アラハギーロ王国はあまり雨が降らないらしく、湿気を嫌うアニアには過ごしやすい気候だった。
貯水槽(貯水池)は王国の内外に点々とあり、それらを往復する業者たちが何度も行き来している。
(ふう~ん、真面目に働いてるこいつらも元魔物なのね…)
アニアが寝ぼけ眼で、業者たちをぼんやり眺めている。
「どうした?まだ眠いのかよ、もう行くぞ!」
6回もアニアを起こしに行ったせいで、スラムスはかなり不機嫌だ。今までにも起きない事態は何度もあったが、今回は特にひどかったらしい。
「ああ、うん。今行くけど」
「なんだよ?」
「いいの、大丈夫。行きましょ」
スラムス、シアン、リョンに続いて、アニアもゆっくりと動き出した。
「・・・レイザックさんのことですね?」
そしてブロッコリーも。
「あら、いたの?ブロちゃん」
「いますよ!まだいますよ!!お手伝いするって言ったじゃないですかー!!」
「そうね。ありがと、いや小さすぎて」
「ひどいですねー、これでももう大人だと・・・」
「分かってるって。プクリポは皆小さいもん」
いたずらっぽくアニアが笑う。
「レイザックさんのこと、まだ気にしてるんでしょう?結局、あの空間に置いてきぼりですもんね」
「…………うん」
うつむきながらアニアが答える。
「仕方ないですよ、ずっと探したのに見つからなかったんですから」
「そりゃそうだけど、アタシのチカラでもっとなんとかならなかったのかな・・・って。レベル99の賢者になれても、ほんと役に立たない。見せかけと称号だけ。いつも駅弁食べてるだけのジジイだって、大きな流れを動かしてるのに」
聞いたブロッコリーがため息つきながら言う。
「ほんと毎回、アニアさんわりと落ち込みやすいんですよねー」
「な、なによ。悪い?」
「いいえ?反省出来ない人よりマシかと。そういうヤツは同じこと繰り返しますからねー。何も考えず行動するヤンチャな弟に見習わせたいですよ」
「そお・・・」
「何か分かるかもしれないし、今は先に進むしかないですよ。行きましょう。アラハの石は自分が持ってます、いつでも探しに来れますから。ね?」
ブロッコリーがはにかみながらアニアを見て笑った。
「・・・うん、そうね。てかブロちゃん」
「ん?」
「前歯が一か所、欠けてるのね」
「あああ!うっかり歯を見せてしまった!見せないようにしてたのにい!!」
一行は三門の関所に到着した。
以前は追い返されたグランゼドーラ王国への門。
そもそも蝶を集めたと聞いていたが・・・
「そんな蝶のおもちゃで本当に通れるの?」
シアンの手には、二つ合わせると蝶に見える腕輪、蝶の髪飾り、琥珀に入り込んだ蝶が抱えられている。
アニアの問いに答えようとしたスラムスを、シアンが遮った。
「ヘンテコ男がそう言ってたぬん!蝶を三つ集めろって!えと、確か名前は・・・」
「クロウズですよ」
後ろから声がして振り返ると、不思議な色の目をした男が立っていた。
栗色の長い髪、ウェスタンハットに紫色のマント。
シアンとは知り合いらしく、フレンドリーに話しかけてくる。
「お元気そうで何よりです」
「あ!!クロウズぬん!元気だよー」
「ふふ、さすがはシアンさん。もう3匹の蝶を集めてしまったのですね。ではその蝶たちを私に」
言われたままに、シアンは三つの蝶をクロウズに手渡した。
「すばらしい、やはり蝶はいいですね。見ているだけで異世界に誘われそうです。ありがとうございますシアンさん。ではまた」
クロウズが歩き出そうとするのをアニアが慌てて引き留める。
「おい、アンタ、どういうこ・・・」
「……ふふっ。冗談ですよ。もちろんグランゼドーラの門が開かれるという話も忘れていません。まあそこで、待っていて下さい」
「アンタなあ、笑えない冗談・・・」
アニアがまた何か言いかけたところで、誰かが近づいてきた。
「あら?もしかして・・・シアンさん?」
駆け寄ってきた女性はオールバックの金髪で、素朴な赤い服を身にまとっていたが、どこか上品な品格が漂っていた。
「ああ!やっぱりシアンさん!・・・私です、メルサンディ村でお世話になったミシュアです。あの時はありがとうございました。お礼もちゃんと言えずに行ってしまって、ごめんなさい」
「ミシュア?でも確かあの後・・・」
「しっ、シアン。黙って聞いてろ」
シアンをスラムスが止めた。ミシュアと名乗った女性が話を続ける。
「実は私・・・・・・、思い出したことがあって、グランゼドーラに行かなくちゃって、そのことでアタマがいっぱいで・・・。…ミシュアというのは私の本当の名前ではありません。今はそれしか思い出せませんが、グランゼドーラ王国に行けば、全てが分かるような気がするんです……」
「そうだったぬん」
「あれがグランゼドーラへの門・・・・・・私、行きますね。それじゃシアンさん、またどこかで」
そう言ってミシュアは門に向かって歩き出した。
クロウズが皆にささやく。
「私についてきてください」
ミシュアが門の前まで行くと、案の定兵士たちにひき止められた。
「待て、娘!この門はグランゼドーラ王国の王女、アンルシアさまのご命令で閉ざしている。何者であろうと・・・うん!?」
兵士がミシュナの顔を見て、何かに気づいたようだった。
「し、失礼しました!どうぞお通り下さいっ!」
(なるほど。あの娘は記憶を無くしているようだが、城の関係者だな…)
瞬時にスラムスが理解する。
兵士たちが門を開け始めた。開かれた門をミシュアがくぐり抜け、その後ろからクロウズが行者のフリをしてついていく。アニアたちも普通についていこうとしたその時・・・、
「シアンさん、何をしてるんです?行きますよ」
シアンだけ、ポカーンとその場に立っていた。
「え!?でもミシュアだけじゃないぬん?皆で行っていいぬん??シアンはミシュアの友達ぬん????」
シアンがあまりに大声で言うものだから、冷静沈着なクロウズも少し慌てている。
「このバカ子!行くんだよ、【あの方】が門の向うで待っている」
「ごめんなさ~い、この娘、ちょっとバカでして・・・」
スラムスがシアンの口をふさぎ、アニアが無理やり引っ張って行く。
「むが!なに・・・する・・・ぬーんはバカじゃない・・・・・・ぬーーーーーん!」
不審げな顔をする兵士たちの前を、素早く通り過ぎる一行であった。
「ま、まあちょっと焦りましたが、通れたでしょう?私にはちょっとした未来が見えるのです。さあ、グランゼドーラ王国まであと一歩。先を急ぐとしましょう」
クロウズはそう言うと単独で歩き出し、すぐに見えなくなっていた。意外と足が速い。
「だってクロウズがちゃんと言ってくれなきゃ、分からないぬん!変な目で見られたぬん!シアンはバカじゃないぬん!!」
クロウズが去った後も、シアンだけまだ不機嫌なようだ。
「それでシアン?ミシュアとは何があったの?」
アニアから聞かれ、シアンの表情がパっと変わった。
「ああ、そうぬん。ミシュアはメルサンディ村で会った村娘だったぬん。怪物の手から助けて、村に戻ったらいなくなってて、別の女の子がミシュアってことになってたぬん」
「あれは人為的な何かが記憶を閉ざしてる気がするな」
スラムスも話し始める。
「クロウズは素性も謎で不思議な男だが、これまでの行動を見る限り信用は出来そうだ。オレたちはクロウズに言われ、メルサンディ村、セレドの町、それとさっきのアラハギーロ王国を回ってきた。ミシュアはメルサンディ村で会ったんだが・・・」
「王女、ね。あの子」
アニアの説にシアンが目をパチクリさせる。
「お姫様ぬーん?」
「間違いないわ、勇者姫よ。覚醒はしてないみたいだけど」
「そうだとすると、そこがまた謎だ。オレたちは覚醒の光を確かに見たんだ」
「何だか分からないことだらけだけど、とりあえずグランゼドーラ王国へ行ってみるしかなさそうね。・・・・・・ところであんたたち」
ため息をつきながら、アニアがブロッコリーとリョンの方を向いた。
「え?」
「なに、二人でオヤツ食べてんの」
アニア達が話してるとき、暇だったのか二人は岩の上に座り、呑気にタルトを食べていた。
「いやー、ブロくんのアイスタルト絶品なんだよー。今日暑いから、余計に美味いわー。マジ、氷耐性あがるわー」
「いえ、そう言っていただけて恐縮です」
「あのねえ!急いでるって言ってるのに!!」
「そう言って起きてこなかったのは、どなたですかねえ・・・」
「ぐっ」
ブロッコリーの鋭いツッコミに、アニアも黙る。
「あ、ズルいぬん!シアンも食べるぬん!!」
相変わらずまとまりのない奴らだなあ・・・。
そう思いながらも、スラムスも一口、タルトをご馳走になるのであった。
「うん、美味いわ」
元の話をなぞると文字数は稼げるんだけど、文章を繋げていくのが難しいんだなあ。
オリジナル話のが書きやすい。