俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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天災の悲しみ

 無音、圧倒的な無音である。誰も言葉を発せない。注意した俺も言葉が続かない、だって、女の子に『パンツ見えてますよ?』なんて言ったの二十年以上生きてきて初めてだもん、ここからどうすればいいかなんてわかりません。頼む、誰か何とかしてくれ。

 

 三人が固まってる中、一番最初に動いたのは束さんだった。

 

 サッとスカートを直し。

 

「こんにちは、ちーちゃん、しー君」

 

 少し頬を赤くした束さんは、テイク2をお望みのようだ。

 

「ほう、お前にも羞恥心があったんだな」

 

 しかし、普段いじられ役の親友はこの機を逃がす気がないらしい。ニャっと笑い束さんをからかう。

 これは乗るしかないな。具体的には電流の恨み的に。

 

「白って意外でしたね。大人ぶっての黒か服に合わせて青やピンクかと思ってました」

「こいつは下着には拘らない。この前まで箒とお揃いのキャラモノを履いていたしな」

「キャラモノですか、年齢考えると痛いですね。でもちゃんとした白で良かったです。薄汚れた白だったらどんな顔すればいいのか困りますから」

「その辺は箒がちゃんと洗濯に出すように言ってたからな」

「妹に言われないと洗濯しないとか女として終わってますね。まぁ、研究に没頭して数日は風呂なし着替えなしとか普通にありそうですけど」

「普通にあるな、風呂ぐらい入れといつも言っているんだが」

「自分で作った消臭剤とか使ってそうですよね」

「お、お前、それは流石に」

 

 口を抑えて笑いを我慢している千冬さん。

 束さんは膝に顔を埋めぷるぷると震えている。

 

「賭けます? 俺は箒に臭いって言われたくないから使ってると思うんですよ」

「い、いや止めておこう、負けが見えてる」

 

 千冬さんスゲー楽しそうですね。手で口元も抑えるどころか背中を丸めてピクピクしている。

 と、調子に乗ったのが悪かった。

 

「んだらしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 束さんが乙女として大事な何かを失った声を出して立ち上がった。

 それと同時に。

 

「サンダガ!?」

 

 バリバリと電流に襲われ床に倒れる。

 こちらに向かって、ゆらりゆらりと近づいてくる束さん。

 倒れてる俺の顔を覗き込み。

 

「遺言どーぞ」

 

 あかん、正気じゃない、目から光が失われてる。その証拠に未だに電流が止まらない。

 だがもう後には引けないんだよ。

 

「な゛い゛す゛は゛ん゛つ゛」

「シ・ネ」

 

 そう言って俺に向かって腕を伸ばす、しかし、今回は俺には味方がいる。

 

「やめんか」

 

 ズゴンッと束さんの頭に鉄拳が落ちる。

 

「あいたっ!?」

 

 人間の頭からしちゃいけない音を鳴らせ、束さんは頭を抑えしゃがみ込む。

 今度は頭を抱えぷるぷると震えている。

 

「束、話を聞いてやるからまずは座れる場所を作れ」

 

 そこに追い打ちを掛ける千冬さんマジ恐ろしい。確かに床は機械片などが散らばり座れる場所がないけれど、なにも今言わなくても……流石に同情する。

 電流が止まったので立ち上がり、束さんに視線を向ける。

 

「…………」

 

 頭を抱えながら負のオーラを発している。

 いつもなら千冬さんの鉄拳にも大喜びなのに、かなり重症だな。

 少し言いすぎたかな? そう思い謝ろうとした時。

 

「なんで優しくしてくれないの~~!?」

 

 勢いよく立ち上がり束さんが吠えた。

 

「私落ち込んでたじゃん? いつもと違う感じだったじゃん? なのになんなんだよ二人共!? パンツ見えてるとかお風呂入ってないとか消臭剤使ってるとか! そんな事より慰めてよ甘やかしてよ優しくしてよ! なんでちーちゃん拳骨されなきゃいけないんだよ~!?」

 

 ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる束さん。思ったより元気そうで安心した。

 

「パンツ見えてたのは事実だし、お風呂入ってないのも本当だし、消臭剤も実際使ってるじゃないですか」

「パンツは見えないフリしてよ。お風呂は入ってないけどシャワー浴びてるもん。消臭剤なんて事実無根だよ! 束さんはいつだってフルーティーな匂いだもん!」

「汗がスイカの匂いの人とかいますもんね。束さんもそのタイプで?」

「ちっが~~う!」

 

 両手で顔を抑えサメザメと泣く束さん。

 いいわぁ。かわいいわぁ。

 

「束さんて涙目似合いますね。ちょっとしゃがんで上目遣いお願いします」

「しー君はなんでケータイ構えてるのかな!?」

「束さん、この世は弱肉強食なんです。隙や弱みを見せる方が悪いんです。さぁ、理解したなら早くポーズお願いします」

「束さんは時々しー君を理解出来ない時があるよ……」

 

 シクシクと泣きながら希望通りのポーズをしてくれた束さんって素敵。

 

 

 

 

 床を軽く片付け三人で座る。

 

「束、バイトの時間を削ってここに来ているんだ。さっさと話せ」

 

 セリフこそ辛辣だが、千冬さんの声に刺はない。

 

「ちーちゃんも優しくないし、束さんの心はヒビだらけだよ。とは言え何処から話せばいいのかな? ん~と、しー君は束さんの夢は知ってるかな?」

「多少の予想は出来ますが、ちゃんとは知りませんね」

「ISを世界に認めさせる事。そしてISで人間が宇宙に進出する事だよ」

「普通に良い夢ですね」

「うんうん、しー君ならわかってくれると思ったよ。それなのにアノ無能共ときたら!」

 

 話している内に語尾が強まる束さん。

 ISの兵器化の可能性は考えてたはずだし、白騎士事件でISの知名度は広がってる。

 一体何があったんだ?

 

「束、この一週間に何があった?」

 

 千冬さんも同じ事を考えてたらしい。

 

「私はねちーちゃん、国の代表や軍事企業、様々な研究所の奴らと会ってたんだよ。無能ばかりだったけどね」

 

 ISを世界に広める手段としては普通だな。セクハラでもされたのか?

 

「それで? まさかその程度で荒れてた訳ではないんだろう?」

「だってアイツ等、ISを戦争の道具か金儲けの道具程度にしか見てないんだもん!」

 

 あれ?

 

「その辺は納得済みじゃないんですか?」

「しー君、ISの兵器化は納得してた訳じゃないよ。だけど無能共がISの力を見れば兵器として見るのは予想出来たからね。最初は兵器として見られるのはしょうがないと思った。だから、これから少しずつ方向修正して行くんだよ」

 

 とりあえずISを広めて、最初は兵器として見られるが、それから徐々に本来の宇宙服として使われるように誘導するつもりだったのか。

 ますます何で荒れていたのかわからんな。

 

「それで結局、何が気に食わなかったんです?」

「それは……」

 

 言葉に詰まる束さん。本当に何があったんだろう?

 そしてなんでチラチラと俺を見る?

 

「束さん、俺が何かしましたか?」

「やっ、しー君が何かした訳じゃないんだけど……」

 

 そんな反応されたら俺に原因があるみたいじゃないか。でも俺に対して怒ってる感じじゃないし。

 俺と束さんの間に微妙な空気が流れる。

 

「束、お前さては期待していたな?」

 

 その様子を見ていた千冬さんは何かに気付いたようだ。

 

「ちーちゃん、もう帰らない? 私そろそろお腹すいたな~」

 

 もの凄い下手な話のそらし方だ。目が泳いでるし冷や汗かいてる。

 それにしても、期待とはいったい?

 

「神一郎はわからないようだな。教えてやろうか?」

 

 楽しげな口調で千冬さんが聞いてくる。

 

「降参です。教えて下さい」

「こいつはな、ISの兵器化も予想していたし、金儲けの道具として見られるのも理解していた。だが、それが全てではない、中には純粋にISを認め自分と同じ夢を見てくれる同志が居ると思っていたんだろう。だが、お前が会った人間の中にそんな奴は居なかった。違うか束?」

「その通りだよちーちゃん。私はこの一週間で会った奴らの中にISの凄さを理解出来る奴なんて誰もいなかったよ」

 

 疲れた顔でそう言葉を吐き出す束さん。

 なるほど、仲間が出来ると期待してたけど、いざ会ってみたら結局はぼっちのままだったと。それで流石の天災も傷ついちゃったのか。

 

「けどそれに俺が関係あります?」

「お前は束の仲間みたいなものだろ? お前という存在が居たから束は他にも仲間がいると期待した。結果はダメだったみたいだがな」

「別に今は宇宙進出とか考えてませんよ?」

 

 将来はわからないが、まずは地球を楽しみ尽くしたいし。

 

「でも……しー君はISを兵器として見なかった」

 

 束さんが真っ直ぐな目でこちらを見てくる。

  

「俺は政府の人間でも軍人でもありませんからね。束さんが会ったのは権力者ばかりですよね? 一般人なら束さんと同じ夢を見てくれる人はいると思いますよ?」

「本当に?」

「たぶんきっとMaybe」

 

 ごめん。ラノベの世界だから断言出来ない。

 

「グスン」

 

 束さんはまた体育座りで落ち込んでしまった。

 千冬さんと目が合う。

 

「何をしている。早くなんとかしろ(ひそひそ)」

「ここは親友の出番では?(ひそひそ)」

「やれと言っている(ギロ)」

「イエスマム」

 

 千冬さんに脅されたらしょーがない。

 束さん後ろに回り込み。

 

「束さん、ちょっと失礼」

「しー君?」

「足伸ばして――頭をここに、そうそう」

「えっとこれは……」

「膝枕ですね」

 

 そう膝枕、こういうシチュエーションなら膝枕でしょ。

 束さんの頭をゆっくりと撫でる。

 

「話は変わりますが、俺はお二人の二倍は生きていたんですよ」

「そ、そうなんだ」

 

 恥ずかしいのか、束さんの声が上擦っている。

 

「なのに何でお二人に敬語だと思います?」

 

 敬語と言うかタメ敬語だけど、初めて会った時から言葉使いは変わっていない。たまに素が出そうになるけど。

 

「元々の口調じゃないの?」

「ちょっと違いますね。理由はですね。お二人が年齢の割に精神が大人なので一人前扱いしているからです」

「そうなんだ」

「そうなんです。だけど、今から少しだけ子供扱いするけど許して下さいね?」

「しー君?」

 

 ゆっくり、ゆっくり、優しく髪を梳かす。

 

「束、俺は本当に嬉しいんだよ」

「ほえ?」

 

 束の目が驚いて大きくなる。

 

「束が作ったISは本当に凄いよ。俺はさ、本当に楽しみでしょうがない。束にISを貰ったら何処に行こうか、何をしようか、考えるだけでテンションが上がる。世界中の観光地を巡り、絶景スポットを見る。普通の人間には出来ない事だよ? なにせ時間と金が掛かりすぎるし、場所によっては、特殊な訓練や資格がいる。けどISが有れば問題なくなる」

 

 今度はぐしゃぐしゃと強めに頭を撫でる。

 

「ISが有れば、飛行機代も入国審査も特別な訓練も無しで何処でも行けるからな!」

「しー君、それ犯罪だよ?」

「バレなきゃ犯罪じゃないって邪神様が言ってたから大丈夫」

 

 前髪に隠れた束の顔は少し笑ってる様に見える。

 

「ISの兵器化? こんな素晴らしい物をただの人殺しの道具にするとか勿体なさすぎる」

「『ミサイルを追いかけるよりマグロの群れを追い掛けた方が面白そう』だったか?」

 

 白騎士事件の時の会話の事だろう。千冬さんも聞いていたらしい。

 

「あぁ、確かにその方が楽しいと思うぞ? なにせ実際にミサイルを追い掛けてた私が言うんだから間違いない」

「ちーちゃん、しー君」

 

 束の顔に笑みが広がる。少なくとも、ここにはISの兵器化なんて望まない人間が二人いる。その事が嬉しいんだろう。

 

「なんだ束、随分嬉しそうだな。そんなに神一郎の膝枕が嬉しいのか?」

 

 ニヤニヤとしながらからかう千冬さん。

 

「ち、ちがうもん!」

 

 慌てて身体を起こそうとする束。その頭を抑えつけ無理矢理膝枕を続行させる。

 

「しー君!? は~な~し~て~」

 

 ジタバタと暴れる束の頭を撫でて落ち着かせる。

 

「千冬さん、あんまり束を虐めちゃダメだよ」

 

 今の束を弄りたくなる気持ちはわかるけどね。

 

「しー君はさ」

「うん?」

 

 暴れていた束が大人しくなる。

 

「宇宙に興味ないの?」

 

 宇宙でやってみたい事あんまりないんだよね。無重力体験や某CMみたいに無重力でカップラーメン食べるとか、そのくらいしか。いやもう一つあるな。

 

「宇宙か……そうだな、最近ちょっと考えた事がある」

「なになに?」

 

 目をキラキラしながら食いつく束さん。

 

「将来、老後は火星で畑を耕しながらのんびり暮らしたい」

 

 どこまでも続く赤い大地に鍬を振り下ろし、木々を植え野菜を育てる。まさに至福の老後だろう。

 しかし。

 

「老後って。しー君老けすぎ」

 

 束は爆笑。千冬さんもこちらに背を向け笑っている。

 

「お前ら、笑っていられるのも今のうちだぞ。ハタチ過ぎたら人生なんてあっという間なんだからな」

 

 人の老後の夢を笑うなんて失礼な奴らだ。

 

「ごめんしー君。馬鹿にした訳じゃないんだよ? むしろ嬉しいんだよ」

「そうだな、神一郎の夢はいつも楽しそうだ」

「俺は二人が楽しそうでなによりだよ」

 

 二人に笑われながら束の頭を撫でる。

 二人の笑い声が止まり、まったりとした雰囲気が部屋を包む。そのうち、スゥスゥと寝息が聞こえてきた。

 

「寝たのか?」

「そうみたいです」

 

 俺の膝の上では束が静かに眠っていた。

 疲れていたんだろう、とても穏やかな寝顔だ。

 

「こうして見るとこいつも可愛いんだが」

 

 千冬さんが寝顔を見つめながら微笑む。

 

「そのセリフは起きている時に言ってあげて下さい」

「断る。起きているこいつは可愛くない」

 

 二人で寝顔を見ながら笑い合う。

 

「千冬さん。少し代わってくれません? 足が痺れてきました」

「ん? しょうがないな。たまにはいいか」

 

 束さんを起こさないよう気をつけながら頭を持ち上げ千冬さんと代わる。

 足が痺れたと言ったなそれは嘘だ!

 束さんの頭を撫でながら優しい顔をする千冬さん。もらった!

 

「カシャ」

 

 レアシーン頂きました。

 千冬さんの動きが止まる。

 

「神一郎、なんの真似だ?」

「思い出に一枚撮っときました――おっと、下手に動くと束さんが起きますよ?」

「くっ」

 

 動こうとする千冬さんに釘を刺す。

 

「それでは俺は箒とお茶でも飲んで来ますので、お二人はごゆっくり」

「お前、覚悟しとけよ?」

 

 こちらを睨みながらも、その手は相変わらず束の頭を優しく撫でている。まったく素直じゃないな。

 二人を置いて部屋を出る。

 さびしんぼうの天災に良い夢を。


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