俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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世界一周旅行は300万ほどらしい。
……過去にゲーセンにつぎ込んだ金戻って来ないかな(遠い目)


モンド・グロッソ最終日 強襲(した)

「ふぅー」

 

 冷やしたタオルを顔に当てて熱を冷ます。

 試合が終わった後は大変だった。

 私が飛蘭素を運び出した事で処置が早く出来たと中国のスタッフにお礼を言われた。

 今のところ命に別状はないらしいが、暫くは後遺症が続くらしい。

 あれだけ無理したらそれはそうだろう。

 

「今回はかなり無茶しましたねー」

「機体のダメージを気に掛ける余裕はありませんでしたから」

 

 ハンガーに吊るされたISに多くのスタッフが集まり部品の交換と補修作業をしている。

 前面部分などは装甲が砕けその下が丸見えだ。

 殴り合いに夢中になっていて気付かなかったが、私もかなり危うい状況だったな。

 

「全体の多くは交換になりますのでご了承くださいねー」

「それは仕方がないでしょう。流石に決勝をツギハギだらけの機体で戦う訳にはいきませんから」

「試合時間によっては完全な状態にするのは無理だと思いますがー、千冬ちゃんはどっちが勝つと思いますー?」

「ちゃん付けはやめてください。生身ならアーリィーが上だと思いますが、IS戦だとどう転ぶかは分かりませんよ」

 

 生身での強さが分かったととしても、ISの性能と武装次第で簡単に覆るからな。

 カナダ代表のアリアはなにをしてくるか分からない怖さがある。

 アーリィーが馬鹿正直に正面から挑んだらあっさりと喰われる可能性がある。

 まぁアーリィーは意外と強かな性格なので大丈夫だと思うが。

 

「千冬さんはこれからどうするんですかー? また寝るんですー?」

「そうですね――」

 

 このトーナメント戦、AグループとBグループでそれぞれメリットデメリットがある。

 Aグループ、私のメリットは決勝までの準備時間が長い点だ。

 仮にアーリィーとアリアの試合時間が30分、それにBグループの勝者に設けられている準備時間の30分をたして60分もの時間が私に与えられる。

 機体の整備と身体を休める時間と考えれば十分かもしれないが、これにはデメリットも存在する。

 あまりにも時間が中途半端なのだ。

 一時間は長いようで短い。

 中途半端な休憩時間は集中力を削ぎ、試合へのモチベーション低下を招く恐れがある。

 逆にBグループのメリットは試合が終わった時のテンション維持したまま決勝に挑める点だろう。

 30分という短い時間ではISの整備は不完全かもしれないが、連戦だからこそテンションも維持しやすい。

 休める時間が長いAか、それとも短いBか。

 どちらが有利かは戦う人間の性質次第だろう。

 私の場合はどちらでも構わないのは本音だ。

 なので、自分を崩さすにいることが大事だろう。

 

「寝る事にします。少しでも身体を休めたいので」

「こんな状況でも自分のペースを守る千冬さんは流石の胆力ですねー」

「ただ鈍いだけですよ」

 

 用意されたゼリー飲料を胃に流し込み、顔を冷やしていたタオルで目を覆い適当な機材に背中を預ける。

 泣いても笑っても次が最後。

 ISの事は専門家に任せ、私は自分の回復に努める。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「ではこれより解剖実験の名を騙った八つ当たりを開始します」

「切らないで! 八つ当たりで切らないで!?」

 

 こんくそがッ!

 縛り付けられたベッドの上で必死に手足を動かすが脱出できる気がしない。

 織斑千冬許すまじ!

 

「……タオルでちーちゃんの寝顔が隠れてる」

 

 千冬さんが気が利かないせいで束さんの顔が更に暗くなった!

 別に少し明るいくらい問題ないでしょ!

 寝顔見せろやてめぇ!

 

「人の話聞いて! まず落ち着こう! そして甘い物でも食べて落ち着こう! ね!?」

「女の子は血と甘い物があれば大丈夫。聖書にもそう書かれてる」

 

 もしゃもしゃ

 

 片手にメス持ちながらケーキ食ってやがるッ!

 

「うん、理解してるよ。私はとても冷静だ。早く処置しないとアレは死んでたかもだから、ちーちゃんの行動は一般常識的に正しい……私は……レイセイ……」

「メス持ったままブルブル震えてんじゃねーか!」

 

 やめろ! 震えるメスをこっちに向けるな!

 どうしようかねこれ、どうすれば切り抜けれるかねこれ。

 

「冷静だけど、まずは血を見て落ち着きたい」

「それ絶対テンパってるから! とても冷静じゃないから!」

「しー君うるさい(ふきふき)」

「ケーキでべた付いた指をズボンで拭くの止めてくれますぅ!?」

「綺麗にならない……水気が欲しいね」

「ウエットティッシュという選択肢はないんですかね!?」

 

 なんで俺の胸見ながら言ってんの? 血か? 俺の血で洗い流す気か?

 

「安心してよしー君、ちゃんと優しくしてあげるから。今なら体中を切り裂いた後にペロペロしてあげるよ?」

「えっ!? まぁ……う……」

 

 “うん”と言いそうになった自分の口が憎い!

 これは罠だ。

 だって今“切り裂いた後”って言ったぞ。

 ちょっと切る程度じゃないもの。

 切り裂かれるんだもの。

 無事に生きてるかも怪しい。

 

「……よし、持ち直した」

「むぅ」

 

 メス片手に拗ねた顔されても困るんよ。

 もう少し可愛いシチュエーションでその顔見せて欲しいな!

 

「血が見たい程度なら指先とかダメなの? それでチュウチュウするとかさ」

「は?」

 

 すっげー冷たい目で見られた。

 ぞくぞくするねぇ。

 

「指を切り落としてその指を食わせるプレイなら――むむ?」

 

 束さんの視線を宙をさまよう。

 なんか知らんがセーフッ! 今拷問ルートに入る寸前だった!

 

「このタイミングで代わりのサンドバックが現れるなんてしー君は運が良いね」

 

 サンドバックとな?

 ふーむ、束さんを狙う敵でも現れたのかね。

 

「モンド・グロッソは各国のお偉いさんが集まってるから、テロちゃんも狙ってくるんだよね」

「テロリストが来てるんですか?」

「そそ、でも各国の治安維持組織が頑張って排除してるから問題なかったんだけど――」

「それらの網を搔い潜って事を起こそうとする集団が居ると?」

「だねー」

 

 ふむ、もしかしてお馬鹿なのかな?

 モンド・グロッソ会場でテロとか命を捨てる行為じゃん。

 下手したらISに囲まれてミンチなんだけど……あ、それが狙いか?

 自らがISで殺され、それを観衆に見せる事で反ISの動きを大きくする狙いとか?

 テロリストの行動は凡人には読めんわ。

 そんな事になんの意味があるのかね……。

 

「しー君は地下排水路って知ってる? 馬鹿でかいトンネルみたいなやつ」

「テレビで見た事はありますね。男の子の心を刺激するロマン溢れるやつですな」

 

 テレビで見たのは大きいトンネルの先に馬鹿広い空間があって、何本ものコンクリートの柱が立っている光景だった。

 まるで映画に出て来る秘密基地感があるし、コンクリート一色の先が見えない穴は恐怖もあるが未知への興味も刺激する。

 あれはいいものだ。

 

「地下の排水路に目を付けたのは悪くない選択だよね。私が設置したカメラやセンサーがあるけど」

「もう詰んでるじゃん」

 

 どんな覚悟をしてテロをやる気は知らないが、踏み込んだ先は地獄だぞ。

 今すぐ逃げろ。

 

「潰して遊ぶなら個体数不明のレア個体より世界中どこにでもいる害虫だよね」

 

 めっちゃウキウキしてる!?

 テロリスト逃げて! 超逃げて!

 

「ところでしー君的に殺しってどんな感じ?」

「……おん?」

 

 適当に返そうと思ったら思いの外真面目な顔で俺を見ててびっくり。

 これシリアスターンですか?

 自分ベッドの上で鎖で縛られてる状態なんですが、この状態でシリアスするの?

 おっけがんばる。

 

「前に殺しをすると箒へのヘイトが高まるからやめるみたいなこと言ってませんでしたっけ?」

「納税してない非国民は野生動物と同じだと思うんだよね」

「それブーメランでは……えっ、束さん納税してるの?」

「へ? 無能な政治家どもに募金するほど私は優しくないよ?」

 

 背中にブーメラン刺したままキョトン顔してやがる。

 まぁいいや。

 束さん理論では、今来てるテロリストは完全に裏の人間だから始末してもなんの問題もないだろうと、そういうことだろう。

 わざわざ仕返しはしてこないだろうしね。

 

「てかすでに両手が赤く染まってそうですが、今更気にするんですか?」

「失礼な! お腹は黒くても両手は綺麗だもん!」

 

 訳:間接的にヤッたことはあるけど直接的にはない。

 って感じかな。

 この場面でこの話題……うーむ、今後の人生に影響しそうだ。

 ここで『別に好きにすれば』等の殺しに対して肯定的な意見を言った場合、俺の胃が死ぬ可能性がある。

 グロが嫌いな俺の前でスプラッタ映像量産しそうだもの!

 いやさ、本音を言えばテロリストなんてどうでもいいのよ。

 テロリストがどこかの施設を襲った結果その後軍隊に殺されたってニュースが流れるとするじゃん?

 それに対してなんか感情持つ?

 可哀想? ないない。そんな聖人セリフ絶対にでない。

 ざまーみろ? それもない。だってテロの被害に合った訳でもないのに憎む感情なんて湧かないし。

 ふーん(鼻ほじり)で終わるだろうさ。

 だけどここでそれは言えない。

 嬉々として俺の前に死体が積み重ねられそうだからだ!

 だがしかし、ここで命の大切さだとか上っ面だけの綺麗ごとを並べたら、束さんの好感度が急降下しそうでそれはそれでマズい事態になりそうなんだよなー。

 あぁ……面倒くさい。

 

「なんで黙ってるの?」

 

 沈黙は金、雄弁は銀って言葉がありましてね。

 

「無視するなら爪の間にメスを刺す」

「いやだな、ちょっと考えを纏めてるだけじゃないですか」

 

 沈黙は死でしたか。

 鎖で縛られてる状態で逃げ場はないが、ここは覚悟を決めよう。

 自分の胃は守る! 好感度を出来るだけ下げない!

 いくぞっ!

 

「殺し云々ってことは、今からそのテロリストを殺すんですよね?」

「そうだね。私とちーちゃんの晴れ舞台を邪魔するだけも極刑ものなのに、今来てる奴らは思想もなんもないただのクズだから消しちゃっていいかなって」

 

 テロリストにも色々あるもんね。

 ただのクズならいっか……とは言えないんだよなぁ。

 

「一つ確認したんですけど。束さんって自分の事をどう思ってます? 強者とか狩る側とかですかね」

「ん? そうだね、私は強者で狩る側だよ」

 

 よしよし、強者側を自認してるなら問題ない。

 言質は取った。

 

「あくまで俺の意見だけどいいですか?」

「もちろんだよ。私はしー君の意見だから聞きたいのさ」

「そもそも話さ、なんで殺さなきゃいけないの?」

「んー、それは私に手を汚してほしくないとか、そんな話題かな?」

 

 唇に指を当てつつ軽く首を傾げる。

 可愛い仕草だが目が笑っていない。

 つまらない事を言ったらあの指が腹に突き刺さりそうで怖いです。

 だけどまぁ、俺がそんな見え見えの地雷を踏む訳がない。

 俺が地雷を踏むときはそうした方が面白いと思った時だけだ!

 

「いやだって、殺しってクソダサくない?」

「……へ?」

「だって殺せるって事はさ、相手が自分より弱いって事だよね」

「そうだね」

「つまり弱者イジメだね」

「うん……うん?」

「格下をイジメるとかどう見てもクソダサ行為だと思うんだ」

「そう……だね」

「天下の篠ノ之束が弱い者イジメとか恥ずかしくなの?」

「それは……」

 

 困ってる困ってる。

 悩め若人よ。

 一般人なら人生の覚悟を決める殺し合いも天災にとってはただの弱い者イジメと知れ!

 そして下手な言い訳をすれば更に俺は攻めるぞ!

 

「強者ぶってるクセに足元のアリが癇に障るとかないよね?」

「や、でも羽虫を払う程度の事なら普通じゃん」

 

 よし、攻める隙を見つけたぞ! ここがチャンス!

 ふっふっふっ、『羽虫を払う』なんて言い方はラノベで良く見るセリフだ。

 盗賊を皆殺しにした主人が言ったりするよね。

 だけどね、それで強者ムーブしていいのは創作の世界だけなんだよ。

 

「あのさー束さん、普段他人を見下して強者アピールしてるクセになに言ってんの? 本当に強い人間はな……虫に襲われないんだよ!」

「なん……だと……!?」 

「想像してごらん、ジャングルの奥地を無防備に歩く千冬さんを」

「むむっ」

 

 束さんが素直に目を閉じてくれた。

 そうだいいぞ。

 うっそうとした木々、肌にまとわりつく熱気と湿った空気。

 どこからもともなく聞こえてくる鳥の鳴き声。

 そんなジャングルの中を無防備に歩く千冬さん――

 

「想像の中の千冬さん、虫に襲われてますか?」

「まったくだね! 蚊に刺されてるイメージさえできないよ!」

 

 束さんの目がカッと開く。

 だよね、想像できないよね。

 

「そもそも強者は虫の方から避ける。羽虫を払う? 虫に襲われる程度の人間が強者ズラしちゃダメだよ。千冬さんだったら姿を見せた瞬間に虫が逃げるだろうけど……束さんは違うのかな?」

「……くっ、ズルい言い方をっ」

 

 気付いたかね束君。

 虫がたかって来た=虫が無防備に近付く程度の人間なんだよ。

 羽虫を払った程度だとか言うけど、ちょっと強者オーラ足りないのでは? そんなざまでデカい顔するとかないわー。 

 

「あ、でもほら火の粉を払うって言うし……」

「はぁ? 火の粉を払うって防御反応じゃん」

 

 これも異世界主人公あるあるのセリフだよね。

 襲われて返り討ちにした時とかに言うわ。

 だけどさー、それってつまり反射的に身を守ってる訳で、ビックリして手を出しちゃったと同義なんだよなー。

 少なくても格好つけて言うセリフではないよね。

 

「想像してごらん、テロリストに占拠された燃え盛るビルの中を歩く千冬さんの姿を」

 

 ハリウッド映画であるシーンだ。

 ダイハードとかが似合う背景だよね。

 さて、火事真っ最中のビル内を歩く千冬さんだが――

 

「火の粉振り払ってる? ビビッてガードしちゃってる?」

「ノーガードだね! 威風堂々と歩いてるよ!」

 

 だよね。

 俺だったら口にハンカチを当てて必死に火の粉から逃げるだろうけど、千冬さんはそんな事しないよね。

 火の粉から逃げる為に無意識にでも防御反応が出るザコはとても強者と呼べないだろう。

 

「もしかして束さんはテロリストにビビッてるの? 恐怖心に駆られてやられる前にやれ精神なら止めないけど」

「んな訳なし! この私が有象無象にビビるとかないよっ!」

「ならなんの為に殺すの?」

「……そんなに理由が大事?」

「大事だね。箒が襲われた、一夏が傷付けられた、そういった理由――怒りでの殺しなら俺も納得できるんだよ」

 

 大切な誰かの為への怒りなら理解はできる。

 だけど今回は違う。

 

「束さんが相手を殺す理由ってさ、“面倒くさい”から殺すだよね?」

 

 篠ノ之束は凡人と違うのだ。

 凡人なら殺さたくないから殺す。

 ってか身を守る為にそうせざるを得ない。

 

「殺しは弱者に許された特権だ」

 

 戦争には色々と種類がある。

 特に昔多かったのは侵略戦争。

 土地と物的資源、人材資源を確保する為の戦いだろう。

 数多くの人間が殺されたと思うが……はて、なんで殺す必要があるのかね?

 敵兵を全て無力化し捕え、奴隷として使い潰す方が有益だろう。

 だけど相手を殺さずに勝つ事ができない人は殺すしかないのだ。

 

「人はなにかを得る為、守る為に人を殺す。だけどそれは、そうしなければ結果が残せない弱者の行為なんだよ」

 

 俺だったらテロリストに襲われたら相手を殺す。

 殺さなきゃ殺されるし、逃がせば復讐されるかもしれないからだ。

 

「束さんは強者だ。命の危機をがある訳でも復讐が怖い訳でもない。なのにどうして殺すなのか……殺さない方が面倒だからだよね?」

「……はいそうです」

 

 よし! 認めさせたぞ!

 人間とは死にやすい生き物だ。

 首の骨が折れれば死ぬし、大気中の酸素の濃度が変わったら死ぬし、なんらならその辺のキノコを食べても死ぬ。

 篠ノ之束にとって殺さないで制圧する方がはるかに手間なんだろう。

 

「戦闘不能にする為に四肢の骨を折るなら四手、殺すなら首の骨を折るだけだから一手。束さんが面倒だと思う気持ちは理解できる。だけどさ、束さんが弱者の特権振りかざすのはいかんでしょ」

「だって相手するのは面倒だし、手加減するの怠いし、いちいち生死を気に掛けるのかったるいし……」

 

 唇尖らせてどんだけ愚痴るんだよ

 束さんクラスになるとテロリストを相手にするのも大変なんだな。

 

「面倒だからと言って気軽に人を殺す人間はただのサイコパスです。そんな人間とは今後の付き合いも考えますし箒にも会わせません。いいですね?」

「……あい」

 

 不承不承と言った感じだな。

 つまらなそうな顔してる。

 少しばかし言い過ぎたか。

 

「束さんが急に殺しについて話たのって、今後の事を考えてでしょ?」

「気付いてたの?」

「急な話題だったからね」

 

 いくらテロリストが現れたからと言っても話題のチョイスがおかしい。

 それでなんとなく束さんの狙いが見えたよ。

 

「今後も俺が束さんの側に居るならそういった場面があるかもしれない。そんな時の為に早めに俺の反応を知っておきたかったんでしょ?」

「正解。ぶっちゃけしー君の反応は読めなかったから丁度いい機会だから揺さぶってみようかと」

 

 読めないって事はないだろ。

 反対するに決まってる。

 例え相手が存在価値がないような人間だとしても、俺は殺すなと言うぞ。

 自分の胃を守る為にな!

 俺の目に見えない場所ではどうかって? 好きにしろよテロリストの人生に興味はない。

 

「まぁしー君のスタンスは理解できたよ。強者は強者らしく振舞え、恥ずかしい真似はするなってことでしょ?」

「そんな感じだね」

 

 ザコ蹂躙が許されるのは創作世界だけです。

 現実ではひたすら恥ずかしい行為だ。

 プロの格闘家が不良小学生軍団を薙ぎ払って強者ムーブしてたら見てる方が恥ずかしいだろ? それと同じ。

 

「でもさ、そもそも相手から喧嘩売ってきてるんだし手加減する必要なくない? 向こうも殺されえる覚悟があって攻撃を仕掛けてきてると思うんだよね」

 

 これもまた異世界転生主人公あるあるなセリフだな。

 命乞いをする暗殺者に言ったりするよね。

 だがそれもまたリアル世界ではクソダサです。

 しかしま~だ言い訳を並べる気かこのやろう。

 どんだけ手加減が面倒なんだよ。

 束さん的には、毒ガス流して終わり! みたいにしたいんだろうな。

 下手に逃げしてまた来られたらウザいだろうし。

 だけど俺は口から血を吐きながら苦しむ人間なんて見たくない。

 それにもしその中に美女テロリストが居たら一生モヤモヤして生きる事になりそうだし。

 

「は? 殺される覚悟? んなもんある訳ないじゃないですか。あのさー、誰だって自分の命は安全圏に置いて一方的に攻撃したいに決まってるじゃん。なに、任侠映画でも見て影響されたの?」

「いやだって殺し殺されの関係って言うか……」

「もしかして人間って生き物を過大評価してない? あ、性善説推しなのか。子供の夢を壊すようで悪いけど、人間ってもっと汚い生き物だよ?」

「まさかこの私がそんな説教されるとはっ!?」

 

 憤慨してるとこ悪いけど、それが真実だからね。

 仮に終末戦争で世界が荒れて盗賊になったとしても自分が殺される覚悟なんて絶対にしないし、どれだけ楽に略奪できるか躍起になると思う。

 殺される覚悟とかぷぷぅー、んなのないない。

 

「もういいかな? 束さんがどんなに殺す理由を正当化しようと頑張ろうと、俺は全て論破する」

「ぐぬぬ」

 

 束さんのぐぬぬ顔で酸素が美味い!

 そろそろ鎖外してくれないかな? 勝利の美酒が飲みたいです。

 しかし束さんも馬鹿な勝負を挑んだものよ。

 殺しの正当性とか、法律を無視するなら答えが出ないものだ。

 だから束さんがどんな理屈をこねようと、『でもそれってダサいよね』で勝てる。

 心情の問題だな。

 弱い者イジメ好きで弱者の特権を振りかざすなんちゃって強者だと思われてもいいなら殺せば? と問われれば言い返せないのだ。

 終わってみれば俺の圧勝だな。

 ふふん。

 

「ふっー、うんわかった。私の負けだよしー君」

 

 ため息を一つ、その後は俺の首に首輪を一つ。

 ……待って?

 

「あの、束さん」

「この天災に勝つとは流石だよしー君。うん、本当に尊敬する」

 

 絶対に嘘だ! してやられてムカついただけだろ!

 

「私に勝てるしー君なら――テロリストも余裕だよね?」

「ちょまっ」

 

 手足の鎖を外され首の鎖を引っ張れた俺の身体はズルズルと床を滑る。

 もしかして俺をテロリストに当てようとしてない?

 小学生VSテロリストとか無理だから!

 俺はチート持ち転生者じゃなんいだぞ!

 

「この美人でスタイル抜群の私がテロリストに捕まったらどうなるか想像できるよね? しー君は体を張ってでも私を守る義務がある」

「命懸けで戦ったらフラグ立つの? なんかエロいイベント起きるの? キュンとして惚れたりするの? しないよね。対価もなしで戦う訳ないじゃん、馬鹿なの?」

 

 いくら好感度を上げてもイベントの類が一切発生しない攻略不可なサブキャラがなんか言ってますわ。

 篠ノ之束はテロリストから助けたくらいでフラグ立つ訳ないんだよなー。

 異世界チョロインに転生してから言いやがれ。

 

「そんなんだからしー君はモテないんだよ。対価がないと女性の為に戦えないとかゲスだと思う」

「対価もなしにテロリストと戦えと言う方がゲスでは?」

 

 口喧嘩は今の所は互角の戦いだろう。

 しかし俺の身体は未だにズルズルと引きずられている。

 この口喧嘩まったく意味がない! 

 時間稼ぎにもならんわ。

 

「ぶっちゃけしー君はさ、テロリスト相手ならどの程度までが許容範囲?」

「手足折って放置しとけ。直接トドメを刺さなければセーフ」

「例えば今回だと地下空間に放置で助けがこなきゃそのまま野垂れ死ぬけど、それはいいんだ?」

「野垂れ死になら束さんには責任ないかなって思うんで」

「責任?」

「そう、責任」

 

 社会人になったら勝手に背中に乗ってる厄介な存在です。

 社会人の多くはこれを毛嫌いしています。

 最近の若い子は上昇意識はないって言うけれど、こっちから言わせるならじゃあ給料増やせやって話だよ。

 部下を10人持つ管理職になったとして、責任10倍で給料1,3倍じゃ割に合わないにもほどがある。

 会社で上に行きたいやつなんて、はなから部下の責任を取るつもりのないダメ人間か、責任の重さを理解してない馬鹿か、責任大好きのマゾだけだよ。

 

「大人のテロリストなら死はそいつの責任ですよ。そんな仕事を選んだ責任、部下を見殺しにする組織を選んだ責任、いざって時に助けてくれる友人関係を築かなかった責任、そんな諸々の理由から即死させなければオッケーです」

 

 だから放置して死んだらそれは自分の責任って事で。

 

「ふーん、そんなもんなだ」

 

 ま、正直に言えば束さんの手を赤く染めて欲しくないって個人的な意見もあるんだけどね。

 束さんの手はいつでもスベスベであって欲しいじゃん。

 恥ずかしいから絶対に言わないけど。

 うーん、束さんの為にらしくもない事を多く語ってしまった。

 これは新たな黒歴史ですわ。

 

「なんでニヤニヤして……はっ! まさか鎖で引きずられてなにか目覚めたんじゃ!?」

「いや違うから」

 

 今の俺に楽しんでる余裕なんてないです。

 違うタイミングだったら喜んだかもですが。

 

「さて、冗談はこのくらいにして――」

「あ、冗談だったんムグ」

 

 猿轡? なんで猿轡?

 

「流石にしー君をテロリストと戦わせるなんてしないよ。近くには居てもらうけどね!」

「ムガガッ!?」

 

 そして頭から袋を被せられて視界を奪われたんだが?

 読めない……俺には束さんの考えが読めない!

 

 テロリスト+猿轡+目隠し

 

 答えが出ないよこんな方程式!

 マジでなにが目的だ!?

 

「いやさ、テロリストって言っても生きてるんだし、そう簡単にコロコロするのは可哀想かなーって」

「ムグッ!?」

 

 今までのやり取りはなんだったの?

 まさか茶番だった……?

 

「しー君を人質にして武装解除を命じて、受け入れたら半殺し、しー君ごと撃とうとしたら7割殺しって事で」

「ムガーッ!」

 

 子供を人質にテロリストに武装解除要求とかアホなの!?

 普通そんな事しないだろ! あ、天災じゃったか。

 

「私に襲われたテロリストがどんな顔するのか、想像するだけで楽しいね!」

「ムムッ!」

 

 束さんの満面の笑みが脳裏に浮かぶ。

 声だけで凄く楽しそうな雰囲気が伝わるよ。

 

 かくして、猿轡に目隠し状態の俺は束さんと一緒にテロリスト退治に向かうのでした。

 

 織斑千冬絶対に許さない同盟募集中!




二人のやり取りは茶番です(力説)


テロリスト強襲パートダイジェスト

た「動くな! 武器を捨てなければこの子供を殺す!」
し「ムガ―!」
テ「篠ノ之……はかせ? 全員構え!」
た「投降の意志なしと判断。子供を見殺しにする外道に天誅を降す!」

 以下フルボッコ
 
 S級冒険者がゴブリンを倒すシーンなんて誰も興味ないよね。
 なおテロリストは半殺しで地下空間に放置されました(生死不明)
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