もう、適当でいいや・・・。
カチャカチャ・・・
カチャリカチャリ・・・
「あ~!骨の音がカシャカシャうるさいわね~!」
レイザックから5歩ほど離れた場所で、壁を背にしたアニアが強い口調で言う。
「そんな遠くから怒っても、怖くありませんよ?」
ブロッコリーがニヤニヤしながら振り返った。
「ッ!う、うるさい。鳥のモンスターが空から襲ってこないか見張ってるのよ!」
「ハイハイ、そうですよね」
三人は遺跡の中心部にいた。四方を塀に囲まれた場所の仕掛けをいじれば、さらに奥へと入れるらしい。
いつもなら自ら仕掛けを解くアニアだが、レイザックから距離を保ちたいのか、全く近づこうとしなかった。その代わりレイザックの横で、ブロッコリーが興味津々である。
「なるほど、コレがこうなって・・・、面白いですねー!古代の人は!」
レイザックが手を動かすたびに、骨がこすれる音がする。その音もアニアには恐怖に感じるらしい。
「でもなんか変なんスよね」
作業を進めながら、レイザックが言う。
「オイラ、長いこと、ここにいるけど、しばらく動かなかった間に急に世界が変わった気がするんスよ」
「というと?」
「なんていうか、オイラ馬鹿だから説明しにくいんスけど、違和感を感じるんス。ここの仕掛けもオイラが生きてた頃のと微妙に違うというか」
「それは興味深いわね」
離れた場所からアニアが話に食いつく。
アニアもこの大陸に来たときから、違和感を感じていたからだ。
「遺跡の外にいるモンスターもなんか・・・。鳥系のモンスターはいなかったッス」
鳥と聞いてブロッコリーが一瞬ビクついたものの、冷静に話を広げていく。
「では、鳥系のモンスターが急に増えたと?」
「うーん、そういう感じじゃないんスよねー。もっとこう・・・」
そう言うと周りの壁が光り出し、四つの光が交わった先の床が動き始めた。
どうやら下へ降りる階段のようだ、ここから遺跡の奥へと入れるらしい。
「全く違う世界にいるような、そんな感じがするんスよ。そんなわけないんスけどね」
松明を持つレイザックにブロッコリーがついていき、その五段ほど後ろからアニアがそろそろと降りて来る。
足の短いプクリポにとって、人間サイズに作られた階段は降りるのも億劫だ。
「もう階段はうんざりです・・・」
「大丈夫ッス、ここはそんなに長くないッス!ほら、もう、見えてきた」
レイザックの言う先に、物々しい石版が三つ、石版の前に扉も三つ。
それぞれの扉をチョンチョンと指しながら、
「さ、どれ選びます?」
と、明るくレイザックが言う。
「どれ選ぶって・・・、あんた分かってるんじゃないの?」
「分からないッス」
きっぱりとした口調で返され、アニアが少しイラっとする。
「もう!役に立たないじゃない!」
「すんません、分からないものは分からないッス」
「やっぱあんた倒す」
「えええ!?マジッスか」
「アニアさん、落ち着いて」
二人の間にブロッコリーが入る。
「レイザックさん。つまり貴方はココで死んだということですか?」
「かもしれないッスね~、オイラ扉を開けた時にモンスターが現れて、そこから記憶ぶっ飛んでるッス。気が付いたらホネになって、ここにいたんス」
「ふうむ。それでしたら、もうここは、アニアさんの盗賊としての勘を頼るしかないですね」
「ア、アタシの?」
「それいいッスね。そうしましょう。どれ選んでも恨みっこなしで!」
「そんな、適当でいいのかしら・・・。いきなりモンスターに襲われるかもしれないわよ」
「いやー、だって、古代の書物にももうこの先については載ってないんスよー。なんか、なぞなぞみたいなことが書かかれてるだけで」
「なにそれ!重要じゃない。見せなさいよ」
アニアがレイザックから日誌を奪い取り、素早く離れながらページを覗いた。
彼の字でこう書かれている。
≪私とあなたは合わせ鏡。偽りの私はあなたに噛みついてばかり。私の本来の姿を見せたら、あなたはどう思うかしら?≫
「ね?意味不明ッスよねー。よく分かんないんスけど、一応ノートに書き写しておいたんス」
レイザックからそう言われて、アニアがため息をついた。
「こんなに分かりやすいのに・・・」
アニアがそう言うと、石版の所へ向かい、チカラいっぱいに動かし始めた。重いが動かせないほどでもない。180度回転させると、石版の文字が扉の方へと向いた。
「これ三つともやるんです?」
手伝ってるつもりだろうか。ブロッコリーがうんしょ、うんしょと石版を押しているが、あまり動いてない。
「そうよ、ブロちゃん。まあ見てて」
アニアがブロッコリーごと石版を動かし、全ての石版の文字が扉の方へと向いた時、後ろからゴゴゴという音と共に別の扉が現れ始めた。
「隠し扉!?」
「そうよ、つまり、この石版と扉が鏡で、本来の姿というのはあの新しい扉のことよ」
「ははあ、なるほど。偽りの私、三つの扉を開けていたら、モンスターに咬みつかれてたというわけですか」
「なにそれ、分かるわけないじゃないッスかー。だったら、鏡を置いておいて欲しいッスよー」
レイザックの間の抜けた声に、アニアがやれやれと返事をする。
「あんた、この石版の文字読める?」
≪この世界には真実だけを映し出す太陽神の加護を受けた道具がある。緑色の枠に八つの天然石がはめ込まれており、かつてそれは王女の呪いを解き、王に化けたモンスターの正体を暴いたこともある≫
「これ、ラーの鏡のことじゃない」
「そんなの、知らないッスよー」
「そしてあの三つの扉に掘られた絵柄もラーの鏡」
「へー、そうなんスか」
もうこれ以上何を言っても無駄だと悟ったアニアは、やれやれといった表情でレイザックに日誌を返し、新しい扉の方へと向かって行った。
もう、恐怖が無いのか、アニアとレイザックの距離はさほど遠くなかった。
ミラーワールドなんて、出てきませんよ。