≪今日のコルット地方の天気は・・・晴れのち雨、降水確率100%。急な豪雨に注意して下さい。続いて占い師ウラヌスによる今日の運勢は・・・≫
ピッ。
「相変わらずコルットは今日も雨ね~」
銀髪の赤目の若い女が、手に持つラジオを消しながらそうつぶやいた。
シルクのようなストレートヘアーを二つにわけて三つ編みにしている彼女は、目が大きく、そこそこ整った顔立ちをしている。
「アニアの肌の色と同じだな」
アニアと呼ばれた彼女の足元から、小馬鹿にした低い声がする。
「何よ、水色で悪かったわね。ていうか!あんたも水色じゃないの!」
「ウェディなのに雨が嫌いとはこれいかに」
「・・・踏んづけるわよ、スラムス」
スラムス、そう、彼女と対等に話す彼は・・・
「スライムをいじめんなよ」
弾力のある小さな身体、冷たい体温、赤く裂けた口、コルット地方の晴れた青き空のような体色。
初期村から出ると必ず出会える毎度お馴染みスライムだ。
「アタシはこういうジメジメしてる所は好きじゃないの」
スラムスを軽く指で押し、へこみ跡がついたことを確認したアニアは満足そうに歩き出した。
コルット地方。
ウェナ大陸でもあまり開拓がなされてない地域だ。
海が近く、原始的な緑が生い茂り、天気がすぐに変わりやすい。
住んでいるのはウェディと呼ばれる水の民。
だが、水の民であるはずのアニアはあまり水が好きでない。
どちらかというと晴れた空の下、草むらで寝転んでる方が性に合う。
アニアは腰に下げた革袋から干し肉を取り出し、その肉でスラムスの口をつっついた。
「ほーれ、食べるがいい」
アニアはニヤニヤしながら、自分の分も口に入れる。
イラついたのでスラムスは抵抗したかった・・・が、自分がスライムであるが故に口以外動かせない。食べ物はいつもアニア頼み。
渋々それを口にすると空の様子が変わっていくのを感じた。
「一雨きそうだ。さすが的中率の100%のウェナ天気予報だな」
スラムスは急いで食べ終わると近くの洞窟へピョンピョン走り出した。
「あ~、待ってよ~」
アニアも急いで後を追う。洞窟へたどり着く頃にはパラパラと雨が降り始めていた。
「浜辺の洞窟、ここでいいのよね」
「そうだな、ここからしばらく入った先に・・・」
「やだ~!ここもジメジメしてる!!」
「俺の話、少しは聞け!」
「だって、なんかカビくさい・・・」
「ってアニア!」
スラムスが叫んだ直後、アニアの後ろからガルバが襲った。
「気づいてるって」
ガルバのツメは鋭い。
この強力な二本のツメで何人もの旅人が負傷を負い、中には命を落とした者もいる。
目のような触角を頭につけ、牙をむき、近づく旅人を容赦なく襲う。
経験値は高いが、決して軽い気持ちで手を出してはいけないモンスターだ。
「無用な心配だったな」
アニアはガルバのツメを右手の短剣で薙ぎ払い、同時に蹴りを食らわせた。
「だが、女子としてその蹴りはどうかと・・・」
「こんな時に女としての心配?命の心配しなさいよ」
そう言いながらアニアは敵の攻撃をかわし、ガルバを斬りつけた。
アニアはその身軽さと器用さを生かし、盗賊に職している。
一番得意なのは短剣だが、やろうと思えば他の武器も出来ないことはない。
何度かモンスターに襲われたものの、洞窟の奥へと進んでいった。
スラムスも襲われそうになったが、アニアはそれを見逃さなかった。
「やれやれ。大した女だな」
「それを言うなら、これが終わってからにしてくれる?」
二人は無の空洞と呼ばれる洞窟の最深部に着いた。
岩場だらけの奥に、鍾乳石で囲まれた場所がある。
「これがあの、レーン村のカーシュが言ってた場所ね。全く、ヒューザとかいう手練れ達が結婚式の準備に追われてなければ!!アタシらが出る必要もなかったのに・・・ブツブツ」
「まあそのおかげで報酬が貰えるんじゃないか」
「とにかく!!ええと、何するんだっけ・・・」
「ここで例の歌を歌って、封印を解くんだよ」
「あ~・・・」
アニアは右のポケットからシワシワになった紙を取り出し、綺麗な字で書かれた歌詞に目をやった。
「アタシなんかの歌でも共鳴してくれるかな?」
「さあな。でも同じウェディだ。何か起きるだろ」
「じゃあ、まあ」
コホン。
軽く咳払いをして、アニアは普段の明るい声とは違った透き通るような高い歌声を洞窟全体に響かせた。
夕闇に沈む海辺 天に昇る星は輝き
穏やかな風は二人をつつみ
あなたとわたし 短い夜を過ごす
「ああああ~!恥ずかしい。何故ウェディは恋の歌ばかりなの!!」
「そんなこと言われてもな・・・」
アニアがジャンプしながら照れていると辺りの空気が変わり始めた。
「おい、来るぞ」
音を立てて崩れる岩場。
亀裂の入った隙間の奥から、大量の黒い煙が噴き出し始めた。
「ちょっと!こんな大量の瘴気、聞いてないわよ!」
手を左右にふって周りを確認するアニア。
「げーほげーほ。ええっと・・・モンスターは・・・」
いない。
あれだけあふれていた瘴気もない。
アニアは全身の毛がよだつのを感じた。
いけない、自分が瘴気に気を取られていたスキに。
「どうしよう・・・スラムス」
「どうって!今すぐ追うんだよ!」
スラムスは小さな身体で何度もジャンプしながら、アニアのふくらはぎを押していた。