まったり転生~魔獣創造を手に入れし者   作:ドブ

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あけましておめでとうございます。今年も頑張っていきたいと思います。


リアス・グレモリーは一流のひきこもりカウンセラー

「ひーん、キルキルちゃーん」

 

 

「ああ、マスターおいたわしや…………」

 

 

すがるように段ボールからかたつむりよろしく身を乗り出し縋る少年にさも悲劇的に慮り主を抱きすくめる忠実なメイド。

 

 

そんなどこぞの愁嘆場の一切を無視してぺこりと頭を下げる少女に場の中心はクローズアップされていた。

 

 

「どうも、はじめまして……でもないですが一応挨拶を、とミサカは苛立つ気持ちを抑えて自己紹介します」

 

 

それに向かい合っているのはこの部屋の主とその眷属一同。その目はどう見てもミサカの後ろですんすんと鳴いてメイドの胸の谷間にうずもれる少年に気を取られている様子ではあったが。それでも気もそぞろに挨拶を返した。

 

 

「そ、そうね。初めての顔合わせの時に一度…………そ、それにしても」

 

 

内心の疑問を抑えきれぬ様子で次に口から出る言葉はまさにその心中を察して余りあるものだった。

 

 

「…………いまだに信じられないわ。本当にあなたたちは魔獣なのよね」

 

 

「いかにも、とミサカは鼻を鳴らします」

 

 

初めての顔合わせの時も差して言葉を交わした仲ではないがゆえに、そういうことができる、と受け止めてはいても、このように流暢にしゃべる魔獣を前にしても信じられない気持ちの方が強かった。

 

 

まぁそれでも先の疑惑からは逃げられないのが世の定め、なのであるが。

 

 

「それで、マスターの不行状のことですが、とミサカは早々に話を切りだします」

 

 

その言葉にビクリと少年――――否、僕の身体が震えた。その震えを敏感に感じ取ったキルキルちゃんがかばうように僕を抱きしめる力を強める。おっぱいふがふが。

 

 

「ええ、学校に来ていない、という疑惑が持ち上がっているのだけれど」

 

 

視線が一点に集まりそれから逃れるように身をよじる。段ボールはなくなったけど、最後の砦キルキルちゃんが僕にはいる……っ。

 

 

「なんか、気が抜けちゃうわね…………」

 

 

今までの好青年ぶりはなんだったのか、と情けない背中に向けて部長は憂慮のため息を吐いた。やめて! 引きこもりはそういうのに過敏なんだよ!

 

 

「…………私はそうでもないですけど」

 

 

お前の性根など見透かしていたわ! と言わんばかりの小猫ちゃんのぼそっとしたつぶやき。さっきはあんなに色艶富んで僕に迫ってきてくれた(?)というのに。対応の落差に僕の心はさらに締め付けられる。ひぎぃ。

 

 

「お察しかと思いますが、マスターは魔獣を代替わりとして学校の授業には出席しておらず、このオカルト研究部と生徒会に顔を出すときのみ学校に来ていました、とミサカは単刀直入に報告します」

 

 

そしてついに日の目を浴びてしまった真実。わかってるさ、いくらミサカでも、ここまで赤裸々になってしまった醜態を糊塗するような理由づけはできないだろうということぐらい。ほかならぬ僕自身の失態によってそれは不可能となってしまったのだからわからないはずがない。

 

 

「それは……なぜかしら」

 

 

故に期待するのはここから先の言い訳コーナー。どう言い訳するのかは知らないけど、ミサカの言い訳なら誰のものより僕のためになるはず。というより隠れてこそこそサボってたことを問い詰めてくる部長の矢面に立ちたくないだけです、はい。

 

 

「何故と言われても、そもそも学校になんか行く必要があるんでしょうか、とミサカは疑義を提示します」

 

 

「どういうこと?」

 

 

「私たちはあなた方の不当な圧力によってこの学園に入り悪魔の保護下に置かれることになりました。そしてこの学園を過ごすに当たり、あなたたちと定期的な接触を持つことを義務付けられました。しかしマスターが学園で授業を受けなければいけない義務など一つもそこには含まれていません」

 

 

つらつらと言葉を続けていくミサカの姿には一つの淀みもない。おお、頼もしや頼もしや。

 

 

「…………へたれ」

 

 

しかしやはり、傍から見たら自分の創造した魔獣、というか同年代の女の子に庇われ、保護者に泣きついている構図になるのだから外聞も悪い。それでも小猫ちゃんの言葉は応えた。

 

 

それを敏感に察知したキルキルちゃんが俄かに殺気立つ。

 

 

「…………神滅具(ロンギヌス)は神をも滅ぼす神器(セイクリッド・ギア)。その中でも魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)は上位に位置します、とミサカは静かに宣言します」

 

 

その殺気に敏感に反応しようとした眷属たちを抑えるようにミサカは言う。

 

 

「仮に。マスターが神を滅ぼすことができるというのなら、それは常にマスターの傍にて侍るキルキルの手によるものでしょう。あなたたち程度が、欠片にでも敵うなどとは思わない方がいいですよ、とミサカは忠告しておきます」

 

 

その隙にキルキルちゃんの袖を僕が引くと静々とキルキルちゃんは殺気を引っ込めた。怖いからやめて。

 

 

「そんな力をあなたたちは欲した。だからマスターはここにいる。それ以上のあなたたちの勝手な都合に巻き込むのはやめてください、とミサカは丁寧に申し上げます」

 

 

おっかなびっくり警戒を緩める眷属たちにミサカは一礼することでそれ以上の面目を傷つけることなく相手の顔を立てた。

 

 

…………エクセレント。ぶっちゃけただサボりたいだけだったのだけれども、それをもっともらしく言ったミサカに賛辞の言葉を。流石我が家の頭脳。思い知ったか悪魔ども!

 

 

「…………かもしれないわ。だけどそうする義務とそうしない理由は別ではないかしら。義務はないし私たちが言えることではないのかもしれないけど、授業を受けないことの理由ぐらいは聞いておきたいわ」

 

 

部長は答えを返し、僕に視線を向ける。

 

 

理由だぁとぉ? コミュ障で授業がつまらないからです。魔獣創造の全盛期ですら五時間くらいしか働いていなかった僕が半日以上針のむしろで拘束される学校生活なんておくれるはずないだろ! 僕の事を舐めてるのか! 全くどの口が言うのか、自分で根回してこの学園に入ったとは思えないような厚顔無恥さで僕は憤る。

 

 

ミサカもちらりとこちらを見たのでもちろん首を横に振ってやった。言ってやれミサカ!

 

 

キルキルちゃんのおっぱいに頬を当てながらそんな念を送っていると、ピクリと片眉を上げたが、それでも部長の視線を遮るように僕の前に立ってくれた。ミサカ(おとこ)は背中で語るとはよく言ったものだ。

 

 

「学校のお勉強がこの先、生きていく上で何の役に立つのでしょう。端的に申して意義が見出せません。時間の無駄です」

 

 

「そんなことないわ。単純な勉学に限らず学校と言う場は学ぶべきことがたくさんあると思う」

 

 

流石冥界留学生。言うことが俺たち底辺とは違う。

 

 

「それは人間関係に然り、部活動に然り、勉学をするという環境に然り、よ。多くの人に囲まれ友誼を育み互い切磋琢磨する。立場は違うけど、それでも共に喜怒哀楽を共有した記憶は遠からぬ未来においてかけがえのない思い出になると思う。少なくともこの学園で二年間学んできた私はそう考えているわ」

 

 

「わたくしもその点については同意ですわ。わたくしも裏に身を置きながらも学生に姿をやつしこの学園で学んできた二年間は…………擬態以上のものが得られた、と思っています」

 

 

「……確かに学校に通うぐらいならその時間鍛錬に充てたほうがいい、そう考える気持ちは僕もわからなくない。それでも、それを押しても学園にいることはマイナスにはならないと思うよ」

 

 

顔はミサカの背に遮られて見えなかったけど明らかに言葉はこちらを向いていた。なんだこの引きこもりを説得するかのような言葉の包囲網は。これじゃまるで僕が引きこもりみたいじゃないか。

 

 

「けっ、流石にわざわざ冥界から留学してくるような優等生は言うことが違いますね」

 

 

そんな言葉に白けたように吐き捨てるのはミサカ。あれ、なんかダークサイド入っちゃいました? 全く持って同意だけど!

 

 

「人間関係? くだらない。大体パンピーどもとこの神をも殺せる魔獣創造が席を並べること自体がおかしいんですよ。仲良くなるなんてもってのほか。根本的に相容れないんです、闇の住人である僕らと光の住人である彼らは」

 

 

そうだよ仲良くなれるわけないんだよ、コミュニケーションとかとれるわけがないんだよ。

 

 

「裏にある事情を知らずのほほんと生きているような奴らと、勉強できて得意ぶっているようなたかが知れたような連中と、馴れあうなんて反吐が出ます」

 

 

そうだ貴様らに想像できるか。

 

 

飢えと渇きに苦しみ、獣の息に怯え、空気の冷たさに肌をかじかませ、泥に塗れて、夜闇に必死で目を瞑り、迫りくる明日に身をすくめる日々が! 

 

 

まったりと暇を持て余し趣味がてら畜産に励みお金を稼いでウハウハ、綺麗なメイドに身の回りの世話をさせてイチャイチャ、やりたいことは全部他人任せでダラダラ、至れり尽くせりの日々が!

 

 

価値観の乖離は著しく、双方に共有されるべき普遍的な経験を経ずして、口から出る言葉はことごとく共感を生まない。

 

 

元より馴れあうことが不可能なのだ。共通項を持たない僕は社会に溶け込めずに異端として弾き出される。

 

 

何が悪かったのか、強いて言えばそれは、

 

 

「全て社会が悪い」

 

 

そう僕は悪くないし、政治の犠牲者だし。断じて高校デビューに失敗した痛い野郎じゃないし。

 

 

「と、レオナルドは学校から帰ってくるなり泣きながら言います」

 

 

そうだ、よく言った! 流石ミサカ…………!?!?

 

 

「友達なんかいなくても困らないし、義務教育とか終わってるし、とレオナルドは泣きべそをかきます」

 

 

!?!?!?!?

 

 

「学校とか知らんし。お金には困らないし、修羅の世界で生きてる僕に不要だし、とレオナルドは、なに言ってんだこいつ的なことをのたまいます」

 

 

ちょ、ちょ、ちょっと待ってミサカさん? なんか三人称がおかしいんじゃないかなぁ。~~とミサカは○○する、の定型文が崩れているんですけど? 三人称変更しても通用しないそんな臨機応変な定型文じゃなかったと思うんだけどなぁ。

 

 

「翌朝、急にお腹が痛い、もう無理、学校休むとかレオナルドは棒読みで言います。さらに次の日の朝は別に聞いてもないのにミサカたちに学校の不必要性についてレオナルドは語りはじめます。さらに次の日の朝には――――」

 

 

「待って待って待て待て待てやこらぁああああああああ!」

 

 

「と、レオナルドはさもひらめいたと言わんばかりに自分に似た魔獣を創りはじめ……」

 

 

「レオナルドそんなこと言ってないし、ってレオナルドはレオナルドはパニック!!」

 

 

「要するに友達できなくて上手くいかなくて引きこもりになったわけですね、とミサカは冷静に分析します」

 

 

「ち、ちがうから! そんなくだらない理由じゃなく闇の住人である僕らは――――」

 

 

「ぼっち乙」

 

 

「――――――ッッ!」

 

 

声ならぬ声。ブルータスもかくやの裏切りに僕はミサカに踊りかかる。当然抵抗はない。背中に飛びかかった僕はそのままミサカを引きずり倒す。しかしこの期に及んで僕は女の子に暴力を振るうことを躊躇う。そうして振り下ろす先を見失った拳はおっぱいに向かう。

 

 

「あん、とミサあんっ」

 

 

「この、この、この!」

 

 

「…………誰かこの状況説明してくれないかしら」

 

 

Q.なぜおっぱいを揉もうと思ったのか。A.そこにおっぱいがあるからだ。

 

 

巧妙な誘い受けを見た、と後にレオナルドは語る。

 

 

 

 

 

「えっと、それで、友達ができなくてつまらなくて学校へ行くのをやめた、と。そういうことでいいのかしら」

 

 

口に出してみると実にくだらない理由である、と聞いている僕は思う。故にそれだけでおさまりがきかない。体裁とか演技とかあるわけがなく開き直っていた。

 

 

「学校とか無理ゲー。教師もクラスメイトも全部敵に見える」

 

 

キルキルちゃんの膝に腰掛けふんぞり返って始まるカウンセリング。とても引きこもりとは思えない風格を身に纏いながら、ポリポリとポテチを貪る、メイドインレオナルド。

 

 

ついに本性を現した魔獣創造。しかし、自分の知る引きこもりとはベクトルが違いすぎる堂に入った態度に流石の部長も鼻白んだ。やだ、この子なんでこんなに偉そうなの、と。ちょっとイラッときていた。

 

 

「クラスメイトはまだしも、教師も?」

 

 

そこにフォローに入るのは忠実な金髪イケメン騎士。イケメン滅びろ。

 

 

「そうさ。奴らなぜか知らないけどこっちにやたらと気を遣ってくる。英語の授業中、さも親切そうにここの英文読んでくれないかしら、と言う。はっ、よめねーわ糞BBA!」

 

 

うざい、満場一致、人当たりのいい騎士をしてこんな感想が浮かぶ。

 

 

「帰国子女かと思ったか、残念、文字も読めないレオナルド君でした!」

 

 

実際英語なんぞ読めるわけがなかった。教師は何を期待したの知らんけど。その必要に今まで駆られなかったのだから仕方ない。頭脳労働は専門外なのだ。日本語は読めるし、しゃべれる。実を言うと英語も話せはする。五歳までは今の人格ではなかったのだ。幼少のころの、生まれの母国語の知識は前世を思い出してからも身体に染みついていた。しかし母国語が読めずして、日本語が読めるというのはおかしい。こんなときでも保身を忘れないレオナルド君だった。

 

 

「そう…………文字を読めないというのは確かに問題ね」

 

 

「文字だけじゃない! 数学なんぞ四則演算がやっとだし、過去にとらわれない人だから歴史とかまるで興味ないし、理科系の教科なんて意味わからない! この状態で勉学のなにを学べというのか!! 小学校からやり直させろ!」

 

 

そもそもとしてこの学校偏差値が高すぎる。知ってるか、この駒王学園ってこの辺じゃ有名校として知れ渡っているんだぜ? 無理だよ、余計に無理だよ、無理な要素しかないよ。十数年勉学のべの時にも触れなかった男がいきなり高校生は無理だよ。全部忘れたわ。

 

 

「それは……こちらにも不備があったわ」

 

 

情けなさ全開である僕の告白に部長一同つっこみづらそうに目を伏せる。そういや僕ここじゃかわいそうな子設定なんだっけ。あれか森で一人人間に似せた魔獣とおままごとして寂しさ紛らわせていた少年だっけ。

 

 

教育も満足に受けられなかった少年。彼女らが抱いた印象はそんな感じか。まぁそれなら突っ込みづらくて当然のような気がする。

 

 

「まぁ、そういうことだよ…………そういうことだから学校行かなかったんだよ」

 

 

どういうことなのか全くわからないけどとりあえず勢いで誤魔化す。僕としてはひきこもり、コミュ障気質が災いして学校に行かなくなりました、という理由よりもある程度体面が立つので都合がよかった。

 

 

「だからあれかな、当面は自宅学習と言うことで…………」

 

 

「いいえ、それはいけないわ」

 

 

話を公然と学校がサボれる方向に落ち着け終わりにしようと、安堵していたところに入る否定。見れば、リアス・グレモリーの目は燃えていた。な、なにごと?

 

 

「確かにあなたの事情を鑑みずに学校生活を押し付けそこに何のフォローも入れなかったのは明らかにこちら不備です。そこは頭を下げて謝りたいと思う」

 

 

「は、はぁ…………」

 

 

「けれどどんな形であれ、あなたは今まで知らなかった外の世界にいるのよ。今まではその身に余る力のせいで怯えて外に出れなかったのかもしれない。けれど今は違う。あなたは今まで知らなかったことを今までの人生を取り戻す分だけ知るべきなの。貴方にはその権利がある。権利を保障する私たちがいる。怖いのはわかるわ。でも何事に対して否定から入ってはダメよ。それじゃ、あなたが……あんまりに報われない」

 

 

「いやいいです」

 

 

報われるも何もまず面倒くさいから学校行きたくないわけで。

 

 

「私たちにはあなたがそれらを否定する心を解きほぐす義務がある。ある意味で。私たちのせいであなたはそれらの価値の本当の意味を知れずにいるのだから」

 

 

…………ねえよ! 義務とかねえよ!!

 

 

「それを知る機会を得た上でなお否定するというのなら……私たちも納得する。だから……もう一度今度は私たちと一緒にこの駒王学園で学んでみない?」

 

 

間違った方向で熱意を傾ける部長に目を白黒させる僕。そもそももの悲しい境遇を否定しなかったのは、単純に僕の面目が立つからであってそれ以外の何物でもない。部長の思惑も空振りもいいところだ。

 

 

しかしここで否定するということは、単純に僕の怠惰を露見させるだけである。本性現したことで駄々下がりになっている好感度を稼ぐにはこの手を取っておくべきじゃないだろうか。

 

 

「もちろん今度は生徒会と合わせてフォローをするわ。本当であれば学校もあなたに合わせたほうがいいのかもしれないけど…………それはできないから。できないなりのフォローは行う。同じクラスの小猫にも言うし、勉強に関しても一から私たちが教えるわ。それでも…………まだ不安かしら」

 

 

ここまで手を尽くされると、断る口実が見つけにくい。学校に行かなきゃならんのか……魔獣ではダメなんか。ダメなんだろう、逃げ道は塞がれている。多くの人と触れ合えなど、拷問にも等しいが、だましているという負い目もあってうまく言葉が出てこなかった。

 

 

学校になんぞ行きたくないけど、ちくしょう。僕は部長の提案にうなずくしかなかった。

 

 

一方で僕は知る由などなかったが、リアス・グレモリーにも必死になる理由があった。

 

 

それは僧侶の眷属ギャスパー・ヴラディにも関係していることである。今現在ギャスパーはどうしようもない事情によって引きこもりとなっている。こちらに対してはしょうがないと体裁を取り繕うだけの理由がある。

 

 

しかし魔獣創造の僕にはその理由が薄かった。努力で何とかなる範囲と言ってはそうだし、事が明るみに出れば、ともすれば魔獣創造と接しているこちらの怠惰ともとられかねない。そうなれば名目上とは言え魔獣創造の保護監督を仰せつかっている身の名折れである。

 

 

しかもリアスには前科がある。自らの力量不足を理由としたひきこもり眷属を持つという曰くが。関係ない何かと何かをやたらと恣意的に結びつけて噂をし愉しむのが冥界の社交界での醜聞というものだ。リアスのお膝元で社交界の目を集めるような引きこもりの人物が二人も出てしまえば、あることないこと面白おかしく語られ、社交界で騒がれるに違いなかった。その二人が見目麗しい人物であるからになおさらに。

 

 

名誉と矜持を重んじる悪魔としてはとんでもない屈辱である。

 

 

リアスにはその内容まで見えてくるようだった。

 

 

男をダメにする魔性の女リアス。男滅殺姫リアス。ダメンズ好きの爛れた尻軽。

 

 

…………娯楽の少ない冥界ではあっという間に広がってしまうだろう醜聞は見過ごせるものではなかった。情愛のグレモリーの沽券に関わる。

 

 

故にこそ魔獣創造を引きこもりにするわけにはいかない。単なる善心とは別に強固な理由を得ているグレモリーの苛烈さは翌日如何なく発揮されることとなった。

 

 

そして同時に大した決意もなくその場しのぎでうなずいたレオナルドの怠惰さも如何なく発揮されることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校に行く? ああ無理無理、なんかあれ、眠いしお腹痛いし、うんそうだね明日から行くよ、明日から本気だす。だから今日はほら準備期間的なリハビリ的な、そんな感じで。うん伝えといてよろしくおやすみ布団ぬくぬく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数多の魔獣たちが跳梁跋扈する伏魔殿。常人であれば入った瞬間に立ち去るであろう、それとわかる瘴気の立ちこめた魔城を駆ける一筋の白い影。細長く伸びる先は暗として知れず、ただ闇雲彷徨いながらも影に一対浮かぶ琥珀色の光は確固たる意志にあふれていた。

 

 

侵入者を察知し次々襲い来る魔獣たちもその足を止めるには至らない。捌く手並みすら見えない攻撃の手が隔絶した実力差を如実していた。

 

 

手当たり次第とばかりに伏魔殿の箱を改めていく白い影。そうして行き着いた一つの部屋の扉を開け放つとそこには布団に丸まる一人の少年の姿があった。

 

 

キッと目元を吊り上げ、足元をパンと音を立てて蹴ると、次の瞬間には空中に躍り掛かる白い影が。速度を緩めることなく落下し着地するその先には幸せそうに眠る少年がいた。

 

 

そして着弾の瞬間。けたたましく上がる悲鳴は銃声か。容赦なく振り下ろされた一撃は少年の鳩尾にクリーンヒットしていた。

 

 

「…………初日からサボるってどういうことですか」

 

 

跨ったまま睥睨する眼差しはきつい。声音も煩わされた苛立ちからかいつになくドスが利いていた。

 

 

しかし少年は、うぁ、う、と呻くだけでろくに返答しようともしない。最初は寛仁であった少女もやがて様子がおかしいことに気が付き、布団を剥ぐ。

 

 

そこには最近オカルト研究部の部室で見かけるようになった少年がいた。しかし、と鼻を近づけ、ピクピクと小鼻を鳴らすと途端に眉根を跳ね上げた。

 

 

もう一度確認するように、ソムリエのようににおいを吟味する。

 

 

「…………ッ、これはッッ」

 

 

微細な違いではあった。しかし、眼前のソムリエをしてごまかせるようなものではなかった。騙されたっ、と忸怩たる思いに足を止めるのも束の間。恫喝まがいに胸倉掴んで主の場所を聞き出そうとするも、忠実な魔獣は少女の望む答えを教えてはくれない。

 

 

それがわかると、その魔獣から手を放し苛立ち紛れにお腹に風穴開けて部屋を出る。

 

 

元よりこのようなことがあるかもしれないから、と派遣されたのが自分だ。昨日の殊勝な態度に騙されなかった主はすごいと思う。

 

 

事実三日坊主もいいところ、初日をして心が折れなおかつダミーまで用意しておくという周到さ。前から胡散臭い印象しかなかった引きこもりに対する好感度はもはや急転落下していた。ひきこもりの性根ここに見たれり、である。

 

 

これを矯正するのは大変そうだ、と小さな猫又はため息をつき匂いを辿りはじめる。

 

 

せめて手間を省くべく見つけたら一発ぶん殴ってやろうと考えながら。

 

 

ひきこもりは家から出られないからひきこもりと呼ぶ。どっちにせよ少年は袋小路に追い詰められていた。発見されること間もなく五分前のことである。

 

 

しかし悲しむべくかな。この猫又の危惧は現実のものとなり、間もなくこの光景は日常のものとなる。

 

 

日に日に巧妙さを増していく伏魔殿のトラップと多くなっていく魔獣の数にため息つきながらいつしか、悲鳴を上げて引きずり出される少年とどことなく嬉々としながら引きずり回す少女の姿が駒王学園の登校風景として馴染むようになっていった。

 

 

後の駒王学園名物、パジャマ少年市中引きずり回し刑である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故止めなかったのですか、とミサカは首をかしげます」

 

 

「忠義の形は人それぞれだ。それを容易く否定するほど私は己を絶対視していない。それに…………」

 

 

「それに?」

 

 

「文字も読めないマスターは流石にどうかと、他の魔獣から声が上がって……」

 

 

「…………ああ」

 

 

主に忠実な魔獣たちの思惑は常に主を想っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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