「う~ん、何でかしらね」
サラサラと波が押し寄せる砂浜で、アニアが海を見ながら考え込んでいた。
アニア達はココラタの浜辺という、レンダーシアでも辺鄙な場所に到着していた。アニアの呪文は完璧だったが、グランゼドーラ王国には辿り着けないでいた。
「仕方ないですね。ここから歩いて荷を運びましょうか」
ブロッコリーの呼びかけにも、アニアは動かない。アニアの感じてる違和感はもう一つあった。
「ここ、なんかヘン・・・」
空の色も、周りの雰囲気も。夕方でもないのに空が藤色だ。賢者としての勘が働く。浜辺にいる人達に話かけてみても、大人とは思えない回答が返ってくる。
「おねえちゃんにいいこと教えてあげるね~。ここに来た人はみ~んな死んじゃうんだよ★キャハハハハ!」
(正気とは思えないわ)
熟考して動こうとしないアニアのふくらはぎを、ブロッコリーが恐る恐る指でツンツンした。
「アニアさん。まずは人が集まるところへ行きましょう。それから調べればいいです。ここで悩んでたって何も始まりませんよ」
「まあ~、そうよね」
言われてようやく、アニアが歩き始めた。
船員達が交代しながら大きな荷車を押し、ブロッコリーは何やら小さな書籍を片手にブツブツ調べている。一行はグランゼドーラ王国へと繋がる三門の関所へと向かっていった。
アニア達が三門の関所に到着した頃、辺りはすっかり暗くなっていた。
ワカメやらチーズやら、見たこともないようなモンスターに何度も襲われ、アニアはすっかり疲れ切っていた。
「食べ物みたいなモンスターばかり!これでブロッコリーを添えればサラダが出来るわね」
「まあ、そうですね・・・」
ブロッコリーもアニアの言葉を流すということにだいぶ慣れてきたようだ。
「え?門を開けることは出来ない?」
ようやくグランゼドーラへ行けると思ってた疲労困憊のアニア達に、関所の兵士が冷たく突き放した。
「この門はグランゼドーラ王国の王女、アンルシア様のご命令で閉ざしている。グランゼドーラに異常を持ち込ませるわけにはゆかぬという、王女の苦渋の決断なのだ。何者であろうと通すわけにゆかぬ!」
そう言うとアニア達の前から離れ、兵士は再び門の前に静止した。
「どうしよう~、王国行けないってさ」
困った顔でアニアが言う。
「仕方ないですね、出来ればグランゼで取引したかったですが・・・。ここはもう一つの王国、アラハギーロへ行きましょう。あそこも大きい国ですから、これだけの量の荷でも捌くことは可能なハズです」
ブロッコリーの提案に一同頷いた。
三門の関所にはその名の通り、三方向にルートがある。アニア達がやってきたココラタの浜辺とは逆方向の、アラハギーロ王国への門は解放されてた。
アニア自身もアラハギーロ地方へと行く用があり、デスムーミンの取引を手伝いながら進むにはむしろ好都合だった。
三門の関所からワルド水源に向かった一行は、湖上の休息所という旅人が休める場所で宿泊をし朝を迎えた。
一人だけ背の小さなプクリポ、ブロッコリーは商人だった。デスムーミンに託された荷を、朝から大事そうにチェックしている。
ワルド水源は高低差の激しい水ばかりの陸路だ。さらに、三門の関所から王国までかなりの距離があり、一行が王国へと着く頃には日も暮れていた。
だが、アラハギーロ王国でのブロッコリーの仕事はあっという間だった。
ありとあらゆる商業種の店主に声をかけ、あれだけ山積みだった荷物はその日のうちに全て無くなっていた。
あのデスムーミンが一目置いてるだけはある。
「自分の仕事は完了です。貴方たちもお疲れさまでした」
荷運びを手伝った船員達にブロッコリーが労う。
「デスムーミンさんから滞在が許された期間は自由時間となります。12日後、再びココラタの浜辺へと戻って下さい。それでは解散」
そういうとアニアの方を向き、
「では、行きましょうかアニアさん」
なんてブロッコリーが言うものだから、アニアは「へ!?」と状況を呑み込めないでいた。
「だから~、なんであんたがついてくるのよ」
船員達がいなくなり、二人きりになったアニアとブロッコリーは王国の入口で立ち話をしていた。
「自分もね、ジャイラ密林の遺跡には興味があるんです。あそこにはいろいろと秘密が」
「それは知ってるわよ~。でもね、商人のプクリポを守りながら行くにはイロイロと危険すぎるの」
「分かります、それを承知の上でお願いしてるんです」
一呼吸おいてブロッコリーが言う。
「自分の弟のために」
言われてアニアの声のトーンが変わる。
「・・・どういうこと?」
「あくまで噂ですけどね、ジャイラ密林の遺跡に、≪何の症状でも治す≫という薬が眠ってるらしいんです。それを故郷の弟、ノルンに持ち帰ってあげたくて」
「弟はマトモな名前なのね」
「あいつは産まれたときから、器量の良い顔をしていたので」
プクリポに器量なんてあるの・・・という言葉を、アニアはグっとこらえた。
「そういう事情なら分かったわ。なるべく守るけど、ある程度は自分でこらえてね」
「大丈夫です。補助魔法なら使えるんで。そうですねー・・・」
そう言うとブロッコリーはブツブツと呪文を唱え始めた。
「えい!スカラ!!」
ブロッコリーが右手をかざすと、アニアの身体が一瞬光った。
「お~、本物だ。凄いじゃない」
「まあ、主にこういう防御魔法ばかりですけど。売るだけじゃ商売人は出来ないですからね」
少し照れくさそうにブロッコリーが言う。
「分かったわ、どうせ今までも誰かを守りながら動いてたし。一緒に行きましょう!宿は一緒でいいわね」
「え・・・いえ、そこは別の部屋で」
「なんでよ~、広い部屋なのに宿代が勿体ないじゃない~」
「こう見えて自分、25歳です」
「あ、意外と年上なのね」
毛玉と呼ばれるプクリポの年齢は、他の種族には分からないものだ。
「え~と、じゃあ、別の部屋で・・・」
アニアがそう言いながら宿へと入り、ブロッコリーもホッと胸を撫で下ろしながら後ろからついて行った。
(*スカラ=味方一人の守備力を一段階上げる魔法)
プクリポの説明が難しくて出来ない。