俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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寝ようと思えばすぐ寝れて、起きようと思った時間に起きる。
自分の身体にそんな性能が欲しい。


ブリュンヒルデな一日

 もう少し、少しで私は自由になる。

 ストッキングに脚を通しながら自分に言い聞かせる。

 我ながら情けないと思うが、そうでもしなければ自分を保てない。

 寝てる一夏の顔を見た後、テーブルの上にそっとお金を置く。

 

 ……この瞬間が一番心にくるな。

 

 学生時代から経験してるが慣れる気配は一向にしない。

 一夏が起きた時、そこには私の姿はない。

 誰も居ない部屋でテーブルに食費が置いてある生活……一夏はきっと悲しんでるだろう。

 本人がそう言った事はないが、私はそう思っている。

 一夏を起こさない様にそっと玄関のドアを閉め、朝の空気を肺に取り込む。

 夜が明け始めたばかりの空気は身を引き締めてくれる。

 うん、今日も良い朝だ。

 モンド・グロッソが終わってから十日が経過した。

 日本代表である私こと織斑千冬は現在10連勤中でる。

 モンド・グロッソが終わりやっとゆっくり出来るかと思いきや、テレビ出演に雑誌取材、二次移行のデータ取りと仕事漬けの毎日。

 結局は一夏と一度も出掛ける事なく今日まできた。

 だがそれもやっと終わる。

 午前の仕事を終わらせればその後は休みなのだ。

 俗に言う半ドンってやつだ。

 そして明日は丸一日休み。

 一日半の休みが私を待っている。

 ちなみに明日は全ての時間を一夏に使うつもりだ。

 

「おはようございます」

「おはようございます織斑さん」

 

 家の近くに停まっていた車に乗り込み朝の挨拶を交わす。

 運転手は政府の人間である。

 これでも一応はVIPらしく運転手付きの生活を送っている。

 ……モンド・グロッソで優勝してから下手に外を歩けなくなったからな。 

 

「今日は朝のニュース番組でしたね。もうテレビには慣れましたか?」

「生放送は相変わらず緊張しますよ」

「ははっ、ブリュンヒルデといえ慣れませんか」

「お恥ずかしい限りです」

 

 今までテレビで見ていた存在と同じ空間に居るのだ、いくら私でも多少は緊張する。

 それに日本代表という顔もあるし、もしかしたら柳韻先生や箒が見てるかもしれないと思うと自然と力が入ってしまうのだ。

 だが緊張する最大の理由は束だ。

 もしかしたら、万が一にでもだが……束が乱入してきそうで怖いんだよ。

 束は『ちーちゃんと一緒に生放送で映ってラブラブアピールしたかった』とか言って突撃してきそうだろ? だから油断はできない。

 それと外での撮影時にキャスターの後ろに居る一般人……あそこも束が混ざってそうで怖い。

 そんな訳で撮影は毎回は緊張しているのだ。

 居ても居なくても私にストレスを与える存在、それが篠ノ之束だ。

 だがこの緊張は悪くない。

 なにせ気が緩まずに済むからな。

 例えば今みたいな――

 

「ところでいつもと道が違う様ですが?」

「え? えぇ、いつもの道は工事中らしくて」

「……そうですか」

 

 普段とわずかに違う運転手の様子に気付ける。

 どうも車は海岸近くの倉庫街に向かっているようだ。

 敵意はなし、発汗が見られるな……微かに緊張しているのだろう。

 これはやられたかな? テレビの撮影に間に合えばいいのだが。

 目を閉じ意識を集中、カメラの視線は……ないな。

 隠しカメラは厄介だが、盗聴だけならなんとかなる。

 バックから紙とボールペンを取り出す。

 

【人質でも取られましたか?】

 

「っ!?」

 

 バックミラーに写る様にメモを見せると、運転手の顔色が分かりやすく変わった。

 いつかはこんな事が起きるかもと思ってはいたさ。

 

【そのまま何も喋らず。盗聴はされてますか?】

 

「(コクコク)」

 

 やはり盗聴はされてるか。

 

【敵の正体や人数は分かりますか?】

 

「(ブンブン)」

 

 なるほど、敵の人数が分からないのは面倒だな。

 狙いは……このタイミングだと私の専用機、暮桜だろう。

 モンド・グロッソでISの性能を見せつけ、そこでIS殺しの単一能力の登場。

 どこの馬鹿かは知らんが欲を出したに違いない。

 ところでそんなに泣きそうな顔をしないでほしい……私の巻き添えで家族が危険にさらされたんだ、罪悪感が凄い。

 まさか運転手の家族が狙われるとは……今度からは電車通勤にするべきか?

 

「すみません、ここで降りて下さい」

「分かりました。貴方はなにがあっても車から降りないでください」

「は、はい」

 

 車から降りて周囲を見渡す。

 やはり海岸近くの倉庫街か、ここで私を攫って船で逃げる気だな。

 

「よく来たな織斑千冬。自分の状況は予想がついてるか? 大人しく着いて――」

 

 黒服サングラスの男が三人。

 懐に不自然な膨らみ――銃を所持。

 歩行のバランスが良い――なんらかの格闘技を学んでいる。

 プロだな。

 ……そう言えばグラサンは元気だろうか?

 つい思い出してしまう。

 

「おい、聞いてるのか?」

「あぁすまん。まずはお前が死んでくれ」

「は?」

 

 三人が呆けた顔をした瞬間、一番最初に話掛けた来た男の横に移動。

 

 コキッ

 

 両手で首を回す。

 男の首が不自然な方向を向き、そのまま崩れ落ちた。

 

「はぁ?!」

「てめっ――!」

 

 残り二人が反応するが、遅い。

 

 ペキッ!

 

 銃を取り出そうとした男の肩に手刀を落とす。

 鎖骨が嫌な音を立てて折れた。

 

 ボキッ!

 

 飛び掛かろうとした男にローキック、足の骨が砕けた。

 二人が痛みで硬直した隙を見逃さず、手刀を男の無事な方の肩へ、足を押さえて倒れている男の肩を外す。

 これで三人の無効化が成功。

 視線は……感じない。

 この場を監視している人間がいたら厄介だったが、どうやら場に居る敵はこの三人だけらしい。

 ここからは時間との勝負だ。

 

「あ……ぐっ……」

 

 まずは鎖骨を折った方からだ。

 

「人質はどこだ」

「っ……誰が教えるか……」

「拷問は苦手なんだ。出来るだけ早めに話してくれ」

「はっ! お嬢ちゃんにそんな真似できんのかッ!?」

 

 小馬鹿にした笑いだ。

 そこに倒れてる首が曲がった男が見えないのか?

 

「加減が難しいんだ……話せば命だけは助ける。では始めるぞ」

「やってみやが――ギャァァァ!」

 

 服の上から肉を指先で抉ってやる。

 普通ならただの皮膚を摘まむ程度だが、元々の握力に飛蘭から習った呼吸法で出来る荒業だ。

 予想以上に五月蠅いのでスーツを引き千切り口に詰め込む。

 さて続きだ。

 

「―――――ッ!?」 

 

 肉を指で抉り取る度にもごもごと悲鳴が上げる。

 10カ所ほど抉った所で口の詰め物を取り出す。

 

「話す気になったか?」

「誰が……話すか……ッ!」

 

 ふむ、まだ睨む元気があるか。

 なら少し抉ろう。

 もう一度口を閉じさせて――

 

「――――ッ!!!!!」

 

 足をバタつかせ逃げようとする男を押さえつけ、更に肉を抉る。

 腹の肉、足の肉、背中の肉をブチブチと指で抉る。

 大きな血管を傷つけないよう気を付けてるが、それでも負傷箇所が増えれば出血で命が危ない。

 そろそろ降参してくれないかな。

 再度口を自由にする。

 男は荒く呼吸を繰り返し息も絶え絶えだ。

 

「見えるか? お前の肉が」

「も、もうやめ……」

 

 血が付着したピンク色の肉片を見せてやる。

 すると男は目に怯えの色を浮かべ懇願してきた。

 いけるか?

 

「なら言え。人質はどこだ」

「そ、それは……」

「ふむ、そのままでは出血で死にそうだな。丁度良い、ここに血がある。補給しろ」

「はぐっ!?」

 

 無理矢理口を開けさせ手を突っ込んだ。

 必死に抵抗するが、容赦なく喉の奥に肉片を詰め込む。

 私にとって一般人の命が最優先。

 残念ながら関係ない人間を巻き込む様なクズにかける情けはない。

 もし人質が束だったら私だってもっと下手に出てたさ。

 

「――かひゅ」

「ん?」

 

 男の目が裏返り動きが止まる。

 見事な白目だ。

 ……演技か?

 

「起きろ」

 

 頬を張り、気を失ってるフリをしてるか確認。

 これは見事に気絶してるな。

 ……やりすぎたか。

 だから拷問は苦手なんだ。

 心が折れるタイミングが分からん。

 まぁもう一人いるし、焦る必要は――

 

「次はお前だ。面倒だから出来ればさっさと教えてくれ」

「人質は一人、そこの運転手の妻です。場所は六番倉庫で仲間は後5人います。四人は人質と一緒に、残りの一人は船で待機してます。船は青い外装のクルーザーです」

 

 なんが急に語り出した。

 あぁ、倒れ込んだ位置が悪かったのか。

 この男の倒れた場所は最初に倒した男の目の前。

 首がヘンな方向を向いてる男の目がジッと自分を見つめ、横では仲間の悲鳴と肉が抉られる音。

 間接的に拷問したようなものか。

 手間が省けてラッキーだ。

 

「あの、命だけは……」

「いいだろう。仲間との連絡手段はあるか?」

「彼が携帯電話を――」

 

 最初に仕留めた奴か。

 三人組のリーダー役といったところだったのだろう。

 胸元を探って携帯電話を取り出す。 

 

「あった、お前はもう寝てろ」

 

 用がなくなったので首に手刀を一撃。

 しっかりと意識を刈り取る。

 

「あの……殺したんですか?」

 

 運転手が車から降りてきて恐る恐る聞いてきた。

 

「殺してない。だからこの場を頼んでいいか? 応援を呼んでこの男たちを回収させてくれ」

「え? 生きてるんですか? そこの人なんて首がどう見ても……」

「首の関節を外しただけだ。今はショックで気絶してるだろうが、起きれば喋り出すさ」

「……了解しました」

 

 震えてるのはこの場の惨状に対してかそれとも私にか。

 言い訳するが、私は普段はもっと大人しいからな? 首の骨だって折ってないし、肉を抉ったがそれは指先でほんの少し。

 三人とも治療すれば問題なく日常生活を送れるレベルのケガだ。

 

「今から貴方の奥さんを助けに行ってきます。もし失敗したら私を恨んでください」

「……自分ではどうしようもありません。それに織斑さんが身柄を差し出しても戻ってくるとは限らない。よろしくお願いします」

 

 私の確保が失敗したと気付いたら人質がどうなるか分からない。

 そして私の身やISを渡しても人質が解放されるとは限らない。

 ならば奇襲しかあるまい。

 最短最速で人質を奪還する!

 

 足早に移動を開始。

 聞き出した倉庫に向かう。

 目標の倉庫が見えたので側面から接近。

 壁に耳を当て中の様子を探る。

 

『チッ、いつまで待てばいいんだよ』

『確かに少し遅いな。相手が暴れてるんじゃないか?』

『身の危険を感じてISを使用してた可能性もあるな』

『おい、一度連絡入れてみろ』

 

 気配は五つ。

 一人は人質か。

 ……一番小さく弱いのが奥さんか。

 全員が同じ場所に居るな――人質を囲む様に陣取っている。

 これは好都合。

 だが人質を確実に助ける為に中の様子をもっと詳しく知りたい。

 

「腕部展開」

 

 相手の気配を読み、最適な場所を探し――ここだな。

 右腕だけにISを纏わせる。

 使うのは指先のみ。

 素早く穴を開けるために腕を捩じり回転力を加える。

 

「ふっ!」

 

 指のみを使った抜き手。

 それが倉庫の壁に五百円玉ほどの穴を開ける。

 よし、音もほとんどしてない。

 成功だ。

 

「どれどれ」

 

 穴から中を覗き込む。

 黒服の男が四人、人質は倉庫の中心で椅子に縛られていた。

 目隠しされ口にはタオルを咬ませられている。

 乱暴された様子がないのが救いだ。

 視線を上げて天井を観察。

 倉庫だけあって天井が高いな。

 これで二階建て、三階建てと階層があったら厄介だったが、これなら問題ないだろう。

 

「暮桜」

 

 ISを全身に纏う。

 当たり前の話だが、ISの無断使用は禁止されている。

 だが人命救助という理由があり、尚且つ国家代表という立場がある。

 ISを取り上げられるなどにはならないだろう。

 始末書は書かされるだろうがな。

 

「この辺――だな」

 

 見覚えた人質の位置の真上まで飛翔する。

 

 Piiiiii

 

 ここで着信音。

 しびれを切らせて連絡を取ってきたか。

 ナイスなタイミングだ。

 

『おい、そっちはどうなってる』

 

 通話ボタンを押すと不機嫌な男の声が聞こえてきた。

 

「三人とも死んだが?」

『はぁ!? 女の声……お前まさかっ!?』 

 

 最後まで聞かない。

 途中で携帯電話を放り投げ奇襲の準備に入る。

 人質の場所まで一気に降下を開始。

 屋根を突き破り倉庫内に突入する。

 眼下には人質と男たち。

 砕けた屋根の破片や鉄骨が床に落ちるよりも早く暮桜は着地する。

 

「なっ!?」

 

 全員が驚き固まる中、左腕で人質を抱き雪片を一閃。

 男たちは太ももから血を流し倒れ込む。

 これでまともに動けまい。

 椅子ごと彼女を抱え天井に開けた穴に向かって飛び、外に出る途中で適当な破片を拾う。

 さて、私を連れ去るなら近くに置いてあるはず。

 青い外装のクルーザーは……あった。 

 一番近くの船着き場を見るといくつもの船があったが、青い外装の船は一艘だけ。

 ハイパーセンサー使用、望遠モード……クルージングには似合わないスーツの男が一人乗っている。

 間違いないだろう、あの容姿で釣り人はあるまい。

 倉庫の破片――鉄くずを握って振りかぶる。

 目標は直線距離で300メートルといったところか。

 運が良ければ死なないだろう。

 

「ふんっ!」

 

 投擲された物体は黒服目掛けて真っ直ぐ飛び、その腹に直撃した。

 男は倒れ伏しピクリとも動かない。

 あばら骨がイッたか? まぁ死んではないだろう。

 次は人質を解放しなければな。

 運転手の旦那さんの元に向かう。

 男たちに変わりはない。

 流石にまだ応援は来てないか。

 

「戻りました」

「織斑さん!」

 

 着地しISを解除。

 駆け寄って来る旦那さんに奥さんを彼に渡す。

 

「無事だったかっ!?」

「んむっ!?」

 

 椅子に縛られてる彼女のロープを必死に外そうとしている。

 うーん、だがこれは……私が言わなければならないだろうな。

 

「待ってください。ロープを外すのは問題ありませんが、目隠しなどはそのままに」

「何故ですっ!?」

「この場の惨状を奥さんに見せるのはまずいです。その方は国防に携わる方ではないですよね?    下手に見せれば事情聴取が長引くことになるかと」

 

 なにせこの場所は首が変な方向を向いた奴や、血塗れで白目を剥いてる奴もいる。

 一般人に見せていいものではない。

 それに他国の工作員の顔を見せるのも良くないだろう。

 

「それは……そうですね。織斑さんの言う通りです。すまない、暫くはこのままでいてくれ」

「……助けて頂いたのは理解しております。大人しくしてますよ」

 

 口枷を外された奥さんは落ち着いた声でそう答えた。

 誘拐されたのにも関わらず気丈な方だ。

 素晴らしい女性だな。

 

「応援はどれくらいで来ると?」

「もうすぐだと思いますが……あ、来ましたよ!」

 

 遠くから黒塗りのバンが3台。

 まずは残りの敵の居場所を教えて回収してもらい、それから――

 

 時計を見る。

 

「ダッシュで行けば本番は間に合うが、その前の打ち合わせは無理だな」

 

 朝から人を斬りその足でテレビの生放送。

 私の人生もだいぶ変な事になってきたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テレビの出演は無事に終わった。

 モンド・グロッソでの事を聞かれるのは構わないが、なぜ政治問題を私に振る。

 どう答えろと? 失言狙いなのかと疑ったぞ。

 どうもただ私に喋らせたかっただけらしい。

 私のセリフが多いと視聴率上がるとか嘘だろお前。

 とまぁ色々あったがなんとか乗り切った。

 そして次は――

 

「モンド・グロッソでは他国の国家代表とお話をしてる姿が見られましたが、プライベートでのお付き合いはあるのですか?」

「連絡先は交換しましたが、プライベートの付き合いはありません」

「特に仲が良い人などはおられますか?」

「イギリス、イタリア、中国、アメリカの国家代表とは親しくなりましたね」

 

 モンド・グロッソが終わってからのお約束、インタビューである。

 有名どころからマイナーな雑誌まで、多くの雑誌記者と会った。

 言いたい事は一つだけ、私は同じ話を何回すればいいのだ。

 どの雑誌でも質問は似たようなものだ。

 正直、最近は少し辟易してきた。

 

「では次は表紙に使う写真撮影を」

「別に私を表紙に使わなくともいいのでは?」

「織斑さんのスーツ姿を表紙にすると売り上げが3倍なんですよ!?」

 

 顔がマジだった。

 鬼気迫る顔である。

 いやしかし3倍か……なぜに3倍?

 興味がない雑誌を買ってどうするんだか。

 

「あ、その顔は何故だから分からないって顔ですね。いいですか、ファン心理って凄いんですよ? 雑誌の表紙を切り取って保存したりとか普通ですから」

 

 わざわざ保存するのか。

 私には理解できない心理だが……束あたりはファイリングしてそうだな。

 

「織斑さんはモンド・グロッソで優勝してからテレビに雑誌に引っ張りだこですけど、もう慣れました?」

「テレビはまだですが、雑誌は流石に慣れましたよ」

 

 生放送は未だ緊張感があるが、その他は問題ない。

 何連勤してると思ってるんだ。

 嫌でも慣れるわ!

 ……一つだけ慣れない事がある。

 それは振り込まれたギャラを受け取る時のなんとも言えない感情だ。

 数万なんだが……朝刊配達のバイト時と変わらないんだよなぁ。

 分かるか? 1~2時間の受け答えと写真撮影=朝3時起きの新聞配達の月給を同じなんだぞ?

 日本の労働基準はなにか間違ってる気がする。

 給料明細を見てインタビューの報酬を見ると無駄に悲しくなるんだよな。

 

「いくつかのパターンを撮りますけど、まずは足を組んでもらっていいですか? 織斑さんが足を組むと売り上げが倍になるんですよねー」

 

 カメラマンが撮影の準備をする中で記者の女性が呑気に笑う。

 そうか、足を組むと更に上がるのか。

 

「もしくは後ろを振り向いたポーズですね。ヒップをグッと前に出してもらえると更に倍です!」

 

 お尻を突き出したポーズをしろと? この私に?

 大丈夫、これも仕事だ。

 全ては仕事……一夏を養う為にッ!

 

「こんな感じか?」

「素晴らしい! さぁ、じゃんじゃん撮ってください!」

 

 腰を手を当て振り返るポーズをする私にフラッシュの雨が降り注いだ。

 これは仕事これは仕事これは仕事これは仕事――ッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わった」

 

 午前の仕事が終わったのに疲れ具合が半端ない。

 工作員を倒してテレビの生放送出てインタビュー受けて写真撮影。

 これが私の日常っておかしくないか?

 なんで乙女の日常に朝一から工作員退治が入ってるんだよ。

 なんで年頃の女性が朝一から人間の肉を抉って拷問してるんだよ。

 流石に疲れた……。

 だがそれも終わりだ。

 これで1日半は私の自由。

 明日は一夏の為に使うとして、今日は自分を癒す時間だ。

 まぁこれから会うのは束と神一郎なので、下手したらストレスが増えるかもしれない。

 私が望むのはただ一つ。

 神一郎ッ! お前が酒を持って来てるのを期待してるぞッ!

 いやほんとに頼む。

 そんな事を願いつつ私は一人で山を登る。

 目指す場所は山の中に作られた地下秘密。

 行くのは久しぶりだ。

 木々に隠された分厚い鉄の扉を開き中に入る。

 足跡が二人分あるな、すでに来てるようだ。

 階段を下っていくと徐々に声が聞こえ始めた。

 

「――――は天――――ぅ」

「さ――かわ――――っ!」

 

 テンション高い声だな。

 何を騒いでるんだあいつら。

 階段を下り終わり、そっと空間を覗く。

 

「束は天使ッス~!」

「いいよ束さん! 最高に可愛いッ!」

 

 そこそこ広い地下空洞。

 その真ん中で束は天使の翼を着けくるくる踊り、その横で神一郎が鼻息荒く興奮している。

 楽しそうだなー

 

 

 

 馬鹿(親友)馬鹿(友人)は相変わらず馬鹿をしていた。




忙しい日々を送る日本代表の織斑千冬。
そんな彼女が見た風景とはッ!?

「束は天使ッス~!(天使のコスプレするニート)」
「いいよ束さん! 最高に可愛いッ!(それを見て興奮する学生)」

 


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