「上官どの!?これは・・・」
兵が駆け寄ろうとして立ち止まる。瘴気にまみれた上等兵のその姿は、もう人間ではなかった。
全身が毛で覆われ、舌をだらしなく垂らしている。色は紫だったが、イエティに似ていた。
「ウグ・・・貴様・・・・・・」
「へえー、それがキミの本当の姿ってわけね。元のがイケメンなんじゃない?」
リョンが鼻で笑う。
追い打ちをかけるように馬鹿にされたグランゼドーラ上等兵・・・、いや、元上等兵の魔物は、周りに人がいることもお構いなしに呪文を詠唱し始めた。
「おい!やべえぞ、逃げろ!!」
酒場にいる人達が店外へと走る。魔物はリョンめがけて攻撃した。
「闇で覆い尽せ!・・・ドルモーア!!」
(*ドルモーア・・・闇属性呪文)
黒い光がリョンを襲う!だが、リョンも一足早く、自身にマジックバリアをかけていた。
(*マジックバリア・・・呪文ダメージを一度使用で25%、二度使用で50%軽減する)
「いってぇ!くそう、少しダメージを食らったな・・・」
リョンが後ろをチラ見した。
「なあ、いるんなら、手伝ってくれないか?」
ギクッ・・・。ブロッコリーとスラムスは、店内の奥に隠れ様子を伺っていた。
言われて二人が返事をする。
「じ、自分は戦闘が不向きなんです」
「俺もあまり・・・」
「で、ですが」
少し震えながらブロッコリーが出てくる。
「何があっても逃げないアニアさんを見て・・・、そのアニアさんを手伝うと言ったその時から・・・」
ブロッコリーが走りながら敵へと向かい、サッと懐へと手を入れた。
「何も恐れません!」
叫ぶと同時に、キラキラした何かがモンスターへと落ちていった。
「ゴールドシャワーです!!」
無数のゴールドが、モンスターへと打撃した。たかがゴールドといえど、1枚1枚に魔力が込められたおかげか、かなりのダメージを食らっているようだった。
「よおし!やるじゃん、ブロくん!!」
リョンもスクルトを詠唱し始める。道具使いであるリョンは、まず補助魔法で身を固めるのが戦法だ。
スラムスもやれやれと遅れて出てきた。
「俺だって逃げるつもりはないぜ・・・って、これじゃあ、カッコ悪い登場だな。ちっ」
「ありがとうございました。でもまさか、王国兵がモンスターだなんて…」
酒場店員の女が、リョンにお礼を言っていた。
「いやいやー、無事で良かったね」
リョンが女に優しく微笑みかける。
「・・・・・・こっちは全然無事じゃないけどなっ!」
その後ろで、不機嫌そうにスラムスが言った。
そう、あの時・・・、リョンはスクルトを唱えていたのだが・・・。女店員のことを気にして、店内の家具や壁・食器へと効果をかけていたらしい。
そのまま戦闘が行われ、何とか倒したものの、店内はほぼ無傷の代わりに三人はボロボロだった。
「すみません、自分のMPが足りずにスカラがかけられなくて。上薬草のストックが何個かありますから、これを食べましょう」
「お、いいなー。オレにもくれよー」
スラムスとブロッコリーが上薬草をパンにはさんで食べる姿を見て、リョンがニコニコ近づいてくる。
「嫌ですね」
「あげねえよ」
「ええー!?仲間じゃん、くれよー」
「あの方に何か作ってもらったらどうです?」
「それもそうか、ええと・・・、名前聞いてなかったな。おねえちゃーん!」
すぐに方向を変えて女の方へと走るリョンに、二人は苦笑いをした。
「やれやれ、あの性格は変わることはないな」
「ですね。でも、これでハッキリしました。…あの国は魔物が支配していると」
「ああ。さっきオレが言いたかったのはそこだ」
「言いかけた話ですね」
「そう。街外れに魔物使いに連れられたモーモンがいてな、そいつが言ってたんだ。【あの国は魔物に支配されている、気を付けろよ】とな」
「…何者ですか、そのモーモンは」
「くくく、俺らモンスターには独自のネットワークがあるのよ」
スラムスがニヤニヤする。二人が話してる間に、リョンと女は談笑しながらキッチンの奥へと消えていった。
「まあ、いいか。あいつは放っておこう」
「ですね。何とかアニアさんたちと合流しましょう」
二人が酒場を出ようとしたのを察知して、リョンが慌てて奥から叫んできた。
「あーーーー、待って!オレも、オレも行くからさーーー。あ、そうだ。噴水!!噴水があったよなぁ!あそこで17時頃合流しようぜ!!じゃあなーーー」
勝手なことを・・・と言いかけたものの、戦力は一人でも多い方がいい。
そう思ったスラムスは「分かったよ!」と返事をし、その場を立ち去った。
リョンさん、カッコイイ((