「アニアさんて苦手な物とかあるんです?」
ブロッコリーからの唐突な質問にアニアが固まった。
岩場と土しかない殺風景な荒野を越えて、門をくぐったアニアとブロッコリーは、強い日射と樹木が広がる熱帯雨林にいた。雨林の向うに遺跡らしき物もボンヤリ見える。どうやらここがジャイラ密林らしい。
「そりゃあるわよ」
ブロッコリーからの質問にアニアが答える。
「昨日からずっとそうだけど、未知のモンスターが苦手。というより、怖いわ。どういう攻撃してくるか分からないし、自分のミス一つで勝敗が変わっちゃうからね。何度か逃げ出したこともあるわよ」
「へえ、意外ですね。先ほどから容赦なく敵を倒しているので、苦手な物など無いかと思いました」
アニアは王国で、早々に盗賊へと転職していた。レベルが下がってしまうのに!とブロッコリーから何度言われても、アニアは頑として聞かなかった。だが王国を出てモンスターと戦っているアニアを見ているうちに、たとえ賢者よりレベルが低かろうと、ブロッコリーはもう何も言わなくなっていた。盗賊としても、短剣の使い手としても、アニアは一流の腕の持ち主だったからだ。
「それはブロちゃん、あなたのおかげでもあるわね!」
そう言って、アニアはブロッコリーの腰に下げてある小さな本を指さした。タイトルには≪モンスター図鑑・アラハギーロ地方周辺≫と書かれている。サブタイトルは≪レンダーシアの旅のお供に!≫
「これのおかげですか?こういう図鑑とか好きなんですよ。王国を出る時に買いました」
「うん、ほんと助かったわよ。細かく弱点とかも書かれてるしね」
「それは良かったです。半分趣味で購入した物ですからね。あ、そうだ。自分も苦手なものとかありまして」
「うん?」
そう自分から言いだしたものの、しばらく黙ってからブロッコリーが答える。
「その、あまり。鳥が得意ではないです」
「とり?」
「ええ、その・・・。幼少の頃、メギストリス周辺を移動してた時に両親とはぐれまして、ですからその・・・」
「もったいぶるわね~、なに?」
アニアから目線をそらし、少しうつむきながらブロッコリーが言う。
「・・・・・・野菜と間違えたのか、デスパロットから執拗につつかれました」
「ぶはっ!!」
「ほら、笑いました!」
「だって」
そうか、そうか。鳥系のモンスターにとっては食べ物に見えるのね。デスパロットっていつも地面つついてるもんなあ~。
納得したアニアはブロッコリーが不機嫌になるのも構わず、腹を抱えて笑ってしまった。
「で、でも、うまいこと会わずに済んできたわね。鳥系のモンスターの生息地域も通ってきたけど・・・」
涙目になりながらアニアがハッとする。空に羽ばたく音。自分たちに重なる黒い影。
あ・・・これってもしかして・・・
「あれって≪れんごくちょう≫じゃない?五大陸でも見たことあるわよ!」
アニアたちの真上にいる極彩色の美しい魔鳥が、ジッとブロッコリーの頭を見つめていた。
「ひっ、ア、アニアさん・・・」
その気配を察して、ブロッコリーが慌ててアニアの後ろへ隠れる。
「ちょ、ちょっと!足にしがみついてたら動きづらいわよ!」
戦闘態勢が取れてないアニア達に、真っすぐれんごくちょうが急降下してきた。
その目標はもちろん、ブロッコリー。
「もう!スリープダガーで眠ってなさい!」
すんでのところで攻撃をかわし、アニアの短剣にれんごくちょうが眠った。あと少し遅れていたら、れんごくちょうのクチバシがブロッコリーの頭をつつき、緑色のアフロが乱れていただろう。
アニアはまずは落ち着かせようと、自分の足元で怯えるプクリポを引っ剥がし、小脇に抱えて森の奥へと走り去っていった。
「す、すみません。早速、足手まといになってしまって。先に言っておけば良かったですね」
揺れるアニアの背中でブロッコリーが言う。
もう、恥ずかしさとか年上の異性とか関係なく、オンブという体勢が安全と二人は悟っていた。
「いいのよ、ここいらも≪こうていタップ≫の群れだからね。しばらくこのまま向かいましょ」
アニアたちの周りに、金色の毛皮に身を包んだ鳥系のモンスターがウジャウジャいた。その見た目はペンギンに似ている。
実力差があるのを察して襲ってこないが、背中のブロッコリーが見つかったらつつかれてしまうだろう。タップ達がいる水辺を歩きながら、アニアがフフっと笑った。
「なななな、なんです。苦手なのが悪いんですか」
「そんなことないわよ。つつかれること自体は面白いけど」
背中のブロッコリーをチラ見しながら、アニアが言う。
「誰だって苦手なものはあるからね。それは笑ったりしない」
「そ、そうですか」
「ちょっと今、この群れの中に放置したら面白そうだな~と想像しちゃって・・・」
「なんてこと考えるんです!」
「冗談よ、冗談~」
笑いながらアニアはグルっと湖の水辺沿いに移動した。しばらく歩くともうタップ達の群れはいなくなっていた。
「じゃあ、そろそろ下ろしても大丈夫かしら」
辺りに鳥系モンスターの気配はない。
だが、アニアがそう言った瞬間、別のモンスターがゆっくりと近づいてきた。
「あ、あいつはあの時のワカメ!?」
アニアがココラタの浜辺を出て戦ったワカメのモンスターに形だけは似ている。
だが色が違う。全身紫色で、右手に持つ木片をマイク代わりに、何やらブツブツと唄っていた。
「トントコトン、トン、トントコトン♪」
「なんか言ってる!なんか言ってる!!」
「ええと、ちょっと待って下さい」
今度は冷静なブロッコリーがアニアの背中で図鑑をペラペラとめくっていた。
「ああ、あいつはフラワーゾンビです。昨日会ったわかめ王子とは全くの別物ですよ。こちらはゾンビ系みたいですね。結構強いです。歌はあれ、多分仲間を呼んでるんですよ」
「別の奴なのね・・・」
「そうですね。しかもあれワカメじゃなくて、ドライフラワーみたいです。どう見てもワカメなんですが・・・。いやあ、モンスターって面白いですねー」
呑気にブロッコリーが言う。
「そっちじゃなくて!弱点はなんなの!」
ああ、とアニアの質問にブロッコリーが答える。
「炎と光。ザオラルもするみたいなんで、仲間呼ばれる前に倒した方がよさそうですね」
「もう遅いわ」
アニア達の前に、既に二体のフラワーゾンビがいた。
「ええと、じゃあ、自分はピオリムとスカラしながら落ちないようしがみついてるんで、アニアさんは気にせず倒して下さい」
「分かったわ!・・・って、もう相手は鳥じゃないんだから、いい加減おりなさいよ!!」
アニアはブロッコリーをおろそうとしたが、既にしがみついてしまっていたので、仕方なくそのままゾンビ二体との戦闘を開始した。
いくらアニアが強いとはいえ、仲間を呼ばれて尚且つザオラルでもされたらピンチにだってなる。素早く二体とも倒さなくてはならない。
幸いにもアニアの短剣の異常攻撃がよく効き、華麗にカオスエッジでマヒさせたフラワーゾンビにタナトスハントでトドメをさすことが出来た。
(*カオスエッジ=敵1体を斬りつけ、混乱やマヒを起こさせる技)
(*タナトスハント=毒やマヒの敵に威力を発揮する、追い打ちの技)
二体のフラワーゾンビを倒した後、安全を確認しながら、アニアはブロッコリーを下ろした。
「ふう、やれやれ。いろいろあったけど、無事に着けたようね」
「ここが・・・ジャイラ遺跡」
モンスターに集中して気づかなかった二人の前に、組石の崩れかかった巨大な遺跡が広がっていた。
鳥の餌=野菜