まったり転生~魔獣創造を手に入れし者   作:ドブ

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兵藤一誠

「ぽけー」

 

 

「ぼけー、とミサカはマスターに同調してみます」

 

 

二人揃って口をポカン、と明けて部屋の隅にたたずむ。ギコギコ、と絡繰り仕掛けの人形のように横を見れば、色素の薄い瞳と視線がぶつかった。茶髪の無表情な女の子である。まんまとあるシリーズのミサカであった。

 

 

「ミサカペロペロする気力もない…………」

 

 

「ミサカはペロペロされたいです、とミサカは一応残念がる素振りを見せます」

 

 

ホッとため息をついて残念がる素振りを見せたあたり、一応原作のミサカより感受性は高そうだ。ちらりとよこした流し目はこっちを誘ってきているとしか思えない。

 

 

しかし僕はあぽーんであった。

 

 

いつどきだかの怠惰によるものではなく、これは燃え尽き症候群によるものだった。

 

 

「働きたくないでござる」

 

 

グテン、と身体を横に倒すと、後ろに控えていたキルキルちゃんが床との間に膝を差し込み、僕の頭を受け止める。この間、わずか二秒。倒れこむ衝撃まで包み込んだ機敏さに僕もだつぼーである。

 

 

「うらやまけしからん、とミサカは新たな言葉を発明ししつつ現状への不満を表現します」

 

 

「このひざはわたさーん」

 

 

「ミサカ、貴様はマスターのように働いていないのだ。自重しなさい」

 

 

「まったくこの主従は、とミサカは呆れて物もいえません」

 

 

キルキルちゃんの膝を堪能しようという意思も珍しく薄い僕。これが普段なら膝の奥深くに潜むジャングルの探索に赴いてもおかしくない頃合だが、そうした習性に反して僕の目は死んでいた。ミサカくらい目が死んでいた。

 

 

「やぁやぁ! お仕事ご苦労様、マスター。これで計画の方も捗る、助かったよ」

 

 

そこに声をかけてきたのが、今回の僕の様相を作りだした張本人である某魔法少女に出てくるスカリエッティさんに似た誰かである。決してスカリエッティさんではない。す、スカさんならもっとやばいはずなんだよきっと。

 

 

今、僕とスカさんはスクリーン越しに通信を行っている。だらけている間はスカさんが確認作業をしていなかっただけで実際通信は繋ぎっぱなしであった。

 

 

「どうかな、ミサカ君。今回新規にロットアップした個体たちの様子は?」

 

 

「それはあなたのお傍におられる個体にお聞きすればいいのでは、とミサカはでかいおっぱいに憎悪を抱きながら話を振ってみます」

 

 

そしてスカさんの隣にいるのが茶髪の妙齢の女性。目つきが悪い、おっぱいがでかい、はい、どう見ても番外個体《ミサカワースト》です。本当にお疲れ様でした。

 

 

「ふむ、すげないね。で、実際どうだろうワースト君」

 

 

「問題なさそうだ、それぞれ与えられた使命に従って動いてる」

 

 

気だるげに安直に名づけられてしまった個体が応じれば、スカさんは満足げにうなずく。

 

 

「ふむ、それはいいお知らせだ。これで神器所持者の発見がさらに進むと思うよ、マスター?」

 

 

「僕の寿命の時計の針も進むと思うよ」

 

 

「そのときは僕が自ら責任を取ろう! なに今片手間で研究している分野の中に戦闘機人なるものがあってだね」

 

 

「やめろばか! お前の研究分野は“神器”だろうが! いたずらに世界観をごちゃまぜにするな! カオスなことになる!」

 

 

次元世界とかもってこられても困る! ただでさえチート化激しいこの世界にそんなもん持ち込んでみろ、さらにインフレ祭りになって僕の手に負えなくなる!

 

 

一気に頭が熱くなってようやく頭が働いてくる。キルキルちゃんの膝に別れを告げて、コキコキ首を鳴らしてウォーミングアップ。

 

 

あーようやく目が覚めてきた。

 

 

僕はこんなにも憔悴する原因を作った、この目の前で悪役じみた笑みを見せるスカさんを睨みつけて思い返す。

 

 

そもそもこいつは、堕天使接触用の頭脳チート魔獣だったのだ。天使担当はカレン、悪魔担当がセバスチャン、とくればもう一人堕天使担当の魔獣を創りだして、接触のための善後策を検討すべきだろう、と。そのとき頭脳チートをイメージして浮かび上がってきたのが、このスカさんだったことが運の尽きだった。

 

 

頭脳チートの素養は基本的に三体とも同じだが、それをどのような方向に伸長させるかはそれぞれの個性による。事実明確なキャラのイメージが混入したカレンはあんな悪女になってしまった。笑顔を浮かべつつもその裏えげつないやり口で相手を圧倒する魔獣。原作のカレン・オルテンシアの本領、そのままである。

 

 

そしてこのスカさんのイメージが混入した頭脳チート。こいつは発明・研究など新たな発想を生み出すことに適した魔獣になってしまったのだ。しかも忠誠ゲージはMAXのはずなのに飄々としていて、殊更僕をこき使うような真似をする。

 

 

僕のためを思っての事だろうが、いかんせん半分くらいニートな僕にはきつい仕事が多すぎた。

 

 

今回の一件だってそうだ。

 

 

僕は隣でむーむ唸るミサカに視線を移す。教会工作より三年、生み出したこの魔獣は見た目通りミサカシスターズの能力を持っている。ミサカを創りだしたのは僕の趣味ではなく、必要に駆られてだ。

 

 

当時教会担当のカレンや企業担当のチャラオを通じて勢力と折衝を重ねていた僕らには、数の力が必要だった。計画段階だった、教会の孤児院に魔獣放り込んで悪魔祓いにし内部浸透させる作戦も、ことを有利に運ぶため各地に敷く必要があった諜報ネットワークも、全て信用のおける人間が必要だった。

 

 

確実性には欠けるがそれを魔獣で全て補う必要もないんじゃないか。僕の負担を省みてそうした妥協案がとられかけたが、僕がミサカネットワークの存在を思い出したことで、一気に解決が図られた。

 

 

何せ彼女ら、世界のどこにいても頭数さえそろっていれば、誰にも知られることなく情報の共有が可能なのである。しかも一体作るのにそれほど労力も使わない。何よりこのミサカネットワークをこの世界に敷くことができたときの利益は計り知れないものがあった。

 

 

よってこの三年はひたすらミサカネットワークを形成する魔獣を生成することに費やしていたのである。原作と違う点があるとすれば、脳波、能力ともに同じだが、容姿や体格は大きく変えたことだ。流石に世界各地に同じような人間がいっぱいいたら怪しまれる。

 

 

あまり不信を持たれない程度に微調整しつつ、チャラオやカレンを通じて世界各地に送り出している、その総数は一万数余。それぞれ役目は違うし、全てが裏の勢力に関係のあるところにいるわけではないが、そこから集まってくる情報は膨大なものであり、カレンをして「世界は私のものです!」などと言わしめるものだった。

 

 

それを取りまとめているのが、僕の隣にいるミサカであり、スカさんの隣にいるワーストであり、カレンのところに派遣されているラストなのである。原作で言うところのラストオーダー的な役割を担い、必要な情報があればネットワークから検索をかけてポンと出してくるスマホのようなものだった。まぁ普通のネットにアクセスする端末とは情報の確度と深度が違うが。

 

 

しかし、僕がこれほどまでに疲れているのは、別に一万余の魔獣を生み出したからではない。それだって三年かけてキルキルちゃんのおっぱいを楽しみながら創ったのである。ライフワークであると思えば苦ではなかった。

 

 

しかしである。このスカさんはその製造作業が落ち着いた個体だが、初めて堕天使接触の方策を話し合う場で要求したのはそれ以上にに僕の労力を厭うものだったのだ。

 

 

人海戦術で神器所持者を発見するための新規個体のロットアップ。それだけだったら僕も文句は言わない。しかしその次に来た要求がその神器を研究するための実験用個体だと聞いたら僕も黙ってられない。

 

 

そんなことを命じていない、と言えばスカさんは賢しげな顔でこう言うのだ。神器研究で優位性を保っている堕天使が、同じことをやってかつその牙城を突き崩し立場を脅かそうとする自分に気づかないはずがない、と。

 

 

今の段階では居所を突き止めてもどのみち不自然な接触しかできない。不信感を持たせずに接触するのであれば相手側からこちらの戸を叩かせたほうがいい。影響力を高めたいというのならなおさらだ。ともすれば敵対する可能性すらあるが、なに今の三大勢力の現状のように敵対という姿勢で引き出せる譲歩もありましょう、と。

 

 

それともあなたが生み出した魔獣を信じられないのですか、の殺し文句まで言われては僕も何も言えなかった。さらにそれからしばらくして上がってくる研究成果にも目を見張るものがあり、僕は敵対の可能性に目を瞑っても、それに価値があると思ってしまった。失敗だったと思う、そうして僕の口を噤ませている間に到底自分の手からは手放せないような成果を上げてしまったのだから。

 

 

この成果は堕天使には渡せない。手土産にするにはあまりに危険すぎる。

 

 

危機感に駆られ保身を優先せざるをえなくなった僕はなし崩し的に目的の変更を余儀なくされた。すなわち堕天使勢力接触の活動からの撤退。スカさんは僕から堕天使への接触という目的を自らの研究という目的にすり替えてしまった。原作のスカさんを知っているからこそ僕は断言する。こいつ研究したいだけだな、と。もちろん忠誠心MAXなことは疑いようがないので、それは僕の利益にあがなうものだと踏んでの事だろうが…………

 

 

くそ、今思えばあれは甘言だった。神器魔獣軍団欲しくないですか? と耳元で囁かれて欲しくない! なんて言えるわけないだろちくしょう!

 

 

だけどそれすらも僕にとっては些事だ。多少誤算はあったが、まだいい。いいのだけれど問題なのはこいつが実験用魔獣をすごい勢いで使い潰すことだ! シスターズを創造していたあの三年だってこんなペースで働いてなかった! 一日五時間も働きたくないでござるぅうう。

 

 

「まぁまぁ、そう怒ることはない。成果は上げているじゃないか? だからマスターも協力してくれるんだろう?」

 

 

「知るか年齢を考えろ! 僕はまだ10歳なんだぞ!」

 

 

「僕はまだ1歳だけどね」

 

 

「魔獣と人間を一緒にするな! 僕はまだ乳離れができてないんだぞ!?」

 

 

「ハハハハハハッ! やっぱりマスターは面白いなぁ。そんなマスターに朗報だ」

 

 

ひとしきり笑ってから、スカさんは真面目な表情を見せる。

 

 

僕も渋々話を聞く姿勢を作ると、スカさんは懐から一つの試験管を取り出した。

 

 

「できたぞマスター、母乳促進剤だ! これを飲めば妊娠していない女性の乳でも、搾乳プレイを楽しめるという優れものだ!!」

 

 

「さっすがスカさん!! これだから実験用個体作りはやめられないぜ!!」

 

 

態度を途端に一変させ、僕の瞳が爛々と輝く。なんて功績! 武勲一位である!

 

 

「くれぐれも悪用することのないように!」

 

 

「サンキュー!! スカさん!!!」

 

 

一日の疲れが一気に癒されたようだ。さわやかな笑みを浮かべて飛び跳ね、喜ぶ姿はまさに十歳児にふさわしい無邪気な姿だった。

 

 

「おお、素晴らしい、それはミサカのナイチチでも出るようになりますか、とミサカは期待交じりに問いかけます」

 

 

「ミサカ君くらいだと出ないだろうね」

 

 

即答だった。

 

 

「すいません、ワーストそれ破壊してください、とミサカは恥を忍んでおっぱいに命令します」

 

 

「あいよ! っと」

 

 

「アッーーーーーーー」

 

 

「あああああああああああっ!」

 

 

無残! 試験管は破壊された。手が、手がぁあああああと叫ぶスカさんの手に光る母乳促進剤。ひどい、乳離れできない僕から乳を奪うなんて、信じられない! 非道! 下劣! おにちく!!

 

 

僕は力なく崩れ去った。よしよしと撫でてくれるキルキルちゃんの手に縋る。ああ、もうキルキルちゃんだけが生きがいだよ。

 

 

「マスター、御身の手で乳が出るように手を加えていただければ、キルキル喜んでマスターに乳をやれますが…………」

 

 

「…………よし! 気持ち切り替えてこ!!」

 

 

驚愕の移り気であった。僕が思い出したのはあの転生初日の牛の乳事件だった。そして一瞬で記憶から消した。ああー、僕そういえば乳離れしてたわー。マジ乳離れってたわー。

 

 

「ふむ、では話をもどそうか」

 

 

いつのまにかスカさんもすまし顔でスクリーンに映っていた。流石スカさん、そこに痺れる憧れるぅ!

 

 

「ミサカネットワークからの情報に基づいた神器捜索は今のところ上々だ。目新しいもので言えば『闇夜の大盾(ナイト・リフレクション)』かな」

 

 

いきなり真面目な話題に移って面食らうキルキルちゃんやミサカを放っておいて、僕も本腰を入れる。原作まであと六年。そこまで猶予があるわけではない。それがわかっているからこそ、僕も働きたくないけど働いているのだ。特にスカさんの研究は僕自身の戦力アップにもつながっている。未だ単独では頼りない実力しか持たないからこそ、今はそちらに傾注すべきだと僕もわかっていた。

 

 

「移植の準備はすでに整っている。本人も相当この力に振り回されたみたいですぐに同意を得られたよ。マスターが創った実験用個体が到着次第すぐに準備に取り掛かる。進捗はその都度報告していくよ」

 

 

「そうか、ご苦労」

 

 

しかも御覧の通り、スカさんの研究はすでに堕天使勢と同等の領域まで進んでいる。すでに原作で堕天使レイナーレがやった神器の移植作業を所持者の命を奪うことなく、ノーリスクで行うことができるほどだ。まぁあれはレイナーレがそれしかできなかっただけでアザゼルはできたかもしれないが。

 

 

ともあれスカさんがかなり先進的な部分にまで手をかけていることは確かだ。いくら僕の力とミサカネットワークの情報があるとはいえ、一年でここまで仕上げるなんて改めてスカさんの恐ろしさを実感する。

 

 

これじゃ原作のころにはどこまで行き着いているやら。

 

 

「それともう一つ。面白い情報があるんだ」

 

 

そこでスカさんはにやりとふてぶてしく笑う。嫌な予感しかしないんだが聞かないわけにはいかないだろう。

 

 

「ほう、どんなだ?」

 

 

「いやなに。以前からマスターが気にしていた駒王市ってあっただろう? 僕もちょっと気になってね。神器の捜索範囲もそちらにも広げてみたんだ」

 

 

ああ、と額に手を当ててため息をついた。もう予想がついた。目の前のスカさんが心なしか頬を上気させているように見えるのは気のせいではないだろう。

 

 

「そしたらどうだ。かなり強い神器の反応があるじゃないか。マスターのを除けば今までで一番の反応だ! これはひょっとすると神滅具に類する神器かもしれない」

 

 

まぁ赤龍帝だしなぁ、と僕は冷めた視線で状況を見据える。

 

 

しかしこの段階でこの研究狂いに目をつけられるとは運がない。原作の事を知らせられないスカさんを理由をつけて言いくるめるには少々苦しいかもしれない。

 

 

いや、まだスカさんも神滅具だと確信しているわけでもなさそうだし、そこに突破口を見出してなんとか…………

 

 

「そこで、だ! 僕はありとあらゆる方法でその神滅具の正体を検討してみた! ありとあらゆる反応を探って検討を重ねた! するとどうだ、その所持者の少年からは龍の反応が出てるではないか!! 強力な神器、しかも龍に該当するものなど二つしかない! つまりあの二天龍並びつかわされた赤龍帝か白龍皇の二つに一つしかないのだよ!!」

 

 

と思う僕の希望をあっさり砕いてくれるのがスカさんクオリティである。はええよ、せめて何か言ってから検討に入れよ。

 

 

「どうしたマスター!! もっと喜びたまえ!!! マスターの魔獣創造には劣るとは言え神滅具の一つが手に入るかもしれないんだぞ!?」

 

 

いや、そういうことじゃなくて。

 

 

そいつ手に入れちゃったら原作の主人公いなくなるんですが…………

 

 

「ああ、もしかしてその所持者の実力を慮っているのかな、それなら心配はいらない。かの所持者の少年は全くの一般人だし、周囲にも裏の勢力の気配は一片も感じられない。今なら安全に神滅具の一つを手にすることができる」

 

 

全く見当違いな懸念にため息を殺してこめかみをもむ。正直な話僕自身原作の主人公の扱いについては考えあぐねていた。

 

 

考えあぐねた末に、それに結論を出すことから逃げていた。僕の目的からすれば彼の存在は邪魔くさすぎる。しかし排除するには危険すぎる。そんな厄介な立ち位置に彼の存在はあるのだ。

 

 

そもそも主人公なしではたして原作の話が進むのかわからない。いないだけならどうにでもなるが物語の話中に龍の因果が厄介ごとや女を引き寄せるだのなんだのよくわからない話もあるのだ。彼の存在の有無だけで話が収まるかどうか…………

 

 

物語的にはそんな龍の因果がどうとかより魔王の妹という立場が強調され、ことあるごとに事件の引き金を引いていたと思うのだが、言い切るには少し弱い。

 

 

結局のところ結論などでないのだ。今現時点でも原作通り話が進むのかもわからないのだし。全ては僕の決断によりけりである。そしてその決断はあまりに重すぎた。

 

 

だが状況は僕の好むと好まざると関わらず決断を促してくる。

 

 

さて、誤魔化すにしろここで決断するにしろどうするかね…………

 

 

すると、この感動を共有で聞かなかったことが悔しいのか、あまりに渋る僕に業を煮やしたのか、スカさんは切り口を変えてきた。

 

 

「何を渋っているのかわからないが、マスター考えてもみたまえ。二天龍の一をおさめるということは、君の戦力アップにも繋がるんだぞ? たとえばそうだな」

 

 

人差し指を立て、わかりやすい笑みを浮かべてスカさんは力説する。

 

 

「神器が赤龍帝の籠手だったとしよう。そして赤龍帝の移植先に君の力をふんだんに注ぎ込んだ龍型の魔獣を用意する。それこそ全盛期の赤龍帝の体躯に近づけるようにして、だ。神器を行使する意思はこれまでの実験用個体と同様希薄でいい。こちらに対して絶対従属、それだけを守ってね」

 

 

用意するものはこちら、といった具合に実験に必要な材料を並び立ててくる。三分クッキングほど手軽ではなさそうだけどな。

 

 

「それでね。これは生物を封印した神器によくあるのだけど。強力な生物ほどその宿主に干渉することができる事例があるそうだ。実際僕でもいくつか確認している。宿主の身体を引き換えにして自身の生前の身体の一部を表出させ、そのことで強制的に力を発揮させるといった具合のね」

 

 

実際原作の主人公はそれで左腕を犠牲にしてパワーアップを果たしていたな。

 

 

しかしそれをどうしようというのか。

 

 

「これを交渉材料として赤龍帝に話を持ちかけるのさ。赤龍帝の身体を魔獣の全身に表出させてもいいってね。元は赤龍帝の身体なんだ、そこまでやればやり方次第で赤龍帝は自分の意思で身体を動かすことができるのではないだろうか。いやそうでなくても赤龍帝の身体はとてつもない武器になる」

 

 

「そんなことをしてどうするんだ?」

 

 

「決まってるだろ? こっちは肉体を用意して、その見返りに忠誠を要求する。完全とは言えないまでも、生前と同じように身体を取り戻せるんだ。こちらに対する感謝はあるだろうし、そこまで不利な交渉とは思わない。それに万が一従わなくてもそこは本来のこちらに従属する魔獣の意思で赤龍帝に干渉をかけ、全盛期の天龍をこちらの支配下にすればいい。こちらに対して好意的な態度かつ本来の肉体の持ち主の意思が働けばそう難しい話ではないと思うがね、どうだろう」

 

 

「…………何の根拠もない話だ」

 

 

「しかしそれを語るのはほかならぬ僕だ」

 

 

くそ、相変わらずこちらを唆すのがうまい。全盛期に近い天龍がこちらの配下につくのだ。心が全く揺れなかったと言ったら嘘になる。それにどのみち放置しておけば邪魔になる原作主人公を排除できかつ利益につながるとなれば心情的な意味ではすでに目標はクリアされているのだ。

 

 

問題は僕の原作知識が全て不意になるかもしれないというデメリット。くっ、どうする、どうすればいい。

 

 

両者の天秤の間で揺れ動く気持ちなどつゆ知らず、それに、と付け加え畳みかけてくるスカさんの話に恨めしい気持ちで耳を傾けた。

 

 

「君の魔獣創造の本分は調整と改造だ。そういう君がいたからこそ僕はここまで実験を円滑に進めてこられた。ただその性能が君自身の力に関わるかと言えばそうじゃないし、そうした意味でも強い手駒はもっと必要だろう?」

 

 

スカさんの鋭い指摘に僕はぐうの音もでない。

 

 

確かにその通りなのだ。僕の神器の方向性は一貫して生み出した魔獣の細かな調整と改造に向けられている。神器だって持つ人間によれば、その成長も千差万別なのだ。

 

 

例えば、今の僕には本来の原作レオナルドにあったアンチ・モンスターの創造の可能性は失われているだろう。時間をかけてやればアンチ・モンスターも創れるだろうが、そもそも一体一体に集中して力の使うことの多かった僕はその場で魔獣を大量に生み出しての数と性能に頼る魔獣創造の使い手としてベーシックな戦闘は向いていない。

 

 

どちらかと言えば、今まで育ててきたキルキルちゃんなどの精鋭の魔獣を使って戦いそれを補佐する役回りが僕には向いているのだ。

 

 

だからこそ強い魔獣の創造は急務だ。今のところ原作でもチート級の連中と面と向かって戦える可能性があるのは、キルキルちゃんかスカさんの下で配備が進んでいる神器魔獣軍団だけ。

 

 

欲を言うのなら。安全を期すのなら。もう一体攻め手が欲しい。

 

 

強い魔獣を欲しているからこそ、魔獣化した赤龍帝の存在を戦列に加えられる機会はのどから手が出るほどに欲しかった。

 

 

だがそれをしてもなお迷わせる原作主人公の存在の重み。

 

 

ああくそ、どうすればいい!!

 

 

僕が何に迷っているのかわからないのか戸惑うスカさんが再度口を開こうとしたとき、横合いからキルキルちゃんが口を挟んできた。

 

 

「お話し中、失礼します。セバスチャンより連絡が入っていますが」

 

 

内心助かった、と思った。一回冷静になったほうがいい。少なくとも口が上手なこいつに乗せられる形で決定しないだけの猶予を欲していた僕は体のいい言い訳ができたと話を切り上げにかかる。

 

 

「そうか、つないでくれ。スカさん少し時間をくれ。近日中には連絡するから」

 

 

「いや、それには及ばない。何を思ってマスターが躊躇っているのかは知らないが、この際だ。この場でセバスチャン殿にも相談してみてはどうかな。僕自身彼とは家族(ファミリー)でありながら一度も話したことがないしね。これを機会に紹介してもらいたくもある」

 

 

しかし、このスカさん執拗に食い下がる。本人にしてみれば極上の餌を目の前にぶら下げられているような思いでいるのだろう。わからなくもないが、原作知識のことなど説明できない判断材料が僕の手元にある限り、僕とスカさんとの間で見解を一致させることはできないのだ。情報の格差は認識に大きな隔たりをもたらす。正直セバスチャンへの相談も勘弁してもらいたいんだけど、断るに確たる理由が見当たらない僕は渋々ながらにうなずくしかなかった。

 

 

「わかった、キルキルちゃん」

 

 

「はい」

 

 

ちなみにだが、僕とスカさんとの応酬に割り込む隙を見つけられなかったミサカはすっかり蚊帳の外状態で拗ねて僕の膝に頭を擦り付けていた。ネコか。構ってほしいだろうが、今はそのような時間ではないので、なすがままに任せた。

 

 

「お久しぶりでございます、主よ」

 

 

そして目の前に畏まる電電虫を前に僕は順次状況を説明していく。その途上紹介されたスカさんはセバスチャンを前にしても、いつもながらのハイテンションで押し通し、少しばかりセバスチャンの好感を得たようだった。

 

 

「それで、お前の意見はどうだ、セバスチャン」

 

 

方向性は同じと言えど、どうせ頭脳チートだし意見は一緒だろうが。

 

 

「反対でございます」

 

 

しかしながら慇懃に答えたセバスチャンの返答はスカさんとは違うものだった。

 

 

「この者の答えにはある一点が無視されております。それはもし件の神器が二天龍の一だった場合、わたくしどもは潜在的にもう片方の天龍を敵に回すという点でございます」

 

 

「…………そういえば、忘れてたな」

 

 

強大な戦力を前にして目が曇っていたか。あの赤龍帝を抱え込むということは、それすなわちあのチート白龍皇を敵に回さなくてはいけないのだ。

 

 

ちょっと待った、それはマジ勘弁。あいつの一派とか原作のチート祭りの中でも滅法おかしな連中じゃないか。

 

 

見れば、スカさんは悪戯のばれた子供のように舌を出して笑っていた。こいつ…………

 

 

「その点を主にご指摘しなかったことは、確かに重大な過失ですが、それを差し引いてなお赤龍帝を利用したいという気持ちわからんでもありません。ここはひとつ幼児の些細ないたずらと言うことで目を瞑ってあげられるのが寛大かと」

 

 

お父さんか、お前は。いやお父さんなのか、お前は。

 

 

「…………次はないぞ」

 

 

「ありがとう、マスター」

 

 

屈託なく笑うスカさんはどうにも憎めない。ただこいつは本当に忠誠MAXなのか、大いに疑問だ。スカさんのイメージはいりすぎたか。

 

 

「そこでなのですが。今一度天龍の処遇についてわたしの腹案を具申したく存じ上げます」

 

 

そこで仕切り直しとばかりに再び槍玉に挙げられたのはまたしても赤龍帝の事だった。セバスチャンをしても天龍の存在は無視することができないものらしい。

 

 

やはり今決断せざるを得ないのか。

 

 

原作主人公を排するかどうかについて。

 

 

「何かいい案でもあるのか?」

 

 

ひとまず話を聞いてからでも遅くないと水を向ければ、セバスチャンは殊更に畏まった様子を電電虫越しに見せた。

 

 

「改めて。報告が遅れました。御身に創造され名を与えられて任を与えられて幾星霜。此度このセバスチャン、冥界において上級悪魔になることが決まりました」

 

 

「ッ!! よくやった、セバスチャン!!」

 

 

「おお! おめでとう、セバスチャン殿」

 

 

「祝福いたします、とミサカはここぞとばかりに存在感をアピールします」

 

 

「一年ずれこんだのはいただけんがな」

 

 

僕の言葉を皮切りに、みんなが次々とお祝いの言葉をかける。ある種の到達点に至ったのだ。皆の祝福も温かい。一人だけ厳しい言葉があったが、綺麗にオチがついた形となり、皆もまんじりともせず苦笑した。

 

 

「そのことについては誠に申し訳なく。三年という月日を守ることができずにご寛恕頂いたこの一年の遅れ、これよりの働きにおいて取り戻したく存じます」

 

 

そうして頭を下げた電電虫に僕は抑揚にうなずいた。当初三年で上級悪魔になることを約束したセバスチャンであったが、その予定は一年ほどずれ込む形となり今日果たされることになった。しかし成果を上げられたのであればそれで万事解決である。

 

 

僕の原作介入への道筋は着々と土俵を固めつつあった。

 

 

しかし。

 

 

なればこそ、僕自身の実力の乏しさと覚悟の弱さが際立ってその道程を捻じ曲げているように思えてしまうのだ。

 

 

「そこで改めて、私の上級悪魔の昇格と絡めて天龍の扱いについて話したいのです」

 

 

だからこそ。次にセバスチャンの口から出てきた言葉に対する反応も鈍かった。一瞬遅れて意味を把握したときには、思わず身を乗り出して、その言葉を疑った。

 

 

「それは、つまり…………」

 

 

「はい、天龍の一を私の眷属の女王(クイーン)としてお迎えしたいのです」

 

 

状況は僕の好む好まざるとに進んでいく。僕もいよいよ覚悟をするときがきたのだった。

 

 

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