アニア達一行は入口で国民の様子を伺っていた。
セラフィとシアンがアラハギーロ王国へと入り、その後ろからアニア・ブロッコリー・リョンが続く。チョメとスラムスは王国の外で待機していた。今、この国に魔物が入るのはまずいらしい。
アニアがブロッコリーのアフロで隠れてる耳の辺りに話しかける。
「ねえ?ブロちゃん」
「なんです?」
「急いで故郷の弟にそれ持って帰ってあげた方がいいんじゃないの?」
アニアはブロッコリーの腰から下げているカバンを指さした。
「く・す・り」
「いや、まだ必要ないですし」
「え、病気なんじゃないの?」
言われてブロッコリーが一呼吸おいて喋る。
「いつ、弟が病気って、言いました?」
「はあ!!?」
ブロッコリーがニヤリとした。
確かに。ブロッコリーは一言も言ってない。言ってないけど!理由も聞いてないけど!
落ち込んで言われたら、治せない難病かと思うでしょ!?
アニアが怒り心頭になっているのも構わずブロッコリーが続ける。
「これは、レンダーシアに行ってみたいと言ってた、弟の船酔い用に使うんですよ。あいつ、すぐ乗り物に酔うんで」
「ふ、な、よ、い!?」
「ええ。きついですよ?船酔い」
「それは、そうでしょうけど!!」
真顔で言うブロッコリーのアフロを、アニアが両手でくしゃくしゃと乱した。
「やめてくださいよ!せっかくここまで鳥にもつつかれずヘアスタイルを守ってきたのに・・・」
ブロッコリーは必死でアニアの手を振りほどいた。
「そんなのどうでもいい~」
「まあ、利用したみたいな形になったのは、悪かったと思ってます。ですからこうして、こちらも出来る限りは協力してるんですっ」
「商人がなんの役に立つのよ~」
ブロッコリーが手グシで直したアフロに、アニアはまた手をかけようとする。
「わあ、だから、髪を乱すのは辞めて下さい!忘れたんですか!」
ブロッコリーが小走りでリョンの後ろに逃げた。
「自分はデスムーミンさんの元にいるんですよ!あの方の協力があれば、心強いこと確かです」
「そりゃそーだ、アニアちゃん。あの人の後ろ盾があれば、怖いモンなしだぜー」
数日前それで苦しんでたくせに。
そうリョンに言いたいのを我慢して、
「分かったわ、そのことはもういい。今はとりあえず、この国を何とかするしかなさそうね」
と、辺りを見回しながらアニアが言った。
すると商店街にいる国民と思われる二人に一人が駆け寄り、興奮しながら喋りだした。
「おい、もうすぐモンスター格闘場で、すんげえイベントが開催されるんだってよ!なんつったっけ?サブイボデブマッチョ?」
「サバイバルデスマッチな!」
紫色の髪の男が、マッチョの男に訂正する。もう一人の金髪の女が言う。
「もうみんな知ってるわよ~!格闘場にいる魔物たちを最後の1匹になるまで戦わせるなんて、さすがはベルムド様ね★」
「魔物どもがぶっ倒れるまで戦い抜く・・・。クーッ!考えただけでゾクゾクするぜ!こいつぁ、今までのショーなんか目じゃねえぞ!」
セラフィはしばらく黙って聞いていたが、その目は怒りに満ちていた。
「シアンさん、今の話、聞いた?ひどすぎるよっ!死ぬまで魔物たちを戦わせようだなんて!そんなバカなイベント、どうにかして中止させなきゃ・・・」
「ぬん」
セラフィはしばらく考え、シアンたちを見て何か思いついたようだ。
「そうだ・・・いいこと思いついた!シアンさんたちがいれば、魔物たちを助けてあげられるかもしれないわ!格闘場の魔物って、アラハギーロ東側にある魔物専用の通用口を通って、地下のオリに入れられてるの。とりあえずその通用口まで来てくれる?くわしい話はそこでするから」
そう言うとセラフィは王国の外へと駆けだした。
「ふーん、これはオレも許せない話だね」
「あら、意外ね。リョンがそう言うの」
「えー、アニアちゃん、オレのコトどう思ってんのー」
悲しそうな顔をしてリョンが言う。
「オレだって道具使いだから、魔物扱ってんだよー。今は連れてないけど、昔、ホイミスライム連れてたんだから」
「へえ~、可愛いじゃないホイミスライム。何で今は一緒にいないのよ?」
不思議そうにアニアが尋ねると、リョンがもっと悲しそうな顔になった。
「そいつね・・・、彼女作って逃げちゃった・・・・・・」
「あらら。女好きは飼い主に似るのね」
「くっそー!今頃、あの触手を使って彼女とあんなコトやこんなコト!許せん、メタルエロス!」
「なにその、名前・・・」
リョンは苦笑いして誤魔化したが、アニアは完全にドン引きしていた。
「とにかく、だいたいの事情は今ので分かったわ。ベルムドってのは国王のことね」
「そうだ」
王国の外でスラムスとアニアが話している。セラフィとチョメは一足先にモンスター格闘場で待機しているらしい。
「そしてこの国の人達は記憶をなくしているんだ、あのセラフィも」
「あの子も、か」
「何かしら事件があったのは間違いない。そしてその国民達に名前をつけて生きるチカラを与えたのは、他でもないそのベルムドだ。そんな国王や国民達は、モンスター格闘場でのイベントを生きがいにしている。それを止めるってことは、国全体を敵にまわすってことだぞ」
「上等上等」
アニアはケラケラと笑った。
「それくらいじゃないと面白くないわね!」
「全くお前ってやつは・・・」
間を開けてスラムスが言う。
「ミスするとパニくるくせにな」
「な、なによ。すぐ冷静になったでしょ」
面白がってブロッコリーも言う。
「幽霊を異常に怖がってましたよね」
「こ、怖がってないし!ちょっと驚いてただけだし」
「あー、オレの時は胸に抱かれてたっけ」
「え!?」
リョンの発言に思わず全員が振り返った。
「はあ!?抱かれてたって何?爆風からかばってくれただけじゃないの!!」
「オレがしびれガス受けたときも、心配そうに抱いてくれたっけなー」
ほおおーーーと意外そうに全員がアニアを見つめる。
「な、なによ!あんただって、おばあちゃんの思い出に浸って泣いてたじゃないの!!」
「い!?」
アニアの反撃に急に恥ずかしくなったリョンは、「さ、行こうぜ」と慌てて歩き始めた。
モンスター格闘場へと向かいながら、アニアはだいたいの事情をスラムスから聞いていた。
メギストリスの妖精の図書館でシアンに会ったこと、そのシアンが宿命を背負った生き返しを受けた人間だったこと、気が付いたらリョンという男がくっついてきたこと。
「生き返し?君は一度死んだ人間なのかい?」
その話を聞きながら、リョンが驚く。
「シアン死んだぬん。ネルゲルに殺されたぬん、村のみんなも、友達も、アバも・・・」
アバという名前は誰も知らなかったが、シアンにとって思い入れの強い人物であることは間違いなかった。
「でもシアンだけ生き返ったぬん・・・。ドワーフになってマアモン倒して、ガタラでチリちゃんとお友達になって、電車に乗ったらホーローがお弁当食べてて、ええと。それで、それで、自分の体も取り戻したぬん!」
「うん。スラムス、説明してちょうだい」
何を言ってるのかさっぱり分からないシアンに代わって、スラムスが喋り出した。
「あー、つまり、最初は仮の身体を貰ったんだよ。死んだドワーフの女の子から。ホーローが協力して自分の身体も取り戻したみたいだがな」
「シアン、さっきからそう言ってるぬん!」
プンスカ怒るシアンに構わずアニアが聞く。
「なるほど、あのジジィが全て関わってたわけね。レンダーシアへも」
「そう、ホーローのおかげさ。アニアは自力でレンダーシアへ渡ったと聞いて驚いたよ、オレもまさか船がストップしてるとは思わなかったからな」
「まあ、あのジジィほどではないけど、賢者の端くれではあるからね。あ、そういえばスラムス、ルシャトラのことは・・・」
「しっ」
アニアが言うのをスラムスが静止する。モンスター格闘場へ着いたようだ。
「アニア、その話はあとだ。とりあえず、これを片付けちまおう」
「分かったわ」
頷いて、アニア達は静かに格闘場へと足を踏み入れていった。
セラフィ可愛い