俺は生きている。
この世界に、生きている。
食べて、動いて、皆と笑いながら、この世界で生きている。
だが、そんな日常はもう昔の話。
ほんの十年で高層ビルは倒壊し、コンクリートを草が貫き、仲間たちを次々と飲み込んでいった。たった十年ぽっちで世界の常識が根っこから変わるなんて今まで思ったことはなかった。
ギュルルルルル(腹の虫の音)
?「・・・そうか。」
そして今、俺たちが最も欲していて、最も不十分なことがある。それは回数も、種類も、一緒にする仲間も少なくなっている。
ゴゴゴゴゴゴゴ(地面の揺れ)
?「・・・」
地が揺れる。ただの地震ではない。草原の草花が不自然に揺れ、地中がカルメ焼き(砂糖水に重曹と卵を加えた菓子)のように膨れ上がる。
?「・・・・来たか。」
突如、地中から大きな影が跳ね上がる。五メートルはあるだろうか、全身は紫色で両手に鉤爪を生やしたモグラのような生物が空を舞った。見た目からしてこの巨体が乗っかってきた場合、為す術なく潰されるのがオチだろうが、そうはいかない。
俺はその巨体が落ちる直前でウサギのごとく横に跳び、ギリギリのところで避けた。巨体は地面へと落下し、またもや地震が起きるが立てない訳じゃない。むしろここで立てなかったらハンター失格だ。俺は腰のダガーナイフを手にとり巨体の前方へと突っ込む。
この巨体には良く見ないと分からない小さな紫の鱗が全身に付いており、背や腹を斬ろうとしても歯が立たない。
だがどんな物にも弱点はある。この巨体の頭、正確には口元だが、そこは人間と同じように食物を取り込むための口が備わっている。この生物に歯はなく、肉質が柔らかいため唯一刃が通る。もちろん生物だから呼吸もする、ここまで体が大きいと一度地中から跳ぶだけでかなりの体力を持ってかれる。つまり、より大きく呼吸をしなければならないため動きが鈍る。
ここまで言えば分かるだろう。今こいつは跳んだばかり、だから大きな隙ができた。
?「さあ・・」
心臓が高鳴る、この感情、久しぶりの、
?「食事の時間だ」
俺は口元めがけ、ダガーナイフを振り上げ・・・強く振り下ろした。
ザクッ ザクッ
俺はもう片方の腰にあった剥ぎ取り用のナイフで、巨体の一部を剥ぎ取り口の中に放り込んだ。
?「・・・・うん、これは!」
そう、これは、
?「芋だああああああああ!!」
口の中に懐かしい味が広がる。
?「うんうん!この甘い香りと味、うまい!いやあ、最近になってこいつらが近くを通るって噂聞いたから来てみたけど、大当たり・・・ん?」
俺が豪華な(でもない)食事を一人楽しんでいると、向こうの方から一匹の馬らしき生き物がこちらに走ってくるのが分かる。でも良く見ると馬じゃない、今倒したこの生物のように紫の体色だが、大きさは馬と変わりはしない。
?「ああ、あいつも終わったのか。」
その生物の上には鉄製の鎧を着て兜を被った人物が乗っている。そいつが俺の近くまで来て兜を外した。
??「おい、そっちは終わったか?」
?「ああ、見てみろよ。この規格外の・・」
??「サツマンドラ!?」
この時期、毎年ではないがそこらに現れることのある巨大生物。紫の鱗を全身にまとい、左右の腕に鉤爪を備えた生物。
サツマンドラ
生物ではあるが、こいつから剥ぎ取れるのは肉じゃない、「芋」だ。
??「こんな馬鹿でかい奴、初めて見たぞ!?というか勝手に戦うなっつっただろ!命の危険もあるから、異常があったら隊長である俺に言えって!」
?「食いたいって衝動に駆られた。人間だったらそういう欲に勝てる奴なんてそうそういない、だろ?那須田隊長。」
那須田「ま、まあ、そうだが・・・それでも危険な物にわざわざ突っ込もうとするな!良いな?」
?「りょーかいです。俺も適度に言うこと聞きますよ。」
那須田「はあ、お前はいつになっても変わらないな、竜也。」
竜也「・・・そうか、育男。十年立っても変わりやしない。」
十年前、俺、「桐野 竜也」がまだ普通の高校生だった頃。あの時辺りだったのだろうか。俺の日常が変わり始めたのは。
~図鑑No.001~
サツマンドラ[薩摩土龍](元・さつまいも)
地を這いずって移動する肉食物。両手の爪を使って地中に潜り、その上に獲物が近づいたときに襲いかかる。この巨体ゆえ地中から出てきた後には大きな隙ができるため、唯一肉質の柔らかい口元を狙うハンターが数多い。