俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

76 / 109
中国語はググりながら使ってみたけど、翻訳間違ってたらすみません。
浸透勁ってあるじゃないですか? マンガやアニメだと装甲無視の貫通ダメージって印象があったんですけど、実は別物っぽいですね。
ですがこの作品では

浸透勁=装甲無視貫通攻撃

として扱います。
だってその方がオサレだから!



モンド・グロッソ最終日 日本VS中国

「次はゼリータイプの栄養食でお願いします」

「味の指定はございますか?」

「いえ、その辺はお任せします」

「畏まりました」

 

 食事のお礼を言って次の分を頼む。

 流石に次は固形物の消化は間に合わないだろうからな。

 

「ふっ」

 

 軽く息を吐き寝てる間に固まった筋肉の緊張をほぐす。

 アーリィー達との食事で気力は回復した。

 その後すぐに眠り体力も回復。

 心身ともに充実している。

 

「試合が進むごとにインターバルが短くなるのがトーナメント戦ですー。今回はギリギリ間に合いましたが、破損状況次第では不完全な状況で決勝に挑む事になっちゃうので、くれぐれも気をつけてくださいねー」

「了解です」

 

 水口さんに返事をして登場口に向かう。

 了解と言ったが、正直言って難しいだろう。

 モンド・グロッソAグループ決勝。

 相手は中国代表の朱飛蘭。

 無傷での勝利などありえない。

 

「流石は水口さんだな」

 

 アリーナに飛び出ると、観客の歓声が身を打つ。

 その中を機体の調子を確かめる為にゆっくり飛ぶ。

 観客へのサービスとコンディションのチェックを兼ねた行動だ。

 その結果、機体の調子は上々だと分かった。

 よく限られた時間で整備してくれた。

 

 さて、これ以上は無視するのは悪いか。

 

「待たせたな」

「いえいえ、パフォーマンスも仕事ですからネ」

 

 先にアリーナに入っていた飛蘭の前に降り立つ。

 待ちきれないといった顔だな。

 全身から闘気が溢れている。

 

「思ったより元気そうだな。流石だ」

「それはアタシのセリフヨ。あの二人を相手にしてダメージがほとんど見られない……流石は千冬サンアル」

 

 互いに少しの時間睨み合う。

 いいな、この緊張感は嫌いじゃない。

 離れて定位置に着き、合図を待つ。

 

 

 ――5

 

 飛蘭の姿勢が深く沈んだ。

 

 ――4

 

 視線は真っ直ぐ私を見ている。

 

 ――3

 

 策を弄したりする目ではない。

 

 ――2

 

 つまり、正面から私に当たろうとしてるのだ。

 

 ――1

 

 受けて立つ!

 

 ――0

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

 ブレードを腰に携え抜刀の構えで前に出る。

 対する飛蘭も似た動きだ。

 偃月刀を握りながら正面からかかってくる。

 

「破ッ!」

 

 アリーナの中央で私と飛蘭は激突する。

 振り落とされる偃月刀。

 自重と重力、そして遠心力を使用した一撃と私のブレードが激突した。

 

 ……重いな。

 

 均衡はほんの一瞬。

 飛蘭の偃月刀の切っ先が徐々に私に近付く。

 刃を寝かせ力を受け流す。

 偃月刀が地面に突き刺さった。

 その隙に内に飛び込もうとするが、偃月刀を薙ぎ払う様に振るってきたので後ろに下がり回避する。

 飛蘭との距離は約3メートル。

 偃月刀が一番力を発揮でき、私にとっては不利な距離だ。

 

「奮ッ!」

 

 一歩踏み込もうとする私の目の前を偃月刀の切っ先が通り抜ける。

 制空権が広い。

 これは手こずりそうだ。

 華麗にして重厚。

 飛蘭は偃月刀を見事に使いこなしている。

 アリーナの中央で私と飛蘭の睨み合いが始まった。

 中央に陣取る飛蘭は頭の上で偃月刀をぐるぐると回す。

 私が制空権に侵入した瞬間にあの刃は振り落とされるだろう。

 対して私は飛蘭の周囲をグルグルと回りながら踏み込むタイミングを計っている。

 多少無茶すればなんとかなるが機体へのダメージが心配だ。

 水口さんに怒られるだろうし、決勝は可能な限り万全で挑みたい。

 だが、だ――

 

「飛蘭相手に無傷など土台無理だろうな」

 

 飛蘭は頭の上で偃月刀を回しながらその場に留まっている。

 カウンター狙いとは味な真似をする。

 正直言って私はブレードの扱いが下手だ。

 片刃の日本刀と両刃の西洋剣では取り回し方がだいぶ異なるから仕方がない。

 それでもブレードを使用するのは、大型の日本刀の制作が困難だからという理由もあるがブレードの耐久力の高さが魅力的だという理由もある。

 アダムズの砲撃を受けたあの時、日本刀なら簡単に砕けて直撃していだろう。

 日本刀にはない優れてる面。

 そこを活かすしかない。

 

 後ろに下がり飛蘭と距離を取った。

 抜刀術と同じ様にブレードを横に構える。

 鞘走りが出来ないので日本刀とより速度は落ちるがこの構えが一番しっくりくる。

 

 瞬間加速を使い一気に前に出る。

 間延びする時間、周囲の時間が遅滞する感覚の中で飛蘭を見据える。

 ハイパーセンサーを使用する飛蘭には私の動きがしっかり見えてるだろう。

 私を迎撃する為に振り落とされる偃月刀。

 強力一撃だからこそスキがある。

 それは一度放たれたら軌道修正が出来ない点だ。

 ブースターを逆風射して急停止。

 私の額数センチ先を分厚い刃が通り過ぎた。

 まずはその厄介な武器を破壊する!

 

「シッ!」

 

 偃月刀の刃の側面にブレードを叩き付ける。

 技術もなにもない力技だ。

 できれば柳韻先生には見られたくない。

 

 ビキッ

 

 偃月刀の刃部分が砕け、同じく私のブレードも砕けた。

 まだ予備があるとはいえ壊し過ぎだな私。

 

「安心するのはまだ早いネ」

「むっ」

 

 飛蘭が刃の無い偃月刀をそのまま構える。

 この動きは――

 

「棒術かッ!?」

「手数の多さが売りアル!」

 

 突けば槍、払えば薙刀、打てば太刀、杖はかくにも外れざりけり……だったか?

 普通なら厄介だと思う場面だろう。

 だがまぁ、これでも古武術経験者でな。

 

「突っ込んでくるネ!?」

 

 棒術の強さも弱さも承知している!

 横払いの一撃を防がずに素直に受ける。

 脇腹に衝撃はあったがダメージは微々たるものだ。

 生身ならともかく、IS戦では少しばかし威力が軽い。

 予備のブレードを拡張領域から取り出し斬りかかる。

 

「ハッ!」

 

 飛蘭は偃月刀の柄から手を放しすぐさまブレードの側面を殴って軌道を変えた。

 対応の速さは見事だ。

 片刃にない両刃の良い所は他にもある。

 それは斬り返しが楽な点だ。

 握り直しなどしなくともそのまま斬れる!

 

「ハイヤー!」

 

 棍棒がブレード弾く。

 いや、棍棒と言うか……

 

「ヌンチャクとはまた渋い武器を――」

「見かけ倒しじゃないアルよ? ハイハイハイ――」

 

 見事なヌンチャク捌き。

 中国だと双節棍が正しい言い方か?

 それにしても意外と使いこなしてるな。

 

「ハイーッ!」

 

 決めポーズまでビシッと決めたな。

 さて、ヌンチャクこと双節棍は日本人でも知ってる者が多い武器だ。

 カンフー映画などでお馴染みだな。

 有名だが私は双節棍使いと戦った事はない。

 それでも“強敵”だと理解できる。

 人や物を斬るのは存外難しい。

 ナイフで刺すだけなら簡単だが、斬るとなると難易度がグッと上がる。

 その点棍棒で人を殴り倒すのは簡単だ。

 鎖で繋がれた棍棒は遠心力でその殺傷能力を増している。

 双節棍を使えば子供でも大人を殺傷する事が出来るだろう。

 使い手が熟練の戦士となると……ISでも油断できないな。

 偃月刀の柄と違い太く重い棍棒は装甲を砕くだろう。

 

「頭だけはしっかり守る事をおすすめするアル!」

 

 横薙ぎの一撃。

 ブレードで受け止めるもずっしりと重い衝撃が骨に響く。

 流石に偃月刀の一撃ほどではないが――

 

「呀ッ!」

 

 連撃がやっかいだな!

 ブレードで受け止め、流し、捌く。

 流れる様な攻撃はまるで激流の中大量の丸太が流れてくるようだ。

 ……少し面白そうだな。

 修行の一環としてやってみたい。

 

「笑顔とはまだまだ余裕そうアルな!」

 

 余裕じゃない。

 ただ純粋に楽しいのさ。

 

「ギアを上げるぞ」

 

 一息入れて力を漲らせ双節棍を下から上に叩き上げる。

 威力を殺された棍が空中に滞空してるスキに飛蘭に向かってブレードを振るが、もう片方の棍で受け止められた。

 表面に軽く跡が着いた程度か、ブレードでは斬れる気がしない。

 正しく棍棒だな。

 

 厚い幅を持つ私のブレードは叩き潰すものだ。

 刃があるのでもちろん斬ることも出来るが、基本的には腕力で断つ。

 今はそれが功を奏している。

 

 双節棍とぶつかり合い徐々に刃が欠けてきた。

 日本刀なら折れてるだろう。

 しかし手はある。

 まさかゴーレムとの戦いが役に立つとは……束は良い仕事をした。

 

 上段からの振り落とし。

 飛蘭は双節棍を頭上で重ねる事で防いだ。

 分厚い棍棒だが――

 

「ここだッ!」

 

 二撃で断てる!

 

「しま――ッ!?」

 

 拡張領域から取り出した二本目のブレードで受け止められていたブレードを上から叩く。

 わずかに食い込んでいた場所から亀裂が広がり、最終的に根の一本を断ち切った。

 畳みかけようとしたが飛蘭はバックステップで距離を取る。

 冷静だな……勢いで追い打ちをかけるのは危険か。

 

「あいやー」

 

 飛蘭が双節棍の断面を見ながら呆れた声を出す。

 

「合体技を一人でやるとか流石は千冬サン」

 

 そして手に残っていた無事な方の根と一緒に投げ捨てた。

 そろそろ準備運動は終わりか? 殺気が漏れてるぞ。

 

「観衆向けの武器をいくつか使ったし、もう自由に戦っても許されるかな?」

「なんだ、手を抜いてたのか?」

「もちろん本気だった。全力じゃないけど」

 

 ワザとらしい口調から素の口調に戻った飛蘭の両手が装甲で覆われる。

 いいな、今日はワクワクすることがいっぱいだ。

 

「小手……いや、手甲か?」

 

 指先にある爪は短いが猛禽類の様な鋭さを持ち、甲の部分は分厚い。

 防具と言うにはあまりにも攻撃的な造形だ。 

 

「ふふっ、そんな量産品の剣じゃ――」

 

 飛蘭の身体が沈み、次の瞬間には私の間合い深く入ってきた。

 中国拳法の歩法か。

 わざわざ付き合う必要はない。

 武術とは大地に根差した技術。

 飛蘭の有利を消すなら空中戦を選べはいい。

 だがそれじゃあつまらんよなぁ!

 

「ふっ!」

「私は止めらない」

 

 迎撃の為に振られたブレードが折れた。

 飛蘭の動きは白刃取りのそれだったが手の形が違う。

 左手は平手だが右手は拳だった。

 ただ受け止めだけではない。

 左手を添えて拳で打撃。

 武器破壊の技か!

 

「ちっ!」

 

 舌打ちしながら折れたブレードを飛蘭に向かって投げる。

 防がれるのは予想通り。

 その間に体勢を整える。

 いくら頑丈なブレードでも飛蘭の拳で破壊されるだけか。

 

「やれやれ、ISでの戦いだというのに肉弾戦ばかりだな」

「そんなこと言って嬉しそうな顔してる」

 

 アダムズは最終的に殴り合ったしエラは得意の狙撃は初撃だけ後は近接戦。

 嬉しいに決まってるだろ。

 正面から殴りかかって来るなんて束以外いなかったからな。

 

「武器と飛行、瞬時加速などの機能の禁止、純粋に殴り合いで勝負をつけよう」

「いいだろう」

 

 飛蘭からの嬉しい申し出。

 私に否はない。

 三度目の仕切り直しといこうか。

 私と飛蘭はアリーナの中央で三度睨み合う。

 

「シィィ」

 

 独特な呼吸音と共に先手を打ってきたのは飛蘭。

 早く鋭い抜き手――狙いは心臓か。

 

「おいおい、決めに来るのが早くないか?」

「初手必殺は基本」

 

 押さえた手首を捻る。

 そのまま抑え込み……体ごと回転して回避したか。

 置き土産にハイキック。

 だから首狙いもやめろ。

 殺意が高すぎる。

 

 フリッカーの様な独特の動き。

 お得意の蛇形拳か。

 両手が蛇の如く襲ってくる。

 だそれはもう見慣れた。

 今更脅威には……飛蘭が策もなく同じ技を何度も使うか?

 

「シッ!」

 

 一瞬の油断。

 拳打だと思い、防ぐ為に前に出した右手の手首に飛蘭の指が噛み付く。

 

 ビキッ!

 

 装甲が喰われる!?

 

「はぁぁぁぁ!」

 

 嫌な予感に駆られ力尽くで振り払う。

 手首を見ると装甲が抉られていた。

 

「惜しい。もう少しで神門を食い千切れたのに」

 

 神門? 確か手首にあるツボの一つだったか?

 しかし恐ろしい指の力だな。

 

「学校に通いながら鍛えるとこういった技が得意になる」

「なるほど、指先だけを重点的に鍛えたのか」

 

 異常な力は部位鍛錬の結果だろう。

 外見だけでは指の力など読めないから暗殺者向きだ。

 なにが凄いって、それを今まで隠してた事だ。

 拳を受けるのは危険だな。

 もし指を取られたら一瞬で折られるかもしれん。

 

「ハウッ!」

 

 虎の如き強襲。

 ギリギリで避けたが装甲に爪によって削られた。

 私にはダメージがないが、この調子で攻撃を受けると水口さんに怒られそうだな。

  

「しかし随分と独特な掛け声だな。前は技名叫んだりしてたじゃないか」

「生き物それぞれで呼吸のリズムがあるって知ってた? 威力が増すの。例えば虎の呼吸法だと瞬発力と腕力が増したりね。それと実戦で技名は流石に……」

 

 流石に試合中に技名叫ぶはないよな。

 それにしても呼吸法か。

 日本の武術でもあるにはあるが中国ほど多様ではない。

 勉強になる。

 今のは虎の呼吸法か?

 深く吸い、酸素を体中に行き渡せ――少し吐いてまた吸う。

 そして肺の空気を一気に放出!

 

「ハウッ!」

「へあ!?」

 

 チッ、驚かせることは出来たが防がれたか。

 蛇形拳の時は――短く鋭く吸って短く鋭く吐くんだったな。

 

「シッ!」

「んあ!?」

 

 抜き手が飛蘭の頬を掠る。

 やはり技を真似る程度じゃダメか。

 

「……なんで出来るの?」

「目の前でやられたら真似するくらい出来るだろ」

「これが……理不尽ッッッ!」

 

 目の前で技を見せておいてその反応はないだろ。

 私の理不尽具合など束より遥かにマシだぞ?

 

「これは面白いな。もっと見せてくれないか?」

「お断りッ!」

 

 おっと、攻撃パターンが普通になった。

 残念だが諦めるか。

 動物の呼吸法を真似るとは面白い考えだが、修練を積まないと実戦では難しい。

 戦いの中で適所にあった攻撃と、それに合う呼吸法の選択。

 呼吸とは乱れやすいもの。

 束なら使いこなすだろうが、私では無駄な選択肢を増やして自爆することになりそうだ。 

 

「まったく! とっておきだったのに!」

「そう怒るな。面白かったぞ」

「まだ余裕そうな顔してる! 絶対に喜ばせてやる!」

 

 なんか趣旨変わってないか? そう言えば束は飛蘭が私に感謝してると言っていたな。

 別に無理して私に合わせなくてもいいんだぞ。

 ただ全力で来い。

 

「シッ!」

 

 蛇が目玉を喰らい付こうとしてくるイメージが脳内に。

 だがそれは――

 

「殺気によるフェイントだろう!?」

 

 目の間に迫る幻影の蛇を無視して後ろの虚空を掴む。

 

「並以上の相手でも仕留められる自信があったんだけど……ね!」

 

 私の手は飛蘭の指先を掴んでいた。

 試合で目を狙うなよ。

 左からのローキック、途中で起動が変わりまた首狙いに。

 ほんと殺意が高い。

 それを防が……ない!

 一歩前に出て攻撃を受ける。

 太ももが肩に当たるが、威力を殺せたので問題なし。

 そして素早く飛蘭の足を掴む。

 そのまま腕力で投げ飛ばした。

 

 地面を転がる飛蘭だが、すぐさま起き上がった。

 そのタイミングを見計らってジャンプからの飛び膝蹴り。

 起き上がったばかりで中腰の姿勢の飛蘭が避けれるタイミングではない。 

 

「せいッ!」

 

 そんな一撃を飛蘭は肘で受けた。

 大地に足を着け自らを固定して受ける飛蘭と、落下速度を利用して自重を叩き付ける私。

 そんな二人の肘と膝がぶつかり合う。

 

「「ぐっ!?」」

 

 飛蘭の拳の装甲にヒビがはいる。

 私の膝の装甲にもだ。

 まさか迎え撃つとは思わなんだ。

 やってくれる。

 だが互いのダメージは少ないな。

 私の膝も普通に動くし飛蘭の拳も死んでいない。

 手甲の装甲が仕事をしたか。

 

「まだまだ動けるな!」

「互いにね!」

 

 神一郎の頭なら一撃で砕けるくらい力を込めている拳がいなされる。

 太極拳……力を流す技は本当に見事だな。

 

 とんっ

 

 ごくごく自然な感じで胸に手の平を当てられた。

 敵意や殺意がなくまるで自然な行動だったので、防ぐという意識が生れなかった。

 

「哼ッ!」

「ごふっ!?」

 

 衝撃が胸から背中に突き抜ける。

 内部に直接衝撃を通された……浸透勁か!

 

「鉄山靠ッ!!」

 

 息が詰まり一瞬動きが止まった瞬間、飛蘭が身体ごとぶつかってきた。

 まるで車に衝突された様な感覚が私を襲う。

 ってなんだかんだ言って技名叫んでるじゃないか。 

 

「ふ……ふふっ……」

 

 地面を転がり空を見上げる。

 弾き飛ばされてひっくり返る? この私が?

 笑わずにはいられないな。

 意を消して私に触れ、小技で動きを止めて大技で仕留める。

 実に見事。

 なにがプロジェクト・モザイカだ。

 人間は努力すれば化け物を吹っ飛ばすことが出来ると飛蘭が証明した。

 安易に人造人間など造らずに努力しろ人類。

 

「追撃しないのか?」

「して欲しかったらもっと効いてる顔して? 会心の手応えだったけどまだまだか」

「いや効いたよ」

 

 立ち上がりながら砂を払う。

 骨は問題ない。

 ISは……胸部と背部の装甲にヒビが入ってるがこちらも問題ない。

 

「少しばかし人間を舐めていた。そこは謝罪しよう」

「……まるで人間じゃないみたいな言い方」

「一応は人間さ」

 

 国籍もあるから法律上はな。

 遺伝子上なら違うが。

 

「全力で対応しろ。私はお前を殺したくない」

「は? なに……」

 

 最後まで言わせなかった。

 全力で飛蘭に襲いかかる。

 

「はや――ッ!?」

 

 瞬時加速は使用してないぞ。

 ただの脚力だ。

 

「ぐっ!?」

 

 驚きながらもちゃんと防ぐか。

 だがまだ私の攻撃は終わらん。

 ガードの上から拳を叩き付ける。

 

「このっ――!」

 

 苦悶の表情の飛蘭に拳を叩き付け、叩き付け、叩き付け――

 

「くそっ……」 

 

 飛蘭の隙を見逃さず脇腹に一撃。

 

「がはっ!?」

 

 飛蘭の身体が浮き後ろに飛ぶ。

 走って追い掛け今度は蹴り飛ばす。

 うん、ちゃんとガードして直撃は防いでいるな。

 蹴りは角度を付けて打ち上げる感じにした。

 飛行機能を使えば持ち直しは簡単だが、飛蘭ならばしないだろう。

 落ちてくる飛蘭の足を掴む。

 

「お前も頭をしっかり守れよ?」

「……お手柔らかに」

 

 それは無理だな。

 飛蘭を片手で投げ飛ばす。

 地面を転がる飛蘭を追い今度は腹を蹴り飛ばす。

 

「っ~~!」

 

 声にならない悲鳴が聞こえた気がした。

 だが手を休める気はない。

 素早く立ち上がろうとする飛蘭だが、遅い。

 丁度中腰になった所で追い付いた。

 良い位置に頭があるな。

 しっかり防がないと頭が砕けるぞ? 

 

「……くっ」

 

 飛蘭が両手を顔の前でクロスさせる。

 クロスガードは防御力が高い技だ。

 ならば、だ――

 

 衝撃を通すのではなく、表面で破裂させる蹴りを放った。

 

「あっぐぅ!?」

 

 手甲が砕け散り飛蘭が大きくのけぞる。

 これで厄介な武器を一つ潰せたな。

 

「……不要舔(なめるなよ)

 

 む? 立ち上がった飛蘭の顔に怒りが……

 

「なぜ今の一撃を手加減した。その気になればガードの上から私の頭を潰せたはず」

 

 あぁそうか、飛蘭から見たら手心を加えたように見えるのか。

 だがそれは買い被りだな。

 

「別に情けを掛けた訳ではない。ガードの上から叩いても仕留められないと思ったから手甲の破壊を優先しただけだ」

「……早とちりでした」

 

 ぺこりと頭を下げられた。

 うん、気にするな。

 

「はぁ~。分かっていたけど、やっぱり殴り合いじゃ勝てる気がしない」 

 

 どうか嬉しそうに、そしてどこか誇らしげに飛蘭が苦笑する。

 戦ってる相手に向ける顔じゃないだろまったく。

 まぁ嫌ではないがな。

 むしろ喜んでくれて嬉しいさ。

 

「ところで千冬サン、“蚩尤”はご存知?」

「その機体の名前だろ? 史実としては……中国の化け物程度しか知識はないな」

「細かい説明は省くけど、古い邪悪な神様で黄帝が倒した存在……日本で言えばヤマタノオロチが近いかな?」

「それは初耳だな」

「ま、神だなんだと言っても所詮は舞台装置なんだよね。英雄を誕生させる為に倒される化け物。それが蚩尤」

 

 人が英雄たる存在に成る為に倒されるべき悪……か。

 そう聞くと少しシンパシーを感じるな。

 私もどちらかと言えばそっちの存在だろう。

 

「その蚩尤が流した血は死後も残って……そこまで説明すると長くなるから簡潔に言うけど、赤旗を“蚩尤旗”って言ったりするんだよね。つまり赤が蚩尤のイメージカラー」

「そうなのか」

 

 面白い話だが、言いたい事が分からんな。

 飛蘭のIS【蚩尤】の色は黒。

 名前を使ってるのに色が違うと言いたいのか?

 

「納得行かないんだよね。トーナメント表は明らかに篠ノ之博士の思惑が入っている。なのにグループ決勝で当たるなんて……それってアーリィーより格下だって判断されたって事だよね?」

「……私に聞かれてもな」

 

 束の思想は入ってるだろうな。

 飛蘭がアーリィーより下と見た可能性は……正直言ってある。

 

「織斑千冬を英雄にするのはアタシだ」

 

 飛蘭の目に黒い光りが見える。

 ん、なんだ……そこまで献身されても怖いんだが?

 私は化け物枠だから英雄にはならないので気にするな。

 

「だから千冬サン、大会ルールではセーフだけど倫理的にアウトな手を使っても?」

「まだ隠し玉があるのか? こちらとしてはどんな方法でも構わんぞ」

 

 大会ルールに抵触してなければどんと来いだ、

 倫理に反する点が気掛かりではあるが……いかんな、好奇心を押さえられない。

 

「それではお言葉に甘えて。――コレ見える?」

 

 飛蘭が口を開けて舌を出す。

 その舌の上に赤い球が乗っていた。

 

「別にヤバい薬とかじゃない、ただの薬草の塊。ドーピング検査されてもなんの問題もないシロモノ」

「そんな物が役に立つのか?」

「もちろん。ところで千冬サン、匂いが人体に影響を与えるって知ってる?」

「ん? そうだな……喜怒哀楽に影響を及ぼすくらいは」

 

 身近だとアロマキャンドルなどだな。

 人にリラックス効果があったりする。

 逆に臭い匂いなどは嗅ぐとストレスが溜まりイライラしたりするな。

 

「ジャコウネコから取れる霊猫香やクジラから取れる龍涎香。中国は香の歴史も深い」

「と言うと、それは薬効成分があるものではなく――」

「そう、これは嚙み砕くと封印されてた匂いが広がる。範囲は自分に影響がある程度だけね」

 

 カリッ

 

 小気味よい音が私の耳に届いた。

 鼻を利かせてみるが土煙の匂いしかしない。

 本人の宣言通り自分にしか影響を与えないのだろう。

 

 ザシュ

 

 何かが……例えるなら肉に鋭い物が刺さる音が聞こえような……?

 ほんの僅かな音だが、この耳に届いた気がする。

 いや待て、凄く嗅ぎ慣れた匂いがするな。 

 これは……血だ。

 

「……なにをした」

「ちょっと経穴と経絡に活を入れただけ」

「それでなぜ血の匂いが――まさか、お前……」

「ちょっと特殊な針でね。深く差さないと効果がないの」

 

 蚩尤のイメージカラーが血の赤だと言ってたのはこれか。

 まさか装甲の内側に針が飛び出す仕掛けを施してあるとはな!

 流石にビックリだよ。

 アイアンメイデンを着込んでるようなものじゃないか。

 

「服用した人物を激しい興奮状態にする朱家秘伝の【赤虎憑依】、そして強制的に身体能力を上げる中国暗部の暗技【凶猛活性】。この二つで千冬サン、貴女を倒す」

 

 自分の家と中国暗部、二つの合わせ技か。

 顔は赤く染まり瞳孔が大きく開いている。

 見るからに普通とは言えない状態だ。

 伝わる気迫はまさに虎。

 それに加えて筋肉が激しく躍動してのは見て取れる。

 強制的に肉体のリミッターを外したようだ。

 

「まともに戦えるのは一分くらいかな。逃げてもいいよ? それだけで千冬サンは勝てると思うから」

「冗談言うな。こんな状況で私が引くとでも?」

 

 飛蘭は気付いてるだろうか?

 最初は作られたいつものキャラ。

 次にお堅い感じの、恐らくは暗殺者としての口調。

 そして今は年相応の柔らかい言葉遣いになっている。

 いくつもの皮を脱ぎ捨て生身で挑む相手を拒めるはずがない。

 笑顔で近付いてく飛蘭に合わせ私も前に出た。

 

 一歩、二歩……そして互いに手が届く距離になり――

 

「ごっ――」

「あっ――」

 

 互いの拳が相手の頬に減り込んだ。

 

 頬に当たる感触、痛み、衝撃、気迫、殺気、覚悟――

 

「く……クハハハハハッ!」

 

 いいぞ! 素晴らしい! 今まさにお前は人類が生み出した化け物を殺せる領域に踏み込んだ!

 

「来い! 私を倒してぶっ――ッ!?」

 

 馬鹿口開けて笑っていたら拳を叩き込まれた。

 あぁ、くそ。

 飛蘭が命を削って戦ってるに笑うとはなんて様だ。

 修行が足りん。

 だがそれでも――

 

「笑うなと言うのは無理な話だッ!」

「ガァァァァァ!」

 

 私の拳が飛蘭の顎を捉えた。

 お返してばかりに腹に一撃くらう。

 互いに殴り殴られ、砕けた装甲と血飛沫が私と飛蘭を包む。

 正真正銘この私と真正面から殴り合っている。

 そこは素晴らしい。

 だが……あぁ“だが”だ。

 もったいなにもほどがある!

  

「どうした飛蘭! 私はまだ動いているぞ! 適当に殴るな! 一撃一撃に殺意を込めてしっかり殴れ!」

「ガァァァァァ!」

 

 獣の様に暴れる飛蘭に声を掛ける。

 理性は動いているか? 技術は思い出せるか?

 せっかく培った技を捨てるな。

 暴力だけでは駄目だ。

 それでは無駄が多すぎる!

 

「殺意の中に理性を混ぜろ! ただの暴力では私は沈まんぞ!」

「ガッ……ア゛ァァァァ!」

 

 飛蘭の動きが変わった。

 今まで出鱈目な軌道だった拳に意志が見え始めた。

 肩、顔、フェイントをまぜ鼻の下の急所である人中。

 しっかりと急所を狙ってきたのだ。

 

「いいぞ! その調子で――ッ!」

「ボ ン゛ゲ ン゛ッ!」

 

 確実にガードしたと思った拳が腕をすり抜け私の水月に命中した。

 激痛で呼吸が止まり、致命的な隙を晒してしまう。

 

「ア゛ァァァァ!」

 

 足払いで倒され、あっさりとマウントポジションを取られる。

 大技を放つかと思ったが、慎重に仕留めに来てる、

 それでこそだ! 飛蘭は理性的に暴れろ! 

 

「ガァァァァァ!」

 

 拳が雨の如く降りかかる。

 胸が激しく痛む中、なんとか両手を上げてガードした。

 腕の上からでも関係ないと言わんばかりに拳が振り落とさせる中、私はなんとか呼吸を整える。

 水月――誰でも知ってる言い方なら“みぞおち”を打たれたのがまずかったな。

 流石の私も人体の急所は普通の人間と変わらないのだ。

 しかい通常とは違う拳の感覚だったな。

 腕をすり抜けた感覚といい、あれが有名な崩拳が。

 普通の拳と違い縦に打つ拳。

 有名だが飛蘭が使ってなかった技だ。

 今まで温存してたのだろう。

 それをこのタイミングで使うとは見事。

 

「まだ終わらんよッ!」

「ガッ!?」

 

 胸の痛みがマシになり、呼吸が整ったところで反撃に出る。

 勢いよく上半身を起こし飛蘭の鼻先に頭突き。

 怯んだところでマウントポジションから抜け出した。

 

「ア゛ァァァァ!」

 

 鼻から滴る血をまるで気にしない飛蘭が飛び掛かってきた。

 後ろには下がらない――そんな決意を込めて右足を下げ踏ん張りを効かす。

 正面から迎え撃つ!

 

「来いッ!」

「■■■■■■ッ!」

 

 声にならない叫び声が響く。 

 飛蘭が目を充血させ、口から泡を飛ばしながら殴りかかって来る。

 明らかに平常とは言えない飛蘭相手に私は容赦なく拳を振るった。

 

 

 殴って殴られ

 殴って殴られ

 殴って殴られ――

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「ガァァァ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぽん

 

 情けなくまるで力を感じさせない拳が頬に当たり、それを合図に間延びしていた意識が戻る。

 どれほど殴り合っただろうか。

 一時間経った気もするし数秒だったかもしれない。

 濃厚な時間が終わり、観客の声が耳に届く。

 

「あ~……どうやらここまでみたいアル」

「正気に戻ったか」

「ここまでやって負けるとか、千冬サン凄すぎるネ」

「もう少し殴り合いが続いていたら結果は逆だったさ。もっと体力を付けろ」

「考えとくヨ。ところで千冬サン」

「ん?」

「楽しかったアルか?」

「……あぁ、楽しかったよ」

「それは……良かっ……」

 

 飛蘭の身体がぐらりと揺らつき倒れ込んでくる。

 咄嗟に受け止め静かに地面に寝かす。

 血の匂が酷くなっている。

 出血したまま暴れたのだから仕方がないとはいえ、想像以上に血を流しているな。

 

「大丈夫なのか?」

「ははっ……ちょっと無理し過ぎたアル。もう指一本動かないし、血も足りないヨ」

「無茶をするからだ」

「下から見る千冬サンの笑顔は格別……」

「おい!?」

 

 飛蘭が満足気な顔で目を閉じた。

 呼吸が浅い!?

 この馬鹿はどこまで無茶したんだまったく!

 

「救護班は――直接出向いた方が早いか」

 

 飛蘭を抱きかかえ会場を後にする。

 死ぬなよバカタレ!

 

 

 




お姫様抱っこ(二回目)

モンド・グロッソ表

中国代表「お前は私を倒して英雄になるんだよォォ!(合法ドーピング&非合法針治療)」
日本代表「人間は素晴らしい!(満面の笑み&笑み)」


モンド・グロッソ裏

た「私だってあれくらい出来るし。余裕でちーちゃん楽しませてあげれるしって二回目ぇぇぇぇ!?」

し「どっちも凄すぎて感動通り過ぎて感無量。これは名勝負って二回目ぇぇぇぇ!?」




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。