俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~ 作:GJ0083
いやー、往年のオタクには嬉しいサプライズ……なんですが!
キャラが男の子っていうか男の娘なので、声が子供ぽいんですよ。
――圧倒的なしまじろう感ッ!
もしくはマジク。
嫌いじゃない。嫌いじゃないけどそうじゃなんいだよ運営!(血涙)
パチパチと火が爆ぜる音。
木々を揺らす風の音。
束さんの涙声。
心が休まる空間て飲むコーヒーはなんでこんなにも美味しいのか。
「イギリスの人ってコーヒーより紅茶の方が普通なんですか?」
「個人の好みもありますからなんとも言えませんが、わたしは仕事の合間にコーヒーを飲みますな」
ぐしゅぐしゅ
「なら良かった。誘ってから実は苦手な部類だったかもと考えてしまって」
「それは杞憂ですよ。このコーヒーも実に美味しい」
うぅ……煙が目に……
「それにしてもレオンハルト氏は凄いですね。まさか生身でISに立ち向かって来るとは思いませんでした」
「オルコット家の事情はご存知でしょう? もしかしたらISに襲われるかもしれない、そういった心構えを事前にしていただけですよ」
いい加減に降ろしてよっ!
「だからと言ってよくやりますね。自分だったら逃げてますよ」
「その辺は年の功ですな」
おいっ! ゲホゲホっ!?
さっきからBGMがうるさいな。
イケオジ執事様との一時を邪魔するとは許さざる行いだとなぜわからん。
「束さん」
「うぅ?」
見上げると口をギュッと閉じて薄目で俺を探す天災の姿。
煙が目に染みるんだろうし、口に入ったら咽るから仕方がないとはいえ……
「稀に見えるぶちゃいく顔ですね」
「後で絶対に殴る! 絶対にだっ!!」
そんなに叫んだらまた――
「うぼっえっ!?」
想像の斜め上を行く声が聞こえたわ。
気管に煙が入ったのが、何かを吐き出しそうなえづきっぷりだ。
たぶん口から出てるのは美少女を構成するナニカだな。
「束さん」
「なんだよっ!」
「もう少ししたら火が安定して煙が少なくなるので」
「それが救いになるとでもっ!?」
「だから俺とレオンハルト氏の会話を邪魔しないでください」
「……ぐしゅ」
そろそろ心が折れたかな?
これで静かになった。
やれる時にやっておかないと、遊びがエスカレートする可能性があるからな。
無人島開発でお世話になった身としては心苦しいが、やはり自分の安全は大事なので。
反省するまでそこでミノムシごっこしててもらいます!
「ふむ」
レオンハルト氏が俺と束さんの顔を交互に見ながら顎を撫でる。
「なにか?」
「いえ、随分と仲が良いものだと思いましてね。篠ノ之様の交友関係は調べましたが、佐藤君は篠ノ之様が姿を消す前に重傷を負わされたはずでは?」
「あぁ、それはヤラセです。束さんと付き合いがあると知られると面倒なので、縁を切ったように見せる為にやりました」
「なるほど、ちなみにその案はどっちが?」
「もちろん束さんですよ」
「ほう、君が発案者ですか」
あれー? レオンハルト氏の目がなんか怖かったので、自分なんて束さんのオマケですよとアピールしたかったのに見透かされてるぞ。
こんな場合の正しい対処法……それは相手にしないこと!
腹の探り合いとか出来るはずがないので、相手の思惑を無視して自分の意見だけを言った方が心に楽なのです。
「ところでレオンハルト氏、オルコット夫妻の暗殺計画が持ち上がってるのは知ってますか?」
「えぇ、未だ真偽は不明ですが、そのような動きがある事は把握しておりますよ」
顔色変えず、か。
束さんが沈黙した今、若干の恐怖を感じおります。
これなら束さんに騒いでもらってた方が良かったかも……
「くかー」
寝てやがるッ!?
暖かな空気が眠気を誘ったんだね束さん!
煙の勢いも落ちたし無理もない。
ハンモックで寝てるようなもんか?
千冬さんの写真を貼られてるからか、穏やかな寝顔だ。
良い夢見てそう。
「自分達はオルコット夫妻を助けたいと思っています」
「それは嬉しい申し出ですな」
「車で移動してる最中に拉致する予定なんですが、運転手役の執事さんの処遇に困りましてね。せっかくだから攫った夫妻のお手伝いさんとして一緒に攫おうかなって」
「お手伝い? いったいどこに連れて行くおつもりで?」
「無人島です。とは言っても生活環境はそう悪くないですよ。そこで数年隠れてもらう予定でして」
「攫うならなぜ接触して来たのでしょう」
「培養した肉を身代わりの死体代わりにするつもりだったので」
「あぁ成る程、それでDNA情報を得る為に接触してきたのですか」
「その通りです」
「いくつか疑問があるのですがよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
「ではお言葉に甘えて――なぜ、オルコット家を助けようとするのですか?」
「それは言えません。ですが恩に着せて、なんてつもりはありません。強いて言えば自己満足と自己防衛の為です」
「ふむ、ではお二人を問答無用で連れ去る気ですか?」
「そうですね。ですがどうしても死にたいと言うなら解放しますよ。頭を下げて助けさせてくれとお願いするつもりはありません」
「ちなみに何年ほど隠れさせる気で?」
「5年以上10年未満ですね」
「ふむふむ……嘘はなし、ですか」
「もちろん。だって騙す理由がありませんから」
はぁー! 胃が痛いっ!
なんか空気重くないですか?
おかしいな、なんで俺はすでに飲み終わったコーヒーを飲んでるフリしてるんだろう?
緊張で変な笑い声が出そう。
束さんヘルプ!
「にゅふふ、ちーちゃ~ん……」
よだれ垂らして笑いながら寝てやがるッ!?
でも束さんのだらしない寝顔にちょっと癒された。
「言い忘れてましたが、オルコット夫妻に事前に説明するつもりはありません」
「ほぉ、何故ですかな?」
「余計な事をして欲しくないからです。奥さんと旦那さん、数日中に殺されるから死んだフリして無人島に隠れようと言われて普段通りに生活できます?」
「無理でしょうなぁ」
なら事前に通じてからの行動は無理です。
姿を隠す前に娘の為にアレコレ、とかやられたら未来が狂うかもしれんだろ?
ちょっと怖い。
「それでレオンハルト氏はどうします? ご主人様と一緒に無人島に行くか、それとも――」
「イギリスに残るか、ですか。断ったらどうなるのでしょう?」
「懐柔ですかね」
「具体的には?」
「お金渡して南国で優雅な老後を過ごしてもらいます」
「ヌルイですな。懐柔が効かなければ?」
「まだ未定ですね。懐柔を断ったり、この話をオルコット夫妻に話す様な事があれば……痴呆症の老人として施設で暮らしてもらうとか?」
「無人島か南国の島か老人ホームか、ですか。いやはや、悩みますな~」
どうして俺は強気ムーブしてるのか。
それはレオンハルト氏が怖いからだ!
目かな? うん、目だ。
睨んでる訳でもないのにレオンハルト氏の目に恐怖を感じるのだ。
問答無用で貴方のご主人様を拉致します! 強制です! って言われたら怒るよね。
さて、そろそろ緊張感に耐えるのも限界なので――
「束さんや」
「すぴー」
「てい」
「うごみょっ!?
口の中に指を突っ込む。
悪気はない、人を起こすのはこれが最速なんだよ。
「んあー? なんか口に……れ? しーくんまだ生きてるのぉー?」
寝ぼけながら物騒なセリフ言いやがったよ。
俺がどこかで死亡フラグ踏んだなら教えて欲しい!
「束さんには俺が死ぬ未来でも見えてるの?」
「あのねしー君、執事が油を塗ったワイヤーを使ってたの覚えてる?」
「うん」
「じゃあそのワイヤーは今はどうなってる?」
「……まだ森の中?」
周囲を見渡して見ると、束さんとの闘いに使用したの糸などはそのままだ。
なんとなく背筋に冷や汗が――
「この場所は?」
「森の中
「季節は?」
「乾燥した冬」
「……(にっこり)」
束さんてば超楽しそうな笑顔してるー。
って怖っ! え、嘘だろ? 恐怖でちびりそうなんだが。
「レオンハルト氏」
「なんでしょう?」
「もしかして、場合によっては自分や束さんを燃やそうとしてました?」
「ほっほっ」
なぜ笑ってるんでしょうね!?
やべーよ、いざとなったら山火事起こして殺す気だったよこの人。
「寝て起きたら目の前に泣き顔のしー君が居ることを期待してたのに……残念!」
「もしかしてレオンハルト氏を油断させる為にマジ寝してました?」
「ご想像にお任せします」
吊るされた状態で真面目な顔をする束さんもいいね。
そっかそっか、なんとなく落ち着かなかったのは命の危機を無意識で感じていたからか。
「仮にレオンハルト氏が放火してたらどうるすつもりだったんです?」
「そりゃトドメを刺すさ」
「自分の姿分かってる? 丸いボールから顔だけ出してる状態でなにが出来ると」
「なら試して見る?」
えっその状態で攻撃出来るの? 噛みつきとかかな?
ふーむ、束さんの周囲をぐるぐる回ってみるのが、拘束から抜け出せる様には見えない。
千冬さんの写真を破ればいけるだろうが、それは出来ないだろうし……試してみるか。
「なでなで」
「……なんでそこをチョイスしたのかな~?」
束さんのお胸当たりに狙いを付けて撫でまわす。
男はおっぱいを触る事に情熱を持つ生き物! そう……例えそれがブラの上や服の上からでも嬉しいものなのだよ!
固い感触しか感じないが、その奥には紛れもなく束さんのおっぱいがある。
ならばやるしかあるまいて!
「えいっ」
グサッ
「あいたっ!?」
手のひらになんか刺さったぞ!?
慌てて手を離すと、手のひらに血のボタンが出来ていた。
「斬れないなら刺せばいい」
「その体勢でどうやって?」
「天才だからね」
いやその答えはおかしい。
繭の中がどうなってるの覗いてみたいぞおい。
「まさかその状態でも攻撃手段があるとは。つまり、もしわたしがお二人を危険だと感じ事を成そうとしていれば……」
「穴だらけだったね」
「恐ろしい話ですな」
恐ろしいのは二人だよ。
しれっと焼き殺ろそうとしてる執事様も、捕まったと見せかけてまだ戦える手段を持ってた天災も普通じゃないよ。
「なんか気に食わない目でこっち見てるけど、このタイミングで新しいコーヒー淹れ始めたしー君もどうかと思うよ?」
「緊張で喉が渇いたんで。レオンハルト氏、おかわりは?」
「頂きましょう」
「しー君、私は?」
生木投入。
「んにゃぁぁぁ!? めがぁぁぁ!!!」
好きなだけ煙吸ってればいいよ。
「さてレオンハルト氏、自分がまだ生きてるって事は話しを聞いてくれると判断しても?」
「意地を張っても主を守れなさそうですので」
「そうなんですか?」
「未だ暗殺計画の尻尾を掴めてないのが現状でしてね。相手はかなり大きな組織の様だ。国か、それとも亡国機業か……どちらにせよ個人の力で守るのは不可能でしょう」
レオンハルト氏も亡国機業を知っているのか。
だとしたら話が楽だ。
「協力してもらえませんか?」
「いいでしょう。奥様と旦那様を助けられるのでしたら喜んで」
「それはありがたい。ですが先に言っておきますが、オルコット夫妻が消えた後のオルコット家には干渉するつもりはありませんからね?」
「そちらは大丈夫でしょう。少々分家が騒ぐでしょうか、お嬢様は聡明な方ですし孫も居ます。なんとでもなるでしょう」
「お孫さんですか?」
「今はセシリアお嬢様の専属メイドの見習いをしております」
えーと……記憶を呼び起こせ俺。
確かセシリアの近くにはメイドさんが居たな。
名前は忘れたけど、サブキャラだと思ってたんだがまさかの主要キャラか?
この人の孫って時点でキャラが濃いな。
要チェックや!
「では改めて手を結ぶって事で」
「えぇ」
レオンハルト氏と握手を交わす。
頼もしい味方ができた。
これでオルコット夫妻関連の心配事はなくなったと言えよう。
「ちなみにレオンハルト氏、アウトドア系のスキルは?」
「若い頃は山登りをよくしてましてね。多少はできますとも」
「ニワトリを放し飼いしたり、釣り船用意したりする予定なんですが、そちらも?」
「腕が鳴りますな―」
なんと心強い。
熟練の解体技術とか持ってそう。
「それと家周りなんかはオール電化なんですが、電気系統の技術は――」
「おーるでんか、ですか」
あぁ!? 一気に顔色がッ!?
やはりそこは弱点なんですか。
「いえ問題ありません。少々苦手な部類、と言ったところですので」
「そうですか、一応マニュアルなんかも用意しておきますね」
「そうして頂くと助かります」
うん、農業系と電気系の初心者用のハウツー本と専門書の2パターンは用意しておこう。
「ねぇしー君」
「はい?」
おや束さん、いつの間にか煙の勢いが落ちてましたか。
追加いっとく?
「お腹がすきました」
余裕の表情でぶち込んで来やがった。
すげーな、木から吊るされてる状態に完璧に適応してやがる。
「つっても今は手持ちに食材ないですよ」
「どっか食べに行こうよ」
「んじゃちょっと買い出しに行ってきますね」
「行こうって言ってるじゃん!? まさかの放置なのっ!?」
「レオンハルト氏は休みは何時までです? 食事をしながら今後について話し合おうかなって考えてます」
「いいですな。近くに町に贔屓にしてるお店がありますので案内しますよ。そこのサンドイッチが絶品でして」
「おいこら」
火に土を被せて消火してっと。
「じゃ、束さん」
「まじで?」
「レオンハルト氏おすすめのサンドイッチ買ってくるんで待っててください」
「……あい」
俺の顔色から本気を悟ったね?
はい本気ですとも。
「では行きましょうか」
レオンハルト氏も束さんには深く関わらずスルー。
それが正しい選択だ。
篠ノ之束とか未知の生き物、生態を知ってなきゃ関わりたくないもんね。
「あ、どんなサンドイッチがいいです?」
「チーズとハムのとサーモン!」
王道ですね。
じゃ行ってきまーす。
途中で一度だけ後ろを振り返ったが、風に揺られてぶらぶらしてる束さんの姿がくそ面白かった。
◇◇ ◇◇
後悔をしてないと言えば嘘になる。
何度もイギリスを守る為に必要な行為だと自分に言い聞かせた。
それでも――
「――――」
無言で車を運転するレオの顔をバックミラー越しに見える度に、申し訳ない気持ちが溢れてくる。
僕は長年オルコット家に仕える執事の孫娘を計画に組み込んだ。
生まれた頃から病弱で、自分の娘より幼い少女を――。
オルコット家に忠誠を誓うカリバーン家の人間。
エクスカリバーの操縦者として相応しく、テロリストや重度の愛国者に渡す訳にはいかないと思った僕は彼女に目を付けた。
生体融合型のISをその身に宿す事で、生き延びれるかもしれないという打算もあったけど、どんな理由を並べても、幼い少女を……レオの孫娘を巻き込んだ罪悪感は消えない。
「……なにか?」
バックミラー越しに視線が合う。
孫娘が非人道的な扱いを受けたにも関わらずレオは普段通りだ。
「いや、彼女の適合者手術が無事に済んで良かったと思ってね」
「旦那様には孫に生きる可能性を頂いて感謝していますよ」
「だけど、僕がやったことは……」
「そのままでは二十歳まで生きられない可能性が高かったのです。結婚衣装を見れる可能性が出来たのですから」
「そうか……」
「ところで奥様が先ほどから静かですが」
「あぁ、寝ている」
僕の肩に頭を預ける妻の髪を優しく撫でる。
気の強い妻だが、流石に最近は忙しすぎた。
自分の娘と歳が近く、長年オルコット家を支えてきたカリバーン家の人間が命懸けで手術をしたのだから当然だ。
表面上は普段通りだったが、内心は気苦労が絶えなかったはず。
僕がしっかりしてないばかりに苦労をかける。
まぁそう言えば、自分こそがオルコット家の当主なのだがら全責任が自分にある、なんて言うに決まってるけど。
「今回」
「ん?」
「今回、旦那様と奥様は重大な決定をいたしました」
「……そうだね」
衛星軌道上にISを配置し、それを国防に充てる。
搭乗者はコールドスリープ状態で事態が起きるまで眠りにつく。
表には出せない兵器の開発。
一歩間違えればオルコット家は潰されていただろう。
「これから世界が荒れます。いえ、既に荒れ始めています」
篠ノ之博士が世界に撒いた最先端技術の数々。
それは人間の生活を豊かにする一方、それらを巡って争いも起きている。
「ですからわたくしは、旦那様と奥様の行動はお嬢様やイギリスに住む人々を助ける為に必要な行為だったと、そう思っております」
「……ありがとう」
そうだ、僕には悩んでる暇なんてない。
僕はエクスカリバーの搭乗者として、レオの孫のエクシアを半ば無理やりに決定した。
それが原因で今現在オルコット家の立場は不安定だ。
邪魔に思ってる奴らも多いだろう。
「ですが」
「……な……それは……?」
バックミラーに映るレオの顔には、気付かぬ間にガスマスクが装着されていた。
まさか………まさかっ!?
「起きっ!?」
「ご自分達を守る努力をもう少しした方がよろしいかと」
妻を起こそうとするが、車内の隙間から立ち昇った白煙吸った瞬間に体が硬直して言葉が続かなくなる。
妻だけもなんとか逃がしたかった。
裏切り? いつから? 何故? どう――し――
「そこで驚く事が理解できませんな。孫を殺戮兵器にされて怒らない爺が居るとでも?」
理解は得られてると思っていた。
だけどやっぱり……
「く…そ……」
薄れゆく意識の中、僕は妻の体に覆いかぶさる事しか出来なった。
「いいですか束さん。この10年物のルビアガレガ牛のシャトーブリアンは150グラム10万もする幻の品です。レオンハルト氏の尽力で手に入れた日本では絶対に食べれない一品なんです」
「うん」
「だから仲良く半分こしましょう」
「うん」
「俺、マジで食べてみたいんで、本気で食べたいんで、そこんところ汲んでください」
「うん」
「ほほっ、良い感じのレアに焼きあがりましたよ」
「お前に食わせる肉はねぇ!」
「絶対にやると思ったよバカ野郎ッ! ぐっ、この馬鹿力め――ッ!」
「しー君程度片手で余裕です。でわでわ、勝者こそ全てを得る古の法に従い……あーむ」
「あ、そんな一口でだなんて……っ!?」
「うまっ! この肉うまっ!!」
「このアホーッ!」
外が騒がしい。
レオと子供の声が聞こえる。
肉? バーベキューする予定でもあったかな?
「……別にこうなると思ってたし。計算通りだし」
「悔しさを誤魔化せてないよ?」
「まだシャトーブリアンは終わってないんだよ!」
「や、私の胃に消えて終わったけど」
「まだ鉄板の上にはシャトーブリアンの油が残っている! ここに白米を投入!」
「ほぉ? 日本の料理ですかな?」
「日本の料理っていうか貧乏人の料理だよね。残った油でチャーハンとかみみっちいと思う」
「黙らっしゃい! この極上の油を吸った米のパワーを甘くみるなよ!」
「そこまで言うなら仕方がないね」
「なーんでやれやれ顔でスプーン片手にスタンバってるんですかねぇ!?」
「正直興味がありますな」
「まさかのレオンハルト氏の裏切り!?」
レオの声が随分と弾んでいる。
さっきまでは底冷えする様な声だったのに……さっきまで?
「はっ!?」
思い出したっ! 僕は確かレオに眠らされて――
「妻はっ!?」
「すー」
……居た。
僕の真横で何事もなかったかの様に眠っている。
妻の手を握ると、不思議と気分が落ち着てきた。
僕がしっかりしないとな……さて、ここは何処だ?
「……ペンション?」
木造造りの内装で僕と妻が寝てるのは豪華なダブルベッド。
普通の客間には見えず、どこかの別荘に見える。
センスがある内装だが天国にしては夢がない部屋だ。
「よし! そろそろ完成だね!」
「それ作ってる本人が言っていいセリフなんですが? だが確かに完成だ!」
「完成! そして頂きます!
「スプーンで直食いだとぉ!? させん! させんぞー!」
「ふむ、ルビアガレガ牛の上質な油を吸ったお米……これは素朴な美味ですな」
「ってレオンハルト氏も直に食っておられる!?」
「アウトドアの料理に下手な作法は無粋と言うものでしょう」
「むぐむぐ、その通り」
「お前は頬をパンパンに膨らませてなにしたり顔してんだッ! ちくしょう俺だって食う! ……あっつい!?」
「凡人のしー君が熱々鉄板から直接食べるなんて無理なんじゃない?」
「修業が足りませんな」
「この非凡人がッ!」
こんな意味不明な会話が天国で聞こえるはずない。
となるとやはりここは現実か。
このままこの場に居ても仕方がないか。
「起きてくれ」
「うん……あら? いつの間にベッドに……」
「落ち着いて聞いて欲しい」
「どうしたの?」
「僕たちはどうやら拉致されたそうだ」
「拉致ですって? そんな事が――」
「車で移動中に眠らされたんだ。君は記憶があるかい?」
「ごめんなさい。車中でうたた寝をしてからの記憶がないの」
「最近忙しかったから無理はないさ」
「それで、この場所は?」
「僕も目が覚めたばかりで分からない。だけど――」
「どうしたの?」
レオの裏切りを妻に言うのは心苦しい。
だけど言わない訳にはいかない。
「僕たちを拉致したのはレオだ」
「ッ!? そんなはずないわ! レオは……レオンハルトは代々オルコット家に仕えてくれたカリバーン家の人間なのよ!?」
「本当だ」
やはりそう簡単には受け入れてくれないか。
僕だってあの車の中でのレオとの会話がなければ信じなかっただろう。
「ほらしー君、そんな泣きそうな顔しないでよ。ちゃんとしー君の分も残してあるから」
「束さんの優しさはスプーン一杯分なんですね……あ、うまっ」
「この天災がスプーン一杯分の優しさを持つだけでも特別感があって嬉しいでしょ?」
「この拳を口に捻じ込みたいッ!」
「まぁまぁお二人とも、まだお肉はありますから喧嘩せずに。ヒレ肉は串焼きに、こちらのバラ肉はシンプルに玉ねぎと炒めましょうか」
「串焼きは少量の塩でのみで、バラ肉は甘辛系で行きますか」
「……じゅるり」
「今度こそ仲良く分けて食べましょうね?」
「……モチロンダヨ?」
天災という単語、彼女を調べる上で何度も見た研究発表や指導の動画で聞いた声……これは間違いない。
「どうやら僕たちは天災の手に落ちた様だね」
「そうみたいね……あの声は聞き覚えがあるわ」
どちらともなく手を握り合う。
自分たちが彼女の逆鱗に触れてる可能性は考えていた。
だけどそれはあくまで可能性。
宇宙進出の手助けになるISを兵器として使用する事も、そのコアを少女の体内に埋め込む事も、普通に考えれば許される行いではないけど、もしかしたら天災は許すのではと考えていた。
自分たちの行いが許されないなら、今頃大国のいくつかは地図から消えてるはずだからだ――
「見通しが甘かったか……」
「仕方がないわ。覚悟はしてたでしょ?」
「そうだね」
妻が顔色を青くしながらも気丈に振る舞う。
もしもの事なんて散々話し合った。
今になって取り乱すなんて事はしないさ。
「まだ私たちが目を覚ました事に気付いてないみたいだけど……どう動くのがいいかしら?」
「部屋を出れば何か武器になる物があるだろうけど、外の居るのは篠ノ之博士だけじゃなくてレオもだよ? 包丁や鉄パイプくらいでどうにかなると思う?」
「……無理ね」
「うん、だから素直に正面から行こうと思うんだ」
「あら、珍しくカッコいいじゃない」
「えっと、別に強がりとかそういったのじゃなく打算なんだけど」
「打算?」
「だっておかしいじゃないか。なんで僕たちは丁寧に扱われてるんだい?」
「……そう言えば、このベッドって結構値が張りそうよね。布団も高級品みたいだし」
「目的があって拉致したにしては拘束もされてない」
「交渉の余地があると、そう考えてるのね?」
「うん、だから下手な行動はせず正面から行こうかなって」
「それが最善かしら……」
妻が悩むのは無理はない。
正直、僕だって天災と正面から相対するなんて怖くて仕方がない。
でも――
「ほうほう、やっぱり美味しい赤身は塩だけで頂くのが乙だね」
「感想の前にまずは俺の頭を押さえてる右手を離してくれませんかねぇ!」
「そして甘辛肉炒め。肉の油の甘みと玉ねぎの甘み……米を食う手がとまらないっ!
「左手でだけで器用に食うなおい!」
「ねぇしー君」
「なんでしょう」
「口に食べかす付いてるよ?」
「地面に押し付けられた時に付いた土だよバカヤロー!」
「ぷーくすくす」
今なら大丈夫な気がする。
僕はISが発表された後の篠ノ之博士の講演会に参加した事がある。
可愛い服装にキャピキャピした声。
とても世を騒がす存在に見えなかった――そう思ったのはほんの数秒だけだが。
目の奥に暗い光を灯し、眼前の人間にまるでゴミでも見るかのような視線を送る。
なるほど確かに天災だと確信した。
その彼女はとても楽しそうな声を上げている。
人前で見せた作り笑いではなく、本当の笑顔だと確信できる声だ。
「僕は今がチャンスだと思う」
「そうね。今ならなにがあっても被害は少年が受け持ってくれそうだし」
……言い方はあれだけど、妻の言う通りだ。
どこの誰かは分からないけど、今なら悲鳴の持ち主がなんとかしてくれそうだ。
「行こうか」
「えぇ」
妻の手を握りながら僕たちは部屋を出た。
料理ができる→力尽くで奪う→この繰り返しで束さんはずっと笑顔でいられる。
優しい世界だなー。
森での出来事。
た「まだ執事が命狙ってるからスキ見せて二人とも油断させたろ」
し「無事に終わったのでコーヒータイム!」
れ「もしオルコット家に害を成すなら森丸ごと焼いて死ぬまで戦う