「ここがそうなんですかね」
ブロッコリーが辺りをキョロキョロ見回しながら言う。二人が着いた部屋は、人が住んでいたような形跡があった。数冊の書物と古い万年筆が机に置かれ、壊れたコップが床に転がり、壁には呪文のようなものがメモ書きされていた。
「そうね。そしてこれがきっと鍵よ」
アニアは壁に手をかけた。
「むうう、自分には読めないです」
「大丈夫よ、アタシが読めるわ」
古代文字だろうか。ひねくれたような歪んだ文字が魔法で張り付けたように書かれている。アニアがそこに書かれた呪文を読み唱えると、彼女たちの足元が光りはじめ、大きな宝箱が現れた。
「ああ!これが」
「隠された四つのお宝ね・・・」
食べても食べても消えないパン、
何もしなくても枯れないスズラン、
遠く離れた仲間とのやり取りが出来るピアス、
そして、どんな難病をも治す薬。
宝箱の中には全てが入っていた。
「良かった、けど」
アニアが言葉をつまらせる。
「レイザックはどこへ消えちゃったのかしら・・・」
そう、二人が歩いてきた道には隠し部屋も分かれ道もなかった。それなのにレイザックには会えなかったのだ。
「あの魔法じゃそんなに遠くへは飛ばせないと思うのだけど」
「まあ、既に死んでますし。そのうち会えるでしょう」
「そういう問題じゃないでしょ!」
アニアはブロッコリーの頭を、軽く小突いた。
(あんなに怖がってたくせに・・・今度は心配ですか)
「なあに?何か言った~?」
「いえ、別に・・・」
「これはあいつが探してきたお宝でもあるしょ!早く見せてあげないと」
アニアとブロッコリーは、とりあえず部屋の外へと出ることにした。
「いなかったわね」
「ええ、くまなく探したんですが」
もう日が暮れようとしていた。それでもアニアは諦めようとしなかった。
「いっそのこと、あの魔法の中に吸い込まれてみてはどうですか?」
「ええ~・・・、それは危険すぎるわよ」
「まあ、ですよね」
「念のため遺跡の外も探してみましょう」
「ああ・・・、じゃあ・・、その」
「分かってるわよ、オンブでしょ」
「・・・はい」
アニアは軽々とブロッコリーを背負うと、遺跡の上から地面へと飛び降りた。
「きゃっ!?」
何かとぶつかった。
アニアの前には蒼いセミロングの髪にゴーグルをつけ、首に黄色のバンダナを巻いた人間の女の子がへばって座っていた。
「ごめんなさい、前をよく見てなくて」
「いやいや!アタシの方がいきなり飛び降りたかr」
言いかけてアニアがギョっとした。
「って!?」
女の子の横に見覚えのあるスライムが転がっていたからだ。
「ス・・・ラム・・ス?」
そう言うと同時に女の子の影から男の声がした。
「あれ?アニアちゃんじゃないの」
「え?え?えーと・・・」
つまりだ。
アニアがぶつかった相手は蒼色の髪の女の子で、その横にはスラムスがいて、さらに後ろにはリョンがいたのだ。
そして、
「ぬん?」
アニアの知らない黒髪の人間の少女も一緒に行動していた。
「アニア、お前何で緑色のプクリポを抱っこしてんだ?」
「え、アニアさんこの方たちとお知り合いなのですか?」
「アニアちゃーん、久しぶりじゃーん。元気してた?」
「みんな、友達だぬん!」
「ちょっと待って!!同時に喋らないで~!!」
四人が喋るのを静止すると、アニアはまずはスラムスの方へと向いた。
「えっと!まずあんたに聞きたいのは、何故ここレンダーシアへ渡れたのかということよ!」
「ああ、それならこのシアンって子と協力したまでさ。魔法の羅針盤の材料を集めてね」
「ぬん」
黒髪の少女が返事をする、彼女はシアンという名前らしい。
(ねえブロちゃん、≪ぬん≫ってなにかしら??)
(さあ・・・、口癖・・・じゃないですかね)
「ぬん!」
再びアニアがスラムスの方へと向く。
「じゃあ、もう、船の定期便が出始めた、ということね」
「ああ。勇者覚醒の光も発生したし、冥王ネルゲルもシアンが倒した」
「え!?ネルゲルをこの子が倒した・・・って!?」
14、5歳くらいだろうか。シアンはまだ幼い雰囲気を持っていた。青いローブを着て両手杖を持っていることから、恐らく魔法使いだろう。
「ぬん」
アニアがシアンの目の奥底をのぞき込むように見る。
「ぬん?」
「ああ、そうか。なるほど。あんたは・・・」
「そういうことだ」
スラムスが話す。
「とにかくだ、勇者覚醒が始まってしまった今としては、急いでグランゼドーラ王国へと向かわないとな。俺はずっとあの光を待ってたんだ」
「そう・・・え」
歩き始めたアニアの動きが止まる。
「勇者覚醒の光ですって!?」
「ああ、アニアも見てただろ?」
「見てないわ」
「なんだと」
スラムスが蒼髪の女の子に言う。
「セラフィ、君も見たよな?神々しい光の束だ。レンダーシアから発せられてたはずだ」
蒼髪の女の子はセラフィという名前らしい。
「ううん、そんなの見てないよ」
セラフィは首を横に振った。
「どういうことだ?あの巨大な光を、偶然にも二人は見てなかったということか?」
「あ、自分も見てないです」
ブロッコリーが小さく手を挙げた。
「深夜ってわけじゃないわよね?」
「違うぬん、あの時は日が暮れてすぐだったぬん!」
シアンが明るく言うと、スラムスが黙ってしまった。
「とにかく今はセラフィの手助け中だぬん!大樹の根元まで急ぐぬん!!」
「あ、待って」
アニアはリョンの方を向いた。
「あんたは何でいるの?」
「んー、って。何でってヒドイなー!オレはレンダーシア行きの船に乗った時に、可愛い黒髪の女の子がトイレの場所が分からないって困ってたから教えてあげてー、そのままいろいろ手伝い続けてー、気が付いたらココにいただけさ」
リョンがウィンクすると、アニアはやれやれと両手をあげてため息をついた。
六人が大樹の根元と呼ばれるジャイラ密林の奥地へ着いたとき、木の上から白い影が素早く降りてきた。
左目に十字の傷を負い、たてがみはオレンジ色、左前脚には太い金属製のリングをしている白いキラーパンサーだった。
威嚇するキラーパンサーに、アニア達が身構える。
「ガルルルルルルル」
「大丈夫」
それを遮るようにセラフィが走ってきた。
「あの子は襲ってきたりしない、私が説得してみせるから。いかなる凶悪な魔物でも・・・・・・受け入れ許す心がなければ、真のまもの使いにはなれない・・・」
自分に言い聞かせるようにセラフィが言う。そのままゆっくりとキラーパンサーに近づいていった。
「ほら・・・・・・私だよ。覚えてない?」
「ガルルルル・・・・・・!」
「ほらよく見て。だいじょーぶ!怖くないよ・・・」
「ガルル・・・ル」
しばらくするとキラーパンサーは大人しくなり、セラフィに頭を撫でられてるくらいに落ち着いていた。
「よしよし、いいこね」
「・・・ゴロゴロ」
頭を撫でられて、キラーパンサーは気持ちがよさそうだ。
「凄いですね、モンスターがノドを鳴らしてますよ。確かにキラーパンサーは猫に似てますが・・・、ノドを鳴らすとこまで似ているとは」
「完全にモンスターと意思疎通出来てるわね」
ブロッコリーとアニアが関心する。
「シアンさん見て」
セラフィが自分の腕を見せながら振り返った。
「ほら、同じ腕輪でしょう?やっぱりこの子は私の相棒だったのよ。ねえ、そうでしょ?あなたと私、相棒だったんだよね?」
「ガルッ!」
キラーパンサーが返事をする。その目はもう、信頼に満ちた光をたたえていた。
そして、確かにセラフィとキラーパンサーには、瓜二つな緑色の腕輪が装備されていた。
「でも、あなたの名前までは思い出せないや。・・・ごめんね。だからもう一度、名前つけてあげる!うーんと・・・」
セラフィはしばらく悩んだあとニッコリ笑った。
「・・・チョメ。うん!今日からあなたはチョメよ!いーい?チョメ」
すると戸惑いながらもチョメと呼ばれたキラーパンサーが返事をした。
「ガ・・・ガルッ!」
「えへへへ」
セラフィはとても満足そうだ。
「・・・ねぇ、シアンさん」
「ぬん?」
シアンの方を振り返ってセラフィが言う。
「確かに魔物は私たち人間を襲う敵かもしれないけど・・・。中にはこんなふうに心を通わせられる優しい子もいるんだよね。格闘場にいる魔物たちだってきっと・・・」
セラフィは悲しい顔をしてうつむいてしまった。その様子を見てシアンが無邪気に元気づける。
「セラフィ大丈夫ぬん!シアンが手伝うぬんぬん♪」
アニアがスラムスにヒソヒソと話しかける。
「ねえ、格闘場って、あのアラハギーロ王国にあった立派な建物でしょ?あそこで何が行われているっていうの?」
「ああ、あそこはモンスター同士の格闘場さ。そこの王様ってのがちょっとヤバい奴っぽいんだよ・・・。まあ、後で話す」
セラフィがうつむいてた顔を上げながら言った。
「そうだ!まもの使いの存在をみんなに教えれば、魔物と人間も心を通わせられるってわかってもらえるかも。チョメ、怖いかもしれないけど、私と一緒にアラハギーロに来てくれる?」
「ガルッ!」
チョメは元気よく返事をした。
「なんだか、あんたたち面倒なことになってるわね」
「俺らいつものことだろ」
「アニアちゃーん、忙しいねー」
「自分も出来る限りは協力しますよ」
「シアンも頑張るぬん!」
「よし!みんなも一緒にアラハギーロへ帰ろう!」
日が暮れたジャイラ密林で、5人と一匹はアラハギーロ王国へとルーラで飛んでいった。
よし、みんな集まったぜ