俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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モンハンのアプリゲーが配信かぁ……。


卒業旅行(中)

「つんつん」

「……脇腹つんつんすな」 

 

 脇腹が! 脇腹が痛いッ!

 肋骨が折れる瞬間、脳内でポッキー二本が綺麗に折れたよ!

 小気味良い音が体内を駆け巡ったわ!

 

「二本も折って大丈夫なのか?」

「無茶すれば折れた骨が肺に刺さったり血管を傷付けるかも。でもそれは逆に言えば動かなければ大丈夫ってことだから」

「なら安心だな」

 

 この二人、脇腹を押さえて倒れ込む俺の姿が見えてないのか?

 どう見ても大丈夫じゃないだろこれ。

 痛みで油汗が出てきたぞおい!

 千冬さん、束さんが暴力快楽に目覚めないか心配してたクセに冷静に見てたな。

 俺が自分から飛び込んだから自業自得ですかそうですか。

 でも俺の心配くらいしてくれもいいのでは?

 

「しー君、動ける?」

「……すぐにはちょっと無理」

 

 骨が折れた衝撃っていうのか、変な痺れのせいで上手く体が動かせない。

 前回は神経を殺した状態での骨折だから良かった。

 素面で骨が折れる瞬間を味合うのは初めてだけど、意外と体の芯に響くのね。

 

「束さん、痛み止めとか持ってない?」

「あるよ?」

 

 持ってるけどなにか? みたいな感じで言葉を止めないでくれ。

 このまま放置はないよね? 

 

「神一郎、うずくまってるお前には見えないだろうが、今の束はとても良い笑顔をしているぞ」

 

 把握。

 ドSスイッチが入ってるんですね!

 ナイス助言だ千冬さん。

 ならば俺がやる事は一つ!

 

「この哀れなブタに施しをお与え下さい束様ッ!」

 

 全力の懇願!

 肋骨程度なら放置しても死なないだろうとか考えてそうだから、しっかりお願いしないと助けてくれなそうなんだもん!

 

「しょうがないなー。ちょっと動かすよ」

 

 声が喜色に満ちてるぞ束さん!

 でも助けてくれるなら許す!

 束さんがうつ伏せの俺を仰向けにして、更に浴衣をはだけさせる。

 いやん、裸にしてどうするつもり!

 なんて馬鹿な事考えてないと痛みを誤魔化せない!

 

「はーい、お注射するねー」

「――お゛ッ!?」

 

 チクってもんじゃない。

 ザクっと刺された痛みが脇腹に走った。

 

「その注射針、やけに太くないか?」

「しー君用の特別仕様だからね!」

 

 俺の為の特別製なんて嬉しいなぁ!

 束さんはいつだって俺を特別扱いしてくれるね!

 もっと普通な特別が良いんだが?

 あぁ……なんか得体の知れないモノが体内に入ってくる感じがする。

 

「はい終わり、即効性の痛み止めだからすぐに楽になるよ」

「それは助かります」

 

 お礼を言って起き上がらそうとすると脇腹にまだ痛みが走った。

 腹筋使う動きは全部痛みに繋がってる気がする。

 ヒビの時に比べて生活し辛いぞこれ。

 

「ちーちゃん、包帯とかある?」

「流石に持ってないな」

「なら固定とか出来ないか。しー君、夜中に痛み止めの効果が切れて苦しむと思うけど……いいよね?」

「いやなにもよくないんだが?」

「え? でもどうしようもない事だし」

 

 なんでキョトン顔してるんですかねぇ?

 夜中に痛みで苦しみたくないって思うのは贅沢なんですか?

 

「痛みをどうにかしないと、夜中に痛みではぁはぁ言いながら束さんの寝顔を見る事になるな」

「やっぱりしー君の脅しは一味違うね! そんなに嫌なら自分で包帯買ってきなよ、それで体の固定すれば多少はマシになるから」

「痛み止めは?」

「もうないよ。後は自分の手持ちで頑張って」

 

 なら後は病院で貰った痛み止めで戦うしかないな。

 包帯はコンビニにでも行って買ってくるか。

 そうこうしてる内に痛みがだいぶ和らいできた。

 流石は天災お手製のお薬。

 

「よっと」

 

 起き上がった体を軽く動かしてみる。

 これ神経が死んでるのか? 嘘みたいに痛みがない。

 

「動けるみたいだね。ならこれから――」

「うん、これから一夏の所に行ってくるね」

「え?」

「流石に放置は可哀そうだからね。束さんの遊び相手はあっち」

 

 俺が指差す方には、窓の近くの椅子に座りながらビールを飲む千冬さんの姿があった。

 もうこっちに興味がなくなった様で、外の景色を肴にビールを飲んでやがる。

 

「なるほど、しー君にしては気が利いてるね」

「二人きりの時間を楽しんでください」

 

 乱れた浴衣を正して束さんと握手。

 今、俺と束さんの間に確かな契約が結ばれた!

 

「じゃ、そんな訳で」

「いてら~」

「ん? どこか行くのか?」

 

 玄関口に向かう俺に千冬さんが気付いた。

 なので俺はにっこり笑って手を振る。

 

「一夏の所に顔出してくるんで、束さんのお守は任せました」

「は? おい待て!」

 

 千冬さんの声を無視して備え付けのサンダルを履く。

 

「任されちゃったねちーちゃん。あそうだ、マッサージでもする? 私はする方でもされる方でもどっちでもいいよ!」

「近付くな! 待て神一郎! この馬鹿と二人きりに――」

 

 パタン 

 

 ドアが閉まり千冬さんの声が途切れた。

 頑張って面倒を見ろよ!

 一夏の部屋のチャイムを鳴らす。

 

「はーい」

「おっす一夏。遊びに来たよ」

「いらっしゃい神一郎さん。千冬姉は?」

「酒飲んでるから放置してきた」

「そっか。千冬姉も自分なりに楽しんでるんだね」

 

 面倒を押し付けて来たが正解だけどな。

 束さんが俺の骨を折るのはいいんだよ。

 俺だって束さんの柔らかさとか匂いを堪能したから一方的に損した訳じゃない。

 だが織斑千冬、テメーはダメだ。

 束さんの面倒を見る苦労を思い出せ!

 自分には関係ないってスタンスは許さんよ。

 

「んな訳で千冬さんは置いて来た。お邪魔しても?」

「どうぞどうぞ」

「二人はなにしてたんだ?」

「俺が鈴にマッサージしてました」

 

 一夏に伴われ部屋に入ると、そこはエロゲの世界でした。

 

「はぁ……はぁ……あれ? シン兄?」

 

 やや浴衣が乱れたリンが、熱い吐息を漏らしながら敷布団の上でうつ伏せに寝ている。

 事後? 事後なの?

 落ち着け俺、小学生同士ならセーフだ。

 

「ふう……落ち着いた。んで一夏、なにをしてたって?」

「え? だからマッサージですけど」

 

 事後を見られたにしては一夏に焦りが見られない。

 って事は本当にただのマッサージ後なの?

 そう言えば原作では一夏はマッサージが得意みたいな設定があったような?

 つまりリンがメスの顔をしてるのは、大好きな男の子に全身をもみもみされたせいだと。

 ――最低でも高校を卒業するまでは肉体関係は許さないからな!

 でかマジで抑えろよリン。

 誘った手前、ここで初体験とかされると俺がリンのご両親に顔向けできない!

 

「お邪魔するよリン」

「……いらっしゃいシン兄」

 

 一瞬だが葛藤したなお前。

 顔にも邪魔だなコイツ感が現れてるぞ!

 

「あ、そうだ。神一郎さんもマッサージします? 千冬姉によくしてるからちょっと自信があるんですよ」

「マッサージかぁ」

 

 普段ならお願いしたところだ。

 でも今は肋骨が折れてるんだよね。

 痛みはないけど、下手したら折れた骨が肺に刺さって吐血、なんて結果になりそう。

 流石に二人の前で吐血はダメだよね。

 

「ありがたいけど、今は肋骨はヒビは入ってるからさ。俺の事はいいからリンに続きしてあげなよ」

「あ、そうでしたね。残念だけどまたの機会にします。じゃあ鈴、続きするよ」

「次はどうするの?」

「次は足だな。そのままうつ伏せで寝ててくれ」

「足ね……変な所触らないでよ?」

「触らないよ」

 

 一夏はリンの発言に苦笑しているが、リンの顔から判断するに太ももとお尻の境界線ギリギリまで攻めても許しそうだぞ。

  

「鈴のふくらはぎ、意外とパンパンだな」

「温泉旅行に来るために家の手伝いしまくったんだもん。流石に疲れたわ」

「料理屋は立ち仕事だもんな。んじゃ念入りにするぞ」

「お願いね」

 

 一夏が浴衣の上からリンのふくらはぎを揉み解す。

 最初こそ軽口で答えたリンだが、段々と顔色が怪しくなってきた。

 

「ん……ふぅ……」

 

 俺が登場した事で徐々に白くなって行った顔色が再び朱色に染まる。

 声もそうだが、横で見てる俺からは浴衣の隙間からリンの足が見えてる訳で――

 

「……んッ! そこいいっ……」

 

 無駄にエロいな?

 どうしよう……これどうしよう。

 大人観点で見れば、なにもしないで二人の触れ合いを静かに見守るのが正解だ。

 でもオタクの俺は録画しろと叫んでいる!

 だってこれ、見方を変えればインフィニット・ストラトスのオリジナルお色気シーンな訳で!

 ぐぐぐっ、我慢だ俺。

 流石に小学生の盗撮は許されん!

 一瞬でも邪な事を考えてしまう俺のクソ野郎!

 あ、そうだ。

 

「一夏のマッサージ気持ちよさそうだな。なぁ一夏、まだマッサージできそう?」

「俺は全然大丈夫ですけど」

「なら千冬さん呼んで来るよ。温泉上がりのマッサージとか喜びそうじゃない?」

「それいいですね。千冬姉にはもっと休んで欲しいですし」

 

 リンのお色気シーンはレイティング的にアウトだけど、千冬さんならセーフだよね。

 そしてついでに束さんを押し付けられてイライラした心を一夏のマッサージで癒す!

 それで俺に対する怒りは消えるだろう。

 ヘイト管理はゲーマーの嗜みですから。

 そんな訳で一夏たちの部屋を出て自分の部屋に戻る。

 さてさて、どんな修羅場になってるかな。

 

「戻りましたー」

「お帰りしー君」

「一夏の様子はどうだった?」

 

 出迎えたのは浴衣に着替え、部屋備え付けの延長ケーブルで縛られた束さんと、それを踏みつけながら見下ろす少し髪が乱れた千冬さん。

 うん、平時の光景だ。

 それはそれとして――

 

「シャッターチャンス!」

 

 拡張領域からカメラを取り出し束さんを激写!

 盗撮なら流々武ヘッドだけど、ちゃんと撮るならやっぱりカメラだよね。

 

「油断したー!?」

 

 ジタバタするな篠ノ之束!

 浴衣姿で縛られてるから胸の上部分が丸見えだし、太もも見えてるし、こんなん撮らない方が失礼だろうが!

 

「いいよ束さん! エロい! 最高だ!」

「んなぁぁぁぁ!」

 

 束さんが逃げようと藻掻くが、千冬さんが足の力を緩めないので無駄な努力と化している。

 いいわー、癒されるわー。

 

「そうだ千冬さん、一夏がマッサージでもどうかって言ってますけど」

「一夏が? そうだな、せっかくだし頼むか」

「私を放置して和やかに会話しないで!? ちーちゃんは私のあられもない姿を撮られてる事に抗議してよ!」

「神一郎が居なくなった途端襲ってきたお前に抗議したい」

「だってそれはちーちゃんが素敵だったから! お風呂上りで浴衣姿のちーちゃんがまるで私を誘ってる様だったから!!」

「黙れ水虫。まずは足を洗って来い」

「そのネタまだ引きずるの!?」

「本当にネタかどうか俺が確かめてあげますよ」

「いやぁぁ! ローアングルから狙われるぅぅぅ!」

 

 束さんに接近して足元でしゃがみ込む。

 相変わらず足の指の形が良い。

 脚フェチって訳じゃないが、レンズ越しに覗くと不思議と魅力が増すよね。 

 

「皮が剝けてたりはしてないですね」

「匂いは?」

「嗅げと? 俺は別に臭フェチじゃないんですが」

「だからその決めつけで話を進めるの止めようよ!」

 

 束さんに泣きが入ってきた。

 流石にこのネタでこれ以上虐めるのは可哀そうか。

 束さんだって女の子だもんね!

 

「それよりも千冬さん、束さんはほっといて一夏の所に行きましょうよ」

「そうだな。このまま束の相手をしていても時間の無駄だ」

「ぐす……縛られた挙句そこまで言われるなんて……」

 

 千冬さんが足を退け、自由になった束さんがグズグズと泣きながら体を起こす。

 さて問題です。

 浴衣+緊縛+女の子座り+涙目は?

 

 カシャ! カシャカシャカシャ!

 

「無言で撮るなし!」

 

 答えはエロ可愛いでした!

 半脱げ状態でおっぱいの白い半球が見えてるのがグッド!

 

「……よし満足。んじゃ行きますか」

「そうだな」

「ちょっと待った!」

 

 満足したので一夏の部屋に行こうとすると束さんから待ったが。

 今度はなにさ。

 俺と千冬さんは揃って面倒くさそうな顔をして振り返る。

 

「えっと……その……私は?」

 

 ん? 答えが分かりきってるのになんで聞く?

 

「今日はホワイトな集まりです。混ざりたかったら身綺麗にしてこい賞金首」

「一夏に迷惑を掛けるつもりか? 弁えろ指名手配者」

「…………。」

 

 なんか束さんが白くなって動かなくなったけど、まぁいいか。

 まさか本気で一夏に会えるとは思ってないだろう。

 あわよくば自分も一夏にマッサージでもとか考えてたりしてないよね?

 流石の束さんでも自分を取り巻く状況を理解してるって信じてるから!

 

 

 

 

 

「おっす一夏、千冬さん連れて来たぞー」

「邪魔するぞ」

「いらっしゃい神一郎さん、千冬姉」

 

 部屋に入ると笑顔の一夏が出迎えてくれた。

 やりきった男の顔だ。

 んでその一夏にやられたリンが居ないな。

 

「リンは?」

「なんか涼んで来るって外の庭に出ました。湯冷めするって行ったんですけど聞かなくて」

 

 あーはいはい、一夏にもみもみされて色々溢れそうになった感情を冷ましに行ったんだね。

 窓を覗くと確かにリンの後ろ姿が見えた。

 未だに赤い耳を見ると、落ち着くまでまだ掛かりそうだな。

 

「それで一夏、マッサージをしてくれるって?」

「千冬姉には普段お世話になってるからこのくらいはね」

「では頼む」

「勝手に布団を出すのはどうかと思ってさ、悪いけど座布団の上で」

 

 座布団を二つ繋げたて敷布団代わりにしてるのか。

 そこに千冬さんが横になる。

 

「上から順に行くね。まずは首から肩にかけて」

 

 うつ伏せで寝る千冬さんの背中に一夏が膝立てで跨る。

 さて、お手並み拝見だ。

 一夏は俺にどんなプレゼントをしてくるのかな!?

 千冬さんのエロい顔とかエロい声とか期待しちゃってるからね!

 

「んしょっと。やっぱり凝ってるね千冬姉」

「最近は忙しかったからな。あー、そこは効くな、良い感じだ」

 

 なんだろう、なんか違うな。

 セリフに一切のデレがなく、声に込められてる感情も中年サラリーマンのそれだ。

 織斑千冬、まさかお前……色気で小学生の鳳鈴音に負けるのか?

 いくら相手が学園ラブコメのヒロインの一人でもそれはないだろ!

 自分が教師役のサブヒロインだからといって手を抜くな!

 

「あ゛ぁぁぁぁ~」

 

 声と顔がおっさんなんだよ!

 ダメだ萌えねー。

 こういった飾らない等身大の大人の女ってのが千冬さんの魅力なんだろう。

 だけど縛られたら束さんとマッサージで感じるリンに対し、色気の面で大敗してるよ!

 ……まぁでも一応は録画しとくか。

 部屋に戻ったら束さんは激おこだろうから、手土産は必要だ。

 

「次は腰ね」

「念入りに頼む。立ったままの仕事も多くてな」

「了解」

 

 一夏のマッサージが腰に移行した。

 うーん……一波乱欲しいな。

 

「一夏、返事はしなくていいから聞いてくれ」

 

 一夏に近付いて小声で話し掛ける。

 驚いた顔をしながらも、一夏は小さく頷いた。

 

 

「ちょっと千冬さんのお尻揉んでくれない?」

「…………?」

「手が滑った体で揉め」

「――――ッ!?」

 

 一夏の顔が一瞬で赤面し、口をパクパクしたまま動かなくなる。

 おいおい、そんな反応したら千冬さんに気付かれるでしょうが。

 

「マッサージを続けて。突然お尻を触られて可愛い悲鳴を上げる千冬さんを見たくないか?」

「…………ごくり」

 

 お? 興味ある? あるよねもちろん!

 千冬さんの魅力を最大限生かすならギャップ萌えでしょ!

 こんなおっさん状態の千冬さんがさ、お尻を触れて、キャッ! なんて悲鳴上げて顔を赤くしたら……それはもう可愛いに違いない。

 そんな千冬さんを俺は見たい!

 

「マッサージが止まってるぞ一夏。それと聞こえてるぞ神一郎」

 

 ちっ、地獄耳め。

 

「ち、千冬姉……俺は別に……」

「お前が神一郎の馬鹿な企みに乗るなんて思ってないさ。だからマッサージの続きを頼む」

「……うん」

 

 一夏は俺の顔を一瞬見たが、構わずマッサージの続きを始めた。

 これはもうどんな言葉でも動かないだろう。

 残念だ。

 

「一夏を巻き込んでセクハラとは良い度胸だ。そんな度胸があるなら自分でやるくらいの気概を見せろ」

「俺に千冬さんのお尻を触る度胸なんてある訳ないでしょ。だから一夏に頼んだんです」

「姑息な真似をするな。お前の目的は理解しているから今回は見逃すが二回目はない」

「はーい」

 

 束さんのご機嫌取りの為に売ろうとしてるのはバレてるか。

 これでは部屋に戻ったら俺が怒りの矛先を向けられる可能性が高いじゃないか!

 うーむ、どないしたもんか。

 

「ふん! ふん! ふん!」

 

 一夏が力を入れて千冬さんの腰を揉んでいる。

 ……これはまさか。

 一夏の背後に回ってみる。

 力を入れてマッサージするには腕の力だけではダメだ。

 全身を使い上手く体を使えなければならない。

 そう、一夏のお尻は今上下に動きている。

 つまり――

 

「ふん!(ぷり) ふん!(ぷり) ふん!(ぷり)」

 

 って感じだ。

 理想は尻を横に振って欲しいんだが、もうこれでいいか。

 この一夏のお尻が上下に動く動画だけで束さんの怒りを鎮められそうじゃね?

 一夏ヒップの真後ろに流々武ヘッド召喚からのステルスモード!

 一夏のお尻を撮影開始!

 

「ねぇシン兄、なんで一夏のお尻をガン見してるの?」

 

 おっと、いつの間にか冷たい目で俺を見下ろすリンちゃんが居るぞ。

 そだねー、俺が見てる必要ないよねー。

 

「一夏の尻が大きくなった気がしてな。一夏、柳韻先生が居なくなって弛んでるんじゃないのか?」

「え? そうですか?」

 

 一夏が驚いて自分でお尻を揉んで確認する。

 その絵もまた束さんへのご褒美です。

 

「なんだ、一夏は太ったのか? 今の先生は柳韻先生ほど厳しくないから、多少は筋肉が落ちてるかもしれんな」

「新しい人って柳韻先生の教え子で警察官でしたっけ? 厳しいイメージがありますけど」

「オリンピック強化指定選手みたいな本気の相手には厳しいさ。だが子供相手には剣道の楽しさを教えるタイプの人だ」

「それと食事が豪華になったのもあるかも。千冬姉が働く様になってから食卓の品が増えたし」

「たまにうちにも来るしね」

「鈴の家の回鍋肉や青椒肉絲はご飯が止まらなくなるくらい美味しいからな」

「健康的で良いじゃないか。育ち盛りなんだからじゃんじゃん食え」

「とは言え一夏、健康的の範疇なら良いが、無駄に太り始めたら私とダイエットだな」

「千冬さんが提案するダイエットとか怖そう。ダイエット方法は?」

「ひたすら私と打ち合いだ」

「それは地獄だな。でも確かに痩せれそうだ」

「うーん、俺的にはそれはそれで楽しそうかも。最近は千冬姉と打ち合ってないし」

「もしやるなら応援するわよ」

「冗談だよ鈴。俺だって命が惜しい」

「なんだ根性がないな。神一郎、そう言えばお前も少し太ってきたんじゃないか? 道場を辞めて運動不足みたいだし、私が相手になるぞ?」

「世界最強が小学生をサンドバッグ代わりにするなよ」

「応援しますよ神一郎さん」

「えぇ、応援するわシン兄」

「後輩二人があっさりと俺を売りよる」

 

 マッサージを受ける千冬さんとマッサージをする一夏。

 それを眺める俺とリン。

 四種の笑い声が部屋に響く。

 いいなーこれ。

 このまったりした空気、最高。

 冬になってから怒涛の忙しさだった。

 無人島を開拓して人攫いして密室に閉じ込められて……頑張ったよ俺。

 でもその元凶が一人で暗い部屋で待機してるかと思うと心がほっこりするね! 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~……うわ暗っ」

 

 すっかり日が暮れそろそろ夕飯の時間だということで、自分の部屋に戻って来た。

 束さんがどんな顔で迎えてくれるのか期待してたが、まさかの無反応である。

 んー?

 

「束さん居ませんね。怒って帰ったのかな?」

 

 明かりを点けて部屋を見回すが束さんの姿がない。

 ハブされたのが流石に堪えたか。 

 

「いや居るぞ」

「マジで?」

「あぁ、そこだ」

 

 千冬さんの視線の先は束さんが最初に現れた布団がしまってある押入れ。

 ま? 束さんそこに居るの?

 押入れに近付いてゆっくり開ける。

 が、そこにあったのはただの布団だ。

 

「下だ」

 

 下?

 

「……私を虐めて楽しい?」

「ひえぇ!?」

 

 なんかいた!? 下の段に体育座りしている妖怪が居るッ!?

 暗闇の中で恨めしそうに俺を睨んでる!

 いやよく見ると暗闇の中でぴょこぴょこ動くうさ耳のシルエットが……この黒い塊はまさか……。

 

「束さん?」

「……この水虫持ちの指名手配者で賞金首のダメ人間になにか用?」

 

 やだ可愛い。

 ここまで弱ってる束さん珍しいわ。

 母性が芽生える可愛さだわ。

 

「なにをくねくねしてるんだ気持ち悪い」

「あ、すみません」

 

 俺の母性は気持ち悪いらしい。

 なんかごめんさい。

 

「で、なに?」

「いやなにって……特に用はないんですけど」

「だよねないよね。どーぜ私は嫌われ者だもん」

 

 うーわ、らしくもなくジメっとした暗いオーラ纏ってるよ。

 でも面倒な束さんもまた良し!

 このまま放置でもいいんだけど、流石にちょっと罪悪感がね?

 もう少し余裕があるかと思ったが、思いの外ダメージを食らってたみたいだ。

 

 段々と日が落ちて暗くなる部屋。

 別の部屋から聞こえてくる友達たちの笑い声。

 

 うん! 俺でもダメージ食らいそうなシチュエーションだわ!

 ハブにしてごめんね束さん! 

 お詫びとしてお兄ちゃんがいっぱい甘やかしちゃうぞ!

 

「ほら束さん、まずはそっから出ようか」

「うぅー!」

 

 いやいやと抵抗する束さんの腕を引っ張って……引っ張って……力つぇーなおい!

 俺の腕力で引きずり出すのは無理!

 抵抗すんなやすんなり出てこい!

 流々武腕部展開!

 

「どっせーい!」

「やー!」

 

 ISを使ってなんとか引っ張っり出す事に成功。

 体育座りなんて力を入れ辛い姿勢のくせに、IS使ってなんとかってどんだけだよお前!

 

「あかるい……まぶしい……くらやみがほしい……」

 

 束さんが照明の灯りに照らされ、産まれたばかりの小鹿の様にへっぴり腰でぷるぷる震える。

 暗闇が欲しいならくれてやろう。

 

「はい束さん、流々武ヘッドを被れば眩しくないよ」

「うぅぅぅ」

 

 束さんはクズりながらも素直に流々武ヘッドを頭に被る。

 相変わらず俺の流々武からうさ耳生えてるのがシュールだ。

 さて、ではでは魅惑の一夏お色気シーンの始まりだよー。

 

「……ほ?」

 

 束さんの震えがピタリと止まった。

 

「……まさかこれは――ッ」」

 

 嬉しそうな声で束さんがお尻をフリフリ動かす。

 ドアップで映る一夏のお尻に魅了されるが良い!

 俺は束さんのお尻に魅了されるね!

 

「うへへへ」

 

 束さんが一夏のお尻動画で下品な声を上げる。

 まったく、少しは俺を見習って上品に生きて欲しいよ。

 

「ぐへへ」

 

 浴衣のお尻っていいよねー。

 

「なぁ、馬鹿二人が気持ち悪い笑いをしてる時、私はどうすればいいんだ?」

 

 酒でも飲んでろ!

 俺は束さんのお尻を見るのに忙しいんだ!

 

「あ、動画終わっちゃった。ふぅ堪能した、束復活! あれ? しー君は? 珍しく役に立ったから褒めようと思ったのに」

 

 流々武ヘッドを外した束さんが俺を探して部屋を見回す。

 俺をお探しで?

 

「後ろだ」

「後ろ?」

 

 束さんが振り返り、そこから視線を下げて俺と目が合った。

 へろー?

 

「ふんっ!」

「おぼっ!?」

 

 馬並みの後ろ蹴りが俺の顔面に叩き込まれた。

 酷い! 俺はただしゃがんでお尻をガン見してただけなのに!

 

「鼻血なんてだしちゃってこのスケベーはまったく!」

「お約束の反応をありがとう」

 

 お前が蹴ったからだ! なんて言い返しはしない。

 それよりもこの綺麗な部屋に血痕を残さない様にする方が大事!

 急ぎ備え付けのボックスティッシュの元へ。

 ティッシュで鼻を押さえてから、こよりを作って鼻の穴に詰め込む。

 こんなもんかな。

 

「さてと、そろそろ夕飯の時間ですけど束さんはどうします?」

「鼻にティッシュを詰めたまま自然に話を進めるの普通に凄いと思う。で晩御飯だっけ? それはもちろん――」

 

 コンコン

 

 ノック音で束さんの言葉が遮られる。

 束さんは素早く押入れに入り自分で襖を閉めた。

 その場所がお気に入りなのかな?

 

「お食事をお持ちしました」

 

 ドアを開けると中居さんが二人。

 カートに乗せた料理を次々と部屋の中に運び入れる。

 テーブルの上に豪華な料理が並んでいく光景は心が踊る。

 いやはや、これは期待できるぞ。

 目で見てるだけで美味いと感じる視覚の暴力!

 

「うほー!」

 

 イワナの塩焼きに山菜の天ぷら、刺身にたけのこの煮物ときて茶碗蒸しもある。

 他にも汁物や漬物もあるぞ!

 

「これは美味しそうですね」

「なぁ神一郎、瓶ビールを出してもいいか?」

 

 部屋の備え付けの冷蔵庫には飲み物が最初から入ってる場合がある。 

 飲んだらチェックアウト時にお金を支払うシステムだ。

 瓶ビールか……瓶ビールね。

 

「もちろんですとも!」

 

 缶ビールもあるけどさー、こんな豪華の日本料理のお供にするなら瓶ビールだよね。

 冷蔵庫から瓶ビールを出してコップを二つ用意。

 片方を千冬さんに渡す。 

 

「悪い」

「いえいえ」

 

 千冬さんが少しばつが悪い顔をするのはこの旅行の代金を俺が払っているからだ。

 気にしないでいいよ。

 どうぜモンド・グロッソで儲けたお金だからね!

 

「よいしょっと。あ、私はいらないから気にしないで」

「ほいほい」

 

 束さんが押入れから出てきた。

 ここには二人分の料理しかない訳だが。 

 

「束さんはどうします? 途中サービスエリアで買ったご当地カップ焼きそばならありますけど」

「私の事は気にしないでいいよー」

「さよで」

 

 まぁ子供じゃないんだから好きに自分で用意するだろ。

 座布団に座って瓶ビールを開ける。

 

「どうぞ」

 

 千冬さんに瓶ビールを差し出してコップにビール注ぐ。

 そして自分の分も。

 トクトクと聞こえるビールをコップに注ぐ音、この音が酒飲みにとって最高のBGMなのだ!

 テーブルに並ぶ豪華な日本料理の数々、対面には世界で一番有名な女性、小金色のビール、そして隣に座る天災科学者!

 なんて素晴らしい時間なんだ! まるで人生勝ち組男の晩餐だな!

 …………なんか余計なものが混ざってたな?

 

「束さん?」

「うん?」

 

 隣に座る束さんの顔を見る。

 俺を見返す束さんの笑顔のなんて綺麗な事か。

 ……綺麗な笑顔かー。

 束さんの綺麗な笑顔ってさ、信用できないよね?

 ところで手元にある箸はどっから出したの? やけに見覚えるけど、それって俺の拡張領域に入ってるアウトドア用の箸では?

 まさか、だよね?

 

「ふぅ……」

 

 千冬さんが手に持ったコップを置いて静かに目を閉じる。

 まさかこれから起こる事を予期して精神統一を!?

 いかん! このままじゃ出遅れる!

 俺もこの浮ついた心を静め、闘争に備えなければ――ッ!

 

 パンッ!

 

 束さんが両手を合わせる。

 それに合わせ場の空気の緊張感が一気に高まる。

 待って! 待って束さん! 俺まだ心の準備ができてない!

 

「いただきすっ!」

 

 だが俺の願いは届かず、束さんがスタートの合図を出してしまった。

 あぁ……訓練された俺たち日本人は、その言葉を聞いてしまうと無条件で続いてしまうのだ。

 

「いただきます」

「いただきますッ!」

 

 千冬さんも俺と一緒に箸を手に取り――

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

 まずは海老天! 今は好物を先に食べる作戦が吉ッ!

 プルプリの海老天が俺の箸に――掴まれてない!

 

「あ~む。んー、これは匠の技、ぷるぷるの海老がたまりませんな~」

 

 俺の海老天は横から伸びてきた束さんの箸に攫われ、哀れにもそのまま口に入って行った。

 やっぱりこの女、俺と千冬さんのご飯を奪う気だ!

 

「―――――、――――」

 

 千冬さんは無言で次々に料理を口に運んでいる。

 静かなのに超特急の食事風景だ。

 口に物を入れては時々ビールを流し込む。

 優雅な日本食の食べ方じゃねー。

 俺も負けてられるか!

 お前の海老天をよこせ!

 

 ガッ!

 

 海老天の尻尾を掴んだ瞬間、千冬さんが海老天の胴体を箸で掴んだ。

 俺と千冬さんの間で海老天の取り合いが始まる。

 

「これは私の海老天だが?」

「可愛い小学生に海老の一匹くらい譲ってくださいよ」

 

 ぐぐぐぐっ……ブチッ!

 

 海老天は綺麗に分かれた。

 尻尾と胴体に――

 別にいいし! 俺って海老天の尻尾を食う派の人間だから! 海老のケンの身とかむしろ好物だし!

 ほら美味い! 海老の尻尾はサクサク美味いなー!

 

「ふっ、この私から奪えると思うなよ」

「あ、ちーちゃんのたけのこ貰うね」

 

 束さんの手が伸び、千冬さんサイドの小鉢に乗っていたたけのこの煮物を奪う。

 千冬さんの額に青筋が浮かんだ。

 おっかしいなー、穏やかな夕飯の時間なのになんでこうも殺伐とするのか。

 

「束、少しは自重する気はないのか?」

「ほんとそれ、大人しくインスタントでも食ってろ」

「私知ってるよ。なんだかんだで二人は今の状況を楽しんでるって」

 

 この状況で笑ってる束さんは流石だ。

 気落ちしたままの状況で放置してとけば良かったと、そんな後悔が襲う。

 さーて、俺の心も今の状況に適応してきたぞ。

 

「いいか! 私のマグロに絶対に手を出すなよ!」

「俺のイワナにもな!」

「つまりそれ以外はいいと? 全部食べ切れるかな?」

 

 三者三様睨み合う。

 絶対に負けられない戦いだ。

 ……いざ勝負!

 

「しー君のイワナの塩焼き貰うね」

「させるかッ!」

「代わりにお前のたけのこ貰うぞ」

「なんの代わり!? 自分の食えやッ!」

「私のはすでに束の胃の中だ」

「あ、ちーちゃんの和牛のロースト半分貰っていい? 仲良くシェアしようよ」

「おい止めろ! 私の料理に触るな!」

「んじゃ俺が代わりに千冬さんのイワナ食いますね」

「なんの代わりだッ!? 自分のを食え!」

「俺のは束さんの胃の中です」

 

 俺と千冬さんがイワナを引っ張り合う中、横では束さんが余裕の表情で料理に手を伸ばす。

 このままでは負ける!

 丸ごと奪うのは諦め、箸でイワナの身の一部をもぎ取り口に運ぶ。

 うまぁ~! これは米が進む。

 千冬さんは俺に奪われまいと慌てて残りのイワナを口に運ぶ。

 それを見ながら俺は束さんとカボチャの天ぷらを巡って攻防中。

 お前に食わせる天ぷらはねぇ!

 千冬さんが食べ終わったイワナを皿に置く。

 今がチャンスだ!

 

「これでも食らえ! 僅かに身が残った千冬さんの食べ終わったイワナ!」

「がうっ!」

 

 左手で掴んだイワナを束さんの真上に投げると束さんが見事に食いついた。

 イワナを頭から飲み込む姿はシャチを彷彿とさせる。

 

「あぐあぐ」

 

 千冬さんとの間接キスを楽しんでる今がチャンスだ!

 

「お前なんて真似を!」

「文句言いながら手は止めないんですね」

 

 俺を睨みながらも千冬さんは手を止めない。

 まずはマグロですか。

 好物は先に食べる作戦だね。

 俺は茶碗蒸しだ。

 アツアツをゆっくり食べたいもん。

 あ~冬場に食べる茶碗蒸しはなんて美味いだ。

 ダシも上品で最高!

 

 がつがつ!

 がつがつ!

 

 束さんの手を止まってるチャンスを逃さず食い漁る。

 だがそろそろ束さんが食べ終わりそうだ。

 次なる一手はどうするべきか。

 

 バリボリ……ごくん。

 

 川魚を頭から丸かじりして飲み込む女、篠ノ之束。

 その顔は恍惚としていた。

 千冬さんの唾液は美味しかったかい?

 まじやべー女だよ束さん!

 正面からでは勝てる気がしない。

 腕力、動体視力、全てが劣っている俺は搦め手で攻める!

 

「束さんおかわり!」

「はぁー幸せだった。ん? おかわりってなに?」

「なにってご飯のおかわりです。おひつに近い人間がおかわり係をやる。それが世界のルールでしょうが」

「だな。私のも頼む」

「世界のルールなら仕方がないね!」

 

 束さんがせっせとご飯をよそう中、俺と千冬さんは料理を貪る。

 次なる手はどうするか。

 

「はいおかわり!」

「あぁ」

「どうもです」

 

 搦め手は有効だが、必要以上に追い詰めるとどう爆発するか分からない。

 だから適度に料理を食べさせる必要がある。

 俺の料理以外をなッ!

 

「はい束さん、この茶碗蒸し美味しいよ」

「お? しー君のオススメなら貰おうかな」

「神一郎キサマッ!?」

 

 千冬さんサイドの茶碗蒸しを奪い束さんの前に置く。

 甘いぞ織斑千冬! ここは戦場なのだ!

 束さんはゆっくり茶碗蒸しをお食べなさい!

 

「あつつ……ん、これは確かにこれは美味しい茶碗蒸しだね」

「優しさを見せたのが間違いだった。私が本気を出せば――」

「俺のマグロがッ!?」

 

 卓上からマグロの切り身が一瞬でなくなる。

 大人げない! なんて大人げないんだ!

 戦場だって子供にハンデがあっていいと思う!

 こうなれば禁断のあの技、とあるジャンプ作品から学んだあの技を使うしかない!

 

「は……はぁ……」

 

 くしゃみで料理を汚染する!

 俺の唾液付きでも食べる事が出来るなら食べてみやがれ!

 

「甘い」

「ぽっ!?」

 

 千冬さんが箸で弾き飛ばしたナニカが口の中に飛び込んできた。

 ってから~~~~!!

 ワサビの塊だこれ!?

 

「そう易々と馬鹿な真似を許してたまるか」

 

 くそ! 流石は世界最強だ! 攻守に隙がない!

 

「あ~美味しかった。次はなにを食べようかな」

 

 お茶でワサビを流し込んだタイミングで束さんが戦線に戻って来た。

 これから始まるのは第三ラウンドか?

 ええい負けん! 俺は負けんぞ!

 流々武起動! 腕部展開! ハイパーセンサーフル稼働!

 

「かかってこいやぁぁぁぁ!」

「あ、いいの? んじゃ遠慮なくその芽キャベツ貰うね」

「私はカツオのたたきを」

 

 俺の春の味覚がぁぁぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっちゃけ食い足りない。腹六分目って感じ」

 

 食事を終えて三人仲良くお茶を飲む。

 だが俺の胃は全然満足してなかった。

 

「同じく」

「私はそこそこかな? デザート程度ならまだ入るけど?」

 

 俺と同じ不満げな顔を千冬さんと違い、束さんは満足気に自分のお腹をぽんぽん叩いた。

 

「……千冬さん」

「……了解だ」

「えっなに? なんでちーちゃんは後ろから私を押さえるの?」

 

 なんでって? それはお仕置きする為だよ。

 

「こちょこちょこちょ」

「あははははっ!」

 

 篠ノ之流最終奥義の箸二刀流は見事だった。

 俺と千冬さんが力を合わさせても太刀打ちできなかったからな。

 片方の手で千冬さんと戦いつつ、残りの手で俺の口に刺身のツマを突っ込むのは卑怯だろうが!

 

「俺のデザートのイチゴを食っておいてそのセリフか」

「あははっ!」

  

 適当な所でくすぐりを止めてやる。

 まったく、途中参戦のくせに人一倍食いやがって。  

 

「ふぅ……お高いイチゴは粒が大きくて甘くて大変美味でした」

 

 まだ煽るかこいつは。

 千冬さんもやれやれ顔で束さんを解放した。

 俺もお高いイチゴ食べたかったなー!

 勢いでISを使用したが、思わず箸を握り締めて折ってしまったのは失敗だったな。

 食事の終わったテーブルを見渡す。

 三人で争うように食べたが、散らかってないのが逆に凄いな。

 さて、旅館の料理は一人前と見れば多めだが、三人で分ければ足りなくなるのは当たり前。 

 手持ちの食料は酒のツマミとご当地カップ焼きそば。

 でも違うんだよなー。 

 なんていうか、今はまだ“晩御飯”を食べたい気分なんだよね。

 となると――

 

「もしもし一夏? うんそう、こっちは食べ終わったよ。そっちは?」

 

 ケータイで一夏に電話してみる。

 あっちは子供が二人だからワンチャンあるかも。

 

「ねぇちーちゃん、もしかしてしー君て」

「あぁ、一夏たちの料理が狙いだな。卑しい男だ」

 

 その卑しい俺から料理を奪った卑しい女ズは黙っとれ!

 

「そうそう、ここの料理結構量があるよね。――食べきれそう? 美味しくて箸が止まらない? そっか、それは良かった。――あぁうん、用ってほどじゃないんだ。それじゃあ邪魔して悪かったね」

 

 残念、一夏もリンも美味しく食べ切れそうだ。

 

「ぷっ、目論見外れてやんの」

「うっさいわい! こんな微妙な腹具合じゃ夜中に腹減るわ!」

 

 一夏卓にお邪魔する計画は絶たれた。

 ルームサービスで料理の追加を頼めるが、今はもう受付時間が終わっている。

 なので旅館の料理をおかわりは出来ない。

 ふむ、こうなった仕方がないな。

 

「はいじゃあ買い出しじゃんけん始めるよー」

「お?」

「ん?」

 

 立ち上がって二人の視線を集める。

 何故ぽかんとした表情でいるのか……察しが悪いぞ。

 

「ここは山奥、近くにコンビニなんかはない。だが幸いここにはISがあり、操縦者が三人もいる」

 

 にやりと笑って二人を見下ろす。

 分かるよね?

 

「しー君」

「はい?」

 

 束さんが真剣な目で俺を見つめる。

 なんぞ問題でも?

 

「流々武はしー君の専用機、しー君の為だけに存在するISだよ? 気軽に貸したりするのは良くないと思うんだ。……分かるね?」

「それ、遠回しに俺に行けって言ってるだけでは?」

「うん」

「うんじゃないんだよ」

 

 時々流々武の制御権奪ってるクセに都合が悪くなるとこれだもの。

 

「ちぇー、結果は見えてるのに時間の無駄だと思うなー。まぁそれでしー君が満足するなら付き合ってあげるよ」

 

 はい束さんは参戦ね。

 

「千冬さんはどうします?」

「いいぞ」

「……意外とあっさり受け入れますね?」

「買い出し“じゃんけん”だろ? 負ける気がしないな」

 

 そうね、俺だって勝てる気がしない。

 この二人と千回じゃんけんしたって勝てないだろう。

 だか当方に秘策あり!

 

「ハンデ貰っていいですか? まさか世界に名を轟かすお二人が小学生相手にハンデなしなんで言わないよね?」

「うわぁ情けない。でもいいよ、しー君が程度なハンデがあっても余裕だし」

「ハンデの内容次第だ」

 

 よっしゃ! まずは勝利への第一歩!

 ふん、そうやって驕ってるがいいさ!

 

「ちょっと聞きますけど、二人のじゃんけんの必勝法は?」

「出される瞬間の手の動きを見ればいい。相手に合わせて自分の手を変えるだけで勝てる」

「普通に筋肉の動き見ればいいだけじゃん。世の中のじゃんけんに負ける連中の気持ちが理解できない私です」

 

 よーし想像通りの人外っぷりだ!

 大丈夫大丈夫、まだ予想の範囲だから。

 

「ならハンデとして二人には目を閉じて貰います」

「その程度ならいいよ。ね、ちーちゃん」

「あぁ、そのくらいなら問題ない」

「でもこっちが目を閉じてるからって後出ししたり、出してから手を変えたりしたら折るからね?」

「そうだな、折る」

 

 どこのナニを折るんですかね? 指? それとも残りの肋骨? どちらにせよ怖いから不正はしませんとも!

 

「不正なんてする訳ないじゃないですか。では商談成立。負けたらISで買い出し、いいですね?」

「いいぞ」

「うん、いいよ」

 

 束さんが目を閉じる。

 千冬さんも目を閉じるが、何故か俺の右肩に手を置いた。

 

「千冬さん?」

「気にするな。ちょっとした呪いだ」

 

 千冬さんが呪いとか俄然気になるが、肩に手を置いた程度でじゃんけんに勝てるの?

 ……うーん、約束通り目を閉じてるから。

 

「準備はいいですか? じゃん! けん! ――」

 

 ぽん!

 

 グー

 パー

 パー

 

 ……あれー?

 

「結果は出たね。よろしく」

「重めのを頼む」

「ちょっとだけ待って! お願いだから!」

 

 なんで平然と勝ってるの? 偶然かと思ったけど二人とも勝って当然の顔してるし。

 

「なんで俺がグーを出すと?」

「私は筋肉の動きを感じた。手によって力の入り方が微妙に変わるからな」

 

 なるほど、俺に触れてたのはその為か。

 肩に触るだけで分かるんか。

 

「束さんは? やっぱり俺の手を計算してとか?」

「そんな事に思考能力を使うなんてカロリーの無駄じゃん。風の当たり具合で判断しただけだよ」

 

 風の当たり具合? じゃんけんで風の当たり具合ですか。

 そりゃね、グーとパーじゃ起きる風の動きが違う感じはするけどさー……世界最高の頭脳が手抜きするなよ!

 適当にやっても勝てるとかなんか悲しくなるわ!

 はぁ……しゃーなしだな。

 素直に負けを認めよう。

 

「で、千冬さんは重い物?」

「ここの料理は非常に素晴らしかった。だがな、どうにも……」

「気持ちは満足しても体は満足してない。そんな感じですかね?」

「その通りだ」

 

 その気持ちは社会人なら経験するものだ。

 休日の前日、仕事を終わらせたらなにを食べる?

 寿司? パスタ? いやいやそんなんじゃ満足できない。

 がっつり肉や豚骨ラーメン食べたいよね。

 心の疲れは美味しい料理で癒せるが、体の疲れはがっつり食わなきゃ癒されないもん。

 

「束さんは甘い物でいいの?」

「だねー。あっでも、フルーツとかじゃなくて、甘くて食いでがあるものがいいな」

 

 饅頭とかドーナツとかかな?

 おけ把握。

 流石に浴衣じゃ買い物できないから私服に着替える。

 庭に出て流々武を展開。

 

「行ってきま~す」

「いてらー」

「ISを見られない様に気を付けるんだぞ」

 

 二人に見送られ、俺は山奥の旅館から飛び立った。

 




とある旅館のとある部屋

〇大人部屋

ち「やるぞ神一郎! これ以上束に好き勝手させるな!(ガチ)」
し「了解! 腕部ステルスモード! この見えない腕でお前の全てを奪う!(ガチ)」
た「二刀流モード! 甘い甘い! ちーちゃんが二人いるならともかく、相棒がしー君ならまだ対応できる!」

〇子供部屋

り「凄く上品で美味しいね一夏」
い「うん、美味しいね鈴」
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