まったり転生~魔獣創造を手に入れし者   作:ドブ

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タイトルがまったり転生だから・・・・・・

「レオ君、今日の一限目の数学なんですけど」

 

 

この世の春がついに来てしまった。

 

 

キルキルちゃんとミサカを放置プレイにしてルンルン気分で旧校舎のオカルト研究部を訪れた僕を待っていたのはいつにも増して積極的な小猫ちゃんだった。

 

 

今もそうだ。話題が話題だからどうとっていいものかわからないけど距離が近い。僕はこの部室に来ていつもの定位置であるソファに座ったのだが、普段は対面やや右に座っている小猫ちゃんが僕が来るなりに同じソファに座ったのだ!

 

 

こ、これは…………僕は懸命に伸びそうになる鼻の下を誤魔化して何とか小猫ちゃんの麗しの唇から放たれる話題を捌いていく。

 

 

いいにおいがする、食欲をそそるような甘いお菓子の香りだ。これはあれか、食べてもいいよ先輩❤ ってことなのか。僕先輩じゃないけど。同じ学年だけれども。

 

 

これはいかんと尻でずりずりとソファの端に寄っていく。このままじゃ理性が崩壊する。鼻血が出る。

 

 

しかし、小猫ちゃんはそんな僕を知ってか知らずか、僕が身体を離す距離分きっちり律儀に身体を詰めてくる。

 

 

どうゆうことなの…………食べていいのこれ。

 

 

至近距離で目を合わせる小猫ちゃんの顔がかわいくて辛い。

 

 

眠そうに垂れ下がった目尻の端から爛々と洩れる光には常ならぬ興奮が見て取れて誘っているようにしか見えないし、座高の関係上、やや上向き加減にこちらに差し出される小顔も端正さが引きたてられている。小さな鼻がピクピク動いているのが確認できるような距離だ。目を凝らせば小猫ちゃんの唇のしわまで数えられるような気がしてならない。視線がそこに吸い込まれていきそうになるところを理性が押しとどめる。

 

 

本格的にまずいけど、これはもう攻略完了か、完了なのか。キスぐらいいけそうなレベルなのか。いっちゃってもいいのか。

 

 

「う~ん。今日の小猫はやけに積極的ね」

 

 

「そうですわね、なんだか可愛い弟を盗られたような気分ですわ」

 

 

二人の遠目のやり取りに我に返って熱を冷ますように首をブンブン振った。

 

 

あ、あぶない、ここがオカルト研究部だということを忘れそうになっていた。げに恐ろしきはいたいけな少女の色香か。

 

 

「二人とも私たちの知らない間に何かあったの?」

 

 

リアス部長にそう問いかけられるが、確たるきっかけに心当たりはない。強いて言えば日ごろの行いじゃないだろうか。連日のアピール攻勢が功を奏したとか。

 

 

「はい、ありました…………ね、レオ君」

 

 

え? 何かあった……………のか? 僕にはまるで見当がつかない。どういうことだ、今日ここに来るまでに小猫ちゃんとの間にこんなにも距離を縮めるイベントがあった、とでも言うのか。いや、わからん。そんな微笑まれても僕には通ずる部分がない。

 

 

「え、あ、う、ううん」

 

 

しかし、ここで否定するのはどうなのか。安易に否定すれば、せっかく積み上げてきた小猫ちゃんの好感度に差し障りがあるかもしれない。

 

 

返答は曖昧になった。小猫ちゃんの目が細められた。

 

 

いや、え、え、えええええ。

 

 

「へぇ、なにがあったのかしら、気になるわね」

 

 

そんな僕の困惑をよそにリアス部長は楽しげに探りを入れてくる。うん、僕も気になる。是非とも教えてほしい。いったい何があった!?

 

 

「昼休みにちょっと…………」

 

 

昼休み!? 昼休みに何かあったのか?

 

 

「…………あの時の返事聞かせてくれませんか」

 

 

いやいやいやいやいやいやいや。

 

 

なに、この意味深な発言!? わからん!! ここは早急に撤退すべきだ!!

 

 

しかし小猫ちゃんは目を眇めて詰問するように僕ににじり寄ってくる。後ずさるも後がない。ソファの肘掛けを背にして身を引いた僕の身体に小さな手を乗っけて四つん這いになって僕に顔を近づける。

 

 

あ、やべ、なんかもうどうでもよくなってきた。

 

 

鼻をくんかくんかさせ、甘ったれたように鼻を鳴らす小猫ちゃんが目の前にいる。答えを迫るように目を瞬き首をかしげてくる。

 

 

小猫ちゃんマジ小猫ちゃん。

 

 

「レオ君?」

 

 

未だに状況はよくわからないけど、ああそうだなきっとこれは夢なんだな、と自分に都合のよすぎる展開に説明をつける。あんまりに小猫ちゃんを想いすぎて生まれた痛々しい妄想なんだ、と。ご都合主義の展開ではあるけど夢なら仕方ない。夢ならどんなことがあっても、何をやってもいいんじゃないかな。例えばチューしたりベロチューしたりおっぱいもんだり(!?)ほむほむしたり。

 

 

「ああ、うんそうだね、小猫ちゃんさえよければ――――」

 

 

何をやってもいいんだ、と適当な受け答えをして伸ばした手はわきわきと怪しく動いていた。目は爛々と少年のように純粋(ピュア)な目をしていたし、何より。

 

 

下半身は異常なまでに叫んでいた。

 

 

この者を倒せるのは今この瞬間、汝の覇道の力しかない、と。

 

 

時を得た化け物はここぞとばかりに声を張り上げる。

 

 

我、目覚めるは覇の理を貫きし如意棒なり。

無限の精力と性欲を如意棒に称えて、性道をイク。

我、ベッドの上の覇王と成りて――

汝らに誓おう! ピンクに輝く未来を見せると!!

 

 

小猫ちゅわ~ん~~~~~~~~

 

 

僕は覇の理に負けた。

 

 

僕は丹田に力を込めて小猫ちゃんに迫った。視界にはもういっぱいの小猫ちゃんしか見えない!!

 

 

その次の瞬間だった。

 

 

僕の顔に黒いものが迫り、何だよ邪魔だな小猫ちゃんの顔が見えないじゃないかと思ったのも束の間、視界が真っ逆さまに暗転し天井が霞みゆく視界の中に映った。え、なにもう夢が醒めたの、いいところだったのにぃ!? と戯けたことを思っていられたのは後頭部に鈍痛が走るまでの事だった。

 

 

景色は変わらない。天井だ。しかし映っているのは見慣れない天井で断じて僕がいつも起床時に見ている天井ではなかった。

 

 

どゆことなの、と状況を探るに座っていたソファから蹴り落とされたようだと理解した。夢じゃないじゃん、現状認識を改めて虚脱する僕に小猫ちゃんの涼やかな声がかかった。

 

 

「ダウト、です。レオ君、これではっきりしました」

 

 

はっきりしたって、え、なに。ハニートラップか何かですか。いやでもあれはあからさまに迫ってきた小猫ちゃんが悪いんじゃないですかねぇ、と言い訳を考えながら口を開こうとした僕を差し置いて続いた小猫ちゃんの言葉に僕は首をかしげることとなった。

 

 

「部長……レオ君がおかしいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとよくわからないのだけれど。どういうことなの、小猫」

 

 

首をかしげる僕に小猫ちゃんは無情にも冷たい視線を投げかけるだけで取り合おうともしない。そのまま事態がよくわかっていない僕や部長以下眷属一同に向き直り、小猫ちゃんは口火を切った。

 

 

「……そもそも、おかしかったんです」

 

 

「? 何がかしら」

 

 

「……ここにいるときのレオ君……そして私と同じクラスで授業を受けるレオ君……あんまりにも受ける印象が違いすぎます」

 

 

その言葉に首をかしげるリアス部長。それもそうだ、僕が普段授業を受けている姿なんて同学年でもない他の眷属が知るはずもない。彼女らの僕への印象はあくまでこのオカルト研究部での一幕に限るものなのだ。

 

 

「私たちにはよくわからないのだけれど…………」

 

 

「…………皆さんは、レオ君のことどんな感じで捉えていますか?」

 

 

小猫ちゃんが順繰りに眷属を見回すと、視線を当てられた順番通りに眷属たちが答えていく。

 

 

「そうだね。ちょっと女の子が好きでスケベそうではあるけど、基本的にいい子だと思うよ」

 

 

「わたくしも同じですわ。可愛い弟のように思っています」

 

 

「芸が細かくて話も流暢だし、一緒にいて楽しい子だと思うわ。少しむっつりスケベっぽいけど、年相応でかわいいとも思う」

 

 

木場先輩、姫島先輩、リアス部長と僕に対する評価を聞かされる。僕ってスケベそうに見られてたんだ…………レオ君、ショック。

 

 

「私もそう、思います。あくまでオカルト研究部にいるときは、ですけど」

 

 

…………しかし、と僕は背筋に冷や汗を流す。僕にとってこの話の流れは非常に好ましくない。まだいくらでも言い訳がたつ段階にあるがそれにしたって今小猫ちゃんが突いている点は核心に近づきつつある。これは果たして偶然なのか。おかしいという曖昧な指摘が僕の判断を曇らせ、藪蛇を恐れ、口を挟むのをためらわせていた。

 

 

「……クラスにいるときのレオ君は違います。無口で……根暗で……教室では誰とも話さず休み時間になったら机に臥せっている……そんな感じです」

 

 

「へぇ、意外ね」

 

 

「いや、あのそれは、僕人見知りだし!! あんまり慣れない人とは話せないっていうか」

 

 

そのことがいずれ指摘されるのは目に見えていたから言い訳も用意していた。しかしその用意も焦りに任せて反射的に口について出たために台無しになった。これでは何かあると言っているようなものではないか。

 

 

落ち着け。あれがバレることはないだろうと確信しているけど後ろめたいことがあるせいがどうにも焦ってしまっている。

 

 

「…………それだけだったらそう思いますけど。でもレオ君、最初のホームルームの挨拶の時はもっとしゃべってましたよね」

 

 

「いや、それは」

 

 

「もっとも…………緊張しすぎて、なに言ってるのかまるでわからなかったですけど」

 

 

僕の黒歴史を的確に抉ってくる小猫ちゃん。レオ君のきゅうしょにあたった!

 

 

「それ以降も誰かに話しかけられても、テンパりすぎて意味が分からなかったですけど」

 

 

こうかはばつぐんだ!!

 

 

「…………ぅ」

 

 

「授業中もあてられたとき、すごいことになってましたよね」

 

 

…………くそ、何が狙いだ、こんちくしょう。さっさと要求を言え。ふーんだ、どうせこちとら幼少期からまともに人と接したことなんてないコミュ障ですよ。悪いかくそ。

 

 

「そういえば私たちと最初に顔合わせしたときもすごい緊張してましたわ」

 

 

かわいかったですわ、と慈愛の笑みを浮かべる姫島先輩。今この時ばかりはそれが止めとなっていることを自覚してくれませんか。

 

 

「……でもそれが始業式から二日後すっかりさっき言ったような無口で根暗なレオ君になってしまったんです」

 

 

心が折れたんだよ。クラスメイト相手にコミュニケーションをとることを諦めたんだよ。無様を晒すことが嫌になったんだよ。

 

 

「だ、だからそれは諦めたというか」

 

 

だからこの期に及んで口に出す言葉に震えが走るのは、もはや醜態の露見を恐れてのことではなかった。

 

 

「私も同じクラスになった手前、心配してました。だから話しかけもしましたけど、クラスにいるレオ君の反応は芳しくない。けれどもオカ研にいるときのレオ君はまるで人が変わった(、、、、、、)かのように話しかけてきます…………すごい違和感を感じてました」

 

 

身体がビクリと震えた。その反応を横目でしっかり捉えた小猫ちゃんは改めて僕と目をしっかり合わせてくる。真実を見極めるように。

 

 

「だけど…………それが何なのか今日やっとわかりました」

 

 

グレモリー眷属たちもどう反応していいのかわからないのか黙って後輩たちのやりとりを見守っている。

 

 

逸る気持ちを抑えて僕はなるべく動揺を見せないように努めた。大丈夫、ばれる要素はないはずだ、と。

 

 

「…………匂いです。教室にいるときのレオ君、今ここにいるレオ君。間違いのないように至近距離で嗅いでみましたけど、全っ然違います」

 

 

匂いだとッ……! 流石に動揺は隠しきれなかった。と自覚するぐらいには驚いてしまっていた。

 

 

盲点だった。

 

 

そういや小猫ちゃん、猫又なんだっけっか…………! 匂いには敏感なはずだ。もしかして他の眷属よりか壁を作られていたのは匂いを無意識下で嗅ぎ取っていたからなのか!?

 

 

「匂いが違うって…………それ」

 

 

小猫ちゃんの不審の理由がわかって、ようやくリアス部長も剣呑に眼を光らす。何かあると気づいたのだろう。それが愛する眷属の言葉ならなおさらにその真偽を確かめようとするに違いなく、僕の血の気がサッと引いた。

 

 

「レオ君…………授業終わって教室からここに来るまでの間なにしてるんですか。いっつも先にそそくさと出るくせに私よりここに着くの遅いですよね」

 

 

さっきとは違った形で迫られ、冷や汗が浮かび上がる。心臓がバクバクと鼓動を速めていく。

 

 

「昼休みに聞いたことの返事…………いえ、昼休みに何を聞いたのかそもそも知っていますか」

 

 

「…………く」

 

 

知るわけがなかった。小猫ちゃんの目がいっそう厳しく細められる。

 

 

「ねぇ、レオナルド、どういうことなの?」

 

 

「ぅ、ぁ、ぅう」

 

 

部長にも詰問の目を向けられ、喉がキュッと振り絞られ意味のない音が漏れた。部室の悪魔たちの視線が一点に僕に集まっていた。

 

 

「…………レオ君がまるで二人いるみたい…………」

 

 

「……………………」

 

 

そして小猫ちゃんの核心を突く言葉。進退ここに窮まれり。そんな状況に置かれた僕の口からついに出た言葉は。

 

 

「…………ぎゃ」

 

 

「?」

 

 

 

 

「ギャァァァァァァァァアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 

身体を反転させて即座撤退!! 扉に向かって、遁走を始める……がそこに至る進路に金髪騎士がさりげなく身体を割り込ませてくるぅ!!

 

 

ならば窓は、と振り返ればそこには腕組みする小猫ちゃんが!!

 

 

「イ、 イヤァァァ!」

 

 

首をブンブン振り回してあたりを見回す僕に見えた救いの光!! 退避が無理なら陣形を整え籠城作戦!! 援軍を援軍を呼べ!!

 

 

僕は部室の隅に置かれていた段ボールに飛びついた。そして飛びつくなり頭から段ボールにこもる。僕は無敵だ、こうしていれば敵に見つからないんだ!! 世間からの冷たい目から逃れることができるんだ!!

 

 

ふるふると段ボールを震わせながら、僕は目を閉じ耳を塞ぐ。

 

 

ああ!! 飢えと渇きに苦しみ、獣の息に怯え、空気の冷たさに肌をかじかませ、泥に塗れて、夜闇に必死で目を瞑り、迫りくる明日に身をすくめる日々が再び!!

 

 

「…………どこかで見たことのある光景だわ」

 

 

「そうですわね…………」

 

 

「…………へたれ」

 

 

「は、はははは」

 

 

外の言葉なんて知らない!! 

 

 

僕は腕時計型電電虫にコールする。

 

 

「もしもし、とミサカは不機嫌ながらも受話器をとります」

 

 

「助けて!! ミサカエモン!!」

 

 

「…………何がどういうことなのかちゃんと説明してください、とミサカは要求します」

 

 

「魔獣に代わりに学校行かせて僕が学校行ってないのがバレた!!!」

 

 

「…………ああ、はい、それで? とミサカは端的に命令を聞きます」

 

 

「助けてぇ!! 外の奴らが僕を世間へと引きずりだそうとしてるんだ!!」

 

 

「さっきはあんなことをしておいて…………いえなんでもないです、すぐ行きます、とミサカは拙速を尊びます」

 

 

よしこれでオッケー!! あとは援軍を待つのみだ!! それまでは断固としてこの段ボールの牙城を守り切ってやる!!

 

 

「…………そういうことだったのね。つくづく魔獣創造って便利ね」

 

 

「歴代の魔獣創造はこんな使い方してなかったと思いますけど」

 

 

王と忠実な騎士との呆れたような会話なんか聞こえないやい!!

 

 

「部長、どうしましょうか?」

 

 

「…………引き剥がしましょうか」

 

 

「いえ、ここで力技に訴えると返って意固地になるかもしれないわ。ここは彼の魔獣が来るまで待ちましょう」

 

 

「流石部長。ひきこもりの扱いに慣れてますわ」

 

 

「…………やめてちょうだい、朱乃」

 

 

くっ、僕はひきこもりなんかじゃないやい!!

 


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