック? 誰?

 

『湯加減はどうですか』

 

 しー君!?

 外に出てから戻ってきたにしては早すぎる。

 となるとダナンのどっかに隠したのかな?

 

「マヨの匂いが目に染みて酷い惨状だよ。今すぐ誰かを殴りたい」

『それはそれは……聞いてるだけで笑顔になるねッ!』

「こんにゃろう――ッ!」

 

 おーけーおーけー。

 もちつけ私。

 天災はどんな時でもクールに。

 

「余裕だねしー君。この期に及んで挑発だなんてなにか策でもあるのかな?」

『いえ? ただ束さんが俺の部屋でシャワーを浴びてる状況を楽しんでるだけですが?』

「まじでっ!?」

『俺は今、生まれて初めて女の子がシャワーを浴びてる音を聞いてる! 感謝! 圧倒的感謝!』

「ばっかじゃないの!?」

 

 この期に及んでする事がシャワーを浴びてる音の盗み聞きだとぉ!?

 理解不能! 童貞の考えは本当に分からないよっ!

 

『束さんは視覚だけじゃなく聴覚も楽しませてくれる最高の存在だよね。密閉空間特有のくぐもった声とシャワーの音が混じって控えめに言って興奮する』

「変態だー!?」

 

 気持ち悪い!

 なにこの生き物? 私は天才にして天災であるから、どんな称賛も賛美も当然の様に受け止めるけど、これは無理!

 

『変態とは失礼な。束さんだって千冬さんがシャワーを浴びてたら興奮するでしょ?』

「まーね!」

 

 ちーちゃんがシャワーを浴びる音なら興奮するよ!

 でもここまで気持ち悪くはないよね?

 よし、今は無視しよう。

 まずは汚れを落とし、それからしー君を処す。

 逃げ回るしー君を追い掛け回し、組み伏せた後に目の前でカメラを叩き潰してやる!

 アナログが弱点? データだろうと物体だろうと破壊すれば全部一緒なのさ!

 

『とまぁ二割は嘘なんですけどね』

「ほとんど本気じゃん!?」

『で、残り二割は……宣戦布告です』

「ふへ?」

 

 宣戦布告? それはつまり……私相手に本気で戦おうと? しー君が? ほーん?

 

『今までの俺たちの関係なら、この後に俺が束さんに数発殴られてお茶を濁す。そんな感じだと思います』

「まぁそうだね」

『でもそんな間柄を本当に友人って言えるのかな? 俺は篠ノ之束という存在に絶対に勝てないと自覚してるからこそ本気の喧嘩が出来ないんじゃないかって、そう思うんです』

「……つまり?」

『束さんの友達を名乗るなら、一度はとことんぶつかるべきじゃないかと、そう判断しました』

「なんで覚醒イベント起こしてるの!?」

 

 そりゃね、私としー君が本気で喧嘩したら勝敗なんて明らかですよ。

 マジでやったら『やめてよね。しー君が私に勝てるはずないだろ』ってセリフが飛び出ること間違いなしです。

 私が譲って初めて対等なのだ。

 しー君の気持ちは嬉しい。

 きっと普段なら、この後は私がしー君をしばいてカメラ回収で終わり。

 そうなるだろうね。

 って事はだ――

 

 こいつカメラを渡したくないからって本気で歯向かう宣言してやがるっ!

 なんか語ってるけど、絶対に写真は渡さないって言ってるだけじゃん!

 

「宣戦布告は受け取った。本気で私と戦う気なんだね?」

『束さんには理解出来ないでしょうね。白髪バニーが股間に直撃する男の気持ちなど……』

「まったくもって理解出来ないね!」

 

 そこまでなの?

 いや私は絶対的な美少女であり、最近は身体の成熟によって大人の妖艶な魅力を持ちつつあると理解してるけど、こんなに狂うほどなの?

 

『カメラは渡さない』

 

 しー君の気配が遠ざかる。

 なんか予想外の展開だけど、明日のちーちゃんの試合が始まる前に丁度いい暇つぶしができたと思えばいいか。

 さてさて、私の本気と戦おうと言ったしー君だけど、勘違いしてるよね?

 戦う戦わないは弱者が決める事じゃない。

 戦いになるのか、それとも一方的な暴力になるのかは強者の出方しだいなのだよ。

 しー君ごときがさぁー、私と戦うとかさぁー、身の程を知れって感じだよねー。

 な、の、で――

 

「ダナン、しー君は艦内に居る?」

 

 この船の心臓部でありISコアであるダナンを呼び出す。

 

『艦内をセンサーでチェック・・・対象は艦内に存在しません』

 

 未来の世界では音声で指示ができるスマート家電なるものがあるらしいね。

 一般家庭に存在する物がこのデ・ダナンにないはずはない!

 篠ノ之束は未来を生きる女なのだ!

 なおダナンの存在はしー君には秘密にしている。

 ほら、しー君は変な言葉を教えたりしそうだから。

 

「しー君は艦の外に出たみたいだね。それならダナン、君にお仕置き衛星『兎の鉄槌』の使用権を譲渡する。出力は30%で固定、陸地に上げない事を第一に対象を半殺しにしろ」

 

『オーダー受諾・・・衛星にアクセス・・・成功。戦闘プロトコルから最適な戦闘パターンを模索・・・・・・』

 

 しー君にはダナンの経験値になってもらいます!

 逃げ足は速いしー君ならダナンの良い経験値になること間違いなし!

 

「あ、そうだ。しー君ならたぶん海中に逃げると思うから、その時は魚雷で海上に叩き出してね」

 

『イエスマム。これより対象に対し攻撃を開始します』

 

 んでこっちは流々武にアクセス。 

 コアネットワークを通してしー君の音声を拾う。

 どんな感じかなー。

 

『逃げだしたとたんレーザーとか殺意高すぎだろ!? だが陸地に上がれば攻撃してこないはず――ッ!』

 

 お、丁度良い感じに襲われてますな。

 さぁ! しー君の悲鳴を聞かせておくれ!

 

『海の中に逃げればレーザーなん……デ・ダナン!? 俺を追ってきた!? あ、待って、魚雷はやめ――ぐわーッ!』

 

 魚雷で海上に打ち上げられるしー君ワロス。

 ダナン、その調子で遊んであげなさい。

 

『俺は負けない! この程度で負けてたまるか! ローション塗れで白濁マヨを浴びた束さんの写真は絶対に守ってみせる!』

 

 その熱意をもっと他の事に使ってくれませんか?

 汚物はレーザーで消毒しましょうねー。

 

「ダナン、レーザー出力を35%にアップ」

 

『威力が上がった!? チクショウッッッ! 俺は負けないぞ篠ノ之束~~~ッ!』

 

 負け犬の悲鳴が気持ち良いね!

 だけどもう一度呼び捨てにしたら出力40%にするからね?

 

 

「おし! 綺麗になった!」

 

 サラサラヘアーとプリティボディの復活である。

 お酒でも飲みながら逃げ回るしー君を鑑賞しようっと。

 

 ガンッ

 

 お?

 

 ガンッガンッ

 

 ドアが開かないんですが。

 ほーほー、わざわざ話しかけてきたのはこの小細工をする為でもあったのか。

 ま、時間稼ぎとして有りだよね。

 だがしかーし!

 

「ちょりゃ!」

 

 ワンパンで解決ですとも。

 さてこれで――

 

「にゃ?」

 

 何かが動いてる音がする。

 シャワー室から顔を出し外の様子を見る。

 しー君の部屋に置かれたお土産などにはビニールシートが被せてあった。

 その中で床に置かれた本が倒れ、ビー玉が転がり――

  

 ピ タ ゴ ラ

 

「スイッチだぁ!?」

 

 まさかドアの突っ張り棒は罠だった!? ドアを破壊したことで発動しやがった!

 床に置かれているのは妙に膨らんだ缶詰。

 私の知識が正しければ、塩漬けのニシンの缶詰で世界一臭い食べ物と呼ばれているものだ。

 その横にあるトンカチがあり、釘抜き部分がその先端を缶詰に向けている。

 しかもご丁寧に缶詰の後ろに扇風機がある。

 ガスを絶対に私に浴びせるんだという意思を感じる。

 容赦がない!

 

 防ぐ? 間に合わない。

 逃げる? 逃げ場なんてない。

 

 ドアを破壊したから防ぐ物がないんだよねー。

 つまりあれだ、この天災が詰んでる。

 

「おのれしーみぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 缶詰にハンマーが落ち、今まで溜めていたガスが出番を待っていたかのように噴き出す。

 シュールストレミングなんぞ用意しやがって!

 

「目がっ!? くさっ!? 目がっ!? くさっ!?」

 

 ガスが目にっ! 呼吸がしにくい!

 もう許さん! 絶対に許さん! なにがなんでも許さん!

 これはもうこれは普段のお茶目で許される範囲ではない。

 確かにこれは喧嘩と言っていいだろう。

 そう、私としー君の―― 

 

「戦争だっ!!!」

 

 あ、口を開けて思いっきり空気吸っちゃった……てへっ♪。

 

「ぐぼえーっ!」  

 

 ……ここがシャワー室で良かった。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「こんばんわ。織斑千冬さん」

 

 挨拶をしてきた相手を観察する。

 赤いドレスを見事に着こなす姿は、外見だけならモンド・グロッソを見に来ている政治家や資産家の愛人に見える。

 ゆったりと姿勢で椅子に腰かけ、足を組む姿からは余裕を感じる。

 油断しきってる感じではないな。

 だが私をそこまで脅威だと思っていないようだ。

 ならプロジェクト・モザイカ関連ではないだろう。

 貴金属は身に着けているが、待機状態のISらしきものはない。

 彼女の身体にどこか違和感を感じる。

 所々が嘘くさいのだ。

 そして雰囲気からして手練れ。

 以上の情報からどう動くべきか……

 

「あら。驚きもしないし怖がりもしないのね」

 

 余裕の笑みだった相手の表情の中に警戒の色が見えた。

 少しは狼狽えるフリでもするべきだったか。 

 私の反応を見て警戒したようだ。

 

「私になにか用か」

「単刀直入なのね。もしかして警戒心が強いのかしら? 他国の国家代表とは楽しくお食事してたのに」

 

 見られていたのか。

 食事中にあからさまな敵意を持った視線は感じなかった。

 観察してる様な視線もだ。

 だとすると、それだけの技術を持ったプロか、もしくは隠しカメラなどだろう。

 

「勝手に人の部屋に入る人間を警戒するのは当然だろう。もう一度聞く、なんの用だ」

「本当につれないのね。まぁいいわ、実は貴女にお願いしたいことがあって来たの」

「お願いだと?」

「別に難しいお願いではないわ。織斑千冬さん、明日の試合で負けてくれないかしら?」

 

 ほぉ? 私に八百長しろと言うのか。

 随分と面白い冗談だ。

 

「どこかの国の者か?」

「国と言えば国なのかしら。えぇそうね、多くの国からのお願いよ」

「どこかの組織か?」

「ふふっ、当たりよ。世界のバランスを裏から支える組織、とだけ言っておくわ」

「ふむ……失礼だがその年齢で拗らせてるのは如何なものかと――」

「言っておくけど本当よ」

 

 優雅な姿勢を保ちながらも青筋を浮かべている。

 そうなのか、てっきりごっこ遊びに興じる危険人物かと思ったよ。

 

「世界のバランスか、それは大事な仕事だな。で? 私が負ける事で世界が平和になるとでも?」

「えぇそうよ」

 

 笑いもせずに肯定するのか。

 私の勝敗が世界の命運を握ってるとは驚きだ。

 冗談……いや、関係ない事でも因果関係がある場合もあるか。

 昔の話だが、束式カオス理論でその事例を見た。

 まさか空き缶を投げただけで最終的にあんな結末になるなんて――

 ふむ、即座に否定するのは浅慮だな。

 

「具体的な話を聞こう」

「案外素直なのね」

 

 私が勝つ事で世界に危機が訪れるというなら聞くしかないだろう。

 

「ISの発表から日本の発言力が高まってきているの。篠ノ之博士は日本一強にならないようにISを分配し、世界各国に研究所や秘密基地を作って技術を提供することでバランスを崩さない様にしているわ」

 

 日本だけを優遇すれば、各国との間に摩擦が起きる事は必定。

 仮にISコアの全てを日本で独占すれば、戦争が起きる可能性はある。

 突出した力を持てばそれは恐怖の対象になり、恐怖の対象は排除するに限るからな。

 

「モンド・グロッソで貴女が優勝すれば今以上に日本の発言力が強くなるわ。それはよろしくないの。理解できるでしょう?」

 

 ……ん? 世界の危機はどうした?

 

「日本の発言力が高まる事がどう世界の危機に繋がるんだ?」

「出る杭は打たれるものよ。今はまだ数ある大国の一つで済むけど、これ以上は潰されるわよ?」

 

 説得力があるような感じはするが、無駄な心配だな。

 束は日本を戦争に巻き込む様な真似はしない。

 人間同士の争いなど気にしないだろうが、箒を巻き込む事だけは絶対にしないだろう。

 そこだけは信用できる。

 たぶんだが、モンド・グロッソが終わったら各国に情報なり技術を配ると思う。

 

「どうかしら? 受けてくれれば貴女が望むものを用意するわよ?」

 

 考える私を見て葛藤してるとでも思ったのだろう、分かりやすい餌をぶら下げてくる。

 これはあれだな、断るしかない。

 受ける理由は皆無だ。 

 

「そちらの言い分は理解した。だが受け入れられないな」

「お金も名誉も望むままよ。それでもダメかしら?」

「なら私にモンド・グロッソ優勝者としての名誉をよこせ。それ以上の名誉はない」

 

 貰う気はさらさらないがな。

 自分で勝ち取らずなにが名誉か。

 

「そう、残念だわ」

 

 空気が変わった。

 飄々とした雰囲気から一転、暗い闇を纏う。

 

「なら仕方がないわね」

 

 が、一瞬で霧散した。

 彼女がふっと笑いながら椅子から立ち上がる。

 流石に簡単には実力行使に走らないか。

 そう言えば名前を聞いてなかったな。

 

「帰るのか?」

「えぇ、生半可な交渉じゃ頷いてくれなそうだから諦めるわ」

「こちらとしては助かる。ところで名前を聞いても?」

「亡国機業実働部隊【モノクローム・アバター】隊長、スコール・ミューゼルよ――別に覚えなくてもいいわ」

 

 ガッッ!

 

 すれ違う瞬間、まるでハエでも払うかのような横振りの一撃を放たれる。

 それを右腕でガード。

 結局こうなるのか。

 

「私の一撃を生身で防ぐですって? 貴女いったい――」

 

 攻撃が防がれたの意外なのか、スコールが驚きの表情で固まる。

 気持ちは分かる。

 今の一撃、普通の人間なら余裕で首の骨を折られてるだろうからな。

 

「もしかして貴女も身体の改造を? 篠ノ之博士と仲が良いみたいだし、天災お手製の身体だったりするのかしら?」

「なるほど、お前は普通ではないようだな」

 

 相手の腕に触れて気付いた。

 皮膚は偽物、筋肉は合成、骨は金属。

 私が感じた違和感はこれだ。

 この腕は造られた物。

 恐らく束の技術を使用してるのだろう。

 

「お姉さん、ちょっと失敗しちゃったみたいね」

 

 顔に緊張を漲らせながらスコールが私から離れる。

 

「普通ではないのは理解してるが、私の力は束とは無関係だ」

 

 スコールの改造など私に比べれば可愛いものだ。

 なにせプロジェクト・モザイカ産の私は頭からつま先まで人工物みたいなものだしな。

 

「貴女の情報は集めたつもりだったけど、調査不足もいいところだわ。こんな化け物だなんて――」

「化け物とは失礼だな」

「奇襲を防ぐだけじゃなくて、襲われたことに対しても動じた様子はないし……貴女、本当に最近まで学生だったの?」

 

 身体能力だけではなく、精神性も疑い始めたか。

 まぁ普通の女子高生ならもっと慌てる場面か。

 

「正真正銘、最近まで学生だった者だ。ところでこれからどうする気だ? 逃げるなら見逃すが?」

「正気? 私は貴女の命を狙ったのよ?」

「お前を殺して私が得することがあるのか? 殺した後、スタッフや関係者を呼んでそれから事情聴取……考えただけでも面倒だ。無駄に睡眠時間を削られるだけじゃないか」

 

 多少寝なくても動けるが、試合の前に体調を万全にしておくのは選手として当然だ。

 さて、暗殺は防いだ訳だが……この後、相手はどうでる? 

 買収で動かない事は布告済み。

 驚きながらも戦意が衰えていないので、まだ切り札があるかもしれない。

 他の手だてとしては……脅迫だろうか。

 私の事を調べてるなら、一夏を盾にする可能性がある。

 

「そう……天災のお気に入りなだけあるわね」

 

 ひきつった笑みで私と束を同類にしないでくれ。

 そもそも自分を殺そうとする人間を殺す事に対し、忌避感や罪悪感を持つ方が生き物としておかしいだろう。

 人間としてはそういった感情が正しいのかもしれないが、私は神一郎に言わせれば野生動物みたいなものだからな。

 

「正面突破は未知数で買収は無理。なら後は脅迫しかないけど……いいかしら?」

「……やはりそうなるか」

 

 あぁ、自分でも驚くほど低い声だ。

 選択肢として有りえると思っていたが、実際に口にされると我慢できないものがあるな。

 

「っと、これは虎の尾を踏む行為だったみたいね。ここは素直に引くのが正解みたいね」

「思ったより冷静だな。なんなら命を懸けて任務を遂行してもいいんだぞ?」

「冗談。勝算のない戦いはしない主義なの」

「戦士ではないな」

「兵士ですもの」

 

 こちらの覚悟を悟ってくれたのか、一夏を脅しの道具に使うのは諦めたようだ。

 だがこれは失敗だな。

 今後亡国機業なる組織が私に接触するかは不明だが、接触してくる場合はまず一夏を狙ってくる可能性が出てきた。

 目立てば一夏に迷惑を掛ける時が来るかもとは思っていたが、こうも早くその場面がくるとは……

 

「はぁ……」

「あら、随分と深いため息ね」

「……まだ居たのか」

「そう邪険にしなくてもいいじゃない。悩み事なら相談に乗るわよ?」

 

 命を狙ってきた人間の割にノリが軽いな。

 だがそれもいいかもしれん。

 むしろ彼女ほど答をくれる存在は居ないだろうし。

 

「なら飲み物でも飲みながら」

「あ、本当に相談する気なのね。聞くと言ったのは私だけどお姉さんびっくりだわ」

 

 自分で言っておいてびっくりするなよ。

 

「水とコーヒーしかないが、どちらにする?」

「コーヒーで」

「ほら」

「……缶コーヒーなのね」

 

 冷蔵庫から取り出して投げた缶コーヒー受け止めたスコールは、微妙な顔をしながら椅子に座った。

 私は水にしておくか。

 冷蔵庫から取り出したミネラルウォーター片手にベッドに座る。

 

「それで、相談ってなんなのかしら?」

「お前の様な組織が接触してきたらどうすればいいと思う?」

「……え? 相談ってそれなの?」

「そうだ。仮にここでお前を殺したらどうなる?」

「組織は貴女を警戒するわね。その若さで私を殺すほどの実力者ですもの……まずは懐柔。それが無理なら敵として対処……暴力、脅迫、人質などかしら」

「やはりそうなるよな。私はそれがひたすら面倒なんだよ」

「はい?」

「別に裏の組織などに興味はない。金は欲しいが自分で稼ぐ事に意味があるので汚い金はいらん。どうにかしてそういった組織から無視される方法はないか?」

「命を狙った相手にそれを聞くの? いえ、命を狙った相手だから聞く意味があるのね」

「そうだ。何か良い案はないか? お前が組織のトップに成ったら今後は私に関わらないと誓うなら、下克上を手伝ってもいいくらいだ」

「とても興味がある提案だけど聞かなった事にするわ。どんな組織からも無視ね……無理じゃないかしら?」

 

 相談役が使えない。

 さっさと帰ってくれないか?

 

「そう怖い顔しないで。貴女の意見に完璧にはそぐわないけど、方法はあるわ。後ろ盾を得る事よ。そう、例えば亡国機業とかおすすめね」

「それは断る」

 

 いい笑顔でなにいってるんだこいつ。

 しかし案は悪くない。

 後ろ盾か……今現在の後ろ盾は日本政府と言っていいだろう。

 それだと少し弱い。

 何故なら今の私はただの政府などと深い関わりがなく、雇われてる状態に近いからだ。

 もっと日本政府と関わりを深くした方がいいかもな。

 

「いっそ公務員にでもなるか?」

「どういった経緯でその結論に至ったか聞いてもいいかしら?」

「モンド・グロッソで優勝して私の能力の高さをアピールすれば、得難い人材だと思われるだろ? 政府と関わるのは面倒だと感じていたが、少し前向きに考えようと思ってな」 

「それは良い案ね。貴女の身が欲しければ日本政府を脅せばいいのね?」

「やめてくれ」

 

 いや本気でやめろよ。

 もし日本政府が私を売ったら束が暴れかねない。

 

「ん?」

「メールかしら?」

「みたいだな。失礼」

 

 一言断ってからメールを確認する。

 宛先はモンド・グロッソ大会委員会から。

 そうか、対戦相手が決まったのか。

 

「……くくっ」

「随分と嬉しそうな顔をするじゃない」

「初戦の相手が発表された」

「私が目の前に居るのにそんな顔するなんて妬けちゃうわ」

「なら今から一戦やるか?」

「妬けるは嘘よ。そんな顔を貴女にさせる相手に同情するわ」

 

 顔? 自分の顔を触ってみる。

 普通に笑ってるだけだが?

 

「このままこの場に居たらサンドバックにされそうね。そろそろ失礼するわ」

「話しに付き合わせて悪かった。だが個人的には二度と会わない事を願う」

 

 次に会うことがあれば、その時は血を見ることになりそうだからな。

 

「最後に一つだけ、貴女にそんな顔をさせる相手は誰なのかしら?」

「――アメリカ代表だ」

 




モンド・グロッソ表

亡国機業「暗殺しようとしたけどヤバい奴っぽいんで諦めます」
日本代表「自分人生相談いいっすか?」


モンド・グロッソ裏

し「俺は絶対に負けない!(固定100ダメの弱攻撃でなぶり殺し)」
た「みぎゃぁぁぁぁぁぁ!(シュールストレミング爆弾爆発)



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