まったり転生~魔獣創造を手に入れし者   作:ドブ

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セバスチャンチートの回


舞台裏を整えよう

「ああ、あと一つ聞きたいことがあるんだが」

 

 

これはあのときの会話の続き。思いつきではあったが、今となっては天啓とも思える閃きであり、今後の方針を占う決定事項。

 

 

「お前と同じような方法でほかの勢力、天使や堕天使に接触を図れると思うか」

 

 

主の申しつけにセバスチャンは最大限こたえようと言葉を返す。

 

 

是。次回までに案をまとめて参ります、と。

 

 

そうして、今。両者の間に会合の機会が持たれる。あまり長いとは言えない時間。しかしこの時間で今後のすべてが決まるといっても過言ではなかった。

 

 

「人里に出たのは久しぶり…………いや実質初めてか。それにしても、案外何の感慨も湧かないものだね」

 

 

わざわざあのような僻地の森で会合を持つこと自体、怪しんでくれ、と言っているようなものだ。セバスチャンが悪魔に監視されている可能性を考えればこそ、場所は選ぶ必要があった。

 

 

「はっ、私の都合で主にご足労願ってしまったこと真に恐縮ですが」

 

 

「わかっている。こっちとしてもいい観光になったさ」

 

 

とあるホテルの一室。僕の側にはキルキルちゃんと、セバスチャンの引き継ぎとなる、優男然とした人型魔獣が随伴し、真正面相対する形でセバスチャンが控える。

 

 

ここまで来るのに相当以上に苦労したけど、傍目から見れば新婚夫婦とその子供と言う風にしか見られなかったはずだ。事実しばらく歩かなかったせいか、身体が鈍りまくってて、途中からはほぼキルキルちゃんにおんぶにだっこであった。

 

 

調子のって、「疲れたぁ、おんぶぅ!」とか言ってる様子はほとんどわがままなガキ同然だったはずである。しかもそう言うと無条件でキルキルちゃんは甘やかしてくれるため、さらに調子に乗ってわがまま――――あ~んしてぇ、おっぱい飲みたいの!――――をしていると、見かねた見知らぬおばちゃんから、あまり甘やかさないほうがいいよ、と助言を受けたほどである。

 

 

そこから、あなたに何がわかるんですか! と傍から見れば馬鹿親同然にヒートアップしたのは余談。

 

 

まさに完璧な擬態。自分で悦に浸ってしまうほどの役者ぶりであった。あまりの演技に本来の己を忘れてしまいそうになったくらいである。セバスチャンの顔を見てようやく、ハッ、と正気に戻ったことからも伺えるようにも僕の演技はもはや暗示レベルの境地に達してしまったとみえる。流石は僕。転生チート主人公をやるだけのことはある。

 

 

「それじゃ、こいつがセバスチャンの引き継ぎとなる奴な。名前はチャラオな」

 

 

ペコリとお辞儀する優男。それにうなずきで答えるセバスチャン。

 

 

「ふむ、了解しました。よろしく頼むぞ、チャラオ」

 

 

「はい。マスターからはセバスチャン殿を父のように思い師事しろ、と言われております。まだ生まれたての未熟者ではありますがよろしくお願いします」

 

 

「うむ…………では主、しかとこの者あずかりました。引き継ぎまでそう時間はないですが、主の手足となれるようきちんと教育しておきましょう」

 

 

「頼むぞ…………悪魔の保護を受けるとはいえ、できることはそいつを通じてやることになるだろうし。そこらへんは抜かりなく頼む」

 

 

「はっ」

 

 

一礼し、しかと返事を返す。目くばせをチャラオに送ると、チャラオも得心し、セバスチャンの傍に移った。

 

 

「あとは、セバスチャン。これがこれから冥界に赴くにあたり俺が用意した餞別だ、受け取ってくれ」

 

 

キルキルちゃんが背負っていたバックを下ろし、その口から入っていたものを次々とテーブルの上に並べる。

 

 

小型電電虫、監視用の使い魔型の猫魔獣、あなたの生活に潤いを、様々な果物を実らせる植物型魔獣の苗床、あなたの親父の形見となって守ってくれる、胸ポケットに入るスライム型魔獣、などなど。

 

 

「一応スライム以外は全部普通の生物に似せてあるからカモフラージュは大丈夫だと思う。電電虫は万が一にも冥界とつながらないことがないようにゴールド電電虫だ。まぁ、そのほかにもいろいろあるが…………僕から説明する必要があるのはこれかな」

 

 

飴玉を模しているボール状の魔獣。よくよく見てみると目玉のような光彩が見て取れるそれは。

 

 

「…………電電虫でも言っていたが、これはお前が裏切ったとき自動で爆発する仕組みとなっている魔獣だ。これを飲み込めば、お前の体の一部となって監視をし、必要に応じて意思決定を行う魔獣が爆発させる。爆発した後は粉微塵残らない。それだけのものだ」

 

 

それでも飲むか、重くなる口を懸命に開いて続きを促そうとする手前、視界から自爆用魔獣が消えた。消えた先を視線で追えば、そこには意図もたやすくそれを口の中に入れるセバスチャンの姿が。

 

 

「お前…………」

 

 

「この程度のことで主を煩わせるまでもありませんよ。私は裏切りません。主を最上とする魔獣故に。しかしながら、こんな意味のないことでも主の気を休めることになるのなら躊躇いはしますまい」

 

 

「セバスチャン…………」

 

 

そう言い切ったセバスチャンに、感じ入るものがなかったわけではない。しかしながら、それは真実真心のこもった言葉に感動したのではなく。

 

 

ただ単純な駒としての意識。その忠義には経緯も歴史もいらない。ただそうであるように創られたからそうしているだけ。徹底した魔獣としての姿勢に僕は圧倒されていた。

 

 

そりゃそうだ。会社を発展させることにもこれから上級悪魔になるべく動くことにもセバスチャン自身には何一つ頓着するべき目的がない。

 

 

あるとしたら全ては創造主のレオナルドの都合のため。

 

 

もともと彼らには生きるべき目的などレオナルド以外に存在しないのだ。それは絶対的な献身。どれほど依存の激しい人間でも、そうであるように創られた、とする生まれまでは凌駕しえない。

 

 

なるほど、これが僕の魔獣か。

 

 

そう、得心に至った。

 

 

「…………悪魔が下僕を眷属と称するのなら、天使が慕うものを信者と称するのなら」

 

 

「?」

 

 

それぞれがそれぞれのあり方を示したしっくりくる表現だ。だけどそれらは僕らに似つかわしい表現ではない。

 

 

僕らにふさわしい表現は、別にある。

 

 

そう、

 

 

「僕らは家族(ファミリー)だ。家長の意思に沿い目的を達成する共同体。そうであるように生まれた君らは等しく僕の子供だ。足らない部分もあるだろうから、孝行してくれ。そして一緒に歩こうか、僕の道を」

 

 

まさしく家族(ファミリー)。この表現がふさわしいだろう。そうであるように創られた生まれは家長のために尽くすことで報われる。父が汗水たらし母がお腹を痛めて子を産むように。創造主たる僕もそういう風に創った魔獣に報わなければなるまい。創った目的の根本たる僕の目的を達成することで。

 

 

ひどく独善的ではあったが、自分の気持ちに踏ん切りをつけるのに、自分に都合よく彼らを使うことに、家族と言う表現ほど都合のいい言い訳はほかになかった。

 

 

「さて、それじゃ、僕の家族(ファミリー)。本題に入ろうか」

 

 

それぞれがそれぞれなりの表情を見せる中、僕らは一歩前に進んだ。

 

 

 

 

 

「天使や堕天使への接触、ですな」

 

 

小気味の良いテンポで合いの手を入れてくるセバスチャン。我が意得たりとばかりにうなずくと、セバスチャンは具体的な話を切り出した。

 

 

「少しばかり、私を眷属にと誘ったダンタリオンの先代当主殿にお話を伺ったのですが。悪魔が人間を、眷属として取り立てることで引き込むように、天使や堕天使などもそれぞれのやり方で人間を引き込んでいるようです」

 

 

「その引き込んでいる人間にどうにか僕の魔獣を紛れ込ませたいところだな」

 

 

スペックが高いという点を売りにするのなら、目をつけてもらえば簡単だとも思うが。

 

 

「その前におひとつお聞かせ願いたいのですが」

 

 

黙考する僕に対し、セバスチャンが躊躇することなく、断りを入れる。うん、どのみちこの計画をメインで詰めるのはセバスチャンだろうし、こういう遠慮のないところは頼りがいがある。

 

 

「なんだ?」

 

 

「主は堕天使や天使の勢力に対して、内偵をし、それにまつわる情報を手に入れることが目的なのでしょうか? それとも彼らに対する発言力を手に入れることが主目的なのでしょうか? それによって手段も変わると思うのですが…………」

 

 

原作キャラの行方を探す上では勢力の中に入って内偵することも大事なように思えるが、優先すべきことではないな。

 

 

「いや、どちらかと言うと、セバスチャンお前に命じたように勢力内で地位を築き発言力を手に入れることのほうが重要だな。別に僕は彼らと敵対したいわけではないし」

 

 

「そうですか…………」

 

 

顎に手をあてわずかの間考えるそぶりを見せる。その合間、おずおずとだが、チャラオの手が挙がった。その瞬間、ああん、てめえ新入りのくせに生意気なんだよ、と僕の身の回りの世話に徹していたキルキルちゃんから殺気が飛ぶ。

 

 

その気配を抑えて、僕が発言を促した。

 

 

「あの、結局のところ、マスターの目的とはなんなのでしょうか? 三大勢力? とやらに影響力を持ってマスターは何をなさるおつもりなのですか?」

 

 

…………それなりの期間仕えてきた二人が、マスターの命令を聞いてればそれで十分、必要のないことは聞かないことを美徳とし、今まで口に出さなかった疑問を新入りが口に出した。

 

 

今までであれば、教育を任されたセバスチャンが新入りの口のきき方を諌めるところではあるが、家族、と主が宣言したことで、今まで仕えてきた二人はどこまでが主に対して許されるのか、距離感をつかみかねていた。故に内心の疑問と合致する形で新入りの疑問を見逃してしまう。

 

 

二人とも家族の定義は知っていた。しかし、実態それがどのようなものなのか、わからなかったのだ。それはこれから学んでいくしかないし、その過程で二人がどのような家族像を築くのかは、主が干渉しなかったことでそれぞれに任せる形になってしまった。

 

 

あまりに重すぎる献身に対し言い訳として使った家族と言う名称。それが二人にどのような変化をもたらすのかは、わからないが、その一端としてこの場の疑問を許すことになっていた。

 

 

一方の僕はと言うとこれまた困ったことである。

 

 

いや、本音を言えばハーレムして、自分に都合のいいように物語を転がしたいだけなんですー、ってところなのだが、それはなんというか明け透けに言うにはあまりにしょうもなさすぎる。

 

 

先の事を考えれば、物語の中心に介入することはすなわち、今後の世界の命運を左右する重大な改変にまつわる目的と言えるのだろうが、現時点でそうなると知っているのは僕だけで、説得力がなさすぎる。

 

 

そんな説得力のない言葉にはたして彼らはすんなりとうなずくか。そもそもそんな不確定なことのために上級悪魔にまでなる必要があるのか。それを説明する術を僕は持っていない。

 

 

どうしたものか、と頭を悩ませた僕の目に留まるキルキルちゃん。

 

 

家族か…………ちょっと小狡いが、それでいこう。

 

 

「すまないけど今は言えない。だけど信じてほしい。僕は家族を裏切らない。それだけは何があっても変わらない。君たちだけからの、一方通行の裏切らない、じゃなくて、僕も言う。僕は君たちを裏切らない。だから今は信じて、僕の目的に従ってほしい」

 

 

またしても家族を言い訳に使ってしまったわけだけど、仕方がない。それに言い訳に使えば使うほど僕の中で家族というものに重みが増す。価値ができる。だから今は少しばかり寄りかかっておこう。

 

 

いつの日か、原作に突入したとき、彼らはこのためにあった、と言われるようなことを起こすから。

 

 

「是非もありません。すべてはマスターのご意志のまま」

 

 

「了解しました、今は目的のため邁進しましょう」

 

 

「えっと、申し訳ありません。新入りが口を出しすぎました」

 

 

三者三様の答えに満足し、僕は椅子に座りなおす。

 

 

あまり沈黙を挟まない配慮か、セバスチャンが発言した。

 

 

「それで、考えたのですが。天使側に対しての潜入は比較的簡単かと思われます」

 

 

「ほう、聞こうか」

 

 

「はい。天使側には教会という表世界にもわかりやすい間口があるのです。今まで主の懐に入ったお金を元手として、教会に対して献金を行ってはどうでしょう」

 

 

献金、金か…………確かにその寄付が教会にとって貴重な資金源となれば発言の機会には恵まれるかもしれないが。

 

 

「だが、それで干渉するには定期的に大量の金が必要になるし、何より献金者にそのような裏の事情を明かすとは思えないのだけれど…………」

 

 

「そこはやりようによりますな。お膳立て次第で如何様にでもなるでしょう。例えば資金面で世話になっている企業主の息子が裏の力を発症したとか。まぁいくらでもシナリオは作れます。要は献金者が知ってしまえば、教会も致し方なし、と取れるだけの機嫌はとろうとするでしょう。少なくとも無為にすることだけはしないかと」

 

 

懇意にしていればそれに対処する教会もやり口を変えてくる、か。できうることなら教会も資金源を失いたくないだろうしな。そこから徐々に話を広げればいずれは地位を築くことも可能か。

 

 

「そして、その元手となる金稼ぎについては、今の私が育てた企業を源泉とするのもいいですが、新しく教会用に企業を立てたほうがよろしいかと。主がいま蓄財なさっている資金の範囲で買える有力な企業をいくつかピックアップしてあります。それらの株式を買い取り、トップに主の魔獣を据え――――そうですね私と同スペックぐらいであれば十分可能かと――――そして然るべき手段をもって企業を拡大する。そしてそこで得た資金を教会に寄付し――――」

 

 

「ま、待て待て待て、話がでかくなりすぎてる! 会社を買い取るのか? 僕が? なんか話の方向がずれてないか?」

 

 

「いいえ、まったくもってずれていません。会社を新しく設立するよりも買い取ったほうが手っ取り早いですし。儲けが見込め、なおかつキリシタン系の傾向がある企業も既に目を付けてあります。それに三大勢力に影響力を発揮しよう、と言うのです。これくらいのことは普通にやっていただかなくては」

 

 

「え、えと…………そうなのか?」

 

 

キルキルちゃんに同意を求めても当然答えは返ってこない。ただ自分の専門外の話だと割り切って、従者よろしく佇んでいる。

 

 

「そうです。しかしながらあいにく行うのは私ではないので、必ずや成功する、と私の口から言えないのもまた事実。リスク分散のため一人ではなく、何人か、その企業の経営に携わらせたほうがよろしいかと。ああ、それとその会社経営までの知識を学ばせる方法ですが…………」

 

 

怒涛のごとく続く人材育成、企業経営、その他諸々の方針の話。専門的すぎて途中で聞くことを諦めた。いや、僕転生チートですけど、頭脳チートではないので。もっと言うのなら僕が原作をゆがませて創りたい物語っていうのには企業闘争とかそんな資本主義的な話は絡んでこない予定なので。

 

 

「あーーごほん! 続きはチャラオで」

 

 

続きはwebで、じゃないけど、そこらへんのお話は投げることにした。

 

 

セバスチャンの話に目を白黒させていたチャラオは突然振られた矛先についていけず、はぁ、と曖昧な返事を返す。うん、気持ちはわかる。お前はほどほどにって言われてたからセバスチャンほど頭良くないもんね。

 

 

「そうですか。では主、主には私と同スペック以上の人型魔獣を三体ほどお願いします」

 

 

これでお役目ごめんと思っていたら、結構な無茶をかましてきやがった。セバスチャン創造するのにどれだけ手間暇かけたと思ってるんだ…………頭脳チートは伊達じゃないんだぞ!

 

 

「それとチャラオ、お前の引き継ぎ教育と一緒に会社運営のノウハウも教える。主が創られた魔獣をそちらに派遣してもらうから、お前は私から学んだことをそのままその魔獣たちに伝えるのだ。何、お前の容量が悪くてもお前の教え子はすべからくお前よりスペックが上だ。お前が一教えれば十理解するような魔獣だからそう気負わなくてもいい。最悪私がピックアップした本を読ませて、組織運営に携わらせるだけでいいからな」

 

 

「は、はぁ…………?」

 

 

なんかチャラオ中間管理職っぽいな。優秀な上司と部下に板挟みになる図が見える……

 

 

「まぁ教会に関してはこれでいいかと。あと余力があるようでしたら、教会つきの孤児院にスペックの高い子供の魔獣を放り込んでおくのも手かと。悪魔祓いなどは主に後腐れのない孤児などが中心のようですし、信者単位で食い込むのならそれも一つの手段です。そのへんは新しく創る教会担当の魔獣などとご相談の上ご決断ください」

 

 

「わ、わかった…………」

 

 

しかし、この手の謀略ではセバスチャンのような頭脳チートの独壇場だな。とても僕一人では実行が不可能、どころか思いつくことさえ儘ならないことばかりだ。

 

 

まぁ、うん。下手に手出しはせずに任せるべきところは任せる、その方針を忘れないようにしよう。特に企業関連の話は丸投げだ。そんな知識いらないしな!

 

 

「教会に関してはこれでいいでしょう。問題は堕天使です」

 

 

「まぁ、教会のようにわかりやすい間口があるわけではないしな」

 

 

もう全部任せておけば勝手にやってくれるのではないだろうか、と思いつつも一応家長としての面目を保つべく話は合わせる。

 

 

「そうですな…………これに関しては難しい問題です。先代の当主からもあまり耳寄りな情報は聞けませんでした。ただ一点、グレゴリという堕天使の機関があり、そこの総督の意向から神器の所有者集めに躍起になっているという点以外は」

 

 

「ああ…………」

 

 

神器集めが唯一の接点か…………いっそ身売りでもすれば、いとも簡単に総督のアザゼルまでたどり着けそうだけど。

 

 

意味ありげに出した神器についての話にチャラオが疑問を呈し、セバスチャンが神器について説明を重ねていく。ああ、そういや、僕も神器については知らないことになってるのか。まぁ原作知識あってこそ知ってたことだしね。

 

 

…………あれ? じゃあこの子達いったい今まで僕のことどう思ってたんだろ? なんかめちゃくちゃな生命を生み出しまくる、神みたいな風に思われてたのかな。まぁ実際生命を生み出すなんて所業神にも等しき行為だけどさ。

 

 

「…………であるようにおそらく主の力の在り処もおそらく神器にあるのではないか、と。あまり具体的な質問をすれば下手な邪推を招きかねませんので、詳しく聞いていませんが、その神にも等しき力からしておそらく神器の中でも強力な神滅具に分類されるようなものではないか、と推測しました」

 

 

「…………マスターは神であると思っていたのですが、違ったのですか」

 

 

「いや、さすがに神ではないよ、人間だもの」

 

 

キルキルちゃんのらしい勘違いを訂正する。

 

 

「そんな神器を集めるグレゴリは、時に強硬な姿勢をとることも少なくないようで、危険性のある主のような神器使いは殺してでも、ということもあるようです」

 

 

「…………敵か」

 

 

キルキルちゃんの周りの空気が凍る。シュンシュンシュン、と何かを斬るような音は文字通りキルキルちゃんが空気を斬っている音なのだろう。氷使いがキレると、周りの空気が冷たくなるみたいに。切断と言う概念に特化したキルキルちゃんがキレると、本当に斬れるのだろう。怖いなおい。

 

 

「まぁそれだけに接触は慎重を極める、ということです。向こうは神器を研究しているらしいですしね。場合によっては我らが人間に擬態していることもばれるかもしれません」

 

 

「それはまずいな…………」

 

 

可能な限り構造は人間に似せているつもりではあるが、専門家相手には厳しいかもしれない。何より、本当に似せられているかどうかも確かめる術がないわけだし。まさか解体して調べるわけにもいくまい。そこは魔獣創造を信じるしかない。

 

 

「具体的な目途がたたない以上、堕天使への対応はひとまず置いておいたほういいか」

 

 

「そうですね。情報収集をしつつ、進展があればその都度対処していく、と言う方針にとどめておいたほうがいいかと」

 

 

悪魔や天使と接触するのとで勝手が違う。嫌だぞ、アザゼル先生につかまって計画ご破算とか。別に接触しなくて困るわけでもないし、保身が最優先だ。

 

 

まぁ、考えがないわけじゃないんだけど。今後の情報収集しだいってところで落ち着けるとしますかね。

 

 

「私から具申できるのはここまでになりますが、如何でしょうか」

 

 

「いや、文句ない。堕天使側についてはどうしようもないが、教会側についてはその方針でいこう。悪魔側に関しては…………わかっているな、セバスチャン?」

 

 

「はっ。三年以内に必ずや上級悪魔となりましょうぞ」

 

 

「うん」

 

 

いよいよだな。

 

 

原作介入のための下準備の方針が整いつつある。これらがすべて順調にいけば、その裏に存在する、僕の立場は飛躍的に上昇する。原作介入もそれだけ容易になる。

 

 

ああ、楽しくなってきたぁ!

 

 

「皆よく聞け! 僕ら家族(ファミリー)は先あった話し合いで決まったことに沿い動く」

 

 

立ち上がり、目前に控える三人を見渡して言う。

 

 

「セバスチャン、お前はこれより冥界に向かい上級悪魔となるべく励め! 方法手段問わずお前の影響力を高めろ! …………離れていても僕たちが一心同体の家族であること忘れるな」

 

 

「はっ。承りましてでございます」

 

 

落ち着いた表情で答えるセバスチャン。いつになく渋みのある声が誇らしげなのは気のせいではないだろう。

 

 

「チャラオ! お前はセバスチャンが冥界に向かうまでの間その教示をできるだけ引き継ぐのだ。そしてお前の後輩にそれを伝えろ! 以後後進の教育に励み、セバスチャンが育てた企業の手綱をとれ! …………期待している」

 

 

「は、はい!」

 

 

一番の新入り、生後三日の最年少者。返事に気負いは見られるが、彼はきっとセバスチャンの教示を受け継ぐ一角の人物となろう。

 

 

「そしてキルキルちゃん…………」

 

 

一拍置いて振り返る。僕が転生した日から一緒にいるキルキルちゃんとの日々を。

 

 

そして今までの感謝をこめていった。

 

 

「…………これから多く困難があるだろうけど、僕の一番近くで一緒に歩いてくれ。これはキルキルちゃんにしかできないことだ」

 

 

「…………はい、どこまでお供いたします!」

 

 

返事は今まで見てきた中で一番色濃く感情が表れていた。

 

 

三者三様の感情を受け止め、僕は笑う。

 

 

「さぁ、楽しい楽しい物語の始まりだ」

 

 

今日この日の決断を以て、物語は歪みはじめたのだった。

 

 

 

 







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