まったり転生~魔獣創造を手に入れし者   作:ドブ

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大事なことなので二回言った。


誰が掌の上か

魔方陣から炎が巻き起こり、室内を熱気が埋め尽くす。内面から滲み出る自己顕示欲の塊みたいな演出。揺らぐ炎の中に浮びあがるシルエットが腕を振れば、巻き起こった旋風が炎を散らせていった。

 

 

露わになったのは、ワイルドと粗暴さを履き違えたようなスーツの着崩し方をした一人の青年だ。鬱陶しいぐらい斜に構えた面立ちが僕の苛立ちを助長させる。

 

 

そして何を思ったのか、首を振りながら、口を切るなりこんな戯言を述べてくれた。

 

 

「久々の人間界だが……やはりこの世界は炎と風が淀んでいる」

 

 

慨嘆するように額に手を当て、ふぅ、と気に障るような仕草とともに息を吐いた。

 

 

気にくわない、とは思っていたが既にこの時点でアウトだ。隣にいる部長の額にも青筋が浮かんでいるが、僕も似たようなものだろう。他人の家に勝手に上がりこんできて、いきなり文句をつけているようなものだ。礼儀を知らないにもほどがある。

 

 

「不快だ、不快だよリアス。ましてや、その用件がこんなにも下らないことであると余計にな!」

 

 

心底どうでもよさそうな目でこちらを見つめるその奥底に宿る光にわずかに険がこもる。どこかデジャブを感じさせるこれまでの光景と食い違うのは一点。リアスに対する興味の有無だった。

 

 

「何度も言ったことだけど、私はあなたと結婚するつもりはないわ」

 

 

不義理を働いていることに負い目があるのか、語調は弱かったが意思はきっぱりと自らの婚約者に突き付けた。

 

 

鼻で笑った。そんな些末事どうでもいいとばかりにリアス・グレモリーの婚約者――――ライザー・フェニックスは吐き捨てるように言う。

 

 

「俺はお前ほど奔放ではいられないんだよ、リアス。七十二柱の純血の悪魔としての義務と今まで育ててきてくれた家に対する義理を自覚しているからな。それから逃げるつもりは俺にはない」

 

 

聞き分けのない子供を諭すよりかむしろその神経を逆なでするような上から目線での発言は否応なく部長の顔に血をのぼらせた。

 

 

「私がそれから逃げているとでも言うのかしら。私は誇り高きグレモリー家の次期当主としての義務を放棄したつもりはないわ! ただその次期当主として、あなたはグレモリー家の婿にふさわしくない、と判断しているだけの話よ」

 

 

「おいおい、俺たちの婚約はお互いの家の現当主が決めたことだぞ。そこにふさわしいだのふさわしくないだのといった分別もつかない次期当主の勝手な判断が差しはさまれるわけがないだろうに」

 

 

あからさまに馬鹿にするような言葉だった。その内容よりも相手を侮辱する意思にグレモリー眷属が殺気だっている。自らの主を貶されているのだ。当然の反応だろうが、問題は論争の理が明らかに向こうにあることだ。部長は冷静さに欠いて効果的な反論ができていない。

 

 

「それにな。そういうのを家に対する義理に欠いている、不義理な行為だと言っているんじゃないか」

 

 

まぁそれを言い出したら、婚約を自らの都合で破棄させようとしていることこそ理のない幼さの発露だから、効果的な反論なんてできるわけがないのだけれど。

 

 

問題はリアス部長側よりむしろ冷静に反論できてしまっているライザー側にあるんだろうな。あっちの意見はあまりに大人で感情を交えなさすぎる。

 

 

現に僕が想定した展開とは大きく異なっていた。あのライザーのことだから最初に口に出すのは、リアス・グレモリーが婚約者に対して働いた不貞の事だろう、と思っていたのだが。どうにも上手くいかない。そのことで感情的にでもなってくれればやりようもあっただろうに、これでは鼻から勝負にもならない。

 

 

事実唇を噛みしめたまま、リアス部長は黙ってしまった。言葉を探しても見つからない。

 

 

さてさてどうしたものか、と儘ならない状況に眉を顰めたが、やはりというべきか。再び口火を切ったのはライザーだった。

 

 

「リアス。俺とて愛するものと伴になれない気持ちわからないでもないのだ。いやむしろ共感しよう。正直に言って俺も今回の結婚、悪魔として義務や義理を差し引いた一個人の意見としてはあまり乗り気ではない。むしろ結婚などしたくはない」

 

 

そして出てきた言葉は部長の目を丸くさせた。それはそうだ、自分に結婚を迫る相手が同じ口で結婚などしたくはない、と言う。戸惑うのも無理はなかった。

 

 

「そうだな。後に誤解があってもよろしくない。君にも関わりのあることだ。紹介しておこう」

 

 

気取った仕草で指を鳴らすとライザーの隣で一つの魔方陣が展開した。すると光が一つの影を象り姿を見せる。現れたその女性は嫣然と微笑み、その美貌を妖艶に輝かせた。

 

 

「紹介しようか。この女性は我が女王のルルイエだ」

 

 

肩を抱き、嬉しそうな笑みを浮かべるライザーは睦言を他人に聞かせるような調子で続けて言った。

 

 

そして私の愛する女性である、と。

 

 

こんなとんでもないプロポーズがあったものか。結婚を迫っておきながら結婚したくないと言い、その上違う女性を愛していると告げる。場の空気は完全にライザーが握っており、固まるその誰も彼もが呆気にとられていた。

 

 

「一つ断っておくがな、リアス」

 

 

愛おしげに自らの女王の髪を梳きながら横目片手間の対応でライザーは至って平坦淡白に言ってのける。

 

 

「俺は女としてのお前に一片の興味もない」

 

 

「…………ッ!」

 

 

「そしてお前も同様に男としての俺に一片の興味もない。そうだろう? それも当然だ。お互いに愛する異性がいるのだから、結婚に応、とうなずけるはずもない」

 

 

ちらりと、この場を取り持ったグレイフィアに視線を向ければ彼女は黙って目を伏せていた。よくもまぁ、彼女がいる前で嘯くものだ、と思ったが、どうにも事前に話は通しているらしかった。

 

 

「だがそれでも俺は愛する異性を結婚相手へとすることはできない。俺は彼女を愛する一人の男として以外にも責任を負っているからだ。フェニックス家の三男としての責任が」

 

 

決然と熱とこもった様子でライザーは語りかける。しかし、その目は決して婚約者に対するものではない冷めたものだった。

 

 

「だからだ。だから俺はフェニックス家の三男としての責任を果たしつつ、一人の男としての責任を全うするべくお前に提案しよう。夫婦になろう、結婚しよう。愛する異性をそれぞれ持つ者同士。仮面夫婦としてお互いの利害を成就させよう。それこそが俺とお前の結婚だ。社会的責任、男女として幸せ、理想的な夫婦生活に必要な二つを求めるために俺が出した答えだ」

 

 

ここまで明け透けなプロポーズ見たことがなかった。ある一面から見てしまうと、とても最低で。ある一面から見てみるととても打算に溢れていて。

 

 

しかし裏返して見ると、どこまでも愛に殉じたプロポーズだった。家族や隣に立つ女性への、あるいは目の前の女性が向ける誰かへの、愛を大事にしたものだった。

 

 

最大公約数的な意味ではライザーの出した答えは誰もがそこそこに納得できるものなのかもしれない。

 

 

しかし彼は気づいていない。

 

 

そんな提案を持ちかけた彼女が向けた愛が、結婚を避けるためだけのただの方便だったということに。

 

 

彼女は結婚相手から女性としての価値の全てを否定された。それでも結婚せよ、と彼が考えぬいた提案を前に真実の言葉を告げないのは、ただただ彼女の矜持が故に。この提案には真摯に向き合わなければいけない。それだけの価値を彼女も認めていたが、それを言葉にすれば、いかに自分が何事も考えず感情的にだけ反発していたかが、晒されてしまう。それはとても惨めなことだから。

 

 

リアス・グレモリーは恥を忍んで顔を真っ赤にして口を噤んだ。

 

 

彼は、ライザー・フェニックスは、彼女の愛が本当はどこにも存在しなかったことを知ったらどう思うだろうか。

 

 

嘲笑うのだろうか。

 

 

嘲笑うのだろうな、これほど滑稽なこともない。

 

 

あるいはその彼も。

 

 

彼の隣に立つ彼女の愛が実は自分に一片たりとて向けられていなかったことを知ったらどう思うのだろうか。

 

 

ましてやそれがある少年の目的のために創られた魔獣だ、なんてことを知った日には。

 

 

いったい僕はどう思うだろうか。

 

 

嘲笑うのだろうか。

 

 

嘲笑うのだろうな、これほど滑稽なこともない。

 

 

…………ああ、認めよう…………上手くいきすぎて逆に行き詰った。

 

 

「お二人が結婚するのは純血の悪魔の子供を作るためなのですが……」

 

 

「俺たちはまだ若い。どうしても目の前の異性しか考えられんのだ。だが同時に悪魔の生は長い。いつか心はなくとも身体だけの関係を許容できる日も来るのだ、と。そう信じて子供は待っていただけたらありがたい」

 

 

ライザーはいくらのデジャブの影も感じさせず殊勝な発言を繰り返す。その態度に思うところがあるのか、グレイフィアも反論することなく引き下がった。

 

 

二人の意思を無視して結ばれた婚約に最大限こたえようとしているライザーに敬意を払っているのかもしれないし、あるいはそこらへんが上手い落としどころだと割り切っているのかもわからなかった。

 

 

それでも。

 

 

「…………そんな結婚、私は認められないわ」

 

 

周りを取り巻く意見が至極現実味を帯びてきた今、反発的な感情でしか物を言えない彼女が口を開いたのは、本当に間違ったことなのか。

 

 

自分を見つめ直し、相手を見る目を変え、それでもなお現実を見る大人な言葉を語る口をリアス・グレモリーは持つことができなかったけれど。

 

 

発したい言葉があった。拙いけれど発さずにはいられない熱があったのだ。

 

 

「ライザー。確かにあなたの提案は私たち二人の両方の環境を尊重してくれたものなのかもしれないわ」

 

 

「…………けれど、と言いたそうだな」

 

 

「ええ、ライザー。けれど。あなたはこうも言ったはずよ。悪魔の生は長い、って。これから先の長い人生の一つの大事な選択肢を私は妥協したくない」

 

 

真っ直ぐと視線を交わしあう二人の間に火花が散る。決して双方の瞳は互いの視線を受け入れようとしなかった。

 

 

「この提案を前に仕方がないからと自分に言い聞かせて! 何もせずにいたら、私は遠からぬ未来に絶対に後悔するわ! だから――――」

 

 

受け入れられない、と正当性を味方につけず放った言葉は、拙かったけれども、心動かす純粋なものだった。

 

 

それを見てライザーは子供だなと思いつつ、心揺れた自身の感情を否定しようとはしなかった。愛する女性を伴侶に迎えられたらどれだけ幸福なことか。それがわかっているから。

 

 

「…………結婚に幻想を抱く歳でもないだろうに、全く」

 

 

だからライザーは半歩下がった。しかしそれは譲歩ではなく。

 

 

相手を叩き潰すための溜めの一歩に過ぎなかった。

 

 

「ならばいいだろう。リアス、俺は決めたぞ。俺はお前の眷属全てを燃やし尽くしてでも、お前を連れ帰る。他ならぬ俺のために、この俺の力で!! お前の幻想をぶち殺す!!」

 

 

身体に炎を纏い、不死の翼を広げるライザーに紅き滅び魔力のオーラで対抗するリアス。

 

 

臨戦態勢に入った両者を止める者は誰もいない。しかし熱気に染まった部室に冷や水を浴びせかけるように言葉を割り込ませた銀髪の侍従が一人。

 

 

「ライザー様」

 

 

その一言で場を支配する。

 

 

「…………チッ。残念ながら俺とお前は上級悪魔だ。今この場においては無粋極まりないが、闘いにもそれ相応の作法がある」

 

 

燃え広がった炎を自らの下へ収束させ、笑みをこぼすライザー。

 

 

パチンと指を鳴らすと、収束した炎が今度はライザーの背後に散り、幾つもの魔方陣を浮かび上がらせた。そして次の瞬間には総勢十五名からなる眷属が一堂に会していた。

 

 

「レーティングゲームだ。俺かお前か、どちらが自分の意見を通せるのか、古式ゆかしい悪魔の伝統に則って。力で決めようじゃないか……ッ!」

 

 

もはや流れは必然に傾いた。このゲームを受けないなどと言う選択肢はリアスにはないのだろう。当然だ、ここまでお膳立てされてなお否定するようなら、リアス・グレモリーの言葉は真実我が儘であるとしか捉えられない。

 

 

勢いもあったのかもしれないが、意気軒昂にリアス・グレモリーは気炎を吐いた。

 

 

「いいわ、受けて立つ!!」

 

 

その答えを受けて、グレイフィアが進み出る。

 

 

「…………承知いたしました。ご両人の意思、このグレイフィアが確認させていただきました。以後ご両家の立会人として、このゲームを取り仕切らせていただきます。よろしいですね?」

 

 

「ええ!」

 

 

「ああッ!」

 

 

ここに勝負は取り決められた。しかし、と載せられた二つの天秤、その秤を均等に見ることができる僕が言う。

 

 

「ちょっと待て」

 

 

部長の手を引き、わずらわしそうに非難の目を向けてくる視線を無視してわずかに下がらせた。その純粋な思いを大切にしたいからこそ。それゆえ至らない部分を僕に補わせてほしい。

 

 

これはいい展開ではあるが、都合のいい脚本では決してないのだから。

 

 

「部長の眷属は何人だ。お前の眷属は何人だ」

 

 

彼我戦力差は歴然だ。盛り上がってきたところ水を差すようで申し訳ないが、勝算のない戦いに挑ませるほど僕はこの状況を快く思っていないのだ。

 

 

部長の目は現実を突き付けても変わらない。それはその身の覚悟の為か、負けたとして全力を尽くした、という結果だけが残ればいい、と諦観しているからなのか。

 

 

いずれにせよ、リアス・グレモリーの敗北を認められない僕からしたらこの条件はもってのほかだ。

 

 

「だからなんだ? 眷属が揃ってないから待てとでも言うつもりか? ふん、下らん。時を待て準備不足だ、などと言う輩はな。いつだって、今わの際でだってそういう言い訳を吐くのだと相場が決まっている。人間風情が人間の尺度で口を挟むな」

 

 

「そうよ、レオナルド。私も自分が不利だからと言ってここで引く気はない」

 

 

「これはお前らの為にも言っているんだけどな」

 

 

辛抱強く隣からも前からも飛んでくる厳しい目を掻い潜って僕は不遜に笑う。

 

 

「だってそうだろ? これは単純な弱い者いじめの図式だ。数にして4対15。質にしても経験不足。勝てる確率など一分も存在しない」

 

 

「ッ!! レオナルド!!」

 

 

「黙ってろ!! リアス・グレモリー…………ッ! お前は僕の女だ!! 他人の女に勝手に手ぇ出されて、黙っていられる男がいるか!! 僕にも口を挟む権利がある!!」

 

 

勝手に都合を押し付けておいて、いざとなったら話も許さない。そんなバカな話があるかよ、ビッチ。今この場ではお前は僕の女で、僕はお前の男なのだ。

 

 

いつになく殺気立った僕の剣幕にリアスもたじろぐ。こんな様子今まで見せたことがなかったからな。クールな僕のイメージが台無しだ。けれどこっちも切羽詰まっている。譲れるかよ、ボケナスが。

 

 

「……いいな。そういうのは俺も好きだ。だがどうする? 俺は時を待たないぞ。今から眷属を揃える時間はない。レーティングゲームもやめない。この状況でお前は何を望む? 言ってみろよ、人間。お前の愛を見せてみろ、俺はそういうのに弱いぞ?」

 

 

「愛? 愛だと? そうだな、確かに僕はリアス・グレモリーを愛している。まだまだ未熟で、お前と比べたら粗が目立ってしまう王である彼女を。それ故に芽吹く彼女の純粋な想いを!! 決して通じ合っているとは言わないけど、それでも僕は彼女の全てを愛おしく想っている」

 

 

それは熱烈な告白だったのかもしれない。しかしそれはあるがまま心のままに言った結果だ。追い詰められたからこその無自覚な衝動だ。

 

 

脇目を振るつもりはなかった。口から出てくる怒りに言葉を任せて僕は拳を握りしめる。

 

 

「だからこそ、お前のそのやり方は許せない。未熟だ子供だ幻想だ、とつまらぬくだらぬ貴様の経験でさもわかった風に大口叩いて愛する彼女の愛おしい芽を摘み取ろうとするお前の行為を僕は認めるわけにはいかない」

 

 

どこかで見た物語の話だ。遠く絵空事じみていたそれに僕は恋い焦がれた。この世界で生きて今もどこかで息づいている彼女たちを想って積年を募らせた。

 

 

それは妄執じみたお話だ。だから実際彼女たちに会ったとき。僕は盲いていた瞼を開けたのだ。そうして、今まで見えてこなかった彼女たちの魅力が僕の目を惹きつけてやまなかったのだ。

 

 

だからこれから先。その魅力が羽ばたきを始めるその物語において。それを潰させるような真似は絶対にさせてはいけないのだ。

 

 

それが、この僕がこの世界に捧げる愛なのだ。

 

 

「フハハハハハハハッ!! いいないいぞ面白い俺好みだッ! それで? どうするのだ。その女の、愛おしい部分を守るためにお前は俺を相手にどう立ち回るのだ!!」

 

 

心底楽しそうに笑うライザーはおちょくるように水を向ける。

 

 

「お前がリアスの眷属になるというのなら、この戦いも少しは面白くなるというものだ!! クック、ハッハッハ!」

 

 

ふん。その選択肢もきっとあるには、あっただろうが。早合点しているライザーを見て僕は吐き捨てた。

 

 

「守るだと? 笑わせるな。僕がするのは不公平なまでに傾いた天秤を戻してやるだけだ。そうしてやれば、僕程度が守らずとも、彼女が自ずと自分の道を開く。僕はそう彼女を愛し信じているのだから」

 

 

それ以外は必要ない。どちらにせよ彼女の器ではきっと僕を悪魔に転生させることはできないだろうし。それに僕は。ライザーの言い方を借りるのであれば、異性を愛する男としての立場以外にも大きな責任を負っているのだから。

 

 

「…………ほう。それでは聞こうか。お前はお前が眷属にならずして、いったいどうやって、リアスを勝たせるつもりなのだ」

 

 

だからこそ僕が取りえる選択肢は一つで。これが必勝の道だった。

 

 

「僕を誰だと思ってやがる。僕は魔獣創造。その能力は魔獣を創ること。ならば話は簡単だ。リアスの余っている眷属の駒。それら全てに対応する魔獣を創りあげる。彼女が羽ばたく舞台を、彼女を愛するこの僕手ずから整えようじゃないか」

 

 

虚を突かれたのは誰もが同じだったに違いない。一番安直な、僕が眷属になるという選択肢の埒外から生まれた新たな選択肢は皆にとっての盲点であった。

 

 

そして牽制するように付け加えるのは、もちろんのこと。

 

 

「それら全ては使い捨ての魔獣だ。もしこの戦いの行方がどうなろうとも、戦いの後には処分する。彼女自身が見極めたものを眷属とすることが一番いいだろうから」

 

 

これで誰も文句はないはずだ。現状における最適解。レーティングゲームは至極公平なものになる。

 

 

「…………なるほどな。魔獣創造ならではの答えだ。それで納得するというのなら俺には全く異存がない」

 

 

「ふん、気づいているのか? ライザー」

 

 

「? 何がだ?」

 

 

訝しげに首をかしげるライザーの疑問はその場全員の疑問なのか。やれやれ、このレーティングゲームの本質に誰も気づいていないのか。

 

 

「眷属の駒にどれほどのスペックの魔獣を転生させられるかは、王の器による。王の器によってそれぞれの駒価値が決まるのだ。僕が魔獣を創るためにどう努力したところで、それに伴う器がなければどうしようもない」

 

 

「ッッ!」

 

 

「つまりだ。お前がこのレーティングゲームで向き合うのは、将来のリアスの王の姿にほかならないんだよ。王の器を満遍なく反映した魔獣の眷属たちと向き合うというのは、そういうことだ」

 

 

魔獣創造が創った魔獣だから、とかそういう言い訳はこのレーティングゲームにおいて無意味だ。

 

 

「ハハッ、ハハッ!! つまりこのレーティングゲームで競われるのは真実、俺の王の器とリアスの王の器に他ならないと、そういうことか!」

 

 

もちろん創る以上僕はその駒価値ギリギリまで満たした魔獣を創る。それだけ都合のいい眷属を探すこと自体も王の器だと言われてしまえばそこまで。リアスはズルをしていることにもなるが。こと当人たちにとってはそんなこと関係ない。何故なら王たる彼らは自らの眷属が、自分が従える最高の眷属だと信じているからだ。そんな言い訳当人たちがしようものならそれは眷属への裏切りになる。

 

 

もっともライザーが信頼する眷属のうち、もっとも重要な女王はすでにその信頼を裏切っているわけだが。

 

 

それは彼らの勝手な事情である。

 

 

「いいな人間、これは最高の舞台だ!! 愛をかけて!! 俺の!! リアスの!! 王の器が試されているッッ! これほど燃え滾る試合もない!!」

 

 

激しく燃える炎はライザーの収まりきらない感情の発露か。僕はそれを冷めた視線で見つめていた。

 

 

「人間、俺は潰すぞ。全身全霊でお前の愛するリアスを潰す! それこそが俺の愛に出した答えを肯定することに他ならないのだから」

 

 

「勝手に吠えてろ噛ませ犬。わきまえろよ、リアスの踏み台風情がいい試合をさせてもらえるなんて考えるな。分不相応にも程がある」

 

 

「ふっ、許そう。その嫉妬も心地がいい。せいぜい最高の試合をしようじゃないか」

 

 

余裕の笑みを浮かべるライザーに最後まで僕は冷めた姿勢を崩さなかった。

 

 

こんな勘違い野郎相手にするまでもない。実際いい試合などできるわけもなしに、させるつもりもない。

 

 

ただ最後まで向けていた僕の刺々しい視線の意味を解さなかったライザーは、それが自分ではなくその隣に侍っていた女に向けられていたことについぞ気づくことがなかった。

 

 

全く面倒なことになったな、天を仰ぐ僕はため息をついて首を回した。その時気づいた。部屋中の人間から向けられる視線。視線。視線。

 

 

特に、なんかリアス部長の目が潤んでいる気がする。いったい、なんでっしゃろ。勝手に話進めて怒ったとか。それとも、

 

 

「どうしました? 部長、もしかして僕の勇姿に惚れちゃいましたか」

 

 

冗談めかしていつものように軽口叩く。と言ってもいつも本気なんですけどね。数撃ちゃあたる戦法で言いすぎて冗談みたいになった感じはある。自業自得だった。

 

 

「………………いえ、なんでもないわ!」

 

 

頬を叩き、全部が終わった後にとかおっしゃっている部長に何故か眷属さんたちが生暖かい目を向けていた。うーん?

 

 

「レオ君もやるときはやる子だったんですねぇ。お姉さん見直しましたわ」

 

 

「うん、僕も感心しきりだった。魔獣の眷属のこと、僕からもよろしくおねがいするよ」

 

 

「…………不覚。正直かっこいいとか思っちゃいました」

 

 

お? おおお!! 小猫ちゃんがデレた!! そしてなんか他の人たち好感度も上がった!! 何か知らないけどやったぁああああ!!

 

 

とか思ったけどそういう場面でもないので自重した。

 

 

「とはいえ。これで負けたらもう後がないのも事実だ。このゲームには敗者復活戦もリベンジマッチもないんだよ」

 

 

結婚式会場に突っ込むなんていうのはここまで来たら許されることではない。正真正銘、負ければそれは部長の王の器が劣っていたことの証明になってしまう。

 

 

負けられない戦いがここにあった。

 

 

「…………そうね。けれどここまでお膳立てされて負けるつもりは一切ないわ。貴方が信じてくれた私の王の器を、そして皆がついてきてくれてた王としての私の威を、このゲームを通して必ず証明してみせるわ!!」

 

 

眷属もそれに鬨の声を上げた。

 

 

大丈夫、この試合は必ず勝てる試合だ。

 

 

僕はそう確信してやまなかい光景がここにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ようやく連絡がついたわけだが。早速聞きたいんだけど、これはどういうことなのかな?」

 

 

暗く照明が落とされた部屋の中で、目の前のモニターに映し出される光だけが僕のことを照らす。モニターに映る女性はライザーの女王ルルイエ。僕に忠実な魔獣だった。

 

 

「い、いえ、あの、その」

 

 

しかし、その姿にあのときライザーの隣に立っていた大人の女性らしさの欠片も見出すことができなかった。そこにいたのはただただ主に嫌われることを恐れて怯える少女しかいなかった。

 

 

「君は自分の役割を自覚できていないのかな。君にはこう言いつけたはずだ。リアス・グレモリーの婚約者ライザー・フェニックスに接触して婚約を引き伸ばし、できれば破談させろ、と。入念にこの時期からしばらくは絶対騒ぎを起こさせるな、とも言ったはずだ」

 

 

「も、申し訳ありません……!」

 

 

涙零れ落ちんばかりに瞳を潤ませ、身体を震わせ土下座するルルイエ。その姿にいっそうの嗜虐心を煽られ僕はあえて返事を返さず、ため息だけ吐いた。

 

 

対ライザー・フェニックス専用・悩殺魔獣ルルイエちゃん。創られた理由は先程も述べた通り、婚約イベントの阻止だ。一人の女に縛り付けることで婚約など考えさせないようにする作戦はセバスチャンの手を通じてフェニックス家に魔獣を送り込むことで実行されていた。

 

 

実のところ、このセバスチャン。今悪魔界で一大旋風を巻き起こしていたりしている。

 

 

まぁいろんな意味で頭おかしい眷属たちの一件でもそうなのだが。主に教育界で、頭角を現し始めているのだ。

 

 

具体的には悪魔の眷属教育で。元々セバスチャンの家、ダンタリオンでは自分のところである程度眷属を教育して、繋がりのある家の悪魔の眷属の駒とトレードすることで影響力を高める、といったようなことが行われていた。

 

 

それを真似たのがセバスチャンだ。具体的にはダンタリオンが手を出すような家ではない中流の貴族の眷属向けに、在地の悪魔を教育して眷属となれる逸材を育てていたのだ。

 

 

これが結構評判がいい。何せセバスチャンの眷属はキワモノ揃いで子供たちに大変に人気がありメディア露出度も高い。つまり乳龍帝の教えを受けた眷属! とか魔法少女の教えを受けた眷属! とか比較的箔づけが容易なのだ。しかも最初はそれ目的で受け入れた眷属も実際使ってみれば、セバスチャンの薫陶を受け、実力ある優秀な者たちに育っており、一石二鳥と。

 

 

努力や修行を嫌う傾向にある悪魔たちにとっては、自ら育てなくても強い眷属が手に入るということでかなり好評のようだった。

 

 

今では眷属学校というようなものまで開いているというのだから驚きだ。一部では生徒を政争に使う、生徒を金で売り払う、などと批判も受けているようだが、それが問題にならないくらいの権力を得ているようだった。

 

 

これで主の任は達成できましたな、と言われた時にはポカンとしたものだが。

 

 

そのセバスチャンを通せば、フェニックス家に女の魔獣を送り込むことくらいわけなかった。とはいえこの作戦は、本筋とは何の関係もないためセバスチャンにもその目的は言ってなかったりするのだが。

 

 

いや、当然だろ。女の結婚、妨害したいからって長年連れ添った魔獣に頼むのは流石に恥ずかしすぎる。多分セバスチャンは影響力を高める一環ぐらいにしか捉えてないのだろう、と思う。

 

 

ま、それも無駄になったんだけどねぇ。

 

 

「まぁ、別に失敗したのはいいんだけどさぁ。順調だって連絡してたのにもかかわらずこれだよ? しかも事前の連絡もなしにこの顛末。呆れて物も言えない」

 

 

しかし、僕にもぬかりがあったのは事実だ。あのライザーの態度から上手くいきすぎてこうなったのはわかっている。女としての性能を高めすぎたのが一因でもあるだろうし、そこまで責める理由もないんだけど。

 

 

ただ苛めているとなんとなく楽しいので余興とばかりに突きまわしていた。

 

 

「じ、事前までは上手く言ってたんです! 時期も指示されていたので最近は入念に! ベッドでしきりに婚約者と結婚したら用済みになるんじゃないかって不安を打ち明けて、男心をくすぐるようにッ」

 

 

「ふーん、それで?」

 

 

「!? そ、それで、そしたらあの焼き鳥が、そんなに不安なら証明してやるっ、って言って結婚の話を進めて。結婚してもその相手を抱かないことで俺の愛を証明する、むしろリアスを放置したその前でお前を抱いてやるっ……って」

 

 

…………とんだ変態プレイだな。正妻ほっといてそれはちょっと……引くわ。お前しかも婿入りする立場なのに……えー。

 

 

「こ、この咎め如何様にでも!」

 

 

ドン引きしているとついに痺れを切らしたように、処罰を求めるルルイエちゃん。

 

 

…………まぁそろそろいいか。本人にしてみたら恥ずかしい失敗談を赤裸々に主に明かす羞恥プレイをかまされたわけだし。

 

 

それにどうせこの後もこのルルイエちゃんにはひと働きしてもらわなくちゃいけない。ここらで切り上げてご機嫌取っときますかね。

 

 

「それなら罰を与える」

 

 

「は、はっ」

 

 

「……近日中にライザー個人の情報と眷属の情報全て詳細にまとめてセバスチャン通して送れ。レーティングゲーム内でも協力してもらうから、指示を待ってそれを忠実に守れ。これがお前に課す罰だ。いいな?」

 

 

「そ、それは……ッ。…………いえわかりました。ご期待に沿えるよう粉骨砕身励みます」

 

 

「それでいい、ではまた」

 

 

「はっ」

 

 

さてさて、と肩をもみながら首をひねる。

 

 

どうせ余興だと遊びだと、セバスチャンたちの手を借りなかったことが今回の失敗の原因か。自分の至らなさを自覚するばかりだが、こんなことにセバスチャンたち頭脳チートどもの手を煩わせるわけにもいかない。

 

 

彼らにはやってもらわなくちゃいけないことがたくさんあるのだ。すでにそれらの脚本は佳境に入っている。今から手を借りるというのもなしだ。

 

 

「だけどまぁ、どうせ遊びさ」

 

 

所詮大局が何一つ左右されることのない些事である。どう遊んだって最終的には勝てるゲームだ。ならばせいぜい最後まで遊びつくそうじゃないか。少しくらいの予想外があったほうが遊びも楽しくなる。それを思えばこの失敗も看過できよう。

 

 

ニヤリと暗い部屋に浮かび上がるのは一人の少年の笑顔。何か悪戯を思いついたようにクックックと喉元を震わせる。

 

 

その手にはリアス部長から預かった戦車の眷属の駒があり、それを弄ぶように掌で転がし、最後にはギュッと握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ああ、スカリエッティ? お願いがあるんだけど」

 

 

「そうこの前、僕とお前で遊びつくしたアレ」

 

 

「こっちに送ってよ。ちょうどいい余興があってさ、あれで遊べそうなんだ」

 

 

「え、あれはあれだよ、ほらあれ、魔獣化して散々弄繰り回したあの!」

 

 

「あのぶっさいくな哀れな元堕天使の!」 

 

 

 

 

 

 

 

「レイナーレとか言うやつさ」

 

 

 




いうなれば捕まった敵国のスパイ! あるいはくのいち! ゲテモノ凌辱系エロゲヒロイン的な堕天使悪魔型魔獣のレイナーレちゃんの登場だ!


地味に伏線を回収。


…………あと、洗脳調教系TSヒロイン、フリードちゃんも出るよ(小声)

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